Chapter7♯21 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
登場人物
貴志 鳴海 19歳男子
Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。
早乙女 菜摘 19歳女子
Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。
貴志 由夏理
鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている
貴志 紘
鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。
早乙女 すみれ 46歳女子
優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。
早乙女 潤 47歳男子
永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。
貴志/神北 風夏 25歳女子
看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。
神北 龍造 25歳男子
風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。
南 汐莉 16歳女子
Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。
一条 雪音 19歳女子
鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。
伊桜 京也 32歳男子
緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。
荻原 早季 15歳(?)女子
どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。
瑠璃
鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。
来栖 真 59歳男子
緋空事務所の社長。
神谷 志郎 44歳男子
Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。
貴志 希海 女子
貴志の名字を持つ謎の人物。
三枝 琶子 女子
“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。
三枝 碧斗 男子
“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。
有馬 千早 女子
ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。
太田 美羽 30代後半女子
緋空事務所で働いている女性社員。
目黒 哲夫 30代後半男子
緋空事務所で働いている男性社員。
一条 佐助 男子
雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。
一条 智秋 25歳女子
雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。
神谷 絵美 30歳女子
神谷の妻、現在妊娠中。
神谷 七海 女子
神谷志郎と神谷絵美の娘。
天城 明日香 19歳女子
鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。
白石 嶺二 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。
三枝 響紀 16歳女子
波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。
永山 詩穂 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。
奥野 真彩 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。
双葉 篤志 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。
井沢 由香
波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。
伊桜 真緒 37歳女子
伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。
伊桜 陽芽乃 13歳女子
礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。
水木 由美 52歳女子
鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。
水木 優我 男子
鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。
鳴海とぶつかった観光客の男 男子
・・・?
少年S 17歳男子
・・・?
サン 女子
・・・?
ミツナ 19歳女子
・・・?
X 25歳女子
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Y 25歳男子
・・・?
ドクターS 19歳女子
・・・?
シュタイン 23歳男子
・・・?
伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物
リーヴェ 17歳?女子
奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。
メーア 19歳?男子
リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。
バウム 15歳?男子
お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。
盲目の少女 15歳?女子
バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。
トラオリア 12歳?少女
伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。
エルガラ 12歳?男子
伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。
滅びかけた世界
老人 男子
貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。
ナツ 女子
母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。
スズ 女子
ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
柊木 千春 15、6歳女子
元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。
Chapter7♯21 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
◯2229帰路(夕方)
◯2224の続き
夕日が沈みかけている
立ち止まってスマホですみれと電話をしている鳴海
鳴海は帰宅途中のたくさんの波音高校の生徒たちとすれ違っている
鳴海「(スマホですみれと電話をしながら大きな声で)ち、血を吐いたって菜摘は大丈夫なんですか!?!?」
すれ違う帰宅途中の波音高校の生徒たちが大きな声で電話をしている鳴海のことを見ている
鳴海「(スマホですみれと電話をしながら大きな声で)よ、様子なんていつもと変わらなくて・・・だ、大体何であいつにバイトなんかさせたんですか!!(少し間を開けて)す、すみません・・・い、今からですか?はい・・・分かりました、す、すぐに行きます」
鳴海はすみれとの電話を切る
スマホをポケットにしまう鳴海
少しの沈黙が流れる
鳴海はゆっくり歩き出す
ゆっくり歩き続ける鳴海
鳴海の歩く速度が徐々に早くなる
早足で歩いている鳴海
鳴海は菜摘の家に向かって走り始める
◯2230早乙女家菜摘の自室(夕方)
夕日が沈みかけている
綺麗な菜摘の部屋
菜摘の部屋にいる鳴海と菜摘
菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある
ベッドの上で横になっている菜摘
鳴海は菜摘のベッドの隣で座っている
カーテンの隙間から夕日の光が差し込んでいる
菜摘「来てくれたんだね・・・鳴海くん・・・」
鳴海「あ、当たり前だろ」
菜摘「お仕事は・・・?」
鳴海「今日は夕方に退勤だったんだ」
菜摘「そっか・・・ご飯・・・作れなくてごめんね・・・」
鳴海「な、何謝ってるんだよ、め、飯くらい俺一人でも作れるんだぞ」
菜摘「でも・・・協力するって約束・・・」
鳴海「そ、そんな約束・・・気にするなよ菜摘」
菜摘「だ、ダメ・・・私と鳴海くんの・・・大事な約束だし・・・二人で一緒にやるって決めたんだから・・・」
鳴海「ま、また今度さ、一緒に作ろうな」
菜摘「また今度・・・うん・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「私は大丈夫・・・心配しないで・・・」
菜摘は激しく咳き込む
鳴海「な、菜摘!!」
菜摘「(激しく咳き込みながら)ゲホッ・・・ゲホッ・・・ゲホッ・・・だ、大丈夫だから・・・」
鳴海「す、すみれさんたちを呼びに・・・」
菜摘「(激しく咳き込みながら鳴海の話を遮って)ゲホッ・・・ゲホッ・・・う、ううん・・・ゲホッ・・・」
鳴海「だ、だけど菜摘・・・」
菜摘「(激しく咳き込みながら)ゲホッ・・・ゲホッ・・・お母さんを心配させたくないの・・・だ、だから・・・呼ばないで・・・お、お願い鳴海くん・・ゲホッ・・・ゲホッ・・・」
菜摘は激しく咳き込み続ける
鳴海「わ、分かったよ・・・」
鳴海は激しく咳き込んでいる菜摘の背中をさする
鳴海「(激しく咳き込んでいる菜摘の背中をさすって)し、深呼吸するんだ菜摘・・・お、落ち着いて・・・咳が止まるように・・・」
菜摘「(激しく咳き込み鳴海に背中をさすられながら)ゲホッ・・・ゲホッ・・・ゲホッ・・・うん・・・ゲホッ・・・」
菜摘は咳き込みながら呼吸を整えようとする
菜摘「(咳き込み呼吸を整えようとしながら鳴海に背中をさすられて)ゲホッ・・・ゲホッ・・・ご、ごめんね・・・鳴海くん・・・」
鳴海「(咳き込んでいる菜摘の背中をさすりながら)あ、謝るな・・・菜摘は悪くないんだ・・・」
少しすると菜摘の咳が落ち着き止まる
鳴海は菜摘の背中をさするのをやめる
菜摘の背中から手を離そうとする鳴海
菜摘「まだ・・・離さないで・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海は菜摘の背中から手を離そうとするのをやめる
菜摘の背中をさする鳴海
鳴海「(菜摘の背中をさすって)これで・・・良いか・・・?」
菜摘「(鳴海に背中をさすられながら)うん・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「(鳴海に背中をさすられながら)もう一つ・・・鳴海くんにお願いして良いかな・・・」
鳴海「(菜摘の背中をさすりながら)な、何でも言ってくれ菜摘」
菜摘「(鳴海に背中をさすられながら)どんな内容でも良いから・・・鳴海くんの・・・話が聞きたいんだ・・・」
鳴海「(菜摘の背中をさすりながら)お、俺はオチのない話しか出来ないぞ」
菜摘「(鳴海に背中をさすられながら)オチなんていらないよ・・・いつもみたいに・・・鳴海くんの声が聞いていたいだけだから・・・」
鳴海「(菜摘の背中をさすりながら)そうか・・・(少し間を開けて)昨日・・・夢を見たんだ」
菜摘「(鳴海に背中をさすられながら)夢・・・?どんな夢を見たの・・・?」
鳴海「(菜摘の背中をさすりながら)未来の俺が・・・現在にいる夢でさ・・・ってこれだけじゃ分かり辛いよな・・・要するに・・・俺が爺さんになってたんだ」
菜摘「(鳴海に背中をさすられながら)お爺ちゃんの鳴海くん・・・?」
鳴海「(菜摘の背中をさすりながら)あ、ああ・・・ジジイになった俺は・・・今の俺みたいに・・・菜摘と飯を食ったり・・・緋空浜で仕事をしたり・・・ベッドで眠ったりしていたよ。(少し間を開けて)歳を取った俺が何を考えていたのか覚えていないけど・・・今の俺に言いたいことがたくさんあるみたいだった・・・俺に腹を立てていたのかもしれない・・・今の俺のことが・・・羨ましそうに見えたんだ」
再び沈黙が流れる
鳴海「(菜摘の背中をさすりながら)悪い・・・」
菜摘「(鳴海に背中をさすられながら)どうして謝るの・・・?」
鳴海「(菜摘の背中をさすりながら)分からない・・・ただ・・・凄く悪いことをした気がしてさ・・・」
菜摘「(鳴海に背中をさすられながら)それは・・・未来の鳴海くんに対して・・・?」
鳴海「(菜摘の背中をさすりながら)ああ・・・」
少しの沈黙が流れる
誰かが菜摘の部屋の扉を数回ノックする
すみれが菜摘の部屋の中に入って来る
すみれ「(菜摘の部屋の中に入って来て)鳴海くん、少し良い・・・?」
鳴海「(菜摘の背中をさすりながら)は、はい」
鳴海は菜摘の背中をさするのをやめる
鳴海「(菜摘の背中をさするのをやめて)すぐに戻るから待っててくれ」
◯2231早乙女家リビング(夕方)
Chapter5◯100と同じシーン
夕日が沈みかけている
早乙女家リビングにいる鳴海、すみれ、潤
鳴海たちはテーブルに向かって椅子に座っている
テーブルの上には菜摘の病院の検査結果が置いてある
テーブルの上に置いてある菜摘の病院の検査結果は、多くの欄に異常ありとチェックが入っていて、赤い字で数値が記入されている
鳴海「い、医者はどう言ったんですか?」
潤「とりあえずは様子を見るしかないと」
鳴海「み、見てどうなる?菜摘の体は良くなるのか?ど、どうなんだ?」
潤「落ち着け、鳴海」
鳴海「お、落ち着けだと?異常だらけの結果だったんだぞ!!高校を卒業しても悪くなった一方じゃないか!!」
潤「俺たちが取り乱せば、菜摘に余計なストレスを与えることになるんだよ」
鳴海「あんたは親だろ!!」
潤「親にも・・・出来ないことはあるんだ」
少しの沈黙が流れる
すみれ「先生は菜摘の病気の原因を解明するために、東京の病院で検査入院するべきだと言っていたんだけれど・・・(少し間を開けて)菜摘は反対しているの・・・」
鳴海「な、菜摘が反対しようが治る可能性があるなら入院でも手術でもするべきです!!」
すみれ「確かに・・・完治する可能性がゼロだとは思いません・・・でもたとえ東京の病院に行ったとしても・・・たくさんの先生の元をたらい回しにされるのは間違いないの・・・鳴海くん・・・私と潤くんは菜摘が幼い頃から何度も大学病院に行っているから分かるけど・・・場所を変えたところで、明確な答えが得られるとは限らないのよ・・・」
鳴海「(大きな声で)い、今までダメだったから行かないって言うんですか!?!?」
潤「俺は反対しねえ・・・金も何とかあるからな・・・だが検査とやらは、何ヶ月、下手したら一年以上かかるそうだ・・・病気のためとは言え、娘の体を弄くり回された挙句、何も分からなかったと来たら嫌な気分にもなる。(少し間を開けて)一年だ、もし菜摘を東京で入院させるなら、俺とすみれも向こうに引越すことになるだろう。お前はそれで良いのか、鳴海」
再び沈黙が流れる
鳴海「な、何で俺に意見を聞くんだ・・・」
潤「菜摘が一番大切にしているのはお前との時間なんだよ。はっきり言って、俺とすみれは菜摘が大切にしているものを奪いたくない、だからてめえに話を聞いているんだ」
鳴海「お、俺にそんな残酷な決断をしろと・・・?親であるあなたたちは・・・菜摘の人生をどうするかの判断を俺に託すのか・・・?」
潤「そうは言わねえが、鳴海にも考えて意見する権利がある。そして意見するのであれば、それに伴う決断ってのは鳴海自身が下さなきゃならない」
少しの沈黙が流れる
鳴海「む、無理だ・・・お、俺には決められない・・・」
潤「なら俺たちで選ぶぞ」
鳴海「ま、待ってくれ!!も、もう少し時間を・・・」
潤「(鳴海の話を遮って)これは誰かが決めなきゃならないことなんだ、鳴海」
鳴海「せ、正解が分からないんだよ、な、何を選ぶのが正しいんだ?一体どうすれば菜摘のためになる?」
すみれ「正解も不正解もないの鳴海くん・・・菜摘にとって良いか悪いかなんです・・・」
鳴海「そ、そんなのあんまりだ・・・東京に行くのを菜摘が嫌がってる時点で・・・悪いことしかないのに・・・」
潤「誤解するなよ、俺たちはお前や菜摘の意見をあくまでも参考にするだけだ。最終的な決断は俺とすみれでする」
再び沈黙が流れる
鳴海「な、なら俺も一緒に行く」
すみれ「お仕事はどうするの・・・?」
鳴海「や、辞めますよ、と、東京に引越して、バイトでもしますから」
すみれ「せっかく身につけたものよ・・・ここで投げ出しても良いの・・・?」
鳴海「お、俺は菜摘が大事なんです!!」
潤「菜摘が大事なら・・・お前も選ぶんだ」
鳴海「と、東京に行ってやるさ、ひ、引越すのは得意だからな」
潤「本気か?」
鳴海「ほ、本気に決まってるだろ!!」
潤「分かった。鳴海は菜摘を入院させるのに賛成なんだな」
鳴海「(イライラしながら大きな声で)な、何度も言わせるなよ!!!!」
潤「確かめただけだ」
鳴海「(イライラしながら大きな声で)確かめるようなことじゃないだろ!!!!俺の願いは菜摘の体が良くなることだけだ!!!!」
◯2232早乙女家菜摘の自室(夕方)
夕日が沈みかけている
綺麗な菜摘の部屋
菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある
ベッドの上で横になっている菜摘
カーテンの隙間から夕日の光が差し込んでいる
鳴海の大きな声が菜摘の部屋にまで聞こえて来ている
鳴海「(大きな声)すみれさんと潤さんも同じことを思ってるだろ!!!!菜摘に元気になって欲しいって!!!!だったら迷うことなく菜摘を東京に送るべきだ!!!!」
菜摘は涙を流す
◯2233帰路(夜)
一人自宅に向かっている鳴海
鳴海は帰宅途中のたくさんの波音高校の生徒、サラリーマン、OLとすれ違っている
鳴海「(声 モノローグ)数日以内に答えを出す・・・潤さんはそう言ったものの、俺にはすみれさんと潤さんの中の考えがもうまとまっているように見えた・・・(少し間を開けて)俺の意見なんか・・・子供の話としか思っていない・・・そんな感じがしたのだ」
◯2234”緋空モア”(日替わり/昼過ぎ)
外は曇っている
緋空浜にあるパチンコ専門の店”緋空モア”の中にいる鳴海と伊桜
“緋空モア”の中にはたくさんパチンコ台があり、若者から年寄りまで様々な人がプレイしている
鳴海と伊桜は大量のパチンコ玉が入ったドル箱を運んでいる
鳴海「(大量のパチンコ玉が入ったドル箱を運びながら 声 モノローグ)気が気ではなかった。仕事には全く身が入らない。どんな理由をつけて緋空事務所を辞めよう・・・東京のどこに引越せば・・・家の荷物をまとめないと・・・」
鳴海はつまずき、ドル箱をひっくり返して中に入っていた大量のパチンコ玉を床に落とす
鳴海がひっくり返した大量のパチンコ玉を床に散らばり、パチンコ台の下に転がって入って行く
鳴海は慌てて床に散らばった大量のパチンコ玉を拾い始める
鳴海「(床に散らばった大量のパチンコ玉を拾いながら 声 モノローグ)やらなくてはいけないことが増えれば増えるほど、全てが失敗し始める」
伊桜は大量のパチンコ玉が入ったドル箱を床に置く
大量のパチンコ玉が入ったドル箱を床に置いて、パチンコをプレイしていた人たちに謝って頭を下げる
◯2235緋空モアの駐車場(夕方)
空は曇っている
緋空モアの駐車場にいる鳴海、伊桜、緋空モアのスタッフ
緋空モアの駐車場には数台の車、バイク、自転車が止まっている
鳴海と伊桜は緋空モアのスタッフに叱られている
鳴海「(声 モノローグ)深海に落ちて、這い上がれなくなっているようだ」
◯2236早乙女家菜摘の自室(夕方)
外は曇っている
綺麗な菜摘の部屋
菜摘の部屋にいる鳴海と菜摘
菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある
ベッドの上で横になっている菜摘
鳴海は菜摘のベッドの隣で座っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
カーテンの隙間から夕日の光が差し込んでいる
菜摘「バイトは辞めることになっちゃった・・・」
鳴海「そうか・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くんはちゃんとご飯食べてる・・・?』
鳴海「あ、ああ、自炊しまくってるぞ」
菜摘「本当・・・?昨日は何食べたの・・・?」
鳴海「き、昨日は・・・や、焼きそばだ」
菜摘「美味しく出来た・・・?」
鳴海「そ、そりゃもちろん美味かったぞ、な、何せお好み焼き・・・じゃ、じゃなくて焼きそばは、どう間違えても必ず焼きそば味に仕上がるからな」
菜摘「そっか・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「い、いつ東京に行くかは決まったか?」
菜摘「私・・・東京には行かないよ鳴海くん・・・」
鳴海「き、決めるのは菜摘じゃなくてすみれさんと潤さんだろ」
菜摘「私のことは私が決めるもん・・・」
鳴海「そ、それでも・・・菜摘は入院する必要があるんだ」
菜摘「入院なんかしなくても私元気だよ・・・」
菜摘は咳き込む
咳き込んでいる菜摘の背中をさする鳴海
鳴海「(咳き込んでいる菜摘の背中をさすって)俺も東京に引越すからさ・・・菜摘は頑張って入院するんだ・・・良いな・・・」
菜摘「(咳き込み鳴海に背中をさすられながら)ゲホッ・・・ゲホッ・・・ゲホッ・・・嫌だ・・・東京には行かない・・・入院なんかしたくない・・・」
鳴海「(咳き込んでいる菜摘の背中をさすりながら 声 モノローグ)菜摘も必死だった」
◯2237依頼主のキッチン(日替わり/夕方)
夕日が沈みかけている
依頼主宅のキッチンにいる鳴海
依頼主宅のキッチンはたくさんの洗い物でシンクがいっぱいになっている
鳴海はシンクに溜まっている皿や調理器具を一つ一つ洗剤をつけたスポンジで洗っている
リビングにはソファに座ってテレビを見ている依頼主のおばさんがいる
キッチンからはリビングでソファに座ってテレビを眺めている依頼主のおばさんの姿が見えている
鳴海「(皿を洗剤をつけたスポンジで洗いながら 声 モノローグ)東京の家賃は高過ぎる・・・貯金を切り崩すしかない・・・」
鳴海は皿を洗い終える
洗い終えた皿を水切り棚に乗せる鳴海
鳴海はシンクに溜まっている皿を一枚手に取り、洗剤をつけたスポンジで洗い始める
鳴海「(皿を洗剤をつけたスポンジで洗いながら 声 モノローグ)姉貴にも説明を・・・菜摘と一緒に上京するって言えば・・・いや・・・看護師なんだから分かってくれるよな・・・(少し間を開けて)波音町に思い入れがないわけではないが、今は場所なんてどうでも良い。菜摘と一緒にいられるなら十分だ・・・」
鳴海は皿を洗い終える
洗い終えた皿を水切り棚に乗せる鳴海
鳴海はシンクに溜まっている包丁を手に取る
◯2238回想/白井海岸駅/ホーム(約十数年前/日替わり/朝)
◯2027の続き
空は曇っている
白井海岸駅のホームは古く無人
白井海岸駅は山に囲まれている
白井海岸駅のホームからは海が見える
少しすると白井海岸駅のホームに古いローカル線の電車がやって来る
古いローカル線の電車は白井海岸駅のホームに止まる
白井海岸駅のホームに止まった古いローカル線の電車には6歳頃の鳴海、30歳頃の由夏理、同じく30歳頃の紘、10歳頃の風夏が乗っている
鳴海たちが乗っている古いローカル線の電車には鳴海たち以外誰もいない
古いローカル線の電車の扉がゆっくり開く
古いローカル線の電車から6歳頃の鳴海、由夏理、紘、10歳頃の風夏が白井海岸駅のホームに降りて来る
周囲を見る由夏理
由夏理「(周囲を見て)見事なまでに何もないね、駅にも人がいないしさ」
鳴海「でも海はあるよママ」
由夏理「(周囲を見ながら)ん、海良いね〜。そうだ、どっかで水着を買って四人で泳ごっか?」
風夏「どっかってどこで?」
由夏理「どっかはどっかでしょ〜」
紘「(呆れて)今は秋だぞ」
由夏理「た、確かに・・・ちょっとだけ寒いかもしれないけどさ・・・せっかく来たんだか・・・」
紘「(由夏理の話を遮って)風邪を引きたいのか」
由夏理「た、楽しみたいんだよ、こんな秘境には滅多に来る機会がないんだし、一応これも旅行ってことでさ、家族で楽しく遊ぼうよ」
風夏「遊ぶ場所なんてあるの?」
由夏理「それを今から探すわけさ、お嬢さん」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(少し笑って)ここを選んだのはパパだけど、場所なんてどうでも良いんだって。ママは家族と一緒に過ごせるだけで十分だからねー」
紘「君がそういうことを口にするとはな」
由夏理「えっ?私が何?」
紘「とぼけるのが母さんの悪い癖だ」
由夏理「(少し笑って)そんなことよりも早く出発しようよ、ね?子供たち」
鳴海「うん」
由夏理は戸川純の”母子受精”を鼻歌で歌いながら歩き出す
戸川純の”母子受精”を鼻歌で歌っている由夏理について行く6歳頃の鳴海
◯2239回想戻り/依頼主のキッチン(夕方)
夕日が沈みかけている
依頼主宅のキッチンにいる鳴海
依頼主宅のキッチンはたくさんの洗い物でシンクがいっぱいになっている
鳴海はシンクに溜まっている皿や調理器具を一つ一つ洗剤をつけたスポンジで洗っている
リビングにはソファに座ってテレビを見ている依頼主のおばさんがいる
キッチンからはリビングでソファに座ってテレビを眺めている依頼主のおばさんの姿が見えている
鳴海は包丁を洗剤をつけたスポンジで洗っている
鳴海「(包丁を洗剤をつけたスポンジで洗いながら小さな声で)家族と一緒なら・・・」
鳴海は洗剤をつけたスポンジで洗っていた包丁で右手の人差し指の先を深く切る
右手の人差し指の先を深く切った痛みで、反射的に包丁をシンクに落とす鳴海
鳴海の右手の人差し指の先からは血が垂れている
鳴海は舌打ちをする
シンクに落とした包丁を手に取る鳴海
包丁には鳴海の右手の人差し指の血がついている
鳴海は水道で包丁についた血を流そうとする
鳴海は水道で包丁についた血を流そうとするが、鳴海の手が止まる
包丁の峰の部分には”一条”と書いてある
鳴海は包丁の峰の部分に書かれてある“一条”の文字を見ている
鳴海「(包丁の峰の部分に書かれてある“一条”の文字を見ながら)一条会、か・・・」
鳴海の右手の人差し指の先からは血がポタポタと垂れ続けている
◯2240帰路(夜)
一人自宅に向かっている鳴海
鳴海は帰宅途中のたくさんの波音高校の生徒、サラリーマン、OLとすれ違っている
鳴海「(声 モノローグ)汗が傷口に入って滲みる・・・伊桜さんがした話みたいに・・・この傷から俺の体に混沌が入って来るのかもしれない・・・(少し間を開けて)何を考えてるんだ俺は・・・あんな話は聞かなきゃ良かった・・・菜摘が検査入院をしなければならないとか・・・波音高校の生徒が屋上から飛び降りて、その遺体が病院で消滅したとか・・・戦争から奇跡的な生還をした爺さんが突然刺されて殺されたとか・・・そんなのばっかりだ・・・酷い話しかない・・・」
◯2241薬局(夜)
薬局の中にいる鳴海
薬局の中には様々な薬が棚に陳列されている
薬局の中には数脚の椅子が置いてある
薬局の椅子には数人の客が座っている
薬局にはカウンターがあり、数人の客が薬の支払いをしている
薬局のカウンターの奥にはたくさんの薬が棚に陳列されている
鳴海は消毒液と絆創膏を持っている
消毒液と絆創膏をレジに持って行こうとする鳴海
鳴海はレジの近くの棚に睡眠薬が陳列されてあることに気付く
睡眠薬が陳列されている棚の前で立ち止まる鳴海
睡眠薬が陳列されている棚の隣には金属のピルケースが売られている
金属のピルケースには反射して誰かの顔が映っている
鳴海は睡眠薬を手に取る
鳴海「(睡眠薬を手に取って 声 モノローグ)こいつがあれば・・・母さんと父さんに・・・」
突然、鳴海は誰かからの視線を感じる
周囲を見る鳴海
鳴海の周囲には数人の客がいるが、誰も鳴海のことを見ていない
鳴海は周囲を見るのをやめる
金属のピルケースには変わらず誰かの顔が反射して映っている
金属のピルケースを手に取る鳴海
鳴海は金属のピルケースを角度を変えてよく見てみる
金属のピルケースには瑠璃の姿が反射して映っている
瑠璃は鳴海よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
金属のピルケースに反射して映っている瑠璃は、薬局の外から鳴海のことを見ている
鳴海「(金属のピルケースに反射して映っている瑠璃の姿を見て)お、お前・・・何でここに・・・」
鳴海は金属のピルケースに反射して映っている瑠璃の姿を見るのをやめる
振り返って薬局の外の瑠璃がいる場所を見る鳴海
鳴海は目を凝らして瑠璃を探すが、薬局の外に瑠璃はいない
再び金属のピルケースを見る鳴海
金属のピルケースには変わらず反射して瑠璃の姿が映っている
金属のピルケースに反射して映っている瑠璃は、鳴海のことを見ながらおかしそうに笑っている
鳴海「(金属のピルケースに反射して映りおかしそうに笑っている瑠璃の姿を見たまま)ど、どこにいるんだ?す、姿を見せろよ」
金属のピルケースに反射して映っている瑠璃は、おかしそうに笑いながら首を横に振る
鳴海「(金属のピルケースに反射して映り首を横に振っている瑠璃の姿を見たまま)からかってるんだな・・・ど、どこにいるのか知らないが俺は忙しいんだ、す、姿を見せる気がないならもう行くからな」
鳴海は金属のピルケースに反射して映っている瑠璃の姿を見るのをやめる
金属のピルケースを棚に戻そうとする鳴海
鳴海が金属のピルケースを棚に戻そうとすると、金属のピルケースに反射して映っている瑠璃が何かを言う
金属のピルケースに反射して映っている瑠璃が何を言っているのか鳴海には聞こえず、分からない
鳴海は金属のピルケースに反射して映っている瑠璃が何かを言っていることに気付き、金属のピルケースを棚に戻そうとするのをやめる
鳴海「(金属のピルケースに反射して映り何かを言っている瑠璃の姿を見たまま、金属のピルケースを棚に戻そうとするのをやめて)な、何だ・・・?」
金属のピルケースに反射して映っている瑠璃は、鳴海が持っている睡眠薬を指差す
鳴海「(金属のピルケースに反射して映り鳴海が持っている睡眠薬を指差した瑠璃の姿を見たまま)こ、これか?」
金属のピルケースに反射して映っている瑠璃は、鳴海が持っている睡眠薬を指差したまま頷く
鳴海「(金属のピルケースに反射して映り鳴海が持っている睡眠薬を指差して頷いた瑠璃の姿を見たまま)こ、こんな物を買う気はないぞ」
薬局にいる客たちは金属のピルケースを見ながら、独り言を言っている鳴海のことを不思議そうに見ている
金属のピルケースに反射して映り睡眠薬を指差した瑠璃の姿を見たまま、睡眠薬を棚に戻す鳴海
金属のピルケースに反射して映っている瑠璃は、睡眠薬を指差すのをやめる
鳴海「(金属のピルケースに反射して映っている瑠璃の姿を見たまま)か、買わないって言ってるだろ」
少しの沈黙が流れる
金属のピルケースに反射して映っている瑠璃は、鳴海に向かって微笑む
鳴海「(金属のピルケースに反射して映り鳴海に向かって微笑んでいる瑠璃の姿を見たまま)か、変わった奴だ」
金属のピルケースに反射して映っている瑠璃は、変わらず鳴海に向かって微笑んでいる
鳴海「(金属のピルケースに反射して映り鳴海に向かって微笑んでいる瑠璃の姿を見たまま)か、隠れるのはやめて店の外で待ってろよ、今そっちに行くからさ」
鳴海は金属のピルケースに反射して映っている瑠璃の姿を見るのをやめる
金属のピルケースを棚に戻す鳴海
鳴海は消毒液と絆創膏を持ってレジに向かう
◯2242薬局前(夜)
買い物を終えた鳴海が薬局から出て来る
鳴海は薬局で購入した物が入っているビニール袋を持っている
周囲を見る鳴海
鳴海は周囲を見ながら瑠璃のことを探す
鳴海は周囲を見ながら瑠璃のことを探すが、瑠璃の姿はどこにもない
鳴海「(周囲を見ながら瑠璃のことを探して)待ってろって言ったのに帰ったのか・・・」
◯2243回想/貴志家リビング(約十数年前/深夜)
リビングに一人いる30歳頃の由夏理
由夏理は椅子に座ってテレビで流れている香港の映画を見ている
タバコを吸いながら香港の映画を見ている由夏理
リビングは電気がついておらず、テレビで流れている香港の映画だけが部屋を明るくしている
香港の映画からは大きな銃声が鳴り、部屋中に銃声が響き渡る
由夏理はタバコを咥えて香港の映画を見ながら泣き始める
香港の映画からはレベッカ・パンの”ブンガワン・ソロ”が流れ出す
タバコを咥えて香港の映画を見ながら泣き続ける由夏理
少しするとリビングに6歳頃の鳴海がやって来る
鳴海「(リビングにやって心配そうに)ママ・・・?」
由夏理はタバコを咥えて泣きながら香港の映画を見るのをやめる
由夏理「(タバコを咥えて泣きながら香港の映画を見るのをやめて)ん・・・ごめん・・・起こしちゃったね鳴海・・・」
鳴海「(心配そうに)うん・・・(少し間を開けて)どーして泣いてるの・・・?」
由夏理「(タバコを咥えて泣きながら)ちょっと・・・悲しくてさ・・・」
少しの沈黙が流れる
由夏理はタバコを咥えたまま手で涙を拭う
由夏理「(タバコを咥えたまま手で涙を拭って)も、もう大丈夫だよ鳴海、泣いてばっかだとパパに怒られちゃうし、楽しく笑って過ごさないとね」
由夏理はタバコを咥えたまま6歳頃の鳴海に笑顔を見せる
再び沈黙が流れる
由夏理はタバコを咥えたまま6歳頃の鳴海に笑顔を見せるのをやめる
由夏理のところに行く6歳頃の鳴海
鳴海「ママは・・・泣いてもいーと思う・・・」
由夏理「(タバコを咥えたまま少し笑って)ママが良くてもさ、パパは嫌がるんだよ」
鳴海「どーして嫌がるの・・・?」
由夏理「(タバコを咥えたまま少し笑って)パパはね、昔からそういうのが苦手なんだ」
鳴海「そういうの・・・?」
由夏理「(タバコを咥えたまま少し寂しそうに笑って)鳴海がさ・・・ママが作った椎茸のご飯とか、ナスの炒め物が苦手なのと同じだよ。パパは昔から・・・泣いている人が・・・嫌なんだ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「ママと一緒に泣くよ」
由夏理はタバコの煙を吐き出す
由夏理「(タバコの煙を吐き出して)な、鳴海が・・・?ママと泣いてくれるの・・・?」
鳴海「うん」
由夏理はタバコを咥えたまま6歳頃の鳴海の手を握る
由夏理「(タバコを咥えたまま6歳頃の鳴海の手を握って)鳴海は本当に優しくて良い子だね」
鳴海「(由夏理に手を握られたまま)ママも優しくて良い子だよ」
由夏理はタバコを咥えて6歳頃の鳴海の手を握ったまま首を横に振る
由夏理「(タバコを咥えて6歳頃の鳴海の手を握ったまま)ママたちは・・・全然良くなんかないって。むしろ悪い大人だしさ・・・(少し間を開けて)でもママ、鳴海と風夏の親になれてすっごく幸せだよ」
再び沈黙が流れる
由夏理「(タバコを咥えて6歳頃の鳴海の手を握ったまま)一緒に映画を見るかい?」
鳴海「(由夏理に手を握られたまま)うん」
由夏理「(タバコを咥えて6歳頃の鳴海の手を握ったまま)よーし、良い返事だね鳴海。風夏とパパには夜更かししたことは内緒だぞ」
鳴海「(由夏理に手を握られたまま)言わないよ、パパは家にいないし」
由夏理「(タバコを咥えて6歳頃の鳴海の手を握ったまま)お姉ちゃんにも秘密するんだよ、鳴海」
鳴海「(由夏理に手を握られたまま)うん」
由夏理「(タバコを咥えて6歳頃の鳴海の手を握ったまま)じゃあ膝の上においで、ママと映画を見よう」
由夏理はタバコを咥えたまま6歳頃の鳴海の手を離す
タバコを咥えている由夏理の膝の上に乗る鳴海
タバコを咥えている由夏理の膝の上に乗って、テレビで流れている香港の映画を見る6歳頃の鳴海
香港の映画からはレベッカ・パンの”ブンガワン・ソロ”が流れ終わる
由夏理はタバコを咥えて膝の上に6歳頃の鳴海を乗せたまま、再びテレビで流れている香港の映画を見る
鳴海「(香港の映画を見ながら)どんな映画?」
香港の映画からは突然、飛行機が飛んでいる音が鳴り、部屋中に飛行機のエンジン音が鳴り響く
由夏理はタバコを咥え膝の上に6歳頃の鳴海を乗せたまま香港の映画を見て、6歳頃の鳴海に向かって何かを言う
香港の映画から鳴り響いている飛行機の音のせいで、6歳頃の鳴海にはタバコを咥えている由夏理が何を言っているのか聞こえず、分からない
香港の映画から鳴り響いている飛行機の音は少しずつ小さくなる
由夏理「(タバコを咥え膝の上に6歳頃の鳴海を乗せたまま香港の映画を見て)外国のお話なんだよ〜、だから日本とは全然違う世界が見れるんだ〜」
鳴海「(由夏理の膝の上に乗って香港の映画を見ながら)外国ってちゅーごく?」
由夏理「(タバコを咥え膝の上に6歳頃の鳴海を乗せたまま香港の映画を見て)えーっとね、この映画の場所は香港ってところでさ」
鳴海「(由夏理の膝の上に乗って香港の映画を見ながら)香港・・・」
由夏理「(タバコを咥え膝の上に6歳頃の鳴海を乗せたまま香港の映画を見て)ん、そうそう。タイトルは、最果ての・・・」
◯2244回想戻り/薬局前(夜)
薬局の前にいる鳴海
鳴海は薬局で購入した物が入っているビニール袋を持っている
どこからか一匹のカラスアゲハが鳴海のところに飛んで来る
鳴海のところに飛んで来たカラスアゲハは左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違う
左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハは包丁で切った鳴海の右手の人差し指の上に止まる
包丁で切った右手の人差し指の上に止まった左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハを見る鳴海
カラスアゲハはよく見ると右の羽が青く、左の羽は緑に近い青色をしている
鳴海「(包丁で切った右手の人差し指の上に止まった左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハを見て)蝶・・・か・・・(少し間を開けて)珍しい柄だな・・・瑠璃色か・・・」
包丁で切った鳴海の右手の人差し指の上に止まった左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハは、鳴海の右手の人差し指の傷口に長い触角の先を当てる
鳴海「(包丁で切った右手の人差し指の上に止まり、鳴海の右手の人差し指の傷口に長い触角の先を当てている左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハを見ながら)心配するな、大した傷じゃない」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(包丁で切った右手の人差し指の上に止まり、鳴海の右手の人差し指の傷口に長い触角の先を当てている左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハを見ながら)って・・・何で俺は虫と話をしようとしてるんだ・・・」
包丁で切った鳴海の右手の人差し指の上に止まった左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハは、変わらず鳴海の右手の人差し指の傷口に長い触角の先を当てている
再び沈黙が流れる
鳴海「(包丁で切った右手の人差し指の上に止まり、鳴海の右手の人差し指の傷口に長い触角の先を当てている左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハを見ながら少し笑って)どうかしてるよな・・・変な話を聞いたり、菜摘のことが心配だったり、仕事で疲れてるせいで、俺はちょっとおかしくなってるんだ」
包丁で切った右手の人差し指の上に止まった左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハは、鳴海の右手の人差し指の傷口に長い触角の先を当てるのをやめて、鳴海の右手から飛び去る
飛び去った左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハを見ている
鳴海「(飛び去った左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハを見ながら小声でボソッと)蝶に俺の指の傷が治せないと同じで、医者が菜摘の病気を治すのも・・・」
左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハはあっという間に見えなくなる
◯2245緋空浜(日替わり/夕方)
空は曇っている
緋空浜の浜辺でゴミ掃除をしている鳴海と伊桜
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690、◯2004のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849、◯1972のかつての緋空浜に比べると汚れている
緋空浜には鳴海と伊桜以外にも釣りやウォーキングをしている人がいる
鳴海と伊桜はマスクと手袋をして、トングでゴミを拾っている
鳴海と伊桜の側には大きなゴミ袋が5つ、新聞紙、ガムテープが置いてある
鳴海と伊桜の側に置いてある5つのゴミ袋の中には浜辺で拾ったたくさんのゴミが入っている
鳴海と伊桜はトングで拾ったゴミを分別し、小さな山にしている
ゴミの小さな山は燃える物、缶類、ペットボトル類、燃えない物、割れ物などに分別されている
鳴海は右手の人差し指に絆創膏を貼っている
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)どうして伊桜さんは曾祖父さんの話を俺に聞かせてくれたんすか?」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)お前が聞きたそうな顔をしてたからだ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)俺、そんな顔をした覚えはないんですけど・・・」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)無意識でしてたんだろ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)い、伊桜さんの曾祖父さんを殺した奴って・・・」
伊桜はトングで拾ったゴミを小さな山の上に置く
伊桜「(トングで拾ったゴミを小さな山の上に置いて)行方は分かってない」
鳴海「(トングでゴミを拾うのをやめて)えっ・・・?」
伊桜「行方が分かってないんだ」
鳴海「い、今もですか?」
伊桜「ああ」
伊桜はトングで浜辺のゴミを拾い始める
鳴海「こ、殺されたんですよ」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)殺されたことを知らなきゃお前にこんな話はしてない。俺は曽孫だぞ」
鳴海「す、すみません・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「は、犯人を探そうとは思わないんすか?」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)今更探してどうなる?」
鳴海「そ、それは・・・(少し間を開けて)い、伊桜さんの曾祖父さんが報われるんじゃないんですかね・・・多分・・」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)多分なんて中途半端な意見を俺が聞くわけないだろ」
鳴海「た、確かに・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海はトングで拾ったゴミを小さな山の上に置く
鳴海「(トングで拾ったゴミを小さな山の上に置いて)でも見つからないよりは見つかった方が良くないっすか」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)曾祖父さんが死んだのはもう30年も前のことだぞ」
鳴海「時間は関係ないですよ伊桜さん」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)貴志はいちいちメロンが腐った原因を追求するのか」
鳴海「し、しませんけど・・・でもメロンと伊桜さんの曾祖父さんは全く違うものなんすよ」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)俺からすれば果物か人間かという違いしかない」
鳴海「そ、それが大きな違いじゃないっすか・・・」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)どちらも死因は同じ混沌だ」
鳴海「そ、そういう考え以外はないんですかね?」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)ないな」
再び沈黙が流れる
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)過ぎたことに気を取られてると、人生を無駄にするぞ」
鳴海「お、俺には必要な時間な消費に感じるんですけど・・」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)じゃあお前が曾祖父さんを殺した奴を探すか?」
鳴海「い、いや・・・そ、それはちょっと・・・」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)過ぎたことに向き合うのにはそれなりの覚悟と責任がいる、だから一度過去を振り返った奴は、人として中途半端に前を向けてないことが多い。(少し間を開けて)中途半端になるんだったら何もしない方が良いだろ」
少しの沈黙が流れる
鳴海はトングで浜辺のゴミを拾い始める
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)覚悟と責任が足りなくても、振り返れる時は振り返っても良いんじゃないですかね・・・」
伊桜はトングで拾ったゴミを小さな山の上に置く
伊桜「(トングで拾ったゴミを小さな山の上に置いて)どうしようが人の自由だが、俺なら過去よりも未来のために生きる。曾祖父さんを殺した奴のことよりも、娘の未来の方が大事だからだ」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)伊桜さんの言ってることは分かりますけど・・・その伊桜さんの曾祖父さんを殺した奴が・・・また別の人を殺してたらどうするんですか?」
伊桜「そいつが今どこで何をしてようが、俺には関係ないし関わる気もない」
伊桜はトングで浜辺のゴミを拾い始める
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)む、向こうからこちらに来た場合はどう対処するんです?」
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)出来るだけ刺激を与えずにやり過ごすだけだ、それから奴が去るのを待てば良い」
鳴海「(トングでゴミを拾いながら)ずっと伊桜さんの近くに居続けるかもしれませんよ」
伊桜はトングで浜辺のゴミを拾うのやめる
伊桜「(トングで浜辺のゴミを拾うのやめて)その時はこっちから動くしかないな」
鳴海はトングで浜辺のゴミを拾うのやめる
鳴海「(トングで浜辺のゴミを拾うのやめて)動くって・・・何をするんですか?」
伊桜「三種類の方法があるが、どれを選ぶかは時々によって違う。(少し間を開けて)初めは話し合い、次に逃げる、最後は力だ」
鳴海「時々によって違うって言わないっすよ、それ」
伊桜「俺はこの三つを使って人生をやりくりして来た、使い方を間違わなければ波から落ちることもない」
鳴海「サーフィンみたいっすね・・・」
伊桜「人生なんて慣れればサーフィンよりも安全だ、人は生まれた時点でボードにも波にも乗ってるような状態なんだぞ」
鳴海「俺、やったことないからその例えはイマイチよく分からないっす・・・」
再び沈黙が流れる
伊桜「人生で費やせるのは過去と未来のどちらかしかない、四方八方に向くことは出来ん」
伊桜はトングで浜辺のゴミを拾い始める
伊桜「(トングでゴミを拾いながら)これでこの話は終わりだ」
◯2246貴志家鳴海の自室(深夜)
外は曇っている
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主、フレームに入った一枚の写真、◯2091の結婚式会場/披露宴場で鳴海と菜摘が風夏に抱き寄せられて写っている写真が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
机の上のフレームに入った一枚の写真には、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている
机の上のフレームに入った一枚の写真は、◯2097で約30年前に潤が披露宴場で由夏理と紘を撮った時の物
机の上の◯2091の結婚式会場/披露宴場で鳴海と菜摘が風夏に抱き寄せられて写っている写真には、手書きの赤い文字で”我が愛する弟と妹に幸あれ❤︎”と書かれている
机の上の◯2091の結婚式会場/披露宴場で鳴海と菜摘が風夏に抱き寄せられて写っている写真は、滅びかけた世界の老人が持っている写真と完全に同じ
ベッドの上で横になっている鳴海
鳴海は右手の人差し指に絆創膏を貼っている
カーテンの隙間から雲に隠れた月の光が差し込んでいる
鳴海「過去と向き合うのに必要なのは覚悟と責任・・・対処方法は三つ・・・話し合い・・・逃げる・・・力・・・」
鳴海は横になったまま体勢を変える
鳴海「(横になったまま体勢を変えて)人生で費やせるのは・・・過去と未来のどちらかだけ・・・」
◯2247早乙女家リビング(日替わり/昼前)
外は薄暗く曇っている
早乙女家リビングにいる鳴海、菜摘、すみれ、潤
鳴海たちはテーブルに向かって椅子に座っている
鳴海は右手の人差し指に絆創膏を貼っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
話をしている鳴海たち
潤「言っておくが、どういう決断であれもう決めたことだ」
鳴海「あ、ああ」
潤「今は俺たちが決めた内容に菜摘もお前も従ってもらうからな」
菜摘「う、うん」
鳴海「も、もちろんだ」
すみれ「言いたいことがある場合は・・・」
潤「(すみれの話を遮って)後で聞く」
菜摘「わ、分かった・・・」
少しの沈黙が流れる
潤「入院は・・・(少し間を開けて)させない」
菜摘「(嬉しそうに)ほ、本当!?」
鳴海「な、何!?」
鳴海の”な、何!?”と菜摘の”ほ、本当!?”が完全に重なる
潤「本当だ」
鳴海「(大きな声で)な、何でだよ!!!!俺は東京に入院させるべきだと言ったのに!!!!」
潤「お前の意見もちゃんと参考にしたぞ、まあ、参考にした止まりだっただけどな」
鳴海「(大きな声で)ふざけるな!!!!菜摘の体のことなんだぞ!!!!」
すみれ「落ち着いて、鳴海くん」
鳴海「(大きな声で)す、数日間引っ張ってこれですか!?!?良くなる可能性を捨ててまでこの町に留まる理由なんかないですよすみれさん!!!!」
すみれ「東京に行って良くなるとは限らないし、波音町に残って悪くなるとも限らないでしょう?」
鳴海「(大きな声で)す、少しでも可能性が高い方を放棄するなんて!!!!」
菜摘「な、鳴海くん」
鳴海「(大きな声で)な、菜摘は病気を治したいと思っていないのか!?!?」
菜摘「な、治したいけど・・・(少し間を開けて)東京で入院なんて嫌だよ・・・」
鳴海「(大きな声で)お、お前がそんなんじゃ治るものも治らないだろ!!!!」
潤「俺たちも考えた上で出した答えなんだ、だからまずは話を聞け鳴海」
再び沈黙が流れる
鳴海「な、何をどう考えたらこんな決断になるんだよ・・・すみれさんは正解も不正解もないって言ってたけど・・・こ、これじゃ限りなく正しくない答えを出したようなものじゃないか・・・」
すみれ「ごめんなさい・・・全員が納得する答えは用意出来なかったの・・・」
鳴海「(大きな声で)す、すみれさんは親なんですよ!!!!親として納得したんですか!?!?」
すみれはゆっくり頷く
鳴海「(大きな声で)ま、間違えてますよすみれさん!!!!」
潤「間違えていると決めつけるな、鳴海」
鳴海「(大きな声で)だ、だってそうじゃないか!!!!ど、どう考えたって東京の方が波音町よりも良いだろ!!!!」
すみれ「私たちは決めたんです・・・鳴海くんに押し付けたくはないけど・・・出来るだけ納得してください・・・(少し間を開けて)私たちも・・・この決断に後悔はありませんから」
◯2248早乙女家前(昼)
空は薄暗く曇っている
菜摘の家の前にいる鳴海と潤
鳴海は右手の人差し指に絆創膏を貼っている
潤「嫌な天気だ・・・蒸し暑くて・・・湿気が酷い。おかげで頭の中まで苔が生えそうだ」
鳴海「梅雨が迫ってるからだろ」
潤「もうそんな時期か。ついこの間お前とここで話をした気がするが、あれは二ヶ月も前のことなんだな」
鳴海「いつのことだよ」
潤「緋空祭りが雨で中止になって、俺たちとすごろくをしただろ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「何でまた外に連れ出したんだ・・・」
潤「言いたいことは後で聞くと言ったのを忘れたのか」
鳴海「あんたと話すことなんかない・・・」
潤「悪いが俺にはお前と話をしなきゃならねえ訳があるんだよ」
再び沈黙が流れる
潤「実はな、俺も鳴海と同じ考えを持ってたんだ」
鳴海「だったら何でだよ、あんたが進めてさえくれれば東京で・・・」
潤「(鳴海の話を遮って)確かに、俺が強引に菜摘を入院させるという手もあった。(少し間を開けて)だがな・・・俺にはそれが出来なかった」
鳴海「どうして出来なかったんだ・・・あんたならやれることなのに・・・」
潤「(少し寂しそうに笑って)もう十年若かったから、菜摘を無理矢理引っ張ってでも東京に連れて行っただろうよ。(少し間を開けて)敢えて・・・敢えてだ、そうしなかった理由を恥ずかしげもなくお前に打ち明けるんだとすれば・・・俺は菜摘の幸せを奪うって気にはなれなかった・・・すみれは最初から菜摘を東京に入院させる気がなかったし、菜摘自身も嫌がっていたからな。となると、入院させたいって言ってたのは男の俺たちだけだ、ただ勘違いするなよ、これはすみれと菜摘が悪いって話じゃねえ。最終的な決断を下したのは俺だ、要するに責任ってのも俺にある」
鳴海「娘の体調がかかっていたのに柄にもなく感情に流されたってことか?もしそうだとしたらあんたはとんでもない間違いを犯したことになるぞ」
潤「だから俺に責任があるって言ってんだよガキ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「つ、つまり何があっても東京で入院させる気はないんだな」
潤「天使がこの世の全てを治せる医者を俺たちに紹介して来たら、その時は菜摘を入院させるつもりだ」
鳴海「奇跡に頼るのが親のするのことか・・・」
潤「少なくとも現時点で入院させる気はねえってことだよ」
再び沈黙が流れる
潤「ったく・・・したくもねえ決断をさせられて・・・だせえ言い訳をよりにもよって娘の彼氏にしなきゃならねえなんて・・・俺も散々だ」
鳴海「自業自得だろ、あんたが菜摘を・・・(少し間を開けて小声でボソッと)クソッ・・・」
潤「菜摘が何だよ、言ってみろ」
鳴海「何でもねえ・・・」
潤「そんなんだからお前はいつまで経ってもガキなんだ」
鳴海「が、ガキ扱いしてるのはあんただけだけどな」
潤「ガキはガキなりに言い訳ってのを用意してるのか」
鳴海「ふざけやがって・・・菜摘の人生を勝手に決めたのはあんたたち親なんだぞ」
少しの沈黙が流れる
潤はポケットからタバコの箱とZIPPOライターを取り出す
タバコの箱からタバコを一本取り出す潤
潤はタバコを口に咥える
ZIPPOライターを使って咥えているタバコに火を付ける潤
潤はタバコの煙を吐き出す
タバコの煙を吐き出してZIPPOライターとタバコの箱をポケットにしまう潤
潤「(タバコを咥えたままZIPPOライターとタバコの箱をポケットにしまって)お前は見てなかっただろうけどな・・・俺が入院させないと言った時・・・菜摘は凄く嬉しそうな顔をしたんだぞ」
鳴海「そ、それが何だよ」
潤「(タバコを咥えたまま)菜摘はお前のことを死ぬほど愛してるんだ、腹が立つくらいにな」
鳴海「(大きな声で)そ、そこまで言うなら俺が東京について行けば良かったじゃないか!!!!それなら何も問題はないだろ!!!!」
潤「(タバコを咥えたまま)菜摘がお前のことと同じくらい愛してるもんがあと二つある、何か分かるか」
鳴海「ふ、二つ?お、俺以外に?」
潤「(タバコを咥えたまま)そうだガキ」
鳴海「そ、そんなの思いつかないんだが」
潤「(タバコを咥えたまま)俺がお前の親父だったらお前のことをぶん殴ってるぞ」
鳴海「な、菜摘が他に何を気に入っているのか教えろよ」
潤はタバコの煙を吐き出す
潤「(タバコの煙を吐き出して)この町と家族だ」
鳴海「な、波音町のことか」
潤「(タバコを咥えたまま)ああ」
ポツポツと弱い雨が降り始める
潤「(タバコを咥えたまま)俺たちが東京に行ってもな、結局菜摘の心は満たされねえんだよ。(少し間を開けて)俺たちが選んだのは、菜摘の体よりも心だ。その選択で誰かを責めるんだとしたら俺だ、誰かを恥じるべきならそれも俺だ。そんでもって今のお前に出来ることは、菜摘と一緒にこの決断を受け入れてやることだ。それが菜摘のためにも、お前のためにもなる」
鳴海「お、俺は納得がいかないんだ・・・こんなの俺の求めていた答えじゃないんだよ・・・」
潤「(タバコを咥えたまま)すみれが言ってただろ鳴海、全員が納得するような答えは用意してねえんだ。学校のテストとは違って、これは人生の試練なんだぞ」
鳴海「だったら尚更・・・間違えた方を選ぶべきじゃないだろ・・・」
潤「(タバコを咥えたまま)菜摘に嫌がることをさせて、それであいつが元気になると思ってるのか?東京の病院で、機械みたいにたくさんの管に繋がれたり、血を抜かれたり、美味くもねえ病院食を食わされたりして、菜摘が元気になるのか?病気の原因が分かるようになるのか?」
再び沈黙が流れる
潤「(タバコを咥えたまま)俺とすみれは何度も菜摘を病院で検査させた、病気が治ると信じてだ。あいつが赤ん坊の時から・・・母親と父親の顔をまだ認識出来なかった頃から・・・菜摘はずっと病院の世話になって来た。その結果に今があるんだ、鳴海、お前は何かと決めつけようとするが、未来は誰にも分からない、神様や天使でさえも読めないのが未来なんだ」
少しの沈黙が流れる
潤「(タバコを咥えたまま)鳴海が今色々我慢しているのを承知の上で、更に一つ付け加えさえてくれ。お前が受け入れてくなきゃ、菜摘は今回のことを気に病み続けるぞ」
鳴海と潤の体は雨で少し濡れている
潤「(タバコを咥えたまま)娘の側にいなきゃならないのは母親と父親、それから恋人のお前だ、鳴海。菜摘の心を守ることが、体を癒すことに繋がるかもしれない。だからお前も、あいつのためになることをしろ、出来るだけたくさんな」
◯2249早乙女家菜摘の自室(昼過ぎ)
外は弱い雨が降っている
綺麗な菜摘の部屋
菜摘の部屋にいる鳴海と菜摘
菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある
床に座っている鳴海と菜摘
鳴海は右手の人差し指に絆創膏を貼っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
話をしている鳴海と菜摘
鳴海「菜摘、寝てなくて大丈夫か?」
菜摘「うん、今日は調子が良いんだ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「あれで良かったんだよ、鳴海くん。お母さんとお父さんは正しいことを選択したと思うもん」
鳴海「な、何の話だ」
菜摘「東京での入院をやめたこと、私の中では今年一番の英断だよ」
鳴海「そ、それは・・・(少し間を開けて)よ、良かったな・・・」
菜摘「うん!!」
再び沈黙が流れる
鳴海「な、菜摘は・・・」
菜摘「な、何?」
鳴海「こ、今後の予定とかあるのか」
菜摘「病院には定期的に通うけど・・・後は何も決まってないよ」
鳴海「い、家で過ごすんだな」
菜摘「しばらくは・・・そうなると思う・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「な、なあ菜摘」
菜摘「ん?」
鳴海「俺としたいこととか・・・行きたい場所とか・・・やってみたいことってあるか?」
菜摘「も、もちろんあるよ!!」
鳴海「そ、そうか、例えばどんなことだ?」
菜摘は立ち上がる
菜摘「(立ち上がって)ちょっと待ってね鳴海くん!!」
鳴海「あ、ああ」
菜摘は勉強机があるところに行く
勉強机の引き出しを開ける菜摘
菜摘の勉強机の引き出しの中には鉛筆、消しゴム、ボールペン、ノートが入っている
一冊のノートとボールペンを取り出す菜摘
菜摘は勉強机の引き出しを閉じる
ノートを開いて勉強机の上に置く菜摘
菜摘は勉強机に向かって椅子に座る
ノートに何かを書き始める菜摘
鳴海はノートに何かを書いている菜摘のことを見る
鳴海「(ノートに何かを書いている菜摘のことを見て)な、何をしてるんだ?」
菜摘「(ノートに何かを書きながら)鳴海くんとしたいことリストを書いてるんだよ!!」
鳴海「(ノートに何かを書いている菜摘のことを見ながら)な、何だそれは・・・」
菜摘「(ノートに何かを書きながら)鳴海くんとしたいこととか、行きたい場所とか、やってみたいことをまとめたリスト!!」
鳴海「(ノートに何かを書いている菜摘のことを見ながら)そ、そんなもんを作ってるのか・・・」
少しすると菜摘はノートに”鳴海くんとしたいことリスト”を書き終える
ノートを閉じる菜摘
菜摘はノートの表紙に大きな字で”鳴海くんとしたいことリスト”と書く
ノートの表紙に大きな字で”鳴海くんとしたいことリスト”と書いて、立ち上がる菜摘
菜摘は鳴海のところに戻る
床に座る菜摘
菜摘「(床に座って)書けたよ鳴海くん」
鳴海「お、おう・・・」
菜摘は”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを鳴海に差し出す
鳴海「(”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを菜摘から差し出されて)み、見て良いのか?」
菜摘「(”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを鳴海に差し出したまま)もちろん!!全部鳴海くんがいなきゃ出来ないことだもん!!」
鳴海「(”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを菜摘から差し出されたまま)そ、そうだよな・・・お、俺としたいことリストだもんな・・・」
菜摘「(”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを鳴海に差し出したまま)うん!!」
鳴海は”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを菜摘から受け取る
恐る恐る”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを開く鳴海
”鳴海くんとしたいことリスト”のノートには1ページ目に、”お祭りで遊んで花火を見たい!!”、”動物園、水族館、遊園地でデートがしたい!!”、”一緒に髪の毛を染めてみたい!!金色!!(鳴海くんのお仕事の関係で出来なければ諦めます)”、”国内か外国で旅行に行きたい!!”、”一緒に暮らしたい!!”、”思い出をたくさん作りたい!!”、”写真をたくさん撮りたい!!”、“美味しい物をたくさん食べたい!!”、”結婚したい!!”と一行ごとに書いてある
菜摘「ど、どうかな・・・?」
鳴海「(”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを見ながら)の、ノート一冊を使って・・・こ、これだけか・・・?」
菜摘「お、思い付いたらどんどん付け足す予定だよ!!」
再び沈黙が流れる
菜摘「だ、ダメ・・・?で、出来そうにないのが多かったかな・・・?」
鳴海「(”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを見ながら)そ、そんなことはないが・・・しかし・・・」
菜摘「な、何・・・?」
鳴海「(”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを見ながら)さ、最後の方が少し雑じゃないか・・・?旅行に行けば美味い物は食えるだろうし・・・しゃ、写真はたくさんデートをすれば良いだろ・・・?(少し間を開けて)そ、それにさ・・・け、結婚と一緒に暮らすっていうのはほとんど同じじゃないか・・・?」
菜摘「そ、そうかな?」
鳴海「(”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを見ながら)い、いや・・・げ、厳密に言えば同棲と結婚は全然違うが・・・」
菜摘「な、鳴海くんが出来ないことは諦めるよ」
鳴海は”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを見るのをやめる
鳴海「(”鳴海くんとしたいことリスト”のノートを見るのをやめて)し、心配するな、ここに書いてあることは全部が俺が叶えてやるからさ」
菜摘「本当・・・?」
鳴海「あ、ああ、俺はいかなる時も菜摘の願いを叶えるために存在してるからな」
菜摘「で、でも・・・わ、私髪を染めたいって書いちゃってるよ・・・」
鳴海「た、多分大丈夫さ、い、伊桜さんも茶髪だし、割合からして染めてる人の方が多いくらいだぞ」
菜摘「金髪だけど・・・良いのかな・・・」
鳴海「だ、ダメだったら菜摘と会う日だけ毎回金にしよう・・・」
菜摘「か、髪が痛むよ鳴海くん」
鳴海「き、気にするな、それよりどうして金なんだ?」
菜摘「カップルで髪の色をお揃いにするのが流行ってるって少し前にテレビで見て・・・」
鳴海「そういうことか・・・なら別に金に拘ってるわけじゃないんだな」
菜摘「ほ、他の色じゃなくて金色が良い!!」
鳴海「き、金に拘りまくってるってことか・・・」
菜摘「う、うん!」
鳴海「よ、よし・・・お、俺も一緒に金髪デビューだ」
菜摘「い、良いの・・・?」
鳴海「はっきり言うが菜摘、こんな簡単な願いだったら後1億回は叶えてやれるぞ」
菜摘「そ、そっか・・・あ、ありがとう鳴海くん」
鳴海「たかが髪をいじるだけで感謝されるとは・・・逆に申し訳ないな・・・」
菜摘「わ、私が鳴海くんを巻き込んでいるんだから、ありがとうって言うのは当たり前だよ」
鳴海「菜摘、今はありがとうとか言う謎ワードを議論してる暇はないんだ」
菜摘「謎ワードじゃないもん・・・」
鳴海「そんなことよりもいつどこで染めるかを議論するべきじゃないか、菜摘」
菜摘「う、うん・・・美容師さんにやってもらった方が綺麗に染まるとは思うんだけど・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「じ、自分たちでやってみたいんだな」
菜摘「あ、危ないならやめておくよ鳴海くん」
鳴海「いや・・・美容室でいきなりぶっ倒れられる方が危ないだろ」
菜摘「た、確かにそうだね・・・(少し間を開けて)ま、まずはブリッジをしなきゃ・・・」
鳴海「ブリッジじゃなくてブリーチな」
菜摘「い、今のはボケだよ」
鳴海「ワックスとソックスでボケるのと感覚的には同じか」
菜摘「な、鍋と壁みたいな感じだね」
鳴海「そのボケは無理があるだろ・・・」
菜摘「(少し残念そうに)そ、そうかな・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「明日買いに行くか・・・」
菜摘「か、買うって何を?」
鳴海「ブリーチ剤とヘアカラー剤に決まってるだろ」
菜摘「い、いきなり染めちゃうの?」
鳴海「もう少し髪を伸ばしてからにするか?」
菜摘「う、ううん、す、すぐでも大丈夫だよ」
鳴海「じゃあ明日に・・・ってそういえばなんだけどさ・・・」
菜摘「ど、どうしたの?」
鳴海「髪を染めること・・・すみれさんと潤さんに反対されないよな・・・?」
菜摘「た、多分・・・平気だと思う・・・」
鳴海「そ、染めたいって言ったことはあるのか?」
菜摘「な、ないよ、そういうことはしたがらない子だと思われてるし・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「これは猛反対を喰らうかもしれないな・・・」
菜摘「そ、染めるまで隠れてたら良いんだよ鳴海くん」
鳴海「(呆れて)家の中でどうやって隠れるんだ・・・」
菜摘「お、お母さんとお父さんには出かけてもらって、その隙に私と鳴海くんが染めるのはどうかな?」
鳴海「二人がいない間にやっちまおうって作戦か・・・」
菜摘「うん」
鳴海「だがどうやってすみれさんたちを追い出すんだ?」
菜摘「明日お父さんはお仕事があるから、お母さんにだけ買い物に行ってもらえば良いと思う」
鳴海「なるほど・・・出来るだけ長い時間出てもらうか・・・」
菜摘「そうだね」
鳴海「(小声でボソッと)すみれさんたちが勝手に決めたんだから俺たちも好きなようにしてやる・・・」
菜摘「えっ?」
鳴海「何でもない」
◯2250帰路(夕方)
弱い雨が降っている
傘をささず一人自宅に向かっている鳴海
鳴海は右手の人差し指に絆創膏を貼っている
鳴海は帰宅途中のたくさんの波音高校の生徒たちとすれ違っている
鳴海「(声 モノローグ)すみれさんと潤さんの決断には、1%も納得していなかった。俺が潤さんだったら・・・菜摘が泣き喚こうが東京の病院で入院させていただろう・・・一体あの二人は何を考えているんだ・・・体よりも心だと・・・?人間は命がなきゃ成り立たない生き物だぞ・・・死んだら終わりだ・・・死んだら終わりなんだ・・・(少し間を開けて)母さんと父さんならすみれさんたちの考えには反対したはず・・・」
鳴海の体は雨で濡れている
鳴海「またあの夢が見たいな・・・」