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Chapter7♯13 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く

向日葵が教えてくれる、波には背かないで


Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く


登場人物


貴志 鳴海(なるみ) 19歳男子

Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。


早乙女 菜摘(なつみ) 19歳女子

Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。


貴志 由夏理(ゆかり)

鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている


貴志 (ひろ)

鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。


早乙女 すみれ 46歳女子

優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。


早乙女 (じゅん) 47歳男子

永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。


貴志/神北 風夏(ふうか) 25歳女子

看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。


神北(かみきた) 龍造(りゅうぞう) 25歳男子

風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。


南 汐莉(しおり) 16歳女子

Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。


一条 雪音(ゆきね) 19歳女子

鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。


伊桜(いざくら) 京也(けいや) 32歳男子

緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。


荻原 早季(さき) 15歳(?)女子

どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。


瑠璃(るり)

鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。


来栖(くるす) (まこと) 59歳男子

緋空事務所の社長。


神谷 志郎(しろう) 44歳男子

Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。


貴志 希海(のぞみ) 女子

貴志の名字を持つ謎の人物。


三枝 琶子(わこ) 女子

“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。


三枝 碧斗(あおと) 男子

“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。


有馬 千早(ちはや) 女子

ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。


太田 美羽(みう) 30代後半女子

緋空事務所で働いている女性社員。


目黒 哲夫(てつお) 30代後半男子

緋空事務所で働いている男性社員。


一条 佐助(さすけ) 男子

雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。


一条 智秋(ちあき) 25歳女子

雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。


神谷 絵美(えみ) 30歳女子

神谷の妻、現在妊娠中。


神谷 七海(ななみ) 女子

神谷志郎と神谷絵美の娘。


天城 明日香(あすか) 19歳女子

鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。


白石 嶺二(れいじ) 19歳男子

鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。


三枝 響紀(ひびき) 16歳女子

波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。


永山 詩穂(しほ) 16歳女子

波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。


奥野 真彩(まあや) 16歳女子

波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。


双葉 篤志(あつし) 19歳男子

鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。


井沢 由香(ゆか)

波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。


伊桜 真緒(まお) 37歳女子

伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。


伊桜 陽芽乃(ひめの) 13歳女子

礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。


水木 由美(ゆみ) 52歳女子

鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。


水木 優我(ゆうが) 男子

鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。


鳴海とぶつかった観光客の男 男子

・・・?


少年S 17歳男子

・・・?


サン 女子

・・・?


ミツナ 19歳女子

・・・?


X(えっくす) 25歳女子

・・・?


Y(わい) 25歳男子

・・・?


ドクターS(どくたーえす) 19歳女子

・・・?


シュタイン 23歳男子

・・・?






伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物


リーヴェ 17歳?女子

奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。


メーア 19歳?男子

リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。


バウム 15歳?男子

お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。


盲目の少女 15歳?女子

バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。


トラオリア 12歳?少女

伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。


エルガラ 12歳?男子

伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。






滅びかけた世界


老人 男子

貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。


ナツ 女子

母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。


スズ 女子

ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。


柊木 千春(ちはる) 15、6歳女子

元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。

Chapter7♯13 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く


◯2044緋空銭湯男湯(日替わり/昼前)

 外は晴れている

 緋空銭湯の男湯の中にいる鳴海と伊桜

 男湯の中には鏡、シャワー、蛇口がたくさん設置されている

 男湯の隅の方には桶と椅子がたくさん置いてある

 男湯の壁には富士山が描かれている

 男湯の向こうには女湯がある

 男湯と女湯の間には仕切りがある

 男湯は男子脱衣所と直結しており、すりガラスの引き戸を開けるとそのまま男子脱衣所に出れるようになっている

 鳴海と伊桜はTシャツの袖とズボンの裾をまくり、裸足になっている

 男湯の中にはお風呂掃除用の洗剤が2個が置いてある

 男湯の床をデッキブラシで掃除している鳴海と伊桜


伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)貴志もやっと少しは出来るようになってきたな」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)何のことっすか?」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)掃除だ」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)あ、ありがとうございます」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)でもまだ0.2人前だ」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)一人前からは程遠いってことじゃないっすか・・・」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)ああ」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)俺、一体いつ一人前になれるんすかね」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)それは分からん」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)そうっすか・・・」


 少しの沈黙が流れる


伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)社長はお前のやる気を買ってるそうだ」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら驚いて)しゃ、社長が?」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)ああ、だから気を引き締めろ、これから更に仕事も増えるぞ」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)が、頑張ります!!」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)土日も引き続きしっかりな」


 男湯の床をデッキブラシで掃除していた鳴海の手が止まる


鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除していた手が止まって)ど、土日っすか・・・?」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)うちは何でも屋だ、休日に仕事が入ることもあると言っただろ」

鳴海「そんなこと・・・言ってましたっけ・・・」


 再び沈黙が流れる


伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)手が止まってるぞ」

鳴海「す、すみません・・・」


 鳴海は再び男湯の床をデッキブラシで掃除し始める


伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)お前、男湯の床掃除をやれるか?」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)は、はい」

伊桜「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)なら俺は先に女湯をやって来る、貴志は床掃除が終わったら一旦俺を呼べ」

鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら)りょ、了解っす」


 伊桜は男湯の床をデッキブラシで掃除をするのをやめる

 お風呂用の洗剤を1個手に取る伊桜

 伊桜はデッキブラシとお風呂用の洗剤を持ったまま男湯から出て行く伊桜

 鳴海は一人男湯の床を掃除を続ける


鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながら 声 モノローグ)伊桜さんや社長の信頼を勝ち得たということだろうか・・・?期待されるのは悪い気分じゃないが・・・」


 鳴海は男湯の床をデッキブラシを掃除しながらあくびをする


鳴海「(男湯の床をデッキブラシで掃除しながらあくびをして)休日出勤なんて始まったら・・・ますます菜摘と一緒に過ごせる時間が限られてくるな・・・」


◯2045貴志家玄関(夜)

 玄関には誰もない

 少しすると家の扉が開いて玄関に鳴海がやって来る


鳴海「ただいま・・・」


 小走りで玄関にやって来る菜摘

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている


菜摘「お帰りなさい鳴海くん!!」

鳴海「おう・・・」

菜摘「今日は遅かったね」

鳴海「ああ・・・悪い・・・」

菜摘「う、ううん。ご飯の前にお風呂に入る?」


 鳴海は靴を脱ぐ


鳴海「(靴を脱ぎながら)そうだな・・・風呂か・・・飯か・・・」


 鳴海は靴を脱ぎ終える

 フラフラしながら家の中に上がる鳴海

 菜摘はフラフラしている鳴海のことを心配そうに見ている


◯2046貴志家リビング(夜)

 リビングにいる鳴海と菜摘

 鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている

 テーブルの上にはオムライス、サラダが置いてある

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 夕飯を食べながら話をしている鳴海と菜摘


鳴海「午後に家具の組み立ての仕事をしてさ・・・新しい企業のオフィスだったから、机やら椅子を大量に組み立てなきゃならなかったんだ・・・」

菜摘「た、大変だったんだね・・・」

鳴海「まあな・・・しかも今後は・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「今後がどうしたの・・・?」

鳴海「休日出勤が増えるらしい・・・」

菜摘「そ、そうなんだ・・・で、でもそれって鳴海くんがみんなから頼りにされてるってことじゃないの?」

鳴海「だったら良いけどな・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「すまん菜摘・・・」

菜摘「な、鳴海くんは悪くないよ!!」

鳴海「デートをしたり、どっか遊びに行ったりするのは休日にしか出来なかったことなんだぞ」

菜摘「そ、それはそうだけど・・・私はこうやって鳴海くんと一緒にご飯を食べれるだけで・・・」

鳴海「(菜摘の話を遮って)嬉しいって言うんだろ」

菜摘「う、うん・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「鳴海くん」

鳴海「ん・・・?」

菜摘「今ある幸せを見つけよう・・・?私も、今鳴海くんと一緒に過ごせる幸せを大事にするから・・・」

鳴海「まさか菜摘・・・俺が現状を不幸だと信じ込んで嘆いてると思ってるのか・・・?」

菜摘「違うの・・・?」

鳴海「そ、そこまで酷い状態だとは思ってないぞ」

菜摘「そ、そうなんだ・・・」

鳴海「ただ一緒に過ごす時間が減るのは解せないけどな・・・」

菜摘「しょうがないよ、お仕事だから・・・」

鳴海「潤さんは仕事があろうが菜摘やすみれさんと過ごす時間を大事にしてるだろ」

菜摘「お、お父さんと比較しなくても・・・」

鳴海「俺の親父は仕事で家を留守にしてることが多かった。(少し間を開けて)俺は親父みたいになりたくないんだ菜摘」

菜摘「大丈夫だよ、鳴海くんは鳴海くんだもん」


◯2047早乙女家に向かう道中(夜)

 菜摘を家に送っている鳴海

 鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 鳴海と菜摘は楽しそうに話をしている


鳴海「(楽しそうに菜摘と話をしながら 声 モノローグ)俺は・・・親父が・・・あの人が望んだ以上の大人になる・・・」


◯2048新築のオフィスビル一階(日替わり/昼前)

 外は曇っている 

 新築のオフィスビル一階にいる鳴海、伊桜、太田、目黒、その他数人の緋空事務所の社員と、同じく数人の配達業者のスタッフたち

 鳴海と伊桜を含む緋空事務所の社員たちは新築のオフィスビル一階で机、椅子の組み立てを行っている

 新築のオフィスビル一階には組み立てられた机、椅子、机の引き出し、組み立てる前の机、椅子、机の引き出しの素材、ゴミになった段ボールやプチプチ、組み立てるための取り扱い説明書、たくさんのねじ、様々な種類のドライバー、電動ドライバー、紙やすり、六角レンチ、スパナなどが散らばって置いてある

 配達業者のスタッフたちは段ボール箱の中に入っている机、椅子、机の引き出しを新築のオフィスビル一階に持ち運んでいる

 新築オフィスビル一階は工具の音や段ボール箱から物を取り出す音でうるさくなっている

 太田と目黒は協力しながら机を組み立てている

 協力しながら机を組み立てている鳴海と伊桜

 鳴海は机の台を支えており、伊桜は机の台と足のねじを電動ドライバーで閉めている

 鳴海と伊桜の近くには組み立てる前の机の引き出しの素材、机を組み立てるための取り扱い説明書、たくさんのねじ、様々な種類のドライバー、六角レンチが置いてある

 組み立てる前の机の引き出しの素材は何枚ものスチール製の板


伊桜「(鳴海が支えている机の台と足のねじを電動ドライバーで閉めながら)このくらいにしておくか・・・」


 伊桜は支えている机の台と足のねじを電動ドライバーで閉めるのをやめる

 電動ドライバーを床に置く伊桜


鳴海「(机の台を支えながら)ちょっと緩いと思うんですけど、大丈夫ですかね?」

伊桜「閉め過ぎると逆に緩まったり、壊れることもある」

鳴海「(机の台を支えながら)そうなんすか・・・覚えときます」


 鳴海は机の台を支えるのをやめる

 床に置いてあった机を組み立てるための取り扱い説明書を手に取る鳴海

 鳴海は机を組み立てるための取り扱い説明書を読む


鳴海「(机を組み立てるための取り扱い説明書を読んで)次は引き出しっすね」


 伊桜は組み立てる前の机の引き出しの素材を自分の近くに寄せる

 

伊桜「(組み立てる前の机の引き出しの素材を自分の近くに寄せて)貸してくれ」


 鳴海は机を組み立てるための取り扱い説明書を読むのをやめる

 机を組み立てるための取り扱い説明書を伊桜に差し出す鳴海

 伊桜は机を組み立てるための取り扱い説明書を鳴海から受け取る


伊桜「(机を組み立てるための取り扱い説明書を鳴海から受け取って)ボルトの数は?」

鳴海「えっと・・・」


 鳴海は近くに置いてあったたくさんのねじの数を確認する

 机を組み立てるための取り扱い説明書を読む伊桜


鳴海「小さいのが12個・・・大きいのが24個っす」

伊桜「(机を組み立てるための取り扱い説明書を読みながら)今度は俺が台を支えるから貴志はインパクトで閉めてみろ」

鳴海「はい!!」


 伊桜は机を組み立てるための取り扱い説明書を読むのをやめる

 机を組み立てるための取り扱い説明書を床に置く伊桜

 鳴海は床に置いてあった電動ドライバーとねじを一個手に取る

 床に置いてあった組み立てる前のスチール製の素材で出来た机の引き出しの板を二枚手に取る伊桜

 伊桜はスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板を支える

 伊桜が支えているスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板にねじを合わせて、電動ドライバーを使う鳴海

 鳴海は電動ドライバーで、伊桜が支えているスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板とねじを閉めようとする

 鳴海は電動ドライバーで、伊桜が支えているスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板とねじを閉めようとしているが、ねじがずれて上手く閉まらない

 伊桜が支えているスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板とねじを電動ドライバーで閉めようとするのをやめる鳴海


伊桜「(スチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板を支えながら)インパクトをもっと強くボルトに当てろ」

鳴海「は、はい!!」


 鳴海は再び伊桜が支えているスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板にねじを合わせて、電動ドライバーを使う

 机の台を支えながら鳴海と伊桜の作業を見ている目黒 

 

目黒「(机の台を支えながら鳴海と伊桜の作業を見ながら)新人も頑張ってんなぁ〜」

太田「目黒くん台をしっかり押さえて」


 目黒は机の台を支えながら鳴海と伊桜の作業を見るのをやめる


目黒「(机の台を支えながら鳴海と伊桜の作業を見るのをやめて)あ、ごめんごめん」


 太田は目黒が支えている机の台と足のねじを電動ドライバーで閉める


太田「(目黒が支えている机の台と足のねじを電動ドライバーで閉めながら)貴志くんって、緋空事務所に入りたてだった頃の伊桜くんにそっくり」

目黒「(机の台を支えながら)何としてでも金を稼いで生き残ってやるって思ってるところとかな」

太田「(目黒が支えている机の台と足のねじを電動ドライバーで閉めながら)仕事に対して真剣なのね」

目黒「(机の台を支えながら)というか不器用なんだろ、あの二人は手の抜き方を知らない人種だ」


 目黒は机の台を支えながら鳴海と伊桜のことをチラッと見る

 電動ドライバーで、伊桜が支えているスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板とねじを閉めている鳴海


伊桜「(スチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板を支えながら)出来たか?」


 鳴海は電動ドライバーで、伊桜が支えているスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板とねじを閉めるのをやめる


鳴海「(電動ドライバーで、伊桜が支えているスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板とねじを閉めるのをやめて)多分・・・出来たと思います」

伊桜「(スチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板を支えながら)一度俺が確認しよう」

 

 伊桜はスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板を支えるのをやめる

 

伊桜「貴志は支えてくれ」


◯2049回想/貴志家風夏の自室(約10年前/昼前)

 外は曇っている

 風夏の部屋にいる10歳頃の鳴海、30代後半頃の紘、16歳頃の風夏

 風夏の部屋には組み立て途中のベッド、ゴミになった段ボールやプチプチ、ベッドを組み立てるための取り扱い説明書、たくさんのねじ、様々な種類のドライバーが置いてある

 ベッドを組み立てている10歳頃の鳴海、紘、16歳頃の風夏

 10歳頃の鳴海と16歳頃の風夏はベッドの足になる部分を支えている

 ベッドの足になる部分のねじをドライバーで閉めようとしている紘

 

紘「(ベッドの足になる部分のねじをドライバーで閉めようとしながら)しっかり支えてるんだぞ鳴海、風夏」

風夏「(ベッドの足になる部分を支えながら)うん」


 紘はドライバーでベッドの足になる部分のねじを閉めようとする

 紘はドライバーでベッドの足になる部分のねじを閉めようとするが、ドライバーのサイズが違って上手く閉まらない

 少しの沈黙が流れる


紘「(ベッドの足になる部分のねじをドライバーで閉めようとしながら)クソッ・・・風夏、母さんと別のドライバーを探して来てくれ」

風夏「(ベッドの足になる部分を支えながら)分かった」


 16歳頃の風夏はベッドの足になる部分を支えるのをやめる

 部屋から出て行く16歳頃の風夏

 紘はベッドの足になる部分のねじをドライバーで閉めようとするのをやめる

 ベッドの足になる部分を支えるのをやめる10歳頃の鳴海


鳴海「(ベッドの足になる部分を支えるのをやめて)ママにも組み立て手伝ってもらおうよ」

紘「ダメだ」

鳴海「どうして?」

紘「昔から力仕事は男がやると決まっているからだ」

鳴海「でもお姉ちゃんは男じゃないよ」

紘「お前の姉貴は前のベッドを壊した、つまり風夏には手伝わなきゃいけない責任がある。それに鳴海だけじゃ力不足だ」


 少しの沈黙が流れる


紘「力不足と言われて悔しくないのか」

鳴海「実際にお姉ちゃんの方が力があるし・・・」

紘「そんな弱々しい考えはやめるんだ」

鳴海「うん・・・」

紘「お前も男だろう、少しは強くなれ。いつまでも母さんや風夏に甘えるな」


 再び沈黙が流れる

 30代後半頃の由夏理と16歳頃の風夏が部屋にやって来る


由夏理「(部屋にやって来て)もうドライバーはないってパパ」

紘「馬鹿な、この間まであったはずだ」

由夏理「この間っていつのことさ」

紘「一年か二年か・・・とにかくあったのは間違いない」

由夏理「自分で管理しないから無くなったんでしょー?」

紘「余計なことを喋るなら黙っていてくれ」


 再び沈黙が流れる


由夏理「お昼はどうするの?」

紘「俺の分は良い、この仕事が終わってから食べる。(少し間を開けて小声でボソッと)クソッ・・・何をしたらベッドが壊れるんだ・・・」

風夏「色々・・・」

由夏理「多分寿命だったんだって。だから機嫌を直しなよ、子供じゃないんだからさ」

紘「黙っていろと言わなかったか?」


 再び沈黙が流れる


紘「修復するのも男の仕事だ。お前たちは飯でも食べていろ」


◯2050回想戻り/新築のオフィスビル一階(昼前)

 外は曇っている 

 新築のオフィスビル一階にいる鳴海、伊桜、太田、目黒、その他数人の緋空事務所の社員と、同じく数人の配達業者のスタッフたち

 鳴海と伊桜を含む緋空事務所の社員たちは新築のオフィスビル一階で机、椅子の組み立てを行っている

 新築のオフィスビル一階には組み立てられた机、椅子、机の引き出し、組み立てる前の机、椅子、机の引き出しの素材、ゴミになった段ボールやプチプチ、組み立てるための取り扱い説明書、たくさんのねじ、様々な種類のドライバー、電動ドライバー、紙やすり、六角レンチ、スパナなどが散らばって置いてある

 配達業者のスタッフたちは段ボール箱の中に入っている机、椅子、机の引き出しを新築のオフィスビル一階に持ち運んでいる

 新築オフィスビル一階は工具の音や段ボール箱から物を取り出す音でうるさくなっている


 太田と目黒は協力しながら机を組み立てている

 協力しながら机の引き出しを組み立てている鳴海と伊桜

 組み立てる前の机の引き出しの素材は何枚ものスチール製の板 

 鳴海はスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板を支えている


鳴海「(スチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板を支えながら)伊桜さん」

伊桜「ああ」


 伊桜は鳴海が支えているスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板とねじの強度を手で確認する


鳴海「(スチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板を支えながら)男なら何でも直せて当然っすよね」

伊桜「(鳴海が支えているスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板とねじの強度を手で確認しながら)何の話だ」

鳴海「(スチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板を支えながら)いや・・・別に大したことじゃないんですけど・・・」

伊桜「(鳴海が支えているスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板とねじの強度を手で確認しながら)俺が神なら何でも直せて当然かもな」


 伊桜は鳴海が支えているスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板とねじの強度を手で確認するのをやめる


伊桜「(鳴海が支えているスチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板とねじの強度を手で確認するのをやめて)ボルトは大丈夫だ、無茶をしなければ壊れることもないだろ」

鳴海「(スチール製の素材で出来た机の引き出しの二枚の板を支えながら)無茶、ですか」

伊桜「物が壊れるのには原因がある、その原因は過ちで引き起こされがちだ」


◯2051早乙女家に向かう道中(夜)

 空は曇っている

 菜摘を家に送っている鳴海

 鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている

 話をしている鳴海と菜摘


鳴海「また遅い時間になっちまったな」

菜摘「また?」

鳴海「この間公園に行った時も帰るのが遅かっただろ」

菜摘「そうだね、でも私寝ちゃってたから、よく覚えていないんだ」

鳴海「爆睡だったからな・・・」

菜摘「鳴海くんだって帰りは車の中で眠っていたんじゃないの?」

鳴海「ああ、俺も爆睡だ」

菜摘「(少し笑って)私と同じだね」

鳴海「そうだな。今日も潤さんが怒ってないと良いが」

菜摘「多分大丈夫だよ、怒ってもお母さんがなだめてくれるから」

鳴海「それは大丈夫なのか・・・?」

菜摘「うん、お母さんとお父さんは昔からずっとそうだもん」

鳴海「すみれさんは凄いよな・・・毎日なだめてるなんて・・・」

菜摘「ま、毎日じゃないよ、二日に一回くらいだから・・・」

鳴海「ほぼ毎日じゃないか・・・」

菜摘「う、うん・・・」

鳴海「菜摘、家を出たのは確か10時過ぎだったよな?」

菜摘「そうだったと思う」

鳴海「怒られても不思議じゃない時間ではあるか・・・」

菜摘「そ、そうだね・・・」

鳴海「さ、さすがのすみれさんでも夜更かしが続けば怒るだろ?」

菜摘「だ、大丈夫だよ鳴海くん、私、作戦を考えたんだ」

鳴海「さ、作戦か・・・聞かせてくれ」

菜摘「私がお母さんとお父さんをなだめる側に回るの」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「ど、どうかな?私の作戦」

鳴海「正直に言うべきか・・・?」

菜摘「しょ、正直に言ってくれなきゃ困るよ!!」

鳴海「分かった・・・(少し間を開けて)多分だが・・・菜摘には俺や嶺二のように作戦を考える才能はない」

菜摘「な、鳴海くん・・・正直過ぎると思う・・・」

鳴海「ど、どこかで大きなミスをするより先に才能がないって聞いておいた方が良いだろ」

菜摘「それはそうだけど・・・私・・・正直な鳴海くんの一言で傷ついたよ・・・」

鳴海「な、菜摘は作戦を考える才能の塊だって嘘を言えばよかったのか・・・?」

菜摘「その言い方もあんまり・・・」

鳴海「だ、だよな」


 再び沈黙が流れる


鳴海「し、しかし菜摘にすみれさんと潤さんがなだめられるのか?」

菜摘「多分・・・出来ると思う・・・一人娘だし・・・」

鳴海「なるほど・・・世界一大事な生き物になだめられたら、さすがにあの二人でも言い返せないわけだな・・・」

菜摘「お母さんとお父さんは凄く凄く良い人たちだもん」


 時間経過

 

 菜摘の家の前で話をしている鳴海と菜摘

 菜摘は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている


鳴海「じゃあまた明日な」

菜摘「うん!!おやすみ鳴海くん」

鳴海「おう」


 菜摘はポケットから家の鍵を取り出す

 家の玄関の鍵穴に挿す菜摘

 菜摘は家の玄関の鍵を開ける

 家の玄関の鍵穴から鍵を抜く菜摘

 菜摘は家の中に入って行く

 菜摘が家に入ったのを確認し、自宅に向かって歩き始める鳴海


潤「鳴海!!」


 鳴海は立ち止まる

 深くため息を吐き出す鳴海

 

鳴海「(深くため息を吐き出して小声でボソッと)なだめるのは失敗か・・・」


 鳴海は振り返る

 菜摘の家の前に潤がいる


鳴海「悪かったよ遅くなって・・・」

潤「素直に謝ったら許されると思ってんじゃねえ」

鳴海「謝らないよりは謝ってる方が良いだろ」

潤「お前たちはまだ未成年だぞ」

鳴海「分かってるよ・・・すみれさんにもすみませんでしたって伝えといてくれ」


 少しの沈黙が流れる


潤「てめえの行動がすみれや俺を心配させるってことを理解しろ」

鳴海「遅くなったのは仕事のせいなんだよ」

潤「仕事を言い訳にするんじゃねえ、お前は俺の娘の恋人だろうが」

鳴海「菜摘に会うなって言うのか?」

潤「そうじゃねえよ、もっと柔軟に頭を使え」


 再び沈黙が流れる


鳴海「だ、だったら俺を菜摘と結婚させろ、そ、そうすればこんな馬鹿げた移動もなくなるんだ」

潤「家に帰れクソガキ」

鳴海「お、俺はガキじゃねえ!!」


 潤は鳴海の言葉を無視して家の扉を開ける


鳴海「お、おい!!無視するなよ!!」

潤「(家の扉を開けたまま)風邪を引く前に帰れ、分かったな、クソガキ」


 潤は家の中に入る

 一人菜摘の家に前で取り残される鳴海

 少しの沈黙が流れる

 鳴海は拳を握り締める


鳴海「(拳を握り締めて)俺はいつまで子供扱いされなきゃいけないんだ・・・(少し間を開けて)誰が俺を大人として認めてくれるんだよ・・・」


◯2052新築のオフィスビル一階(日替わり/昼)

 外は弱い雨が降っている

 新築のオフィスビル一階にいる鳴海、伊桜、太田、目黒、その他数人の緋空事務所の社員たち

 鳴海と伊桜を含む緋空事務所の社員たちは新築のオフィスビル一階で床に座り、昼食を取っている

 新築のオフィスビル一階には組み立てられた机、椅子、机の引き出し、組み立てる前の机、椅子、机の引き出しの素材、ゴミになった段ボールやプチプチ、組み立てるための取り扱い説明書、たくさんのねじ、様々な種類のドライバー、電動ドライバー、紙やすり、六角レンチ、スパナなどが散らばって置いてある

 鳴海は菜摘の手作り弁当、伊桜は手作りのおにぎり、目黒はコンビニの弁当、太田はコンビニのサンドイッチを食べている

 菜摘の手作り弁当のメニューはご飯、エビフライ、ソーセージ、プチトマト、卵焼き、ポテトサラダ


伊桜「食べ終わったら走るぞ」

鳴海「雨っすよ・・・」

伊桜「雨でも走ったら気分は晴れる」

鳴海「伊桜さんは良いっすよね・・・走るだけで元気になるみたいで・・・」

伊桜「ランニング中は余計なことを考えずに済むだろ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「俺も走ってれば伊桜さんみたいになれますかね・・・?」

伊桜「それは知らん」

鳴海「そうっすか・・・」


 再び沈黙が流れる


伊桜「俺は考えるのが嫌いだ」

鳴海「ですよね・・・」

伊桜「考えてるだけで自分を悪い方向へ持って行くことがある、そういう時は夢中になれるものに逃げるんだ。そしたら悪い考えも止まる」

鳴海「そんなんで考えることを止められるんすか?」

伊桜「殴るか殴らないか迷うことがあれば、俺ならまずは走るんだ。大抵のことは走ってるうちにどうでも良くなる。走って疲れたら殴る気もなくなるだろ」

鳴海「確かに・・・それは一理あるかもしれませんね・・・」

伊桜「だからお前も走れ、走ればその悩みだらけの頭も綺麗に出来るはずだ」


◯2053Chapter6◯1678の回想/波音高校体育館/卒業式会場(午前中)

 波音高校の体育館には鳴海、菜摘、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩、神谷、すみれ、潤、風夏、その他大勢たくさんの人がいる

 体育館には卒業式の飾り付けがされている

 体育館にはパイプ椅子が並べられてあり、全員がパイプ椅子に座っている

 鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音、双葉を含む三年生たちは花のブローチを襟につけている

 風夏、すみれ、そして生徒たちの保護者はセレモニースーツを着ている

 潤はスーツを着ている

 神谷を含む教師たちは体育館の壁際でパイプ椅子に座っている

 教師たちの何人かはマイクを持っている

 ステージの上には横断幕が張ってあり、横断幕には”波音高校 卒業式”と書かれている

 ステージの上には教卓とマイクがある

 ステージの上で響紀が在校生を代表して送辞を行っている

 菜摘と明日香が泣いている


響紀「突然ですが、私は走るのが好きです」

嶺二「マジで突然じゃねーか・・・」

響紀「小学生の時は地元の陸上クラブに所属していて、中学校でも部活は陸上をしていました。クラブでも、部活でも、私はただ走っていました。(少し間を開けて)私はよく、僅かながらに変わっているね、と人から言われます」


◯2054回想戻り/新築のオフィスビル一階(昼)

 外は弱い雨が降っている

 新築のオフィスビル一階にいる鳴海、伊桜、太田、目黒、その他数人の緋空事務所の社員たち

 鳴海と伊桜を含む緋空事務所の社員たちは新築のオフィスビル一階で床に座り、昼食を取っている

 新築のオフィスビル一階には組み立てられた机、椅子、机の引き出し、組み立てる前の机、椅子、机の引き出しの素材、ゴミになった段ボールやプチプチ、組み立てるための取り扱い説明書、たくさんのねじ、様々な種類のドライバー、電動ドライバー、紙やすり、六角レンチ、スパナなどが散らばって置いてある

 鳴海は菜摘の手作り弁当、伊桜は手作りのおにぎり、目黒はコンビニの弁当、太田はコンビニのサンドイッチを食べている

 菜摘の手作り弁当のメニューはご飯、エビフライ、ソーセージ、プチトマト、卵焼き、ポテトサラダ

 手作りのおにぎりを食べ終える伊桜


鳴海「自分が変わっているってことを考えるのが嫌で・・・それであいつは走ってたのか・・・」

伊桜「急がないと昼休憩が終わるぞ」

鳴海「は、はい!!」


 鳴海は菜摘の手作り弁当の卵焼きを口にの中に入れる


鳴海「(卵焼きを食べながら 声 モノローグ)伊桜さんにも・・・考えたくないことが色々あるんだろうな・・・」


◯2055貴志家キッチン(夜)

 外は弱い雨が降っている

 キッチンにいる鳴海と菜摘

 キッチンの調理場には明太子、バター、牛乳、生クリーム、醤油、大さじのスプーンが置いてある

 鳴海はパスタを茹でている

 キッチンの引き出しからボウルを取り出す菜摘


鳴海「(パスタを茹でながら)やっぱり叱られたか」

菜摘「うん・・・」


 菜摘はボウルを調理場に置く

 キッチンの引き出しを閉じる菜摘


菜摘「(キッチンの引き出しを閉じて)で、でもお父さんにだけだよ」

鳴海「(パスタを茹でながら)潤さんはなんて言ってたんだ?」

菜摘「えーっと・・・まだ子供なんだから・・・」

鳴海「(パスタを茹でながら菜摘の話を遮って)分かった、もうその先は聞かなくても十分だ」


 菜摘はボウルに牛乳を大さじ二杯分入れる


菜摘「(ボウルに牛乳を大さじ二杯分入れて)今のは出だしの部分だよ、鳴海くん」

鳴海「(パスタを茹でながら)それだけ聞けば十分過ぎるくらいだろ」

菜摘「そうかな?」

鳴海「(パスタを茹でながら)そうだ」


 菜摘はボウルに生クリームを大さじ二杯分入れる

 続けてボウルに醤油を大さじ一杯分入れる菜摘

 

鳴海「(パスタを茹でながら)すみれさんは何か言ってたか?」

菜摘「(ボウルに醤油を大さじ二杯分入れて)まあまあ潤くんって言ってたよ」

鳴海「(パスタを茹でながら)いつものお馴染みのセリフだな・・・」


 菜摘は大さじのスプーンでバターを適当に切り分けてボウルに入れる


菜摘「(大さじのスプーンで適当に切り分けたバターをボウルに入れて)鳴海くんは昨日、お父さんになんて言われたの?」

鳴海「(パスタを茹でながら)未成年がなんちゃらでどうちゃらだってさ、多分菜摘が言われたことと同じだろ」


 菜摘は明太子の皮を大さじのスプーンで取り、皮を取った明太子をボウルに入れる


菜摘「(皮を取った明太子をボウルに入れて)お、同じなのかな?」

鳴海「(パスタを茹でながら)未成年も子供も意味としては同じようなもんだ」

菜摘「そ、そうだね・・・」


 菜摘は冷蔵庫を開ける

 冷蔵庫の中には2リットルのお茶、豚肉、卵、納豆、豆腐、ヨーグルト、調味料など様々な食材が入っている

 バター、牛乳、生クリーム、醤油を冷蔵庫にしまう菜摘


鳴海「(パスタを茹でながら)すみれさんに叱られなかったのだけが救いだな」

菜摘「(バター、牛乳、生クリーム、醤油を冷蔵庫にしまいながら)うん」

鳴海「(パスタを茹でながら)そもそもすみれさんって怒ることあるのか?」

菜摘「(バター、牛乳、生クリーム、醤油を冷蔵庫にしまいながら)もちろんあるよ、鳴海くんだって去年うちで花火をした時に騒いで怒られたでしょ?」

鳴海「(パスタを茹でながら)ああ、そんなこともあったな」


 菜摘はバター、牛乳、生クリーム、醤油を冷蔵庫にしまい終える

 冷蔵庫を閉じる菜摘

 菜摘は大さじのスプーンでボウルの中に入っている牛乳、生クリーム、醤油、バター、明太子をかき混ぜ始める


菜摘「(大さじのスプーンでボウルの中に入っている牛乳、生クリーム、醤油、バター、明太子をかき混ぜながら)お母さん、怒ると物凄く怖いんだよ」

鳴海「(パスタを茹でながら)そうなのか・・・想像がつかないな・・・」

菜摘「(大さじのスプーンでボウルの中に入っている牛乳、生クリーム、醤油、バター、明太子をかき混ぜながら)きっとなるべく怒らないようにしてるんだ思う。前に小さなことで怒っていたらキリがないって言ってたし・・・」

鳴海「(パスタを茹でながら)つまり日常的に小さな怒りがたくさんあるってことじゃないか・・・」

菜摘「(大さじのスプーンでボウルの中に入っている牛乳、生クリーム、醤油、バター、明太子をかき混ぜながら)た、確かに・・・」

鳴海「(パスタを茹でながら)すみれさんには頭が上がらないからな・・・何があっても怒らせないようにしないと・・・」

菜摘「(大さじのスプーンでボウルの中に入っている牛乳、生クリーム、醤油、バター、明太子をかき混ぜながら)気をつけてね、鳴海くん」

鳴海「(パスタを茹でながら)な、菜摘が叱られるかもしれないぞ」

菜摘「(大さじのスプーンでボウルの中に入っている牛乳、生クリーム、醤油、バター、明太子をかき混ぜながら)わ、私は叱られるようなことはしないもん!!」

鳴海「(パスタを茹でながら)とは言え意外と大胆なことをするからな・・・」

菜摘「(大さじのスプーンでボウルの中に入っている牛乳、生クリーム、醤油、バター、明太子をかき混ぜながら)だ、大胆なことって・・・?」

鳴海「(パスタを茹でながら)いきなり道の真ん中で歌って踊り出したりするだろ?」

菜摘「(大さじのスプーンでボウルの中に入っている牛乳、生クリーム、醤油、バター、明太子をかき混ぜながら)し、しないよ!!」

鳴海「(パスタを茹でながら)分からないぞ、道の真ん中で歌って踊ることで世界が平和になる可能性があるなら、菜摘はやるんじゃないか?」

菜摘「(大さじのスプーンでボウルの中に入っている牛乳、生クリーム、醤油、バター、明太子をかき混ぜながら)そ、それは踊っちゃうかも・・」


 パスタを茹でているお湯が沸騰している


鳴海「(パスタを茹でながら)だろ、私は正義のヒーロー!!ミラクルフォックスガール菜摘!!とか言って道の真ん中で暴れ回るのが菜摘だからな」

菜摘「(大さじのスプーンでボウルの中に入っている牛乳、生クリーム、醤油、バター、明太子をかき混ぜながら)わ、私・・・鳴海くんにそんな変なイメージを持たれてるんだ・・・」

鳴海「(パスタを茹でながら)菜摘が暴れ回ってる横で、俺は正義のヒーローの補欠!!ミラクルフォックスボーイ鳴海!!って言って騒ぐことにしよう」

菜摘「(大さじのスプーンでボウルの中に入っている牛乳、生クリーム、醤油、バター、明太子をかき混ぜながら)鳴海くん・・・道の真ん中で騒ぎたいだけじゃないの・・・?」

鳴海「(パスタを茹でながら)当たり前だろ、開放的な気持ちを・・・」


 鳴海が喋っている途中でパスタを茹でているお湯が吹きこぼれる


菜摘「(大さじのスプーンでボウルの中に入っている牛乳、生クリーム、醤油、バター、明太子をかき混ぜるのをやめて)うわっ!!鳴海くん火!!止めないと!!」


 鳴海は慌ててパスタを茹でるのをやめる


鳴海「(慌ててパスタを茹でるのをやめて)あ、ああ!!」


 鳴海は急いでコンロの火を消す

 少しの沈黙が流れる

 顔を見合わせる鳴海と菜摘

 鳴海と菜摘は笑い出す


鳴海「(菜摘と顔を見合わせながら笑って)ふ、沸騰してるのに気付いてたか!?」

菜摘「(鳴海と顔を見合わせながら笑って)う、ううん!!ぜ、全然!!」

鳴海「(菜摘と顔を見合わせながら笑って)お、俺たちアホな会話の最中で火事を起こすところだったぞ!!」

菜摘「(鳴海と顔を見合わせながら笑って)鳴海くんがいけないんだよ!!ミラクルフォックスなんて言うから!!」

鳴海「(菜摘と顔を見合わせながら笑って)わ、悪い悪い!!」


 少しすると鳴海と菜摘の笑いが落ち着いてくる


菜摘「(鳴海と顔を見合わせながら少し笑って)ミラクルフォックスだって」

鳴海「(菜摘と顔を見合わせながら)そ、それがどうかしたのか?」


 菜摘は鳴海と顔を見合わせるのをやめる


菜摘「(鳴海と顔を見合わせるのをやめて)う、ううん、何でもないよ」


◯2056早乙女家菜摘の自室(深夜)

 外は弱い雨が降っている

 綺麗な菜摘の部屋

 菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある 

 菜摘は机に向かって椅子に座っている

 菜摘は鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーを見ている

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている


菜摘「(鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーを見ながら)上手くいってるんだ・・・鳴海くんは過去の夢を・・・」


 菜摘は鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーを見るのをやめる

 机の引き出しを開ける菜摘

 菜摘の机の引き出しの中には入学式を迎えた波音高校の前で、鳴海の母、由夏理が制服姿で立って写っている写真、公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真、◯1964で菜摘が風夏から貰ったベッドの上で横向けに眠っている4歳頃の鳴海が写っている写真、文庫本の波音物語、鳴海の家の鍵、クリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレス、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットが入っている

 入学式を迎えた波音高校の前で、鳴海の母、由夏理が制服姿で立って写っている写真と、公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真は、滅びかけた世界の老人が持っている写真と完全に同じ物

 菜摘の机の引き出しの中の2枚の写真はChapter6◯605で鳴海の家から菜摘が盗んだ物

 ベッドの上で横向けに眠っている4歳頃の写真の鳴海は1枚の写真を持っている

 ベッドの上で横向けに眠っている4歳頃の鳴海が持っている写真には、緋空浜の浜辺にいる紘が写っている

 机の引き出しの中に鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーをしまう菜摘

 菜摘は立ち上がる菜摘

 菜摘の部屋の窓ガラスの近くには左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハが止まっている

 部屋の窓ガラスの近くに左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハが止まっていることに気付く菜摘

 菜摘は窓ガラスを開ける

 弱い雨と共に左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハが菜摘の部屋に入って来る


菜摘「あなたは・・・前に私の腕に止まった・・・」


 菜摘の部屋に入って来たカラスアゲハはよく見ると右の羽が青く、左の羽は緑に近い青色をしている

 左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハは、菜摘の机の引き出しの中にあった公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真に止まる

 両目を瞑る菜摘

 両目を瞑り、机の引き出しの中にある公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真に止まっている左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハに向かって右手を真っ直ぐ伸ばす菜摘

 机の引き出しの中にある公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真に止まっている左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハが金色に光り輝き始める

 

◯2057病室(約20年前/昼)

 外は晴れている

 病室にいる菜摘、30歳頃の由夏理、同じく30歳頃の紘、5歳頃の風夏 

 紘は5歳頃の風夏と手を繋いでいる

 由夏理は病室のベッドの上で赤ちゃんの鳴海を抱っこしている

 紘と5歳頃の風夏は由夏理と赤ちゃんの鳴海のことを見ている

 赤ちゃんの鳴海は由夏理に抱っこされながら泣き叫んでいる

 赤ちゃんの泣き叫んでいる鳴海を抱っこしながら涙を流す由夏理

 赤ちゃんの泣き叫んでいる鳴海、由夏理、紘、5歳頃の風夏には菜摘の姿が見えていない


菜摘「記憶だ・・・(少し間を開けて)これはあなたが愛している記憶なんだね・・・?」


◯2058香港/九龍城砦近くの道路(約30年前/昼)

 晴れている

 かつてに香港にあった九龍城砦の近くの道路の真ん中に立っている菜摘

 九龍城砦は大きくアンバランスな形で建設されており、たくさんの部屋があるのが分かる

 九龍城砦にはたくさんの”◯◯牙科”と書かれた看板の店が出ている

 ”◯◯牙科”の◯◯の部分は中国語の繁体字で書かれているため菜摘には読めない

 九龍城砦の近くの道路にはたくさんの古い車やバイクが走っている

 菜摘は九龍城砦の近くの道路の真ん中に立っているが、車やバイクに乗っている人たちに菜摘の姿は見えていない

 周囲を見ている菜摘


菜摘「(周囲を見ながら)こ、ここはどこ・・・?これも記憶なの・・・?」


 九龍城砦の真上では大きな飛行機が飛んでいる

 大きな飛行機が飛んでいる音が周囲に響き渡っている


◯2059映画館(約30年前/昼)

 映画館の中にいる菜摘、波音高校の制服を着た18歳のすみれ、同じく波音高校の制服を着た18歳の潤

 映画館ではスクリーンに映画が上映されており、すみれと潤を座席に座り映画を見ている

 映画館の中は薄汚く、ジュースのこぼした跡、ポッコーンのカス、タバコの吸い殻などが通路に落ちている

 映画館は観客が少なく、菜摘たちの他に数人の一人客たちがタバコを吸いながら映画を見ている

 タバコを吸っている観客のせいで映画館の中が煙っぽくなっている

 映画館で上映されているのは香港の映画

 すみれと潤はポップコーンを食べながら上映中の香港の映画を見ている

 菜摘は立って上映中の香港の映画を見ている

 すみれと潤には菜摘の姿が見えていない


菜摘「(上映中の香港の映画を見ながら)高校生だった頃のお母さんとお父さんだけど・・・二人の記憶とはちょっと違う・・・」


 上映中の香港の映画では九龍城砦が映っている

 映画館の音響設備からは飛行機が飛んでいる音が鳴り響いている

 菜摘は上映中の香港の映画を見ながらゆっくりスクリーンに向かって歩き出す

 変わらず上映中の香港の映画を見ているすみれと潤

 菜摘は上映中の香港の映画を見ながらスクリーンの目の前で立ち止まる

 上映中の香港の映画を見るのをやめる菜摘

 菜摘はスクリーンに耳を当てる

 スクリーンの奥からは映画の音声とは別に女性のすすり泣く声が聞こえて来る

 菜摘はスクリーンに耳を当てるのをやめる

 スクリーンを捲るように掴み上げる菜摘

 菜摘はスクリーンを捲るように掴み上げてスクリーンの奥に行く

 スクリーンの奥に行って泣いている女性がいる場所に出る菜摘

 菜摘がいるのは約十数年前の鳴海の家のリビング

 泣いていた女性は30歳頃の由夏理

 由夏理は泣きながらリビングの床に座ってテレビで映画を見ている

 泣いている由夏理の近くには5歳頃の鳴海と10歳頃の風夏がいる

 鳴海の家のリビングは電気がついておらず、テレビの映画の明かりだけが唯一の光になっている

 5歳頃の鳴海と10歳頃の風夏は床に座って映画を見ている

 5歳頃の鳴海、泣いている由夏理、10歳頃の風夏がテレビで見ている映画は香港の映画で、18歳のすみれと同じく18歳の潤が映画館で見ていた香港の映画と完全に同じ

 香港の映画からはレベッカ・パンの”ブンガワン・ソロ”が流れている

 5歳頃の鳴海、泣いている由夏理、10歳頃の風夏には菜摘の姿が見えていない


菜摘「どうしたの・・・?どうして泣いてるの・・・?」


 5歳頃の鳴海、泣いている由夏理、10歳頃の風夏には菜摘の声も聞こえていない

 菜摘は両目を瞑る

 菜摘「(両目を瞑って)泣いている記憶・・・泣かせてしまった記憶・・・それから・・・見られている記憶・・・?(少し間を開けて)そっか・・・そうなんだ・・・そういうことも・・・波音町では起こり得るんだね」


◯2060早乙女家菜摘の自室(深夜)

 外は弱い雨が降っている

 綺麗な菜摘の部屋

 菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある

 菜摘の部屋が窓が開いており、そこから雨が入って来ている

 菜摘の机の引き出しが開かれている

 菜摘の机の引き出しの中には入学式を迎えた波音高校の前で、鳴海の母、由夏理が制服姿で立って写っている写真、公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真、◯1964で菜摘が風夏から貰ったベッドの上で横向けに眠っている4歳頃の鳴海が写っている写真、文庫本の波音物語、鳴海の家の鍵、クリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレス、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレット、鳴海がアイリッシュイベントで購入したステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーが入っている

 入学式を迎えた波音高校の前で、鳴海の母、由夏理が制服姿で立って写っている写真と、公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真は、滅びかけた世界の老人が持っている写真と完全に同じ物

 菜摘の机の引き出しの中の2枚の写真はChapter6◯605で鳴海の家から菜摘が盗んだ物

 ベッドの上で横向けに眠っている4歳頃の写真の鳴海は1枚の写真を持っている

 ベッドの上で横向けに眠っている4歳頃の鳴海が持っている写真には、緋空浜の浜辺にいる紘が写っている

 ステンレス製の小さな三つ葉のキーホルダーの葉の部分には、グリーンのストーンがついている

 左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハが、菜摘の机の引き出しの中にあった公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真に止まっている

 5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真の上のカラスアゲハは、よく見ると右の羽が青く、左の羽は緑に近い青色をしている

 菜摘は立ったまま両目を瞑り、机の引き出しの中にある公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真に止まっている左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハに向かって右手を真っ直ぐ伸ばしている

 菜摘の机の引き出しの中にある公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真に止まっている左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハは、金色に光り輝いている

 少しの沈黙が流れる

 両目を瞑り、机の引き出しの中にある公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真に止まっている左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハに向かって右手を伸ばすのをやめる菜摘

 菜摘は両目を開ける

 机の引き出しの中にある公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真に止まっている左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハの光が徐々に弱くなり、少しすると完全に光が消える


菜摘「ありがとう・・・でも出来れば・・・鳴海くんに会いに行くのは・・・私の体がダメになった時にして欲しいな・・・きっとその時の鳴海くんは・・・誰かに助けを求められるような状態じゃないと思うから・・・(少し間を開けて)明日香ちゃんや嶺二くん、汐莉ちゃんもいるけど・・・再会するのはまだ先のことだろうし・・・」


 再び沈黙が流れる


菜摘「うん・・・今は早季ちゃんのところに戻って良いよ、ここにいても私の未来は変わらないし・・・それに私は救いを求めていないんだ。受け入れなきゃいけないことは・・・もう全部背負ってるつもりだから・・・」


 少しの沈黙が流れる

 左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハは机の引き出しの中にある公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真から飛び去る

 開いている菜摘の部屋の窓からどこかに飛んで行く左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違うカラスアゲハ

 菜摘は部屋の窓を閉める

 机の引き出しを閉める菜摘


菜摘「(机の引き出しを閉めて)今日はどんな夢を見るかな・・・」


 菜摘はベッドの上で横になる


菜摘「(ベッドの上で横になって)空を飛ぶ夢・・・美味しいものを食べる夢・・・外国に行く夢・・・時間を越える夢・・・大好きな人と見れる夢・・・」


 菜摘を両目を瞑る


菜摘「(両目を瞑ったまま 声 モノローグ)大丈夫・・・大丈夫・・・また明日も鳴海くんと会えるんだもん・・・私は一人じゃない・・・(少し間を開けて)それに・・・私には鳴海くんが見せてくれる夢がある・・・」


◯2061貴志家リビング(日替わり/朝)

 外は晴れている

 リビングにいる鳴海と菜摘

 鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている

 テーブルの上にはハムとスライスチーズ、マヨネーズのかかったきゅうりとゆで卵を挟んだサンドイッチが置いてある

 朝食を食べながら楽しそうに話をしている鳴海と菜摘

 

菜摘「(朝食を食べながら楽しそうに鳴海と話をして 声 モノローグ)私はもうすぐ死ぬ」


◯2062緋空事務所に向かう道中/早乙女家に向かう道中(朝)

 晴れている

 緋空浜にある緋空事務所に向かっている鳴海

 菜摘は家に帰っている

 鳴海と菜摘は途中まで一緒に行っている

 登校中の波音高校のたくさんの生徒たちとすれ違っている鳴海と菜摘

 鳴海と菜摘は楽しそうに話をしている


菜摘「(楽しそうに鳴海と話をしながら 声 モノローグ)きっと夏頃だ・・・私が運命の歯車に押し潰されるのも・・・」


◯2063ファミレス(朝) 

 ファミレスにいる菜摘

 菜摘はファミレスの制服を着ており、ホールのバイトをしている

 ファミレスにはお年寄りの客が数人いる

 菜摘は焼いた食パン、ソーセージ、目玉焼き、コーンスープが乗っているトレイをお婆さんのテーブルに運んでいる

 

菜摘「(焼いた食パン、ソーセージ、目玉焼き、コーンスープが乗っているトレイをお婆さんのテーブルに運びながら 声 モノローグ)死はゆっくりだけど、確実に近付いて来る」


 菜摘は焼いた食パン、ソーセージ、目玉焼き、コーンスープが乗っているトレイを慎重にお婆さんのテーブルに置く

 焼いた食パン、ソーセージ、目玉焼き、コーンスープが乗っているトレイを慎重にお婆さんのテーブルに置き、伝票を伝票立てに入れる菜摘

 菜摘はお婆さんのテーブルから離れ、別のテーブルの皿とコップの片付けを始める


菜摘「(トレイの上に皿とコップを乗せながら 声 モノローグ)時間はもうあまりない・・・私は自分に素直に、そして自分の愛する人に忠実であろうという想いが強くなっていた。その強い想いは時に鳴海くんや、お母さんとお父さんを苦しめてしまうことになるけど・・・」


 菜摘はトレイの上に皿とコップを乗せ終える

 皿とコップを乗せたトレイを運ぶ菜摘


菜摘「(皿とコップを乗せたトレイを運びながら 声 モノローグ)死ぬと分かっていなければ、私はこんなにわがままにはなれなかったと思う。バイトだって、お母さんとお父さんに無理を言って始めたことだ。お金が欲しかったわけじゃないけど・・・今のうちに生きている実感がすることをたくさんしておきたい」


◯2064新築のオフィスビル一階(朝)

 新築のオフィスビル一階にいる鳴海、伊桜、太田、目黒、その他数人の緋空事務所の社員たち

 鳴海と伊桜を含む緋空事務所の社員たちは新築のオフィスビル一階で机、椅子の組み立てを行っている

 新築のオフィスビル一階には組み立てられた机、椅子、机の引き出し、組み立てる前の机、椅子、机の引き出しの素材、ゴミになった段ボールやプチプチ、組み立てるための取り扱い説明書、たくさんのねじ、様々な種類のドライバー、電動ドライバー、紙やすり、六角レンチ、スパナなどが散らばって置いてある

 太田と目黒は協力しながら机を組み立てている

 協力しながら椅子を組み立てている鳴海と伊桜

 鳴海は椅子の背もたれを支えており、伊桜は背もたれと座面のねじを電動ドライバーで閉めている


菜摘「(声 モノローグ)私の大好きな鳴海くんは、私なんかよりもずっと生き生きしている」


 鳴海は椅子の背もたれを支えながら汗をかいている


菜摘「(声 モノローグ)私も鳴海くんみたいに・・・頑張りたい・・・ううん、頑張ろう。私と鳴海くんの二人で世界を見て、たくさんの人に触れるんだ」


 伊桜は鳴海が支えている背もたれと座面のねじを電動ドライバーで閉めるのをやめる

 椅子の背もたれをしっかり持つように伊桜に注意される鳴海

 鳴海は椅子の背もたれ持ち直し再び支える

 伊桜は再び鳴海が支えている背もたれと座面のねじを電動ドライバーで閉め始める


菜摘「(声 モノローグ)死ぬ瞬間まで・・・私は私に出来ることを探したい。お母さんとお父さんのことも、鳴海くんのご両親のことも、きっとまだ終わっていないと思う。私は死んじゃうけど・・・死んでも・・・」


◯2065ファミレス(朝) 

 ファミレスにいる菜摘

 菜摘はファミレスの制服を着ており、ホールのバイトをしている

 ファミレスにはお年寄りの客が数人いる

 菜摘は皿とコップを乗せたトレイを運んでいる


菜摘「(皿とコップを乗せたトレイを運びながら 声 モノローグ)鳴海くんにとっても、みんなにとっても良い形があるなら・・・」


 菜摘は皿とコップを乗せたトレイを運びながら立ちくらみを起こす

 倒れそうになる菜摘

 菜摘は皿とコップを乗せたトレイを落とす

 菜摘が運んでいた皿とコップは床に落ち割れる 

 ファミレスにいたお年寄りの客たちが一斉に菜摘のことを見る

 慌てて女性店員が割れた皿と割れたコップを拾いトレイに乗せ始める

 

女性店員「(割れた皿と割れたコップを拾いトレイに乗せて)申し訳ございません!!」


 菜摘はフラフラしている


女性店員「(割れた皿と割れたコップを拾いトレイに乗せながら)あなたも早くも拾いなさい!」

菜摘「(フラフラしながら)は、はい・・・」


 菜摘はフラフラしながら割れた皿と割れたコップを拾いトレイに乗せ始める


女性店員「(割れた皿と割れたコップを拾いトレイに乗せながら)早乙女さんこれで何枚目?」

菜摘「(フラフラしながら割れた皿と割れたコップを拾いトレイに乗せて)ご、ごめんなさい・・・」

女性店員「(割れた皿と割れたコップを拾いトレイに乗せながら)悪いことは言わないけど、あなたこの仕事向いてないんじゃないの?」


 少しの沈黙が流れる

 

女性店員「(割れた皿と割れたコップを拾いトレイに乗せながら)お客様に迷惑をかけて、前にもコーヒーをこぼしたって聞いたけど本当?」

菜摘「(フラフラしながら割れた皿と割れたコップを拾いトレイに乗せて)ごめんなさい・・・」

女性店員「(割れた皿と割れたコップを拾いトレイに乗せながら)謝れば良いってものじゃないのよ、仕事なんだから」


◯2066早乙女家に向かう道中(夜)

 菜摘を家に送っている鳴海

 鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている

 俯いている菜摘


鳴海「どうしたんだよ、菜摘」


 菜摘は顔を上げる


菜摘「(顔を上げて)ど、どうしたって?」

鳴海「さっきからずっとテンションが低いじゃないか」

菜摘「ご、ごめん・・・」

鳴海「何かあったなら話してくれよ」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「じ、実は・・・(少し間を開けて)け、結婚式で何を着ようか悩んでて・・・」

鳴海「結婚式か・・・」

菜摘「う、うん・・・」

鳴海「やっぱり結婚式と言えばウェディングドレスだろ」

菜摘「だ、だよね!!ウェディングドレスしかないよね!!って結婚するのは私じゃないよ!!」

鳴海「120点のツッコミが飛び出たな」

菜摘「し、真剣な悩みなのに・・・」

鳴海「すまん、そんなに悩んでたとは知らなかったんだ」

菜摘「結婚式って出席したことないし・・・私・・・そういう時に着るためのドレスも持ってなくて・・・」

鳴海「そうか・・・菜摘は去年のクリスマスパーティーにも参加してないしな・・・」

菜摘「うん・・・クリスマスパーティーの時はみんなサンタさんのコスプレとかだったの?」

鳴海「サンタらしき格好をしていたのは響紀だけだぞ、しかもあいつはタキシードの上にサンタだったからな」

菜摘「そ、そうなんだ・・・じゃ、じゃあ女の子たちはドレス・・・?」

鳴海「ああ、確かレンタルしたって奥野が言ってたはずだ」

菜摘「そ、そっか・・・借りてるんだね」

鳴海「明日、仕事終わりに買いに行くか・・・」

菜摘「(驚いて)えっ?」

鳴海「明日で連日続いてた新築オフィスの下準備が一旦終わるんだ、だから久しぶりにデート兼買い物が出来るぞ菜摘」

菜摘「で、でもお仕事の後だよ」

鳴海「それがどうかしたのか?」

菜摘「な、鳴海くん・・・疲れてない・・・?」

鳴海「菜摘が半袖短パンで姉貴の結婚式に出ても構わないなら明日の買い物はやめるぞ」

菜摘「そ、それは構うけど・・・」

鳴海「なら買いに行こう、仕事の後の息抜きにはちょうど良いイベントだ」

菜摘「い、息抜きは日曜日に公園でしたばかりだよ鳴海くん」

鳴海「あんなの遠い過去の出来事じゃないか」

菜摘「で、でもまだ三日しか経ってなくない・・・?」

鳴海「ああ、つまり遠い過去だ。だからそろそろ息を抜かないとパンクするぞ菜摘」

菜摘「う、うん・・・」

鳴海「つ、ついでに俺もタキシードを買うか・・・」

菜摘「鳴海くん、タキシードを着るの?」

鳴海「い、いや・・・やっぱりやめておこう・・・」

菜摘「(残念そうに)えー・・・」

鳴海「た、タキシードは俺とは相性が合わない」

菜摘「そうなの・・・?」

鳴海「き、きっとな」

菜摘「私、鳴海くんがタキシードを着ているところを見てみたいよ」

鳴海「な、何・・・?み、見てみたいだと・・・?」

菜摘「うん」

鳴海「ほ、本気か菜摘」

菜摘「本気だよ、見てみたいもん」

鳴海「そ、それならば考慮しよう・・・」

菜摘「考慮だけ・・・?」

鳴海「と、とりあえずは考慮だ、大体俺は正装が苦手なんだよ」

菜摘「そ、掃除は得意なのにね・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「そこでギャグを入れて来たか菜摘・・・」

菜摘「な、鳴海くんがボケろって合図をして来たんだよ!!」

鳴海「合図なんか出してないだろ・・・」

菜摘「出したって!!今ここでボケなきゃ何になるんだ!!って顔で私のことを見て来たもん!!」

鳴海「それは気のせいか、無意識で俺がそういう顔をしていたかのどちらかだ」

菜摘「じゃ、じゃあ無意識だね・・・」

鳴海「無意識か・・・(少し間を開けて)だとしたらボケた菜摘が悪いな」

菜摘「私悪くないもん!!むしろボケて偉いもん!!」

鳴海「いや・・・今のギャグは近年稀に見る酷さだったぞ・・・」

菜摘「な、鳴海くんは掃除のお仕事もしているから良いかなって思ったんだけど・・・」

鳴海「まだまだだな菜摘、意外性と面白さの割合が黄金比にならなければ・・・」


 鳴海は話を続ける


菜摘「(声 モノローグ)ありがとう・・・私は何回鳴海くんにその言葉を言ったのかな・・・?数なんて確かめようがないし、大事なのは回数よりも気持ちだけど、私がまだ鳴海くんにありがとうを言い足りてないのは間違いなかった」


 鳴海と菜摘は楽しそうに話を続ける


菜摘「(楽しそうに鳴海と話をしながら 声 モノローグ)この一年間、文芸部を作ると決めたあの日から、私はずっと鳴海くんに支えられている。ずっとだ。私も同じだけ鳴海くんのことを・・・そう思っていても、それはもう、限りなく不可能に近いことになりつつある・・・何故なら私の体は・・・日に日に衰弱していっているから」


◯2067早乙女家菜摘の自室(深夜)

 綺麗な菜摘の部屋

 菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある

 ベッドの上で横になっている菜摘

 カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる


菜摘「時間が足りない・・・(少し間を開けて)私・・・まだ死にたくないんだ・・・」


◯2068緋空事務所(日替わり/朝)

 外は曇っている

 緋空事務所の中にいる鳴海と伊桜

 緋空事務所の中には来栖、太田、目黒を含む数十人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたり、談笑をしたりしている

 緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある 

 緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある

 緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある

 緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある

 伊桜は自分の席で、コーヒーを飲んでいる

 伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている

 伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある

 来栖、太田、目黒は自分の席で、パソコンに向かってタイピングをしている

 鳴海は自分の席に座っている

 鳴海の席は伊桜の席の隣

 

来栖「(パソコンに向かってタイピングをしながら)伊桜くん、貴志くん、悪いんだけど明日の仕事を頼まれてくれないかな」

伊桜「構いませんよ」

鳴海「お、俺もっすか?明日って土曜日っすよね?」


 来栖はパソコンに向かってタイピングをするのをやめる


来栖「(パソコンに向かってタイピングをするのをやめて)二人でやったら午前中いっぱいで終わる作業なんだ、だから君らがやってくれるとこっちも助かるんだよ、他のみんなは明日配達とかあるし」

鳴海「わ、分かりました」

来栖「いやあ悪いねえ、助かるよ」

鳴海「良いんです社長、俺も早く皆さんに追いつきたいんで」


◯2069新築のオフィスビル一階(朝)

 外は曇っている

 新築のオフィスビル一階にいる鳴海、伊桜、太田、目黒、その他数人の緋空事務所の社員たち

 鳴海と伊桜を含む緋空事務所の社員たちは新築のオフィスビル一階で机、椅子の組み立てを行ったり、開業の準備を行っている

 新築のオフィスビル一階には組み立てられた机、椅子、机の引き出し、組み立てる前の机、椅子、机の引き出しの素材、ゴミになった段ボールやプチプチ、組み立てるための取り扱い説明書、たくさんのねじ、様々な種類のドライバー、電動ドライバー、紙やすり、六角レンチ、スパナなどが散らばって置いてある

 新築オフィスビル一階は工具の音や段ボール箱から物を取り出す音でうるさくなっている

 太田と目黒は協力しながら椅子を組み立てている

 協力しながら大きな観葉植物を運んでいる鳴海と伊桜


伊桜「(鳴海と協力しながら大きな観葉植物を運んで)天井にぶつけるな」

鳴海「(伊桜と協力しながら大きな観葉植物を運んで)はい!!」

伊桜「(鳴海と協力しながら大きな観葉植物を運んで)そこだ、ここに置くぞ」

鳴海「(伊桜と協力しながら大きな観葉植物を運んで)了解」


 鳴海と伊桜は協力しながら運んでいた大きな観葉植物を新築のオフィスビル一階の部屋の隅の方に置く


鳴海「(協力しながら運んでいた大きな観葉植物を新築のオフィスビル一階の部屋の隅の方に置いて)しかしこんな物を何に使うんすかね?」

伊桜「俺が知ってると思うか?」


 少しの沈黙が流れる


伊桜「植物は目に優しいからストレスの緩和になるだろ」

鳴海「な、なるほど・・・ところで明日ですけど・・・何するんすか?」

伊桜「草むしりだ」


 再び沈黙が流れる

 

鳴海「い、伊桜さん、たった今植物はストレスの緩和になるって言ってましたよね・・・?」

伊桜「そんなのは人によるだろ」

鳴海「そ、そうっすか・・・」

伊桜「おい、俺たちでウォーターサーバーを運ぶぞ」

鳴海「は、はい!」

 

 時間経過


 鳴海と伊桜はウォーターサーバーの設置を行っている

 鳴海と伊桜の周りにはウォーターサーバーの水の入ったタンク、サーバー本体、ウォーターサーバーの取り扱い説明書が置いてある

 伊桜はウォーターサーバーの冷水の給水口を消毒液のついた綿棒で掃除している

 ウォーターサーバーのプラグを延長ケーブルのコンセントに挿そうとしている鳴海


伊桜「(ウォーターサーバーの給水口を消毒液のついた綿棒で掃除しながら)タコ足を使うのはやめておけ」


 鳴海はウォーターサーバーのプラグを延長ケーブルのコンセントに挿そうとするのをやめる


鳴海「(ウォーターサーバーのプラグを延長ケーブルのコンセントに挿そうとするのをやめて)えっ?でも説明書には延長ケーブルでも大丈夫だって書いてありますけど・・・」

伊桜「(ウォーターサーバーの給水口を消毒液のついた綿棒で掃除しながら)火事になった時にお前が責任を負ってくれるならタコ足を使っても良い」

鳴海「わ、分かりました・・・(少し間を開けて)やめておきます・・・」

伊桜「(ウォーターサーバーの給水口を消毒液のついた綿棒で掃除しながら)貴志は後でまたサーバーを運ぶのを手伝ってくれ」

鳴海「準備は伊桜さんだけでやるんすか?」

伊桜「(ウォーターサーバーの給水口を消毒液のついた綿棒で掃除しながら)ああ、お前は他の仕事をしてろ」

鳴海「りょ、了解です」


 時間経過


 鳴海は脚立に乗って時計を壁にかけている

 ウォーターサーバーの温水の給水口を消毒液のついた綿棒で掃除している伊桜

 太田と目黒は変わらず協力しながら椅子を組み立てている

 ウォーターサーバーの温水の給水口を消毒液のついた綿棒で掃除しながら、脚立に乗って時計を壁にかけている鳴海のことを見る伊桜

 鳴海は脚立に乗ったまま時計を壁にかける


鳴海「(脚立に乗ったまま時計を壁にかけて)これでよしと・・・時計の次はホワイトボー・・・」


 鳴海は”ホワイトボード”と言いかけた瞬間、バランス崩し脚立から落ちそうになる

 慌てて脚立から落ちないように体勢を直す鳴海


鳴海「(慌てて脚立から落ちないように体勢を直して)あ、危ねえ・・・事故だけは気をつけないとな・・・」


 伊桜は変わらずウォーターサーバーの温水の給水口を消毒液のついた綿棒で掃除しながら、脚立に乗っている鳴海のことを見ている


 時間経過


 鳴海は新品のホワイトボードを押している

 ウォーターサーバーのサーバー本体と水の入ったタンクをサーバー本体に繋ぎ合わせようとしている伊桜

 太田と目黒は変わらず協力しながら椅子を組み立てている

 太田は椅子の背もたれを支えており、目黒は背もたれと座面のねじを電動ドライバーで閉めている

 鳴海は新品のホワイトボードを押しながら、協力して椅子を組み立てている太田と目黒の横を通る

 

鳴海「(新品のホワイトボードを押しながら)横通りますよ、太田さん」

太田「(椅子の背もたれを支えながら)ぶつからないでね」

鳴海「(新品のホワイトボードを押しながら)はい」


 鳴海は新品のホワイトボードを押しながら、協力して椅子を組み立てている太田と目黒の横を通り過ぎる

 鳴海は新品のホワイトボードを押しながら、協力して椅子を組み立てている太田と目黒の横を通り過ぎて行くが、ホワイトボードの後ろのタイヤが太田の足にぶつかる


太田「(椅子の背もたれを支えながら)ちょっと今ぶつかったんだけど!!」

鳴海「(新品のホワイトボードを押すのをやめて)す、すみません!!」


 目黒は背もたれと座面のねじを電動ドライバーで閉めるのをやめる


目黒「(背もたれと座面のねじを電動ドライバーで閉めるのをやめて)やる気でネジ穴を潰さないようにしろよ」

鳴海「はい・・・」


 伊桜はウォーターサーバーのサーバー本体と水の入ったタンクをサーバー本体に繋ぎ合わせる


伊桜「(ウォーターサーバーのサーバー本体と水の入ったタンクをサーバー本体に繋ぎ合わて)ボーッとするな貴志!!今度はこっちの仕事があるぞ!!」

鳴海「い、今行きます!!」


 鳴海は再びホワイトボードを押し始める


◯2070新築オフィスビル近くの道路(昼)

 空は曇っている

 新築オフィスビルの近くの歩道でランニングをしている鳴海と伊桜


伊桜「(ランニングをしながら)今日はいつもより集中出来てないぞ」

鳴海「(ランニングをしながら)そうですか?」

伊桜「(ランニングをしながら)ああ、怪我だけはするなよ」

鳴海「(ランニングをしながら)大丈夫っす伊桜さん!!確かにちょっとミスは多いですけど、自分の体くらい自分で守れますから!!」


 少しの沈黙が流れる

 鳴海と伊桜は横断歩道の前で立ち止まる

 横断歩道の信号は赤になっている


伊桜「お前が大怪我する未来が見える」

鳴海「こ、怖いこと言わないでくださいよ伊桜さん」

伊桜「怖いと思うなら注意しろ、怪我するぞ」

鳴海「こ、これでも注意はしてるんですけど・・・」


 横断歩道の信号が青になる

 ランニングを再開する鳴海と伊桜


伊桜「(ランニングをしながら)お前はまだまだ注意力が足りん」

鳴海「(ランニングをしながら)どうしたら注意力が身につくんですか?」

伊桜「(ランニングをしながら)学ぶんだ、賢く生きる方法を」


◯2071緋空事務所(夕方)

 外は曇っている

 緋空事務所に戻って来た鳴海と伊桜

 緋空事務所の中には来栖を含む数人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたりしている

 緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある 

 緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある

 緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある

 緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある

 伊桜は机に向かって椅子に座り書類に書き込みをしている

 伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃(いざくらひめの)の写真が飾られている

 伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある

 来栖は自分の席でパソコンに向かってタイピングをしている

 鳴海は緋空事務所の扉の横の棚の上に置いてあったタイムレコードにタイムカードをセットする

 タイムレコードは鳴海のタイムカードに退勤時刻を記録する

 タイムレコードからタイムカードを抜く鳴海

 鳴海は緋空事務所の扉の横の棚の引き出しにタイムカードをしまう

 頭を下げる鳴海


鳴海「(頭を下げて)お先に失礼します」

伊桜「(書類に書き込みをしながら)お疲れ」

来栖「(パソコンに向かってタイピングをしながら)明日も頼んだよ、貴志くん」

鳴海「はい」


 鳴海は緋空事務所の扉を開けて緋空事務所から出る


◯2072緋空浜/帰路(夕方)

 空は曇っている

 帰り道、緋空浜の浜辺を走っている鳴海

 浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690、◯2004のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849、◯1972のかつての緋空浜に比べると汚れている

 緋空浜には鳴海以外にも、釣りやウォーキングをしている人、浜辺で遊んでいる学生などたくさんの人がいる

 鳴海は走って自宅に向かっている

 

鳴海「(走りながら)クソッ!!また遅い時間になっちまった!!」


◯2073貴志家前(夕方)

 空は曇っている

 鳴海の家の前で一人鳴海のことを待っている菜摘

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 少しすると走って菜摘のところに向かっている鳴海の姿が見えて来る

 鳴海が走って向かって来ていることに気付く菜摘

 菜摘は走って向かって来ている鳴海に手を振る

 手を振っている菜摘の元に走って向かい続ける鳴海

 菜摘は走って向かって来ている鳴海に手を振るのをやめる

 鳴海が走って菜摘のところにやって来る

 息切れをしている鳴海


菜摘「おかえり鳴海くん」

鳴海「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・菜摘・・・何で外に・・・」

菜摘「鳴海くんが帰って来るのを待ってたんだ」

鳴海「(息切れをしながら)ハァ・・・ハァ・・・い、いつもみたいに・・・家の中にいれば良かっただろ・・・」

菜摘「今日はデートだもん」

鳴海「(息切れをしながら)ハァ・・・悪い・・・待たせてばっかで・・・」

菜摘「ううん!!大丈夫!!」


◯2074波音駅/ホーム(夜)

 空は曇っている

 波音駅のホームにいる鳴海と菜摘

 波音駅のホームには帰宅途中のサラリーマン、OL、学生などたくさんの人がおり、電車が来るのを待っている

 波音駅のホームは◯1961の鳴海が夢で見た約30年前の波音駅のホームとは違って、古い木造のホームではなくなっている

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 話をしている鳴海と菜摘


鳴海「すっかり夜だな・・・」

菜摘「私夜にお出かけするのも好きだよ、鳴海くん」

鳴海「そうなのか?」

菜摘「うん、夕方から夜にかけては楽しいことがたくさんあったもん、部活とか!!アイリッシュイベントとか!!」

鳴海「(少し笑って)波高での生活リズムが体に染み付いてるんだな」

菜摘「そうだね!!それに太陽が沈むのって特別感があって好きなんだ」

鳴海「菜摘の考えも分かるけどさ、夜は時間が短過ぎるだろ?」

菜摘「その短さも、切なくて良いものなんだよ鳴海くん」

鳴海「そうか・・・俺は出来れば自分で時間を調整したいところだ」

菜摘「時間を調整出来るとしたら、鳴海くんは夜を永遠にするの?」

鳴海「さすがに永遠にはしないぞ、昼を30分だけ作って世界中に昼寝と日光浴の時間を取り入れるからな」

菜摘「それだったらいつも通り昼間があった方が良くない・・・?」

鳴海「何を言うんだ菜摘、社会には日中隠れて過ごしてるような人たちもたくさんいるんだぞ」

菜摘「そうなの・・・?」

鳴海「そうだ、ヴァンパイアたちのことを少しは考えてやってくれ」

菜摘「ヴァンパイアって・・・吸血鬼・・・?」

鳴海「ああ、いつか菜摘が言ってただろ、私本当はヴァンパイアなんだって」

菜摘「そんなこと言ってないよ・・・」

鳴海「菜摘、嫌いな食べ物を教えてくれ」

菜摘「うーん・・・ニンニク・・・?」

鳴海「やっぱり吸血鬼だったか」

菜摘「ち、違うよ!!今のはボケだよ!!」

鳴海「ボケの解除が早かったな・・・」

菜摘「だ、だって・・・鳴海くんが本気で信じたら困るし・・・」

鳴海「信じるわけないだろ・・・」

菜摘「う、うん・・・」


 少しすると電車が波音駅のホームにやって来る

 鳴海は菜摘の手を握る

 鳴海に手を握られてチラッと鳴海のことを見る菜摘

 鳴海と菜摘は手を繋ぐ

 電車は波音駅のホームで止まる

 電車の中は混んでおり、椅子はほとんど空いてない


菜摘「(鳴海と手を繋いだまま)手、暖かいね」

鳴海「(菜摘と手を繋いだまま)ん・・・?」

菜摘「(鳴海と手を繋いだまま)ううん・・・何でもないよ」


 電車の扉が開く

 電車からはたくさんのサラリーマン、OL、学生たちが波音駅のホームに降りて行く

 

◯2075電車内(夜)

 外は曇っている

 電車に乗っている鳴海と菜摘

 電車の中はサラリーマン、OL、学生たちで混んでおり、椅子は全く空いていない

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 鳴海と菜摘は立っている

 鳴海は左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いでいる

 左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴んでいる菜摘

 菜摘は左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴んだまま鳴海の背中を見ている

 

鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)混んでるな」

菜摘「(左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴み鳴海の背中を見ながら)うん」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)どうかしたのか?」


 菜摘は左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴んだまま鳴海の背中を見るのをやめる


菜摘「(左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴んだまま鳴海の背中を見るのをやめて)どうかしたって?」

鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)静かだなって思ったんだ」

菜摘「(左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴んだまま)電車の中だもん、騒ぐわけにはいかないよ」

鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)確かにそうだな・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)ドレス、どんなのが良いとかあるのか?」

菜摘「(左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴んだまま)ううん、鳴海くんはどうするの?」

鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)俺のは適当にスーツで良いだろ」

菜摘「(左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴んだまま)タキシードは?」

鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)タキシードは良いのがあったらな」

菜摘「(左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴んだまま)良いの・・・」

鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)ああ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)って思ったけど、やっぱりお互いに似合いそうなのを選ぶのか」

菜摘「(左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴んだまま)お互いに・・・?鳴海くんちゃんと着てくれるの・・・?」

鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)サイズさえ合えば着るぞ」

菜摘「(左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴んだまま)それなら・・・私が鳴海くんの服を選んで良い・・・?」

鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)おう」


 再び沈黙が流れる

 菜摘は左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴んだまま再び鳴海の背中を見る


菜摘「(左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴んだまま鳴海の背中を見て)鳴海くん」

鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)何だ?」

菜摘「(左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴み鳴海の背中を見ながら)鳴海くんの背中って、こんな感じだったかな?」

鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま少し笑って)背中なんて見れないんだから分かるわけないだろ」

菜摘「(左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴み鳴海の背中を見ながら)あ、そうだね、ごめん」

鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)前と違う気がするのか?」

菜摘「(左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴み鳴海の背中を見ながら)うーん・・・(少し間を開けて)少し・・・違うかも」

鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)多分仕事で体を酷使して筋肉がついたんだろ」

菜摘「(左手で鳴海と手を繋ぎ、右手で鳴海の服の裾を掴み鳴海の背中を見ながら)そういうことなのかな?」

鳴海「(左手で吊り革に掴まり、右手で菜摘と手を繋いだまま)きっとそうさ」


◯2076波音ショッピングモール/エントランス(夜)

 外は曇っている

 波音ショッピングモールの中にいる鳴海と菜摘

 波音ショッピングモールの中には鳴海と菜摘以外にも小さな子供からお年寄りまで、たくさんの人で溢れている

 波音ショッピングモールは六階建てて広く、たくさんのお店が賑わっている

 波音ショッピングモールのエントランスの近くにはエスカレーターが何台もあり、多くの人が利用している

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 エスカレーターに乗っている鳴海と菜摘

 鳴海と菜摘は手を繋いでいる


菜摘「(鳴海と手を繋いだまま)久しぶりだね、ここに来るのも」

鳴海「(菜摘と手を繋いだまま)だな、去年の生徒会選挙以来か?」

菜摘「(鳴海と手を繋いだまま)うん、Xデー以来だよ」

鳴海「(菜摘と手を繋いだまま)Xデーだとまるで地球の命運がかかってたかのような感じがするな・・・」

菜摘「(鳴海と手を繋いだまま)鳴海くんが生徒会選挙の当日のことをXデーって言ったんじゃなかったっけ・・・?」

鳴海「(菜摘と手を繋いだまま)俺がそんな子供みたいなことを言ったのか・・・?」

菜摘「(鳴海と手を繋いだまま)多分・・・」


 鳴海と菜摘は手を繋いだままエスカレーターから降りて波音ショッピングモールの二階に行く


◯2077波音ショッピングモール/ドレスショップ(夜)

 外は曇っている

 波音ショッピングモールの中のドレスショップにいる鳴海と菜摘

 波音ショッピングモールの中のドレスショップには純白のウェディングドレスから、赤、ピンク、紫、青、水色、緑、黄色、オレンジ、黒など様々な色のパーティー用ドレス、ウェディングドレスが揃っている

 波音ショッピングモールの中のドレスショップには鳴海と菜摘以外にも数組のカップルたちがおり、ドレスを見ている

 ドレスショップの中には奥に試着室が3室ある

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 ドレスを見て回っている鳴海と菜摘

 鳴海はドレスを見て回るのをやめて純白のウェディングドレスの前で立ち止まる


鳴海「(純白のウェディングドレスの前で立ち止まって)これなんかどうだ?」


 鳴海は純白のウェディングドレスを指差す

 鳴海が指差している純白のウェディングドレスを見る菜摘


菜摘「(鳴海が指差している純白のウェディングドレスを見て)だ、ダメだよ鳴海くん。それはウェディングドレスだし・・・」

鳴海「(純白のウェディングドレスを指差したまま)結婚式に行くんだから別にウェディングドレスも良くないか?」


 菜摘は鳴海が指差している純白のウェディングドレスを見るのをやめる


菜摘「(鳴海が指差している純白のウェディングドレスを見るのをやめて)わ、私たちは新郎新婦より目立っちゃいけないんだよ」

鳴海「(純白のウェディングドレスを指差したまま)しかしだな・・・菜摘・・・」

菜摘「だ、ダメったらダメ。ウェディングドレスは自分の結婚式の時にしか着ないって決めてるもん!!」


 鳴海は純白のウェディングドレスを指差すのをやめる


鳴海「(純白のウェディングドレスを指差すのをやめて)そ、そうか・・・」


 鳴海と菜摘は再びドレスを見て回り始める


菜摘「(ドレスを見て回りながら)鳴海くんのはどうしよう・・・」

鳴海「(ドレスを見て回りながら)ま、まさかこの店で売られているやつから俺の服を選ぶじゃないんだろうな・・・」

菜摘「(ドレスを見て回りながら)え、選ばないよ!!こ、ここは女性専門だもん」

鳴海「(ドレスを見て回りながら)そ、それなら安心だ・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(ドレスを見て回りながら)し、新郎新婦より目立っちゃいけないってのは分かるが・・・ドレスって名前が付く限り地味なのを探すのは難しいと思うぞ」

菜摘「(ドレスを見て回りながら)うん・・・でも派手過ぎるのはちょっと・・・は、恥ずかしいし・・・」

鳴海「(ドレスを見て回りながら)お、俺が選んでも大丈夫なのかよ・・・」


 菜摘はドレスを見て回るのをやめて立ち止まる


菜摘「(ドレスを見て回るのをやめて立ち止まって)あっ・・・」


 鳴海は菜摘に合わせてドレスを見て回るのをやめて立ち止まる


鳴海「(ドレスを見て回るのをやめて立ち止まって)ど、どうしたんだ?」

菜摘「そ、そっか・・・私も・・・鳴海くんに選んでもらうんだった・・・」

鳴海「(呆れて)忘れてたのかよ・・・」

菜摘「うん・・・」

鳴海「こ、後悔しても知らないぞ菜摘」

菜摘「だ、大丈夫だよ・・・多分・・・」

鳴海「多分な・・・」

菜摘「私・・・鳴海くんを信じているから・・・」

鳴海「信じられてもな・・・こういうのはセンスと好みの問題だぞ」

菜摘「う、うん・・・」

 

 再び沈黙が流れる

 鳴海はドレスを見て回り始める

 ドレスを見て回り始める菜摘


鳴海「(ドレスを見て回りながら)せ、せめてお互いの理想を近付けるために、菜摘の好きなデザインとか、色を教えてくれないか?」


 菜摘はドレスを見て回りながら考え込む


菜摘「(ドレスを見て回りながら考え込んで)うーん・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(ドレスを見て回りながら)も、もうちょっと気楽に考えても良いと思うぞ」

菜摘「(ドレスを見て回りながら考え込んで)気楽に・・・」

鳴海「(ドレスを見て回りながら)あ、ああ・・・」

菜摘「(ドレスを見て回りながら考え込んで)お、お姫様が着ているようなドレスはダメだと思う・・・」

鳴海「(ドレスを見て回りながら小声でボソッと)お姫様が着てるようなドレスってどんなだ・・・」

菜摘「(ドレスを見て回りながら考え込んで)それからウェディングドレスもダメだし・・・」

鳴海「(ドレスを見て回りながら)お、おう・・・」

菜摘「(ドレスを見て回りながら考え込んで)黒もせっかくの結婚式が暗い雰囲気になっちゃうから良くないと思うんだよね・・・」

鳴海「(ドレスを見て回りながら)そ、そうか・・・?べ、別に俺は黒でも良いと思うんだが・・・」

菜摘「(ドレスを見て回りながら考え込んで)白は風夏さんと被っちゃうかもしれないからあり得ないし・・・」

鳴海「(ドレスを見て回りながら)い、色々考えてるんだな・・・」

菜摘「(ドレスを見て回りながら考え込んで)多色系は私好きじゃないから・・・」

鳴海「(ドレスを見て回りながら)こだわりか・・・」

菜摘「(ドレスを見て回りながら考え込んで)そうなると・・・」


 鳴海はドレスを見て回るのをやめる


鳴海「(ドレスを見て回るのをやめて)そ、そうなると?」

菜摘「(ドレスを見て回りながら考え込んで)やっぱり・・・」

鳴海「や、やっぱり何だ?」

菜摘「(ドレスを見て回りながら考え込んで)制服が一番良いのかも・・・」

鳴海「(立ち止まって驚いて大きな声で)せ、制服!?!?」


 鳴海の声でドレスショップの中にいたカップルたちと店員たちが鳴海のことを一斉に見る

 ドレスを見て回るのをやめて立ち止まる菜摘


鳴海「(小さな声で)せ、制服ってどういうことだよ菜摘」

菜摘「お父さんが高校の制服でも良いんじゃねえかって言ってて・・・」

鳴海「(小さな声で)あのアホ親父娘に何を勧めてるんだ・・・」

菜摘「ま、まだ私たちは卒業してから二ヶ月も経ってないよ鳴海くん」

鳴海「な、何ヶ月だろうが菜摘はもう高校生じゃないだろ!!」

菜摘「そ、それはそうだけど・・・ど、ドレスは何が良いのかよく分からないし・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「わ、分かった・・・じゃ、じゃあこうしよう、まず何着か違う種類のドレスを試着して、一番好みだったドレスから買うのを絞っていくんだ」

菜摘「か、買わなくて良いよ、レンタルで大丈夫」

鳴海「そんなことを気にする前にとりあえず試着するのを選ぶぞ」

菜摘「う、うん・・・」


 時間経過


 菜摘はピンク、紫、緑、黄色、オレンジ色の5着のパーティードレスを持っている

 ドレスショップの店員に声をかけに行く菜摘


菜摘「え、えっと・・・試着したいんですけど・・・」

ドレスショップの店員「かしこまりました、こちらへどうぞ」

菜摘「は、はい」


 菜摘はドレスショップの店員に促されて恐る恐る試着室の中に入る


 時間経過


 鳴海は試着室の近くでドレスを見ている

 少しすると試着室の中から紫のパーティードレスを試着した菜摘が出て来る

 

菜摘「な、鳴海くん・・・」


 鳴海はドレスを見るのをやめる

 紫のパーティードレスを試着した菜摘のことを見る鳴海


鳴海「(紫のパーティードレスを試着した菜摘のことを見て)お、おお!!似合うじゃないか菜摘!!」

菜摘「そ、そうかな・・・?」

鳴海「(紫のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)あ、ああ、めちゃくちゃ良いと思うぞ」

菜摘「で、でも色が暗過ぎない・・・?」

鳴海「(紫のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)紫だからな・・・地味よりなドレスだとは思うが・・・」

菜摘「こ、これって周りの人が明るいドレスを着てたらかえって目立つよね・・・?」

鳴海「(紫のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)そ、そうだな・・・(少し間を開けて)ほ、他のドレスを試着したらどうだ?」

菜摘「うん・・・」


 菜摘は試着室の中に戻る


 時間経過

 

 鳴海は変わらず試着室の近くでドレスを見ている

 少しすると試着室の中から緑のパーティードレスを試着した菜摘が出て来る

 鳴海はドレスを見るのをやめる

 緑のパーティードレスを試着した菜摘のことを見る


菜摘「ど、どうかな?」

鳴海「(緑のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)さ、さっきのに劣らずめちゃくちゃ似合ってるぞ菜摘」

菜摘「そ、そう・・・?」

鳴海「(緑のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)お、おう、紫よりも会場で浮いたりしないんじゃないか?」

菜摘「だと良いけど・・・これ、ダークグリーンっていう色なんだって」

鳴海「(緑のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)良い色だな」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「(小さな声で)でもちょっと海苔みたいだよ・・・」

鳴海「(緑のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)そ、そうか・・・?」


 ドレスショップの店員が鳴海と緑のパーティードレスを試着した菜摘のことを見ている


鳴海「(緑のパーティードレスを着た菜摘のことを見たまま)海苔はもっと濃い緑だと・・・」


 鳴海はドレスショップの店員がこちらを見ていること気付き話途中で黙る

 

菜摘「(小さな声で)海苔がどうしたの・・・?」

鳴海「(緑のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)つ、次のドレスを試着だ菜摘」

菜摘「(小さな声で)わ、分かった・・・」

 

 時間経過


 菜摘はオレンジのパーティードレスを試着している

 オレンジのパーティードレスを試着した菜摘のことを見ている鳴海


鳴海「(オレンジのパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)にあっているが・・・さすがにオレンジは明るいな・・・」

菜摘「目立つよね・・・」

鳴海「(オレンジのパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)た、多少は目立って良いと思うぞ、結婚式なんて目立つためのイベントなんだしさ」

菜摘「し、新郎新婦が目立つイベントだよ鳴海くん」

 

 再び沈黙が流れる


菜摘「そ、それに私思ったんだけど・・・オレンジのドレスはみかんを擬人化したみたいでちょっと・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(オレンジのパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)に、二足歩行のみかんになった気持ちってことか・・・?」

菜摘「う、うん・・・そんな感じ・・・」

鳴海「(オレンジのパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)そ、それじゃあ世界中のオレンジ色のドレスを持っている奴らはみんなみかんの擬人化ってことになっちまうぞ」

菜摘「わ、私だけだよ・・・」

鳴海「(オレンジのパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)な、何が菜摘だけなんだ?」

菜摘「み、みかんの擬人化になるのは世界中で私しかいないと思う・・・」

鳴海「(オレンジのパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)何で菜摘だけなんだよ・・・」

菜摘「だって似合ってないし・・・」

鳴海「(オレンジのパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)そ、そんなことないだろ!!似合ってるじゃないか!!」

菜摘「な、鳴海くんは・・・優しいから・・・きっと私が何を着ても似合ってるって言ってくれると思う・・・」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「着替えてくるね・・・」

鳴海「(オレンジのパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)あ、ああ・・・」


 菜摘は試着室の中に戻る


鳴海「(声 モノローグ)い、いや確かにそうだが!!た、確かに俺は何でも似合ってると言いそうだが!!でもそれは仕方ないじゃないか!!な、何でも似合ってるのが事実なんだから!!」


 時間経過


 菜摘は黄色のパーティードレスを試着している

 黄色のパーティードレスを試着した菜摘のことを見ている鳴海


鳴海「(黄色のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)バナナみたいだとか思ってないよな・・・?」

菜摘「(驚いて)す、凄いね鳴海くん、何で分かったの?」

鳴海「(黄色のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま呆れて)今までの流れ的に分かるだろ・・・」

菜摘「あ、因みに最初の紫のドレスは、鳴海くんの嫌いな食べ物ランキング第二位のナスっぽいなって思ってたんだよ」

鳴海「(黄色のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま呆れて)そうだろうな・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(黄色のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)黄色は向日葵が教えてくれる、波には背かないでだろ!!」

菜摘「(怒って)そ、そんな長い文章はドレスを見ても思いつかないよ」

鳴海「(黄色のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)な、菜摘が考えた言葉じゃないか!!」

菜摘「(怒りながら)で、でも今思いつかなかったし・・・」


 再び沈黙が流れる


菜摘「つ、次がラストのドレスだね・・・」

鳴海「(黄色のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)こうなったら最後の食べ物も予想しとくか・・・」

菜摘「ピンク系はたくさんあるよ鳴海くん」

鳴海「(黄色のパーティードレスを試着した菜摘のことを見たまま)そんなことは良いから早く試着して来てくれ・・・」

菜摘「う、うん・・・」


 菜摘は試着室の中に戻る

 少しの沈黙が流れる

 深くため息を吐き出す鳴海


鳴海「(深くため息を吐き出して)ドレスを選ぶのも大変だな・・・しかしこの感じ・・・自分が結婚するってなった時はもっと大変になるんじゃないのか・・・?(少し間を開けて)いや何を考えてるんだ俺は・・・姉貴と龍さんの結婚式が先だろ・・・し、しっかりするんだ・・・い、今はまだ俺たちの結婚について考える時じゃない・・・な、菜摘もそう思ってるはずだ・・・もし結婚するってなったらすみれさんと潤さんに挨拶を・・・」


 鳴海は試着室の近くでぶつぶつ独り言を言っている


菜摘「お、お待たせ鳴海くん」


 鳴海は独り言を言うのをやめて試着室の方を見る


鳴海「お、おう、は、早かっ・・・」


 鳴海は菜摘のことを見た瞬間話途中で口を閉じる

 ピンクのパーティードレスを試着している菜摘

 鳴海はピンクのパーティードレスを試着した菜摘に見惚れている


菜摘「ど、どうかな・・・?」


 鳴海は変わらずピンクのパーティードレスを試着した菜摘に見惚れている


菜摘「な、鳴海くん・・・?だ、大丈夫・・・?」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(ピンクのパーティードレスを試着した菜摘に見惚れたまま)綺麗だ・・・」

菜摘「えっ・・・?」

鳴海「(ピンクのパーティードレスを試着した菜摘に見惚れたまま)今までで一番似合ってる」

菜摘「ほ、本当・・・?」

鳴海「(ピンクのパーティードレスを試着した菜摘に見惚れたまま)ああ・・・」


 菜摘の顔が赤くなる


菜摘「(顔を赤くして恥ずかしそうに)あ、ありがとう鳴海くん・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(ピンクのパーティードレスを試着した菜摘に見惚れたまま)そのドレスにしよう・・・」

菜摘「えっ?こ、これで良いの?め、目立たない?」

鳴海「(ピンクのパーティードレスを試着した菜摘に見惚れたまま)それにするべきだ、絶対に」


 再び沈黙が流れる


菜摘「じゃ、じゃあ・・・鳴海くんが選んでくれたから・・・このドレスにするね」

鳴海「(ピンクのパーティードレスを試着した菜摘に見惚れたまま)ああ、そうしてくれ」


◯2078波音ショッピングモール/二階通路(夜)

 外は曇っている

 波音ショッピングモールの二階通路を歩いている鳴海と菜摘

 波音ショッピングモールの中には鳴海と菜摘以外にも小さな子供からお年寄りまで、たくさんの人で溢れている

 波音ショッピングモールは六階建てて広く、たくさんのお店が賑わっている

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 ドレスショップの大きな紙袋を持っている鳴海

 話をしている鳴海と菜摘


菜摘「ごめんね・・・こんなに高い物・・・」

鳴海「何謝ってるんだよ、俺が欲しくて買ったんだぞ菜摘」

菜摘「いつも鳴海くんからは貰ってばかりだし、私には身分不相応なドレスだよ・・・」

鳴海「そんなことは言わないでくれ、似合ってたんだからこれで良いだろ」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「さてと・・・買い物も出来たし飯でも食うか」

菜摘「な、鳴海くんのタキシードは?」

鳴海「俺の服よりも先に飯だ、菜摘、腹減ってるだろ?」

菜摘「空いてるけど・・・」

鳴海「何か食べたいのはあるか?」

菜摘「ううん、鳴海くんは?」

鳴海「俺はガッツリしたものだな・・・」

菜摘「ステーキとか・・・?」

鳴海「最高だ」

菜摘「じゃあお肉屋さんが良いね」

鳴海「菜摘もステーキを食べるのか?」

菜摘「うん!!」

鳴海「イメージが湧かないな・・・菜摘はお子様ランチみたいな飯が好きなんじゃないのか?」

菜摘「す、好きだけど・・・」

鳴海「ステーキって言ったら分厚くてでかい肉だぞ、お子様ランチとは全然違うと思うんだが」

菜摘「お、お子様ランチ以外も食べられるご飯はたくさんあるよ!!」

鳴海「そ、そうだったか・・・」

菜摘「わ、私鳴海くんみたいに好き嫌いしないもん!!」

鳴海「(少し笑って)菜摘はニンニクが苦手なんだろ」

菜摘「に、ニンニクが苦手なのは吸血鬼だよ!!」

鳴海「(少し笑いながら)分かった分かった、菜摘のツッコミのエネルギーが枯渇する前にニンニク抜きのステーキを摂取しないとな」

菜摘「に、ニンニクも食べられるもん!!」

鳴海「(少し笑いながら)ニンニク山盛りステーキを食べるられるのか?」

菜摘「た、たくさんは無理だよ・・・人並みの量が限界だと思うし・・・」


◯2079波音ショッピングモール/ステーキ屋(夜)

 外は曇っている

 波音ショッピングモールの中のステーキ屋にいる鳴海と菜摘

 波音ショッピングモールの中のステーキ屋には鳴海と菜摘以外にもカップル、家族連れなどたくさんの客がいる

 鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている

 テーブルの上には鉄板に乗った大きなステーキとライスが2人前置いてある

 菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている

 鳴海の隣の椅子にはドレスショップの大きな紙袋が置いてある

 鉄板に乗った大きなステーキとライスを見ている菜摘


鳴海「どうかしたのか?菜摘」

菜摘「(鉄板に乗った大きなステーキとライスを見たまま)た、確かに鳴海くんの言う通りだったよ・・・お子様ランチとは全く違うね・・・」

鳴海「食べ切れなさそうなら残して良いんだぞ、余ったら俺が食べるからな」


 菜摘は鉄板に乗った大きなステーキとライスを見るのをやめる


菜摘「(鉄板に乗った大きなステーキとライスを見るのをやめて)う、ううん!!せ、せっかく頼んだんだしちゃんと完食するよ!!」


 時間経過


 鳴海は大きなステーキとライスを一人完食し終えている

 ナイフとフォークを使ってゆっくり大きなステーキとライスを食べている菜摘

 菜摘はナイフとフォークを使って鉄板に乗った大きなステーキを一口分切っている


鳴海「菜摘、前に不幸を追い払う力がなんちゃらでハンバーグが好きな食べ物だって言ってたよな」

菜摘「(ナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切りながら)うん、ひき肉には不幸を追い払う力があるから大好きだよ」

鳴海「だったらこの店でもハンバーグを食べた方が良かったんじゃないのか?」

菜摘「(ナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切りながら)私、鳴海くんと同じものが食べたかったんだ」


 菜摘はナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切り分けて口の中に入れる


鳴海「それにしたって量が多過ぎたような気がするけどな・・・」


 菜摘は一口分のステーキをしっかり噛んで食べる


 時間経過


 菜摘は変わらずナイフとフォークを使ってゆっくり大きなステーキとライスを食べている

 ナイフとフォークを使って鉄板に乗った大きなステーキを一口分切っている菜摘


菜摘「(ナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切りながら)食べるの遅くてごめんね、鳴海くん」

鳴海「気にするなよ、それよりよく噛んでから飲み込むんだぞ」

菜摘「(ナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切りながら)うん」


 菜摘はナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切り分けて口の中に入れる


 時間経過


 菜摘はナイフとフォークを使ってゆっくり大きなステーキとライスを食べている

 菜摘のステーキとライスは残り少しになっている 

 菜摘が食べ終わるのを待っている鳴海


菜摘「時間が経ってお肉が硬くなっちゃった・・・」

鳴海「味は大丈夫なのか?」

菜摘「出来立てほどじゃないけど美味しいよ」


 菜摘はライスの最後の一口を食べる

 ナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切り分けようとする菜摘

 菜摘はナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切り分けようとするが、ステーキが硬くなっており上手く切ることが出来ない


鳴海「貸してくれ菜摘」

菜摘「(ナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切り分けようとしながら)だ、大丈夫・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「貸してくれよ、菜摘」


 再び沈黙が流れる

 菜摘はナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切り分けようとするのを諦める

 ナイフ、フォーク、大きなステーキが乗った鉄板を鳴海の方に差し出す菜摘

 鳴海はナイフとフォークを菜摘から受け取る


菜摘「ありがとう・・・鳴海くん・・・」

鳴海「おう」


 鳴海はナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切り始める


菜摘「(心配そうに)体・・・痛くない・・・?」

鳴海「(ナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切りながら少し笑って)痛いわけないだろ」

菜摘「(心配そうに)筋肉痛は大丈夫・・・?」

鳴海「(ナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切りながら少し笑って)大丈夫だ」


 鳴海はナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切り分ける

 フォークに刺した一口分のステーキを菜摘に差し出す鳴海


鳴海「(フォークに刺した一口分のステーキを菜摘に差し出して)ほら」

 

 菜摘は恥ずかしそうに口を開ける

 菜摘の口の中にフォークに刺した一口分のステーキを入れる鳴海

 菜摘は恥ずかしそうに鳴海が切り分けた一口分のステーキを食べる

 再びナイフとフォークを使って鉄板に乗ったステーキを一口分切り始める鳴海

 ステーキ屋の外では”蛍の光”が流れ始める

 菜摘は鳴海が切り分けた一口分のステーキをしっかり噛んで飲み込む


菜摘「(鳴海が切り分けた一口分のステーキをしっかり噛んで飲み込んで)な、鳴海くん、急がないとお店が閉まっちゃうよ」


 鳴海はナイフとフォークを使って大きなステーキを一口分切り分ける

 フォークに刺した一口分のステーキを菜摘に差し出す鳴海


鳴海「(フォークに刺した一口分のステーキを菜摘に差し出して)仕方ないさ、俺のタキシードはまた今度買いに行こう」

菜摘「こ、今度っていつ・・・?」

鳴海「(フォークに刺した一口分のステーキを菜摘に差し出したまま)今度は今度だろ」


 菜摘は再び口を開ける

 菜摘の口の中にフォークに刺した一口分のステーキを入れる鳴海

 菜摘は鳴海が切り分けた一口分のステーキを食べる

 菜摘のステーキはラスト一口分の量が残っている

 鳴海はラスト一口分のステーキをフォークで刺す

 鳴海が切り分けた一口分のステーキをしっかり噛んで飲み込む菜摘


菜摘「(鳴海が切り分けた一口分のステーキをしっかり噛んで飲み込んで)そ、それじゃあ結婚式までに間に合わないよ」


 鳴海はフォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出す


鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出して)結婚式の日程も決まってないのに何で間に合わないと思うんだ?」

菜摘「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを鳴海に差し出されたまま)えっ・・・結婚式の日程って・・・もうとっくに決まってるでしょ・・・?」

鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出したまま少し笑って)アバウトに1ヶ月後とか2ヶ月後にな」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを鳴海に差し出されたまま)な、鳴海くん・・・招待状・・・見てるよね・・・?」

鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出したまま)しょ、招待状・・・?」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出したまま)お、俺はまだ招待なんかされてないぞ」

菜摘「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを鳴海に差し出されたまま)本当に・・・?ポストの中を確認した・・・?」

鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出したまま)いや・・・」


 少しの沈黙が流れる


鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出したまま)い、いつなんだ・・・け、結婚式は・・・」

菜摘「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを鳴海に差し出されたまま)あ、明日だよ、時間は11時から」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出したまま)よ、夜の11時からスタートか?」

菜摘「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを鳴海に差し出されたまま)う、ううん、午前中」


 鳴海はフォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出すのをやめる

 少しの沈黙が流れる


菜摘「ど、どうかしたの・・・?」

鳴海「明日は・・・草刈りの仕事が入ってる・・・」

菜摘「(驚いて)ええっ!?」

鳴海「しまったな・・・郵便受けを最近全く見てなかった・・・」

菜摘「(怒って)し、しまったじゃないよ鳴海くん!!」

鳴海「(少し笑って)心配するな菜摘、姉貴に頼んで式の時間をずらしてもらうからさ」


 再び沈黙が流れる


鳴海「い、今のは冗談だ菜摘」


 鳴海は再びフォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出す


鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出して)に、肉、た、食べないのか?」

菜摘「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを鳴海に差し出されて怒りながら)じょ、冗談なんか言ってる場合じゃないのに!!」

鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出したまま)あ、明日の仕事は午前中で終わるらしいんだよ、だ、だからギリギリ遅刻するだけだ」

菜摘「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを鳴海に差し出されて怒りながら)遅刻しちゃダメだよ!!」


 少しの沈黙が流れる


菜摘「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを鳴海に差し出されたまま)な、何とかお休みを貰えないの・・・?」

鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出したまま)今朝明日も出勤してくれって頼まれたばかりだからな・・・それに俺以外も仕事が入ってるみたいだし・・・」


 再び沈黙が流れる


鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出したまま)あ、姉貴には遅刻するって連絡しておくよ、さすがに式が終わるまでには駆けつけるだろうからさ・・・多分・・・」

菜摘「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを鳴海に差し出されたまま)鳴海くんの・・・大馬鹿・・・」

鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出したまま)ぜ、前日までドレスを決めてなかった奴に言われたくないんだが・・・」

菜摘「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを鳴海に差し出されたまま怒って)だ、だって私は制服を着る予定だったし!!」

鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出したまま)う、嘘だろ?」

菜摘「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを鳴海に差し出されて怒りながら)ほ、本当だよ!!お父さんにそう勧められたもん!!」

鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出したまま)ち、父親の言うことを全て鵜呑みにするつもりか!?」

菜摘「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを鳴海に差し出されて怒りながら)す、全てじゃないけど今回はドレスを買ってる暇がなさそうだったから制服を着るしかないと思ったの!!」

鳴海「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを菜摘に差し出したまま)せ、制服じゃコスプレだ!!」

菜摘「(フォークに刺したラスト一口分のステーキを鳴海に差し出されて怒りながら)つ、ついこの間まで着てたからきっと大丈夫だよ!!」


 少しの沈黙が流れる

 菜摘は口を開ける

 菜摘の口の中にフォークに刺したラスト一口分のステーキを入れる鳴海

 菜摘はラスト一口分のステーキを食べる

 鉄板の上にフォークを置く鳴海


鳴海「(鉄板の上にフォークを置いて)結婚式に遅刻するとはな・・・」


 菜摘はラスト一口分のステーキをしっかり噛みながら首を何度も縦に振る


鳴海「ヘドバンか?」


 菜摘はラスト一口分のステーキをしっかり噛みながら首を何度も横に振る


◯2080貴志家リビング(夜)

 外は曇っている

 家に帰って来た鳴海

 鳴海はたくさんの郵便物を持っている

 リビングの電気をつける鳴海

 鳴海はテーブルの上に雑に郵便物を置く

 郵便物の中には風夏と龍造の結婚式の招待状が入っている

 風夏と龍造の結婚式の招待状を手に取る鳴海

 風夏と龍造の結婚式の招待状はシンプルなデザインの封筒に入っている

 風夏と龍造の結婚式の招待状が入っている封筒の差し出し名の部分には”神北 龍造 風夏”と書かれている

 鳴海はシンプルなデザインの封筒を開け、中から風夏と龍造の結婚式の招待状を取り出す

 風夏と龍造の結婚式の招待状には大きな字で”返信不要!!”と書かれている

 風夏と龍造の結婚式の招待状には白色のアサガオがたくさん描かれている 

 風夏と龍造の結婚式の招待状を見ている鳴海


鳴海「(風夏と龍造の結婚式の招待状を見ながら)姉貴・・・怒るだろうな・・・」

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