Chapter7♯16 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
登場人物
貴志 鳴海 19歳男子
Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。
早乙女 菜摘 19歳女子
Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。
貴志 由夏理
鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている
貴志 紘
鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。
早乙女 すみれ 46歳女子
優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。
早乙女 潤 47歳男子
永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。
貴志/神北 風夏 25歳女子
看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。
神北 龍造 25歳男子
風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。
南 汐莉 16歳女子
Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。
一条 雪音 19歳女子
鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。
伊桜 京也 32歳男子
緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。
荻原 早季 15歳(?)女子
どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。
瑠璃
鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。
来栖 真 59歳男子
緋空事務所の社長。
神谷 志郎 44歳男子
Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。
貴志 希海 女子
貴志の名字を持つ謎の人物。
三枝 琶子 女子
“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。
三枝 碧斗 男子
“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。
有馬 千早 女子
ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。
太田 美羽 30代後半女子
緋空事務所で働いている女性社員。
目黒 哲夫 30代後半男子
緋空事務所で働いている男性社員。
一条 佐助 男子
雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。
一条 智秋 25歳女子
雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。
神谷 絵美 30歳女子
神谷の妻、現在妊娠中。
神谷 七海 女子
神谷志郎と神谷絵美の娘。
天城 明日香 19歳女子
鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。
白石 嶺二 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。
三枝 響紀 16歳女子
波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。
永山 詩穂 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。
奥野 真彩 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。
双葉 篤志 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。
井沢 由香
波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。
伊桜 真緒 37歳女子
伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。
伊桜 陽芽乃 13歳女子
礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。
水木 由美 52歳女子
鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。
水木 優我 男子
鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。
鳴海とぶつかった観光客の男 男子
・・・?
少年S 17歳男子
・・・?
サン 女子
・・・?
ミツナ 19歳女子
・・・?
X 25歳女子
・・・?
Y 25歳男子
・・・?
ドクターS 19歳女子
・・・?
シュタイン 23歳男子
・・・?
伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物
リーヴェ 17歳?女子
奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。
メーア 19歳?男子
リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。
バウム 15歳?男子
お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。
盲目の少女 15歳?女子
バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。
トラオリア 12歳?少女
伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。
エルガラ 12歳?男子
伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。
滅びかけた世界
老人 男子
貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。
ナツ 女子
母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。
スズ 女子
ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
柊木 千春 15、6歳女子
元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。
Chapter7♯16 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
◯2123鳴海の夢/旅館の駐車場(約30年前/夜)
約30年前の旅館の駐車場にスーツ姿の鳴海、由夏理、すみれ、潤が乗っている古いピックアップトラック型の車が止まっている
鳴海たちが乗っている古いピックアップトラック型の車の荷台の上には、由夏理、紘、すみれ、潤のスーツケースが乗っている
旅館の駐車場は狭く、鳴海たちが乗っている古いピックアップトラック型の車以外に止まっている車は一台もない
旅館は古く小さい
古いピックアップトラック型の車から降りて来る鳴海、由夏理、すみれ、潤
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
鳴海はお土産屋で購入した物が入っているビニール袋を持っている
すみれはブーケを持っている
潤は一眼レフカメラを首から下げている
潤が首から下げている一眼レフカメラは古い物
潤はポケットから古いピックアップトラック型の車の鍵を取り出す
鳴海「こ、これからどうするんだ?」
潤「まずは飯だろ」
鳴海「あんたはそればっかりだな・・・」
潤は古いピックアップトラック型の車の扉に鍵を挿し、扉を閉める
古いピックアップトラック型の車の荷台の上から由夏理のスーツケースを下ろす紘
紘「(古いピックアップトラック型の車の荷台の上から由夏理のスーツケースを下ろして)荷物を置いて温泉街を散策しよう、飯なら風呂の後に済ませれば良い」
由夏理「済ませるってさ〜・・・ご当地の食材を使った美味しいご飯が食べられるって分かってるのかね紘は」
紘「ここまで来て飯に時間を取られるのは勿体無いだろう」
潤はポケットに古いピックアップトラック型の車の鍵をしまう
潤「(ポケットに古いピックアップトラック型の車の鍵をしまって)こいつには旅行先で優雅に過ごす余裕すらないらしいな」
紘は古いピックアップトラック型の車の荷台の上からすみれのスーツケースを下ろす
紘「(古いピックアップトラック型の車の荷台の上からすみれのスーツケースを下ろして)散歩だって優雅だと思うが。違うか?すみれ」
すみれ「えっ?私に聞くの?」
紘「すみれの発言は潤にとって絶対的だ」
すみれ「うーん・・・(少し間を開けて)そうだね・・・私はぶらぶらお土産屋さんを見て回るのも良いと思うけど・・・」
紘は古いピックアップトラック型の車の荷台の上から自分のスーツケースを下ろす
紘「(古いピックアップトラック型の車の荷台の上から自分のスーツケースを下ろして)決まりだな潤、飯は後だ」
潤「お前の決まりに乗っかるのは癪だが結婚記念日で多めに見てやるか・・・」
鳴海「な、なあ・・・」
潤は古いピックアップトラック型の車の荷台の上から自分のスーツケースを下ろす
潤「(古いピックアップトラック型の車の荷台の上から自分のスーツケースを下ろして)何だよ紘の代理」
鳴海「お、俺まで泊まったりして本当に大丈夫なのか?」
由夏理「今更何ビビってるのさ少年」
鳴海「へ、部屋とか料理とか、いきなり一人分増えたら旅館側も対応出来るか分からないだろ」
由夏理「(少し笑って)部屋がない時は野宿しなよ」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(少し笑いながら)今のは冗談だって少年、部屋ならお姉さんたちが何とかしてあげるからさ」
再び沈黙が流れる
潤「一応押し入れもあるだろうしな」
鳴海「ど、どういう意味だよそれ」
すみれ「キョドキョドは押し入れで寝る?」
鳴海「疑問系にしないで欲しいんですけど・・・」
紘「押し入れにしても物置きにしても、寝れる場所があるだけありがたいと思うんだな」
紘はスーツケースを押し旅館に向かって歩き始める
潤「全くだぜ」
潤はスーツケースを押し旅館に向かって歩き始める
すみれ「あ、潤くん待ってよ」
すみれはスーツケースを押して潤について行く
少しの沈黙が流れる
由夏理はスーツケースを押して旅館に向かっている紘のことを見ている
由夏理「(スーツケースを押して旅館に向かっている紘のことを見たまま)ああいう人なんだ」
鳴海「えっ・・・?」
由夏理「(スーツケースを押して旅館に向かっている紘のことを見たまま)私の旦那さん」
鳴海「あ、ああ・・・そ、そうなのか」
由夏理はスーツケースを押して旅館に向かっている紘のことを見るのをやめる
由夏理「(スーツケースを押して旅館に向かっている紘のことを見るのをやめて)でも悪く思わないでね少年、不器用なだけで紘にも良いところはたくさんあるからさ」
鳴海「あ、あなただって・・・不器用な気がするけどな・・・」
由夏理「君、もう私の物真似を忘れたの?」
鳴海「いや・・・」
由夏理「私は天才魔術師の貴志由夏理だよ」
鳴海「ユカリーニだろ」
由夏理「(少し笑って)ん、それ良い名前じゃん、いつか使わせてもらうよ少年」
再び沈黙が流れる
由夏理はスーツケースを押し旅館に向かって歩き始める
由夏理に合わせて歩き始める鳴海
由夏理「(スーツケースを押しながら)部屋は大部屋だしさ、詰めれば君の寝るスペースだって確保出来るよ」
鳴海「も、元々四人一緒に寝るつもりだったのか?」
由夏理「(スーツケースを押しながら)潤が宿代をケチったんだよ、だから雑魚寝ってわけ」
鳴海「仲・・・良いんだな・・・」
由夏理「(スーツケースを押しながら)まあね〜、高校生の時は毎日一緒にいたし、もう寝る部屋くらい同じでも気にならないんだよ」
鳴海「そ、卒業してからは会う機会が減ったのか?」
由夏理「(スーツケースを押しながら)そりゃあね、すみれと潤も夢を追うのに忙しいからさ」
◯2124鳴海の夢/旅館玄関(約30年前/夜)
約30年前の旅館の玄関にいるスーツ姿の鳴海、由夏理、紘、すみれ、潤
旅館の玄関は古い
旅館の玄関には掛け軸が掛けてあり、掛け軸に貼られた半紙には”華胥之夢”と筆で書かれてある
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
鳴海はお土産屋で購入した物が入っているビニール袋を持っている
すみれはブーケを持っている
潤は一眼レフカメラを首から下げている
潤が首から下げている一眼レフカメラは古い物
由夏理、紘、すみれ、潤はスーツケースを持っている
すみれ「良い雰囲気だね」
潤「そうか?思ってたよりオンボロ・・・」
旅館の若女将が玄関にやって来る
潤は旅館の若女将が玄関に来た瞬間、口を閉じる
紘「予約した早乙女です」
旅館の若女将「お電話で伺った時は四名様のご予約でしたが・・・」
紘「一人増えたって言ったら追い出しますか?」
少しの沈黙が流れる
紘「食事は元の四人分で構いません、料金は追加で一人分払いますから手を打ってもらえませんか?」
再び沈黙が流れる
旅館の若女将「かしこまりました、お部屋にご案内いたします」
◯2125鳴海の夢/旅館大部屋(約30年前/夜)
約30年前の旅館の大部屋にやって来たスーツ姿の鳴海、由夏理、紘、すみれ、潤
旅館の大部屋は古い和室で広い
旅館の大部屋にはテーブル、座椅子があり、テーブルの上には急須、湯呑み、和菓子、灰皿が置いてある
旅館の大部屋には小さくて古いブラウン管のテレビがある
旅館の大部屋の窓際には広縁がある
旅館の大部屋の広縁には冷蔵庫、テーブル、椅子があり、テーブルの上には灰皿が置いてある
旅館の大部屋の広縁からは紅葉が見える
旅館の大部屋の広縁には障子があり、広縁を閉め切ることが出来る
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
鳴海はお土産屋で購入した物が入っているビニール袋を持っている
すみれはブーケを持っている
潤は一眼レフカメラを首から下げている
潤が首から下げている一眼レフカメラは古い物
旅館の大部屋の隅の方には由夏理、紘、すみれ、潤のスーツケースが置いてある
すみれ「オンボロじゃないでしょう潤くん」
潤「ちょっと古いけどな」
すみれ「(怒って)潤くん」
潤「い、良い雰囲気のところだ」
由夏理「(少し笑って)どうだい少年、私が言った通り何とかなったでしょ?部屋もかなり広いしさ」
紘「実際に何とかしたのは俺だ、由夏理」
由夏理「(少し笑いながら)それはそうだけど〜」
鳴海「た、助かったよ」
少しの沈黙が流れる
すみれはテーブルの上にブーケを置く
すみれ「(テーブルの上にブーケを置いて)行こうか?みんな」
鳴海「は、はい」
潤「こんな時間に土産屋なんてやってるのかよ・・・」
鳴海「い、今何時なんだ?」
すみれは腕時計を見る
すみれの腕時計は”21時13分”を指している
すみれ「(腕時計を見ながら)9時10分くらい」
鳴海「早くしないと店が閉まっちゃうかもしれませんね・・・」
由夏理「そんなことないって少年、温泉街は夜になってからが本番なんだからさ」
すみれ「食べ歩き、写真撮影、それから地元の人との楽しい交流が待っているよキョドキョド」
鳴海「そ、そうですか」
由夏理「(少し笑って)よーし、みんな今日は長い夜にするぞ」
◯2126鳴海の夢/温泉街(約30年前/夜)
約30年前の温泉街にいるスーツ姿の鳴海、由夏理、紘、潤
温泉街にはたくさんの古い旅館や古いお土産屋がある
温泉街には鳴海たちの他にも浴衣を着た観光客や修学旅行生などで溢れている
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
潤は一眼レフカメラを首から下げている
潤が首から下げている一眼レフカメラは古い物
鳴海、由夏理、紘、潤は温泉街を歩いている
少しすると修学旅行生で溢れている古いお土産屋が見えて来る
修学旅行生で溢れている古いお土産屋を指差す由夏理
由夏理「(修学旅行生で溢れている古いお土産屋を指差して)紘、あの店行ってみようよ」
紘はチラッと修学旅行生で溢れている古いお土産屋を見る
紘「学生たちに混じる気か?」
由夏理「(修学旅行生で溢れている古いお土産屋を指差すのをやめて)別に良いじゃん、私たちもこの間まで学生だったんだからさ」
紘「子供向けの物ばかりだぞ」
由夏理「かんざし、買ってくれるんじゃなかったの?」
少しの沈黙が流れる
紘「潤、俺たちは向こうを見て来るよ」
潤「ああ、由夏理が迷子にならないようにしっかり目を見張っとけ」
由夏理「失礼な」
すみれ「いつも一人でどこかに行って行方不明になるのは由夏理でしょう?さっきの式だってそうだったんだから」
由夏理「いや・・・うん・・・その節はどうも・・・」
紘「心配するな二人とも、由夏理なら俺が見張る」
由夏理「(不機嫌そうに)ちょっとー、何で紘までそんなことを言うのかなー」
紘「かんざしを買うんだろう?女子高生に奪われる前に早く見に行くぞ、由夏理」
由夏理「(不機嫌そうに)なんか子供扱いされてるみたいで嫌なんだけどー」
紘「(少し笑って)実際若いんだから良いじゃないか、由夏理が言った通り俺たちはこの間まで学生だったわけだしな」
由夏理「若くても色気はいるんだって」
紘と由夏理は話をしながら修学旅行生で溢れている古いお土産屋に向かう
再び沈黙が流れる
鳴海「お、俺も・・・あ、あの店に行って良いですかね・・・?」
すみれ「キョドキョドが?」
鳴海「は、はい・・・ちょ、ちょっと探してる物があって・・・」
潤「温泉まんじゅうなら他の店にもあるぞ」
鳴海「な、何で温泉まんじゅうを探してることになってるんだ」
すみれ「キョドキョドお金を持っていないんだよね?何か奢って欲しい物があるならあらかじめ言ってくれたら・・・」
鳴海「(すみれの話を遮って)か、金は要りません!!」
すみれ「そうなの?でも欲しい物があるんでしょう?」
鳴海「い、いや・・・まあ・・・」
潤「お前はあんなガキだらけの店で何が手に入れたいんだよ」
鳴海「そ、それは・・・えっと・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「ぼ、木刀だ」
すみれ「(不思議そうに)木刀・・・?何のために・・・?」
鳴海「お、お土産と言ったら木刀じゃないっすか!!」
潤「確かにな・・・(少し間を開けて)男が買うお土産と言ったら木刀しかない」
すみれ「(不思議そうに)そうなの・・・?」
鳴海「そ、そうなんです!!」
潤「お前が木刀を買うってなら金を貸してやらないこともないぞ」
鳴海「い、いや・・・べ、別にそこまでしてくれなくても・・・」
すみれ「木刀が欲しいんじゃないの?」
鳴海「ほ、本当に欲しい木刀は自分の手で買いたいんで!!」
潤「なるほどそういうことか・・・つまり今日のてめえは木刀の選別が目的なんだな」
鳴海「あ、ああ」
潤「分かった、紘の代理も店を見て来い。俺とすみれは食べ歩きデートをしに行くからな」
鳴海「りょ、了解だ、また後で落ち合おう」
潤は頷く
修学旅行生で溢れている古いお土産に向かう鳴海
◯2127鳴海の夢/温泉街/お土産屋(約30年前/夜)
約30年前の温泉街にある古いお土産屋にいるスーツ姿の鳴海、由夏理、紘
古いお土産屋の中は浴衣、かんざし、巾着、手ぬぐい、和傘、キーホルダー、お菓子、木刀、子供のおもちゃなどが売られている
古いお土産屋の中は鳴海たち以外にも修学旅行生で溢れており、賑やかになっている
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
由夏理と紘はかんざしを見ている
古いお土産屋のかんざしは様々な種類がある
由夏理と紘から離れたところで木刀を見ているふりをしながら由夏理と紘のことを見ている鳴海
鳴海の周りにはたくさんの修学旅行生の男子生徒がいる
話をしている修学旅行生の男子生徒1と修学旅行生の男子生徒2
修学旅行生の男子生徒1「木刀なんか買ったら母ちゃんに怒られるよ、小遣いを無駄にすんなって」
修学旅行生の男子生徒2「馬鹿、そんなことで弱気になってどうするんだよ」
修学旅行生の男子生徒1「お前が怒られるなら弱気にならないけど、俺だし」
修学旅行生の男子生徒2「い、一緒に買うって決めただろ、これで先公の頭をぶっ叩くって計画もあるんだぞ」
修学旅行生の男子生徒1「ますます俺が母ちゃんに怒られるよ」
修学旅行生の男子生徒2「木刀は男らしさの塊なんだから買わなきゃ・・・」
瑠璃「(修学旅行生の男子生徒2の話を遮って少し笑って)僕だったら木刀は控えて愛する人へのプレゼントを買うな、その方がよっぽど男らしいからね」
修学旅行生の男子生徒1と修学旅行生の男子生徒2の後ろには瑠璃がいる
瑠璃は鳴海よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
瑠璃「(鳴海に向かって)君もそう思うだろう?」
鳴海は木刀を見ているふりをしながら由夏理と紘のことを見るのをやめる
鳴海「(木刀を見てるふりをしながら由夏理と紘のことを見るのをやめて)えっ?」
瑠璃「(少し笑って)君たちはそんなに木の棒が欲しいのかい?」
鳴海「あ、いや・・・俺はちょっと・・・」
少しの沈黙が流れる
瑠璃は修学旅行生の男子生徒1と修学旅行生の男子生徒2の肩に両手に置く
瑠璃「(修学旅行生の男子生徒1と修学旅行生の男子生徒2の肩に両手を置いて少し笑いながら)僕を信じてここはプレゼントを選ぶべきさ。元々、君たちはスティックなんて買う必要はないだろう?」
瑠璃に肩に手を置かれている修学旅行生の男子生徒1と修学旅行生の男子生徒2の顔が少し赤くなる
修学旅行生の男子生徒1と修学旅行生の男子生徒2の肩に手を置くのをやめる瑠璃
瑠璃は和傘を見に行く
再び沈黙が流れる
修学旅行生の男子生徒1「(鳴海に向かって)あ、あの・・・」
鳴海「あ、ああ」
修学旅行生の男子生徒1「い、今のちょっとエロい人・・・知り合いですか・・・?」
鳴海「いや・・・」
修学旅行生の男子生徒2「え、エロいとか言うなよ」
修学旅行生の男子生徒1「だ、だってやばかっただろ!!」
少しの沈黙が流れる
修学旅行生の男子生徒1「決めた・・・俺やっぱ小遣い全部使ってプレゼント買うわ・・・」
修学旅行生の男子生徒2「(驚いて)ぜ、全部!?」
修学旅行生の男子生徒1「クラスの全員分買うんだから、お前も金を払えよ」
修学旅行生の男子生徒2「じ、自分たちの分は?」
修学旅行生の男子生徒1「そ、そんなもんは男にいらないんだよ」
修学旅行生の男子生徒2「で、でも俺家族にも・・・」
修学旅行生の男子生徒1と修学旅行生の男子生徒2は話をしながら木刀から離れて行く
瑠璃のことを見る鳴海
瑠璃は紺色の和傘を手に取って見ている
◯2128◯2043の回想/帰路/国営昭和記念公園近くの一般道(夜)
鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗っている車が自宅に向かっている
鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗ってる車は国営昭和記念公園近くの一般道を走っている
鳴海と菜摘は後部座席に座っている
すみれは助手席に座っている
潤は運転席に座り、運転をしている
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海は売店で購入した物が入っているビニール袋を持っている
菜摘は鳴海の隣で眠っている
後部座席の窓が少しだけ開いている
外は等間隔で街灯があるだけで他には何もない
街頭の明かりを頼りに鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗っている車は国営昭和記念公園近くの一般道を走っている
鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗っている車の中が赤、青、緑、黄色、ピンク、紫などカラフルな色に照らされている
鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗っている車の少し先には、大きくて派手なデコレーショントラックが走っている
大きくて派手なデコレーショントラックの運転手は瑠璃
瑠璃は鳴海や菜摘よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
大きくて派手なデコレーショントラックの運転席の窓が全開で開いており、窓から瑠璃の手が出ている
瑠璃は瑠璃色のチャイナドレスを着ており、タバコを吸いながら大きくて派手なデコレーショントラックを運転している
瑠璃が運転をしている大きくて派手なデコレーショントラックの荷台の側面には、”蝶人間”と太字で書かれており、黒い蝶の羽を生やした瑠璃と浜辺のイラストが描かれている
瑠璃が運転をしている大きくて派手なデコレーショントラックは、赤、青、緑、黄色、ピンク、紫などたくさんの電球が装飾として施されており、それら全ての電球が発光しカラフルに周囲を照らしている
瑠璃が運転をしている大きくて派手なデコレーショントラックは、正面の部分にもクロムメッキの装飾がたくさんつけられている
瑠璃が運転をしている大きくて派手なデコレーショントラックからは、レベッカ・パンの”ブンガワン・ソロ”が聞こえて来ている
瑠璃はタバコを咥えて運転をしながらチャイナドレスの右手の袖をまくっている
タバコを咥えて運転をしながら右手首を運転席の窓の外に少し出している瑠璃
瑠璃の右手首には綺麗な赤いツツジが描かれている
瑠璃の右手首に描かれている赤いツツジは、◯1961の鳴海が夢で見た約30年前の波音駅のホームで18歳の紘が、同じく18歳の由夏理の右手首に描いた赤いツツジと完全に同じもの
鳴海は瑠璃の右手首に描かれている赤いツツジを見ている
タバコを咥えて運転をしながら、大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに鳴海のことを見ている瑠璃
瑠璃に大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに見られていることに気付く鳴海
鳴海は大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに、タバコを咥えて運転をしている瑠璃のことを見る
鳴海と瑠璃の目が大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに合う
瑠璃はタバコを咥えて運転をしながら、大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに鳴海と目が合って少し笑う
鳴海「(声 モノローグ)そうか・・・あいつは菜摘たちと公園で遊んだ時の帰りにすれ違った・・・(少し間を開けて)でもどうしてだ・・・?」
瑠璃はタバコを咥えて運転をしながら、大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに鳴海と目が合って少し笑い、サイドミラー越しに鳴海に向かってウインクをする
◯2129回想戻り/鳴海の夢/温泉街/お土産屋(約30年前/夜)
約30年前の温泉街にある古いお土産屋にいるスーツ姿の鳴海、由夏理、紘、瑠璃
古いお土産屋の中は浴衣、かんざし、巾着、手ぬぐい、和傘、キーホルダー、お菓子、木刀、子供のおもちゃなどが売られている
古いお土産屋の中は鳴海たち以外にも修学旅行生で溢れており、賑やかになっている
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
由夏理はかんざしを見ている
レジでかんざしを購入している紘
瑠璃は紺色の和傘を手に取って見ている
瑠璃は鳴海よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
由夏理から離れたところで紺色の和傘を手に取っている瑠璃のことを見ている鳴海
鳴海の周りにはたくさんの修学旅行生の男子生徒がいる
鳴海「(紺色の和傘を手に取っている瑠璃のことを見ながら 声 モノローグ)どうしてこの時代にあいつが・・・?」
由夏理は鳴海がお土産屋の中にいることに気付く
鳴海のところにやって来る鳴海
由夏理「(鳴海のところにやって来て)少年も来てたんだ、木刀でも欲しいの?」
鳴海は紺色の和傘を手に取っている瑠璃のことを見るのをやめる
鳴海「(紺色の和傘を手に取っている瑠璃のことを見るのをやめて)ん?」
由夏理「君、今誰か見てたでしょ?」
鳴海「お、俺は木刀を選別してただけだぞ」
由夏理「(少し笑って)またすぐにバレる嘘をついちゃってさ、そんなんじゃお姉さんの目は欺けないよ」
鳴海「う、嘘なんかついてない」
少しの沈黙が流れる
鳴海「お、お土産で木刀を買うのは男らしいだろ」
由夏理「男らしい、か・・・」
鳴海「な、何だ」
由夏理「別にー、君は木刀なんて買わない方が良いと思っただけだよー」
鳴海「な、何か問題でもあるのか?」
由夏理「(少し笑って)少年はすぐに怪我しそうだからさ、お土産はご当地キーホルダーとかにしなよ、何だったら私が買ってあげても良いし?」
鳴海「い、要るわけないだろそんなもん、お、俺はガキじゃねえんだぞ」
瑠璃は紺色の傘を手に取ったままチラッと鳴海と由夏理のことを見る
由夏理「(少し寂しそうに笑って)そっか」
再び沈黙が流れる
かんざしを購入した紘が鳴海と由夏理のところにやって来る
紘「(鳴海と由夏理のところにやって来て)買えたぞ、由夏理」
由夏理「つけてつけて」
紘「店の外でな」
由夏理「ん、そうだね」
少しの沈黙が流れる
由夏理「私たちは他のところに行くけど、少年はどうする?」
鳴海「お、俺は・・・まだここを見てるよ」
由夏理「そう言っていつもみたいに消えるのはなしだからね?」
鳴海「だ、大丈夫だ、きょ、今日はもう泊まるつもりだからな」
由夏理「よし・・・私は今の君の言葉を信じるよ」
鳴海「お、おう」
由夏理「じゃあ行こ紘、早くかんざしをつけて欲しいんだ」
紘「自分でつけられるだろう?」
由夏理「(少し笑って)私がやったらつまらないじゃん、こういう時は紘がサポートしてくれなきゃさ」
由夏理と紘は話をしながらお土産屋から出て行く
話をしながらお土産屋から出て行く由夏理と紘の後ろ姿を見ている鳴海
再び沈黙が流れる
鳴海は話をしながらお土産屋から出て行く由夏理と紘の後ろ姿を見るのをやめる
瑠璃のことを見る鳴海
瑠璃は変わらず紺色の和傘を手に取っている
紺色の和傘を手に取っている瑠璃のことを見たまま、瑠璃のところに行く鳴海
鳴海は紺色の和傘を手に取っている瑠璃のことを見るのをやめる
紺色の和傘を手に取っている瑠璃の隣にいる鳴海
鳴海は瑠璃が手に取っている紺色の和傘を見る
鳴海「(瑠璃が手に取っている紺色の和傘を見て)か、傘だって木刀みたいなものじゃないか」
瑠璃は紺色の和傘を手に取ったまま鳴海のことを見る
瑠璃「(紺色の和傘を手に取ったまま鳴海のことを見て)確かに長い棒という括りに入れれば、両者は大きく共通しているかもしれないね。違いは空から降り注ぐを雫を弾けないことくらいさ」
少しの沈黙が流れる
鳴海は瑠璃が手に取っている紺色の和傘を見るのをやめる
鳴海「(瑠璃が手に取っている紺色の和傘を見るのをやめて)あ、あんたは傘をお土産で買いたいんだろ?」
瑠璃「(紺色の和傘を手に取って鳴海のことを見たまま少し笑って)和傘は仕事用なんだ、だからお土産ほど素敵な物ではないよ」
再び沈黙が流れる
瑠璃は紺色の和傘を手に取ったまま鳴海のことを見るのをやめる
瑠璃「(紺色の和傘を手に取ったまま鳴海のことを見るのをやめて)君は木刀をお目当てに、かんざしの似合う素敵な女性と話がしたかったんだろう?」
鳴海「な、何でそれを・・・」
瑠璃「(紺色の和傘を手に取ったまま)僕にも少しだけ分かるのさ、手に届かない大切な人のことを想う気持ちがね」
鳴海「あ、あんたは何者だ」
瑠璃「(紺色の和傘を手に取ったまま少し笑って)今君が目にしている通りの人間さ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「じゃ、じゃあ俺行くから・・・」
瑠璃「(紺色の和傘を手に取ったまま)待って」
瑠璃は紺色の和傘を商品棚に戻す
瑠璃「(紺色の和傘を商品棚に戻して)実は困っているんだ。君さえ良ければ、僕のことを救って欲しい」
鳴海「す、救うって・・・?」
瑠璃はポケットの中から一枚の紙を取り出す
一枚の紙を鳴海に差し出す瑠璃
◯2130鳴海の夢/温泉街(約30年前/夜)
約30年前の温泉街を歩いているスーツ姿の鳴海と瑠璃
温泉街にはたくさんの古い旅館や古いお土産屋がある
温泉街には鳴海と瑠璃の他にも浴衣を着た観光客や修学旅行生などで溢れている
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
鳴海は瑠璃から渡された紙を見ている
瑠璃から渡された紙には温泉街の地図と中国語の繁体字で文字が書かれている
地図に書かれた文字は中国語の繁体字ため鳴海には読めない
瑠璃から渡された地図を見ながら瑠璃に道案内をしている鳴海
瑠璃「悪いね、こんなことを頼んでしまって」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)悪いも何もたかが道案内じゃないか、救うってほどのことじゃないだろ」
瑠璃「僕は君の前にも三人の大人に道を教えて欲しいと頼んだんだ、でも断られてしまった。(少し間を開けて)だから君の行いは立派な人助けさ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)立派、か・・・仕事柄、地図を読むことはよくあるし、道案内だっていつもやってることと大差ないけどな・・・」
瑠璃「君は毎日人助けをしているのかい?」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)い、一応はそのつもりだ、と言っても実態はくだらない雑用なんだが・・・」
瑠璃「そのくだらない雑用で人を救っているんだから素晴らしいよ。君がいなければ僕は永遠に温泉街を彷徨っていたか、孤独で死んでしまっていたかもしれない」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)さ、さすがにそれはないだろ、いつかは誰かしらが助けたはずだ」
瑠璃「(少し笑って)君はずいぶん不確定な未来に期待をしているね」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)そ、そうか?」
瑠璃「(少し笑いながら)いつかというのは、とても曖昧な未来さ。僕だったら期待はしないよ」
少しの沈黙が流れる
瑠璃「誰かが僕を助けていたら、君との出会いはなかったことにしまうだろう?」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)あ、ああ。(少し間を開けて)りょ、旅行先で迷子を救うのも案外意味がある行為ということか」
瑠璃「君のような若い男の子に迷子と言われると、少し恥ずかしいね・・・」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)気にするなよ、歳だってそんなに差があるようには見えないしさ。それに俺もガキの頃、祭りで迷子になったことがあるんだ。でも見ず知らずのお兄さんが助けてくれて、俺を両親のところに連れて行ってくれたんだよ。(少し間を開けて)まあ俺は・・・その人の顔すら覚えてないんだが・・・」
瑠璃「忘れてしまったのかい?」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)ああ」
瑠璃「そういう時は、君が思い描いている人の顔を浮かべれば良いさ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)覚えてないのにどうやって思い浮かべるんだ?」
瑠璃「簡単なことだよ、自分が理想と思う人の顔を当てはめれば良いんだ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)そんなことをしたら別人になっちゃうだろ」
瑠璃「違う人になったって良いのさ、君の美しい思い出が汚されなければね」
再び沈黙が流れる
瑠璃「僕にはそういう思い出がないんだ、だから君が羨ましいよ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)日本の好青年に道案内されたのを思い出にしたらどうだ」
瑠璃「(少し笑って)確かに君は好青年だね、今晩優しくされた経験はずっと忘れないよ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)お前、中国から来たんだろ?」
瑠璃「中国じゃなくて香港さ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら 声 モノローグ)そうか・・・この時代はまだ香港が返還される前なのか・・・」
瑠璃「でも生まれは日本なんだ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)ど、通りで日本語が上手いわけだな」
瑠璃「ありがとう、僕も懐かしい言語で会話が出来て嬉しいよ」
再び沈黙が流れる
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)俺とお前さ・・・前に会ったことあるだろ・・・?」
瑠璃「(少し笑って)そうかい?会ったってどこで?」
瑠璃から渡された地図を見るのをやめる
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見るのをやめて)く、車ですれ違ったんだ」
瑠璃「(少し笑いながら)車で出会うとは珍しいね」
鳴海「し、信じてないんだな」
瑠璃「(少し笑いながら)僕の記憶が正しければ、君とは今日初めて出会ったよ。でも君の方はそうじゃないのかもしれないね」
鳴海「ど、どういうことだ?」
瑠璃「(少し笑いながら)僕を見たことある人は君以外にも大勢いるのさ」
鳴海「い、言ってることの意味がよく分からないんだが・・・も、もう少しちゃんと説明してくれ」
瑠璃「(少し笑いながら)分からないことは無理に理解しなくても良いんだ。僕はもう君に身を委ねている、月夜の散歩は好きだし、君のことも信頼出来そうだからね」
鳴海「俺の知り合いも・・・全貌が分からない方が魅力的だって言ってたが・・・」
瑠璃「僕もそう思うな、小さな脳みそで全てを知らなくてはいけないなんて無茶な話だ」
少しの沈黙が流れる
鳴海は再び瑠璃から渡された地図を見る
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見て)お、俺がお前のことを騙してるかもしれないぞ」
瑠璃「(少し笑って)君はそんなことしないさ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)な、何でそう言い切れるんだよ」
瑠璃「世界には分からないことがたくさん存在しているが、分かることだって確実にあるからね。その一つは、君が人を騙すような悪い奴じゃないってことさ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)に、人間は複雑な生き物なんだぞ」
瑠璃「複雑だからと言って、思考回路まで狭苦しくすることはないだろう?」
再び沈黙が流れる
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)な、何だか諭されてるみたいだな・・・」
瑠璃「(少し笑って)ごめん、仕事に引っ張られて気取ったことを言うのが僕の悪い癖なんだ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)も、もしかして学校の先生でもしてるのか?」
瑠璃「(少し笑いながら)僕が先生に見えるのかい?」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)しゅ、修学旅行の下見に来てる教師って可能性があり得るだろ」
瑠璃「(少し笑いながら)面白い考えだけど、君の予想は当たっていないよ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)じゃあ旅行会社の人だな、日本語を話せるから出張しに来たんだろ」
瑠璃「(少し笑いながら)残念、それも違う」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)せ、正解を教える気はあるのか?」
瑠璃「(少し笑いながら)僕が教えなくても、君は僕の仕事が何なのか知ることが出来ると思うよ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)つ、つまり言いたくないんだな」
瑠璃「(少し笑いながら)今の君との関係が好きなのさ、気楽に会話を楽しめて居心地が良いんだ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)お、俺は道案内もしなきゃならないし全く気楽じゃないんだぞ」
瑠璃「(少し笑いながら)それは申し訳ないと思っているよ、だが同時にありがたみも感じているんだ。君のように僕に接してくれる人は限られているからね」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)ひ、一人で日本に来たのか?」
瑠璃「仕事仲間とだよ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)そ、そいつとはぐれたせいでこんなことになってるんだな」
瑠璃「その人とはぐれてしまったおかげで君と出会えたのさ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)ど、どうせふらふら店を見てるうちに迷子になったんだろ」
瑠璃「(少し笑って)日本に来るのが久しぶりだったから、少し舞い上がってしまったんだよ、それで気が付いたら一人ぼっちさ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)仕事仲間は今頃怒ってるんじゃないのか」
瑠璃「(少し笑いながら)そうだろうね、きっと僕は酷く叱られるよ」
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見ながら)その言い方からしてお前は叱られるのに慣れてるらしいな」
瑠璃「(少し笑いながら)ああ、子供の頃からそうさ。香港にいると僕は外国人だし、男社会だったから、殴られたり蹴られたりするのが当然の毎日だったんだ」
鳴海は瑠璃から渡された地図を見るのをやめる
鳴海「(瑠璃から渡された地図を見るのをやめて)お前・・・」
鳴海は瑠璃のことを見る
瑠璃「(少し笑いながら)だから男社会が苦手なんだよ」
鳴海「(瑠璃のことを見ながら)で、でもお前は・・・」
瑠璃「(少し笑いながら)生きていると色々あるからね」
再び沈黙が流れる
鳴海は瑠璃のことを見るのをやめる
鳴海「(瑠璃のことを見るのをやめて)そうだな・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「そろそろ目的地のホテルか・・・」
瑠璃「うん、ありがとう。ここまで連れて来てもらえたら迷わずに済みそうだよ」
鳴海「なら俺の役目も無事に終了だな・・・と言ってもただ喋っていただけだが・・・」
瑠璃「(少し笑って)喋る相手がいたのが良かったんだ、寂しさを紛らわせたおかげで楽しい時間が過ごせたからね、全部君と出会えたからこそさ」
鳴海「お、俺もあんたと会えて良かったよ」
瑠璃は立ち止まる
瑠璃に合わせて立ち止まる鳴海
瑠璃「出来れば君にお礼がしたいんだ」
鳴海「別に礼なんて・・・」
瑠璃「君さえ良ければ僕たちと一緒に食事でもどうだい?ご馳走するよ」
鳴海「いや、これ以上タダ飯にあやかりたくないし、待ってる人もいるんだ。だから俺は行くよ」
再び沈黙が流れる
瑠璃「じゃあまた今度の機会にしよう、僕は今日から一週間この先のホテルに泊まるから、気が向いたら会いに来て」
鳴海「わ、分かった、そうするよ」
瑠璃「うん」
瑠璃は鳴海に手を差し出す
地図を持っていない方の手で瑠璃の手を取る鳴海
鳴海と瑠璃は握手をする
瑠璃と握手をしながらチラッと握手をしている瑠璃の右手首を見る鳴海
鳴海と握手をしている瑠璃の右手首には包帯が巻かれており、約30年後の◯2043の大きくて派手なデコレーショントラックを運転していた瑠璃と違って、赤いツツジの絵が描かれていない
鳴海「(瑠璃と握手をしながら)ほ、本当に会ったことはないんだよな」
瑠璃「(鳴海と握手をしながら)おそらくないと思う・・・残念だけど、僕は君と出会った覚えがないんだ」
鳴海「(瑠璃と握手をしながら)そうか・・・」
鳴海と瑠璃は手を離し、握手をするのをやめる
瑠璃「(鳴海と握手をするのをやめて)ごめんよ」
鳴海「いや・・・良いんだ。(少し間を開けて)それより腕はどうかしたのか?」
瑠璃「(少し笑って)ああ・・・少し怪我をしたのさ、もう治りかけだけどね」
少しの沈黙が流れる
瑠璃「今度会う時は君の話をいっぱい聞かせてくれ、君が見たという僕の分身や、人助けをしている君の日常のことを」
鳴海「お、面白くも何ともない話だぞ」
瑠璃「気にしないさ。僕は君のことが嫌いじゃない、だから君のする話だってきっと嫌いじゃないだろう」
鳴海「す、ストレートな表現だな・・・」
瑠璃「(少し笑って)真っ直ぐな気持ちでぶつかった方が君も素直になれると思ってね」
鳴海「そ、そうか・・・」
鳴海は地図を瑠璃に差し出す
瑠璃「(地図を鳴海に差し出されて)それは君に渡しておくよ、僕に会いに来る時に必要になるだろう?」
鳴海「(地図を瑠璃に差し出して)俺はもう道を覚えたから、お前が持っておいた方が良いと思うぞ。もしまた迷った時はこいつがないと困るだろうしさ」
再び沈黙が流れる
瑠璃は地図を鳴海から受け取る
瑠璃「(地図を鳴海から受け取って)ありがとう」
鳴海「おう。なるべく叱られないようにしろよな」
瑠璃「(少し笑って)叱られたって僕は心に留めないよ」
鳴海「そ、そんな調子で大丈夫なのか?」
瑠璃「(少し笑いながら)本当に僕のことを想ってくれている人の言葉にしか、耳を傾けないようにしているんだ、感情任せに言われても学ぶことはないからね」
鳴海「そうか・・・(少し間を開けて)それじゃあな」
瑠璃「バイバイ」
鳴海は瑠璃に背を向け、来た道を戻り始める
鳴海のことを見送っている瑠璃
瑠璃は鳴海のことを見送りながら、右手首に巻かれている包帯を服の袖で隠す
時間経過
温泉街を一人彷徨っている鳴海
鳴海は由夏理たちを探している
温泉街は変わらず浴衣を着た観光客や修学旅行生などで溢れている
鳴海「(由夏理たちを探しながら)この辺にもいないのか・・・今度は完全に俺が迷子になってるな・・・」
温泉街は観光客、修学旅行生、飲食店やお土産屋の売り子をしているスタッフたちのせいで騒がしくなっている
飲食店の売り子「(大きな声で)いらっしゃいいらっしゃい!!!!地元の水を使った温泉まんじゅうはこちらが一番だよ!!!!」
鳴海は由夏理たちを探し続ける
鳴海「(由夏理たちを探しながら大きな声で)すみれさん!!!!潤さん!!!!」
鳴海は由夏理たちを探し続けるが、由夏理たちはどこにもいない
すれ違った観光客の男の肩が由夏理たちを探している鳴海とぶつかる
鳴海とぶつかった観光客の男「(由夏理たちを探している鳴海と肩がぶつかって)気を付けろよガキ」
鳴海「(由夏理たちを探しながら小声でボソッと)ガキはすぐにキレるあんただろ」
鳴海とぶつかった観光客の男は由夏理たちを探している鳴海の肩を掴む
鳴海とぶつかった観光客の男「(由夏理たちを探している鳴海の肩を掴んで)今なんて言った」
鳴海「(観光客の男に肩を掴まれたまま由夏理たちを探すのをやめて)別に何も言ってないぞ、あんたの空耳じゃないか?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(観光客の男に肩を掴まれたまま)離してくれ」
鳴海とぶつかった観光客の男「(鳴海の肩を掴んだまま)一発殴らせてくれたら自由にしてやるよ」
鳴海「(観光客の男に肩を掴まれたまま)悪いが今殴られてる暇はないんだ」
鳴海とぶつかった観光客の男「(鳴海の肩を掴んだまま笑って)俺がお前の話を聞くと思ってるのか?」
鳴海「(観光客の男に肩を掴まれたまま)いや、だが俺も話を聞かない馬鹿と絡むのは慣れてるんだよ」
鳴海とぶつかった観光客の男「(鳴海の肩を掴んだまま笑って)面白い、どうやらボコボコにされたいらしいな」
再び沈黙が流れる
由夏理「(大きな声で)少年!!!!」
鳴海は観光客の男に肩を掴まれたまま由夏理の声が聞こえて来た方を見る
鳴海と観光客の男の数メートル後ろには由夏理、紘、すみれ、潤がいる
鳴海と観光客の男がいるところに駆け寄る由夏理、紘、すみれ、潤
由夏理は先に蝶のヘアアクセサリーが付いているかんざしで髪をまとめている
潤は一眼レフカメラを首から下げている
潤が首から下げている一眼レフカメラは古い物
潤「トラブルか?紘の代理」
鳴海「(観光客の男に肩を掴まれたまま)見ての通りだ」
鳴海とぶつかった観光客の男「(鳴海の肩を掴んだまま)お前のお友達は良い女を二人も連れてるのか」
鳴海「(観光客の男に肩を掴まれたまま)手を離してくれ」
鳴海とぶつかった観光客の男「(鳴海の肩を掴んだまま)そういうわけにはいくかよ、お前とお前が連れてる女には礼儀ってのを・・・」
紘「(鳴海とぶつかった観光客の男の話を遮って)女を連れているのはこいつじゃない」
鳴海とぶつかった観光客の男「(鳴海の肩を掴んだまま)何?」
紘「女の連れているはこの男じゃなくて俺だ。由夏理とすみれに用があるならまずは俺の顔を通せ、それが筋だ」
少しの沈黙が流れる
鳴海とぶつかった観光客の男「(鳴海の肩を掴んだまま)筋だと?」
紘「聞こえなかったのか?由夏理とすみれに用があるなら俺の顔を通せと言ったんだ」
鳴海とぶつかった観光客の男は鳴海の肩を離す
ゆっくり紘の前に行く鳴海とぶつかった観光客の男
鳴海とぶつかった観光客の男「(ゆっくり紘の前に行って)お前が女たちの飼い主か?」
紘「人と犬の違いも分からないんだな」
再び沈黙が流れる
すみれ「紘くん・・・」
紘「黙っていろすみれ」
鳴海とぶつかった観光客の男「こんな無愛想な男よりも俺と遊べよ、楽しいぞ」
由夏理「(少し笑って)あんたなんかと遊びたいって思う女がこの世界にいるわけないじゃん」
鳴海とぶつかった観光客の男はチラッと由夏理のことを見る
鳴海とぶつかった観光客の男「(チラッと由夏理のことを見て笑って)こういう女が男を殺すんだぜ」
紘「愛する女に命を食われることがそれほど重要か?」
鳴海とぶつかった観光客の男「(笑いながら)ああ、お前が早死にしてくれたら俺が泣いて喜べるからな」
紘「泣く奴は好きじゃない」
鳴海とぶつかった観光客の男「(笑いながら)泣いている女の顔をよく目にしているのにか?」
少しの沈黙が流れる
鳴海とぶつかった観光客の男はポケットから折り畳みナイフを取り出し、ナイフを広げる
鳴海とぶつかった観光客の男の折り畳みナイフを見た瞬間、すみれが何かを言おうとするが由夏理が止める
折り畳みナイフを紘に向ける鳴海とぶつかった観光客の男
紘「(鳴海とぶつかった観光客の男に折り畳みナイフを向けられて小声で)俺がお前だったら、その汚い眼球で周りをよく見るだろう・・・」
紘は鳴海とぶつかった観光客の男に折り畳みナイフを向けられたまま、自分の額を軽く叩く
紘「(鳴海とぶつかった観光客の男に折り畳みナイフを向けられたまま、自分の額を軽く叩いて小声で)考えなくても分かることだ・・・ここにはたくさんの人がいる・・・俺を刺し殺せても、これだけの観光客の中を逃げ切るのは不可能だろう・・・学生たちは血を見たらパニックを起こすぞ・・・騒ぎは人間の体感1秒よりも早く広まるだろうな・・・(少し間を開けて)さて・・・お前はどうする・・・?俺の命と一緒に自分の人生を刺し殺すか?」
紘は鳴海とぶつかった観光客の男に折り畳みナイフを向けられたまま。自分の額を軽く叩くのをやめる
再び沈黙が流れる
折り畳みナイフを紘に向けるのをやめる鳴海とぶつかった観光客の男
紘「賢い選択はしたな」
鳴海とぶつかった観光客の男は舌打ちをし、鳴海たちの元から離れて行く
再び沈黙が流れる
由夏理は鳴海に抱きつく
由夏理「(鳴海に抱きついて大きな声で)少年!!!!心配したんだよ!!!!」
◯2131◯1699の回想/緋空浜の近く/緋空祭り(約十数年前/夜)
満月が出ている
緋空浜の周囲で緋空祭りが行われている
5歳頃の鳴海、30歳頃の由夏理、同じく30歳頃の紘、10歳頃の風夏が緋空祭りにいる
鳴海たちがいるところは緋空浜の近く
緋空祭りではたこ焼き、チョコバナナ、りんご飴、射的、水風船のヨーヨー釣り、焼きそば、じゃがバター、わたあめ、カステラ、かき氷、金魚すくい、唐揚げ、フライドポテト、おもちゃのくじ引き、仮面が売られているお店などのたくさんの屋台がある
緋空祭りには浴衣や甚平を着た大勢の人がいる
緋空祭りにいる大勢の人は仮面を被っていたり、飲食をしていたり、水風船のヨーヨーを持っていたり、屋台の射的で遊んでいたりする
道には緋空祭りに合わせてたくさんの提灯が吊るされている
吊るされたたくさんの提灯は全て赤く光っている
5歳頃の鳴海は泣いている
泣いている5歳頃の鳴海のことを強く抱き締める由夏理
由夏理「(泣いている5歳頃の鳴海のことを強く抱き締めて大きな声で)心配したんだよ鳴海!!!!」
鳴海「(泣きながら同じく泣いている由夏理に強く抱き締められて)ご、ごめんなさい・・・」
◯2132回想戻り/鳴海の夢/温泉街(約30年前/夜)
約30年前の温泉街にいるスーツ姿の鳴海、由夏理、紘、すみれ、潤
温泉街にはたくさんの古い旅館や古いお土産屋がある
温泉街には鳴海たちの他にも浴衣を着た観光客や修学旅行生などで溢れている
温泉街は観光客、修学旅行生、飲食店やお土産屋の売り子をしているスタッフたちのせいで騒がしくなっている
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
由夏理は先に蝶のヘアアクセサリーが付いているかんざしで髪をまとめている
潤は一眼レフカメラを首から下げている
潤が首から下げている一眼レフカメラは古い物
由夏理に抱き締められている鳴海
鳴海「(由夏理に抱き締められたまま)ご、ごめん・・・」
由夏理「(鳴海を抱き締めたまま)私はまた君が・・・消えちゃったのかと・・・」
鳴海「(由夏理に抱き締められたまま)き、消えたっていつも戻って来てるだろ・・・」
由夏理「(鳴海を抱き締めたまま)そんなの突然だし・・・いつ会えるかも分からないじゃん・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(由夏理に抱き締められたまま)きょ、今日は・・・消えないから心配しないでくれ」
由夏理「(鳴海を抱き締めたまま)お姉さんと約束してよ少年・・・もういなくならないって・・・」
鳴海「(由夏理に抱き締められたまま)ああ・・・」
再び沈黙が流れる
潤「由夏理のせいで窒息しそうになってるぞ」
由夏理は慌てて鳴海から離れる
由夏理「(慌てて鳴海から離れて)ご、ごめん少年」
鳴海「い、いや、大丈夫だ」
潤「大丈夫じゃねえよ、こっちは一日に二回も人探しをさせられたんだぞ」
鳴海「わ、悪い」
少しの沈黙が流れる
紘「もう宿に戻ろう、これ以上の揉めごとは御免だ」
鳴海「あ、相手がナイフを持ってるなんて知らなかったんだよ」
紘「それが言い訳か?」
鳴海「い、言い訳をしてるつもりは・・・」
紘「(鳴海の話を遮って)俺たちが来なかったらお前はどうする気だった?まさか勝てると思っていたのか?」
鳴海「しょ、勝敗に興味はねえよ、そ、それに俺は助けを呼んだわけでも・・・」
紘「(鳴海の話を遮って)調子に乗るな、俺たちだってお前の始めた喧嘩に興味はない」
再び沈黙が流れる
紘は歩き始める
鳴海「じゃ、じゃあ何で割り込んで来たんだよ」
紘「お前が傷だらけになれば由夏理が悲しむと分からないのか?」
少しの沈黙が流れる
由夏理「そういうことだよ少年」
由夏理は歩き始める
潤「怪我もなくやり過ごせたんだ、てめえはまず紘に感謝しろよ」
潤は由夏理と紘の後をついて行く
再び沈黙が流れる
すみれ「キョドキョドは納得出来てないんでしょう・・・?」
鳴海「まあ・・・」
鳴海とすみれは歩き始める
鳴海「俺がいけないのは分かってるんですけど・・・」
すみれ「私も納得してないの、キョドキョド」
鳴海「す、すみれさんもですか?」
すみれ「うん。私の場合は・・・キョドキョドとはちょっと違って・・・喧嘩とか・・・暴力とか・・・そういうのが段々嫌になって来ているだけなんだけど・・・」
鳴海「お、俺だって別に拳で解決したいとは思ってませんよ」
すみれ「そう・・・?(少し間を開けて)由夏理も・・・紘も・・・キョドキョドも・・・力づくで何とかしているように見えたけど・・・」
鳴海「そ、そんなことないです、い、今だって誰も殴らずに平和になりましたし・・・」
すみれ「でも怪我をする可能性もあったでしょう?」
少しの沈黙が流れる
すみれ「お金に困っている人がいたとして・・・その人に必要な分のお金を渡せば、全てが丸く収まったとは言わないと思うの。(少し間を開けて)どうしてお金が必要なのか、きちんと理由を聞いて、一緒に対処するのが本当の優しさでしょう?それから、お金を渡した後もサポートをしてあげないと・・・」
鳴海「す、すみれさんみたいな良い人は・・・俺の周りじゃ一人しかいませんよ」
すみれ「じゃあその一人をキョドキョドが優しくしてあげてね」
鳴海「もちろん・・・そうします」
由夏理、紘、潤は一軒の古いお土産屋の前を通りかかる
一軒の古いお土産屋の前にはたくさんの人が集まっている
たくさんの人が集まっている古いお土産屋の前で立ち止まる由夏理、紘、潤
鳴海とすみれは由夏理たちに合わせてたくさんの人が集まっている古いお土産屋の前で立ち止まる
鳴海「(由夏理たちに合わせてたくさんの人が集まっている古いお土産屋の前で立ち止まって)何でこんなに人が集まってるんだ?」
潤「名物の菓子でもあるんだろ」
鳴海「それにしたって人が多い気がするが・・・」
お土産屋の前に集まったたくさんの人たちは瓦で出来た古いお土産屋の屋根を指差して話をしている
由夏理は瓦で出来た古いお土産屋の屋根を指差す
由夏理「(瓦で出来た古いお土産屋の屋根を指差して)ほら!!屋根に子猫がいるんだよ!!」
鳴海、紘、潤は由夏理が指差している瓦で出来た古いお土産屋の屋根を見る
瓦で出来た古いお土産屋の屋根には一匹の子猫が端の方でうずくまっており、降りられなくなっている
鳴海「(瓦で出来た古いお土産屋の屋根の端の方でうずくまっている子猫を見たまま)な、何であんなところに猫が・・・」
すみれ「(瓦で出来た古いお土産屋の屋根の端の方でうずくまっている子猫を見たまま)トンビが落として行ったのかも・・・この辺多いって聞いたから・・・」
紘は瓦で出来た古いお土産屋の屋根の端の方でうずくまっている子猫を見るのをやめる
紘「(瓦で出来た古いお土産屋の屋根の端の方でうずくまっている子猫を見るのをやめて)俺が助けに行く」
すみれは瓦で出来た古いお土産屋の屋根の端の方でうずくまっている子猫を見るのをやめる
すみれ「(瓦で出来た古いお土産屋の屋根の端の方でうずくまっている子猫を見るのをやめて)えっ?」
紘は靴を脱ぐ
瓦で出来た古いお土産屋の屋根の端の方でうずくまっている子猫を指差すのをやめる由夏理
紘「(靴を脱ぎながら)俺が助けに行くと言ったんだ」
由夏理「さっきから新婚早々未亡人になりそうな出来事が多過ぎるって紘」
紘「(靴を脱ぎながら)子猫を助けに行って由夏理が未亡人になったら笑えるな」
由夏理「もう・・・出来立てほやほやの嫁が心配してるんだよ」
紘「(靴を脱ぎながら)こんなことで俺が死ぬわけないだろう、由夏理」
由夏理「そ、そりゃそうだろうけどさ・・・」
紘は靴を脱ぎ終える
鳴海「だ、誰かが来るのを待つべきだろ」
紘「これだけ人が集まっているのに、直接助けようとしている奴がいるか?」
鳴海「そ、それは・・・」
紘「他人を頼る前に自分で行動を取った方が早い」
潤「お前には助けを呼んで待ってるって考えはねえのかよ」
紘「逆に言わせてもらうが、待っている間に猫が死ぬとは思わないんだな」
すみれ「紘くん、相手は子猫なんだよ、紘くんが捕まえ損ねたら、屋根から子猫が落ち・・・」
紘「(すみれの話を遮って)学生時代、俺が一度でもヘマをしたことがあったなら教えてくれ、すみれ」
すみれ「た、確かに・・・紘くんは今まで大きなミスをしていなかったかもしれないけど・・・(少し間を開けて)いつまでも運が続くとは限らないでしょう・・・?」
紘「俺はやるべきことをする、運なんて考えるだけ無駄だ」
すみれは心配そうな顔をしている
由夏理「お願いだから、貴志夫人をひとりにしないでよ」
紘「ああ。(少し間を開けて)みんな、どいてくれ」
紘は古いお土産屋の前に集まったたくさんの人たちをかき分けて前に進む
古いお土産屋の前にいた男1「お、おい兄ちゃん、ま、まさか脚立も無しで屋根に登ろうってんじゃ・・・」
紘「脚立がいるのは降りる時だろうな」
古いお土産屋の前にいた女1「や、やめときなさいよ、怪我をしてもし・・・」
紘「(古いお土産屋の前にいた女1の話を遮って)屋根の上に動けなくなっている子猫がいるのに、無傷の男の心配をするなんて変だぞ」
古いお土産屋の前にいた女1「わ、私はあなたのような馬鹿な若者が危険を冒すのを止めようとしているのよ」
紘「そうか、皮肉にもいつの時代も危険を冒すのをは若者というわけだな」
再び沈黙が流れる
古いお土産屋の前にいた男1「こ、この兄ちゃん本気だぞ!!み、みんなどいてやれ!!」
古いお土産屋の前にいた男1の声で紘の周りにいた人たちが紘から離れ始める
鳴海、由夏理、すみれ、潤は紘のことを見ている
古いお土産屋の商品棚に置いてあったお菓子を手に取る紘
紘は古いお土産屋のお菓子を地面に置く
古いお土産屋の商品棚の上に乗り、そのまま瓦で出来た古いお土産屋の屋根を両手で掴む紘
紘は瓦で出来た古いお土産屋の屋根を両手で掴んで、軽々と瓦で出来たお土産屋の屋根の上によじ登る
鳴海「(瓦で出来た古いお土産屋の屋根を両手で掴んで、軽々と瓦で出来たお土産屋の屋根の上によじ登った紘のことを見て)なんて無鉄砲な人なんだ・・・」
紘は慎重に瓦で出来た古いお土産屋の屋根の端の方でうずくまっている子猫に近付く
鳴海たちを含む古いお土産屋の前に集まった人たち全員が、瓦で出来た屋根の端の方でうずくまった子猫に慎重に近付いている紘のことを静かに見ている
少しずつ慎重に瓦で出来た古いお土産屋の屋根の端の方でうずくまっている子猫に近付いている紘
由夏理「(瓦で出来た屋根の端の方でうずくまった子猫に慎重に近付いている紘のことを見ながら)言ったでしょ少年、私の旦那さんはああいう人なんだって」
鳴海「(瓦で出来た屋根の端の方でうずくまった子猫に慎重に近付いている紘のことを見ながら)あ、ああ・・・(少し間を開けて)さすが・・・貴志夫妻は違うな・・・」
紘は慎重に瓦で出来た古いお土産屋の屋根の端の方でうずくまっている子猫の前で立ち止まり、そのまま子猫を抱き抱える
由夏理「(瓦で出来た古いお土産屋の屋根の上で子猫を抱き抱えた紘のことを見ながら)昔からさ、紘はやるべきことをする男なんだよ」
潤「(瓦で出来た古いお土産屋の屋根の上で子猫を抱き抱えた紘のことを見ながら)おかげで危険も多いがな・・・」
古いお土産屋の店員が店の中から脚立を持って来る
古いお土産屋の前に脚立を立てる古いお土産屋の店員
紘は子猫を抱き抱えたままゆっくり脚立を使って瓦で出来た古いお土産屋の屋根から降り始める
少しするとパトランプをつけたパトカーが古いお土産屋の前にやって来る
パトカーから警官が二人降りて来る
警官1「(パトカーから降りて紘に向かって)き、君!!な、何故我々が来るのを待っていなかったのかね!!」
紘は子猫を抱き抱えたまま脚立から降りる
抱き抱えている子猫を警官1に差し出す紘
紘「(抱き抱えている子猫を警官1に差し出して)待つのは好きじゃない」
少しの沈黙が流れる
警官1は子猫を紘から受け取り、子猫を抱き抱える
鳴海たちのところに戻る紘
紘「(鳴海たちのところに戻って来て)貴志夫人を一人にはしなかっただろう?」
由夏理「まあね。(少し間を開けて)貴志夫人は旦那さんが小さなヒーローになったことも嬉しいけどさ、それ以上に紘がちゃんと約束を守ってくれたことが嬉しいよ」
紘は靴を履く
紘「(靴を履いて)そうだろうとも」
潤「二件もトラブルを解決したことだし宿に戻るか」
紘「(靴を履きながら)ああ」
紘は靴を履き終える
警官2「お、おい!!この猫はどうする気だ!!」
紘は歩き出す
後ろ姿のまま二人の警官に手を振る紘
鳴海は後ろ姿のまま二人の警官に手を振っている紘のことを見ている
鳴海「(後ろ姿のまま二人の警官に手を振っている紘のことを見ながら小声でボソッと)お金を渡せば全てが丸く収まったとは言わない、か・・・」
◯2133鳴海の夢/旅館大部屋(約30年前/夜)
約30年前の旅館の大部屋に戻って来たスーツ姿の鳴海、由夏理、紘、すみれ、潤
旅館の大部屋は古い和室で広い
旅館の大部屋にはテーブル、座椅子があり、テーブルの上には急須、湯呑み、和菓子、灰皿が置いてある
旅館の大部屋には小さくて古いブラウン管のテレビがある
旅館の大部屋の窓際には広縁がある
旅館の大部屋の広縁には冷蔵庫、テーブル、椅子があり、テーブルの上には灰皿が置いてある
旅館の大部屋の広縁からは紅葉が見える
旅館の大部屋の広縁には障子があり、広縁を閉め切ることが出来る
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
由夏理は先に蝶のヘアアクセサリーが付いているかんざしで髪をまとめている
旅館の大部屋の隅の方には由夏理、紘、すみれ、潤のスーツケース、鳴海がお土産屋で購入した物が入っているビニール袋、すみれのブーケ、潤の古い一眼レフカメラが置いてある
話をしている鳴海たち
すみれ「みんな、晩ご飯の前に温泉に入らない?」
由夏理「良いね良いね!!こっちはドレスの時からシャワーを浴びたくてしょうがなかったんだよ」
潤「因みにここには混浴があるぞ」
由夏理「おっ、それは盛り上がっちゃうじゃん」
すみれ「混浴は新婚さんに譲るよ」
由夏理「え、みんなで裸の付き合いはするって約束は・・・?」
すみれ「由夏理、そんな約束はしてません」
由夏理「良いじゃーん、ポロリがないようにタオルで隠して、あとは潤を押さえつけておけば大丈夫だしさ、すみれ」
潤「何で俺を押さえつけるんだよ」
由夏理「そりゃ生まれついての変態だからでしょ〜」
潤「そんなのは紘もそうだろ」
紘「年中発情した猿のような顔をしているのはお前だ」
潤「てめえだって猿みたいな・・・」
由夏理「(潤の話を遮って)少年も混浴で良いよね?」
鳴海「か、勘弁してくれ・・・」
由夏理「(少し笑って)君はどこまで行っても恥ずかしがり屋さんなんだから〜」
すみれ「由夏理、キョドキョドには彼女がいるんだよ」
由夏理「ん、じゃあ誘うべからずか・・・?」
鳴海「そもそも混浴に入るべきじゃないだろ・・・」
由夏理「どうしてさ、友達同士なのに」
鳴海「と、友達同士だから入るべきじゃないって言ったつもりなんだけどな・・・」
由夏理「(呆れて)友達と温泉に入るチャンスをみすみす逃すなんて、君は本当に変わってるよね」
鳴海「あなたの方が変わってるだろ・・・」
少しの沈黙が流れる
由夏理「まあ良いさ、少年がそこまで嫌がるなら私たち4人だけで混浴を楽しんじゃうし?」
鳴海「どうぞお好きに・・・」
すみれ「キョドキョドは温泉に入らないの?」
鳴海「俺はこの部屋の風呂を借りるか、すみれさんたちが騒ぎ終えた後に一人で浸かりに行きますね・・・」
すみれ「私たち、騒がないよ、多分」
鳴海「多分ってついてる時点で信用出来ません・・・」
再び沈黙が流れる
潤「お前、仲間とプールに行っても自分だけ入らねえって言うんだろ」
鳴海「いや、そもそも俺はプールには行かないぞ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「俺は適当に過ごしてるから、みんなは先にひとっ風呂浴びて来いよ」
紘「今の言葉を聞いたか?(少し間を開けて)こいつは放っておいて俺たちだけで行くぞ」
鳴海「そうしてくれ」
由夏理「迷子になるんじゃないよ、少年」
鳴海「あなたも風呂場から逃亡しないようにな・・・」
時間経過
旅館の大部屋で一人小さくて古いブラウン管のテレビを横になって見ながら、由夏理たちが戻って来るのを待っている鳴海
小さくて古いブラウン管のテレビで流れているのは昔のお笑い番組
テーブルの上には小さくて古いブラウン管のテレビのリモコンが置いてある
鳴海「(横になり小さくて古いブラウン管のテレビで昔のお笑い番組を見ながら)テレビも古いわけか・・・(少し間を開けて)そりゃそうだよな・・・30年近くも前の時代なんだから・・・」
鳴海は横になったまま小さくて古いブラウン管のテレビで昔のお笑い番組を見るのをやめる
横になったままテーブルの上に置いてあった小さくて古いブラウン管のテレビのリモコンを手に取り、テレビを消す鳴海
鳴海は横になるのをやめて立ち上がる
◯2134鳴海の夢/旅館廊下(約30年前/夜)
約30年前の旅館の廊下を一人歩いているスーツ姿の鳴海
旅館の廊下は古く、鳴海が歩くごとに廊下の床の軋む音が聞こえて来る
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
鳴海は周囲を見ながら旅館の廊下を歩いている
鳴海「(周囲を見ながら)それにしても立派な旅館だな・・・今度菜摘や潤さんたちと泊まりに来るのもありか・・・」
少しすると鳴海は小さな広場に辿り着く
小さな広場を見る鳴海
小さな広場の壁には掛け軸が掛けてあり、掛け軸に貼られた半紙には”遊戯広場”と書かれてある
遊戯広場には使い古された卓球台、古いパチンコ、スロットが数台が置いてある
鳴海は遊戯広場を見るのをやめる
遊戯広場の中にある使い古された卓球台のところに行く鳴海
使い古された卓球台の上にはラケットが4本、ピンポン球が2球置いてある
鳴海はラケットとピンポン球を手に取る
ラケットの上でピンポン球を跳ねさせる鳴海
鳴海「(ラケットの上でピンポン球を跳ねさせて)卓球なら菜摘も楽しめるだろうしな・・・俺と菜摘ペア対・・・すみれさんと潤さんペアで勝負か・・・(少し間を開けて)なぜか負ける気しかしないのが不思議だ・・・」
鳴海はラケットの上で跳ねさせていたピンポン球を壁に当てる
ピンポン球で壁当てを始める鳴海
鳴海「(ピンポン球で壁当てをしながら)ボウリングもすみれさんは強かったからな・・・今のうちに練習して・・・菜摘に良いところを・・・」
旅館の若女将「(鳴海の話を遮って)壁にぶつけるのをやめて」
鳴海は慌ててピンポン球で壁当てをするのやめて振り返る
鳴海の後ろには旅館の若女将が立っている
鳴海「す、すみません・・・」
旅館の若女将「お友達はどうしたの?」
鳴海「お、温泉に行きました」
旅館の若女将「あなたは入らないのね」
鳴海「あ、後でゆっくり浸かろうかと思ってて・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海は使い古された卓球台の上にラケットとピンポン球を置く
旅館の若女将「町は楽しめた?」
鳴海「は、はい」
旅館の若女将「混んでいたでしょ?」
鳴海「そうですね・・・中高生と観光客で溢れ返ってました」
旅館の若女将「噂だけど、どこかの俳優さんが近くに泊まりに来てるらしいのよ」
鳴海「へぇー・・・有名な人ですか?」
旅館の若女将「よく知らないの、私はテレビをあまり見ないから名前も分からなくて」
再び沈黙が流れる
旅館の若女将「この辺りもどんどん新しいホテルとかお店が出来てるから、俳優さんが泊まるならうちみたいな古いところではないでしょうね」
鳴海「こ、ここも良いところだと思いますよ、俺、新しいものよりも古いものの方が好きですし」
旅館の若女将「ありがとう。(少し間を開けて)うちは旅館と書道教室をやってるんだけど、最近はどちらも全然お客様が入らなくて」
鳴海「書道教室・・・?」
旅館の若女将「そうよ、昔はよく泊まりに来たお客様に書道を教えていたの」
鳴海「なるほど・・・だから玄関にも字が飾ってあったんですね」
旅館の若女将「ええ。あなたも学校でやった?」
鳴海「しゅ、習字なら授業で少し習いましたけど・・・全然上手くならないしダメダメでしたよ」
旅館の若女将「上手い下手はそこまで気にしなくて良いわ。ただ口にするのが難しい言葉ってあるでしょ、そういう言葉は文字にするだけで気持ちが救われるのよ、だから学校でも字を書かせるんだと思うの」
鳴海「口にするのが・・・難しい言葉・・・ですか・・・」
旅館の若女将は頷く
◯2135Chapter2◯132の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(約一年前/放課後/夜)
波音高校の文芸部の部室にいる鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、千春
教室の隅にプリンター一台と部員募集の紙が置いてある
鳴海、嶺二、明日香、汐莉は机に向かって椅子に座っている
明日香の机の上にはパソコンが置いてある
菜摘と千春は二人で一台のパソコンに向かって部誌制作を行っている
汐莉は20Years Diaryに日記をつけている
汐莉の机の横にはギターケースが置いてある
話をしている明日香と汐莉
明日香「日記、書いてると役に立つ?」
汐莉「自分の行動を客観的に見たり、過去を遡るっていう意味では歴史が分かるので面白いですよ。創作をしていると読み返したりして役に立ちます」
◯2136◯1820の回想/公園(夕方)
夕日が沈みかけている
公園にいる鳴海と菜摘
鳴海は車椅子に乗っている
鳴海は右足だけサンダルを履いている
鳴海の右足には包帯が巻いてある
車椅子に乗ったまま右足を伸ばしている鳴海
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
公園には鳴海と菜摘の他に人はいない
菜摘は木の棒を持っており、公園の地面に大きな文字で何かを書いている
車椅子に乗り右足を伸ばしたまま、菜摘が木の棒で公園の地面に何かを書く姿を見ている鳴海
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして、菜摘が木の棒で公園の地面に何かを書く姿を見たまま)何を書いてるんだ?」
菜摘「(木の棒で公園の地面に大きな文字で何かを書きながら)秘密!!」
鳴海「(車椅子に乗り右足を伸ばして、菜摘が木の棒で公園の地面に何かを書く姿を見たまま)お、教えてくれよ!!」
菜摘「(木の棒で公園の地面に大きな文字で何かを書きながら)こういうのは知ったら面白さがなくなっちゃうからダメ!!」
◯2137回想戻り/鳴海の夢/旅館遊戯広場(約30年前/夜)
約30年前の旅館の遊戯広場にいるスーツ姿の鳴海と旅館の若女将
旅館の遊戯広場の壁には掛け軸が掛けてあり、掛け軸に貼られた半紙には”遊戯広場”と書かれてある
遊戯広場には使い古された卓球台、古いパチンコ、スロットが数台が置いてある
使い古された卓球台の上にはラケットが4本、ピンポン球が2球置いてある
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
話をしている鳴海と旅館の若女将
旅館の若女将「昔、学校の先生をしてた母がそれを教えてくれた。その母が学校の先生からここの女将になって、今は私が・・・(少し間を開けて)時代は前にしか進まないからこそ、受け継がれるものは確実に・・・」
少しの沈黙が流れる
旅館の若女将「うちは今月いっぱいで畳むの。だからきっと、あなたたちが最後のお客様ね」
鳴海「えっ・・・な、無くなっちゃうんですか・・・?」
旅館の若女将「(少し笑って)ええ、次は駐車場になるのよ」
鳴海「駐車場なんて・・・別になくても良いはずだ・・・」
旅館の若女将「人が集まる場所なんだから、車を止める場所も必要でしょ?」
再び沈黙が流れる
旅館の若女将「泊まりに来るのが人間から乗り物になるだけだもの、そんなに大きな違いはないのよ」
鳴海「で、でも女将はどうなるんすか・・・?」
旅館の若女将「親戚が海沿いの銭湯を経営しているんだけど、縁があって私が引き継がせてもらうことになってるの、だから無職にはならないわ」
鳴海「海沿いの・・・」
旅館の若女将「そうよ」
少しの沈黙が流れる
旅館の若女将「温泉にはゆっくり浸かってね。(少し間を開けて)脱衣所には冷蔵庫があるから、そこから好きなジュースを一本飲んで」
◯2138◯1866の回想/緋空銭湯女子脱衣所(昼前)
緋空銭湯の女子脱衣所にいる鳴海と伊桜
女子脱衣所には中心に番台があり、番台の向こうには男子脱衣所がある
女子脱衣所と男子脱衣所の間には仕切りがある
番台には女将のおばちゃんが座っている
女子脱衣所にはたくさんのロッカーがあり、着替えをしまえるようになっている
女子脱衣所には古いマッサージチェア、体重計、扇風機、数脚のソファ、透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫が置いてある
透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫には缶ジュース、瓶ジュース、缶ビール、瓶ビール、瓶の牛乳などが冷やされている
女子脱衣所は女湯と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま女湯に入れるようになっている
鳴海と伊桜はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている
緋空銭湯の全ての掃除を終えている鳴海と伊桜
鳴海は汗だくになっている
額の汗を拭う鳴海
鳴海「(額の汗を拭って)やっと終わった・・・」
番台のおばちゃん「二人ともご苦労様、そこの冷蔵庫から好きなジュースを一本を持ってて良いわよ」
番台のおばちゃんは女子脱衣所の中にある透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫を指差す
伊桜「いつもありがとうございます、女将」
番台のおばちゃんは女子脱衣所の中にある透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫を指差すのをやめる
番台のおばちゃん「(女子脱衣所の中にある透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫を指差すのをやめて少し笑って)割には合わないでしょうけど」
◯2139回想戻り/鳴海の夢/旅館遊戯広場(約30年前/夜)
約30年前の旅館の遊戯広場にいるスーツ姿の鳴海と旅館の若女将
旅館の遊戯広場の壁には掛け軸が掛けてあり、掛け軸に貼られた半紙には”遊戯広場”と書かれてある
遊戯広場には使い古された卓球台、古いパチンコ、スロットが数台が置いてある
使い古された卓球台の上にはラケットが4本、ピンポン球が2球置いてある
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
鳴海「ありがとう・・・ございます・・・女将・・・」
旅館の若女将「(少し笑って)良いのよ、温泉の割に合うかは分からないけど」
◯2140鳴海の夢/旅館大部屋(約30年前/夜)
約30年前の旅館の大部屋に一人いるスーツ姿の鳴海
旅館の大部屋は古い和室で広い
旅館の大部屋にはテーブル、座椅子があり、テーブルの上には急須、湯呑み、和菓子、灰皿が置いてある
旅館の大部屋には小さくて古いブラウン管のテレビがある
旅館の大部屋の窓際には広縁がある
旅館の大部屋の広縁には冷蔵庫、テーブル、椅子があり、テーブルの上には灰皿が置いてある
旅館の大部屋の広縁からは紅葉が見える
旅館の大部屋の広縁には障子があり、広縁を閉め切ることが出来る
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
旅館の大部屋の隅の方には由夏理、紘、すみれ、潤のスーツケース、鳴海がお土産屋で購入した物が入っているビニール袋、すみれのブーケ、潤の古い一眼レフカメラが置いてある
鳴海は旅館の大部屋で横になっている
鳴海「(声 モノローグ)どんな小さな物事にも・・・意味はあるのかもしれない・・・どんな小さな出来事でも・・・運命は働いているのかもしれない・・・どんな過去でも・・・必ず未来と結びつきがあるのかもしれない・・・」
少しすると由夏理、紘、すみれ、潤が大部屋の中にに入って来る
由夏理たちは旅館の着物を着ている
由夏理は先に蝶のヘアアクセサリーが付いているかんざしで髪をまとめている
由夏理「ただいま少年、ちゃんとお留守番出来た?」
鳴海「ああ・・・」
すみれ「良いお湯でしたよ、キョドキョド」
鳴海「俺も後で入ります」
潤「何だ、結局温泉に入るのか」
鳴海「勿体無いからな・・・入らなきゃ・・・」
由夏理「(少し笑って)ん、混浴だね?」
鳴海「お、男湯だ」
由夏理「(呆れて)全く少年という男は・・・」
由夏理はため息を吐き出す
紘「飯まで少し時間がある、温泉に入りたければ早めに行くんだな」
鳴海「あ、ああ」
鳴海は横になるのをやめて立ち上がる
紘「俺が案内しよう」
鳴海「あ、案内?」
紘「そうだ」
鳴海「べ、別に案内するほどの距離じゃないだろ?」
紘「良いからついて来い」
◯2141鳴海の夢/旅館廊下(約30年前/夜)
約30年前の旅館の廊下を歩いているスーツ姿の鳴海と旅館の着物を着た紘
旅館の廊下は古く、鳴海が歩くごとに廊下の床の軋む音が聞こえて来る
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
鳴海は着替えが入っているビニール袋を持っている
温泉に向かっている鳴海と紘
鳴海と紘は黙って歩いており、廊下の床が軋む音だけが二人の間で響いている
少しすると鳴海と紘は”男湯”、”女湯”と書かれたのれんがかかっている男子脱衣所と女子脱衣所の部屋の前に辿り着く
”男湯”と書かれたのれんがかかっている男子脱衣所の部屋の前で立ち止まる鳴海と紘
鳴海「(”男湯”と書かれたのれんがかかっている男子脱衣所の部屋の前で立ち止まって)じゃ、じゃあ俺は入って来るから・・・」
紘「まあ待て、少し話をしよう」
少しの沈黙が流れる
紘「さっきは助かったよ」
鳴海「さ、さっきって?」
紘「お前が由夏理を見つけてくれただろう」
鳴海「そ、そのことか・・・だ、大事な花嫁がいなくならなくて良かっ・・・」
紘「(鳴海の話を遮って)お前は特に俺と話をする時に緊張しているな」
鳴海「お、お喋りが苦手なだけだ」
再び沈黙が流れる
紘「まあ良い・・・(少し間を開けて)由夏理とはかなり親しいのか?」
鳴海「あ、ああ・・・」
紘「お前には・・・あいつの考えていることが分かるらしいな」
鳴海「そ、そんなことはない・・・」
紘「ならどうやって由夏理を見つけた?」
鳴海「そ、外を適当に歩いていたらって説明しただろ」
紘「俺がそんな偶然を信じると思うのか?」
鳴海「あ、あんたが何を信じようが俺の知ったことじゃない」
少しの沈黙が流れる
紘「お前は誰だ?何故名前を隠す?」
鳴海「お、俺は名前を言わない主義なんだ」
紘「名前を隠すのは、お前が悟られたくない秘密を抱えているからだろう」
鳴海「そ、そう言うあんたには秘密はないのか」
再び沈黙が流れる
紘「お前のことを怪しんでいるのは俺だけじゃない、すみれもだ」
鳴海「す、すみれさんが・・・?」
紘「ホテルで俺がお前に質問をしようとした時、すみれは意図的にそれを阻止した」
◯2142◯2111の回想/鳴海の夢/ホテル/エントランス(約30年前/夕方)
夕日が沈みかけている
約30年前の高級なホテルのエントランスにいるスーツ姿の鳴海、水色のウェディングドレスを着た由夏理、ピンクのパーティードレスを着たすみれ、スーツを着た紘
高級なホテルのエントランスはクラシックでお洒落なデザインをしている
ホテルのエントランスには鳴海たち以外にも家族連れ、カップルなどの宿泊客や従業員がたくさんいる
ホテルのエントランスにはソファがたくさんあり、座って休んでいる人がいる
ホテルのエントランスにはエレベーターが3機ある
ホテルのエントランスにはフロントがあり、フロントにはたくさんの従業員がいる
ホテルのフロントではチェックインやチェックアウトをしている宿泊客がたくさんいる
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
潤は一眼レフカメラを首から下げている
潤が首から下げている一眼レフカメラは古い物
話をしている鳴海たち
紘は鳴海のことを見ている
鳴海「そ、外を適当に歩いてたらばったり会ったんだ、み、見つけた以上は連れて帰って来て当然だろ」
紘「(鳴海のことを見たまま)適当にか」
鳴海「そ、そうだ」
紘「(鳴海のことを見たまま)お前には聞きたいことが・・・」
すみれ「(紘の話を遮って)由夏理、紘くん、戻らないの?」
少しの沈黙が流れる
すみれ「みんなこの後のブーケトスを待っているよ」
◯2143回想戻り/鳴海の夢/旅館男子脱衣所と女子脱衣所前(約30年前/夜)
約30年前の旅館の男子脱衣所と女子脱衣所の前にいるスーツ姿の鳴海と旅館の着物を着た紘
旅館の男子脱衣所と女子脱衣所の部屋の前にはそれぞれ”男湯”、”女湯”と書かれたのれんがかかっている
鳴海が着ているスーツは、◯2089、◯2090、◯2091、◯2092、◯2093で鳴海が風夏と龍造の結婚式で着ていたスーツと完全に同じ物
鳴海は着替えが入っているビニール袋を持っている
紘「彼女は賢い女性だ、お前の正体に気付いていなければ話を逸らしたりしない」
鳴海「か、考え過ぎだ」
紘「なら名前を言ってみろ」
少し沈黙が流れる
紘「もう一度聞く、お前は誰だ」
再び沈黙が流れる
鳴海「お、俺が誰なのか説明しても、あ、あなたはきっと納得しない」
紘「名前が分からない記憶喪失者か、それとも話が出来ないただの馬鹿か、お前はどちらだ?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「お、俺に言えるのは・・・(少し間を開けて)お、俺があなたたちに一度も悪意を向けていないということだけだ。わ、分かるだろ?さ、最初にあなたの奥さんと会った時からずっと、悪いことはしていないはずだ」
紘「由夏理は膝を怪我していたぞ」
鳴海「そ、それは事故なんだよ」
再び沈黙が流れる
紘「警告しておこう」
鳴海「な、何の警告だ」
紘「由夏理に近付き過ぎるな」
少しの沈黙が流れる
紘は鳴海から離れ大部屋がある方に戻って行く
◯2144鳴海の夢/旅館露天風呂(約30年前/夜)
約30年前の旅館の露天風呂にいる鳴海
露天風呂は小さく、鳴海しか人はいない
鳴海は露天風呂の湯船に浸かっている
露天風呂の湯船は竹で出来た湯口からお湯が出て来ている
露天風呂からは湯煙が上がっている
露天風呂からは紅葉が見える
鳴海「(露天風呂の湯船に浸かりながら)すみれさんが・・・(少し間を開けて)そうだよな・・・確かにあの人ならもう気付いててもおかしくは・・・いや・・・いくら何でも未来だぞ・・・しかもただの未来じゃなくて未来の夢だぞ・・・さすがにそこまでは考えつかないんじゃないのか・・・?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(露天風呂の湯船に浸かりながら)仮に俺の正体に気付いていないとしてもだ・・・何であの時話を逸らした・・・?俺を疑ってるからか・・・?俺を疑ってすみれさんにはどんな意味があるんだ・・・?」
鳴海はぶつぶつ独り言を言いながら露天風呂の湯船の中に潜り沈んで行く
少しの間露天風呂の湯船の中に潜り沈み続ける鳴海
鳴海は露天風呂の湯船の中に潜るのをやめて顔を出す
鳴海「(露天風呂の湯船の中に潜るのをやめて顔を出して)分からない・・(少し間を開けて)今回ばかりは完全にお手上げだ・・・」
鳴海は露天風呂の湯船に浸かりながら紅葉を見る
鳴海「(露天風呂の湯船に浸かりながら紅葉を見て)迂闊に探られて変な展開を迎えるよりは・・・先にこちらから正体を明かすのも手か・・・」
◯2145鳴海の夢/旅館男子脱衣所(約30年前/夜)
約30年前の旅館の男子脱衣所の中にいる旅館の着物の姿の鳴海
旅館の脱衣所の中は古く狭い
旅館の脱衣所の中には着替えを置くためのたくさんのカゴ、数客の古い椅子、透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫が置いてある
透明で中身が見えるようになっている冷蔵庫には缶ジュース、瓶ジュース、缶ビール、瓶ビール、瓶の牛乳などが冷やされている
鳴海は椅子に座って瓶の牛乳を飲んでいる
鳴海「(瓶の牛乳を飲みながら 声 モノローグ)しかし・・・未来のすみれさんと潤さんの記憶に俺のことはないんだよな・・・もしかしたら忘れているだけなのかもしれないが・・・」
◯2146鳴海の夢/旅館大部屋(約30年前/夜)
約30年前の旅館の大部屋に一人いる旅館の着物姿の鳴海
旅館の大部屋は古い和室で広い
旅館の大部屋にはテーブル、座椅子があり、テーブルの上には急須、湯呑み、和菓子、灰皿が置いてある
旅館の大部屋には小さくて古いブラウン管のテレビがある
旅館の大部屋の窓際には広縁がある
旅館の大部屋の広縁には冷蔵庫、テーブル、椅子があり、テーブルの上には灰皿が置いてある
旅館の大部屋の広縁からは紅葉が見える
旅館の大部屋の広縁には障子があり、広縁を閉め切ることが出来る
旅館の大部屋の隅の方には由夏理、紘、すみれ、潤のスーツケース、すみれのブーケ、潤の古い一眼レフカメラが置いてある
旅館の大部屋のテーブルには置き手紙がある
テーブルの上の置き手紙には”お腹が空いたので先にご飯を食べるね!!許して少年!!”と書いてある
鳴海はテーブルの上の置き手紙を見ている
鳴海「(テーブルの上の置き手紙を見ながら)何だこのどこかの誰かを彷彿とさせるような雑な置き手紙は・・・」
◯2147鳴海の夢/旅館食事処(約30年前/夜)
約30年前の旅館の食事処にいる鳴海、由夏理、紘、すみれ、潤
旅館の食事処は古い和室で広い
鳴海、由夏理、紘、すみれ、潤は座布団に座っており、鳴海たちの前にはそれぞれテーブルが置いてある
由夏理、紘、すみれ、潤のテーブルの上にはすき焼きの土鍋と瓶ビールが置いてある
鳴海のテーブルの上には取り皿が置いてある
鳴海たちは旅館の着物を着ている
由夏理は先に蝶のヘアアクセサリーが付いているかんざしで髪をまとめている
夕飯を食べている由夏理、紘、すみれ、潤
由夏理「少年、取り皿貸して」
鳴海「えっ?」
由夏理「すき焼きを分けてあげるからさ」
鳴海「い、いや良いよ」
由夏理「じゃあ何も食べないつもりなのかね君は」
鳴海「そ、そういうわけじゃないが・・・(少し間を開けて)じゅ、潤さんから分けて貰うよ」
潤「何で俺がてめえにやるんだ」
すみれ「潤くん」
潤「由夏理があげたいって言ってるんだから由夏理で良いじゃねえか」
すみれ「みんなで少しずつ分け合うの。少しずつ、みんなで、分かりますか?潤くん」
潤「はい・・・」
由夏理は鳴海のテーブルの上に置いてあった取り皿をすかさず奪う
鳴海「(テーブルの上に置いてあった取り皿を由夏理に奪われて)お、おい!!」
由夏理「お肉をあげるのにおいはないでしょー」
鳴海「す、すまん・・・」
由夏理はすき焼きの土鍋から牛肉、長ネギ、春菊、椎茸を鳴海の取り皿によそう
鳴海「あー・・・ひ、一つ頼みがあるんだが・・・」
由夏理「(すき焼きの土鍋から牛肉、長ネギ、春菊、椎茸を鳴海の取り皿によそいながら)ん?お肉がもっと欲しいって?」
鳴海「そ、そうじゃなくてだな・・・(少し間を開けて)し、椎茸を入れないで欲しいんだ」
由夏理はすき焼きの土鍋から牛肉、長ネギ、春菊、椎茸を鳴海の取り皿によそうのをやめる
由夏理「(すき焼きの土鍋から牛肉、長ネギ、春菊、椎茸を鳴海の取り皿によそうのをやめて)どうして椎茸はダメなのさ」
鳴海「に、苦手なんだよ・・・」
少しの沈黙が流れる
すみれ「好き嫌いしていたら大きくなれませんよ、キョドキョド」
鳴海「お、俺これ以上身長を伸ばす必要はないので・・・」
潤「椎茸が食えねえとかガキだな」
鳴海「お、大人でも苦手はもんはあるんだよ!!」
再び沈黙が流れる
紘「由夏理、椎茸だけ入れてといてやれ」
鳴海「や、やめろ!!」
由夏理「少年はしょうがない子だなー・・・椎茸以外に苦手な物はあるの?」
鳴海「な、茄子とところてんだ」
すみれ「えー・・・全部美味しいのに・・・」
鳴海「そ、その反応はやめてください、俺にとっては全部天敵なんですから・・・」
由夏理は鳴海の取り皿によそった椎茸をすき焼きの土鍋に戻す
潤「戻すとは行儀の悪い花嫁だ」
由夏理「(鳴海の取り皿によそった椎茸をすき焼きの土鍋に戻して)仕方ないじゃん、食べられないんだからさ」
紘「由夏理はこいつのことを甘やかし過ぎだ」
由夏理は再びすき焼きの土鍋から牛肉、長ネギ、春菊を鳴海の取り皿によそう
由夏理「(すき焼きの土鍋から牛肉、長ネギ、春菊を鳴海の取り皿によそって)私も苦手な食べ物があるし少年の気持ちが分かるんだよ」
すみれ「由夏理はピーマンとグリーンピースが食べられないもんね」
由夏理「(すき焼きの土鍋から牛肉、長ネギ、春菊を鳴海の取り皿によそいながら)私の弱点を言わないでって、緑色の食べ物が苦手なことがバレちゃうじゃんすみれ」
鳴海「それだと野菜は全般アウトじゃないか」
由夏理「(すき焼きの土鍋から牛肉、長ネギ、春菊を鳴海の取り皿によそいながら不機嫌そうに)悪かったねー、子供舌でー」
鳴海「こ、子供舌とは言ってないけどな・・・」
由夏理は牛肉、長ネギ、春菊を鳴海の取り皿によそうのをやめる
牛肉、長ネギ、春菊をよそった取り皿を鳴海に差し出す
由夏理「(牛肉、長ネギ、春菊をよそった取り皿を鳴海に差し出して)おかわりが欲しかったら遠慮しないで言うんだよ少年」
紘はチラッと牛肉、長ネギ、春菊がよそわれた取り皿を由夏理から差し出されている鳴海のことを見る
牛肉、長ネギ、春菊がよそわれた取り皿を由夏理から受け取る鳴海
鳴海「(牛肉、長ネギ、春菊がよそわれた取り皿を由夏理から受け取って)あ、ありがとう・・・」
◯2148鳴海の夢/旅館大部屋(約30年前/深夜)
約30年前の旅館の大部屋にいる鳴海、由夏理、紘、すみれ、潤
旅館の大部屋は古い和室で広い
旅館の大部屋にはテーブル、座椅子があり、テーブルの上には急須、湯呑み、和菓子、灰皿が置いてある
旅館の大部屋には小さくて古いブラウン管のテレビがある
旅館の大部屋の窓際には広縁がある
旅館の大部屋の広縁には冷蔵庫、テーブル、椅子があり、テーブルの上には灰皿が置いてある
旅館の大部屋の広縁からは紅葉が見える
旅館の大部屋の広縁には障子があり、広縁を閉め切ることが出来る
旅館の大部屋の隅の方には由夏理、紘、すみれ、潤のスーツケース、すみれのブーケ、潤の古い一眼レフカメラが置いてある
鳴海たちは旅館の着物を着ている
由夏理は先に蝶のヘアアクセサリーが付いているかんざしで髪をまとめている
テーブルの上でトランプタワーを作っている鳴海、由夏理、すみれ、潤
紘は広縁のテーブルに向かって椅子に座り、紅葉を見ながら缶ビールを飲んでいる
テーブルの上に積み上げていたトランプタワーをすみれが崩す
すみれ「(テーブルの上に積み上げていたトランプタワーを崩して大きな声で)あー!!!!」
由夏理「また崩したね?すみれ」
すみれ「ずっと集中しているつもりなのに・・・」
潤は崩れたトランプカードを手に取り、慎重にタワーを作り始める
キャンディーズの”ハートのエースが出てこない”を鼻歌で歌い始めるすみれ
潤「(慎重にトランプタワーを作りながら)一日体を使ってるからな、疲れが出ても無理はない頃だ」
鳴海「な、なあ・・・と、トランプなんだから神経衰弱とかババ抜きをしないか・・・?」
潤「(慎重にトランプタワーを作りながら)ジジイやババアを押し付け合うよりも不可能に近いことを達成する方が楽しいだろ」
鳴海「と、トランプタワーじゃなきゃいけない理由が分からないんだが・・・」
すみれはキャンディーズの”ハートのエースが出てこない”を鼻歌で歌うのをやめる
すみれ「(キャンディーズの”ハートのエースが出てこない”を鼻歌で歌うのをやめて)キョドキョドはこういう難しいことに挑戦して成功したら、他の不可能に近い出来事だって頑張れば叶うんじゃないかって思わない?」
鳴海「ど、どうですかね・・・」
潤「(慎重にトランプタワーを作りながら)俺はトランプタワーの成功という名の奇跡が見てえんだよ」
鳴海「そ、そうか、勝手に頑張ってくれ」
由夏理「トランプタワーが完成すれば、ほぼ奇跡を起こしたと言っても過言じゃないだぞ少年」
鳴海「か、過言過ぎるだろ・・・」
すみれ「キョドキョドはもう少し夢を見た方が良いと思います」
鳴海「夢、ですか・・・」
すみれ「うん」
潤が積み上げていたトランプタワーは二段目で崩れ落ちる
少しの沈黙が流れる
由夏理「どうやら今日は集中力的に限界かもね〜」
潤「ああ・・・トランプタワーへの挑戦はまた明日か・・・」
鳴海「それなら神経衰弱かババ抜きを・・・」
すみれ「(鳴海の話を遮って)そろそろ寝ましょうか」
由夏理「え、肝試しは?」
潤「修学旅行じゃねえんだぞ」
由夏理「高校の頃ゴーストをバスターしようって話をしてたじゃん!!」
潤「そんな昔の話を引っ張り出されてもな・・・」
潤は大きなあくびをする
鳴海「き、肝試しはともかく、みんなで神経衰弱かババ抜きを・・・」
すみれ「(鳴海の話を遮って)スピードなら一人でも出来るよ」
鳴海「へっ?」
すみれ「キョドキョドはトランプで遊びたいんでしょう?」
鳴海「スピードは一人遊びですよね・・・」
すみれ「うん」
由夏理「(不思議そうに)何で肝試しがなかったことになってるんだ・・・?」
潤「おいお前ら、明日の予定が決まったぞ」
すみれ「何するの?」
潤「スピーディングゴーストバスターだ」
由夏理「(少し笑って)私と少年の遊びが合体してるじゃん」
鳴海「いや・・・俺・・・スピードがしたいなんて一言も言ってないんだが・・・」
すみれ「明日の予定は明日ゆっくり立てましょう」
由夏理「そんなノロノロ考えて動いてたら旅行が終わっちゃうって!!」
すみれ「たまにはノロノロ考えて動くのも大事ですよ、由夏理」
由夏理「そりゃあんまりじゃん!!私は明日もたくさん遊ぶ気でいるのにさ!!」
鳴海「そ、そうだ、明日は俺の友達・・・でもないか・・・(少し間を開けて)め、飯に誘ってくれてる奴がいるからそいつのところに行ってみないか?」
潤「誰だよ飯に誘ってくれてる奴って」
鳴海「お、俺もよく分からないんだが、少なくとも悪い奴ではないはずだ」
すみれ「どんな人なの?」
鳴海「か、変わった奴ですよ。迷子になってるところを俺が助けたんです」
由夏理「少年が変わってるって言うならその子は相当の変態だな、きっと」
潤「というか実在してるのかよそいつは、どうせゴーストじゃねえのか」
鳴海「な、何でもかんでもゴーストバスターと結びつけようとするのはやめてくれ」
潤「ならもっと詳細を説明しろ、まず男か女かどっちだ」
鳴海「そ、それは・・・」
考え込む鳴海
すみれ「考えないと分からないんだね・・・」
鳴海「た、多分男ですよ」
由夏理「裸を見たわけでもないのにどうして男だって分かるのさ」
鳴海「た、確かにな・・・じゃあ女かもしれない・・・」
再び沈黙が流れる
潤「紘、今日はもう寝るぞ」
鳴海「お、おい・・・」
由夏理「何でよー、寝るのはゴーストを掃除機で吸い取ってからで良いじゃーん」
紘は紅葉を見るのをやめる
缶ビールを一気に飲み干す紘
紘「(缶ビールを一気に飲み干して)何をするにしてもまた明日だ由夏理」
由夏理「私まだ寝たくないんだけどなー・・・」
紘「文句を言っていないで布団を敷くぞ」
由夏理「うー・・・夜からはこれからなのにさー・・・」
鳴海「(声 モノローグ)母さんは名残惜しそうだった、まだ今日という1日が終わってほしくないのかもしれない」
時間経過
旅館の大部屋の電気は消えており、広縁の窓から月の光が差し込んでいる
旅館の大部屋には鳴海、由夏理、紘、すみれ、潤の布団が敷いてある
鳴海は布団の上で横になって両目を瞑り、寝たふりをしている
広縁のテーブルに向かって椅子に座り一人紅葉を眺めている由夏理
布団の上で眠っている紘、すみれ、潤
潤はいびきをかきながら眠っている
旅館の大部屋のテーブルの上にはトランプが散らばっている
広縁のテーブルの上にはタバコの箱と使い捨てライターが置いてある
広縁のテーブルの上の灰皿には吸殻が溜まっている
鳴海「(両目を瞑って寝たふりをしながら 声 モノローグ)潤さんのいびきが響く中、母さんだけは布団に入ろうとしない。その後ろ姿は誰かを待っているみたいだ。(少し間を開けて)俺は正直眠かったが、夢から覚めてしまうのが怖くて眠ろうという気にはなれなかった」
鳴海は両目を瞑って寝たふりをしながら体の向きを変える
紅葉を眺めながら静かにため息を吐き出す由夏理
鳴海は両目を開けて寝たふりをするのをやめる
広縁のテーブルに向かって一人椅子に座っている由夏理のことを見る鳴海
鳴海「(広縁のテーブルに向かって一人椅子に座っている由夏理のことを見て 声 モノローグ)なんて声をかけよう・・・若い頃の母に・・・俺は何を言うのが正解なんだろうか・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海は広縁のテーブルに向かって一人椅子に座っている由夏理のことを見るのをやめる
鳴海「(広縁のテーブルに向かって一人椅子に座っている由夏理のことを見るのをやめて 声 モノローグ)改まって話をするのは緊張する・・・母さんも父さんも・・・俺にとっては今でも遠い人のままだ・・・」
少しの間潤のいびきだけが大部屋の中に響き渡る
目を覚ます紘
紘は広縁のテーブルに向かって一人由夏理が椅子に座っていることに気付く
布団から出る紘
紘は由夏理のところに行く
広縁のテーブルに向かって椅子に座る紘
由夏理は紅葉を眺めるのをやめる
紘「(小声で)眠れないのか?」
由夏理「(小声で)うん」
再び沈黙が流れる
由夏理「(小声で)幸せな結婚式だったよ」
紘「(小声で)君の言葉には嘘が滲んでいる」
由夏理「(少し笑って小声で)私は楽しかったし、幸せなのに何で疑うのさ」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(少し笑いながら小声で)世界中を探してもこんなに幸せな花嫁はなかなかいないでしょ?」
紘「(小声で)貴志夫人がそう思っているなら・・・それで良いが」
鳴海は由夏理と紘の会話を盗み聞きしている
テーブルの箱に置いてあったタバコの箱を手に取る由夏理
由夏理はタバコの箱からタバコを一本取り出す
タバコを口に咥える由夏理
由夏理はタバコを咥えたままタバコの箱をテーブルの上に置く
テーブルの上に置いてあった使い捨てライターを手に取る紘
紘「(テーブルの上に置いてあった使い捨てライターを手に取って小声で)明かりは俺がつける」
由夏理「(タバコを咥えたまま少し笑って小声で)それはさっきの少年の真似かい?」
紘「(小声で)真似などするものか。俺は俺の言葉で由夏理に向き合って家族を守ろうとしているんだ」
紘は使い捨てライターの着火レバーを押す
紘が使い捨てライターの着火レバーを押すと、ライターの火が付く
紘は使い捨てライターの着火レバーを押したまま、由夏理が咥えているタバコに火を付ける
由夏理が咥えているタバコに火を付けて使い捨てライターの着火レバーを押すのをやめる紘
由夏理はタバコを煙を吐き出す
使い捨てライターをテーブルの上に置く紘
由夏理「(タバコを咥えたまま少し笑って小声で)これ以上向き合われたらますます好きになっちゃうな・・・私・・・」
再び沈黙が流れる
由夏理「(タバコを咥えたまま小声で)旦那さんが明日も元気でいてくれないと困るからさ、今日はしっかり寝なよ」
紘「(小声で)君も早く寝るんだ」
由夏理「(タバコを咥えたまま小声で)ん、これを吸い終えたら布団に入るね」
紘「(小声で)そうか・・・分かった」
由夏理「(タバコを咥えたまま小声で)おやすみ、旦那さん」
紘「(小声で)おやすみ貴志夫人」
紘は立ち上がる
布団に戻る紘
少しの沈黙が流れる
鳴海は再び両目を瞑る
両目を瞑って寝たふりをしている鳴海
鳴海「(両目を瞑って寝たふりをしながら 声 モノローグ)今の親父のやり方は・・・正しくない・・・違う・・・間違っているんだ・・・(少し間を開けて)母さんが求めていたのはあんな陳腐な会話じゃない・・・」
誰かが布団から出る音が聞こえる
再び沈黙が流れる
由夏理「(小さな声)ごめん、起こしちゃったね」
すみれ「(小さな声)ううん」
両目を瞑って寝たふりをしている鳴海には由夏理とすみれの会話が聞こえて来ている
すみれ「(小さな声)由夏理、どうして眠らないの?」
由夏理「(小さな声)どうしてって・・・そりゃ眠れないからだよ」
すみれ「(小さな声)じゃあ・・・眠れない原因は・・・?」
由夏理「(小さな声)さあ・・・何だろうね・・・?」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(小さな声)すみれ、潤とはどうなの?」
すみれ「(小さな声)順調だよ、結婚はまだ先になりそうだけど・・・(少し間を開けて)由夏理は紘くんとどう?」
由夏理「(小さな声)私たちには・・・愛があると思う・・・お互いのことを強く想ってるからさ」
すみれ「(小さな声)良いね、二人は素敵な夫婦だよ」
広縁の障子を閉める音が聞こえて来る
鳴海は両目を開けて寝たふりをするのをやめる
広縁を見る鳴海
広縁の障子は閉め切っており、障子のシルエット越しにテーブルに向かって椅子に座りタバコを吸っている由夏理とすみれの姿が見えている
すみれ「(小さな声)タバコ貰って良い?」
由夏理「(小さな声)ん・・・」
鳴海には広縁の障子のシルエット越しに由夏理がテーブルの上のタバコの箱を手に取っているのが見えている
タバコの箱をすみれに差し出す由夏理
すみれはタバコの箱を由夏理から受け取る
すみれ「(タバコの箱を由夏理から受け取って小さな声)ありがとう」
鳴海には広縁の障子のシルエット越しにすみれがタバコの箱からタバコを一本取り出し、タバコを口に咥えるのが見えている
タバコの箱をテーブルの上に置くすみれ
由夏理「(小さな声)火、いる?」
すみれ「(小さな声)お願い」
由夏理はタバコを咥えたまま、同じくタバコを咥えているすみれの顔に近付く
由夏理とすみれはタバコを咥えたまま、お互いのタバコの先を当てる
由夏理が咥えているタバコの火がすみれのタバコに移る
鳴海には広縁の障子のシルエット越しに由夏理とすみれがタバコを使ってキスをしているのが見えている
タバコを咥えたまますみれの顔から離れる由夏理
すみれはタバコの煙を吐き出す
鳴海には広縁の障子のシルエット越しに由夏理とすみれ、そしてすみれが吐き出したタバコの煙が見えている
タバコを咥えたまま顔を見合わせる由夏理とすみれ
タバコを咥えたまま由夏理とすみれは笑い出す
すみれ「(由夏理と顔を見合わせながら笑って小さな声)潤くんと紘くんもこういうことをしてると思う?」
由夏理「(すみれと顔を見合わせながら笑って小さな声)あの二人が?ないない、こんな遊びしてるのは私たちだけでしょ?」
すみれ「(由夏理と顔を見合わせながら笑って小さな声)そうだよね、こういうのって女同士だけだよね」
由夏理「(すみれと顔を見合わせながら笑って小さな声)うん」
再び沈黙が流れる
由夏理はタバコを咥えたまますみれと顔を見合わせるのをやめる
タバコの煙を吐き出す由夏理
由夏理「(小さな声)男とはタバコのチュウをしない方が良いんだってさ」
すみれ「(小さな声)どうして?」
由夏理「(小さな声)なーんか良くないらしいんだよ」
すみれ「(小さな声)説明が雑過ぎませんか、由夏理」
由夏理「(小さな声)良くないって聞いたからさ、私は紘としなくなったんだ」
すみれ「(小さな声)そんなこと気にしなくても良いのに・・・(少し間を開けて)私、潤くんと何回もしているけど、悪いことは起きてないでしょう?」
由夏理「(小さな声)まだ分からないじゃん・・・?これから先のことなんて予想がつかないしさ・・・」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(小さな声)ご、ごめん・・・」
すみれ「(小さな声)ううん、大丈夫」
鳴海は広縁の障子のシルエット越しに由夏理とすみれのことを見ながら、由夏理とすみれの会話を盗み聞きしている
すみれ「(小さな声)由夏理は何で悩んでいるの?」
由夏理「(小さな声)何だろうね・・・(少し間を開けて)私・・・色々考えちゃってさ・・・幸せとは何だろう・・・とか・・・そういう漠然と大きいをことをね・・・」
すみれ「(小さな声)紘くんと一緒にいても?」
由夏理「(小さな声)紘のことは好きだよ、離れたくないって思ってる。でもさ・・・紘は・・・」
すみれ「(小さな声)紘くんが・・・?」
再び沈黙が流れる
由夏理「(小さな声)やっぱ私はいつも・・・あいつに置いて行かれてる気がするんだよね。(少し間を開けて)人生に冒険があるならさ・・・私も紘と一緒に味わいたいんだけど・・・」
すみれ「(小さな声)由夏理」
由夏理「(小さな声)ん・・・?」
すみれ「(小さな声)あなたたちはもう十分過ぎるほど冒険をしてるでしょう・・・?」
少しの沈黙が流れる
すみれ「(小さな声)由夏理と紘くんの間には愛があって、二人で生きていくと決めたんだから・・・ちゃんと幸せを追い求めてよ。よそ見をせずに」
再び沈黙が流れる
すみれ「(小さな声)私と潤くんは二人のことを応援しています」
由夏理「(小さな声)ありがと・・・」
すみれ「(小さな声)悩みは友達に相談して・・・」
由夏理「(すみれの話を遮って小さな声)ねえすみれ」
すみれ「(小さな声)何・・・?」
由夏理「(小さな声)今からどこかに行かない?」
すみれ「(小さな声)もうあと数時間したら日が上るのに?」
由夏理「(小さな声)散歩くらいしたって良いじゃん・・・?」
すみれ「(小さな声)良いわけないでしょう、それに散歩なんて明日も出来るのに」
由夏理「(小さな声)そうだけどさ・・・今したって楽しいと思うんだよね」
少しの沈黙が流れる
鳴海には広縁の障子のシルエット越しにすみれがテーブルの上の灰皿を使ってタバコの火を消しているのが見えている
すみれ「(小さな声)私はもう寝るよ、由夏理も早く休んで」
再び沈黙が流れる
すみれは立ち上がる
広縁の障子をゆっくり開けるすみれ
鳴海は慌てて両目を瞑り寝たふりをする
布団に戻るすみれ
変わらず広縁でタバコを吸い続ける由夏理
少しの沈黙が流れる
鳴海「(両目を瞑って寝たふりをしながら 声 モノローグ)すみれさんも失敗だ・・・(少し間を開けて)このままあの人がタバコを吸い終えれば・・・満足出来なかった結婚式の日になってしまう・・・」
鳴海は再び両目を開ける
広縁のテーブルに向かって一人椅子に座りタバコを吸っている由夏理のことを見る
鳴海「(広縁のテーブルに向かって一人椅子に座りタバコを吸っている由夏理のことを見て 声 モノローグ)俺も試すしかない・・・あの人の望みを叶えられるかどうか・・・」
鳴海は広縁のテーブルに向かって一人椅子に座りタバコを吸っている由夏理のことを見るのをやめる
布団から出る鳴海
鳴海は由夏理のところに行く
鳴海「(由夏理のところに行って)よ、夜更かしをするつもりか」
由夏理「(タバコを咥えたまま残念そうに小声で)なんだ・・・今度は少年か」
鳴海「(小声で)お、俺で悪かったな・・・」
由夏理はタバコの煙を吐き出す
由夏理「(タバコの煙を吐き出して小声で)今晩はやけにお客さんが多くてさ、不思議だよ」
鳴海「(小声で)あ、あなたが結婚したからだろ」
由夏理「(タバコを咥えたまま小声で)なるほどね・・・その割にはみんながみんな祝ってくれてるという感じじゃないけどさ・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「(小声で)お、俺を連れて行けよ」
由夏理「(タバコを咥えたまま小声で)君をどこに連れて行けって?」
鳴海「(小声で)ど、どこでも良い、あ、あなたは散歩に行きたいんだろ」
由夏理「(タバコを咥えたまま少し笑って小声で)君、また盗み聞きしてたんだ?」
鳴海「(小声で)で、でかい声で話すから嫌でも聞こえてきたんだよ」
由夏理「(タバコを咥えたまま少し笑って小声で)寝たふりをしながらお姉さんたちの会話を聞くなんて、少年は悪い子だな」
鳴海「(小声で)い、良いからどこかに行くぞ」
由夏理はタバコを咥えたまま鳴海のことを見る
鳴海「(小声で)な、何だよ」
由夏理「(タバコを咥えて鳴海のことを見たまま小声で)別に、君が意外にも大胆だったことに驚いちゃってさ」
鳴海「(小声で)お、俺が大胆だろうがそうじゃなかろうがあなたには関係ないだろ」
由夏理は鳴海のことを見たまま鳴海の顔に向かってタバコの煙を吐き出す
由夏理「(鳴海のことを見たまま鳴海の顔に向かってタバコの煙を吐き出して小声で)君、私は新妻だよ」
鳴海「(小声で)そ、そんなの知るか」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(小声で)い、行くのか行かないのかはっきりしろ」
再び沈黙が流れる
由夏理はタバコを咥えたまま鳴海のことを見るのやめる
タバコを口に咥えるのをやめる由夏理
由夏理はテーブルの上の灰皿を使ってタバコの火を消す
由夏理「(テーブルの上の灰皿を使ってタバコの火を消して小声で)よーし分かったよ、お姉さんが少年の素行不良に付き合ってあげよう」
◯2149鳴海の夢/温泉街/ローラースケート場前(約30年前/深夜)
約30年前の温泉街のローラースケート場前にいる鳴海と由夏理
温泉街のローラースケート場はシャッターが降りて閉まっている
温泉街のローラースケート場のシャッターは南京錠で鍵がしてある
鳴海と由夏理は旅館の着物の上に羽織を羽織っている
温泉街には鳴海と由夏理しか人はいない
由夏理は羽織りのポケットからヘアピンを取り出す
鳴海「な、何をする気だよ」
由夏理はヘアピンを伸ばす
由夏理「(ヘアピンを伸ばして)まあ見てなって少年、こういうのはコツさえ分かってればさ・・・」
由夏理はローラースケート場のシャッターの南京錠に伸ばしたヘアピンを挿す
鳴海「お、おい」
由夏理「(伸ばしたヘアピンをローラースケート場のシャッターの南京錠に挿しながら)君は周り見張ってて」
鳴海「だ、誰かに見られたらどうするんだよ!!」
由夏理「(伸ばしたヘアピンをローラースケート場のシャッターの南京錠に挿しながら)見られちゃやばいから君が見張るんじゃん」
鳴海「ば、バレたら捕まるかもしれないんだぞ!!」
由夏理「(伸ばしたヘアピンをローラースケート場のシャッターの南京錠に挿しながら少し笑って)ポリ公と友達の新妻か・・・(少し間を開けて)お姉さんはそういうの嫌いじゃないよ、昔のフランス映画みたいで楽しいし」
鳴海「お、俺は楽しくない!!」
由夏理「(伸ばしたヘアピンをローラースケート場のシャッターの南京錠に挿しながら)君って男なのに臆病だよね〜」
鳴海「お、臆病かどうかなんて今は関係・・・」
由夏理は鳴海の言葉を無視し、伸ばしたヘアピンでローラースケート場のシャッターの南京錠を開ける
由夏理「(伸ばしたヘアピンでローラースケート場のシャッターの南京錠を開けて)ほら出来た、こんなことは私にかかれば朝飯前なわけだ」
鳴海「な、何を考えてるんだよ・・・か、監視カメラに映ってたらどう・・・」
由夏理「(鳴海の話を遮って)カメラが存在していないことは既にチェック済みだよ、少年」
少しの沈黙が流れる
鳴海「ば、バレなきゃ良いって問題じゃないだろ!!」
由夏理「(少し笑って)それは違うね少年、バレなかったら良いんだよ」
再び沈黙が流れる
由夏理「それにさ、誰も使わずにローラースケート場を眠らせておくくらいなら、私たちで使っちゃうべきでしょ?」
鳴海「な、何で俺たちが・・・」
由夏理「それはたまたま私と少年がローラースケートを必要としていたからじゃん?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(小声でボソッと)何が散歩だよ・・・」
由夏理「嫌なら帰るかね?」
鳴海「そ、その言い方は汚いぞ」
由夏理「ならどう言えば良いのさ」
鳴海「し、知るかよ・・・」
由夏理「今の君の言い方こそ汚いって、会話をぶった切っちゃったんだし」
鳴海「お、俺のせいにするのはおかしいだろ」
由夏理「じゃあ会話が悪いのは少年、行いが悪いのは私、それで良いね?」
再び沈黙が流れる
鳴海は周囲を見る
鳴海と由夏理の周囲には誰もいない
周囲を見るのをやめる鳴海
鳴海は渋々ローラースケート場のシャッターを手で上げる
ローラースケート場のシャッターを手で上げるのを手伝う由夏理
鳴海「(由夏理とローラースケート場のシャッターを手で上げながら)あ、朝になる前には戻るからな・・・」
由夏理「(鳴海とローラースケート場のシャッターを手で上げながら少し笑って)ありがと少年、2年ぶりでもやっぱり君は優しいね」
鳴海「(由夏理と古いローラースケート場のシャッターを手で上げながら)お、俺は急性カインドフルシンドロームなんだ」
鳴海と由夏理はローラースケート場のシャッターを手で上げ終える
由夏理「(ローラースケート場のシャッターを手で上げ終えて少し笑いながら)少年は良い子だけどさ、ユーモアだけが少し残念だよ」
鳴海「お、俺の気が変わらないうちに黙って中に入ったらどうだ」
由夏理「(少し笑いながら)私に優しくしてくれる少年からお先にどうぞ」
鳴海はため息を吐き出す
ため息を吐き出してローラースケート場の中に入る鳴海
由夏理は鳴海がローラースケート場の中に入ったのを確認し、羽織りのポケットからタバコの箱を取り出す
由夏理はタバコの箱からタバコを二本取り出す
吸わずにその場に二本のタバコを捨てる由夏理
由夏理はタバコの箱を羽織りのポケットにしまう
吸わずに捨てた二本のタバコを踏み潰す由夏理
由夏理は吸わずに捨てた二本のタバコを踏み潰してローラースケート場の中に入る
◯2150鳴海の夢/温泉街/ローラースケート場(約30年前/深夜)
約30年前の温泉街の中にあるローラースケート場にいる鳴海と由夏理
ローラースケート場の中にはローラースケートリンク、貸し出し用のローラースケート靴、貸し出し用のカウンターとレジがある
ローラースケート場の中は電気がついておらず暗くなっている
ローラースケート場の中のローラースケートリンクには、壁に電飾のチューブライトが何本も取り付けられてある
ローラースケート場の中のローラースケートリンクには、ミラーボールが設置されてある
ローラースケート場の中の貸し出し用のローラースケート靴は棚に置いてあり、子供の物から大人の物まで様々なサイズがたくさん置いてある
鳴海と由夏理は旅館の着物の上に羽織を羽織っている
棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ている鳴海と由夏理
鳴海「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)サイズって普通の靴と同じで良いのか・・・?」
由夏理「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)大きいのだと事故が起きるからやめときなよ少年、足にぴったりハマるやつが良いって前にテレビでやってたしさ」
鳴海「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)た、正しい情報なんだろうな」
由夏理「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら少し笑って)少しは私とテレビのことを信じなって」
鳴海「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)お、俺は疑り深いんだ」
由夏理「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)疑ってばかりの性格じゃ君は人生を損するぞ、少年」
鳴海「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら小声でボソッと)安全のためなんだから別に損なんかしないけどな・・・」
由夏理「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)君、靴のサイズは?」
鳴海「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)確か26だ」
由夏理は棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら、ローラースケート靴を一足手に取る
棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見るのをやめる由夏理
由夏理はローラースケート靴を鳴海に差し出す
由夏理「(ローラースケート靴を鳴海に差し出して)これ、使いなよ」
鳴海はローラースケート靴を由夏理に差し出されたまま、棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見るのをやめる
ローラースケート靴を由夏理から受け取る由夏理
鳴海「(ローラースケート靴を由夏理から受け取って)ど、どうも」
由夏理は再び棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見る
鳴海「あなたの靴のサイズは幾つなんだ?」
由夏理「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)君はそんな質問に女の私が答えると思っているんだね」
鳴海「た、体重じゃないんだから聞いたって良いだろ」
由夏理「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)無闇に乙女から数字を聞き出そうとするのは失礼なんだよ、少年」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)23.5」
鳴海「こ、答えてるじゃないか」
由夏理「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)確かに体重を聞かれたわけじゃないし?何にしても少年が数字を聞き出そうとしたのは感心しないけどね」
鳴海「さ、先に聞いて来たのはあなただろ」
由夏理「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)君は男でしょ〜」
再び沈黙が流れる
鳴海「さ、サイズが分かってるのに何で早く靴を選ばないんだ」
由夏理「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら少し笑って)だってさ、ここは可愛いのが良いじゃん?」
鳴海「可愛いのって・・・どれも同じじゃないか・・・」
由夏理「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)それが違うんだよ少年」
鳴海「と、とにかく早く選んでくれ」
由夏理「(棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら)選んでいるともさ」
由夏理は少しの間棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見続ける
棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見ながら、ローラースケート靴を一足手に取る由夏理
由夏理は棚に置いてあるたくさんの貸し出し用のローラースケート靴を見るのをやめる
鳴海「き、決まったか?」
由夏理「何とかね〜」
鳴海は借りたローラースケート靴を持ってローラースケートリンクに行く
靴を脱ぐ鳴海
鳴海は靴を脱いでローラースケート靴を履く鳴海
ローラースケート靴を履いたまま不安定なバランスで立っている
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま不安定なバランスで立って)た、立ってるだけでも意外と難しいな・・・」
由夏理は借りたローラースケート靴を持ったままローラースケート場の電気のスイッチを探している
由夏理「(ローラースケート場の電気のスイッチを探しながら)ん?何か言った?」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら)は、早く電気をつけてくれ!!」
由夏理「(ローラースケート場の電気のスイッチを探しながら小声でボソッと)結局暗がりの中で光を見つけるのは女の私っと・・・」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら)く、暗闇がどうかしたのか?」
由夏理「(ローラースケート場の電気のスイッチを探しながら)何でもないよー。(少し間を開けて)マッサージが必要なこのお店の心臓はどこかなー・・・」
少しすると由夏理はローラースケート場の電気のスイッチを見つける
由夏理「(ローラースケート場の電気のスイッチを見つけて)おっ、あったあった」
由夏理はローラースケート場の電気をつける
由夏理がローラースケート場の電気をつけると、ローラースケートリンクの壁に取り付けられてあった何本ものチューブライトの電飾が赤、青、緑、オレンジなど様々な色で光り始める
由夏理がローラースケート場の電気をつけると、ローラースケートリンクの天井に取り付けられてあったミラーボールが回り出し、リンクを赤、青、緑、黄色、ピンク、オレンジなど様々な色で照らし始める
由夏理がローラースケート場の電気をつけると、貸し出し用のカウンターの方から早見優の”真夏のボクサー”が流れ始める
借りたローラースケート靴を持ってローラースケートリンクに行く由夏理
由夏理は靴を脱ぐ
由夏理「(靴を脱いで少し笑って)少年!!ほら!!滑って!!」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら)む、難しいんだよ!!」
由夏理は靴を脱いでローラースケート靴を履く
由夏理「(ローラースケート靴を履いて少し笑いながら)お姉さんがお手本を見せてあげよう」
由夏理はローラースケート靴でリンク内を滑り始める
ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら、ローラースケート靴でリンク内を滑っている由夏理のことを見る
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら、ローラースケート靴でリンク内を滑っている由夏理のことを見て)ろ、ローラースケートも得意なのか・・・」
由夏理「(ローラースケート靴でリンク内を滑りながら少し笑って)君もやってみなよ、右足左足の順番に体を動かせば簡単だからさ」
鳴海「(ローラースケート靴を履き不安定なバランスで立ちながら、ローラースケート靴でリンク内を滑っている由夏理のことを見て)む、無茶言うな!!そ、そもそも俺はローラーシューズを履くのが初めてなんだぞ!!」
由夏理「(ローラースケート靴でリンク内を滑りながら少し笑って)もう、全く手のかかる子だよ少年は」
鳴海はローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら、ローラースケート靴でリンク内を滑っている由夏理のことを見るのをやめる
器用にローラースケート靴の片足でブレーキをかけて、ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立っている鳴海の横で止まる由夏理
由夏理「(器用にローラースケート靴の片足でブレーキをかけて、ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立っている鳴海の横で止まり)やったことないんだね?」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら)あ、ああ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)じゃあまず体の力を抜いて」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら)ぬ、抜いてるつもりだ」
由夏理はローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立っている鳴海の肩を触る
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立っている鳴海の肩を触って)体が強張ってるって少年」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら、由夏理に肩を触られて)そ、そんなことは・・・」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立っている鳴海の肩を触って)君、転ぶのが怖いんでしょ?」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら、由夏理に肩を触られて)あ、当たり前だろ」
由夏理はローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立っている鳴海の肩を触る
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立っている鳴海の肩を触るのをやめて)転びそうになったら私が助けてあげるからさ、怖がらないでよ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら)わ、分かった・・・」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)よーし、じゃあ私の肩に手を置いて」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら)あ、ああ・・・」
鳴海はローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら、由夏理の肩に手を置く
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立っている鳴海に肩に手を置かれて)私がゆっくり進むからさ、少年は私の肩を掴んだままついておいで」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら、由夏理の肩に手を置いて)あ、危なくないか?」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立っている鳴海に肩に手を置かれて)君が余計なことさえしなければ安全だよ」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら、由夏理の肩に手を置いて)よ、余計なことって例えば何だ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立っている鳴海に肩に手を置かれて)少年がいきなり自力で滑り出そうとしたら、多分新妻の体に傷がつくよね」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら、由夏理の肩に手を置いて)な、なるほど・・・り、理解した・・・」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立っている鳴海に肩に手を置かれて)体を動かさずに、君はただお姉さんに掴まってれば良いんだよ。あっ、体重は乗せちゃっても大丈夫だからね?」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立ちながら、由夏理の肩に手を置いて)ほ、本当に平気なのか?」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立っている鳴海に肩に手を置かれて少し笑って)任せてよ少年、この私が君のことを支えてあげるからさ」
再び沈黙が流れる
鳴海はローラースケート靴を履き不安定なバランスで立ちながら、由夏理の肩を掴む
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いて不安定なバランスで立っている鳴海に肩を掴まれて)ん、行くよ」
鳴海「(ローラースケート靴を履き不安定なバランスで立ちながら由夏理の肩を掴み)お、おう」
由夏理は鳴海に肩を掴まれたままゆっくりローラースケート靴で滑り出す
由夏理の肩を掴んだままローラースケート靴で滑る鳴海
鳴海と由夏理はゆっくりローラースケート靴でリンク内を周っている
由夏理「(鳴海に肩を掴まれ、ローラースケート靴でゆっくりリンク内を鳴海と一緒に周りながら少し笑って)三半規管が刺激されて楽しいでしょー?」
鳴海「(由夏理の肩を掴み、ローラースケート靴でゆっくりリンク内を由夏理と一緒に周りながら)さ、三半規管を刺激されるのが楽しいわけあるか」
由夏理「(鳴海に肩を掴まれ、ローラースケート靴でゆっくりリンク内を鳴海と一緒に周りながら少し笑って)何でよー、スリルがあって面白いにー」
鳴海「(由夏理の肩を掴み、ローラースケート靴でゆっくりリンク内を由夏理と一緒に周りながら)お、俺は安全性を求めてるんだ」
由夏理「(鳴海に肩を掴まれ、ローラースケート靴でゆっくりリンク内を鳴海と一緒に周りながら少し笑って)私がいる限り安全だからさ、もうちょっとスピード出してみよっか」
鳴海「(由夏理の肩を掴み、ローラースケート靴でゆっくりリンク内を由夏理と一緒に周りながら)や、やめろ!!」
由夏理「(鳴海に肩を掴まれ、ローラースケート靴でゆっくりリンク内を鳴海と一緒に周りながら)大丈夫だよー、ちょっとだけだしー」
鳴海「(由夏理の肩を掴み、ローラースケート靴でゆっくりリンク内を由夏理と一緒に周りながら)こ、転ぶかもしれないだろ!!」
由夏理「(鳴海に肩を掴まれ、ローラースケート靴でゆっくりリンク内を鳴海と一緒に周りながら)転ばない人生なんてないからこそ、みんなで助け合うんだよね少年」
鳴海「(由夏理の肩を掴み、ローラースケート靴でゆっくりリンク内を由夏理と一緒に周りながら)い、意味不明なことを言って誤魔化すな!!」
由夏理「(鳴海に肩を掴まれ、ローラースケート靴でゆっくりリンク内を鳴海と一緒に周りながら少し笑って)少し勢いつけるから、振り落とされずについておいでよ」
鳴海「(由夏理の肩を掴み、ローラースケート靴でゆっくりリンク内を由夏理と一緒に周りながら)お、おい!!」
由夏理は鳴海に肩を掴まれたままローラースケート靴で滑る速度を上げる
由夏理の肩を掴み、ローラースケート靴でゆっくりリンク内を由夏理と一緒に周りながら反射的に両目を瞑る鳴海
両目を瞑った鳴海には、ローラースケート場の貸し出し用のカウンターの方から流れている早見優の”真夏のボクサー”、由夏理のローラースケート靴の車輪とリンクが当たる音、鳴海のローラースケート靴の車輪が回る音、風を切る音が聞こえて来ている
由夏理「(両目を瞑っている鳴海に肩を掴まれ、ローラースケート靴でリンク内を鳴海と一緒に周りながら)目を瞑らなくたって良いのに少年、怖くないんだからさ」
鳴海「(両目を瞑って由夏理の肩を掴み、ローラースケート靴でリンク内を由夏理と一緒に周りながら)お、俺が何を怖がっているのかあなたは分かってないだろ!!」
早見優の”真夏のボクサー”が流れ終わる
少しの沈黙が流れる
由夏理「(両目を瞑っている鳴海に肩を掴まれ、ローラースケート靴でリンク内を鳴海と一緒に周りながら)なら君が恐れてるものは何なの?」
鳴海「(両目を瞑って由夏理の肩を掴み、ローラースケート靴でリンク内を由夏理と一緒に周りながら)お、俺が・・・恐れているのは・・・」
再び沈黙が流れる
由夏理「(両目を瞑っている鳴海に肩を掴まれ、ローラースケート靴でリンク内を鳴海と一緒に周りながら)ごめん、無理に君から聞きたかったんじゃないよ。こんな会話、私も楽しくはないからさ」
ローラースケート場の貸し出し用のカウンターの方から杏里の”悲しみがとまらない”が流れ始める
由夏理「(両目を瞑っている鳴海に肩を掴まれ、ローラースケート靴でリンク内を鳴海と一緒に周りながら)ねえ少年、こうしてると、私たち自由に空を飛んでるみたいだよね?」
由夏理はローラースケート靴でリンク内を鳴海と一緒に周りながら、両目を瞑って肩を掴んで来ていた鳴海の両手を取る
ローラースケート靴でリンク内を鳴海と一緒に周りながら、両目を瞑っている鳴海の両手を握っている由夏理
由夏理「(両目を瞑っている鳴海の両手を握り、ローラースケート靴でリンク内を鳴海と一緒に周りながら)目を開けてごらんよ少年、ここに君を苦しめるものは何もないからさ」
少しの沈黙が流れる
鳴海は両目を瞑り両手を由夏理に握られて、ローラースケート靴で由夏理と一緒に滑りながら恐る恐る目を開ける
鳴海と由夏理はローラースケート靴を履いて両手を繋いだまま、一緒にその場でくるくると回っている
由夏理「(ローラースケート靴を履いて鳴海と両手を繋いだまま、鳴海と一緒にその場でくるくると回って少し笑って)見て見て、私たち蝶みたいでしょ?」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて由夏理と両手を繋いだまま、由夏理と一緒にその場でくるくると回って)ちょ、蝶?と、鳥じゃなくてか?」
由夏理「(ローラースケート靴を履いて鳴海と両手を繋いだまま、鳴海と一緒にその場でくるくると回って)確かに鳥も飛べるけどさ、蝶を食べるから嫌なんだよ」
再び沈黙が流れる
由夏理「(ローラースケート靴を履いて鳴海と両手を繋いだまま、鳴海と一緒にその場でくるくると回って)少年と一緒にいると、何故か出会った頃の紘を思い出すんだよね〜」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて由夏理と両手を繋いだまま、由夏理と一緒にその場でくるくると回って)そ、その頃に戻りたいと思ってるんだろ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いて鳴海と両手を繋いだまま、鳴海と一緒にその場でくるくると回って少し笑って)何でそんな意地悪を言うのさ、私たちには幸せな未来が待ってるのに」
鳴海と由夏理はローラースケート靴を履いて両手を繋いだまま、一緒にその場でくるくると回っているが徐々に回転する速度が遅くなる
鳴海「(ローラースケート靴を履いて由夏理と両手を繋いだまま、由夏理と一緒にその場でくるくると回って)み、未来がどうなるかなんて分からないはずだ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いて鳴海と両手を繋いだまま、鳴海と一緒にその場でくるくると回って少し笑って)分からないから幸せな未来を望むんだよ少年、人生なんて私たちには予想がつかないことばっかりなんだしさ」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて由夏理と両手を繋いだまま、由夏理と一緒にその場でくるくると回って)予想が・・・つかないから・・・」
鳴海と由夏理はローラースケート靴を履いて両手を繋いだまま、ゆっくりその場で止まる
由夏理「(ローラースケート靴を履いて鳴海と両手と繋いだまま、ゆっくりその場で止まって少し笑って)滑り方も、人生の楽しみ方も、私が君に教えてあげる」
鳴海「(ローラースケート靴を履いて由夏理と両手を繋いだまま)お、俺が知りたいのはローラースケートの扱いよりも傷つかない転び方だ」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(ローラースケート靴を履いて鳴海と両手を繋いだまま少し寂しそうに笑って)それは少年が自分の力で身につけないとね」
再び沈黙が流れる
鳴海「(ローラースケート靴を履いて由夏理と両手を繋いだまま)あなたは・・・転んでも傷つかずにいられる方法を知ってるのか・・・?」
由夏理はローラースケート靴を履いて鳴海と両手を繋いだまま首を横に振る
由夏理「(ローラースケート靴を履いて鳴海と両手を繋いだまま)私に分かるのは転ばずに生きることだけだからさ」
少しの沈黙が流れる
鳴海はローラースケート靴を履いて由夏理と両手を繋いだまま俯く
由夏理「(ローラースケート靴を履いて俯いている鳴海と両手を繋いだまま)捨てられた子犬のような顔をしないでよ、少年」
鳴海「(ローラースケート靴を履き由夏理と両手を繋いで俯いたまま)誰が子犬だ・・・」
由夏理「(ローラースケート靴を履いて俯いている鳴海と両手を繋いだまま少し笑って)そんなの君しかいないでしょ?」
鳴海「(ローラースケート靴を履き由夏理と両手を繋いで俯いたまま)ガキ扱いしないでくれ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いて俯いている鳴海と両手を繋いだまま少し笑って)ん、はいはい、君は大人の男だね」
再び沈黙が流れる
鳴海はローラースケート靴を履いて由夏理と両手を繋いだまま顔を上げる
鳴海「(ローラースケート靴を履き由夏理と両手を繋いだまま顔を上げて)み、見てろよ、俺だってすぐに滑れるようになってやるからな」
由夏理「(ローラースケート靴を履いて俯いている鳴海と両手を繋いだまま少し笑って)お姉さんは君に期待してるぞ、少年」
時間経過
鳴海は不安定なバランスのままローラースケート靴で滑る練習をしている
ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見ている由夏理
ローラースケート場では貸し出し用のカウンターの方から中森明菜の”スローモーション”が流れている
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見て少し笑って)君はまだ蝶というよりペンギンだね〜」
鳴海「(不安定なバランスのままローラースケート靴で滑る練習をしながら)ぺ、ペンギンだって飛べるんだぞ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見て少し笑って)飛ぶんじゃなくて泳ぐんでしょ〜」
鳴海「(不安定なバランスのままローラースケート靴で滑る練習をしながら)と、飛ぶも泳ぐも概ね同じだろ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見て少し笑って)全然違うし〜」
鳴海はローラースケート靴を履いたままバランスを崩し前に転びそうになる
鳴海「(ローラースケート靴を履いたままバランスを崩し前に転びそうになって)うおっ!!」
由夏理はローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いてバランスを崩し前に転びそうになっている鳴海の腕を掴む
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま、バランスを崩し前に転びそうになっている状態で由夏理に腕を掴まれて)あ、危ねえ・・・」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いてバランスを崩し前に転びそうになっている鳴海の腕を掴んで)君、出来る出来ない以前に焦り過ぎ。せめてもうちょっと落ち着きなよ」
鳴海はローラースケート靴を履いている由夏理に腕を掴まれたまま、ローラースケート靴を履いて体勢を整える
鳴海「(ローラースケート靴を履いている由夏理に腕を掴まれたまま、ローラースケート靴を履いて体勢を整えて)つ、次は大丈夫だ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いている鳴海の腕を掴んで)何が大丈夫なのかね少年」
鳴海「(ローラースケート靴を履いている由夏理に腕を掴まれたまま、ローラースケート靴を履いて)い、一旦落ち着いたってことだよ」
少しの沈黙が流れる
由夏理はローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いている鳴海の腕を離す
再びローラースケート靴で滑る練習を始める鳴海
鳴海は不安定なバランスのままローラースケート靴で滑っている
ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見ている由夏理
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見て)今度さ、私たちと一緒に動物園か水族館に行こっか少年」
鳴海「(不安定なバランスのままローラースケート靴で滑る練習をしながら)こ、今度っていつだ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見て)今度は今度だよ」
鳴海「(不安定なバランスのままローラースケート靴で滑る練習をしながら)な、何で動物園なんかに・・・」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見て少し笑って)だって今の君にそっくりなペンギンがいるし」
鳴海「(不安定なバランスのままローラースケート靴で滑る練習をしながら)お、俺はペンギンよりも賢くて運動神経も良いつもりだ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見て少し笑って)その割に君は苦労してるね」
鳴海「(不安定なバランスのままローラースケート靴で滑る練習をしながら)い、今はまだ修行中なんだよ、ペンギンだって子供の時から泳ぎ回ってるわけじゃないだろ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見て少し笑って)確かに少年の言い分も分かるけどさ」
鳴海「(不安定なバランスのままローラースケート靴で滑る練習をしながら)お、俺は今確実に成長してるんだぞ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見て)少年から大人の男へと、か・・・」
鳴海「(不安定なバランスのままローラースケート靴で滑る練習をしながら)が、ガキ扱いするなって何度言ったら分かるんだ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見て)大人になったって良いことがあるとは限らないよ、少年」
鳴海「(不安定なバランスのままローラースケート靴で滑る練習をしながら)そ、それはあなたの考えだろ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見て)まあね・・・人によっちゃ子供よりも大人の方が楽しいって言うけどさ」
中森明菜の”スローモーション”が流れ終わる
鳴海「(不安定なバランスのままローラースケート靴で滑る練習をしながら)ど、どっちにしたって楽しさは自力で見つけるのが大人って・・・」
鳴海が不安定なバランスのままローラースケート靴で滑る練習をしながら喋っている途中に、貸し出し用のカウンターの方からうしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”が流れ始める
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見て鳴海の話を遮り)盛り上がる曲がかかってきたよ少年!!」
鳴海「(不安定なバランスのままローラースケート靴で滑る練習をしながら)そ、そうか」
由夏理はローラースケート靴を履いたまま、鳴海のローラースケート靴の練習を近くで見るのをやめる
ローラースケート靴で滑りながら、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせて踊り始める由夏理
由夏理「(ローラースケート靴で滑りながら、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせて踊って)学園祭の時にすみれと踊ったんだよね〜!!」
鳴海はローラースケート靴で滑る練習をするのをやめる
鳴海「(ローラースケート靴で滑る練習をするのをやめて)す、すみれさんと?」
由夏理「(ローラースケート靴で滑りながら、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせて踊って)ん、そうそう。すみれもやりたがったからさ、手伝ってあげたんだよ」
鳴海は不安定なバランスのままローラースケート靴で滑り、リンクの壁に向かう
ローラースケート靴を履いたままリンクの壁際に座る鳴海
鳴海はローラースケートを靴を履きリンクの壁際に座ったまま、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせローラースケート靴で滑って踊っている由夏理のことを見ている
鳴海「(ローラースケートを靴を履き、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせローラースケート靴で滑って踊っている由夏理のことを見ながら)二人ともダンスが上手いんだな」
由夏理「(ローラースケート靴で滑りながら、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせて踊って)当たり前じゃーん、練習しまくったんだからー」
鳴海「(ローラースケートを靴を履き、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせローラースケート靴で滑って踊っている由夏理のことを見ながら小声でボソッと)俺たちも一回くらいはダンスをするべきだったか・・・」
由夏理「(ローラースケート靴で滑りながら、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせて踊って)んー?」
鳴海「(ローラースケートを靴を履き、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせローラースケート靴で滑って踊っている由夏理のことを見ながら)て、手品と言いローラースケートと言い、色々やってるんだな」
由夏理「(ローラースケート靴で滑りながら、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせて踊って)まあね〜、私は手先が器用なのが取り柄だしさ〜」
鳴海「(ローラースケートを靴を履き、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせローラースケート靴で滑って踊っている由夏理のことを見ながら)お、俺も練習すればあなたのようになれると思うか?」
由夏理「(ローラースケート靴で滑りながら、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせて踊って少し笑って)そりゃ出来るようになるよ、練習に勝るものはないんだから」
再び沈黙が流れる
由夏理「(ローラースケート靴で滑りながら、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせて踊って)少年」
鳴海「(ローラースケートを靴を履き、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせローラースケート靴で滑って踊っている由夏理のことを見ながら)何だ?」
由夏理「(ローラースケート靴で滑りながら、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせて踊って少し笑って)君は今何を考えていたの?」
鳴海「(ローラースケートを靴を履き、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせローラースケート靴で滑って踊っている由夏理のことを見ながら)別に大したことは・・・」
由夏理「(ローラースケート靴で滑りながら、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせて踊って)黙っていても女の子を心配にさせるだけだぞ少年」
鳴海「(ローラースケートを靴を履き、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせローラースケート靴で滑って踊っている由夏理のことを見ながら)お、お喋りが過ぎる奴よりは寡黙の方が良いだろ」
由夏理「(ローラースケート靴で滑りながら、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせて踊って少し笑って)君は寡黙ってほど物静かな少年じゃないじゃん」
鳴海「(ローラースケートを靴を履き、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせローラースケート靴で滑って踊っている由夏理のことを見ながら)お、俺はただ、考えごとをしながら会話が出来ないだけだ」
由夏理「(ローラースケート靴で滑りながら、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせて踊って少し笑って)不器用だな〜、君のそういうところは本当に紘にそっくりだよ」
少しの沈黙が流れる
由夏理はローラースケート靴で滑りながら、うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”に合わせて踊るのをやめる
ローラースケート靴で滑って、ローラースケート靴を履いたままリンクの壁際に座っている鳴海のところに行く由夏理
由夏理はローラースケート靴を履いたまま鳴海の隣に座る
由夏理「(ローラースケート靴を履きリンクの壁際に座って)私、将来は紘とサーカスをやりたいんだよねー」
鳴海はローラースケート靴を履いたまま、ローラースケート靴を履いている由夏理のことを二度見する
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)あ、今少年、私のことをふざけた女だと思ったんでしょー?」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)そ、そうは思ってないが・・・で、でも何でサーカスなんだよ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)私さ、人を喜ばすのが好きなんだ。物覚えも早いし器用だから、サーカスだと個性を活かせそうでしょ?それに世界中を旅してお金を稼ぐって楽しそうじゃん?」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま驚いて)せ、世界中?」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)一つの場所に留まっているようじゃサーカスとしての意味がないしさ」
鳴海「(ローラースケート靴を履いまま)そ、それはそうだが・・・(少し間を開けて)あ、あなたの旦那は・・・」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)サーカスなんてやりたがらないだろうね」
再び沈黙が流れる
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)まあ今のはぜーんぶ冗談だけどさ」
鳴海「(ローラースケート靴を履いまま)は・・・?」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)君、本気にしたでしょ?」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)サーカスなんか出来るわけないじゃん?少年、簡単に騙され過ぎだよ」
再び沈黙が流れる
鳴海「(ローラースケート靴を履いまま)み、見ず知らずの人間よりも、あ、あなたは身近な人たちを喜ばすことを考えた方が良いんじゃないか」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)厳しいことを言ってくれるね君は」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)そ、そこら辺にいる赤の他人を喜ばすのは簡単だろ、大金を渡せば良いんだからさ。(少し間を開けて)でも・・・親しい人間が相手ならそうはいかないじゃないか」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)そこら辺にいる赤の他人に大金を渡そうとするのは君くらいだよ、少年」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)お、俺が言いたかったのは、親しければ親しいほど人を喜ばすのは難しいってことだ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)でも好きな人に一喜一憂させられるのはよくあることじゃん?(少し間を開けて)別に君の考え方が間違ってるとは思わないけどさ、結局ものの見方ってのは人それぞれだよ」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)私がこんな女なのは理由があると思うんだよね〜」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)い、いきなり何を言ってるんだよ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)遠い昔に医者とか警察とか先生とかさ、きっとそういう系の仕事をしていたんじゃないかって気がするんだよ。だから今の私はこんな不真面目になっちゃったわけだ」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)な、何がだからなのか分からないんだが」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)前世があるならさ、その反動を受けててもおかしくなさそうじゃん?」
鳴海「(ローラースケート靴を履きリンクの壁際に座ったまま)そ、それは・・・(少し間を開けて)あ、あなたの性格の話か?」
由夏理「(ローラースケート靴を履きリンクの壁際に座ったまま)そうそう・・・君とはものの見方が違う私の性格の話」
うしろゆびさされ組の”渚の『・・・・・』”が流れ終わる
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)な、何でそんな話を俺にするんだ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)なんか君が相手だと言いやすいんだよね、いつ現れて消えるか分からないし」
ローラースケート場の貸し出し用のカウンターの方から戸川純の”バージンブルース”が流れ始める
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)そう考えると少年って魔性の男だよね〜」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)ど、どこが魔性だ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)少年は新婚の人妻を夜中に連れ出してるんだよ」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)こ、ここに来たがったのはあなたじゃないか」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)ん、そうだね、悪いのは全部私なんだけどさ」
再び沈黙が流れる
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)子供の頃・・・近所の子がローラースケートの靴を持ってて、私はその子に滑り方を教えてもらったんだ。最初は凄く楽しくてさ、私もその子と遊ぶのが大好きだった・・・だけど次第に・・・私にローラースケートの靴を貸すのを嫌がるようになったんだ。当時の私には・・・何で嫌がるのか不思議でしょうがなかった。でも大人になるにつれて分かったんだよね、その子は、私がその子よりもローラースケートの扱いを上手くなるのが嫌だったんだって。(少し間を開けて)少年、皮肉なことだけどさ、実は私はもう忘れちゃったんだ、その子から教えてもらった上手な転び方を・・・歳を取るっていうのは、大人になるっていうのは、私にとってそういうことなんだよ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)よ、要するに・・・わ、忘れたことはしょうがない、こ、転び方が分からないなら、転ばなきゃ良いだけだ・・・ってことだろ・・・?」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)君は私の言葉を物凄く小さくしたね」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)い、いけないか?」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)いけるかいけないかは、私と少年のこれからで分かることだよ。(少し間を開けて)人生は選択の連続、お互い先は長いしさ、なるべく間違えないようにしたいね」
再び沈黙が流れる
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)や、やっぱり俺じゃなかった」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)ん?」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)ここに来るべきなのは・・・本来俺じゃなかったんだ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)少年じゃないなら誰なのさ」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)あ、あなたの旦那だよ。(少し間を開けて)ぜ、絶対そうだ、こんなことは俺なんかとするべきじゃない」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)俺なんかと、ねー・・・」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)だ、だっておかしいだろ、何で花嫁が旦那と一緒にいないんだ?け、結婚式を開いた夜に、名前も知らない相手と一緒に過ごすのか?」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)君は何が言いたいのさ」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)お、俺は・・・(少し間を開けて)ふ、複雑な心境なんだよ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)普通、自分で複雑だなんて言わないって少年」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)お、俺にも俺なりに事情があるんだ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)よく分からないけどさ、とりあえず私たち貴志夫妻を心配してくれてるってことって良いんだよね?」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)あ、ああ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)どうして?」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)えっ?」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)どうして少年が私と紘の仲を心配するの?」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)り、理由なんて何でも良いだろ。(少し間を開けて)こ、これが俺だ」
戸川純の”バージンブルース”が流れ終わる
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)少年」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)な、何だよ・・・」
ローラースケート場の貸し出し用のカウンターの方から戸川純の”リボンの騎士”が流れ始める
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)君はとても、とてもとても良い子だね」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)そ、それは・・・あ、あなたたちの前ではそうなるように努力してるからだ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)少年が努力出来るのは、少年の中には成長するにつれて忘れてしまう特別な何かが、まだ残されているからだと思うよ」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)あなたにもそれが・・・」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま鳴海の話を遮り少し笑って)私にはもうないって。君も知ってるでしょー?私が結婚式から逃げたり、新婚早々夜中に抜け出したりする女だってことをさ」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)でもなんか嬉しいよ、やっと少年の心を知ることが出来た気がするし」
再び沈黙が流れる
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま)さてと、色んな話もしたし戻るかね少年」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)も、もう良いのか?」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)ん、もう十分過ぎるくらいだよ」
由夏理はローラースケート靴を履いたまま立ち上がる
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま立ち上がって)そうだ、この際記念にローラースケートの靴をくすねて行こっか」
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま)な、何が記念だよ・・・」
鳴海はローラースケート靴を履いたまま立ち上がる
鳴海「(ローラースケート靴を履いたまま立ち上がって)ちゃんと元あった場所に戻さなきゃ怒るぞ」
由夏理「(ローラースケート靴を履いたまま少し笑って)今のは冗談だよ少年、第三次世界大戦でも起きない限りこんなところから盗んだりしないからさ」
◯2151鳴海の夢/旅館大部屋(約30年前/朝方)
外では日が登り始めている
約30年前の旅館の大部屋に戻って来た旅館の着物姿の鳴海と由夏理
旅館の大部屋は古い和室で広い
旅館の大部屋には布団が5人分敷いてあり、旅館の着物姿の紘、すみれ、潤が布団の上で眠っている
旅館の大部屋にはテーブル、座椅子があり、テーブルの上には急須、湯呑み、和菓子、灰皿が置いてある
旅館の大部屋のテーブルの上にはトランプが散らばっている
旅館の大部屋には小さくて古いブラウン管のテレビがある
旅館の大部屋の窓際には広縁がある
旅館の大部屋の電気は消えており、広縁の窓から太陽の光が差し込んでいる
旅館の大部屋の広縁には冷蔵庫、テーブル、椅子があり、テーブルの上には灰皿が置いてある
広縁のテーブルの上の灰皿には吸殻が溜まっている
旅館の大部屋の広縁からは紅葉が見える
旅館の大部屋の広縁には障子があり、広縁を閉め切ることが出来る
旅館の大部屋の隅の方には由夏理、紘、すみれ、潤のスーツケース、すみれのブーケ、潤の古い一眼レフカメラが置いてある
いびきをかきながら眠っている潤
鳴海と由夏理は物音を立てないように慎重に歩いている
由夏理「(物音を立てなように慎重に歩きながら小声で)おやすみ少年、チャオ」
鳴海「(物音を立てなように慎重に歩きながら小声で)お、おやすみ」
鳴海と由夏理は自分の布団の中に入る
布団に入って大きなあくびをする鳴海
鳴海「(大きなあくびをして 声 モノローグ)さすがに疲れたな・・・当たり前か・・・二日連続で結婚式に出席して・・・朝まで遊んでたんだからな・・・(少し間を開けて)やっぱり・・・体が強張ってたのか・・・筋肉痛もいつもとは違う・・・」
鳴海は両目を瞑る
鳴海「(両目を瞑って 声 モノローグ)少しだけ休もう・・・少しだけ・・・(少し間を開けて)また明日・・・温泉に入れば・・・体の疲れも・・・」
鳴海は眠っている