Chapter7♯17 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
登場人物
貴志 鳴海 19歳男子
Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。
早乙女 菜摘 19歳女子
Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。
貴志 由夏理
鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている
貴志 紘
鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。
早乙女 すみれ 46歳女子
優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。
早乙女 潤 47歳男子
永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。
貴志/神北 風夏 25歳女子
看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。
神北 龍造 25歳男子
風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。
南 汐莉 16歳女子
Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。
一条 雪音 19歳女子
鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。
伊桜 京也 32歳男子
緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。
荻原 早季 15歳(?)女子
どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。
瑠璃
鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。
来栖 真 59歳男子
緋空事務所の社長。
神谷 志郎 44歳男子
Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。
貴志 希海 女子
貴志の名字を持つ謎の人物。
三枝 琶子 女子
“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。
三枝 碧斗 男子
“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。
有馬 千早 女子
ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。
太田 美羽 30代後半女子
緋空事務所で働いている女性社員。
目黒 哲夫 30代後半男子
緋空事務所で働いている男性社員。
一条 佐助 男子
雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。
一条 智秋 25歳女子
雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。
神谷 絵美 30歳女子
神谷の妻、現在妊娠中。
神谷 七海 女子
神谷志郎と神谷絵美の娘。
天城 明日香 19歳女子
鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。
白石 嶺二 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。
三枝 響紀 16歳女子
波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。
永山 詩穂 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。
奥野 真彩 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。
双葉 篤志 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。
井沢 由香
波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。
伊桜 真緒 37歳女子
伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。
伊桜 陽芽乃 13歳女子
礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。
水木 由美 52歳女子
鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。
水木 優我 男子
鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。
鳴海とぶつかった観光客の男 男子
・・・?
少年S 17歳男子
・・・?
サン 女子
・・・?
ミツナ 19歳女子
・・・?
X 25歳女子
・・・?
Y 25歳男子
・・・?
ドクターS 19歳女子
・・・?
シュタイン 23歳男子
・・・?
伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物
リーヴェ 17歳?女子
奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。
メーア 19歳?男子
リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。
バウム 15歳?男子
お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。
盲目の少女 15歳?女子
バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。
トラオリア 12歳?少女
伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。
エルガラ 12歳?男子
伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。
滅びかけた世界
老人 男子
貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。
ナツ 女子
母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。
スズ 女子
ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
柊木 千春 15、6歳女子
元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。
Chapter7♯17 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
◯2152貴志家鳴海の自室(日替わり/朝)
外は晴れている
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
ベッドの上で眠っている鳴海
鳴海の横にはフレームに入った一枚の写真が置いてある
鳴海の横にあるフレームに入った一枚の写真には、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている
鳴海の横にあるフレームに入った一枚の写真は、◯2097で約30年前に潤が披露宴場で由夏理と紘を撮った時の物
カーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいる
ベッドの上で眠っていた鳴海が突然飛び起きる
鳴海「(飛び起きて)そ、そんな!!こ、ここで覚めるなんて!!」
◯2153貴志家リビング(朝)
リビングにいる菜摘
菜摘はテーブルの上に溶けたチーズ、目玉焼き、ハムが乗った食パンとサラダを並べている
少しするとリビングに鳴海がやって来る
菜摘「(テーブルの上に朝食を並べながら)おはよう鳴海くん、お休みの日なのに今日も早いね」
鳴海「な、何で・・・」
鳴海は混乱している
混乱しながらテーブルに向かって椅子に座る鳴海
菜摘はテーブルの上に朝食を並べるのをやめる
菜摘「(テーブルの上に朝食を並べるのをやめて心配そうに)どうかしたの?鳴海くん」
鳴海「(混乱しながら)な、何で菜摘がいるんだ・・・?」
菜摘「えっと・・・お、お休みの日だし・・・鳴海くんと一緒に過ごしたいと思って・・・」
鳴海「(混乱しながら)そ、そうか・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘は再び朝食を並べ始める
鳴海「(混乱しながら)きょ、今日は休日なんだよな」
菜摘「(テーブルの上に朝食を並べながら)う、うん」
鳴海「(混乱しながら)あ、姉貴の結婚式の翌日が今日だろ・・・?」
菜摘「(テーブルの上に朝食を並べながら)そ、そうだよ」
再び沈黙が流れる
菜摘はテーブルの上に朝食を並べ終える
テーブルを挟んで鳴海と向かい合って椅子に座る菜摘
菜摘「(心配そうに)だ、大丈夫・・・?」
鳴海「あ、ああ・・・ちょっと寝不足みたいだ・・・」
菜摘「(心配そうに)もう少し眠ってた方が良いんじゃない・・・?」
鳴海「いや・・・多分・・・今寝ても・・・」
鳴海は話途中で口を閉じる
菜摘「(心配そうに)な、鳴海くん・・・?」
鳴海「し、心配するな」
少しの沈黙が流れる
鳴海「な、菜摘はいつ家に来たんだ?」
菜摘「い、1時間くらい前だよ」
鳴海「は、早いな」
菜摘「ごめんね・・・鳴海くん・・・」
鳴海「な、何で謝るんだよ」
菜摘「お、起こしちゃったかなって思って・・・」
鳴海「そ、そんなことないぞ、た、体内時計で目が覚めたんだ」
再び沈黙が流れる
鳴海「め、飯、今日もありがとな、助かるよ」
菜摘「う、ううん」
少しの沈黙が流れる
鳴海「い、いただきます」
鳴海は溶けたチーズ、目玉焼き、ハムが乗った食パンを一口食べる
鳴海「(溶けたチーズ、目玉焼き、ハムが乗った食パンを一口食べて)美味いじゃないか」
菜摘「ほ、本当?」
鳴海「ああ」
菜摘「結婚式が続いているし、朝はご飯が良いかなって最初は思ったんだけど・・・鳴海くんはお弁当でご飯を食べてることが多いし・・・そ、それにこのパンは良いパンだから鳴海くんにも食べて欲しくて・・・」
鳴海「そうだったのか・・・いやでも、良いパンだろうがそうじゃなかろうが美味いのは菜摘の味付けのおかげだと思うぞ」
菜摘「わ、私は焼いただけだよ」
鳴海「なら焼き方が完璧なんだろ」
菜摘「そ、そうかな・・・で、でもありがとう鳴海くん」
鳴海「むしろそれは俺のセリフだ」
菜摘「そ、そんなことないよ、私がしたくてやってるだけだもん」
鳴海「だったら尚更感謝しないとな・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「さ、さっき結婚式が続いてるって言ったか?」
菜摘「じ、実は鳴海くんには話があるんだ」
鳴海の”さ、さっき結婚式が続いてるって言ったか?”と、菜摘の”じ、実は鳴海くんには話があるんだ”が完全に重なる
菜摘「ご、ごめん・・・」
鳴海「い、いや・・・な、菜摘から話してくれ」
菜摘「わ、私のは長くなると思うから・・・な、鳴海くんからで良いよ」
鳴海「そ、そうか・・・分かった・・・(少し間を開けて)さ、さっき・・・」
菜摘「う、うん」
鳴海「結婚式が続いてるって言ったよな」
菜摘「えっ?そんなこと言ってないよ」
鳴海「け、結婚式が続いてるから朝はご飯がって言っただろ」
菜摘「ほ、本当?わ、私、言ったのかな?」
鳴海「た、多分言ってたと思うぞ」
菜摘「それじゃあ間違いだと思う」
鳴海「な、何が間違いなんだ?」
菜摘「わ、私が間違ったことを言ったんだよ」
鳴海「そ、そんなことあるのか?」
菜摘「あ、あるもん、実際今だって間違って言っちゃったわけだし・・・」
鳴海「つ、つまり・・・言い間違いなわけだよな・・・」
菜摘「言い間違いというよりは・・・キーボードのタイピングミスみたいなものだと思うよ、近くにあった文字を間違えて打っちゃったんだ」
鳴海「その説明はよく分からないが・・・とりあえず受け入れておこう・・・(少し間を開けて)な、菜摘、一つ確認したいんだが・・・」
菜摘「な、何?」
鳴海「菜摘は何もしていないよな」
少しの沈黙が流れる
菜摘「じ、実は・・・私鳴海くんには隠してることがあって・・・」
鳴海「(驚いて)か、隠してること!?」
菜摘「うん・・・(少し間を開けて)あのね・・・私・・・ファミレスで・・・」
鳴海「(不思議そうに)ふぁ、ファミレス・・・?」
菜摘「ば、バイトをしてるんだ・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「な、何・・・?バイト・・・?」
菜摘「う、うん・・・」
鳴海「な、何のために?」
菜摘「だ、だってお金はあった方が良いし・・・」
鳴海「金が足りないなら俺に言ってくれれば・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)そ、そうじゃないよ鳴海くん!!」
鳴海「じゃあ何なんだ・・・」
菜摘「わ、私・・・自分の力で生きてみたくて・・・お母さんとお父さんにずっと頼りっぱなしは嫌だし・・・定期検診でかかるお金も少しは浮かせたいから・・・」
鳴海「そんなこと・・菜摘が気にしなくたって・・・」
菜摘「気にするよ・・・それに・・・いつか・・・いつか鳴海くんと結婚するためには・・・お金が絶対いるもん・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん・・・結婚式って物凄く高いんだよ・・・風夏さんと龍ちゃんは表には出さなかったけど・・・きっと二人は一生懸命働いたから・・・あんなに素敵な結婚式が出来たんだと思うし・・・」
鳴海「お、俺の金があるだろ!!」
菜摘「私たちの結婚式なのに・・・どうして鳴海くんが一人で全部やろうとするの・・・?」
鳴海「そ、それは・・・(少し間を開けて)お、俺が男だからだ、男には家族のために頑張らなきゃいけない責任がある」
菜摘「そ、そんなのないよ」
鳴海「な、ないことはないだろ」
菜摘「鳴海くんに責任があるなら・・・私にも鳴海くんのために頑張る責任があるもん・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘「一人が努力して、もう一人が楽をするなんて・・・おかしいよ」
鳴海「そ、そもそも幸せを得るために努力という言葉を使うのがおかしいじゃないか。幸せっていうのはなるべくしてなるもんだ、俺はそうなるまでの過程を努力だなんて思っていないぞ」
菜摘「でも鳴海くんは頑張るんでしょ・・・?」
鳴海「ひ、緋空事務所は力仕事が必要不可欠なんだからしょうがないだろ」
菜摘「鳴海くん、合同朗読劇が成功したのはみんなが努力したからなんだよ」
鳴海「な、何で合同朗読劇を引き合いに出すんだ」
菜摘「それは・・・鳴海くんが忘れちゃったのかなって思って・・・」
鳴海「わ、忘れてねえよ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん・・・前に話したよね・・・協力していこうって・・・」
鳴海「そ、それは飯の話だろ」
菜摘「ご飯以外もだよ、二人で生きていくなら二人で協力しないと・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「す、すみれさんと潤さんは反対しなかったのか」
菜摘は俯く
菜摘「(俯いて)したけど・・・私が粘ったから・・・」
鳴海「バイトは・・・了承してるんだな」
菜摘「(俯いたまま)うん・・・」
鳴海「な、菜摘は病気なんだぞ、分かってるのか」
菜摘「(俯いたまま)分かってるよ・・・誰よりも・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「悪い・・・きつい言い方をして・・・」
菜摘は顔を上げる
菜摘「(顔を上げて)だ、大丈夫、今日は鳴海くんに怒られると思ってたから・・・」
鳴海「そんな予想まで出来たなら、何で始める前に言おうとしなかったんだ菜摘、相談くらいしてくれても良かっただろ」
菜摘「相談しても・・・鳴海くんは反対していたと思う・・・」
鳴海「確かにあらかじめ聞いていたら・・・反対しただろうな」
再び沈黙が流れる
鳴海「体のことは説明してあるのか」
菜摘「し、してるよ、だ、だからお店側も分かってくれてるんだ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「これからは・・・隠さずに何でも俺には話をしてくれ、菜摘」
菜摘「う、うん・・・(少し間を開けて)黙っててごめんね・・・」
◯2154貴志家鳴海の自室(深夜)
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主、フレームに入った一枚の写真が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
机の上のフレームに入った一枚の写真には、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている
机の上のフレームに入った一枚の写真は、◯2097で約30年前に潤が披露宴場で由夏理と紘を撮った時の物
ベッドの上で横になっている鳴海
カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる
鳴海「黙っててごめん・・・まるで菜摘が悪いことをしたかのような謝り方だ・・・別に悪いことはしていないのに・・・(少し間を開けて)菜摘の体のことを考えるといつもこれだな・・・」
鳴海は両目を瞑る
鳴海「(両目を瞑って 声 モノローグ)過去へ落ちる夢に対する淡い期待と、明らかに胸の内側を痛めようとする不安を抱えながら眠ったが・・・この日、俺が夢を見ることはなかった・・・」
◯2155旅館大部屋(約30年前/日替わり/朝)
外は晴れている
旅館の大部屋にいる由夏理、紘、すみれ、潤
由夏理たちは20歳で、それぞれ旅館の着物を着ている
旅館の大部屋は古い和室で広い
旅館の大部屋には布団が5人分敷いてある
旅館の大部屋にはテーブル、座椅子があり、テーブルの上には急須、湯呑み、和菓子、灰皿が置いてある
旅館の大部屋のテーブルの上にはトランプが散らばっている
旅館の大部屋には小さくて古いブラウン管のテレビがある
旅館の大部屋の窓際には広縁がある
旅館の大部屋は広縁の窓から太陽の光が差し込んでいる
旅館の大部屋の広縁には冷蔵庫、テーブル、椅子があり、テーブルの上には灰皿が置いてある
広縁のテーブルの上の灰皿には吸殻が溜まっている
旅館の大部屋の広縁からは紅葉が見える
旅館の大部屋の広縁には障子があり、広縁を閉め切ることが出来る
旅館の大部屋の隅の方には由夏理、紘、すみれ、潤のスーツケース、すみれのブーケ、潤の古い一眼レフカメラが置いてある
旅館の大部屋に敷いてある布団は、一組だけまるで誰かが眠ったまま消えてしまったかのような状態で残されている
紘、すみれ、潤は誰かが眠ったまま消えてしまったかのような状態で残されている一組の布団の周りで話をしている
由夏理は広縁のテーブルに向かって椅子に座り一人紅葉を寂しそうに眺めている
寂しそうに紅葉を眺めながら火が付いていないタバコを口に咥えている由夏理
鳴海「(声 モノローグ)眠っても、目覚めても、終わり切れない夢を見ている。俺はようやく気付いた、自分は今過去に縛られているんだと・・・(少し間を開けて)いなくならないでくれと言っていた母を二度も裏切ってしまった・・・いて欲しい人が消えてしまった時の感情を俺は知っている・・・どうしようもない怒り・・・世界への絶望・・・止まることを知らない不安・・・よりによってその感情を・・・俺の前で死んだ母親に教えてしまうなんて・・・何と言う皮肉な運命か・・・」
由夏理は一人、火が付いていないタバコを咥えたまま寂しそうに紅葉を見続ける
鳴海「(声 モノローグ)きっとあの新婚旅行は・・・名前の分からない男が消えたことによって最悪な旅へと変わるだろう」
◯2156温泉街(約30年前/朝)
晴れている
温泉街を歩いている瑠璃
瑠璃は鳴海よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
温泉街にはたくさんの旅館やお土産屋がある
温泉街には瑠璃の他にも浴衣を着た観光客や修学旅行生などで溢れている
瑠璃は中国語の繁体字で書かれた地図を見ている
道に迷っている瑠璃
鳴海「(声 モノローグ)運命がある種の皮肉さを秘めているのなら、俺と同じように名前を名乗らなかったあいつも・・・30年前の温泉街で彷徨っているかものしれない」
瑠璃は地図を見ながら温泉街を歩き続ける
瑠璃が地図を見ながら歩いていると、◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男が今度は瑠璃とぶつかる
瑠璃は地図を見るのをやめて◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男に謝る
鳴海「(声 モノローグ)皮肉というのは人のために、世界のためにゴミ掃除を続けていた矢先に、自分以外の人間が死に絶えてしまった時に使う言葉だ」
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男は瑠璃を突き飛ばす
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男に突き飛ばされて後ろに倒れる瑠璃
鳴海「(声 モノローグ)道案内をしてくれる人を探し、あわよくば俺と再会したいと望んだ時も、皮肉は起きる違いない」
瑠璃は◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男を睨む
体を起こし、右手で髪を右耳にかける瑠璃
瑠璃が右手で髪を右耳にかけた際に一瞬、右手首に巻かれている包帯が見える
瑠璃は右耳に♂と♀が合わさったマークのピアスをしている
鳴海「(声 モノローグ)いつか親父が言っていた、追い詰められて泣くのは弱虫だ」
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男は笑いながら瑠璃の包帯が巻かれた右手首を掴み、瑠璃を無理矢理立たせる
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男に掴まれている瑠璃の右手首は、包帯に血が滲み始める
鳴海「(声 モノローグ)笑うのは悪魔だ」
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男は瑠璃の右手首を離す
自分の手を見る◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男
鳴海「(声 モノローグ)叱るのは天使だ」
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男の手には瑠璃の血がついている
瑠璃の血がついた手を見るのをやめる◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男
鳴海「(声 モノローグ)何もしない奴は神様だ」
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男は瑠璃の血がついた手で瑠璃の顔を撫でるように触る
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男に顔を撫でられるように触られて、瑠璃の顔面には血がつく
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男は瑠璃の顔を触るのをやめる
瑠璃の顔面には◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男につけられた血の跡が、男の指の形のまま残っている
鳴海「(声 モノローグ)親父に何故何もしない奴が神様なのかと尋ねたことがある。そもそも神は存在していない、この世界で何もしていない奴は存在していない神と同類で、無価値だと親父は答えた」
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男は瑠璃が右耳につけていた♂と♀が合わさったマークのピアスを外す
瑠璃の右耳につけていた♂と♀が合わさったマークのピアス地面に落とし、粉々に踏みつける◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男
鳴海「(声 モノローグ)親父の考え方は好きじゃないが、神と皮肉という話であれば的を得ているのかもしれない」
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男は瑠璃が右耳につけていた♂と♀が合わさったマークのピアスを粉々に踏みつけるのをやめて、瑠璃から離れて行く
瑠璃は離れて行く◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男のことを見て少し笑う
◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男のことを見るのをやめて、男に顔面につけられた血を手で拭う瑠璃
瑠璃が顔面についていた血を手で拭うと、◯2130で鳴海とぶつかった観光客の男の指の形で残っていた血が瑠璃の顔全体に広がる
瑠璃は顔面についていた血を手で拭うのをやめて、血が滲んだ右手首に巻かれている包帯を服の袖で隠す
鳴海「(声 モノローグ)皮肉・・・皮肉・・・皮肉・・・」
瑠璃は粉々になった♂と♀が合わさったマークのピアスを拾う
鳴海「(声 モノローグ)三回夢の中で唱えたから、皮肉を奇跡に変えてくれないか」
瑠璃は粉々になった♂と♀が合わさったマークのピアスを拾い終える
粉々になった♂と♀が合わさったマークのピアスをポケットにしまう瑠璃
瑠璃は地図を見ずに歩き始める
鳴海「(声 モノローグ)三回でダメならもっと祈るよ、いるかどうかも分からない神様にさ」
瑠璃は近くにあるお土産屋に向かっている
鳴海「(声 モノローグ)二度も裏切ってしまった母に謝るチャンスをくれ」
瑠璃はお土産屋の中に入る
お土産屋の中は浴衣、かんざし、巾着、手ぬぐい、和傘、キーホルダー、狐のお面、能面、鬼のお面、和風の手鏡、お菓子、子供のおもちゃなどが売られている
お土産屋の中は瑠璃以外にも浴衣を着た観光客や修学旅行生で溢れており、賑やかになっている
瑠璃は狐が描かれた手ぬぐいを手に取る
鳴海「(声 モノローグ)あの時・・・寝なければ良かったんだ」
瑠璃は折り畳み式の小さな和風の手鏡を手に取り、手鏡を広げる
折り畳み式の小さな和風の手鏡に映っている自分の顔を見る瑠璃
折り畳み式の小さな和風の手鏡には血が広がった瑠璃の顔面が映っている
瑠璃は折り畳み式の小さな和風の手鏡に映っている血が広がった自分の顔面を見ながら、右耳にかけていた髪を下ろす
折り畳み式の小さな和風の手鏡に映っている血が広がった自分の顔面を見ながら、右手首の服の袖をまくる瑠璃
鳴海「(声 モノローグ)これも皮肉じゃないか、夢の中まで眠くなるなんて」
瑠璃は折り畳み式の小さな和風の手鏡に映っている血が広がった自分の顔面を見るのをやめて、左手で包帯が巻かれた右手首を強く押さえる
瑠璃が左手で包帯が巻かれた右手首を強く押さえると、瑠璃の右手首に巻かれた包帯に再び血が滲み始める
瑠璃は左手で血が滲んでいる包帯が巻かれた右手首を押さえるのをやめる
瑠璃の左手の指先には血がついている
鳴海「(声 モノローグ)もしかしたら夢じゃなかったのか?」
瑠璃は再び折り畳み式の小さな和風の手鏡で血が広がった自分の顔面を見る
折り畳み式の小さな和風の手鏡に映っている血が広がった自分の顔面を見ながら、左手の指先についていた血を口紅のように唇に塗る瑠璃
瑠璃は折り畳み式の小さな和風の手鏡に映っている血が広がった自分の顔面を見ながら、左手の指先についていた血を口紅のように唇に塗るのをやめる
瑠璃の唇には口紅のように綺麗に血が塗られている
鳴海「(声 モノローグ)過去であれ、夢であれ、俺の行動は変わらないだろう」
瑠璃は折り畳み式の小さな和風の手鏡に映っている血が広がった自分の顔面を見ながら、再び右耳に髪をかける
少しの間折り畳み式の小さな和風の手鏡に映っている血が広がった自分の顔面を見続ける瑠璃
鳴海「(声 モノローグ)二つの見分け方がつかなくても・・・俺にはどうでも良い・・・」
瑠璃は折り畳み式の小さな和風の手鏡に映っている血が広がった自分の顔面を見るのをやめる
折り畳み式の小さな和風の手鏡を閉じる瑠璃
瑠璃は折り畳み式の小さな和風の手鏡と狐が描かれた手ぬぐいを持ってレジに向かう
鳴海「(声 モノローグ)過去と・・・夢と・・・現実の狭い壁の隙間しか飛び回れないのは皮肉な話だ・・・」
瑠璃は立ち止まる
横を見る瑠璃
瑠璃の横の壁には、狐のお面、能面、鬼のお面などがかけてあり、商品として売られている
瑠璃は狐のお面を見ている
瑠璃が見ている狐のお面は、◯1964で約30年前に由夏理が電車の上から手を振った男が身につけていた狐のお面と完全に同じ物
狐のお面を手に取る瑠璃
瑠璃は折り畳み式の小さな和風の手鏡、狐が描かれた手ぬぐい、狐のお面を持ってレジに向かう
鳴海「(声 モノローグ)きっと・・・蝶はもっと自由なんだろう・・・あの人が憧れるくらいなんだから」