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Chapter7♯14 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く


登場人物


貴志 鳴海(なるみ) 19歳男子

Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。


早乙女 菜摘(なつみ) 19歳女子

Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている


貴志 (ひろ)

鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。


早乙女 すみれ 46歳女子

優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。


早乙女 (じゅん) 47歳男子

永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。


貴志/神北 風夏(ふうか) 25歳女子

看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。


神北(かみきた) 龍造(りゅうぞう) 25歳男子

風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。


南 汐莉(しおり) 16歳女子

Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。


一条 雪音(ゆきね) 19歳女子

鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。


伊桜(いざくら) 京也(けいや) 32歳男子

緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。


荻原 早季(さき) 15歳(?)女子

どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。


瑠璃(るり)

鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。


来栖(くるす) (まこと) 59歳男子

緋空事務所の社長。


神谷 志郎(しろう) 44歳男子

Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。


貴志 希海(のぞみ) 女子

貴志の名字を持つ謎の人物。


三枝 琶子(わこ) 女子

“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。


三枝 碧斗(あおと) 男子

“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。


有馬 千早(ちはや) 女子

ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。


太田 美羽(みう) 30代後半女子

緋空事務所で働いている女性社員。


目黒 哲夫(てつお) 30代後半男子

緋空事務所で働いている男性社員。


一条 佐助(さすけ) 男子

雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。


一条 智秋(ちあき) 25歳女子

雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。


神谷 絵美(えみ) 30歳女子

神谷の妻、現在妊娠中。


神谷 七海(ななみ) 女子

神谷志郎と神谷絵美の娘。


天城 明日香(あすか) 19歳女子

鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。


白石 嶺二(れいじ) 19歳男子

鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。


三枝 響紀(ひびき) 16歳女子

波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。


永山 詩穂(しほ) 16歳女子

波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。


奥野 真彩(まあや) 16歳女子

波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。


双葉 篤志(あつし) 19歳男子

鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。


井沢 由香(ゆか)

波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。


伊桜 真緒(まお) 37歳女子

伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。


伊桜 陽芽乃(ひめの) 13歳女子

礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。


水木 由美(ゆみ) 52歳女子

鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。


水木 優我(ゆうが) 男子

鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。


鳴海とぶつかった観光客の男 男子

・・・?


少年S 17歳男子

・・・?


サン 女子

・・・?


ミツナ 19歳女子

・・・?


X(えっくす) 25歳女子

・・・?


Y(わい) 25歳男子

・・・?


ドクターS(どくたーえす) 19歳女子

・・・?


シュタイン 23歳男子

・・・?






伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物


リーヴェ 17歳?女子

奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。


メーア 19歳?男子

リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。


バウム 15歳?男子

お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。


盲目の少女 15歳?女子

バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。


トラオリア 12歳?少女

伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。


エルガラ 12歳?男子

伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。






滅びかけた世界


老人 男子

貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。


ナツ 女子

母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。


スズ 女子

ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。


柊木 千春(ちはる) 15、6歳女子

元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。

Chapter7♯14 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く


◯2081緋空事務所(日替わり/朝)

 外は晴れている

 緋空事務所の中にいる鳴海と伊桜

 緋空事務所の中には来栖、太田、目黒を含む数十人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたり、談笑をしたりしている

 緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある 

 緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある

 緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある

 緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある

 伊桜は自分の席で、コーヒーを飲んでいる

 伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている

 伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある

 来栖、太田、目黒は自分の席で、パソコンに向かってタイピングをしている

 鳴海は自分の席に座っている

 鳴海の席は伊桜の席の隣

 コーヒーを飲み干す伊桜


鳴海「(声 モノローグ)よりにもよって姉貴の結婚式当日に入って来た仕事は、組織や店からの依頼ではなく個人からのものだった」


◯2082依頼主の自宅に向かっている道中(朝)

 晴れている

 鳴海と伊桜は仕事の依頼主の自宅に向かっている

 伊桜は大きなリュックを背負っている

 

鳴海「ほ、本当に12時までに終わるんですよね?」

伊桜「それは分からん」

鳴海「き、昨日社長は午前中いっぱいで終わるって言ってたじゃないっすか!!」

伊桜「それは目安だろ」

鳴海「きょ、今日は急いでるんです!!」

伊桜「おい」

鳴海「な、何ですか」

伊桜「あまり仕事に私情を持ち込むな」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「すみません・・・」


◯2083依頼主の自宅前(朝)

 依頼主の一軒家の前にいる鳴海と伊桜

 伊桜は大きなリュックを背負っている


伊桜「今日はこの家の家事代行だ」

鳴海「はい?」

伊桜「皿洗い、洗濯、風呂掃除、分かったか?」


 少しの沈黙が流れる


伊桜「気をつけてやれよ」


◯2084依頼主宅のキッチン(朝)

 依頼主宅のキッチンにいる鳴海、伊桜、依頼主のおばさん

 依頼主宅のキッチンはたくさんの洗い物でシンクがいっぱいになっている


依頼主のおばさん「(鳴海に向かって)あんたはキッチンね」

鳴海「分かりました・・・」

依頼主のおばさん「(伊桜に向かって)それからあんたは風呂とトイレ」

伊桜「はい」

依頼主のおばさん「じゃ、よろしく」


 依頼主のおばさんはリビングに行く

 鳴海は伊桜のことを見る


伊桜「言われた通りにな」

鳴海「了解です・・・」


 時間経過


 鳴海はシンクに溜まっている皿を一枚一枚洗剤をつけたスポンジで洗っている

 リビングでソファに座ってテレビを見ている依頼主のおばさん

 キッチンからはリビングでソファに座ってテレビを見ている依頼主のおばさんの姿が見える


鳴海「(皿を洗剤をつけたスポンジで洗いながら 声 モノローグ)断れば良かった・・・こんなことで俺は血の繋がった人間の結婚式に遅れるのかよ・・・」


 鳴海は皿を洗い終える

 洗い終えた皿を水切り棚に乗せる鳴海

 鳴海はシンクに溜まっている皿を一枚手に取り、洗剤をつけたスポンジで洗い始める


鳴海「(皿を洗剤をつけたスポンジで洗いながら 声 モノローグ)この仕事の悪い一面を見た気がしてならない・・・(少し間を開けて)一生懸命働いている人たちや、波音町に骨を埋める覚悟を持った人たちのために雑用をこなすのは別に平気だ。たとえそれがバイトまがいの内容であっても、俺は伊桜さんから学んだように仕事に誇りを持っている。掃除をしたり、配達をすることが俺自身のためになるとはそんなに思っていない。緋空事務所は菜摘を始めとする、波音町に愛を持った人たちを支えるための組織なんだ」


 鳴海は皿を洗い終える

 洗い終えた皿を水切り棚に乗せる鳴海

 鳴海はシンクに溜まっている皿を一枚手に取る


鳴海「(シンクに溜まっている皿を一枚手に取って 声 モノローグ)誰かを甘やかすために俺は姉貴と龍さんの幸せな日に乗り遅れるのか?」

 

 鳴海は皿を洗剤をつけたスポンジで洗い始める


鳴海「(皿を洗剤をつけたスポンジで洗いながら 声 モノローグ)ダメだ・・・考えても腹が立つだけで、結婚式の時間は変わらない・・・感情的になるのはやめて目下の仕事に集中するんだ」


 時間経過


 鳴海は洗い終えた皿を水切り棚に乗せる

 シンクにあったたくさんの皿は全てなくなり、代わりに水切り棚にたくさんの皿が乗っている

 依頼主のおばさんは変わらずソファに座ってテレビを見ている


鳴海「皿洗い、終わりました」

依頼主のおばさん「(テレビを見ながら)はい、じゃあ次は庭で草むしりしといて、もう一人はやってるから」

鳴海「道具とかは・・・」

依頼主のおばさん「(テレビを見ながら)ああそういうのは良いから、まず手でやっといて」


◯2085依頼主宅の庭(昼前)

 依頼主宅の庭にいる鳴海と伊桜

 依頼主宅の庭は雑草が生い茂っている

 依頼主宅の庭には鍵付きの大きな物置きがある

 雑草を手で抜いている鳴海と伊桜

 依頼主宅の庭には抜いた雑草を捨てるための大きなゴミ袋が置いてある


鳴海「(雑草を手で抜きながら)これって芝刈り機とか使う作業っすよね」

伊桜「(雑草を手で抜きながら)草刈り機を使うには資格がいるんだ、お前は持ってないだろ」

鳴海「(雑草を手で抜きながら)あ、はい・・・」

伊桜「(雑草を手で抜きながら)今度で良いから受講しておけ」

鳴海「(雑草を手で抜きながら)りょ、了解です・・・」


 鳴海と伊桜は抜いた雑草をゴミ袋の中に入れる

 再び雑草を手で抜き始める鳴海と伊桜


鳴海「(雑草を手で抜きながら)うちってもしかしてブラックなんですかね・・・?」

伊桜「(雑草を手で抜きながら)俺たちは人助けが専門だ、灰色にしか務まらない仕事もある」

鳴海「(雑草を手で抜きながら)伊桜さんが言うといちいち格好良く聞こえますけど、ぶっちゃけ俺こういう仕事はどうかと思いますよ」

伊桜「(雑草を手で抜きながら)仕事内容に違いがあっても仕事そのものに差はない」

鳴海「(雑草を手で抜きながら)そうですかね・・・俺には大きな違いがあるように感じるんですけど・・・」

伊桜「(雑草を手で抜きながら)そんなことを考えてどうする?お前が緋空事務所を変えるのか?」


 少しの沈黙が流れる


伊桜「(雑草を手で抜きながら)長く仕事をやりくりするコツの一つは、考え過ぎないことだ」

鳴海「(雑草を手で抜きながら)それは・・・・同意しますよ、さっきだって考えるのをやめて黙々と皿を洗ってましたし・・・」

伊桜「(雑草を手で抜きながら)分かってるなら今後もそうしろ」


 時間経過


 鳴海と伊桜は草刈鎌を使って雑草を刈っている

 手袋をつけている鳴海と伊桜 

 依頼主宅の庭の雑草はかなり減っている

 鳴海は汗だくになっている


鳴海「(汗だくになり草刈鎌を使って雑草を刈りながら 声 モノローグ)もう昼か・・・」


 鳴海は汗だくになり草刈鎌を使って雑草を刈りながら腕時計を見る

 鳴海の腕時計は11時10分を指している


鳴海「(汗だくになり草刈鎌を使って雑草を刈りながら腕時計を見て 声 モノローグ)結婚式・・・始まってるな・・・」


 鳴海は汗だくになり腕時計を見たまま草刈鎌を動かす速度を上げる

 鳴海の草刈鎌は刃先が少しずつ鳴海の左足に近付いている

 鳴海は変わらず汗だくになり腕時計を見たまま草刈鎌を使って雑草を刈っており、草刈鎌の刃先が左足に近付いて来ていることに全く気付いていない


鳴海「(汗だくになり腕時計を見たまま草刈鎌を使って雑草を刈って 声 モノローグ)急がないと・・・姉貴たちが・・・」


 鳴海の草刈鎌は刃先があと数センチで鳴海の左足に当たりそうになっている

 鳴海が草刈鎌を動かしている方の手を素早く掴み止める伊桜

 鳴海の草刈鎌は刃先があと数センチで鳴海の左足に当たりそうになっている状態で伊桜に掴まれて止まっている

 鳴海は汗だくになり草刈鎌を持っている方の手を伊桜に掴まれたまま、腕時計を見るのをやめる


鳴海「(汗だくになり草刈鎌を持っている方の手を伊桜に掴まれたまま、腕時計を見るのをやめて)い、伊桜さん?」

伊桜「(鳴海が草刈鎌を持っている方の手を掴んだまま)左足を見るんだ」


 鳴海は汗だくになり草刈鎌を持っている方の手を伊桜に掴まれたまま、自分の左足を見る

 鳴海の左足は変わらず草刈鎌の刃先があと数センチのところで当たりそうになっている


伊桜「(鳴海が草刈鎌を持っている方の手を掴んだまま)だから言っただろ、考え過ぎるなと」

鳴海「(汗だくになり草刈鎌を持っている方の手を伊桜に掴まれたまま、自分の左足を見て)は、はい・・・すみません・・・」


 伊桜は鳴海が草刈鎌を持っている方の手を離す


伊桜「(鳴海が草刈鎌を持っている方の手を離して)また助けてやれる保証はないぞ、貴志」


◯2086緋空事務所(昼)

 緋空事務所に戻って来た鳴海と伊桜

 緋空事務所の中には来栖、太田を含む数人の社員がおり、それぞれ机に向かって椅子に座り、談笑しながら昼食を食べている

 緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある 

 緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある

 緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある

 緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある

 伊桜は自分の席でパソコンに向かってタイピングをしている

 伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃(いざくらひめの)の写真が飾られている

 伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある

 来栖はコンビニの弁当、太田はコンビニのサンドイッチを食べている

 鳴海は急いで緋空事務所の扉の横の棚の引き出しにタイムカードをしまう

 慌てて頭を下げる


鳴海「(頭を下げて)お、お先に失礼します!!」

伊桜「(パソコンに向かってタイピングをしながら)お疲れ様」


 鳴海は顔を上げる

 急いで緋空事務所の扉を開けて事務所から出る鳴海


◯2087帰路(昼)

 走って自宅に向かっている鳴海


鳴海「(走りながら)こういう時のために普段俺は走ってるのかよ!!」


◯2088貴志家鳴海の自室(昼)

 トランクス一枚の格好で自室にいる鳴海

 片付いている鳴海の部屋

 鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない

 机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある

 机の上のてるてる坊主には顔が描かれている

 鳴海はトランクス一枚の格好で部屋の押し入れを漁っている

 鳴海の部屋の押し入れには服が何着かかかっており、その中には波音高校の制服もある

 

鳴海「(トランクス一枚の格好で押し入れを漁りながら)クソッ!!スーツが見つからねえ!!面接の後に押し入れに封印したはずなのに!!」


 鳴海はトランクス一枚の格好で押し入れを漁り続けるが、押し入れの中にスーツは見当たらない

 

鳴海「(トランクス一枚の格好で押し入れを漁りながら)姉貴だな!!引越す整理のついでに俺の服の場所を変えやがったのは!!」


 鳴海はトランクス一枚の格好で押し入れに手を突っ込み、スーツがないか探す


鳴海「(トランクス一枚の格好で押し入れに手を突っ込んでスーツがないか探しながら)何で急いでる時に限ってこんなことになるんだ!!」


 鳴海はトランクス一枚の格好で押し入れに手を突っ込んだまま、押し入れの奥にあったスーツを見つける

 トランクス一枚の格好で押し入れの奥から無理矢理スーツを引っ張り出す鳴海

 鳴海がトランクス一枚の格好で押し入れの奥から無理矢理スーツを引っ張り出した際に何かが落ちて来る

 トランクス一枚の格好で押し入れから何かが落ちて来たことを全く気にしていない鳴海


鳴海「(トランクス一枚の格好で)良かったあったぞ!!」


 鳴海はトランクス一枚の格好のまま上にスーツを羽織る


鳴海「(トランクス一枚の格好で上にスーツを羽織って)よしこれで準備万端だ!!早く行こう!!」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(トランクス一枚の格好で上にスーツを羽織ったまま大きな声で)って変態か俺は!!!ズボンとワイシャツを着ずに何が準備万端だよ!!!!」


 鳴海はトランクス一枚の格好で上にスーツを羽織ったまま再び押し入れに手を突っ込む


鳴海「(トランクス一枚の格好で上にスーツを羽織ったまま押し入れに手を突っ込んで)やっぱり今日の仕事は受けるんじゃなかった!!」


 鳴海はトランクス一枚の格好で上にスーツを羽織ったまま押し入れに手を突っ込んで、押し入れの奥にあったスーツのズボンを見つける

 トランクス一枚の格好で上にスーツを羽織ったまま押し入れの奥からスーツのズボンを引っ張り出す鳴海

 鳴海はトランクス一枚の格好で上にスーツを羽織ったまま急いでズボンを穿く

 上半身裸でスーツを羽織ったままズボンを穿き終える鳴海


鳴海「(上半身裸でスーツを羽織ったまま)あとはワイシャツと靴下とネクタイと・・・」


 鳴海は上半身裸でスーツを羽織ったまま押し入れから落ちて来た物を拾う

 上半身裸でスーツを羽織ったままの状態の鳴海が拾った物はフレームに入った一枚の写真

 フレームに入った一枚の写真にはホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている

 鳴海は上半身裸でスーツを羽織ったまま、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている写真を見ている

 再び沈黙が流れる


鳴海「(上半身裸でスーツを羽織ったまま、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている写真を見て)そ、そんなところから何か言いたげな顔をするのはやめてくれ、母さん」


◯2089結婚式会場前(昼過ぎ)

 結婚式会場前にいるスーツ姿の鳴海

 結婚式会場は教会式で大きくお洒落な外観をしており、周囲には数人の警備員が立っている

 結婚式会場の扉の前にはブライダルスタッフ1がいる

 結婚式会場の扉の前には大きなウェルカムボードが立っており、”Welcome to our Wedding Ryuzo&Fuka”と書かれてある

 鳴海は一眼レフカメラを首から下げている

 鳴海はブライダルスタッフ1がいる結婚式会場の扉のところに行く


鳴海「(ブライダルスタッフ1がいる結婚式会場の扉のところに行って)えっと・・・遅刻しました・・・」

ブライダルスタッフ1「受付でゲストカードを記入してください」

鳴海「は、はい。(少し間を開けて小声でボソッと)ゲストカードって何だ・・・?」


◯2090結婚式会場/受付(昼過ぎ)

 お洒落な結婚式会場の受付にいるスーツ姿の鳴海

 結婚式会場の受付には数人のブライダルスタッフがいる

 鳴海は一眼レフカメラを首から下げている

 受付にいるブライダルスタッフ2と話をしている鳴海


鳴海「ゲストカードを書けって言われたんですけど・・・」


 少しの沈黙が流れる


ブライダルスタッフ2「ゲストカードをお忘れですか?」

鳴海「いや、忘れてないっすよ」

ブライダルスタッフ2「では記入をお願いします」

鳴海「記入するための紙がないんです」

ブライダルスタッフ2「ゲストカードをお忘れしたということですね?」

鳴海「いや、だから紙がないんですけど・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「そもそもゲストカードって一体なんすか?」

ブライダルスタッフ2「招待状に同封されてる芳名帳の代わりになる物です」

鳴海「ほーめい・・・?(少し間を開けて)と、とにかく俺のゲストカードはどこにあるんすか」

ブライダルスタッフ2「ですから招待状の中に・・・」

鳴海「(ブライダルスタッフ2の話を遮って)それって絶対に書かなきゃいけないんすかね、俺、今日結婚する奴らの弟になんですけど、弟にも必要な紙なんすか?」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「しかも忘れたのって俺じゃなくて招待状に入れ損ねた姉貴と龍さんの方だろ」


 再び沈黙が流れる


鳴海「は、早く会場に入らせてもらえませんか?」


◯2091結婚式会場/披露宴場(昼過ぎ)

 結婚式会場の中にある披露宴場にいるスーツ姿の鳴海、ピンクのパーティードレスを着た菜摘、ベージュのパーティードレスを着たすみれ、スーツを着た潤、純白のウェディングドレスを着た風夏、白いタキシードを着た龍造、車椅子に乗り黒のパーティードレスを着た一条智秋

 結婚式会場の中の披露宴場は広く、お洒落に飾り付けがされている

 結婚式会場の中の披露宴場には大きなテーブルがあり、ビュッフェ形式でケーキ、ゼリー、パフェ、ドーナツ、アイスクリーム、フルーツ、チョコレートファウンテンなどのたくさんのスイーツが並んでいる

 結婚式会場の中の披露宴場にはたくさんのテーブルと椅子がある

 結婚式会場の中の披露宴場には鳴海たちの他にもたくさんの着飾った人たちがいる

 結婚式会場の中の披露宴場にいる人たちはテーブルに向かい椅子に座って近くの人と喋ったり、ビュッフェにあるスイーツを食べ歩いたりしている

 結婚式会場の中の披露宴場には新郎新婦のためのテーブルと椅子が用意されており、風夏と龍造はテーブルに向かって椅子に座り車椅子に乗った智秋と話をしている

 智秋の後ろには車椅子を押すために一人のスーツ姿の男が立っている

 車椅子に乗った智秋は痩せている

 すみれと潤は菜摘から少し離れた場所で立って数人の人たちと話をしている 

 鳴海は一眼レフカメラを首から下げている

 菜摘は一人でビュッフェに並んでいるスイーツを見ている

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 ボーッと菜摘の姿に見惚れている鳴海

 菜摘は鳴海に見られていることに気付く

 鳴海のところにやって来る菜摘


菜摘「(鳴海のところにやって来て)遅いよ鳴海くん!!」

鳴海「(菜摘の姿に見惚れたまま)えっ・・・?」

菜摘「遅刻!!」

鳴海「あー・・・で、でも間に合っただろ」

菜摘「もう式は終わっちゃったよ!!」

鳴海「け、結婚式なら現在進行形でやってるじゃないか」

菜摘「これは式じゃなくて披露宴!!」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「すまん」

菜摘「今日謝る相手は風夏さんと龍ちゃんで、私じゃないよ鳴海くん」

鳴海「そうだな、後で軽く土下座しとくか」

菜摘「結婚式でふざけちゃダメ!!」

鳴海「(少し笑って)でも今は結婚式じゃなくて披露宴なんだろ?」

菜摘「ひ、披露宴でもふざけちゃいけないからね鳴海くん」

鳴海「そんなことよりもドレスが最高に似合ってるな、やっぱり買って正解だったよ菜摘」


 再び沈黙が流れる


菜摘「ご、誤魔化すのもダメ」

鳴海「別に誤魔化してないぞ」

菜摘「な、鳴海くんは・・・わ、私を褒めて惑わそうとしてるんだよ・・・」

鳴海「菜摘を惑わして俺にどんな徳があるんだ?」

菜摘「そ、それは・・・私が鳴海くんに甘くなったり・・・」

鳴海「つまり徳しかないということか・・・」

菜摘「い、いい加減怒るよ鳴海くん!!」

鳴海「悪い、冗談で少しからかっただけだから怒られないでくれ」

菜摘「う、うん・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「さ、さっきまで雪音ちゃんがいたんだよ」

鳴海「何で一条が?」

菜摘「風夏さんに招待されたんじゃないかな、智秋さんも来てるし」


 鳴海は周囲を見る

 鳴海は周囲を見るが、結婚式会場の中の披露宴場に雪音の姿はどこにもない


菜摘「雪音ちゃんは先に帰るって言ってたよ」


 鳴海は周囲を見るのをやめる


鳴海「(周囲を見るのをやめて)俺とは入れ違いか・・・」

菜摘「うん。雪音ちゃん・・・疲れてるみたいだったから・・・」

鳴海「話はしたんだろ?」

菜摘「少しだけ・・・」

鳴海「そうなのか・・・あいつ、卒業してからは何をしてるんだ?」

菜摘「お家のことをやってるって」

鳴海「お家のこと、か・・・」


 再び沈黙が流れる

 鳴海は風夏と龍造と話をしている車椅子に乗った智秋のことを見る


鳴海「(風夏と龍造と話をしている車椅子に乗った智秋のことを見て)智秋さんを置いて先に帰るなんて変だな・・・」

菜摘「雪音ちゃんにも色々あるんだよ・・・」

鳴海「(風夏と龍造と話をしている車椅子に乗った智秋のことを見たまま)色々って何だ?」

菜摘「い、色々は・・・色々・・・(少し間を開けて)きっと苦労してるんだと思う・・・」

鳴海「(風夏と龍造と話をしている車椅子に乗った智秋のことを見たまま)苦労してるのはみんな同じろうけどさ・・・それにしても智秋さん、体調が良さそうじゃないな・・・」


 車椅子に乗った智秋は鳴海に見られていることに気付く

 車椅子に乗った智秋に会釈をする鳴海

 智秋は風夏と龍造に別れを告げ、後ろにいた男に車椅子を押してもらい風夏と龍造から離れて行く

 車椅子に乗って押してもらっている智秋のことを見ている鳴海


菜摘「鳴海くん、風夏さんが写真撮りたいって言ってたよ」


 鳴海は車椅子に乗って押してもらっている智秋のことを見るのをやめる


鳴海「(車椅子に乗って押してもらっている智秋のことを見るのをやめて)写真?」

菜摘「うん、だから風夏さんたちのところに行かない?」

鳴海「そうだな」


 鳴海と菜摘は風夏と龍造がテーブルに向かって椅子に座っているところに行く


龍造「(少し笑って)鳴海くん、来てくれて良かった」

鳴海「す、すいません、お騒がせしました」

風夏「ちゃんと反省してよ、こんな大事な日に大遅刻をかましたんだから。あとこれからは郵便の確認もするように」

鳴海「は、反省はするが敢えて言わせてくれ、今後俺には行事の予定を郵送しないで欲しい」

風夏「世の中請求書だって郵送で届くんだし、確認する癖をつけないとまたやらかすよ鳴海」

鳴海「し、仕事で忙しい時はそこまで目が届かないんだ」


 少しの沈黙が流れる


風夏「まあ・・・鳴海が頑張ってるのは認めてあげるけどさ・・・(少し間を開けて)菜摘ちゃん、弟のことお願いね、こいつアホの子だから」

菜摘「はい!!」

鳴海「(小声でボソッと)俺がアホの子なら同じ母親の元に生まれた姉貴もアホの子だろ・・・」

風夏「ん?」

鳴海「あ、姉貴たちはすみれさんと潤さんに挨拶をした日に籍を入れたのか?」

風夏「そうだよ」

鳴海「何で届を出したって教えてくれなかったんだ?」

龍造「風夏が驚かしたいって言ってね、それで鳴海くんたちには黙ってることにしたんだよ」

鳴海「なるほどそういうことですか。(少し間を開けて)菜摘、俺たちが結婚する時も龍さんたちには黙ってることにするぞ」

菜摘「(驚いて)えっ!?」

鳴海「えっ!?じゃないだろ、俺たちも同じことをやり返してだな・・・」

龍造「そ、そんなサプライズ合戦をしなくても」

風夏「本当だよ鳴海、サプライズは私たちで使い切っちゃったんだから」

鳴海「いや、まだ俺たちは終わっちゃいないだろ?菜摘」

菜摘「うーん・・・というか始まってすらない気がするよ・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「しゃ、写真だったよな、て、適当に撮ってやるぞ」


 鳴海は一眼レフカメラの電源を入れる


風夏「鳴海は撮られる側でしょ?」

鳴海「な、何で俺が撮ら・・・」

風夏「(鳴海の話を遮って)良いから、一緒に写ろうよ鳴海も菜摘ちゃんも」

菜摘「わ、私が入って良いんですか・・・?」

風夏「もちろん、可愛い弟と妹と写真を撮らせてよ」

菜摘「は、はい!!」


 少しの沈黙が流れる


龍造「三人とも、僕が撮ろうか」

風夏「あ、じゃあお願い龍ちゃん」

龍造「うん」


 龍造は立ち上がる

 一眼レフカメラを渋々首から外す鳴海

 鳴海は一眼レフカメラを龍造に差し出す


鳴海「(一眼レフカメラを龍造に差し出して)俺が撮られるのは納得いきませんけど・・・(少し間を開けて)でもせっかく撮る写真がスマホじゃあれなんで・・・」


 龍造は一眼レフカメラを鳴海から受け取る


龍造「(一眼レフカメラを鳴海から受け取って)分かった、しっかり撮るよ」


 鳴海は頷く

 一眼レフカメラを首に下げる龍造

 菜摘は風夏の左隣に行く

 風夏の右隣に行く鳴海


菜摘「す、凄いよ鳴海くん!!」

鳴海「何かあったのか?」

菜摘「風夏さんのドレス!!」


 鳴海は風夏が着ている純白のウェディングドレスを軽く触ってみる


鳴海「(風夏が着ている純白のウェディングドレスを軽く触ってみて)ステルス機能でもついてるなら確かに凄いと思うが・・・見たところ普通のドレスだな・・・」

風夏「ちょっと引っ張ったりしないでよ鳴海」


 鳴海は風夏が着ている純白のウェディングドレスを軽く触るのをやめる


鳴海「(風夏が着ている純白のウェディングドレスを軽く触るのをやめて)お、おう」

菜摘「風夏さん、本当にお姫様みたいで綺麗だよね鳴海くん!!」

鳴海「い、いちいち俺に同意を求めないでくれ」

菜摘「だって綺麗なんだもん!!」

風夏「(少し笑って)ありがとう菜摘ちゃん、菜摘ちゃんが着てるドレスも素敵だよ」

菜摘「こ、このドレスは鳴海くんが買ってくれたんです」

風夏「えっ?うちのボンクラな弟がこれを?」

鳴海「ボンクラって言うな」

風夏「へぇ〜・・・光学迷彩付きのドレスなの?」

鳴海「同じボケをしないでくれよ・・・弟の俺が恥ずかしくなるだろ・・・」

風夏「(少し笑って)別に恥ずかしがらなくて良いじゃん、姉弟なんだから」

鳴海「姉弟だから問題なんだけどな・・・」

風夏「(少し笑いながら)お姉ちゃんは鳴海が男としての磨きをかけてくれてて嬉しいよ」

鳴海「そりゃどうも・・・」


 龍造は一眼レフカメラのファインダーを覗く


龍造「(一眼レフカメラのファインダーを覗いて)鳴海くんと菜摘ちゃん、もう少し風夏に寄った方が良いかも」


 風夏は両隣にいる鳴海と菜摘のことを抱き寄せる


鳴海「(風夏に抱き寄せられて)お、おい姉貴」

風夏「(両隣にいる鳴海と菜摘のことを抱き寄せたまま)こんな感じ?」

龍造「(一眼レフカメラのファインダーを覗きながら)良いね!じゃあ三人とも撮るよ」

風夏「(両隣にいる鳴海と菜摘のことを抱き寄せたまま)うん!」

龍造「(一眼レフカメラのファインダーを覗きながら)はい、チーズ!!」


 龍造は一眼レフカメラのファインダーを覗いたまま両隣の鳴海と菜摘を抱き寄せている風夏のことを撮る


風夏「(両隣にいる鳴海と菜摘のことを抱き寄せたまま)もう一枚お願い龍ちゃん!!」

龍造「(一眼レフカメラのファインダーを覗きながら)分かった、じゃあもう一回撮るよ!はい、チーズ!!」


 龍造は一眼レフカメラのファインダーを覗いたまま再び両隣の鳴海と菜摘を抱き寄せている風夏のことを撮る

 一眼レフカメラのファインダーを覗くのをやめる龍造

 龍造は一眼レフカメラの液晶モニターで撮った写真を確認する

 一眼レフカメラの液晶モニターには風夏、風夏に抱き寄せられている鳴海と菜摘の姿が写っている

 一眼レフカメラの液晶モニターに写っている風夏、風夏に抱き寄せられている鳴海と菜摘の写真は、滅びかけた世界の老人が持っている写真と完全に同じ物

 龍造は一眼レフカメラの液晶モニターを見るのをやめる

 一眼レフカメラで撮った写真を鳴海、菜摘、風夏に見せに行く龍造


龍造「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海、菜摘、風夏の写真を鳴海たちに見せて)良いのが撮れたよ」


 鳴海、菜摘、風夏は一眼レフカメラの液晶モニターに写っている自分たちの写真を見る


風夏「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海、菜摘、自分の写真を見て)あ〜・・・」

鳴海「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている自分、菜摘、風夏の写真を見たまま)何だよその反応」

風夏「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海、菜摘、自分の写真を見たまま)ちょっとね〜」


 菜摘は一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海、自分、風夏の写真を見るのをやめる


菜摘「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海、自分、風夏の写真を見るのをやめて)撮り直しますか?」


 風夏は一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海、菜摘、自分の写真を見るのをやめる


風夏「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海、菜摘、自分の写真を見るのをやめて)あ、ううん、それよりも今度はすみれさんたちも呼んで撮ろうよ、家族写真みたい感じでさ」


 鳴海は一眼レフカメラの液晶モニターに写っている自分、菜摘、風夏の写真を見るのをやめる


鳴海「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海、菜摘、風夏の写真を見るのをやめて)良いな、それ」


 すみれと潤は変わらず数人の人たちと話をしている


菜摘「(数人の人たちと話をしているすみれと潤に向かって)お母さん!!お父さん!!みんなで写真を撮ろうだって!!」


 龍造は一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海、菜摘、風夏の写真を鳴海たちに見せるのをやめる


龍造「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海、菜摘、風夏の写真を鳴海たちに見せるのをやめて)鳴海くん、セルフタイマーの設定は出来る?」

鳴海「多分・・・出来ると思いますけど・・・」

 

 龍造は一眼レフカメラを首から外す

 一眼レフカメラ鳴海に差し出す龍造

 鳴海は一眼レフカメラを龍造から受け取る

 一眼レフカメラを首に下げ、カメラのボタンをいじり出す鳴海


鳴海「(一眼レフカメラのボタンをいじって)これか・・・?違うな・・・」

龍造「カメラかぁ・・・僕もいつか欲しいとは思ってるんだけど・・・」

鳴海「(一眼レフカメラのボタンをいじりながら)あっても損はないですよ」

龍造「そうだよね・・・家族写真はその時その時で撮っておきたいし・・・思い切って今度の給料日にでも・・・」


 鳴海と龍造は話を続ける

 すみれと潤に手招きをする菜摘


菜摘「(すみれと潤に手招きをして)こっちこっち!!」


 すみれと潤が鳴海たちのところにやって来る

 

潤「記念写真か?」

菜摘「うん!!」

潤「その前にアイスを・・・」

すみれ「(潤の話を遮って)潤くん」

潤「分かったすみれ、写真には食べながら写ろう」

すみれ「一生残る写真なんだからダメです」

潤「だが映画監督のアンドレア・シランコフスキーは、人が動いてる時こそカメラで撮るべきだと言ってたじゃねえか」

菜摘「アンドレイ白子好きー・・・?」

潤「アンドレア・シランコフスキーだ」

すみれ「そんな人知りません」

潤「36年前映画館で・・・」

すみれ「(潤の話を遮って)ダメなものはダメです」


 再び沈黙が流れる


潤「じゃあ写真の後な、すみれ」

すみれ「うん、写真の後ね」


 鳴海と龍造は変わらず話をしながら一眼レフカメラのセルフタイマーの方法を模索している

 一眼レフカメラのボタンをいじっている鳴海


すみれ「潤くん、鳴海くんたちを手伝ってあげて」

潤「ガキたちはカメラも使えねえのか、おい、そいつを貸せ鳴海」

鳴海「(一眼レフカメラのボタンをいじりながら)あんたみたいな乱雑な年寄りに繊細な機械が扱えるわけないだろ」

潤「言っとくがな義理の息子、俺の心は米よりも精細だぞ」

鳴海「(一眼レフカメラのボタンをいじりながら)あんたはむしろ米を捻り潰してそうだが」

潤「俺が40数年間もパンを見下し米至上主義でやって来たことを知らねえようだなクソガキ」

鳴海「(一眼レフカメラのボタンをいじりながら)クソは禁句だぞ爺さん」

潤「俺はまだ20年を2回ちょっと繰り返しただけだ、つまり全然爺さんではねえ」

龍造「お、お二人とも、喧嘩はその辺に・・・」

鳴海「(一眼レフカメラのボタンをいじりながら龍造の話を遮って)何言ってんすか龍さん、俺たちは若者代表なんすよ」

龍造「そ、そんな代表にされても困るんだけど・・・」

すみれ「男の子たち、カメラの準備はまだですか?」

鳴海「(一眼レフカメラのボタンをいじりながら)潤さんが邪魔して来るせいでまだっすね」

潤「ガキが不器用過ぎてまだだな」

龍造「二人が喧嘩してるのでまだ時間がかかりそうです・・・」

すみれ「男の子たち、喧嘩しないで仲良くやってくださいね」

鳴海・潤・龍造「はい」


 鳴海、すみれ、潤、龍造は話を続ける

 結婚式会場の披露宴場の遠くの方を見ている風夏

 菜摘は結婚式会場の披露宴場の遠くの方を見ていることに気付く


菜摘「(結婚式会場の披露宴場の遠くの方を見ていることに気付いて)風夏さん?」


 風夏は結婚式会場の披露宴場の遠くの方を見るのをやめる


風夏「(結婚式会場の披露宴場の遠くの方を見るのをやめて)ん?」

菜摘「鳴海くんが考えごとをする時と同じ表情をしてました、今の風夏さん」

風夏「(少し笑って)血を分けた姉弟だからね〜、似たところもたくさんあるんだよ」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「何を考えてたのか、教えてくれませんか?」

風夏「ここに来れなかった人たちのことを・・・ちょっとね」

菜摘「今日は無理でも・・・きっといつか来てくれますよ」

風夏「そうかなー・・・でも来てくれたって結婚式はこれが最後だし・・・もう・・・色々遅い気がするけど・・・」


 再び沈黙が流れる


風夏「(少し笑って)ってごめんね菜摘ちゃん、暗いこと言っちゃって」

菜摘「いえ・・・(少し間を開けて)風夏さんにはまだ夢がありますよ」

風夏「夢?」

菜摘「はい、夢の中に来てくれることだってあると思うんです」


 少しの沈黙が流れる


風夏「そういえば・・・昨日見たんだ。パパとママと・・・鳴海と・・・私と・・・それから・・・もう一人・・・お祭りに行く夢だったんだけど、パパとママは途中でどこかに行っちゃって・・・(少し間を開けて)そしたら誰かが私を助けてくれた、怖がらなくても大丈夫だよって。顔は覚えてないけど、綺麗な人だったと思う・・・多分、あの人は昔私がどこかで見た人なんだろうな・・・」

菜摘「鳴海くんも前に言ってました、緋空祭りで迷子になったことがあるって」

風夏「(少し笑って)覚えてるよ、その時のこと。優しい人に助けてもらったんだよね」

菜摘「はい」

風夏「(少し笑いながら)あの頃の私は鳴海のことが少し羨ましかったのかも。迷子になっても鳴海は助けてもらえてたし、私たちの母は鳴海のことを溺愛してたから・・・(少し間を開けて)もちろんそれは理解出来るんだけどね、鳴海は今も昔も、ママに似て寂しがり屋だから」

菜摘「風夏さんも・・・」

風夏「えっ?私が何?」

菜摘「鳴海くんに似ていると思います・・・」

風夏「(少し笑いながら)それ、悪い意味じゃないよね?菜摘ちゃん」

菜摘「ち、違います!!」

風夏「(少し笑いながら)私もボンクラだけど、弟ほどじゃないよ」

菜摘「ふ、風夏さんは立派なお姉さんです、ぎ、義理の妹の私から見てもそう思います」

風夏「(少し寂しそうに笑って)そっか・・・妹、か・・・」

菜摘「さ、さっき写真を撮る時に風夏さんが言ってくれたんですよ、私のことを妹だって」

風夏「(少し笑って)うん、菜摘ちゃんは妹、私の家族だよ」


 鳴海、すみれ、潤、龍造は変わらず話をしながら一眼レフカメラのセルフタイマーの方法を模索している

 一眼レフカメラのボタンをいじっている鳴海


すみれ「鳴海くん、セルフタイマーはやめてもう人に頼んだら・・・?」

鳴海「(一眼レフカメラのボタンをいじりながら)あ、あと少しでセット出来そうなんで待っててください」

潤「さっきからずっとそう言ってるじゃねえか」

鳴海「(一眼レフカメラのボタンをいじりながら)黙っててくれ」

龍造「僕、スタッフさん呼んでくるよ鳴海くん」

鳴海「(一眼レフカメラのボタンをいじりながら)ま、待ってくださいって!!」


 再び沈黙が流れる


潤「こいつ、両親に似て無駄に頑固だ」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海は一眼レフカメラのボタンをいじるのをやめる


鳴海「(一眼レフカメラのボタンをいじるのをやめて)や、やっと出来た!!わ、若者代表の意地を見せてやったぞ菜摘!!」

菜摘「い、意地・・・?ごめん、何の話・・・?」

鳴海「カメラだよカメラ!!」

菜摘「そ、そっか、よ、よく分からないけど頑張ったんだね」

鳴海「が、頑張ったなんてもんじゃないぞ、俺と龍さんは意地で潤さんに勝ったんだ」

龍造「設定したのは鳴海くんだけどね・・・」

鳴海「と、年寄りに勝ったんだから喜びましょうよ龍さん」

潤「喜ぶ前に三脚を出せガキ」


 再び沈黙が流れる


菜摘「鳴海くん、三脚なんて持ってるの・・・?」


 少しの沈黙が流れる


風夏「持ってなさそうだし椅子を使おっか・・・」

鳴海「そ、そうだ、椅子を使おう!!」

龍造「さすが姉弟」

鳴海「俺たちはこうやって知恵を振り絞って支え合いながら生きて来たんだよな、姉貴」

風夏「うん・・・まあ・・・否定はしないけどさ・・・」

すみれ「椅子は一脚で足りるかしら・・・」

潤「力仕事なら任せろすみれ!!この中で一番力があるのは俺だということを・・・」

すみれ「(潤の話を遮って)潤くん、早く椅子を持って来てくれる?」

潤「おう!!」


 潤は近くの使われていない椅子を取りに行く


菜摘「い、椅子をどうやって三脚代わりにするの?」

鳴海「そりゃ積み上げるんだろ」


 再び沈黙が流れる


龍造「倒れたら危な・・・」

鳴海「(龍造の話を遮って)倒れないようにします」


 潤は椅子を2脚持って鳴海たちのところに戻って来る


潤「(椅子を2脚持ったまま鳴海たちのところに戻って来て)トランプタワーを積み上げる感じでやるぞ」

鳴海「ああ」

菜摘「(心配そうに)鳴海くん・・・お父さん・・・大丈夫だよね?」

鳴海「大丈夫に決まってるじゃないか、椅子を少し積み上げるだけだからな」

菜摘「(心配そうに)少し・・・」

潤「(椅子を2脚持ったまま)こういうのは見た目ほど難しくねえってのが相場だ菜摘」

菜摘「(心配そうに)う、うん・・・」

風夏「私たちは先に並んで、椅子は鳴海と潤さんに任せちゃいましょ」

すみれ「そうね、そうしましょう」

風夏「龍ちゃん、主役なんだから椅子に座って」

龍造「あ、ああ・・・」


 潤は椅子を2脚床に置く

 テーブルに向かって新郎用の椅子に座る龍造

 菜摘とすみれは風夏の隣に行く

 床に置いてあった椅子の1脚をひっくり返し、置いてある椅子の上に慎重に積み上げようとする鳴海


潤「こりゃ椅子が足りねえな」

鳴海「(椅子をひっくり返し、床に置いてある椅子の上に慎重に積み上げようしながら)もう1脚持ってきてくれ」

潤「おうよ」


 潤は近くの使われていない椅子を取りに行く

 椅子をひっくり返し、床に置いてある椅子の上に積み上げ終える鳴海


鳴海「(椅子をひっくり返し、床に置いてある椅子の上に積み上げ終えて)ど、どうだ菜摘!!案外上手くいくもんだろ!!」

菜摘「そ、そうだね!!凄いよ鳴海くん!!」

鳴海「もう1脚上に乗せるからな!!よく見てろよ!!」

菜摘「うん!!」


 潤は椅子を1脚持って鳴海のところに戻って来る


潤「(椅子を1脚持ったまま鳴海のところに戻って来て)出来そうか?」

鳴海「俺は貴志由夏理の子供だぞ、こんなこと出来て当たり前だ」


 潤は持って来た椅子を床に置く

 潤が置いた椅子を手に取り、積み上げられている2脚の椅子の上に慎重に乗せようとする鳴海

 いつの間にか結婚式会場の宴会場にいる人たちが、3脚の椅子を積み上げようとしている鳴海のことを見ている

 3脚の椅子を積み上げようとしている鳴海のことを見ている人たちの中には、スマホで鳴海のことを撮ってる人もいる

 鳴海は積み上げられている2脚の椅子の上に椅子を乗せ終える

 鳴海が椅子を積み上げた瞬間、菜摘、すみれ、風夏、龍造を含む結婚式会場の宴会場にいる人たちが鳴海に拍手をする

 鳴海は左手の人差し指を口の前で突き立てて、結婚式会場の宴会場にいる人たちに見せる

 結婚式会場の宴会場は徐々に静かになる

 結婚式会場の宴会場が完全に静かになり、左手の人差し指を口の前で突き立てるのを止める鳴海

 鳴海は一眼レフカメラを首から外す

 一眼レフカメラのセルフタイマーをオンにする鳴海

 鳴海は積み上げられた3脚の椅子の上に慎重に一眼レフカメラを乗せようとする

 菜摘、すみれ、風夏、龍造を含む結婚式会場の宴会場にいる人たちは、積み上げられた椅子の上に一眼レフカメラを乗せようとしている鳴海のことを静かに見ている

 積み上げられた3脚の椅子の上に慎重に一眼レフカメラを乗せ終える鳴海

 菜摘、すみれ、潤、風夏、龍造を含む結婚式会場の宴会場にいる人たちが再び鳴海に拍手をする

 拍手をしている結婚式会場の宴会場にいる人たちに向かって深くお辞儀をする鳴海


潤「時間だ鳴海、余興はプロに任せて俺たちは写真を撮るぞ」


 鳴海はお辞儀をするのをやめる


鳴海「(お辞儀をするのをやめて)ああ」


 鳴海と潤は龍造の隣に行く

 

風夏「みんなカメラに注目〜!!」

菜摘「はーい!!」

風夏「ガールズは綺麗に、ボーイズはかっこよく撮るからね!!」

鳴海「おう!!」


 少しの沈黙が流れる


龍造「鳴海くん、タイマー何分でセットした?」

鳴海「さ、さあ・・・長めにしてると思いますけど・・・」


 再び沈黙が流れる

 積み上げられた3脚の椅子の上の一眼レフカメラは一向にシャッターを切る気配がない


菜摘「ふ、不意打ちで撮られるのは嫌だよ・・・」

すみれ「菜摘、いつシャッターを切られるか分からないから笑顔を絶やさないようにね」

菜摘「う、うん・・・」

風夏「やっぱ弟じゃなくて誰かに頼めば良かったかも」

鳴海「お、おい!!が、頑張って積み上げたんだからそんなことを言うなよ!!」

風夏「ナルミーニはよくやってたね、うん」

鳴海「あ、あんまり嬉しくない褒め方だな・・・」

潤「いつまで待てば良いんだよ義理の息子」

鳴海「な、長くても多分3分くらいだろ」

潤「てめえカップ麺でも作るつもりか?」

鳴海「じ、時間のセットの仕方が分からなかったんだよ!!」

潤「時間をかけて時間のセットをしたかと思えばこのザマだぜ・・・三脚の代わりに三脚の椅子を積み上げた努力もこれで無に帰ったな」

鳴海「その言い方は無性に腹が立つんだが・・・」

潤「気にすることはない」

鳴海「気にしかならないだろ!!」

潤「鈍臭いんだから気にせずやれよ」

鳴海「鈍臭かったら椅子を積み上げるなんて所業は不可能だからな!!」

潤「というかてめえ、さっきから菜摘の体をジロジロ見過ぎだ、通報すんぞ」

菜摘「えっ!?」

鳴海「べ、別に見てねえよ!!」

潤「猿みてえな顔をして娘の体を舐めるように・・・」

鳴海「(潤の話を遮って)誰が猿だ!!」

潤「お前が猿だろ」

菜摘「や、やめてよこんなところで鳴海くんもお父さんも・・・」

鳴海「な、菜摘の親父が俺に言いがかりを・・・」

潤「(鳴海の話を遮って)なら全くドレス姿の菜摘を見てねえってのか?」

鳴海「そ、それはだな・・・(少し間を開けて)す、少しは見たかもしれないが・・・」


 菜摘の顔が徐々に赤くなる


潤「やっぱり見たんだな変態め、通報すんぞ」

鳴海「通報されるほど見て・・・」


 鳴海と潤は言い争いを続ける


すみれ「もうそろそろ3分かしら・・・」


 すみれはあくびをする

 

龍造「何だか・・・凄く賑やかだね」

風夏「(少し笑って)後悔した?」

龍造「(少し笑って)後悔なんてするわけないじゃないか。昔から賑やかな家族に憧れてたから最高だよ」

風夏「(少し笑いながら)最高過ぎるくらいでしょ?」

龍造「(少し笑いながら)うん。僕も吹っ切れそうだ」


 少しの沈黙が流れる


風夏「私さ、ここにいるみんなのおかげで、パパとママが死んじゃった日から少しだけ時計の針を進められた気がするんだ」

龍造「少しでも良い、ゆっくりでも確実に、僕たちのペースで一緒に時間を歩んで行こうよ、風夏」

風夏「(頷いて)うん」


 風夏と龍造は手を繋ぐ

 風夏と龍造が手を繋いだ瞬間、積み上げられた3脚の椅子の上の一眼レフカメラが写真を撮る

 言い争いをしていた鳴海と潤は黙る

 再び沈黙が流れる


鳴海「今・・・撮られなかったか・・・?」

菜摘「と、撮られたよ」

潤「お前のせいだぞ義理の息子!!」

鳴海「あんたにだけはお前のせいって言われたくないんだが・・・」

すみれ「私、あくびをしていたかもしれません」

潤「撮り直しだ!!早急に撮り直しを要求する!!」

鳴海「わ、分かったよ・・・もう一回時間のセットから・・・」

菜摘「(鳴海の話を遮って)えー・・・もう誰かに撮ってもらおうよ・・・」

鳴海「何を言うんだ菜摘、セルフタイマーをこういう時に使わないと勿体無いだろ」

菜摘「勿体無くても減るもんじゃないし・・・」

風夏「(龍造と手を繋ぎながら)じゃあいっそのことスマホで撮っちゃう?」

鳴海「だ、ダメだ!!」

すみれ「スマホの方が低画質な分、おばさんにとっては良心的なんだけれど・・・」

鳴海「す、すみれさんは十分若いんだからカメラで撮りましょうよ」

潤「てめえ口説いてんのか?」

鳴海「く、口説いてねえって」

すみれ「そうなの?口説いていないの?」

菜摘「お、お母さん・・・」

鳴海「す、すみれさんも変なことを言うのはやめてください」

すみれ「あら、私はちょっとした冗談を・・・」

鳴海「(すみれの話を遮って)す、すみれさんの冗談は笑えないんですよ」

すみれ「笑えない・・・」

潤「お前、言って良いことと悪いことがあるんだぞ」

鳴海「す、すみません・・・」

龍造「(風夏と手を繋ぎながら)み、皆さん撮るなら急ぎましょう、お色直しの時間も迫ってますから」

鳴海「か、カメラはどうするんすか?」

風夏「じゃあ素早く鳴海のやつで!!」

鳴海「りょ、了解!!」


 積み上げられた3脚の椅子の上の一眼レフカメラの液晶モニターには、言い争っている鳴海と潤、顔が赤くなっている菜摘、あくびをしているすみれ、手を繋いでいる風夏と龍造の姿が写っている


◯2092結婚式会場/ブライズルーム(昼過ぎ)

 新婦が衣装を着替えたり、メイクをしたりするためのブライズルームにいるスーツ姿の鳴海、純白のウェディングドレスを着た風夏、タキシードを着た龍造

 ブライズルームはお洒落で綺麗な部屋

 ブライズルームにはソファ、テーブル、化粧をするための鏡、姿見用の鏡などがある

 鳴海は一眼レフカメラを首から下げている

 ソファに座っている風夏

 鳴海と龍造は立っている

 話をしている鳴海と風夏


鳴海「何でお色直しをするのにスタッフを追い出したんだよ」

風夏「ちょっと話がしたかったんだって」

鳴海「スタッフがいても話は出来るだろ」

風夏「喋り辛いでしょ?」

鳴海「俺は別に気にしないぞ」

風夏「お姉ちゃんは気にするの」


 少しの沈黙が流れる


龍造「僕も出てるよ」

風夏「うん、ありがとう龍ちゃん」


 龍造はブライズルームから出て行く


鳴海「お、おい・・・け、結婚式・・・じゃなくて披露宴か?(少し間を開けて)ど、どっちにしたって俺は新婚夫婦の時間を奪うなんてことはしたくないぞ」

風夏「(少し笑って)鳴海は優しいね」

鳴海「な、何だよそれ、遅刻したことを怒ってるのか?」


 風夏は首を横に振る

 再び沈黙が流れる


風夏「鳴海は・・・自分の親のことを思い出すようになった・・・?」

鳴海「な、何でいきなりそんなことを聞くんだよ」

風夏「答えて、正直にお姉ちゃんに」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「た、多少は・・・思い出すようになったけどさ・・・」

風夏「多少ってのは多いの?それとも少ないの?」

鳴海「そ、そんなの分かるわけないだろ」

風夏「じゃあ・・・パパとママがどういう人だったのか・・・思い出せる・・・?性格とか、好きなものとか、何でも良いから・・・思い出せるようになった・・・?」

鳴海「あ、ああ。母さんは手品が得意で・・・(少し間を開けて)父さんは俺に対して・・・厳しかったよな」


 再び沈黙が流れる


鳴海「な、何でこんな無意味なことを聞くんだ」

風夏「知りたかったんだよ・・・どこまで鳴海が忘れてるのかを・・・」

鳴海「どういう目的にしてもこんな聞き方はやめてくれ」

風夏「ごめん・・・」


 少しの沈黙が流れる


風夏「ユカリーニって覚えてる・・・?」

鳴海「ああ・・・」

風夏「私はママのあのキャラが嫌いだった」

鳴海「ガキっぽいからだろ?」


 風夏は頷く


風夏「だけど今は・・・ママのことが恋しくなるんだよね」

鳴海「い、一体どうしたんだよ姉貴、い、今まではこういう話をしなかったのにさ」

風夏「今までしてこなかったらこそなんだって・・・(少し間を開けて)鳴海、私たちの痛みは・・・私たちにしか共有出来ないんだよ。ママとパパのことを知ってる人はもう限られてるんだから・・・」

鳴海「す、すみれさんと潤さんがいるじゃないか」

風夏「すみれさんたちはパパとママの親友であっても、子供じゃないでしょ・・・?」

鳴海「だ、だから何だよ・・・?い、今更交通事故の傷を舐め合おうって言うのか?」

風夏「違うの鳴海、私たちは・・・ずっと・・・」

鳴海「ずっと何だ?(少し間を開けて)わ、悪いがさっきから姉貴の話は筋が見えて来ない、は、はっきり言って意味不明だ。結婚式だぞ、姉貴が望んでいた結婚式で死んだ両親の話なんかしてどうするんだよ」

風夏「私は・・・鳴海が少しはパパとママのことについて話したくなったかと思っただけで・・・傷を舐め合うとか、そういうつもりは全くないんだよ。ただ、やっぱり私たちにしか話せないことってあるからさ・・・」

鳴海「母さんの子供じみたキャラがうざいとかか?」

風夏「まあ・・・それもだし・・・」

鳴海「確かにうざかったけど今話題にするほどじゃないだろ?」

風夏「うん・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「あ、姉貴は母さんと父さんのことで話したいことがあるのか?」

風夏「多少はね・・・」

鳴海「多いか少ないか分からない答えはやめてくれ」

風夏「先に多少って言ったのは鳴海でしょ?」


 少しの沈黙が流れる


風夏「私さ・・・ママに・・・謝りたいんだよね・・・」

鳴海「あ、謝るって何をだよ」

風夏「色々・・・良い子じゃなかったから・・・」

鳴海「ま、待ってくれ、あ、姉貴が良い子じゃなかったら俺はどうなるんだよ」

風夏「鳴海は私より全然マシな子供だったじゃん、大人しかったしさ」

鳴海「な、何でそんなことが言い切れるんだ」

風夏「私はあなたのお姉ちゃんなんだよ、昔から側で見て来たんだから」

鳴海「お、俺だって姉貴のことを見て来てるはずだぞ」

風夏「鳴海は私よりも6つ歳下でしょ?」

鳴海「だ、だからって見てないわけじゃないだろ」

風夏「そうだけど、見えてないこととかもあるだろうし」


 再び沈黙が流れる


鳴海「い、良い子じゃなかったにしても気にするなよ、お、俺だって姉貴に反抗的だったんだしさ」

風夏「うん・・・」

鳴海「お、お墓参りにも行ってるんだし、とっくに悪ガキだった頃の姉貴のことを許してくれてると思うぞ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「げ、元気出せって!!結婚式だろ!!」

風夏「元気だよ」

鳴海「じゃ、じゃあテンションも上げとけ!!」

風夏「テンションも上げてる」

鳴海「ど、どこがだよ!!」

風夏「えっ?見て分からない?」

鳴海「わ、分かるわけないだろ!!」

風夏「姉弟なのに・・・お姉ちゃんは悲しいよ・・・姉のテンションが爆上がりしてることも分からないなんて・・・」

鳴海「わ、分からないものは分からないんだからしょうがないだろ!!」


 再び沈黙が流れる


風夏「(少し笑って)一生懸命慰めようとしてくれてありがとうね、鳴海」

鳴海「れ、礼なんて要らねえよ、俺は結婚する姉貴に暗い顔をしてて欲しくないんだ」

風夏「(少し笑いながら)だから不器用ながらに全力で頑張ってくれてるんでしょ・・・?」

鳴海「ぶ、不器用なのも全力なのも元々の性格だよ・・・」


 少しの沈黙が流れる


風夏「鳴海」

鳴海「な、何だ?」

風夏「鳴海も話したいことがあったらいつでもお姉ちゃんのところにおいでよ、苗字が変わっても私はこの先も鳴海のお姉ちゃんだから」

鳴海「ああ・・・本当にやばい時は、遠慮なく姉貴を頼らせてもらうよ」


◯2093結婚式会場/披露宴場(昼過ぎ)

 結婚式会場の中にある披露宴場にいるスーツ姿の鳴海、ピンクのパーティードレスを着た菜摘、ベージュのパーティードレスを着たすみれ、スーツを着た潤

 結婚式会場の中の披露宴場は広く、お洒落に飾り付けがされている

 結婚式会場の中の披露宴場にはたくさんのテーブルと椅子がある

 結婚式会場の中の披露宴場には鳴海たちの他にもたくさんの着飾った人たちがいる

 鳴海、菜摘、すみれ、潤は同じテーブルに向かって椅子に座っている

 結婚式会場の中の披露宴場には新郎新婦のためのテーブルと椅子が用意されている

 結婚式会場の中の披露宴場にいる人たちは全員テーブルに向かって椅子に座っており、近くの人と喋ったりしている

 いつの間にか智秋はいなくなっている

 披露宴はお色直しの時間になっており、鳴海たちは風夏と龍造が戻って来るのを待っている

 鳴海は一眼レフカメラを首から下げている

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 話をしている鳴海と菜摘


菜摘「風夏さん、大丈夫だった?」

鳴海「あ、ああ。大丈夫じゃないように見えたのか?」

菜摘「だ、大丈夫じゃないというか・・・何か悩んでそうだったから・・・」

鳴海「た、多分心配要らないさ・・・姉弟の絆も確認したしな・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「ご両親についての話をしたの・・・?」

鳴海「な、何で分かったんだ」

菜摘「何となく・・・風夏さんが鳴海くんを呼び出すってことは・・・そういう話なのかなって思って・・・」

鳴海「私立探偵になれるぞ、菜摘」

菜摘「じゃあ・・・やっぱりご両親についての話だったんだ・・・」

鳴海「ああ」


 再び沈黙が流れる


鳴海「な、菜摘は気にしなくても大丈夫だぞ、今姉貴は元気にお色直し中だからな」

菜摘「鳴海くん」

鳴海「な、何だ?」

菜摘「風夏さんも寂しいんだよ」

鳴海「あ、姉貴が寂しい?」

菜摘「うん」

鳴海「な、何でそうなるんだよ」

菜摘「だって風夏さんは・・・鳴海くんと同じくらい・・・寂しがり屋な人だから・・・」


 少しの沈黙が流れる

 突然、結婚式会場の中の披露宴場の照明が全て消える

 少しすると白の照明が一箇所だけつく

 白の照明はいなかったはずの純白のウェディングドレスを着た風夏、タキシードを着た龍造のことを照らしている

 風夏は髪型が変わっている

 鳴海、菜摘、すみれ、潤を含む結婚式会場の中の披露宴場にいる人たちは拍手をし始める

 新郎新婦のための椅子とテーブルがあるところへ向かっている風夏と龍造

 風夏と龍造の歩きに合わせて白の照明は二人のことを照らし続けている


鳴海「(拍手をしながら 声 モノローグ)その後の結婚式及び披露宴は、特にアクシデントもなく順調に進んだ」


 風夏と龍造は新郎新婦のためのテーブルに向かって椅子に座る

 白の照明は変わらず風夏と龍造のことを照らしている


鳴海「(拍手をしながら 声 モノローグ)よく言えば完璧に、悪く言えば地味な幕引きでもあった」


 時間経過


 龍造の友人がスピーチを行っている

 龍造の友人の前にはマイクスタンドが置いてある

 白の照明は二箇所ついており、風夏と龍造、そしてスピーチを行っている龍造の友人のことを照らしている

 鳴海、菜摘、すみれ、潤を含む結婚式会場の中の披露宴場にいる人たちは龍造の友人のスピーチを聞いている


鳴海「(声 モノローグ)申し訳ないが俺は新婦側が・・・要するに姉貴が何をするのか気になってしまい、龍さんの学生時代からの友人のスピーチが全く頭に入って来なかった。(少し間を開けて)案の定、両親への手紙という、ドラマやら映画でよく見るような感動の絶頂を図る演出は一切なく、俺は一人で勝手に苦しんだ。もし両親が生きていれば、姉貴は親父へ手紙を書いてそれを読み上げていただろう。涙脆いお袋は、手紙を読む姉貴の姿を見て号泣したに違いない。そういえば、姉貴は誰とバージンロードを歩いたんだろう?まさか一人で渡り切ったのか?それとも智秋さんが・・・いや・・・あの人は今日車椅子だったな・・・仕事がなかったら俺が姉貴と歩いていたのかもしれない・・・でもこれだって、本当は親父が姉貴の側にいるはずだったんだ・・・そうやってじわじわと俺が両親の生きていた世界を妄想するごとに、虚しさだけが募っていった」


 時間経過


 潤がスピーチを行っている

 潤の前にはマイクスタンドが置いてある

 白の照明は二箇所ついており、風夏と龍造、そしてスピーチを行っている潤のことを照らしている

 鳴海、菜摘、風夏、すみれ、龍造を含む結婚式会場の中の披露宴場にいる人たちは潤のスピーチを聞いている


鳴海「(声 モノローグ)幸い、その虚しさを晴らしたのは余興にも近い潤さんのスピーチだった」

潤「風夏ちゃんがまだ一円玉よりも軽かった頃・・・俺は風夏ちゃんの親父と話をした、一円玉より軽いものに命が宿る素晴らしさについてだ。皆さん勘違いしないで欲しい、俺は今アリについて語っているわけじゃないんだ。一円玉ってのは例えだよ、まあとにかく、それくらい風夏ちゃんは小さかった、でもそれは皆さんにも共通している。ここにいる全員が、一円玉くらいの時があった。まあ中には十円玉の人もいるかもしれないが」

鳴海「(声 モノローグ)真剣に聞いてないから訳の分からない話だったが、多分悪いことは言ってないだろう」

潤「風夏ちゃんのご両親に代わって、お祝いを申し上げます」


 時間経過


 結婚式会場の中の披露宴場の照明が全てついている

 新郎新婦のためのテーブルの前に立ってブーケを持っている風夏

 龍造は風夏の隣に立っている

 風夏の周りには鳴海、菜摘を含むたくさんの未婚男性、女性が集まっている

 すみれと潤は鳴海たちから少し離れたところでテーブルに向かって椅子に座っている

 ブーケに興味がない人たちはすみれと潤同様に、少し離れたところでテーブルに向かって椅子に座っている


菜摘「と、取れるかな!?」

鳴海「欲しいのか?」

菜摘「うん!!たくさんの人が参加してる分、ブーケの価値も凄いもん!!」

鳴海「なら周りの奴らを蹴落としてブーケをぶん取るんだぞ菜摘」

菜摘「そ、そんなことは出来ないよ・・・」

鳴海「しっかりするんだ、人のことを気にしてるようじゃブーケは一生手に入れられないぞ」

菜摘「で、でも・・・私、他の人から奪ってまで欲しくないし・・・」


 鳴海はため息を吐き出す


鳴海「(ため息を吐き出して)俺はレフトを守るから、菜摘はセンターを頼むな・・・」

菜摘「ライトは・・・?」

鳴海「そこはもう捨てポジだ」

菜摘「わ、分かった・・・」


 鳴海は菜摘から少し離れる

 後ろを向く風夏


風夏「(後ろを向いて)ブーケ!!いっくよー!!」


 風夏は後ろを向いたままブーケを放り投げる

 風夏が後ろを向いたまま放り投げたブーケは高く上がる

 鳴海と菜摘を含むブーケトスに参加しているたくさんの人たちがブーケに向かって手を伸ばす

 風夏が後ろを向いたまま放り投げたブーケは高くまで上がり、真っ直ぐ落下して菜摘の手に収まる

 再び沈黙が流れる


菜摘「(嬉しそうに)や、やった!!やったよ鳴海くん!!」


 菜摘はブーケを持ったまま嬉しそうに鳴海のところにやって来る

 ブーケに向かって伸ばしていた手を下ろす鳴海


鳴海「(ブーケに向かって伸ばしていた手を下ろして驚きながら)ま、マジか・・・本当に取っちまったのか・・・」


 風夏は後ろを向くのをやめて前を見る


風夏「(前を見て驚いて)えっ!?な、菜摘ちゃんが取ったの!?」

菜摘「はい!!センターの守備はバッチリでした!!」

風夏「やばいじゃん!!結婚まで秒読みだよ鳴海!!」

鳴海「びょ、秒読み、か・・・」

菜摘「秒読みなのかな!?」

鳴海「じ、自分で聞くなよ・・・」

菜摘「う、うん・・・」


 潤が鳴海のこと見ている

 鳴海は潤が見ていることに気付き顔を逸らす


鳴海「(潤から顔を逸らし舌打ちをして)チッ・・・」

菜摘「どうしたの?鳴海くん」


 鳴海は潤から顔を逸らすのをやめる


鳴海「(潤から顔を逸らすのをやめて)な、何でもない、キャッチ出来て良かったな菜摘」

菜摘「うん!!このブーケと風夏さんたちの結婚で私たちもいっぱい幸せになれるよ!!」


◯2094貴志家鳴海の自室(深夜)

 片付いている鳴海の部屋

 鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない

 机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある

 机の上のてるてる坊主には顔が描かれている

 ベッドの上で横になっている鳴海

 カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる

 鳴海はベッドの上で横になりながらフレームに入った一枚の写真を見ている

 鳴海がベッドの上で横になりながら見ているフレームに入った一枚の写真には、ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている


鳴海「(ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている写真を見ながら 声 モノローグ)姉貴にはもっとマシな言葉をかければ良かった。昔から俺に弱さを見せるような人じゃなかったから、そのせいで今日は動揺してまともに話を聞くことが出来なかったのかもしれない・・・」


 鳴海はホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている写真を見るのをやめる

 ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている写真をベッドの上に伏せる鳴海


鳴海「(ホテルらしき披露宴場で水色のウェディングドレスを着た20歳頃の由夏理と、タキシードを着た同じく20歳頃の紘が写っている写真をベッドの上に伏せて 声 モノローグ)あるいは・・・寂しそうな顔をする姉貴が・・・母さんに似ていたから・・・」


 鳴海は両目を瞑る

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