Chapter7♯18 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
登場人物
貴志 鳴海 19歳男子
Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。
早乙女 菜摘 19歳女子
Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。
貴志 由夏理
鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている
貴志 紘
鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。
早乙女 すみれ 46歳女子
優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。
早乙女 潤 47歳男子
永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。
貴志/神北 風夏 25歳女子
看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。
神北 龍造 25歳男子
風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。
南 汐莉 16歳女子
Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。
一条 雪音 19歳女子
鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。
伊桜 京也 32歳男子
緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。
荻原 早季 15歳(?)女子
どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。
瑠璃
鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。
来栖 真 59歳男子
緋空事務所の社長。
神谷 志郎 44歳男子
Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。
貴志 希海 女子
貴志の名字を持つ謎の人物。
三枝 琶子 女子
“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。
三枝 碧斗 男子
“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。
有馬 千早 女子
ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。
太田 美羽 30代後半女子
緋空事務所で働いている女性社員。
目黒 哲夫 30代後半男子
緋空事務所で働いている男性社員。
一条 佐助 男子
雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。
一条 智秋 25歳女子
雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。
神谷 絵美 30歳女子
神谷の妻、現在妊娠中。
神谷 七海 女子
神谷志郎と神谷絵美の娘。
天城 明日香 19歳女子
鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。
白石 嶺二 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。
三枝 響紀 16歳女子
波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。
永山 詩穂 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。
奥野 真彩 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。
双葉 篤志 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。
井沢 由香
波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。
伊桜 真緒 37歳女子
伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。
伊桜 陽芽乃 13歳女子
礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。
水木 由美 52歳女子
鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。
水木 優我 男子
鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。
鳴海とぶつかった観光客の男 男子
・・・?
少年S 17歳男子
・・・?
サン 女子
・・・?
ミツナ 19歳女子
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X 25歳女子
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Y 25歳男子
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ドクターS 19歳女子
・・・?
シュタイン 23歳男子
・・・?
伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物
リーヴェ 17歳?女子
奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。
メーア 19歳?男子
リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。
バウム 15歳?男子
お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。
盲目の少女 15歳?女子
バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。
トラオリア 12歳?少女
伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。
エルガラ 12歳?男子
伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。
滅びかけた世界
老人 男子
貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。
ナツ 女子
母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。
スズ 女子
ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
柊木 千春 15、6歳女子
元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。
Chapter7♯18 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
◯2157大型車専用の駐車場(日替わり/昼過ぎ)
外は曇っている
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックが大型車専用の駐車場に止まっている
大型車専用の駐車場は広く、鳴海と伊桜が乗っている大きなトラック以外にも数台のトラックが止まっている
鳴海は助手席に座っている
伊桜は運転席に座っている
鳴海は菜摘の手作り弁当を、伊桜は手作りのおにぎりを食べている
菜摘の手作り弁当のメニューは梅ご飯、唐揚げ、卵焼き、きゅうりとプチトマトのサラダ
鳴海「伊桜さん」
伊桜「ああ」
鳴海「皮肉って何だと思いますか?」
伊桜「皮肉は皮肉だ」
少しの沈黙が流れる
伊桜は手作りのおにぎりを口の中に詰め込む
鳴海「こ、答えになってるんすかねそれ」
伊桜は手作りのおにぎりを飲み込む
伊桜「(手作りのおにぎりを飲み込んで)言葉の意味が知りたきゃスマホで調べるなり辞書を引くなりしろ」
鳴海「お、俺は伊桜さんの考えを知りたいんすけど・・・」
伊桜「そんなこと知って何になる」
鳴海「べ、勉強になるっす」
再び沈黙が流れる
伊桜「俺には娘がいると言っただろ」
鳴海「は、はい」
伊桜「娘は今年14になる。可愛くてしょうがない娘だ。(少し間を開けて)俺と嫁さんは、そんな娘のことで時々喧嘩をする。将来に関係することからくだらないことまで、内容はピンキリだが。例えば娘の着る服のことだ、女らしいとか、男らしいとか、露出がどうとか、そういうことでも揉めたりする」
鳴海「そ、そうなんすか」
伊桜「娘は所謂、女の子らしい服ってのを嫌うんだ。でも嫁さんは、娘には最低限女の服を着てもらいたいと思ってる。そんな時俺はふと考えることがあるんだ。もしも突然、娘が男になったらどうするのかと」
少しの沈黙が流れる
伊桜「娘が男になっても、嫁さんは女らしい服を着させたがるのか、それとも男の服を進んで着させるようになるのか。(少し間を開けて)もし男の服を勧めるようになったら、皮肉だろ」
鳴海「は、はあ」
伊桜「俺の話の意味が分かったか?」
鳴海「い、一応は・・・(少し間を開けて)そ、そもそも伊桜さんはどんな服を着て欲しいんです?」
伊桜「俺は服なんて気にせん、娘が好きな物を着れば良い」
再び沈黙が流れる
鳴海「で、でも突然男になるなんてあり得ないと思うんですけど・・・」
伊桜「今の話は例えだ。早く忘れろ」
◯2158帰路(夜)
空は曇っている
一人自宅に向かっている鳴海
鳴海は帰宅途中の波音高校の一年生女子生徒3人とすれ違う
帰宅途中の波音高校の一年生女子生徒3人のうちの1人は、神谷が担任をしている一年六組の生徒、井沢由香
由香は波音高校の一年生女子生徒2人と話をしている
由香「(馬鹿にしたように笑って)本当に飛ぶ降りちゃうとか頭おかしでしょマジで」
波音高校の一年生女子生徒1「や、でもこれで学校休みになんじゃね?」
波音高校の一年生女子生徒2「(笑って)死神様様じゃん、死んだ荻原さんにちょー感謝」
由香「死ぬのって案外簡単で、責任とか皆無なわけなんだから、あとはうちらの学校生活を適度に壊れてくれって感じだよね」
◯2159貴志家リビング(夜)
外は弱い雨が降っている
リビングにいる鳴海と菜摘
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上にはご飯、焼いた鮭、豚汁、水菜のおひたしが置いてある
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
夕飯を食べながら話をしている鳴海と菜摘
菜摘「きょ、今日はお店でナンパされたんだ」
鳴海「(驚いて)な、ナンパだと!?」
菜摘「う、うん」
少しの沈黙が流れる
菜摘「ちゃ、ちゃんと断ったから大丈夫だよ」
鳴海「そ、そうか」
再び沈黙が流れる
菜摘「な、鳴海くんに話すべきだと思ったんだ、か、隠してると思われたら嫌だし・・・」
鳴海「わ、分かってるよ。(少し間を開けて)そ、それにしても今時ファミレスでナンパなんてあるんだな」
菜摘「そ、そうだね、私もびっくりしたよ」
鳴海「(少し笑って)これからはもっと増えるかもしれないぞ」
菜摘「えー・・・」
鳴海「(少し笑いながら)モテやすい職場だって判明したわけだしな、一日一告白はあるかもしれない」
菜摘「鳴海くん」
鳴海「何だ?」
菜摘「私、辞めないよ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「さすがの精神力だな・・・」
菜摘「忍耐には自信があるもん」
鳴海「なら今度食いに行って良いか?」
菜摘「うーん・・・それはちょっとやめて欲しいかも・・・」
鳴海「ちょっと程度なら大丈夫だろ」
菜摘「だ、大丈夫じゃないよ、バイト中に鳴海くんが現れたら全然良くないもん」
鳴海「(残念そうに)じゃあやめとくか・・・」
菜摘「う、うん」
再び沈黙が流れる
菜摘は焼いた鮭とご飯を一口食べる
豚汁を一口飲む鳴海
鳴海「(豚汁を一口飲んで)なあ菜摘」
菜摘「何?」
鳴海「菜摘の中の皮肉って何だと思う?」
菜摘「鳴海くんって本当に頭が良いよね」
少しの沈黙が流れる
菜摘「い、今のが皮肉だよ」
鳴海「つまり・・・俺はどうしようもない馬鹿ってことか・・・」
菜摘「ど、どうしようもなくはないけど、た、たまに少しだけお馬鹿なことをするから・・・」
鳴海は水菜のおひたしを一口食べる
鳴海「(水菜のおひたしを一口食べて)も、もう少し他の例え方はなかったのか」
菜摘「ご、ごめん・・・思いつかなかった・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「つ、作り話で良いなら・・・話すよ」
鳴海「あ、ああ、頼む」
菜摘「昔々・・あるところに女の子がいたの。女の子は優しくて、才能もあったから、将来を有望視されてたんだ。でも彼女は・・・少しだけ・・・頑固なところがあって・・・自分の力というか・・・自分に出来ることを・・・ある人たちのためにしか使おうとしなかったの・・・」
鳴海「ある人たちって?」
菜摘「女の子が・・・役に立ちたいって思っている人たちのことだよ」
◯2160Chapter6◯867の回想/南家リビング(放課後/夕方)
外は弱い雨が降っている
汐莉の家のリビングにいる鳴海と汐莉
テーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている鳴海と汐莉
汐莉は部屋着を着ており、髪はボサボサになっている
テーブルの上には空になったたこ焼きの舟皿が二枚、汐莉が鼻をかんだティッシュのゴミが置いてある
汐莉の目と鼻が赤くなっている
俯いている汐莉
鳴海と汐莉は話をしている
汐莉「(俯いたまま小声で)鳴海くんと菜摘さんが・・・私の親しい人になってくださいよ・・・私を二人の役に立たせてください・・・」
鳴海「み、南は十分役に立ってるだろ・・・」
汐莉「(俯いたまま小声で)もっと役に立ちたいんです・・・」
◯2161回想戻り/貴志家リビング(夜)
外は弱い雨が降っている
リビングにいる鳴海と菜摘
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上にはご飯、焼いた鮭、豚汁、水菜のおひたしが置いてある
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
話をしている鳴海と菜摘
菜摘「女の子は・・・愛する人たちのためになることがしたかったんだ。(少し間を開けて)でも・・・それはどうしても無理なことだった・・・女の子がどれだけ頑張っても・・・役に立ちたいと思ってる人たちには何も出来なかったんだ・・・」
鳴海「ど、どうして何も出来なかったんだよ」
菜摘「(少し寂しそうに)鳴海くんにだって・・・無理なことはあるでしょ・・・?それと同じだよ・・・」
鳴海「そ、そんなの・・・か、可哀想だろ・・・」
菜摘「確かにその女の子は、愛する人たちのためになることは出来なかったけど、そうじゃない人たちの役には立てたんだ。つまり、本来望んでいた形じゃなくても、自分のパフォーマンスが発揮出来たんだよ」
鳴海「そ、それが皮肉なのか?」
菜摘「どうなのかな・・・?本人の受け取り方にもよるけど・・・誰かの役に立てたら嬉しいし、良いことだと思うよ。(少し間を開けて)でもやっぱり・・・その相手が愛する人だったら・・・もっと嬉しいんじゃないかな」
少しの沈黙が流れる
鳴海「今の・・・作り話だろ・・・?」
菜摘「う、うん」
◯2162緋空浜(夜)
Chapter5◯67と同じシーン
雨が降っている
緋空浜の浜辺に一人立っている波音高校の制服姿の汐莉
月が曇に隠れており、浜辺は薄暗くなっている
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690、◯2004のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849、◯1972のかつての緋空浜に比べると汚れている
緋空浜には汐莉以外に人はいない
汐莉は浜辺にしゃがみ、両手で両耳を塞いでいる
汐莉の横には汐莉のカバンが落ちている
泣いている汐莉
汐莉には神谷の声が聞こえている
浜辺には汐莉の涙がポツポツと落ちている
汐莉は泣きながら浜辺にしゃがみ、両手で両耳を押さえて”うるさい”と呟いている
菜摘「(声)でも鳴海くんが言ったように、これは皮肉じゃなくて可哀想な話なのかもしれないね」
汐莉は泣きながら浜辺にしゃがみ、両手で両耳を押さえて”うるさい”と呟き続ける
◯2163貴志家鳴海の自室(深夜)
外は雨が降っている
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主、フレームに入った一枚の写真が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
机の上のフレームに入った一枚の写真には、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている
机の上のフレームに入った一枚の写真は、◯2097で約30年前に潤が披露宴場で由夏理と紘を撮った時の物
ベッドの上で横になっている鳴海
カーテンの隙間から雲に隠れた月の光が差し込んでいる
鳴海「(声 モノローグ)伊桜さんのとは違って菜摘の話は普遍的だ。愛する人の役に立ちたいと思わない人なんていない。だからこそ菜摘の話は説得力があって、たくさんの人に当てはまった。菜摘や俺の役に立ちたいと言う南、響紀と明日香、嶺二と千春だってそうだ。俺が菜摘や母さんに対して抱いている気持ちと何ら変わらない、ごく自然でありふれている。そんなありふれた優しさが、本来出会うはずのない皮肉と遭遇するのか。(少し間を開けて)優しさは日常もろとも切り裂かれ、あまりにも無念な結末が待つ。愛する人の役に立ちたいと望み、それだけは絶対にやめてくれと思う未来もまた、悪魔が用意していることを忘れてはならない」
◯2164緋空銭湯男湯(日替わり/朝)
外は弱い雨が降っている
緋空銭湯の男湯の中にいる鳴海と伊桜
男湯の中には浴槽が5据えあり、座風呂、薬湯の風呂、電気風呂、水風呂、超音波風呂などがある
男湯の中には鏡、シャワー、蛇口がたくさん設置されている
男湯の隅の方には桶と椅子がたくさん置いてある
男湯の壁には富士山が描かれている
男湯の向こうには女湯がある
男湯と女湯の間には仕切りがある
男湯は男子脱衣所と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま男子脱衣所に出れるようになっている
鳴海と伊桜はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている
ゴム手袋をつけてたわしを持っている鳴海と伊桜
男湯の中にはお風呂掃除用の洗剤が2個、大きなデッキブラシが2本置いてある
浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除している鳴海と伊桜
鳴海「(浴槽の中を洗剤をつけたスポンジで掃除しながら 声 モノローグ)例の夢は新婚旅行以来見ていない。おそらく、過去ではまた更に時間が流れているだろう」
◯2165緋空銭湯男子脱衣所(昼前)
外は弱い雨が降っている
緋空銭湯の男子脱衣所にいる鳴海と伊桜
男子脱衣所には中心に番台があり、番台の向こうには女子脱衣所がある
男子脱衣所と女子脱衣所の間には仕切りがある
番台には女将のおばちゃんが座っている
男子脱衣所にはたくさんのロッカーがあり、着替えをしまえるようになっている
男子脱衣所には古いマッサージチェア、体重計、扇風機、数脚のソファ、透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫が置いてある
透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫には缶ジュース、瓶ジュース、缶ビール、瓶ビール、瓶の牛乳などが冷やされている
男子脱衣所は男湯と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま男湯に入れるようになっている
鳴海と伊桜はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている
男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしている鳴海と伊桜
番台に座っている女将のおばちゃんは新聞を読んでいる
鳴海「(男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら 声 モノローグ)母さんと父さんは初子に胸を膨らませ、すみれさんと潤さんはまだ夢を追いかけている。名前の分からないあいつは迷わずに香港に帰れたか」
鳴海は男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら、番台に座って新聞を読んでいる女将のおばちゃんのことを見る
◯2166◯2137の回想/鳴海の夢/旅館遊戯広場(約30年前/夜)
約30年前の旅館の遊戯広場にいるスーツ姿の鳴海と旅館の若女将
旅館の遊戯広場の壁には掛け軸が掛けてあり、掛け軸に貼られた半紙には”遊戯広場”と書かれてある
遊戯広場には使い古された卓球台、古いパチンコ、スロットが数台が置いてある
使い古された卓球台の上にはラケットが4本、ピンポン球が2球置いてある
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
話をしている鳴海と旅館の若女将
旅館の若女将「親戚が海沿いの銭湯を経営しているんだけど、縁があって私が引き継がせてもらうことになってるの、だから無職にはならないわ」
鳴海「海沿いの・・・」
◯2167回想戻り/緋空銭湯男子脱衣所(昼前)
外は雨が降っている
緋空銭湯の男子脱衣所にいる鳴海と伊桜
男子脱衣所には中心に番台があり、番台の向こうには女子脱衣所がある
男子脱衣所と女子脱衣所の間には仕切りがある
番台には女将のおばちゃんが座っている
男子脱衣所にはたくさんのロッカーがあり、着替えをしまえるようになっている
男子脱衣所には古いマッサージチェア、体重計、扇風機、数脚のソファ、透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫が置いてある
透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫には缶ジュース、瓶ジュース、缶ビール、瓶ビール、瓶の牛乳などが冷やされている
男子脱衣所は男湯と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま男湯に入れるようになっている
鳴海と伊桜はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている
男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしている鳴海と伊桜
番台に座っている女将のおばちゃんは新聞を読んでいる
鳴海は男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら、番台に座って新聞を読んでいる女将のおばちゃんのことを見ている
鳴海「(男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら、番台に座って新聞を読んでいる女将のおばちゃんのことを見て 声 モノローグ)非現実的だが・・・あり得なくはないよな・・・」
伊桜「(男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら)よそ見してると怪我するぞ」
男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら、番台に座って新聞を読んでいる女将のおばちゃんのことを見るのをやめる
鳴海「(男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら、番台に座って新聞を読んでいる女将のおばちゃんのことを見るのをやめて)は、はい!!」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(男子脱衣所のロッカーを雑巾掛けしながら 声 モノローグ)この人は本気でロッカーの雑巾掛けで怪我をすると思っているんだろうか」
◯2168貴志家キッチン(夜)
外は弱い雨が降っている
キッチンにいる鳴海と菜摘
キッチンの調理場にはキャベツ、豚肉、ニンニク、バターが置いてある
鳴海はまな板の上で包丁を使ってキャベツを千切りにしている
ご飯を炒めている菜摘
夕飯を作りながら話をしている鳴海と菜摘
鳴海「(まな板の上で包丁を使ってキャベツを千切りにしながら菜摘と話をして 声 モノローグ)菜摘は俺の家、病院、ファミレスの三つを行き来している」
◯2169早乙女家に向かう道中(夜)
弱い雨が降っている
菜摘を家に送っている鳴海
鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている
傘をさしている鳴海と菜摘
鳴海と菜摘は楽しそうに話をしている
鳴海「(菜摘と楽しそうに話をしながら 声 モノローグ)新しい生活を始めることが出来て嬉しいと菜摘は笑顔で言っていた。そんな笑顔をされると、強引に心配するなと言われてる気がしてならない。(少し間を開けて)おそらく実際に、菜摘は心配されたくないんだろう」
◯2170貴志家鳴海の自室(深夜)
外は弱い雨が降っている
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主、フレームに入った一枚の写真が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
机の上のフレームに入った一枚の写真には、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている
机の上のフレームに入った一枚の写真は、◯2097で約30年前に潤が披露宴場で由夏理と紘を撮った時の物
ベッドの上で横になっている鳴海
カーテンの隙間から雲に隠れた月の光が差し込んでいる
鳴海「(声 モノローグ)俺自身、菜摘のことを心配してばかりなのは良い気持ちじゃなかった」
◯2171ファミレス(日替わり/昼前)
外は曇っている
ファミレスにいる菜摘
ファミレスにはお年寄りの客がたくさんいる
菜摘はファミレスの制服を着て、レジ打ちをしている
レジにはたくさんのお年寄りの客が並んでいる
間違えないように慎重にレジを打っている菜摘
鳴海「(声 モノローグ)俺が心配したら、新しい生活に慣れようとしている菜摘の努力まで一気に否定しまうかもしれない」
菜摘はお釣りとレシートをお年寄りの客に差し出す
◯2172ファミレス更衣室(昼過ぎ)
外は曇っている
ファミレスの更衣室に一人いる菜摘
ファミレスの更衣室は狭く、服屋にあるような試着室になっている
菜摘はファミレスの制服から私服に着替えている
鳴海「(声 モノローグ)菜摘は弱音を吐かずに、頑張っているんだ。だったら俺は、そんな菜摘を受け入れてやるべきだろう」
菜摘は下着姿になっている
菜摘の体には心電図検査の電極を付けた跡がたくさん残っている
鳴海「(声 モノローグ)でも・・・それが俺にとって一番難しいことだった」
◯2173早乙女家に向かう道中(夜)
外は曇っている
菜摘を家に送っている鳴海
鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている
菜摘と話をしている鳴海
鳴海「友達とか、出来たか?」
菜摘「鳴海くん」
鳴海「な、何だ?」
菜摘「ファミレスのバイトだってお仕事なんだから、友達気分で接したらダメだよ」
鳴海「そ、そうか・・・じゃ、じゃあ同僚・・・?とはどんな感じなんだ・・・?」
菜摘「ど、同僚よりもバイト仲間って言葉が適切なんじゃないかな」
鳴海「バイト仲間か・・・仲間って聞くとどうしても文芸部と軽音部のことを思い出しちまうな・・・」
菜摘「そうだね」
鳴海「それで・・・新しい仲間とは仲良くやれそうか?」
菜摘「ひ、昼間は歳上の人が多いから・・・文芸部みたいな感じにはならないと思うけど・・・で、でも頑張るよ私、まだピカピカの新人だもん」
少しの沈黙が流れる
鳴海「お、俺は・・・」
菜摘「ん・・・?」
鳴海「い、いや・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「バ、バイト代で何か買ったりしたか?」
菜摘「えーっと・・・まずはスマホの支払いをしたよ」
鳴海「買い替えたんだな」
菜摘「ううん、私が払ったのは月々のスマホ代。だから買い替えたわけじゃないよ」
鳴海「せ、せっかく頑張ったのにそんなことに金を使ったのか・・・」
菜摘「だ、だって今まではお母さんとお父さんが払ってくれてたんだもん」
鳴海「お、親孝行をしたってわけだな・・・」
菜摘「親孝行じゃなくて当たり前のことだよ鳴海くん」
鳴海「す、スマホ代以外に使いたい物はないのか?」
菜摘「うーん・・・お家の電気代と・・・水道代と・・・それから私の医療費と・・・」
鳴海「せ、生活費ばっかりだな・・・」
菜摘「残った分はお金は鳴海くんとの人生のために貯金する予定だよ
鳴海「そ、そうか。ちょ、貯金は大事だもんな」
菜摘「うん、お金はあるに越したことないし、遊ぶのにだって必要だから・・・」
鳴海「か、金を貯めたら車でも買うか?」
菜摘「えー・・・」
鳴海「車があればどこでも行き放題だぞ」
菜摘「だったら私、プライベートジェット機が欲しい」
少しの沈黙が流れる
菜摘「ぼ、ボケだよ鳴海くん」
鳴海「い、一瞬本気で言ってるのかと・・・」
菜摘「わ、私、飛行機のエコノミークラスで大丈夫だもん」
鳴海「え、エコノミーは墜落する恐れがあるぞ」
菜摘「墜落する恐れがあるのはどのクラスでも変わらなくない・・・?」
鳴海「わ、分からないだろ、ファーストクラスの奴らを助けるためにエコノミーが犠牲になるかもしれないぞ」
再び沈黙が流れる
鳴海「ぶ、ブラックジョークだから本気にしないでくれ菜摘」
菜摘「わ、分かり辛いよ!!」
鳴海「す、すまん・・・(少し間を開けて)や、やっぱり車が一番だな」
菜摘「鳴海くん、車の免許って持ってないよね?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「きょ、教習所に通えば良いだけだろ」
菜摘「通う予定はあるの?」
鳴海「い、今のところはないが・・・」
菜摘「車は要らないと思うよ鳴海くん、電車でも移動出来るんだし」
鳴海「な、なら金は何に使うんだ?」
菜摘「旅行とか、ご飯とか」
鳴海「旅行だったら車があった方が便利だぞ菜摘」
菜摘「エジプトには水陸両用車でも行けないと思うよ」
鳴海「まだエジプトに憧れていたのか・・・」
菜摘「だってスフィンクスとツタンカーメンがいるんだもん」
鳴海「特に具体的な金額は知らないが、エジプトは行くまでにめちゃくちゃ金がかかりそうだ」
菜摘「遠いもんね」
鳴海「最初は近場のアジア圏内で体を鳴らした方が良いんじゃないか?」
菜摘「それならご飯が美味しくて、その国ならではの観光地があるところが良いな」
鳴海「一つオススメの国があるぞ」
菜摘「えっ?どこ?」
鳴海「独自の文化が発達していて、飯も美味くて、歴史を感じさせる建造物が残ってる国でさ・・・」
菜摘「どこなの?」
鳴海「日本って言うんだが・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん」
鳴海「な、何だよ」
菜摘「去年も似たようなこと言ってたよね、海外よりも日本だって」
鳴海「い、良いだろ別に!!」
菜摘「外国には空飛んで行くんだよ」
鳴海「だ、だから何だ」
菜摘「楽しそうだって思わない・・・?」
鳴海「お、思わないことはないが・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「このままじゃ貯金は週刊書道列伝に使われちゃうよ」
鳴海「しゅ、週刊何だって?」
菜摘「週刊書道列伝」
鳴海「な、何だそれは・・・というか何で貯金を切り崩してまで週刊誌を買おうとするんだよ・・・」
菜摘「だって面白そうなんだもん」
鳴海「面白そうってことはまだ一度も読んでないのか」
菜摘「うん」
再び沈黙が流れる
鳴海「だ、だったらバイクに金を・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)パイクじゃエジプトは行けないよ」
鳴海「え、エジプト以外の場所に連れて行ってやるからさ」
菜摘「でも危なくない?」
鳴海「何が危ないんだ?」
菜摘「じ、事故とか・・・」
鳴海「飛行機よりは安全だ」
菜摘「そ、そうかな・・・」
◯2174貴志家鳴海の自室(深夜)
外は曇っている
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主、フレームに入った一枚の写真が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
机の上のフレームに入った一枚の写真には、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている
机の上のフレームに入った一枚の写真は、◯2097で約30年前に潤が披露宴場で由夏理と紘を撮った時の物
ベッドの上で横になっている鳴海
カーテンの隙間から雲に隠れた月の光が差し込んでいる
鳴海「(声 モノローグ)俺は菜摘のバイトのことをちゃんと受け入れずに、菜摘とたわいない話を続けた」
◯2175緋空海鮮市場(日替わり/朝)
外は快晴
緋空海鮮市場にいる鳴海と伊桜
緋空海鮮市場の中は広く、左右至る所でたくさんの魚介類が売られている問屋がある
仕入れに来たたくさんの人たちが緋空海鮮市場の問屋で売られている魚介類を見ている
緋空海鮮市場の中を歩いている鳴海と伊桜
鳴海「(声 モノローグ)菜摘が俺に気を使って、わざとそういう話を振ってくれているのかもしれない」
◯2176ファミレス(昼前)
ファミレスにいる菜摘
ファミレスにはお年寄りの客がたくさんいる
菜摘はファミレスの制服を着て、お年寄りの客をテーブルに案内している
鳴海「(声 モノローグ)俺も菜摘も、お互い毎日疲れていたが、大切にする時間は同じだ」
◯2177配達先に向かう道中(昼)
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックが配達先に向かっている
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックは一般道を走っている
鳴海は助手席に座っている
伊桜は運転席に座り、運転をしている
鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを持っている
配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ている鳴海
鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ながら伊桜と話をしている
鳴海「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ながら伊桜と話をして 声 モノローグ)学生生活とはまた違って意味で、俺たちの日々の流れは早くなった」
◯2178ファミレス(昼過ぎ)
ファミレスにいる菜摘
ファミレスにはお年寄りの客が数人いる
菜摘はファミレスの制服を着て、トレーに乗ったチキンステーキ、ライス、フライドポテトを運んでいる
鳴海「(声 モノローグ)俺と菜摘は・・・文芸部にいた頃のように何を作ったりしているわけじゃない」
◯2179法咲定食屋(昼過ぎ)
法咲定食屋のキッチンにいる鳴海、伊桜、法咲定食屋の料理長
法咲定食屋は広く、数人の客が定食を食べている
法咲定食屋のキッチンには発泡スチロールの冷凍箱が四箱置いてある
四箱の発泡スチロールの冷凍箱の中には冷凍されたアジ、シラス、ワカサギが入っている
法咲定食屋の料理長は四箱の発泡スチロールの冷凍箱の中身と納品書を確認しながら見ている
鳴海「(声 モノローグ)生産性があると信じて決められたことをこなし、家に帰る」
◯2180ファミレス(夕方)
夕日が沈みかけている
ファミレスには学校帰りの学生や、仕事途中のサラリーマンやOLなどたくさんの客がいる
菜摘はファミレスの制服を着て、皿とコップを乗せたトレーを運んでいる
鳴海「(声 モノローグ)それだけで幸せは得られた」
◯2181緋空浜/帰路(夜)
帰り道、緋空浜の浜辺を歩いている鳴海
月の光が波に反射し、キラキラと光っている
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690、◯2004のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849、◯1972のかつての緋空浜に比べると汚れている
緋空浜には鳴海以外にも、釣りやウォーキングをしている人、浜辺で遊んでいる学生などたくさんの人がいる
鳴海「(声 モノローグ)大人になるっていうのは、そういうことなんじゃないか」
◯2182神谷家志郎の自室(夜)
Chapter5◯86のシーン
自室にいる神谷
机に向かって椅子に座っている神谷
机の上には缶ビールとパソコンが置いてある
神谷の部屋の壁には早季の遺書と、ズジスワフ・ベクシンスキーが描いた"KO"という絵のコピーが貼られてある
早季の遺書には赤い字で"子供たちに教えて”と書かれてある
老眼鏡をかけてパソコンを見ている神谷
神谷はパソコンで緋空寺の記事を見ている
緋空寺の記事には緋空寺の写真が載っている
記事に載っている緋空寺は人の手入れが全くされていない
記事に載っている緋空寺の屋根の一部分は壊れている
記事に載っている緋空寺は雑草が生い茂り、かつて舗装されていたであろう道は砂利で荒れ果てている
記事に載っている緋空寺の賽銭箱はひっくり返っている
鳴海「(声 モノローグ)みんな当たり前の幸せを手にするために、当たり前のことをしているんじゃないのか?」
◯2183南家汐莉の自室(夜)
自室にいる汐莉
汐莉はベッドの上で横になっている
イヤホンをつけ、スマホでPAMELAHの”SPIRIT”を聴いている汐莉
鳴海「(声 モノローグ)きっと菜摘が目指してるのは普通の幸せだ」
◯2184早乙女家に向かう道中(夜)
菜摘を家に送っている鳴海
鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている
楽しそうに話をしている鳴海と菜摘
鳴海「(菜摘と楽しそうに話をしながら 声 モノローグ)だからこそ・・・俺は頑張っている菜摘を・・・いや、頑張っている俺たちを・・・お互いに支え合わなくはならない・・・(少し間を開けて)そ、それで・・・ゆくゆくは結婚も・・・」
菜摘「鳴海くん?なんか変な顔をしてるよ」
鳴海「へ、変な顔って?」
菜摘「真剣なような、ふざけるような顔だったかな」
鳴海「ど、どっちなんだ」
菜摘「わ、私に聞かれても分からないよ、な、鳴海くんの顔なのに」
鳴海「お、俺は元々真剣なようでふざけてる顔立ちなんだろ」
菜摘「つまりふざけてるってこと・・・?」
鳴海「い、いや、本人からすれば至って真面目なんだぞ」
菜摘「そ、そうなんだ・・・じゃあそんな真面目にふざけた顔をしながら鳴海くんは何を考えてたの?」
鳴海「そ、それはだな・・・」
菜摘「うん」
少しの沈黙が流れる
菜摘「も、もしかして言えないようなことを考えてた・・・?」
鳴海「い、言えなくはないぞ」
菜摘「な、ならどうして黙ってるの?」
鳴海「黙ってる方が良いと思ったんだ」
菜摘「あ、アダルトなことだから・・・?」
鳴海「ああ・・・って違うぞ!!」
菜摘「そ、そうなの・・・?」
鳴海「ち、違うから安心しろ」
菜摘「よ、良かった・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「け、結局どんなことを考えてたの?」
鳴海「ま、まああれだ・・・け・・・けっ・・・けっ・・・けっ・・・」
菜摘「決闘・・・?」
鳴海「(大きな声で)ち、ちげえよ!!!!」
菜摘「じゃ、じゃあ・・・決戦・・・?」
鳴海「俺を戦わせたいのか・・・?」
菜摘「わ、分かったよ鳴海くん、決起集会でしょ?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「け、結婚だ・・・」
菜摘「そ、そっか・・・け、決闘か決戦か決起集会かと思ったよ」
鳴海「決闘について考えてるとか意味不明だろ・・・」
菜摘「そ、それはそうだけど・・・で、でも鳴海くんのことだから、男には引き下がれない戦いがあるんだって言って乱闘を始めそうだし・・・」
鳴海「とんだ偏見を持たれてるようだな俺は・・・」
菜摘「ご、ごめん・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「け、結婚がどうしたの・・・?」
鳴海「じ、時期を見極めてしたいなって考えてただけだ」
菜摘「じ、時期って?」
鳴海「それは・・・そ、その時が来ないとまだ分からないが・・・し、心配はしないでくれ菜摘。すみれさんと潤さんには話をつけるからさ」
菜摘「う、うん。お、お母さんも前に言っていたよ、時期が大事だって」
鳴海「そ、そうだろ、た、タイミングを慎重に測ってだな・・・」
菜摘「わ、私、待ってる」
鳴海「え・・・?」
菜摘「な、鳴海くんがタイミングを掴むのを・・・ま、待ってるよ」
鳴海「お、おう、な、長くはかけないから待っててくれ菜摘」
菜摘「う、うん!!」
◯2185◯1797の回想/貴志家玄関(約十数年前/夕方)
◯1797回想/貴志家玄関(約十数年前/夕方)
夕日が沈みかけている
玄関にいる2歳頃の鳴海、8歳頃の風夏、30歳頃の由夏理
2歳頃の鳴海は8歳頃の風夏と手を繋いでいる
2歳頃の鳴海と8歳頃の風夏は由夏理のことを見送りに来ている
由夏理は濃い化粧をしている
靴を履き終える由夏理
由夏理「お留守番、出来るよね?風夏」
風夏「(2歳頃の鳴海と手を繋いだまま)パパは?」
由夏理「パパはもうすぐ帰って来ると思うからさ、鳴海と一緒に待っててあげて」
8歳頃の風夏は2歳頃の鳴海と手を繋いだまま頷く
由夏理「二人とも、良い子にしてたら今度ママがおもちゃを買って来るからね?」
◯2186回想戻り/貴志家鳴海の自室(深夜)
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主、フレームに入った一枚の写真が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
机の上のフレームに入った一枚の写真には、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている
机の上のフレームに入った一枚の写真は、◯2097で約30年前に潤が披露宴場で由夏理と紘を撮った時の物
ベッドの上で横になっている鳴海
カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる
鳴海「(声 モノローグ)俺は昔から待つのが嫌いだった。親父は仕事で数日帰って来ないことはざらだ、そんな時、俺と姉貴と・・・母さんは家で留守番をさせられた。親父が仕事に行った日や・・・その翌日は・・・母さんは俺と姉貴の面倒を見てくれる。得意の手品をしたり、子供が喜ぶ偽物の魔法をニコニコしながら披露してくれたが・・・ああいう性格の人だ・・・親父の留守が二日、三日と続けば、母さんもどこかに出かけてしまった。出かけるたびに母さんは、待っててと言ったわけだ。子供を置き去りにしたことで親父は激怒し、喧嘩が始まる。母さんは泣き出し、親父は母さんの涙を見ると口ごもった。後日、俺と姉貴の手元にはクソみたいなおもちゃが、季節外れのサンタことユカリーニから届けられる。(少し間を開けて)だから俺は、待たされるくらいなら自分で行動をするようになったんだ。その自発性のようなものが、明日香からすればただの無鉄砲の馬鹿に見えたんだろう」
鳴海はため息を吐き出す
鳴海「(ため息を吐き出して 声 モノローグ)そして同じように俺が嫌うのは、人を待たすことだ。待たせる前に自分でなんとかしようと思って動くと、大体はやらかして、明日香が怒った」
鳴海は両目を瞑る
鳴海「(両目を瞑って)タイミングか・・・大事だよな・・・」
◯2187緋空事務所(日替わり/昼)
外は曇っている
緋空事務所の中にいる鳴海
緋空事務所の中には伊桜、来栖、太田を含む数人の社員がおり、それぞれ机に向かって椅子に座り、談笑しながら昼食を食べている
緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある
緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある
緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある
緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある
自分の席で昼食を食べている鳴海
伊桜は昼食を食べ終えており、自分の席でパソコンに向かってタイピングをしている
伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている
伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある
鳴海の席は伊桜の席の隣
鳴海は菜摘の手作り弁当、伊桜は手作りのおにぎり、来栖はコンビニの弁当、太田はコンビニのサンドイッチを食べている
菜摘の手作り弁当のメニューはご飯、鶏肉の照り焼き、ポテサラ、ゆで卵
鳴海「(昼食を食べながら 声 モノローグ)それからしばらくの間は嘘のように平穏な日々が続いた」
◯2188波空スーパー(夕方)
外は曇っている
波空スーパーの中にいる鳴海と伊桜
波空スーパーの中は広く、たくさんの食材、飲料水、生活用品などが棚に陳列されている
波空スーパーの中にはたくさんの主婦の客がいる
鳴海と伊桜は波空スーパーの店員と同じ服を着ている
メロンの品出しをしている鳴海と伊桜
鳴海は伊桜がいる波空スーパーは、◯1949の紘が働き、Chapter6◯203で滅びかけた世界のナツ、スズ、老人が訪れたスーパーと同じ店
鳴海と伊桜の横にはメロンの入った段ボール箱と台車が置いてある
メロンの品出しをしている鳴海と伊桜
鳴海「(メロンの品出しをしながら 声 モノローグ)夢も、引越しの準備も、墓参りも、結婚式もない、静かな毎日だ」
鳴海と伊桜は黙々とメロンの品出しを続ける
鳴海「(メロンの品出しをしながら 声 モノローグ)だが何かがおかしい」
◯2189波音高校二年二組の教室/軽音部二年の部室(放課後/夕方)
外は曇っている
波音高校の軽音部の部室にいる響紀、詩穂、真彩
軽音部の部室には響紀のギターと小さな電子ピアノ、詩穂のベース、真彩のドラムが置いてある
校庭では野球部が練習している
校庭で練習している野球部の中には細田がいる
響紀と真彩は話をしている
野球部の練習を見ている詩穂
真彩は響紀と話をしながらスマホで汐莉に電話をかけている
鳴海「(声 モノローグ)理解を超えた嫌な感じがする」
真彩は響紀と話をしながらスマホで汐莉に電話をかけ続けるが、汐莉に電話は繋がらない
鳴海「(声 モノローグ)まるで環境音すらかき消されてるような空気感だ」
◯2190波空スーパー(夕方)
外は曇っている
波空スーパーの中にいる鳴海と伊桜
波空スーパーの中は広く、たくさんの食材、飲料水、生活用品などが棚に陳列されている
波空スーパーの中にはたくさんの主婦の客がいる
鳴海と伊桜は波空スーパーの店員と同じ服を着ている
メロンの品出しをしている鳴海と伊桜
鳴海は伊桜がいる波空スーパーは、◯1949の紘が働き、Chapter6◯203で滅びかけた世界のナツ、スズ、老人が訪れたスーパーと同じ店
鳴海と伊桜の横にはメロンの入った段ボール箱と台車が置いてある
鳴海と伊桜はメロンの品出しをしている
少しの沈黙が流れる
メロンの品出しをやめる鳴海
鳴海「(メロンの品出しをやめて)伊桜さん、このメロンに限らずですけど、中身が腐ってるって可能性はないんすか?」
伊桜「(メロンの品出しをしながら)悪くなってる物は既に農家や業者が弾いてる」
鳴海「万が一、見た目が綺麗で中身が腐ってるやつが紛れてたらどうするんです?」
伊桜「(メロンの品出しをしながら)お客様がいる中でそんな話をするな」
再び沈黙が流れる
伊桜「(メロンの品出しをしながら)サボらずに手を動かせ」
少しの沈黙が流れる
鳴海はメロンの入った段ボール箱からメロンを一個に手に取る
メロンを見る鳴海
鳴海が見ているメロンは綺麗な状態
少しの間メロンを見続ける鳴海
鳴海はメロンを見るのをやめる
メロンを棚に置く鳴海
◯2191緋空浜/緋空事務所に向かう道中(夕方)
空は曇っている
緋空浜の浜辺を歩いている鳴海と伊桜
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690、◯2004のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849、◯1972のかつての緋空浜に比べると汚れている
緋空浜には鳴海と伊桜以外にも、釣りやウォーキングをしている人、浜辺で遊んでいる学生などたくさんの人がいる
緋空事務所に向かっている鳴海と伊桜
伊桜「混沌だ」
鳴海「えっ?」
伊桜「業者や農家の手を逃れて、客の家に渡った腐ったメロンがあるんだとしたら、それは混沌だ」
少しの沈黙が流れる
伊桜「俺たちの中にも混沌は潜んでる。そいつは普通の人間と同じ容姿をしてるから、混沌だと気付かれない。そしてあの手この手で人生や世界をおかしくする」
鳴海「人生や世界を・・・ですか」
伊桜「世界をおかしくするのは独裁者、有権者、貧乏で失うことを恐れない奴らだ。個人の人生の場合は違う、もっと小さい存在に操られて、取り返しのつかないことになるんだ。(少し間を開けて)万が一、そんなメロンが誰かの手に渡れば・・・」
鳴海「わ、渡れば何です?」
再び沈黙が流れる
伊桜「世界には命を犠牲にしてでも、平和を守ろうしてくれる人がいる。そういう連中に祈れ、混沌に遭遇させないでくれとな」
鳴海「い、伊桜さんには娘さんがいるんですよね?そ、それなのに祈るだけしか対処方法を知らないんすか?」
伊桜「そんな状況には滅多にならないだろ」
少しの沈黙が流れる
伊桜「戦時中、俺の曾祖父さんは硫黄島でアメリカ兵に捕らえられた」
◯2192回想/硫黄島/戦場(約70年前/昼)
空は曇っている
硫黄島の戦場にいる20歳頃の伊桜の曾祖父
硫黄島の戦場にはたくさんの日本兵の死体が転がっている
日本兵の死体たちは損壊が激しく、手足がなくなっていたり、体が骨が突き出たまま死んでいる
硫黄島の戦場には火薬と血煙が舞っている
伊桜の曾祖父はたくさんのアメリカ兵たちに囲まれている
伊桜の曾祖父は額から血を流している
硫黄島からは綺麗な海が見える
海にはたくさんのアメリカの巨大な戦艦が停泊している
伊桜「(声)武器もなく、無条件で降伏するしかない。でも降伏したからと言って、命が助かるか?それは分からない。聞いた話によれば、周りの仲間たちはみんな自決したそうだ」
伊桜の曾祖父はたくさんのアメリカ兵の奥にある海を見る
伊桜「(声)アメリカ兵に囲まれてる中、曾祖父さんは殺さないでくれと祈ったらしい。母親か、妻か、子供たちか、神や天使にか、奇跡にかは知らんが、とにかく何かに祈ったことは確かだ」
伊桜の曾祖父は変わらずたくさんのアメリカ兵の奥にある海を見ている
伊桜「(声)どうやったのかは分からないが、俺の曾祖父さんは硫黄島で生き残った1000人のうちの1人だった」
◯2193回想/緋空近くの一般道(約30年前/昼)
空は曇っている
緋空浜近くの一般道を歩いている80歳頃の伊桜の曾祖父
伊桜の曾祖父の正面から、◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男が歩いて来る
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男は、◯2156で瑠璃とぶつかった男
伊桜の曾祖父と、◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男がぶつかる
伊桜「(声)俺が3つの時に、曾祖父さんは死んだ」
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男は伊桜の曾祖父とぶつかり、逆上する
伊桜「(声)借金を溜め込んだチンピラに殺された」
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男はポケットから折り畳みナイフを取り出し、ナイフを広げる
伊桜の曾祖父の腹に折り畳みナイフを突き刺す◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男は伊桜の曾祖父の腹に突き刺した折り畳みナイフを引き抜く
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男が伊桜の曾祖父の腹に突き刺した折り畳みナイフを引き抜くと、周囲に血が飛び散る
伊桜の曾祖父の腹に連続で折り畳みナイフを突き刺す◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男
その場に倒れ込む伊桜の曾祖父
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男は倒れ込んでいる伊桜の曾祖父のことを無視し、その場から離れて行く
その場に倒れ込んでいる伊桜の曾祖父の腹からは、大量の血が噴き出ている
伊桜「(声)俺は今でも思うことがある。曾祖父さんはチンピラを前にして、アメリカ兵の時のように殺さないでくれと祈ったのかと」
伊桜の曾祖父は腹から大量の血を噴き出しながら死んでいる
◯2194回想戻り/緋空浜/緋空事務所に向かう道中(夕方)
空は曇っている
緋空浜の浜辺を歩いている鳴海と伊桜
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690、◯2004のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849、◯1972のかつての緋空浜に比べると汚れている
緋空浜には鳴海と伊桜以外にも、釣りやウォーキングをしている人、浜辺で遊んでいる学生などたくさんの人がいる
緋空事務所に向かっている鳴海と伊桜
話をしている鳴海と伊桜
伊桜「これは皮肉な話だ」
鳴海「い、伊桜さんの曾祖父さんを殺した奴が混沌ということですか?」
伊桜「そんなことは誰にも分からん。ただ単に運が悪かったということもある」
少しの沈黙が流れる
伊桜「この間、波高で屋上から生徒が飛び降りたらしい。知ってたか?」
鳴海「う、噂は少し聞きましたけど・・・」
伊桜「その子の死因は何だ」
鳴海「そ、それは・・・飛び降りたからじゃ・・・」
伊桜「お前には飛び降りる原因が混沌じゃないと分かるのか」
再び沈黙が流れる
伊桜「どうなんだ貴志」
鳴海「わ、分かりません・・・」
伊桜「俺も分からない。分からないから、混沌を恐れる人がいるんだ」
◯2195早乙女家に向かう道中(夜)
空は曇っている
菜摘を家に送っている鳴海
鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
無言のまま歩いている鳴海と菜摘
菜摘「今日は・・・静かだね鳴海くん」
鳴海「あ、悪い・・・」
菜摘「また・・・考えごと?」
鳴海「まあ、そんなところだ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「明日楽しみだね」
鳴海「明日?何かあるのか?」
菜摘「ご飯だよ」
鳴海「何を作るのか決めてるんだな」
再び沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん・・・」
鳴海「ど、どうかしたのか」
菜摘「明日は風夏さんと龍ちゃんの新居にお呼ばれしてるんだよ」
鳴海「あ、姉貴の家に?いつそんな話が決まったんだ?」
菜摘「えーっと・・・この前?」
鳴海「こ、この前っていつだよ」
菜摘「先週かな?」
鳴海「せ、先週は結婚式だろ」
菜摘「そうだっけ・・・?」
鳴海「も、もう忘れたのか?」
菜摘「お、覚えてるよ!!楽しかったもん!!な、鳴海くんがお母さんみたいに大道芸を披露をしてくれたし」
鳴海「俺の母親の方が芸達者だけどな・・・」
菜摘「鳴海くんのお母さんはユカリーニだもんね」
鳴海「小っ恥ずかしいからやめてくれ」
菜摘「えー・・・私はそういうのも良いとおも・・・」
鳴海は立ち止まる
鳴海「(立ち止まって菜摘の話を遮り)何で菜摘が知ってるんだ?」
菜摘「えっ?知ってるって何が?」
菜摘は立ち止まる
少しの沈黙が流れる
鳴海「俺は話してないだろ」
菜摘「な、何のこと?」
鳴海「ユカリーニの話も、大道芸のことも菜摘には言ってないはずだ」
再び沈黙が流れる
菜摘「お母さんから聞いたんだよ、私のお母さんと鳴海くんのお母さんは仲が良かったから、それで聞いたんだ」
鳴海「すみれさんから?」
菜摘「うん」
菜摘は歩き始める
少しの沈黙が流れる
振り返る菜摘
菜摘「(振り返って)どうかしたの?鳴海くん」
鳴海には菜摘の姿が一瞬、由夏理と重なって見える
再び沈黙が流れる
鳴海「こ、混沌ってあると思うか・・・?」
菜摘「混沌が何なのかは分からないけど・・・私が信じるのは奇跡だよ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん・・・大丈夫・・・?」
鳴海「あ、ああ・・・」
鳴海は歩き始める
鳴海に合わせて歩き始める菜摘
◯2196貴志家鳴海の自室(深夜)
外は曇っている
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主、フレームに入った一枚の写真が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
机の上のフレームに入った一枚の写真には、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている
机の上のフレームに入った一枚の写真は、◯2097で約30年前に潤が披露宴場で由夏理と紘を撮った時の物
ベッドの上で横になっている鳴海
カーテンの隙間から雲に隠れた月の光が差し込んでいる
鳴海「(声 モノローグ)気付いていないだけで、世界はもう内側から腐り始めているのかもしれない。(少し間を開けて)俺は数多くの目に見えない脅威から、菜摘を守ろうとしていた」