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Chapter4 √波音(菜摘)×√奈緒衛(鳴海)×√凛(?)-約500年前=暴力と愛の先に 後編

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter4 √波音(菜摘)×√菜緒衛(鳴海)×√凛(?)-約500年前=暴力と愛の先に


登場人物


白瀬 波音(なみね)23歳女子

妖術を使う家系『海人』の末裔、そして最後の生き残り。好戦的な性格だがあくまで妖術は使わず武器を使って戦う。優秀な指揮官。


佐田 奈緒衛(なおえ)17歳男子

織田信長を敬愛している青年、武術の腕前を買われ波音の部下になる。


(りん)21歳女子

不思議な力を持つ女性、波音の精神面を支え戦のサポートをする。体が弱い。


織田 信長(のぶなが)48歳男子

天下を取るだろうと言われている伝説の武将。波音とは旧知の仲。


明智 光秀(みつひで)55歳男子

信長の家臣。


上杉 謙信(けんしん)44歳男子

信長に対抗をする数少ない武将。


森 蘭丸(らんまる)17歳男子

信長の側近を務める礼儀正しい美少年。


住持 (じゅうじ) 61歳男子

知識が豊富なお坊さん、緋空寺に住んでいる。緋空浜に仕えている身。


滅んでいない世界


貴志 鳴海(なるみ) 18歳男子

波音高校三年三組、学校をサボりがち。運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部副部長。


早乙女 菜摘(なつみ) 18歳女子

波音高校三年三組、病弱で体調を崩しやすい、明るく優しい性格。文芸部部長。


白石 嶺二(れいじ) 18歳男子

波音高校三年三組、鳴海の悪友、鳴海と同じように学校をサボりダラダラしながら日々を過ごす。不真面目。絶賛彼女募集中。文芸部部員。


天城 明日香(あすか) 18歳女子

波音高校三年三組。成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。文芸部部員。


南 汐莉(しおり)15歳女子

波音高校に通っている一年生、文芸部と軽音楽部の掛け持ちをしている。明るく元気。魔女っ子少女団メインボーカル。


一条 雪音(ゆきね)18歳女子

波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。天文学部部長。不治の病に侵された姉、智秋がいる。

 

一条 智秋(ちあき)24歳女子

ドナーが見つかり一命を取り留める。現在はリハビリをしつつ退院待ち


滅びかけた世界


ナツ 16歳女子

ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家、滅びかけた世界で“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。


スズ 15歳女子

マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。ナツと一緒に“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。


老人 男

ナツの放送を聞いて現れた謎の人物。ボロボロの軍服のような服を着ている。

Chapter4 √波音(菜摘)×√菜緒衛(鳴海)×√凛(?)-約500年前=暴力と愛の先に 後編


◯561森(夜)

 月が雲に隠れている

 暗い山の中

 山の道を進んでいる三人

 たくさんの大きな木が生えている

 太く大きな木の根が地面から盛り上がっている

 凛のペースに合わせてゆっくり歩いている波音と奈緒衛

 奈緒衛が一頭の馬を連れている

 馬には荷物が乗せてある

 ひたすら歩いている三人

 夜風が吹き草木の揺れる音が聞こえる


奈緒衛「蛍やスズムシがどこにもいないなど珍しいな」

波音「ああ、やけに薄気味悪い夜だ」

凛「油断なさらないで。嫌な予感がします」


 時間経過


 霧が出ている

 霧は濃い

 山の道を進んでいる三人


凛「この世の終わりのようです」


 立ち止まる波音と奈緒衛


波音「静かに」


 正面の木から明智軍の武士が五人出てくる

 五人とも抜刀している

 刀を抜く波音と奈緒衛


波音「(刀を構えて)凛、下がっておれ」


 頷き後ろに下がる凛


明智軍武士4「お主らは囲まれている。刀を収めよ、勝ち目はない」

奈緒衛「(刀を構えて)従うかよそんなこと」


 明智軍の武士5が縦笛を取り出し吹く

 武士5が笛を吹いている中、他の明智軍武士たちは刀で攻撃して来る

 

明智軍武士6「(波音に向かって刀を振りかざし)海人の末裔が!!!!!!妖術を使う前に殺してやる!!!!!!」


 武士6の攻撃を避ける波音


凛「(大きな声で)波音様後ろに!!!!!」


 武士4が後ろから波音の背中を斬ろうとする

 刀で武士4の攻撃を受ける波音

 武士6が武士4の攻撃に加勢する

 武士6と武士4の攻撃を刀で受けている波音


波音「(刀で攻撃を防ぎながら)くっ!!」


 追い込まれる波音

 波音の後ろでは奈緒衛が武士7と8を相手に戦っている

 刀で素早く攻撃をする武士7と8

 刀を受け流しながら徐々に後ろに下がって行く奈緒衛

 奈緒衛は短剣を取り出し刀二本で応戦し始める

 武士4と武士6が波音の刀に強い力をかける


明智軍武士4「(刀を強く押しながら)白瀬波音!!!!貴様はここで終わりだ!!!!!!」

波音「(刀で攻撃を防ぎながら)私の死を・・・勝手に決めるな!!!!!!」


 武士4の腹を蹴る波音

 腹を押さえその場で膝をつく武士4

 力をかけていた武士6はバランスを崩す

 武士4の首を跳ね落とす波音

 武士4の首下からシャワーのように血が吹き出て倒れる

 武士6との一対一の戦いになる波音

 刀を二本使い武士7、8と戦っている奈緒衛

 武士5が縦笛を吹くのを止める

 縦笛を投げ捨て刀を抜く武士5

 武士5は隠れていた凛に迫る


奈緒衛「(刀で攻撃を受け流しながら)クソッ!!!凛!!!!!!」


 ゆっくり後ろに下がる凛

 武士5との距離が徐々に狭まる

 

波音「(武士6と刀をぶつけ合いながら)凛!!!!!!戦え!!!!!!戦うのだ!!!!!!!」


 波音は刀で武士6を押し出す

 武士4が使っていた刀を拾い、凛の方に投げる波音

 波音が投げた刀は凛の近くに落ちる

 刀を構え直す武士6


明智軍武士6「(刀を構えながら)正気か?あのような小娘が戦えるわけがなかろう」


 刀を拾い構える凛

 凛の持っている刀の先が震えている 

 カタカタと音を立てている凛の日本刀


波音「(刀を構え直して)見くびるなよ。刀一つで運命を変わる!!!」


 波音は刀を構えながら走り武士6に攻撃する

 隙を突いて小刀で武士8の腹を刺す奈緒衛

 武士8の顔面を刀の柄の部分で殴る奈緒衛

 武士8の腹に刺さった小刀を引き抜く奈緒衛

 腹から血が吹き出て倒れる武士8

 引き抜いた小刀で武士7の膝を斬る奈緒衛

 武士7は斬られた膝を片手で押さえる

 武士7との一対一の戦いになる奈緒衛

 武士5が刀を振りかざす

 凛は武士5の攻撃を刀で防ぐ

 武士5は素早く攻撃を繰り返す

 防戦一方な凛

 武士7の腹を斜めに斬る奈緒衛

 血が吹き出て倒れる武士7

 奈緒衛は凛の元へ駆けつける

 

奈緒衛「(走りながら)凛!!!!!下がれ!!!!後は俺がやる!!!!!」


 凛は後ろに下がる

 武士5の背中を二本の刀で大きく斬り付ける奈緒衛

 背中から血が吹き出て倒れる武士5

 奈緒衛の顔にはたくさんの血が付いている

 武士5はほふく前進で竹笛を拾いに行く


奈緒衛「凛、怪我はないか?」

凛「私めは大丈夫です、それより波音様の助太刀に行ってください!!」


 波音のことを見る奈緒衛

 波音は武士6と戦っている


奈緒衛「いや・・・波音は大丈夫であろう」

凛「何故です!?何ゆえ助けにいかないのです!?」


 波音は少しずつ武士6を追い込んでいく

 波音の剣技が徐々に早くなる

 武士6を追い詰めれば追い詰めるほど波音の表情は笑顔になる


奈緒衛「その必要がないからだ」


 やがて武士6は波音の刀を防ぎ切れなくなる

 少しずつ武士6の体が血で赤くなる

 波音はとどめに武士6の腹を刀で刺す

 苦痛で歪んだ武士6の表情

 波音は刀を奥まで刺しねじ回した後に腹から抜く

 刀を抜いた瞬間、武士6の腹から血がたくさんこぼれる

 倒れる武士6


奈緒衛「ほらな?助けなど要らぬだろ?」

凛「は、はい・・・そうでございますね・・・」


 武士5は再び縦笛を吹き始める

 武士5の元へ行く波音


波音「さっきから鬱陶しいなその笛は」


 武士5は笛を吹き続ける


波音「敵と遭遇した時に使う笛か・・・あまり役には立っていないようだな」


 笛を吹くのを止める武士5


明智軍武士5「ば、馬鹿め!!!光秀様に・・・この笛が・・・伝わっている!!!!」

波音「だから何だ?奴らがそう簡単にここまで来れるわけなかろう」

明智軍武士5「ほざけ!貴様らの命など・・・時間の問題だ!!!!!」

波音「(刀を振りかざし)悪いが・・・お主の命よりは長いぞ」


 武士5の背中に刀を突き刺す波音

 絶命する武士5

 刀を武士5の背中から抜き納める波音

 刀を抜いた際に波音の顔に血が付く

 霧が更に濃くなる


波音「奈緒衛、凛、二人とも無事か」

奈緒衛「おう、上手く切り抜けたぞ」

波音「良かった・・・二人共見事な戦いであったぞ」

凛「やっとお二人様と共に戦うことが出来て私めは嬉しゅうございます!」

波音「凛も素晴らしい剣術を持っておるな、修行を積めば私や奈緒衛よりも強くなるかもしれぬぞ」

凛「い、いえ!!私はただ受け流しただけですゆえ・・・」

波音「そうか?それでもよい動きをしているように見えたが・・・」

奈緒衛「おいおい波音、自らの戦いに夢中で俺たちのことなど見ていなかっただろ?」

波音「そんなことはない、しっかり見ておったわ」


 波音は顔に付いた血を拭い、二人がいる方へ歩く


奈緒衛「本当か?」

波音「本当だ」

奈緒衛「嘘だろう?」

波音「私は嘘などつかない」

凛「お二人様!!!お止め下さい!!!危険を三人で切り抜けたというのに争ってはなりませぬ!!!!このような些細な事でお二人が争う姿など見とうありません!!!!」

波音「別に争ってなどおら・・・」


 突然大きなドォォォンという音が響き渡る


奈緒衛「(辺りを見ながら)何だ!?何の音だ!?」


 霧で周囲が見えにくい

 ブスッという音が聞こえる

 波音が辺りを見ると一本の大きな木の幹に血のついた弾丸が刺さっていることに気が付く

 弾丸からは煙が出ている

 波音は振り返る

 振り返った先に凛が立っている

 霧のせいで凛の全身が見えない 


凛「な、波音様・・・」


 霧が少しだけ消える

 凛の全身が見えるようになる

 凛に駆け寄る奈緒衛


奈緒衛「凛!!しっかりしろ!!!」


 凛の胸元からどんどん血が溢れてくる

 その場に倒れる凛

 凛に駆け寄る波音

 凛の手を穴の開いた胸元に置く波音


波音「(凛の手を胸元に強く押しつけ)傷口を押さえろ!!!」


 力が入ってない凛

 凛の手はすぐに胸元から離れてしまう


凛「(小さな声で)な、波音・・・様・・・」


 再び大きな銃声が響く

 

奈緒衛「波音!!逃げないと!!!」

波音「分かっている!!!!」


 凛を抱き抱える波音

 近くの木に弾丸が当たる

 

波音「(凛を抱き抱えながら)走るぞ奈緒衛!!!」


 二人は濃い霧の中、夜の山道を走る

 

波音「(凛を抱き抱えて走りながら)死ぬな凛!!!!」


 銃声が響く

 地面に弾丸が刺さる

 土が弾け飛ぶ

 必死に走る波音と奈緒衛

 銃声が響く

 弾丸が波音の首をかする

 波音の首から血が飛ぶ

 顔を歪める波音

 

凛「(小さな声で)波音様・・・血が・・・」


 凛はゆっくり手をあげ、波音の首を押さえようとする

 凛の胸元は真っ赤に染まっている


波音「(凛を抱き抱えながら 怒鳴り声)押さえてろと言っただろ!!!」


 銃声が響く

 波音の腰に弾丸がかする

 波音は転んでしまう

 凛は投げ出される

 先を走っていた奈緒衛は引き返す

 

奈緒衛「波音!!凛!!」


 奈緒衛は波音と凛の元へ駆け寄ろうとする

 波音はフラフラと立ち上がり、足を引きずりながら凛の元へ行く

 倒れている凛

 凛の側で膝をつく波音

 凛を抱き抱えようとする波音


凛「(とても小さな声で)り、輪廻・・・ことわり・・・」

 

 口から血が出ている凛


波音「押さえるのだ、押さえてるのだ・・・」


 凛の手を胸元に置く波音


凛「(小さな声で)波音様・・・」


 凛の口元に耳を近づける波音


波音「何だ?」

凛「(小さな声で)三人で・・・輪廻・・・輪廻を・・・世のことわり・・・」


 凛は喋らなくなる

 遠くからたくさんの馬の蹄の音が聞こえてくる


波音「凛!!!凛!!!!」


 凛の体を揺さぶる波音

 凛は死んでいる

 凛が死んだことを悟り、深い悲しみの表情になる波音

 波音たちのところを目指して、奈緒衛が走っている


奈緒衛「(走りながら)二人とも!!追手が来ているぞ!!!!!」


 銃声が響く 

 走ってくる奈緒衛を見る波音

 奈緒衛の太ももに弾丸が当たる

 奈緒衛の太ももから肉片と弾丸が飛び出る

 転ぶ奈緒衛


波音「奈緒衛!!!!!」


 転んだ奈緒衛は何とか立ち上がろうとするが、立てない

 倒れている奈緒衛

 凛を腕で抱き抱えたままの波音


奈緒衛「(波音に向かって手を伸ばし)波音!!逃げろ!!」


 馬に乗った明智光秀とその家臣が波音たちのことを囲む


光秀「残念だったな白瀬殿。早々と逃げていればこのようなことにはならなかったのに」


 おそよ百人近くの武士たちが武装し、波音たちに武器を向けている

 その中には奈緒衛が本能寺で生かした明智軍武士1がいる

 明智軍武士1の武器は火縄銃

 明智軍武士1は奈緒衛から受けた傷の手当てがされている

 光秀は武士1の肩に手を置く


光秀「(武士1の肩に手を置きながら)こやつは火縄銃の扱いに長けておってのう・・・縦笛で位置を知り撃ち放ったのだが、見たところ(死んだ凛を見て)わしが想像していた以上に役立ったわ。これからは刀ではなく火縄銃での戦も増えるだろうな。その時に白瀬殿、そなたと戦えぬのが残念だよ」


 波音の瞳からは涙が溢れる

 波音は凛のことを見ている

 凛の顔に波音の涙が落ちる

 波音は凛のまぶたを下ろす

 眠っているような表情をしている凛

 波音は今までにないほど悲しそうな表情をしながら凛のことを見ている


◯562◯446の回想/波音の寝室縁側(昼過ぎ)

 茶塗れになった波音と奈緒衛のことを見て笑っている凛

 

◯563◯453の回想/波音の寝室縁側(夜)

 波音の膝の上に頭を乗せ眠っている凛

 

◯564◯522の回想/音羽川(夜)

 干し芋を半分に折る波音

 半分になった干し芋を凛に差し出す波音

 受け取る凛

 半分になった干し芋を食べる波音と凛


◯565◯526の回想/音羽川(夜)

 ジャンプして蛍を捕まえようとする凛

 蛍はゆらゆら光りながら飛んで逃げる

 

◯566回想戻り/森(夜)

 霧が晴れる

 月の動き月が現れる

 月の光が波音を照らす


凛「(声)お止めください!!!このような些細な事でお二人が争う姿など見とうありません!!!私にとってそれらは全て美しい経験なのです。巡り会えた運命に祝杯を!絶対に・・・お二人は結ばれてくださいね」


 凛の声と波の音が波音の頭の中で響く


凛「(声)長旅になるでしょう。けれどその方が楽しいではございませぬか。半月しかないこの子の命を、私めが使い切ってしまうのは可哀想です。本当にそうでございましょうか?私たちに出来る事は何もないのでしょうか?私めと波音様は・・・お友達であると思うのです。私めの魂は必ず輪廻しましょう、私が死んでもこの魂は滅びませぬ。それはそれは!!!大変喜ばしゅうことでございます!!!!!」


 凛の声は消える

 波音の体がワナワナと震えている

 波音の表情は徐々に悲しみから怒りに変わる

 表情の変化とともに波の音が強くなる

 波音の瞳からは涙が流れ、あるはずもない海が瞳に写っている

 波音の瞳に反射している海は荒波が立っている

 涙を流しながら怒りの表情をしている波音


光秀「健闘をしたことは認めるぞ。敵ながらあっぱれとはそなたのような人物に対して言うのだな」


 突然波音の中に響いていた波の音が消える

 地面が揺れ始める

 

明智軍武士9「地鳴りか?」


 馬が鳴き騒ぎ始める

 馬から落とされる明智軍の武士たち


光秀「(大きな声で)馬を落ち着かせろ!!!たかが地鳴りだぞ!!!」


 馬たちは落ち着かない

 奈緒衛は困惑した様子で辺りを見る


奈緒衛「何事だ・・・?」


 地面の揺れは激しくなる

 馬はより荒ぶり、武士たちは次々に落馬する

 鳥が鳴き、木から飛び去っていく


光秀「もしや・・・妖術か!?!?」


 明智軍武士1が落馬し、その際に火縄銃が暴発する

 暴発して飛び出た弾丸が近くにいた明智軍武士に当たる

 

光秀「(刀を抜き叫ぶ)二人を殺せ!!!!!!」


 光秀の馬が走り、光秀は刀で波音の首を狙う


奈緒衛「危ない波音!!!!!!」


 とても大きな音を立て地割れが起きる

 光秀の馬は地割れに足を巻き込む

 光秀は落馬する

 

明智軍武士10「(奈緒衛に向かって刀を振りかざし)死ね!!!!!!!!!」


 奈緒衛は逃げようとするが足の怪我のせいで身動きが取れない

 奈緒衛の近くの大木が折れ、明智軍武士10を下敷きにする

 明智軍の武士たちがどんどん不可解な現象によって死んでいくことに気が付く奈緒衛

 波音と奈緒衛に近づこうとすると落馬、地割れ、木が倒れたりする

 波音は凛を抱き抱えたままの状態から一歩も動いていない

 奈緒衛はほふく前進で波音の方に近づく

 武士たち奈緒衛を殺そうとするが、一太刀も浴びせることが出来ない

 かまいたちのように風が吹き荒れ、石や木の枝が飛び交っている

 波音の元に辿り着いた奈緒衛は、座り直し波音を後ろから抱きしめる

 波音と奈緒衛には被害がないが、二人の周囲にいた武士たちは血を上げながら死んでいく

 光秀は立ち上がり波音と奈緒衛に向かって刀を振りかざす

 

光秀「(刀を振りかざしながら)討ち取ったぞこの悪鬼がぁぁああああああああああ!!!!!!」

 

 風で飛んできた10cmほどの石が光秀の頭に当たる

 光秀は頭から血を流し倒れる

 興奮して暴れている馬が光秀の頭を踏みつけていく

 馬の蹄で光秀の頭が変形する

 馬は暴れ回り、生き残っている明智軍武士を蹴り上げ突進したりする


◯567森(朝方)

 少しずつ日が昇っている

 明智軍の武士たちが見るも無残な姿になって全滅している

 周囲にあった大木は全て倒れ、たくさんの大きな地割れが出来ている

 霧吹きをしたように、血煙が飛んでいる

 生き残ったのは数頭の馬だけ

 馬たちは落ち着いている

 凛は波音の腕に抱かれた状態のままである

 奈緒衛は波音を後ろから抱きしめたままの状態

 凛の遺体から白い光の玉のような物がふわふわと浮かび空に飛んで行く

 波音と奈緒衛は光の玉に気がついていない


◯568森(朝)

 山の道を進んでいる波音と奈緒衛

 明智の武士たちが死んでいる場所から移動している二人

 木漏れ日

 ヒグラシが鳴いている

 たくさんの大きな木が生えている

 奈緒衛は刀を杖代わりにしてゆっくり歩いている

 奈緒衛に合わせて歩いている波音

 波音は一頭の馬を連れている

 馬には凛の亡骸が乗せてある

 

◯569山の頂上(昼)

 山の頂上に辿り着いた波音と奈緒衛

 山の頂上は草原になっている

 草原を掘り凛の遺体を埋葬し終えた波音と奈緒衛

 風で草原が揺れている

 頂上からは山の木々がよく見える

 とても綺麗な青空 


波音「別れの・・・言葉を」


 頷く奈緒衛

 奈緒衛は何と言おうか少し考える

 奈緒衛は凛が埋められているところに行き、座る


奈緒衛「凛・・・(鼻を啜り)残念だ。(かなり間を開けて)俺が社殿に来たばかりの頃、お前はよく声をかけてくれたよな。嬉しかったよ・・・波音や他の連中と交流が持てたのも凛のお陰だ。(再び鼻をすすり)本当にありがとう・・・どうか安らかに」


 涙を拭う奈緒衛

 刀を支えに使って立ち上がる奈緒衛

 一歩下がる奈緒衛

 波音が凛の墓の前に行き膝をつく

 

波音「よい・・・ところだ」


 波音は俯き草原を撫でるように触る


波音「草木に囲まれ・・・暖かい・・・日光もある・・・自然が・・・自然が多くて・・・(少し間を開けて)すまない、凛を助けられなかった・・・凛はいつも・・・私たちのことを助けてくれていたのに・・・」


 深呼吸をする波音


波音「凛・・・そなたが恋しいよ・・・胸が張り裂けそうだ・・・」


 立ち上がる波音


波音「行くぞ・・・」


 波音は逃げるようにその場から立ち去ろうとする


奈緒衛「(波音の腕を掴み)波音」


 立ち止まる波音

 波音は決して奈緒衛の顔を見ようとはしない

 波音は目線を逸らしている


波音「(目を逸らしながら)何だ」

奈緒衛「(波音の腕を掴みながら)そんな急いで行かなくても・・・」

波音「(目を逸らしながら)ここに居ても仕方がないだろう・・・」


 少しの沈黙が流れる


奈緒衛「(波音の腕を掴みながら)波音・・・もうよいのだ」

波音「(目を逸らしながら 大きな声で)よいわけないだろう!!!!凛が逝ってしまったのだぞ!!!!!!私は何も出来なかった!!!!!!弱くて・・・臆病で・・・涙することしか!!!!」


 目に涙を浮かべ奈緒衛の顔を見る波音

 波音の腕を離す奈緒衛


奈緒衛「それでよいのだよ。波音・・・お前は悪鬼ではないし、感情を失った人斬りでもない・・・ただの人だ。泣くことだってあるし、恐怖を感じる時だってある。人はそういう生き物だよ」


 奈緒衛は優しく波音を抱きしめる


波音「(奈緒衛に抱きしめられながら)でも・・・それでは・・・それでは私は・・・」

奈緒衛「(波音を抱きしめながら)俺たちは弱い部分を支え合ってきただろ?だから今は・・・意地にならなくてもよいのだよ」

波音「(奈緒衛に抱きしめられながら)本当に・・・よいのか・・・?」

奈緒衛「(波音を抱きしめながら)家族だからな」


 最後の奈緒衛の一言で涙が溢れる

 奈緒衛のことを抱きしめ、小さな子供のように大声を上げて泣き始める波音


◯570森(夜)

 満月

 大木にもたれている波音と奈緒衛

 スズムシが鳴いている

 二人の近くの木に一頭の馬が繋がれている

 夜風で木々が揺れる音が聞こえる


波音「足はどのような状態だ?」

奈緒衛「一応止血したけど最悪だよ。燃えるように痛い」

波音「緋空に着いたらすぐに手当てをしよう。正直今すぐにでも町に戻って薬師の元に行きたいところだが・・・」

奈緒衛「今更町には戻れないさ・・・」

波音「そうだな・・・」


 会話が途切れ少しの沈黙が流れる


波音「奈緒衛」

奈緒衛「どうした?」

波音「本当のことを言うがな・・・私は大事な者を失うのが怖い」

奈緒衛「大事な物って?」

波音「お主や凛のような存在のことだ」

奈緒衛「(少し照れながら)お、おう・・・俺や凛の存在か・・・」


 頷く波音


波音「奈緒衛・・・私の最後の命を聞いてくれぬか?」

奈緒衛「どのようなことでも申し付けておくれ。俺は波音に逆らうつもりはないよ」

波音「では・・・死なないで欲しい・・・」

奈緒衛「何だ、そのようなことか」

波音「死は・・・私にとって最悪の敵なのだ」

奈緒衛「安心しろ。緋空に行くのが俺の夢なのにこのような山でくたばってたまるか」

波音「良かった・・・」


◯571森(日替わり/昼)

 山の道を進んでいる波音と奈緒衛

 木漏れ日

 奈緒衛を支えながら歩いている波音

 奈緒衛は刀を杖代わりにし、波音に支えながら歩いている

 一頭の馬が二人の後ろをついてくる

 険しい山の道

 下り坂

 太く大きな木の根が地面から盛り上がっている

 転ばないように慎重に進んでいる二人

 

波音「(声)凛の願いを知っておるか?」

奈緒衛「(声)さあ・・・何だろう・・・タコをたらふく食うとか?」

波音「(声)タコではないな」

奈緒衛「(声)波音は知っておるのだろ?」

波音「(声)無論だ」


◯572森(夕方)

 夕日で森の中が赤く染まっている

 ヒグラシが鳴いている

 大木にもたれて干し芋を分け合って食べている二人

 二人の近くの木に馬が繋がれている


奈緒衛「(声)となると・・・他の食い物のことか?」

波音「(声)食いものは関係ないぞ」

奈緒衛「(声)食い物以外の願い・・・わからん」


◯573森(日替わり/昼)

 曇り空

 山の道を進んでいる波音と奈緒衛

 奈緒衛を支えながら歩いている波音

 奈緒衛は刀を杖代わりにし、波音に支えながら歩いている

 一頭の馬が二人の後ろをついてくる

 険しい山の道

 下り坂

 太く大きな木の根が地面から盛り上がっている

 転ばないように慎重に進んでいる二人


波音「(声)私に妖術を身につけて欲しいと、あやつは言っておった」

奈緒衛「(声)何ゆえ妖術を?」

波音「(声)妖術を使って魂を輪廻させるのが目的だ」

奈緒衛「(声)死んで蘇るということか?」

波音「(声)間違いではなかろう」

奈緒衛「(声)それが出来たら凄いことだな」

波音「(声)私は挑戦しようと思う」

奈緒衛「(声)輪廻に?」

波音「(声)ああ」

奈緒衛「(声)しかし・・・輪廻して何をどうするのだ?」


◯574森(夕方)

 大木にもたれて休んでいる波音と奈緒衛

 二人の近くの木に馬が繋がれている

 話をしている二人


波音「決まっておるだろう?今よりよい時代で、奈緒衛や凛と共に過ごすのだ」

奈緒衛「今のような戦ばかりの世ではなく、平和な時代でか」

波音「うむ」

奈緒衛「ん?波音は妖術を使って輪廻するのか?」

波音「そうだぞ」

奈緒衛「では妖術を使えない俺や凛はどうやって輪廻するのだ?」

波音「私が奈緒衛の魂に妖術をかける」

奈緒衛「えっ!?出来るのか!?」

波音「挑戦あるのみだよ。幸い、まだ私の中には潜在的な力が隠れておるようだ」

奈緒衛「やはりあれは妖術なのだな」

波音「ああ。かつての感覚が一瞬だけ蘇ったのだ」

奈緒衛「なるほど・・・あれだけの威力で潜在的な物なら、修行次第では途方もない力が発揮出来るかもしれぬぞ」

波音「そうだろうな。輪廻も不可能ではない」

奈緒衛「俺や波音はともかく、凛はどうするのだ?妖術を得た後に再び山頂に戻るのか?」

波音「凛に関してなのだが・・・一つに気になることがあってな・・・凛自身が自分の魂は滅びないと言っておってのう」

奈緒衛「難しい話だ・・・俺の理解力ではよう分からん」

波音「凛は既に・・・転生しているかもしれぬぞ」

奈緒衛「だとすれば今すぐにでも探しに行くべきは?」

波音「さすがに今は無理だろう・・・我らも追われる身だ。だがな奈緒衛、いつの日か我らの魂を持つ者たちが再会するかもしれない。星の数ほど人間はいるが、その中で一際光り輝く者がお主や凛の魂を持つ者であることは間違いないのだ。どれだけ月日が流れても、再び巡り合う確率がおよそゼロに近い数字であっても、私は絶対に諦めない」


 真剣な表情の波音


奈緒衛「波音、そのためにも俺たちは早く緋空に行こうな」


 頷く波音


◯575森(夜)

 大木にもたれ肩を寄せ合って眠っている波音と奈緒衛


◯576森(日替わり/昼)

 雨が降っている

 ぬかるんだ山の道を進んでいる波音と奈緒衛

 奈緒衛を支えながら歩いている波音

 奈緒衛は刀を杖代わりにし、波音に支えながら歩いている

 一頭の馬が二人の後ろをついてくる

 険しい山の道

 下り坂

 滑る奈緒衛

 波音が反射的に奈緒衛が転ばないように手助けする


◯577森(夕方)

 変わらず雨が降っている

 山の中で小さな洞穴を見つけた波音と奈緒衛

 馬を洞穴近くの木に縛りつける波音


◯578洞穴(夕方)

 洞穴の中に入った波音と奈緒衛

 薄暗い洞穴の中

 座って休む波音と奈緒衛

 骸骨を見つける奈緒衛

 奈緒衛は静かに頭蓋骨を手に取り、脅かそうと波音に向かって投げる

 驚く波音

 それを見て笑う奈緒衛

 波音は驚かしてきたことに本気で怒る

 俯き説教を食らっている奈緒衛

 

◯579洞穴(夜)

 雨が止み、月の光が洞穴の中に差し込んでいる

 洞穴の中には数体の骸骨がある

 月の光を利用し、奈緒衛の太ももの傷を見ている波音

 止血はされているが、傷口は化膿し太もも全体が青紫色に変色している


奈緒衛「俺は後・・・どのくらい生きられるだろうか・・・」

波音「(傷口を見ながら)早く緋空に行かねば・・・傷口が酷く化膿しておる」

奈緒衛「緋空には絶対行くぞ・・・絶対にだ」

波音「私が連れて行ってやる、約束する」

奈緒衛「文字通り足手まといだが頼む」


 頷く波音


 時間経過


 装束を付け直す奈緒衛


波音「次は私もよいか?腰の傷を見て欲しいのだ」

奈緒衛「あ、ああ。分かった」


 立ち上がる波音

 目を瞑る奈緒衛

 装束を脱ぎ始める波音

 細く白い肌をしている波音

 裸の上から一枚だけ装束を羽織る波音

 目を瞑ったままの奈緒衛

 波音は腕を枕にし、横向けに寝転がる


波音「目を開けてもよいぞ」


 恐る恐る目を開ける奈緒衛

 奈緒衛からは波音の背中しか見えない


波音「腰の下の方だ、かすり傷程度だと思うが・・・一応念のため見ておくれ」

奈緒衛「分かった」


 奈緒衛はそーっと羽織りの装束を取り波音の腰を見る

 暗いせいか傷は見えない


奈緒衛「暗くてよく見えない・・・さ、触って確かめてもよいか?」

波音「もちろんだ」


 奈緒衛は波音の腰を触り傷の場所を探す


波音「す、少し・・・」


 慌てて手を腰から離す奈緒衛


奈緒衛「痛むのか!?」

波音「いや・・・こそばゆかったのだ・・・」

奈緒衛「す、すまない 」

波音「よい」


 奈緒衛は再び腰を当て傷口を探す

 少し触って傷口を見つける奈緒衛


波音「あったか?」

奈緒衛「(傷口を見ながら)ああ。けど・・・もう治りかけのようだぞ」

波音「昔から傷の治りは早いのだ」

奈緒衛「羨ましいよ。俺の傷もそのくらい早く癒えればよいのに」

波音「奈緒衛よ」

奈緒衛「ん?」

波音「今晩はもう寝てしまわないか」


 少しの沈黙が流れる


奈緒衛「そうだな」


 奈緒衛は波音と同じように横向きで寝転がる

 装束の背中から波音の白い背中が見える

 

波音「暖かい・・・」

奈緒衛「何が?」

波音「そなたの息が・・・」

奈緒衛「生きてるからな」

波音「奈緒衛?」

奈緒衛「どうした?」

波音「そなたに死んで欲しくない」

奈緒衛「分かっている・・・」

波音「私が奈緒衛の物であるように・・・奈緒衛は私の物だ」

奈緒衛「最期まで共に生きるよ」


◯580森(日替わり/昼)

 山の道を進んでいる波音と奈緒衛

 木漏れ日

 奈緒衛を支えながら歩いている波音

 奈緒衛は刀を杖代わりにし、波音に支えながら歩いている

 一頭の馬が二人の後ろをついてくる

 険しい山の道

 太く大きな木の根が地面から盛り上がっている

 奈緒衛は歩くたびに痛みを感じている

 それでも懸命に歩いている奈緒衛

 それを支える波音


◯581森(夜)

 大木にもたれながら楽しそうに喋っている波音と奈緒衛

 夜風で木々が揺れている


◯582森(日替わり/昼)

 山の道を進んでいる波音と奈緒衛

 木漏れ日

 奈緒衛を支えながら歩いている波音

 奈緒衛は刀を杖代わりにし、波音に支えながら歩いている

 一頭の馬が二人の後ろをついてくる

 険しい山の道

 太く大きな木の根が地面から盛り上がっている

 奈緒衛は歩くたびに痛みを感じている

 それでも懸命に歩いている奈緒衛

 それを支える波音


奈緒衛「(息を切らしながら)はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


 ゆっくり足を一歩踏み出す奈緒衛


奈緒衛「(息を切らしながら)はぁ・・・すまない・・・はぁ・・・俺のせいで無駄に時間が過ぎてしまう・・・」

波音「これ、謝るでない」

奈緒衛「これでは緋空までにどれだけかかるか・・・」

波音「慌てるな奈緒衛、少しずつでも近づけばそれでよいのだ」


◯583森(夜)

 山の道を進んでいる波音と奈緒衛

 夜になっている


波音「休もう、今日はもう十分に歩いただろう」


 波音に支えられながらゆっくり腰を下ろす奈緒衛

 深く息を吐いて大木にもたれる奈緒衛

 近くの木に馬を繋ぐ波音

 馬の上に乗せていた風呂敷を手に取り奈緒衛の隣に座る波音

 スズムシが鳴いている


奈緒衛「疲れたな・・・」

波音「薬草を飲めば元気になるぞ」


 風呂敷を開き、薬草を取り出す波音

 波音は薬草が傷んでないか確認する

 黒ずんだ薬草を捨てる波音


奈緒衛「薬草の残りもそれだけか・・・」


 近くの石で薬草をすり潰し、竹水筒の中に入れる波音


波音「(竹水筒を差し出して)薬草は・・・諦めるしかないのう・・・」


 竹水筒を受け取り薬草入りの水を飲む奈緒衛


奈緒衛「あとどのくらいの月日がかかると思う?」

波音「一月もあれば着くだろう、もう少しの辛抱だ」

奈緒衛「一月か・・・」


◯584森(日替わり/昼)

 山の道を進んでいる波音と奈緒衛

 木漏れ日

 奈緒衛を支えながら歩いている波音

 奈緒衛は刀を杖代わりにし、波音に支えながら歩いている

 一頭の馬が二人の後ろをついてくる

 険しい山の道

 太く大きな木の根が地面から盛り上がっている

 奈緒衛は歩くたびに痛みを感じている

 それでも懸命に歩いている奈緒衛

 それを支える波音


奈緒衛「(声)はぁ・・・一生分歩いた気がするよ」

波音「(声)緋空に着いたら布団で眠れるぞ」

奈緒衛「(声)丸三月くらい眠り続けてしまいそうだ」

波音「(声)ゆっくり休めばよい」

奈緒衛「(声)そうだな・・・一気に休んでそのあと一気に食べよう」

波音「(声)タコを千匹ほどとっ捕まえる必要があるのう」

奈緒衛「(声)捕まえ過ぎだろ」


◯585森(日替わり/昼)

 山の道を進んでいる波音と奈緒衛

 木漏れ日

 奈緒衛を支えながら歩いている波音

 奈緒衛は刀を杖代わりにし、波音に支えながら歩いている

 一頭の馬が二人の後ろをついてくる

 険しい山の道

 太く大きな木の根が地面から盛り上がっている

 奈緒衛は歩くたびに痛みを感じている

 それでも懸命に歩いている奈緒衛

 それを支える波音


波音「(声)一生分の芋を食ったのだ、次は一生分のタコを食う時だろう」

奈緒衛「(声)一生分歩いて、一生分の芋を食って、今度は一生分のタコかぁ・・・」

波音「(声)不満か?」

奈緒衛「(声)同じ飯が続くのは嫌かな・・・」


◯586森(日替わり/昼)

 山の道を進んでいる波音と奈緒衛

 木漏れ日

 奈緒衛を支えながら歩いている波音

 奈緒衛は刀を杖代わりにし、波音に支えながら歩いている

 一頭の馬が二人の後ろをついてくる

 険しい山の道

 太く大きな木の根が地面から盛り上がっている

 奈緒衛は歩くたびに痛みを感じている

 それでも懸命に歩いている奈緒衛

 それを支える波音


波音「(声)料理人を雇わねばな」

奈緒衛「(声)波音は料理出来ないのか?」

波音「(声)包丁で出来ることと言えば・・・」

奈緒衛「(声)言えば?」

波音「(声)人を殺めるくらいだ」

奈緒衛「(声)それは包丁でやってはならぬ」


◯587森(日替わり/昼)

 山の道を進んでいる波音と奈緒衛

 木漏れ日

 奈緒衛を支えながら歩いている波音

 奈緒衛は刀を杖代わりにし、波音に支えながら歩いている

 一頭の馬が二人の後ろをついてくる

 険しい山の道

 太く大きな木の根が地面から盛り上がっている

 奈緒衛は歩くたびに痛みを感じている

 それでも懸命に歩いている奈緒衛

 それを支える波音


奈緒衛「(声)料理は俺がやるよ」

波音「(声)なぬ・・・お主料理出来るのか?」

奈緒衛「(声)少しくらいはな。城に住んでおった頃教わったし」

波音「(声)では私が・・・」

奈緒衛「(声)おう」

波音「(声)タコを殺める担当をするから、奈緒衛はタコを捌け」

奈緒衛「(声)お、おう・・・タコを殺める担当って・・・」

波音「(声)何匹でも殺すぞ」

奈緒衛「(声)戦感覚でタコを殺すのだな・・・」

波音「(声)さすがに生きたままでは食えぬだろう?」

奈緒衛「(声)まあな、生きたままで体の中に入れたらこちらの内臓が食われそうだ」


◯588(日替わり/昼)

 山の道を進んでいる波音と奈緒衛

 木漏れ日

 奈緒衛を支えながら歩いている波音

 奈緒衛は刀を杖代わりにし、波音に支えながら歩いている

 一頭の馬が二人の後ろをついてくる

 険しい山の道

 太く大きな木の根が地面から盛り上がっている

 奈緒衛は歩くたびに痛みを感じている

 それでも懸命に歩いている奈緒衛

 それを支える波音

 少しずつ痩せていっている波音と奈緒衛


波音「(声)タコを食えるかどうかは、私の書物にかかっているのう・・・」

奈緒衛「(声)緋空の住人に売れるとよいな」

波音「(声)妖術を使って騙し売る」

奈緒衛「(声)妖術をそのように悪用してよいのか?」

波音「(声)生きるためだ、致し方ない」

奈緒衛「(声)俺は素潜りの腕を磨いておこう、最悪潜ってタコ獲りだ」

波音「(声)夏はタコを獲りに行き、冬は道場でも開こうか」

奈緒衛「(声)それはよいな」


◯589森(日替わり/夜)

 満月

 月の光が差し込んでいる

 スズムシが鳴いている

 大木にもたれている波音と奈緒衛

 二人の近くの木に一頭の馬が繋がれている

 波音は少し痩せている

 奈緒衛は顔がやつれ、バラバラに髭が生えている

 奈緒衛はガリガリに痩せ、骨が浮き彫りになっている

 奈緒衛に竹水筒を差し出す波音

 ゆっくり受け取る奈緒衛


字幕「約一ヶ月後・・・」


 奈緒衛が竹水筒の蓋を取ろうとするがなかなか取れない


波音「(手を出して)私がやろう」

奈緒衛「(竹水筒を差し出して)すまない ・・・」

波音「(竹水筒を受け取り)よいのだ」


 奈緒衛の声には力がない

 波音は竹水筒の蓋を取り波音に渡す


奈緒衛「(竹水筒を受け取り)ありがとう」


 竹水筒の水を飲む奈緒衛

 竹水筒を波音に差し出す奈緒衛

 竹水筒を受け取り水を飲む波音

 竹水筒の蓋をする波音


波音「潮の匂いが分かるか?」


 ゆっくり首を横に振る奈緒衛


奈緒衛「傷の匂いしか分からぬ・・・」

波音「夜風で潮の香りが流れ来ておる。明日には緋空に着くぞ」

奈緒衛「本当か・・・?」

波音「(頷きながら)ああ。本当だ」

奈緒衛「やっと・・・緋空に・・・」


 奈緒衛は少しだけ嬉しそうな表情をする


奈緒衛「遠かった・・・」

波音「そうだな・・・遠過ぎたか?」

奈緒衛「少しばかり・・・遠過ぎたかもしれぬ・・・」

波音「次に旅をする時は近場にするかのう」

奈緒衛「馬に乗って行きたいな・・・出来れば山以外のところで・・・」

波音「我らは木々を一生分見たしな」

奈緒衛「一生分歩いて・・・一生分の芋を食って・・・一生分の木々を見て・・・一生分の血を浴びて・・・疲れたよ・・・」

波音「緋空に辿り着けば好きなだけ休める。だからもう少し頑張るのだ」


 小さく頷く奈緒衛


◯590細道(日替わり/昼)

 快晴

 山を降りるとそのまま緋空浜に行ける細い道

 細道からは綺麗な緋空浜が見える

 奈緒衛の体を支えている波音

 奈緒衛を支えてない方の手で緋空浜を指差す

 奈緒衛は波音に支えられながらフラフラしている


波音「(指を差して)見ろ!!緋空だ!!!!」

奈緒衛「(緋空浜を見て小さな声で)あれか・・・ここからでも・・・綺麗だな・・・」

波音「(奈緒衛の体を支えながら)行こう奈緒衛!三人で目指した海がすぐそこにあるぞ!!」

奈緒衛「(小さな声で)ああ・・・」


 奈緒衛を支えながら歩く波音

 波音に支えながら歩く奈緒衛

 一頭の馬が二人の後ろをついてくる

 緩やかな下り坂

 凹凸はなく、山の道に比べて歩きやすい草原の道

 とてもゆっくりだが止まらずに歩く奈緒衛

 奈緒衛を支え続ける波音


◯591緋空浜(夕方)

 夕日が緋空浜を照らしている

 海に夕日が反射し、波がキラキラ光っている

 座り込んでいる波音と奈緒衛

 海を見ている波音と奈緒衛


奈緒衛「俺たち・・・よく頑張ったよな・・・?」


 頷く波音


波音「凛も私たちのことを誇りに思うだろう」

奈緒衛「三人で来たかった・・・(とても小さな声で)三人で・・・来たかったよ・・・」


 倒れそうになる奈緒衛

 奈緒衛を支える波音

 波音が奈緒衛を抱きしめているような体勢になる


波音「(奈緒衛のことを抱きしめながら)奈緒衛?」

奈緒衛「(とても小さなかすれた声で)すまぬ波音・・・もう力が入らぬのだ・・・」

波音「(奈緒衛のことを抱きしめながら)しっかりしろ!!!今薬師の元へ連れて・・・」

奈緒衛「(とても小さなかすれた声で)それより・・・話を・・・聞いてくれ・・・」

波音「(奈緒衛のことを抱きしめながら)話など後で聞けばよい!!!」

奈緒衛「(とても小さなかすれた声で)ダメだ・・・今言いたい・・・頼むから聞いてくれ・・・」


 少しの沈黙が流れる


奈緒衛「(とても小さなかすれた声で)輪廻出来ることを・・・祈っておるが・・・輪廻出来ても・・・再会が・・・いつか分からない・・・だから・・・今ここで言うぞ・・・」


 奈緒衛は一単語一単語に間を開けながら喋る


奈緒衛「(とても小さなかすれた声で)俺は・・・心の底から・・・波音のことを・・・愛している・・・魂が輪廻しても・・・この気持ちは・・・揺らがない・・・生まれ変わっても・・・波音に尽くすよ・・・」


 奈緒衛の目からは涙が溢れる


奈緒衛「(とても小さなかすれた声で)最後に・・・この美しい海を・・・波音と見れて・・・よかっ・・・た・・・・」


 奈緒衛の体から力が完全に消える

 

波音「(奈緒衛の体を揺さぶり)奈緒衛!奈緒衛!!」


 奈緒衛は死んでいる


波音「(奈緒衛のことを強く抱きしめて泣きながら)命じたではないか!!!死ぬなと!!!!命に従わぬか馬鹿者!!!!!!奈緒衛!!!!!!奈緒衛!!!!!!!」


 時間経過


 夜になっている

 波音は夕方から体勢が全く変わっていない

 奈緒衛のことを抱きしめたままの状態である

 波に月の光が反射している

 一人のお坊さんが波音に近づいて来る


住持「死者を引き留めてはなりません」


 振り返る波音


波音「(住持を睨み)何者だ貴様!」

住持「私はあなた様と同じく、緋空の神々に仕え寺に住む者です」


 涙を拭い住持の顔をよく見る波音


波音「そなた・・・緋空寺の・・・?」


 頷く住持


住持「あなた様を寺に迎え入れましょう、ご友人の亡骸は私の仲間がお連れ・・・」

波音「ならん!!!!!こやつに触れるのは許さない!!!!!!!」

住持「そうですか・・・ではお好きに」


 奈緒衛を抱き抱えて立ち上がる波音

 住持は歩き始める

 住持について行く波音


◯592緋空寺の門(深夜)

 大きな寺

 寺の門を通る波音と住持

 

波音「(声 モノローグ)私を迎えたのは緋空寺の住持様であった。住持様は信長殿の暗殺の話を聞き、私がここに来ることを予想していたようだ」


◯593緋空寺/講堂(日替わり/朝)

 坐禅を行うための広い畳の部屋

 行灯が隅にあるだけで後は何もない

 日光が差し込んでいる


住持「よく休めましたか?」

波音「ああ」

住持「あなたも幼い頃はこの寺によく遊びに来ていたのですよ。覚えていますか?」

波音「昔のことだ、ほとんど覚えてはいない」

住持「この寺にはかつて海人がたくさん住んでいました。彼らはここで学び、妖術を身につけ、緋空に全てを捧げていたのです」

波音「私の両親もか?」

住持「もちろん。あなたのご両親を含めて、この寺には海人や緋空の様々な歴史が数多く残っています」

波音「(声 モノローグ)全てを失った私はこの寺に世話になることになった。結局私は追われる身である、身寄りもない」

住持「安心なさい、あなたを匿うのも我らの務めです」


◯594緋空寺/書斎(昼)

 本棚に囲まれた部屋

 棚の間ごとにに机と椅子がある

 波音は数冊の本を手に取り、椅子に座る

 本を開き読み始める波音


波音「(声 モノローグ)今、私は学び、書き残している。住持様やここにある書物から私は様々なことを知った。凛が予知出来ていたのは緋空の海から与えられた力によるもの。緋空には数多の神が住み、世を見守っているそうだ。あの海は時として人に神の力を分け与え世に均衡をもたらしていた。神の力を持つ者が死ねば輪廻を繰り返し、ある時を経て再び緋空の魂を宿す者が現れる。自分の魂は輪廻すると凛は語っていたが、それもまた事実であった」


◯595緋空寺/波音の部屋(昼過ぎ)

 波音が使っていた刀や装束が隅に置いてある

 机に向かって座っている波音

 和紙に手記を書いている波音

 波音物語という題をつけている


波音「(声 モノローグ)こうやって書物に残すことが大事だと思う。少しでも今後の役に立てばよいが・・・(かなり間を開けて)住持様が言うには妖術と凛の力は近しいらしい。どちらも緋空から授かった力だからだろう」


◯596◯533、◯534、◯535の回想/森(夜)

 目を瞑っている凛


凛「(目を瞑りながら) 強い怒り・・・悲しみ・・・苦痛・・・死にゆく人・・・鉄屑で溢れた・・・滅びの海・・・」


 目を開ける凛


凛「そして・・・押し寄せる虚しさ」

波音「(声 モノローグ)未来を見たり他の場所を透視する力」


◯597◯38の回想/早乙女家リビング(夜)

 リビングにいる鳴海、菜摘、潤

 テレビを見ている三人

 テレビではリポーターがゲームセンターギャラクシーフィールドの店主有馬勇にインタビューをしている

 ゲームセンターの中には埃をかぶった古いレトロゲームで溢れている

 客は誰もいない

 ギャラクシーフィールドの新世界冒険というゲーム機がテレビに写っている

 ギャラクシーフィールドの新世界冒険というゲーム機のことを見ている菜摘


波音「(声 モノローグ)物に命を宿す力」


◯598◯339の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 雪音に対しドナーは見つかると言い切っている菜摘

 菜摘の言葉を半信半疑で聞いている文芸部員たち


波音「(声 モノローグ)願いを叶える力」


◯599回想戻り/緋空寺/波音の部屋(昼過ぎ)

 和紙に手記を書いている波音


波音「(声 モノローグ) これらは全て緋空から与えられた力である。海人の最大の目的は妖術を使い緋空を守ること。万が一、海人だけで海を守れぬ時は、凛のような緋空の魂を受け継いだ者が海を守らなければならない」


◯600緋空浜(夕方)

 浜辺を歩いている波音と住持

 浜辺には二人しかいない

 夕日が波に反射し、キラキラと光っている


波音「住持様、人の魂は不滅だと思うか?」

住持「それは魂によって異なります。幾度も生まれ変わる魂もいれば、なかにはすぐに消えてしまう魂もいる」

波音「(声 モノローグ)私は妖術を使って輪廻転生が出来るのかどうか、住持に尋ねた」


 時間経過


 浜辺を歩きながら話をしている二人


住持「ご自分の魂を輪廻させたいのですか?」

波音「私自身と知人の魂を」

住持「不可能ではないでしょう、相当な鍛錬が必要になりますがね」

波音「(声 モノローグ)この日から私は妖術の修行を始めた」


◯601緋空寺/書斎(日替わり/昼)

 本棚に囲まれた部屋

 棚の間ごとにに机と椅子がある

 波音と住持は妖術にまつわる本を集めている

 集めた本を机に置く波音と住持

 椅子に座る二人


住持「(本を開き)海人の魂は負荷が大きい。人には耐えられません。あなたのご友人が病弱だったのを覚えてますね?」

波音「ああ」

住持「あなたが輪廻をしても、長生きすることはないと思ってください。病弱であったり、何らかの事故に巻き込まれ命を落とすでしょう」

波音「凛と同じになるということか?」

住持「そうです。本来に人の器に宿せるような力ではないのですから」


 少しの沈黙が流れる


波音「受け入れよう」

住持「それから暴力的な思考を捨てるように。怒り、憎しみ、悲しみは忘れ、愛を持って人に優しく接することを覚えなさい」

波音「努力はするが・・・どうすればそのような思考を捨て去れるのだ?」

住持「緋空周辺の人々の生活を助けるとよいでしょう。殺生は言語道断、魂が別の肉体に移動しても許されません」

波音「分かった・・・」

住持「これからの生活では人のために尽くしなさい。武力を使わずに物事の解決に取り組むのです」

波音「そういうことなら、私の余生は人のために使うことにしよう」

住持「海人の力を持った優しい人を目指すといい。あなたのご友人のような人です」

波音「凛のようにか・・・」


 頷く住持


住持「生まれ変わった先でも彼女のような人でありなさい」

波音「住持様よ、生まれ変わった先では記憶が消えてるのでは?」

住持「だからこそ、今私が述べたことを守り魂に刻むのです」

波音「記憶は残せないのだろうか・・・」

住持「おそらくは消えてしまうでしょう」

波音「なるほど・・・色々と大変だ・・・」


◯602緋空寺境内(日替わり/昼)

 境内の外れの方に奈緒衛のお墓がある

 お墓の前に立っている波音

 以前より髪が短くなっている波音

 波音は右手に酒を持っている

 左手を握りしめている波音

 酒を置く波音

 墓石に佐田 奈緒衛と彫られている

 お墓の近くには奈緒衛が使っていた刀が地面に刺さっている

 左手に持っていた向日葵の種をお墓の隣に埋める波音

 目を瞑る波音

 目を開ける波音

 一輪の向日葵が咲いている

 風で向日葵が揺れている


波音「どうだ?私が咲かしたのだぞ?」 

字幕「月日が流れ・・・」


 お墓の前に座る波音


波音「奈緒衛、そなたにも飲ませてやろう」


 酒を墓石にかける波音


波音「(酒をかけながら)これこれ、酒をかけたくらいで怒るでない。喧嘩するなと凛が叱りにやってきても知らぬぞ」


 笑っている波音

 酒を飲む波音


波音「最近は緋空周辺の村人たちも、私のことを慕ってくれるようになってのう。武将の時とはまた違うが、悪くない気分だよ。何を思ったか私を村長にしたいらしい・・・いやはや誠に謎であるな。(かなり間を開けて)本当は凛の魂を探しに行きたいが・・・今はそれが出来そうにない・・・残念だ。あの子と再会出来るのもきっと私が死んでからだろうな・・・」


 寂しそうな表情をする波音


波音「私の人生はもう終わりだ。そなたや凛が私に尽くしてくれたように・・・残りの時間は村人たちのために使うことにするよ」


 再び酒を飲む波音

 風で揺れている向日葵を見る波音


波音「私は生まれ変わったら今と全く違う性格になっているかもしれない。正直に打ち明けると少し怖いのだ・・・凛ような愛される者になれればよいが・・・どのような人になるのか心配だ」


 深く息を吸い吐き出す波音


波音「奈緒衛よ、私は役目を果たせたのだろうか?凛とそなたの願いを叶えることが出来たのだろうか?この墓の中から抜け出して新しく生を受けたか?あるいはまだここに留まっておるのか?」


 涙を流す波音


波音「愚か者が・・・このような所に留まるな、早く去れ」


 強い風が吹く

 波音の髪が風でなびく

 向日葵の花びらが一枚飛んでいく

 奈緒衛の墓から白い光の玉のような物がふわふわと浮かび空に飛んで行く

 波音は光の玉が見えていない


波音「奈緒衛・・・心からそなたとの再会を願っておるぞ・・・」


◯603貴志家鳴海の部屋(日替わり/朝)

 ◯435の翌日

 カーテンから日が差し込んでいる

 ベッドで眠っている鳴海

 物の少ない鳴海の部屋

 時刻は六時半

 目覚ましが鳴る

 目覚ましを止め、体を起こす鳴海

 伸びをする鳴海

 立ち上がりカーテンを開ける鳴海

 外はとてもよく晴れている

 

◯604貴志家リビング(朝)

 制服姿で椅子に座ってテレビを見ている鳴海

 時刻は七時半過ぎ

 テレビを消す鳴海

 カバンを持ちリビングの電気を消して家を出る鳴海


◯605波音高校三年三組の教室(朝)

 教室に入る鳴海

 朝のHRの前の時間

 神谷はまだ来ていない

 どんどん教室に入ってくる生徒たち

 教室にいる生徒たちは周りにいる人と喋ったり、立ち歩いたり、スマホを見たりしている

 菜摘、明日香、嶺二、雪音が教室の窓際で喋っている

 明日香が鳴海のことに気が付く


明日香「珍しく来るの遅いじゃん」

鳴海「別に遅くねえけどな」


 鳴海の声に反応し、振り返って鳴海のことを見る菜摘

 目と目が合う鳴海と菜摘

 少しの沈黙が流れる

 鳴海と菜摘のことを交互に見る明日香、嶺二、雪音


鳴海「菜摘・・・風邪治ったのか?」

 

 頷く菜摘


嶺二「(馬鹿みたいに大きな声で)菜摘ちゃん聞いてよ!!!!昨日鳴海が部活中にさ!!!!!(鳴海の声真似をして)早く菜摘に会いてえ・・・って言ったんだぜ!?!?キモくね!?!?」

鳴海「(顔を赤くして嶺二より大きな声で)ば、馬鹿お前余計なことは言うんじゃねえ!!!!!!」

嶺二「余計だとぅ!?俺は鳴海のために言って・・・」


 嶺二の頭を思いっきり引っ叩く明日香


明日香「馬鹿は黙ってて」

嶺二「はい・・・」


 再び沈黙が流れる

 心配そうに鳴海と菜摘の顔を見る三人


鳴海「今の嶺二のはな・・・えっとー・・・会いたった、うん、そう!!会いたかった!!!ノートとか渡したかったし、部活のことで話したいこともあったからさ・・・」


 教室の中にいた生徒たちが鳴海と菜摘の方を見ている

 涙を流す菜摘


菜摘「(涙を流しながら)私も・・・物凄く会いたかった!!」

鳴海「お、おう!!!俺も同じだ!!!!」


 顔が真っ赤になっている鳴海

 教室にいた生徒たちからざわめきの声が上がる

 興奮している嶺二


嶺二「(大きな声で)キタキタキタ超展開!!!!!」

鳴海「(声 モノローグ)ええい!!!!!野次馬なんか知らん!!!!!!もう言ってしまえ俺!!!!!!!」

鳴海「(大きな声で)俺・・・菜摘のことが!!!!!!」


 神谷が教室に入って来る


神谷「さあみんな座れー!!HR始めんぞー!!って・・・鳴海と菜摘は突っ立ってどうした?」


 教卓の前に立ち、鳴海と菜摘のことを見ている神谷

 静かになる教室


雪音「先生、タイミング悪過ぎ・・・」

神谷「えっ?俺なんかした?」


 少しの沈黙が流れる

 俯く鳴海


神谷「すまん鳴海と菜摘、とりあえずHRを始めるから座ってくれ」

 

 涙を拭い頷く菜摘

 深くため息を吐く鳴海


嶺二「(舌打ちをして小さな声で)ここからが面白いのによ・・・」

神谷「舌打ちをするな嶺二」

嶺二「さーせん」

神谷「さあさあ!!みんな座ってくれ!!これじゃあHRが始められないぞ!!!」


 嫌々席に戻って行く生徒たち

 鳴海たちも席に戻ろうとする

 すれ違いざまに鳴海に声をかける菜摘


菜摘「(小さな声で)部活が終わったらどこか行かない?」

鳴海「(大きな声で)よっしゃあどこ行く!?!?」


 鳴海の大きな声にびっくりする生徒たち


神谷「(呆れながら)なるみぃ、話はHRの後でいいだろ?」

鳴海「すんません」

菜摘「(小さな声で)詳しい話はまた後でね」


 席に戻る菜摘

 鳴海の背中を叩く嶺二

 席に戻る鳴海と嶺二


◯606波音高校三年三組の教室(昼)

 昼休みに入る生徒たち

 コンビニのビニール袋を持っている鳴海と嶺二

 菜摘の元に行く二人

 菜摘はノートに印をつけている


鳴海「菜摘、飯行こうぜ」

菜摘「ごめん二人とも、私今から神谷先生のところに行かなきゃ・・・」

鳴海「あーそうか・・・分かった・・・」

菜摘「二人でご飯食べてて」

嶺二「それなら仕方ねえな鳴海」

菜摘「また後でね」


 頷く鳴海

 残念そうな鳴海

 教室を出る鳴海と嶺二


嶺二「元気出せよ、まだ放課後にチャンスはあるぜ」

鳴海「分かってるよ・・・」


◯607波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)

 円の形を作って座っている文芸部員たち

 珍しく全員集合している文芸部員たち

 ボーッとしている鳴海

 

明日香「こうやってみんなが集まるのってすごく久しぶりじゃない?」

雪音「そうだよね、全員が揃ってる日って軽音部のライブを見て以来じゃないかな」

汐莉「(しみじみと)みんな色々ありましたし・・・」

菜摘「長い間休んじゃってみんなごめんね」

明日香「気にしないで、大した活動は出来なかったから」

嶺二「おい!!!大した活動してただろ!!!!」


 肩をすくめる明日香


嶺二「俺たちたくさん活動してたよな鳴海!!」

鳴海「あ、ああ。(少し間を開けて)それなりに・・・してた思う」

菜摘「ありがとう、私の代わりに色々やってくれて」


 再び目と目が合う鳴海と菜摘

 鳴海は照れて顔を逸らす


鳴海「(照れながら)か、感謝されるようなことじゃねえよ・・・」

汐莉「あのー、鳴海先輩?」

鳴海「何だよ」

汐莉「部活動中にマジデレはどうかと・・・」

明日香「汐莉に同意」

雪音「鳴海くん大胆なのに照れるよね」

鳴海「(大きな声で)別にマジデレなんかしてねえから!!!!!それから大胆じゃねえし!!!!!」

嶺二「はいはい!!鳴海がキモいって話は置いといて!!!ここから今後の文芸部の活動についてみんなで議論を交わそう!!!」

鳴海「(小さな声でボソッと)キモいとか言うなよ悲しくなるだろうが」

菜摘「今後の活動って?」

嶺二「菜摘ちゃん!!よくぞ聞いてくれた!!!」

明日香「あーあ・・・これはまた長い話になるやつだ」


◯608通学路(放課後/夕方)

 部活終わり

 生徒たちが帰って行く

 話しながら歩いている鳴海と菜摘


鳴海「どこ行く?」

菜摘「うーん・・・どうしようか・・・」


 考えている二人


鳴海・菜摘「緋空浜!」


 偶然二人の言葉が被る


菜摘「あっ・・ハモったね今」

鳴海「(笑いながら)綺麗にハモったな」


 菜摘も笑う


菜摘「行こっか・・・緋空浜」

鳴海「おう」


 二人は緋空浜を目指して歩き始める


◯609緋空浜(夕方)

 水平線の向こうに綺麗な夕日が見える

 浜辺には学生のカップルや親子などがいる

 夕日が波に反射してキラキラと光っている

 かつて奈緒衛が死んだ場所と同じ場所に立っている鳴海と菜摘


鳴海「綺麗だな・・・」

菜摘「うん、そうだね」


 海を見ている二人


菜摘「ノートとかプリント、本当にありがとう。すごく助かる」

鳴海「気にすんな」

菜摘「鳴海くんと会うの、何百年ぶりな気がするよ」

鳴海「分かるわ、実際は数週間ぶりだけどさ」

菜摘「うん。また会えて嬉しい」


 菜摘の顔を見る鳴海

 鳴海の顔が赤い


鳴海「な、菜摘」

菜摘「(鳴海の顔を見て)何?」

鳴海「(もじもじしながら)お、俺、一度菜摘に電話しただろ?そ、その時に言いたいことがあるって話をしたの覚えてるか?」

菜摘「(真剣な表情で)私、鳴海くんのことが好き」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(めちゃくちゃ大きな声で)えっ!?えぇぇええええええええええええええええ!?!?!?俺から告白する予定だったのにぃ!!!!!!!!!!」


 鳴海を見て笑っている菜摘


菜摘「(笑いながら)ご、ごめんごめん・・・」

鳴海「えぇぇええええええ・・・家で練習してたのに意味ねえ・・・」

菜摘「(笑いながら)れ、練習なんかしたの?」

鳴海「いいだろ練習くらいしたって!!!!本当はめっちゃ格好つけて告るはずだったんだよ!!!!!」

菜摘「残念、こういう時は先手必勝だよ?」

鳴海「(がっくりとうなだれて)勉強になったわ・・・」

菜摘「私さ、言いそびれたくなかったんだよね。ずっと前から・・・いつ告白しようか悩んでてて・・・(笑顔で)だから今日先に言えてスッキリ!」

鳴海「そ、そうなのか・・・(少し間を開けて)い、一応・・・俺からのパターンも言っちゃダメかな?」

菜摘「(前のめりで)聞きたい聞きたい!!!」

鳴海「わ、分かった・・・じゃ、じゃあシンプルに行くぞ・・・」


 頷く菜摘

 夕日と海を背に向かい合っている二人


鳴海「俺は・・・菜摘のことが大好きだ!!学校や部活の以外の時も・・・一緒にいたい!!俺と付き合ってくれ!!!!」


 笑顔になり、嬉しさで涙を流す菜摘


菜摘「(とびきりの笑顔で)はい!!!」


 一瞬だけ菜摘が波音に、鳴海が奈緒衛の姿になる

 鳴海と菜摘はそのことに気がついてない


◯610滅びかけた世界:緋滅びかけた世界:緋空浜(昼過ぎ)

 緋空浜を歩いているナツ、スズ、老人

 水たまり、使い古された兵器、遺体を避けて歩いているナツと老人

 スズはあえてポチャポチャと水たまりを踏んで歩いていく

 浜辺には戦車、重火器、使い古された小型船、空っぽの缶詰、ペットボトル、腐敗し死臭を放っている魚、骨になった遺体がそこら中に転がっている

 途中で木の棒を拾い、死んだ魚を突っついているスズ

 先を進んでいるナツと老人


スズ「あっ、二人とも待ってよ〜!!」

ナツ「早く来なよ」

スズ「今魚が忙しいの!!」

ナツ「遊んでるだけでしょ」

老人「待たないのか?」

ナツ「待たない」


 どんどん置いて行かれるスズ


スズ「もう!!!待ってって言ってるのに〜!!」


 走って二人を追いかけるスズ

 何かに躓いて綺麗に正面から転ぶスズ

 泥まみれになって立ち上がるスズ

 足元に落ちていた本を拾うスズ

 波音物語というタイトルの本

 著者は白瀬波音


スズ「(走りながら)見て見てなっちゃん!!本!!!拾った!!!!」


 振り返るナツと老人


ナツ「(泥まみれになったスズを見て)うわっ!!きたなっ!!!」


 スズを見て笑う老人


スズ「酷いなぁ〜、ただの泥だよ?」

ナツ「その泥が汚い」

老人「海で汚れを落としたらどうだ?」

スズ「えー、めんどーい」


 泥を気にせず歩くスズ


ナツ「いいから泥を落とせ、汚いのダメ」

スズ「私はへーき」

ナツ「私は平気じゃないの」

スズ「もー、なっちゃんはわがままなんだからぁ」


 本をナツに渡しスズは一人海に入る

 本をパラパラとめくるナツ

 ナツは本をポケットの中に入れる

 バシャバシャと海水を浴びて泥を落としているスズ

 海水を飲んでみるスズ

 海水を吐き出すスズ


スズ「しょっぱい!!!!!」

老人「遊んでないで早く行くぞ」

スズ「あいあいさー」


 スズは泥を落とし海から上がる

 スズは走って二人を追いかける

 スズは二人に追いつく

 三人並んで歩き始める

 三人の後ろ姿を波音が見ている

 波音は幽霊のように体が透けている


波音「(声 モノローグ)凛よ、これがそなたの見た未来か?輪廻の果てがこれなのか・・・?私は見届けることしか出来ない・・・どうしようもなく無力で弱い存在だ・・・静かなるこの世の終わり・・・死は愛を食らった」


 スズが後ろを振り返る

 そこには波音の姿はなく、誰もいない


End of the First Section.

暗く重たいSecond Sectionへ続く...


Chapter5 仮題 「神谷」

トラブルに陥った数学教師の話。自殺した生徒の遺書から展開される物語・・・なお時系列的には未来の話。Chapter7と同じ時間軸に起きていること。


Chapter6 仮題 「卒業」

タイトル通り鳴海たちの卒業までの話。時系列的にはChapter4の続きになる。引き継ぎ滅びかけた世界と並行していくストーリー。Chapter4の続きから卒業まで一気に描くため、文章量が半端ない。


Chapter7 仮題 「鳴海と菜摘」

学校を卒業した後の二人と、早乙女家に焦点を当てた話。史上最も切ない展開。時系列的にはChapter5と同じ。


Chapter8 仮題 「雪音と智秋」

一条雪音の裏が分かる話。智秋との友情を描きつつ、彼女の心の苦しみを知る。様々な時間軸から成り立つストーリー。


そして5年後...

苦しみを持ったまま“生き残った”文芸部員たちは再会する。

少しずつ死と終末が近づいている。

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