Chapter7♯12 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
登場人物
貴志 鳴海 19歳男子
Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。
早乙女 菜摘 19歳女子
Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。
貴志 由夏理
鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている
貴志 紘
鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。
早乙女 すみれ 46歳女子
優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。
早乙女 潤 47歳男子
永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。
貴志/神北 風夏 25歳女子
看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。
神北 龍造 25歳男子
風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。
南 汐莉 16歳女子
Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。
一条 雪音 19歳女子
鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。
伊桜 京也 32歳男子
緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。
荻原 早季 15歳(?)女子
どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。
瑠璃
鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。
来栖 真 59歳男子
緋空事務所の社長。
神谷 志郎 44歳男子
Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。
貴志 希海 女子
貴志の名字を持つ謎の人物。
三枝 琶子 女子
“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。
三枝 碧斗 男子
“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。
有馬 千早 女子
ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。
太田 美羽 30代後半女子
緋空事務所で働いている女性社員。
目黒 哲夫 30代後半男子
緋空事務所で働いている男性社員。
一条 佐助 男子
雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。
一条 智秋 25歳女子
雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。
神谷 絵美 30歳女子
神谷の妻、現在妊娠中。
神谷 七海 女子
神谷志郎と神谷絵美の娘。
天城 明日香 19歳女子
鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。
白石 嶺二 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。
三枝 響紀 16歳女子
波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。
永山 詩穂 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。
奥野 真彩 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。
双葉 篤志 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。
井沢 由香
波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。
伊桜 真緒 37歳女子
伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。
伊桜 陽芽乃 13歳女子
礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。
水木 由美 52歳女子
鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。
水木 優我 男子
鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。
鳴海とぶつかった観光客の男 男子
・・・?
少年S 17歳男子
・・・?
サン 女子
・・・?
ミツナ 19歳女子
・・・?
X 25歳女子
・・・?
Y 25歳男子
・・・?
ドクターS 19歳女子
・・・?
シュタイン 23歳男子
・・・?
伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物
リーヴェ 17歳?女子
奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。
メーア 19歳?男子
リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。
バウム 15歳?男子
お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。
盲目の少女 15歳?女子
バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。
トラオリア 12歳?少女
伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。
エルガラ 12歳?男子
伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。
滅びかけた世界
老人 男子
貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。
ナツ 女子
母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。
スズ 女子
ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
柊木 千春 15、6歳女子
元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。
Chapter7♯12 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
◯2005公園(日替わり/昼)
快晴
公園にいる鳴海と伊桜
鳴海と伊桜は公園でランニングをしている
公園には鳴海と伊桜以外に人はいない
公園の外には大きなトラックが止まっている
公園の外に止まっている大きなトラックの荷台の側面には”緋空海鮮市場”と書いてある
鳴海と伊桜はランニングをしながら話をしている
鳴海「(ランニングをしながら伊桜と話をして 声 モノローグ)伊桜さんとの謎のランニング修行が始まった。この人は無駄なことを嫌う割にはストイックだ。こうなれば俺も走るしかない」
◯2006配達先に向かう道中(昼過ぎ)
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックが配達先に向かっている
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックは一般道を走っている
鳴海は助手席に座っている
伊桜は運転席に座り、運転をしている
鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを持っている
鳴海「(声 モノローグ)身体を鍛えれば精神も強くなると昔見た映画で言っていた。(少し間を開けて)いや、違ったかもしれない。身体を鍛えても精神は強くならないだったか・・・?いずれにしても体力は多いに越したことはない」
◯2007”夜麦屋”前(昼過ぎ)
日本食の店”夜麦屋”の前にいる鳴海と伊桜
”夜麦屋”の近くには大きなトラックが止まっている
”夜麦屋”の近くに止まっている大きなトラックの荷台の側面には”緋空海鮮市場”と書いてある
大きなトラックは荷台の扉が開いており、中にはたくさんの発泡スチロールの冷凍箱と折り畳まれた台車が積まれている
鳴海と伊桜は大きなトラックの荷台に乗り込む
鳴海は荷台に積まれていた発泡スチロールの冷凍箱を蹴り飛ばし、伊桜に怒鳴られる
鳴海「(伊桜に怒鳴られながら 声 モノローグ)伊桜さんは俺の成長に繋がることや、学べることは率先して俺にやらせようとした」
鳴海は伊桜に頭を下げ、荷台から降りる
折り畳まれた台車を手に取る伊桜
伊桜は荷台から慎重に折り畳まれた台車を鳴海に差し出す
折り畳まれた台車を慎重に荷台の上の伊桜から受け取る鳴海
伊桜は台車の開く方法を荷台から鳴海に指示して教える
鳴海「(台車の開く方法を荷台の上の伊桜に教えてもらいながら 声 モノローグ)どんなことでも勉強のチャンスだ。学生時代にほぼ全く授業を聞いていなかった俺が、初めて自分から色々吸収しようと能動的に動いた」
鳴海は台車を開く
鳴海「(台車を開いて 声 モノローグ)学ぶために走るのも悪い気はしない」
伊桜は発泡スチロールの冷凍箱を一箱手に取る
発泡スチロールの冷凍箱を荷台から慎重に鳴海に差し出す伊桜
鳴海は発泡スチロールの冷凍箱を慎重に荷台の上の伊桜から受け取る
鳴海「(発泡スチロールの冷凍箱を慎重に荷台の上の伊桜から受け取って 声 モノローグ)走るのは菜摘と生きていくためだ」
鳴海は伊桜から受け取った発泡スチロールの冷凍箱を台車の上に乗せる
再び発泡スチロールの冷凍箱を一箱手に取り、荷台から慎重に鳴海に差し出す伊桜
鳴海は発泡スチロールの冷凍箱を慎重に荷台の上の伊桜から受け取る
伊桜から受け取った発泡スチロールの冷凍箱を台車の上に乗せる鳴海
鳴海「(伊桜から受け取った発泡スチロールの冷凍箱を台車の上に乗せて 声 モノローグ)母さんがどう言おうが、立派な大人とかいう生き物になれる機会をみすみす逃すわけにはいかない」
伊桜は発泡スチロールの冷凍箱を一箱手に取る
発泡スチロールの冷凍箱を荷台から慎重に鳴海に差し出す伊桜
鳴海「(発泡スチロールの冷凍箱を荷台の上の伊桜に慎重に差し出されて 声 モノローグ)今ならギリギリ失敗したって許される」
鳴海は発泡スチロールの冷凍箱を慎重に荷台の上の伊桜から受け取る
伊桜から受け取った発泡スチロールの冷凍箱を台車の上に乗せる鳴海
伊桜は再び発泡スチロールの冷凍箱を一箱手に取り、荷台から慎重に鳴海に差し出す
鳴海「(発泡スチロールの冷凍箱を荷台の上の伊桜に慎重に差し出されて 声 モノローグ)失敗してもそこから学んで成長すれば良いんだ」
鳴海は発泡スチロールの冷凍箱を慎重に荷台の上の伊桜から受け取る
伊桜から受け取った発泡スチロールの冷凍箱を台車の上に乗せる鳴海
伊桜は大きなトラックの荷台から降りる
慎重に発泡スチロールの冷凍箱が積まれた台車を押し始める鳴海
鳴海は慎重に発泡スチロールの冷凍箱が積まれた台車を押しながら、”夜麦屋”の中に入って行く
発泡スチロールの冷凍箱が積まれた台車を慎重に押している鳴海に合わせて、”夜麦屋”の中に入って行く伊桜
◯2008緋空事務所(夜)
緋空事務所の中にいる鳴海と伊桜
緋空事務所の中には来栖を含む数人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたりしている
緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある
緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある
緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある
緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある
伊桜は自分の席でパソコンに向かってタイピングをしている
伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている
伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある
来栖は自分の席でパソコンに向かってタイピングをしている
鳴海は緋空事務所の扉の横の棚の上に置いてあったタイムレコードにタイムカードをセットする
タイムレコードは鳴海のタイムカードに退勤時刻を記録する
タイムレコードからタイムカードを抜く鳴海
鳴海「(タイムレコードからタイムカードを抜いて 声 モノローグ)家では菜摘が俺の帰りを待っている」
緋空事務所の扉の横の棚の引き出しにタイムカードをしまう鳴海
鳴海は伊桜たちに頭を下げる
顔を上げて緋空事務所から出る鳴海
鳴海「(空事務所から出て 声 モノローグ)俺はあいつの元に帰らなければならない」
◯2009緋空浜/帰路(夜)
帰り道、緋空浜の浜辺を歩いている鳴海
月の光が波に反射し、キラキラと光っている
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690、◯2004のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849、◯1972のかつての緋空浜に比べると汚れている
緋空浜には鳴海以外にも、釣りやウォーキングをしている人、浜辺で遊んでいる学生などたくさんの人がいる
遠くの方で鳴海のことを見ている早季がいる
早季の周りには一匹のカラスアゲハが飛んでいる
早季の周りを飛んでいるカラスアゲハは左右の羽のサイズが違い、色も左右で少し違う
鳴海は早季に見られていることに気付いていない
早足で歩いている
鳴海「(早足で歩きながら 声 モノローグ)菜摘がいるところは俺の居場所だからだ」
◯2010貴志家リビング(夜)
リビングにいる鳴海と菜摘
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上にはご飯、アジの開き、鶏肉とタケノコの煮物、とろろが置いてある
夕飯を食べながら話をしている鳴海と菜摘
鳴海「(夕飯を食べながら菜摘と話をして 声 モノローグ)手が動かなくたって、足が使えなくたって、俺は菜摘のところに帰ると決めている」
鳴海と菜摘は楽しそうに笑っている
◯2011早乙女家に向かう道中(夜)
菜摘を家に送っている鳴海
鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている
鳴海と菜摘は話をしている
鳴海「次の週末、クラブに行ってみるか菜摘」
菜摘「土曜日は風夏さんと龍ちゃんがうちに来るから、日曜日なら良いよ」
鳴海「姉貴たちが・・・?」
菜摘「うん、お母さんとお父さんに挨拶だって」
鳴海「なるほどな。というかよく考えてみたら、俺たちも龍さんのご両親に挨拶するべきじゃないのか?」
菜摘「確かにそうだね、結婚式の時に会えるかな?」
鳴海「多分会えるだろ。(少し間を開けて)にしても結婚式ってやばいよな」
菜摘「やばい・・・?何が・・・?」
鳴海「結婚式なんて初めて参加する行事だぞ・・・しかも唯一の血縁者の結婚式だからな・・・」
菜摘「(少し笑って)緊張してるんだね、鳴海くん」
鳴海「何かやらかさないか心配だ・・・」
菜摘「余興とかしないの?」
鳴海「す、するわけないだろ・・・」
菜摘「(残念そうに)そっか・・・」
鳴海「よ、余興よりもクラブだぞ菜摘」
菜摘「う、うん」
鳴海「日曜日で良いんだな」
菜摘「オッケーだよ」
鳴海「よし・・・」
菜摘「な、鳴海くん」
鳴海「何だ?」
菜摘「お母さんとお父さんも誘っちゃダメ・・・?」
鳴海「ふ、二人を連れて行く気なのか?」
菜摘「うん・・・出来ればそうしたいんだ・・・お母さんとお父さんにクラブについて話を聞いたら、久しぶりに行きたいって言ってて・・・」
鳴海「べ、別に良いけどさ・・・(少し間を開けて)さ、最近俺たちはデートらしいデートを全然してなくないか・・・?」
少しの沈黙が流れる
菜摘「そうだね・・・ごめん・・・私がわがままばっかり言ってるせいで・・・」
鳴海「い、いや、菜摘を責めるつもりはないんだ、俺もこの前講習会に参加して休日を潰しちまったし・・・」
菜摘「で、でもそれは鳴海くんのお仕事だもん!!」
鳴海「仕事ではないけどな・・・」
菜摘「お、お仕事関係ではあったよ」
鳴海「それはそうだが・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「高校を卒業してから・・・予定も合わせ辛くなったよな・・・」
菜摘「うん・・・」
鳴海「(慌てて)で、でもその分朝と夜一緒に過ごしてるから良いか!!」
菜摘「結果的に・・・一緒にいられる時間は短くなっちゃってるけど・・・」
鳴海「そ、そんなに差はないさ・・・多分・・・」
菜摘「こういう時に鳴海くんが言うことは信用出来ないよ・・・」
鳴海「だ、だから多分って付け加えたんじゃないか」
菜摘「うん・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「ど、どうやったら時間をもっと作れるようになるんだろうな・・・」
菜摘「そうだね・・・」
鳴海「い、いっそのこと俺たちも姉貴と龍さんに習って結婚しちまうか!!」
菜摘「結婚・・・しちゃう・・・?」
鳴海「あっ・・・い、今のは・・・そ、その・・・」
菜摘「冗談・・・?」
鳴海「じょ、冗談よりのマジの発言だ」
菜摘「冗談よりなの・・・?」
鳴海「い、いや、マジよりのマジだな・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「し、仕事が落ち着いて来たら・・・せ、籍を入れよう菜摘」
菜摘は立ち止まる
菜摘に合わせて立ち止まる鳴海
菜摘「それは・・・冗談じゃない・・・?」
鳴海「ほ、本当だ、二人で市役所に突撃するぞ」
菜摘「う、うん」
鳴海「こ、婚姻届け、アレンジしまくるか・・・」
菜摘「あ、アレンジって何するの・・・?」
鳴海「し、シールを貼ったり・・・とか・・・」
菜摘「シールを貼るのは禁止だよ鳴海くん」
鳴海「えっ?そ、そうなのか?」
菜摘「うん、受理されないって書いてあったもん」
鳴海「詳しいんだな・・・」
菜摘「ま、前に役に立つかと思って調べたことがあるんだ」
鳴海「そ、そうなのか・・・」
菜摘「う、うん」
菜摘は歩き始める
菜摘に合わせて歩き始める鳴海
菜摘「け、結婚する時は・・・わ、私が婚姻届けの書き方を教えるね。鳴海くん、い、いっぱい間違えそうだから」
鳴海「そ、それは助かる、俺は重要な時に限ってやらかすからな・・・」
菜摘「二人で支え合っていけば大丈夫だよ」
鳴海「あ、ああ、は、反対に菜摘がやばいことをしそうになった時は俺が全力で止めるから安心してくれ」
菜摘「わ、私やばいことなんかしないと思う・・・」
鳴海「菜摘は時々予想の360度を上回るような行動をするじゃないか」
菜摘「そ、そうかな・・・でも360度って一周回って元に戻って来てない・・・?」
鳴海「ひゃ、180度でも360度でも大体同じだろ」
菜摘「全然違うよ鳴海くん」
鳴海「い、意味が伝わったんだから良いじゃないか」
菜摘「鳴海くんはニュアンスだけで物事を伝えようとすることがあまりにおお・・・」
菜摘は話を続ける
鳴海「(声 モノローグ)俺に言われたくないだろうが、菜摘は時々何を考えているのかよく分からない。意味不明とまではいかなくても、俺が予想出来ない言動も多かったりする。特に波高を卒業してからはそれが顕著だった」
◯2012早乙女家菜摘の自室(深夜)
綺麗な菜摘の部屋
菜摘の部屋にはベッド、低いテーブル、勉強机、パソコン、プリンターなどが置いてある
菜摘は机に向かって椅子に座っている
菜摘は入学式を迎えた波音高校の前で、鳴海の母、由夏理が制服姿で立って写っている写真と、公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真を見ている
入学式を迎えた波音高校の前で、鳴海の母、由夏理が制服姿で立って写っている写真と、公園らしき場所で5、6歳頃の鳴海と由夏理が手を繋ぎながら写っている写真は、滅びかけた世界の老人が持っている写真と完全に同じ物
菜摘が見ている2枚の写真はChapter6◯605で鳴海の家から菜摘が盗んだ物
鳴海「(声 モノローグ)元々簡単には意志を曲げようとしないのが菜摘だが、だからと言って感情任せになったりもしない。菜摘は落ち着いて、真っ直ぐ自分の道を貫き通そうとする」
◯2013貴志家リビング(日替わり/朝)
外は曇っている
リビングにいる鳴海と菜摘
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上にはご飯、焼き鮭、味噌汁、納豆が置いてある
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
朝食を食べながら話をしている鳴海と菜摘
鳴海「(朝食を食べながら菜摘と話をして 声 モノローグ)だが最近は少し違った」
◯2014緋空事務所に向かう道中/早乙女家に向かう道中(朝)
空は曇っている
緋空浜にある緋空事務所に向かっている鳴海
菜摘は家に帰っている
鳴海と菜摘は途中まで一緒に行っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
登校中の波音高校のたくさんの生徒たちとすれ違っている鳴海と菜摘
鳴海と菜摘は楽しそうに話をしている
鳴海「(菜摘と楽しそうに話をしながら 声 モノローグ)怒ったり・・・落ち込んだり・・・悲しんだり・・・泣いたり・・・喜ぶ時もそうだろうか・・・何だか今まで以上に感情が分かりやすく出る瞬間もあれば、何を考えているのかさっぱり読めない時もある。おまけに日中にどう過ごしているのかも謎のままだ」
◯2015緋空海鮮市場(朝)
外は曇っている
緋空海鮮市場にいる鳴海、龍造、伊桜
緋空海鮮市場の中は広く、左右至る所でたくさんの魚介類が売られている問屋がある
仕入れに来たたくさんの人たちが緋空海鮮市場の問屋で売られている魚介類を見ている
鳴海と伊桜は”緋赤水産”という問屋の前で漁業用の作業服を着た龍造と話をしている
”緋赤水産”ではたくさんの魚介類が卸売りされている
鳴海「(龍造たちと話をしながら 声 モノローグ)しかし今の俺に、四六時中菜摘のことを考えている暇はなかった。覚えなくてはいけない仕事内容も、仕事量も、増え続けていたからだ」
◯2016緋空海鮮市場の駐車場(朝)
空は曇っている
広く大きな緋空海鮮市場の駐車場にいる鳴海、龍造、伊桜
龍造は漁業用の作業服を着ている
緋空海鮮市場の駐車場にはたくさんの車が止まっている
鳴海たちの近くには大きなトラックが止まっている
鳴海たちの近くに止まっている大きなトラックの荷台の側面には”緋空海鮮市場”と書いてある
大きなトラックは荷台の扉が開いており、中にはたくさんの発泡スチロールの冷凍箱が積まれている
鳴海たちの近くには台車が二台あり、二台とも発泡スチロールの冷凍箱が乗せてある
台車の上の発泡スチロールの冷凍箱を手に取り、大きなトラックの荷台に積んでいる鳴海たち
鳴海「(発泡スチロールの冷凍箱を大きなトラックの荷台に積んで 声 モノローグ)どの店にどの魚を運ぶか、どの魚を優先的に運ぶべきなのか、どの道を使って配達するのが時短になるのか」
鳴海は台車の上の発泡スチロールの冷凍箱を一箱手に取る
発泡スチロールの冷凍箱を大きなトラックの荷台に積む鳴海
鳴海「(発泡スチロールの冷凍箱を大きなトラックの荷台に積んで 声 モノローグ)覚えることは毎日たくさんある」
伊桜は大きなトラックの荷台に乗り込む
台車の上の発泡スチロールの冷凍箱を一箱手に取る龍造
龍造は慎重に大きなトラックの荷台の中にいる伊桜に差し出す
大きなトラックの荷台の中から慎重に発泡スチロールの冷凍箱を龍造から受け取る伊桜
伊桜は大きなトラックの荷台の中で発泡スチロールの冷凍箱を奥に積む
台車の上の発泡スチロールの冷凍箱を一箱手に取る鳴海
鳴海「(台車の上の発泡スチロールの冷凍箱を一箱手に取って 声 モノローグ)中途半端にやっても伊桜さんに叱られると分かっていた」
鳴海は慎重に大きなトラックの荷台の中にいる伊桜に差し出す
大きなトラックの荷台の中から慎重に発泡スチロールの冷凍箱を鳴海から受け取る伊桜
伊桜は大きなトラックの荷台の中で発泡スチロールの冷凍箱を奥に積む
鳴海「(声 モノローグ)手は抜けない。俺が楽をすれば、龍さんや緋空事務所と関係のある人たちに迷惑がかかってしまう。(少し間を開けて)伊桜さんは波音町の人々の生活が、たくさんの小さな仕事によって支えられていることを強く俺に説いた」
◯2017配達先に向かう道中(朝)
外は曇っている
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックが配達先に向かっている
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックは一般道を走っている
鳴海は助手席に座っている
伊桜は運転席に座り、運転をしている
鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードと、手書きの地図を持っている
手書きの地図を見ている鳴海
鳴海「(手書きの地図を見ながら 声 モノローグ)仕事の中でも配達先の順路を覚えるのが大変だ。生まてから今までずっと波音町で暮らしていたとは言え、日常的に車に乗らない上にバイクの免許を持ってるだけのペーパードライバーな俺にとって、一度や二度通っても道は覚えられなかった。しかもスマホの地図アプリは常に最速最短のルートを示してくれるというわけでもない。古くからある路地裏の飲食店に辿り着くためには、手書きの地図を参考にした方が良いと初めて分かった」
◯2018大型車専用の駐車場(昼前)
外は曇っている
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックが大型車専用の駐車場に止まっている
大型車専用の駐車場は広く、鳴海と伊桜が乗っている大きなトラック以外にも数台のトラックが止まっている
鳴海は助手席に座っている
伊桜は運転席で両目を瞑っている
菜摘の手作り弁当を食べている鳴海
菜摘の手作り弁当のメニューはのり弁、白身魚のフライ、ちくわの天ぷら、きんぴらごぼう
鳴海「(菜摘の手作り弁当を食べながら 声 モノローグ)昼飯は出先で済ませる。公園のベンチで食べられるならまだ良い方だ、時には狭いトラックの中で急いで菜摘の弁当を食べなきゃいけなかった。出来るだけ味わおうとする俺に対して、伊桜さんは飯に時間をかけない。奥さんが作ったと思われるおにぎりを毎日昼に素早く2個食べるだけだ。走ったり、重い物を運んだりするのに、補充されるエネルギーがおにぎりだけじゃ少な過ぎるだろといつも思っているが、心の中でツッコミを入れるのに留めている。(少し間を開けて)伊桜さんは不思議な人で、休憩中にスマホを見ることも、本を読むことも、音楽を聴くこともしない、ほとんどは黙って過ごしていた」
鳴海は菜摘の手作り弁当を食べながら両目を瞑っている伊桜のことを見る
鳴海「(菜摘の手作り弁当を食べながら両目を瞑っている伊桜のことを見て 声 モノローグ)というかこの人、現代機器や娯楽商品を何も持っていないのか・・・?」
伊桜「(両目を瞑ったまま)こっちを見るな、気が散るだろ」
鳴海「(両目を瞑っている伊桜のことを見たまま)ね、眠ってるんじゃないんすね・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海は両目を瞑っている伊桜のことを見るのをやめる
鳴海「(両目を瞑っている伊桜のことを見るのをやめて)き、気が散るって・・・伊桜さん今何かしてるんすか・・・?」
伊桜「(両目を瞑ったまま)瞑想をしてる」
鳴海「お、俺には何もしてないように見えるんですけど・・・」
伊桜「(両目を瞑ったまま)お前にはだろ」
再び沈黙が流れる
鳴海はのり弁を一口食べる
鳴海「(のり弁を一口食べて 声 モノローグ)この人に娘がいるのが不思議だ。一体家庭ではどんな顔をしているのか・・・親父だって、俺や母さんにはあんなふうに接していたが、仕事先ではどういう態度を取っていたのか分からない。もしかしたら、親父は職場と家庭で見せる顔が同じだったんじゃないか。だから親父は俺たち家族に厳しく当たっていたんじゃないか」
◯2019大型車専用の駐車場の周囲(昼)
空は曇っている
大型車専用の駐車場の周囲をランニングしている鳴海と伊桜
大型車専用の駐車場は広く、鳴海と伊桜が乗っていた大きなトラックが止まっている
鳴海たちが乗っていた大きなトラックの荷台の側面には”緋空海鮮市場”と書いてある
鳴海「(ランニングをしながら 声 モノローグ)ふと、文芸部で活動をしていた頃を思い出した。あの時は俺も、親父のように周囲の人間を自分の思い通りに動かせずにイライラしていたんじゃないのか・・・?(少し間を開けて)違う・・・それは違う、俺は協調性のある人間だ、じゃなきゃ仕事なんて出来ない」
伊桜「(ランニングをしながら)昨日より足が上がってないぞ」
鳴海「(ランニングをしながら)は、はい!!」
◯2020”法咲定食屋”(昼過ぎ)
外は曇っている
“法咲定食屋”のキッチンにいる鳴海、伊桜、法咲定食屋の料理長
“法咲定食屋”は広く、数人の客が定食を食べている
“法咲定食屋”のキッチンには発泡スチロールの冷凍箱が四箱置いてある
四箱の発泡スチロールの冷凍箱の中には冷凍されたアジ、シラス、鯛、ワカサギが入っている
納品書を持っている法咲定食屋の料理長
法咲定食屋の料理長は四箱の発泡スチロールの冷凍箱の中身と納品書を確認しながら見ている
鳴海「(声 モノローグ)昼飯を取り、ランニングを終えた後俺たちは再び配達の仕事へ戻った。品番や配達量のミスがないか確認するのも大事なため、かなりの神経を使う。万が一ミスがあれば、俺たちは各所に頭を下げて緋空事務所と結んでいる契約を破棄しないでくれと頼むことになるのだ」
◯2021配達先に向かう道中(夕方)
外は曇っている
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックが配達先に向かっている
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックは一般道を走っている
鳴海は助手席に座っている
伊桜は運転席に座り、運転をしている
鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードと、手書きの地図を持っている
伊桜と話をしている鳴海
鳴海「(伊桜と話をしながら 声 モノローグ)配達にしても、掃除にしても、こういう小さい仕事が波音町の人々の暮らしを陰で支えてきたと理解出来るようになり、身が引き締まる思いをした」
鳴海は伊桜と話をしながら外を眺める
外ではみすぼらしい格好をした年寄りの男がゴミ箱から空き缶を回収し、ゴミ袋に空き缶を入れている
伊桜と話をしながら外でみすぼらしい格好をした年寄りの男がゴミ箱から空き缶を回収し、ゴミ袋に空き缶を入れているのを見る鳴海
鳴海「(伊桜と話をしながら外でみすぼらしい格好をした年寄りの男がゴミ箱から空き缶を回収し、ゴミ袋に空き缶を入れているのを見て 声 モノローグ)仕事を始めてから色んな人の人生が少しずつ見えるようになった。町ですれ違う年寄り、小さな子供を連れた若い母親と父親、工事現場で一休みしている男たち、コンビニの野菜ジュースを飲みながらカロリーを気にしている会社員たちにも平等に人生がある、彼らは汗水流して、人生からリタイアしないように懸命に生きている。俺はそういう人たちの仲間入りをしたんだ」
◯2022帰路(夜)
空は雲っている
一人ゆっくり自宅に向かっている鳴海
鳴海は両手にスーパーの袋を持っている
鳴海が持っている両手のスーパーの袋にはたくさんの食材が入っている
たくさんの仕事帰りのサラリーマンやOLとすれ違っている鳴海
鳴海「(声 モノローグ)日が沈み仲間たちの疲れ果てた姿を見る頃には、俺も同じように疲れていた。(少し間を開けて)家に帰るのも大変なんだな・・・急がないと・・・菜摘が俺のことを待っているんだ・・・」
◯2023貴志家リビング(夜)
空は雲っている
リビングにいる鳴海と菜摘
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上にはカツ丼、サラダ、味噌汁が置いてある
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
夕飯を食べながら話をしている菜摘
鳴海はボーッとしている
菜摘「そしたらお母さんが高校生だった頃を教えてくれたんだ。お母さんたち、昔は夜遅くまで遊んでたんだよ。ボウリングとか・・・クラブとか・・・映画の撮影をしてたせいだって言ってたけど・・・やっぱり高校生は夕方の5時くらいまでに帰るべきだよね・・・?」
少しの沈黙が流れる
鳴海は変わらずボーッとしている
菜摘「鳴海くん・・・?起きてる・・・?」
鳴海「えっ・・・?」
菜摘「目を開けたまま寝てるみたいだよ、鳴海くん」
鳴海「な、何を言ってるんだ、目を開けたまま寝れるわけないだろ」
菜摘「でもちょっとだけ白目を剥いてたし・・・」
鳴海「し、白目?そ、それは本当か?」
菜摘「ううん」
再び沈黙が流れる
鳴海「流れるように嘘をついたな・・・」
菜摘「し、信じるかと思ったんだもん」
鳴海「し、信じるわけないだろ」
菜摘「えー・・・でも鳴海くん、ちょっとだけ信じてなかった・・・?」
鳴海「ちょ、ちょっとだけだぞ、本当にちょっとだけだからな・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「な、菜摘、病院の検査結果はまだ出てないんだよな」
菜摘「この間先生が大丈夫だって言ってたよ」
鳴海「け、検査結果が出たのか?」
菜摘「け、結果は・・・まだだけど・・・」
鳴海「じゃあ何が大丈夫なんだ?医者が問題ないって言ったのか?」
再び沈黙が流れる
菜摘「い、いつもの検査だもん、食生活や睡眠時間も変わってないから心配いらないよ」
鳴海「で、でもまだ安心は出来ないだろ・・・」
菜摘「あんまり鳴海くんが心配すると、かえって体に負荷がかかっちゃうかも・・・」
鳴海「な、何でだよ」
菜摘「心配し過ぎは体に悪いってよく聞くし・・・」
鳴海「仮にそうであっても心配はするだろ・・・」
菜摘「私も鳴海くんのことが心配なんだよ、お仕事で無理してないかなって」
鳴海「俺はめちゃくちゃ元気じゃないか」
菜摘「そうかな・・・?さっきも私の話を聞かずに目を開けながら寝ていたけど・・・」
鳴海「ね、寝てないって言ってるだろ」
菜摘「でもボーッとしてたよ」
鳴海「俺は定期メンテナスを兼ねてボーッとしてたんだ」
菜摘「私も定期メンテナスで病院に行ってるから鳴海くんと同じだね」
鳴海「ぜ、全然違うだろ!!」
菜摘「一緒だもん」
鳴海「どこが一緒なんだよ・・・」
菜摘「あっ!!私分かっちゃった!!」
鳴海「な、何が分かったんだ?」
菜摘「私と鳴海くんとは一緒にいる時間が長いからお互いにだんだん似てきたんだよ!!性格とか!!ボケ方とか!!ツッコミ方とか!!」
鳴海はカツ丼を一口を食べる
鳴海「(カツ丼を一口食べて)同じ飯を食って余計に似てきたんじゃないか」
菜摘「そういうことなのかな?」
鳴海「そういうことだろ。後はあれだ、菜摘のギャグセンスが俺の影響を受けて・・・」
鳴海は話を続ける
鳴海「(菜摘と話をしながら 声 モノローグ)家に帰ると菜摘の話に出来るだけ耳を傾けようとした。菜摘は気を使って、俺が飽きないように話をしてくれている。本当は俺が菜摘を助ける立場なのに、俺は菜摘に助けられてばかりだ」
◯2024早乙女家に向かう道中(夜)
空は雲っている
菜摘を家に送っている鳴海
鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
話をしている鳴海と菜摘
菜摘「鳴海くん」
鳴海「ああ」
菜摘「鳴海くん」
鳴海「何だ?」
菜摘「ううん」
鳴海「何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
菜摘「そうじゃないよ、ただ鳴海くんの名前を呼びたかったんだ」
鳴海「(少し笑って)名前を呼んでも良いことはないぞ」
菜摘「鳴海くんが返事をしてくれるんだから良いことしかないもん」
鳴海「そりゃ呼ばれたら返事はするだろ・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くんも、私のことを名前で呼んじゃっても良いんだよ」
鳴海「呼んでくれって言ってるのか」
菜摘「う、うん。今日ね、テレビで見たんだ、カップルで意味も無く名前を呼び合うって」
鳴海「世の中には変なカップルもいるんだな・・・」
菜摘「へ、変じゃないよ」
鳴海「そうか?」
菜摘「す、素敵だと思うもん」
鳴海「でも意味も無く名前を呼び合ってるんだろ」
菜摘「う、うん・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「菜摘」
菜摘「何・・・?」
鳴海「(少し笑って)呼んだだけだ」
菜摘「そ、そっか」
鳴海「(少し笑いながら)名前を呼んで、相手が返事をしてくれるっていうのも案外悪くないかもな」
菜摘「そ、そうだよね!!居心地良いもんね!!」
◯2025回想/日光国立公園/竜頭の滝前(約十数年前/昼過ぎ)
◯1838、◯1987と同日
◯1987の続き
弱い雨が降っている
紅葉が綺麗な日光国立公園の中にいる6歳頃の鳴海、30歳頃の由夏理、同じく30歳頃の紘、10歳頃の風夏
紅葉が綺麗な日光国立公園の中には鳴海たち以外に観光客はいない
日光国立公園は自然が多く、たくさんの大きな木々が育っている
日光国立公園の中には竜頭の滝がある
竜頭の滝は滝が二つに別れており、どちらも強い勢いで水が流れている
6歳頃の鳴海、由夏理、紘、10歳頃の風夏は傘をさしながら竜頭の滝を離れたところから見ている
竜頭の滝を離れたところから見ながら話をしている由夏理と10歳頃の風夏
風夏「(竜頭の滝を離れたところから見ながら)晴れてる日に来た方が良かったよ・・・ママ・・・」
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見ながら)ママもそう思うけど・・・今日しか来れる日がなかったからさ・・・(少し間を開けて)でも見れて良かったじゃん・・・?絶景なんだよ、こういうのって滅多にお目にかかれないんだし・・・」
少しの沈黙が流れる
紘は竜頭の滝を離れたところから見るのをやめる
紘「(竜頭の滝を離れたところから見るのをやめて)車に戻ろう、行くぞ風夏、鳴海」
10歳頃の風夏は竜頭の滝を離れたところから見るのをやめる
風夏「(竜頭の滝を離れたところから見るのをやめて)うん」
紘と10歳頃の風夏は竜頭の滝を見ている由夏理と6歳頃の鳴海から少し離れる
紘「(竜頭の滝を見ている由夏理と6歳頃の鳴海から少し離れて)鳴海も来るんだ」
鳴海「(竜頭の滝を離れたところから見ながら首を横に振って)もうちょっと見てたい」
紘「体が冷えるぞ」
鳴海「(竜頭の滝を離れたところから見ながら)大丈夫」
再び沈黙が流れる
風夏「行こう?パパ」
紘「ああ」
紘と10歳頃の風夏は歩き始める
風夏「この滝の名前、龍から来てるんだって。枝分かれしたところが龍の顔に見えるってさっき書いてあった」
紘「そうか」
風夏「パパは龍っていると思う?」
紘「そういう存在は、全部人が考えたデタラメに過ぎないんだ風夏」
風夏「じゃあ龍はいないの?」
紘「いないだろうな」
紘と10歳頃の風夏は話をしながら6歳頃の鳴海と由夏理から離れて行く
少しの沈黙が流れる
6歳頃の鳴海と由夏理は変わらず竜頭の滝を離れたところから見ている
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見ながら)でっかい滝だね〜」
鳴海「(竜頭の滝を離れたところから見ながら)うん、でっかい」
再び沈黙が流れる
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見ながら)ママたちとする旅行、鳴海は楽しい?」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見ながら)ご、ごめんごめん・・・ま、ママ、変なことを聞いちゃったよね」
鳴海「(竜頭の滝を離れたところから見ながら)楽しいよ、旅行」
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見ながら)ほ、本当?」
鳴海「(竜頭の滝を離れたところから見ながら)うん・・・旅行・・・初めてだから・・・(少し間を開けて)ママは楽しくないの・・・?」
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見ながら)も、もちろん楽しいけどさ・・・」
再び沈黙が流れる
6歳頃の鳴海は竜頭の滝を離れたところから見るのをやめる
由夏理のことを見る6歳頃の鳴海
鳴海「(由夏理のことを見て)ママ・・・?」
由夏理は竜頭の滝を離れたところから見ながら泣いている
鳴海「(泣いている由夏理のことを見たまま)どーして泣いてるの・・・?」
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見て泣きながら)前に・・・ママのお友達が言ってたんだ・・・涙が止まらなかったら・・・夢の中で名前を3回唱えてって・・・そしたら奇跡が起きるからってさ・・・」
鳴海「(泣いている由夏理のことを見たまま)名前を・・・3回・・・」
由夏理は竜頭の滝を離れたところから見ながら手で涙を拭う
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見ながら手で涙を拭い少し笑って)な、泣き虫なママでごめんね鳴海」
鳴海「(由夏理のことを見たまま)ううん」
少しの沈黙が流れる
6歳頃の鳴海は由夏理のことを見るのをやめるう
再び離れたところから竜頭の滝を見る6歳頃の鳴海
鳴海「(竜頭の滝を離れたところから見て小さな声で)ママ・・・ママ・・・ママ・・・」
由夏理は竜頭の滝を離れたところから見るのをやめて6歳頃の鳴海のことを見る
由夏理「(6歳頃の鳴海のことを見て)ん・・・?何か言った?鳴海」
鳴海「(竜頭の滝を離れたところから見ながら)起きたかな・・・変わったかな・・・?」
由夏理「(6歳頃の鳴海のことを見たまま)変わったって?」
再び沈黙が流れる
鳴海「(竜頭の滝を離れたところから見ながら小さな声で)夢じゃないから・・・起きなかったんだ・・・奇跡・・・」
6歳頃の鳴海は竜頭の滝を離れたところから見るのをやめる
俯く6歳頃の鳴海
由夏理「(俯いている6歳頃の鳴海のことを見たまま)し、下を向かないでママと滝を見ようよ鳴海、ね?」
少しの沈黙が流れる
雲の隙間から太陽が出て来る
雲の隙間から出て来た太陽の光が竜頭の滝を照らし始める
日光国立公園では変わらず弱い雨が降り続けている
由夏理は6歳頃の鳴海のことを見るのをやめる
再び離れたところから竜頭の滝を見る由夏理
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見て)あっ!見て見て鳴海!」
竜頭の滝には虹が出来ている
由夏理は竜頭の滝を離れたところから見ながら竜頭の滝に出来た虹を指差す
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見ながら竜頭の滝に出来た虹を指差して)虹が出てるよ!」
6歳頃の鳴海は顔を上げる
離れたところから竜頭の滝を見る6歳頃の鳴海
鳴海「(竜頭の滝を離れたところから見て)どこ・・・?」
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見て竜頭の滝に出来た虹を指差しながら)ほら!!あそこにあるって!!」
鳴海「(竜頭の滝を離れたところから見ながら)分かんないよ・・・」
由夏理は竜頭の滝を離れたところから見ながら竜頭の滝に出来た虹を指差すのをやめる
竜頭の滝を離れたところから見ながら傘を閉じる由夏理
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見ながら傘を閉じて少し笑って)よし、じゃあこうしよっか」
由夏理は竜頭の滝を離れたところから見ながら6歳頃の鳴海を抱っこして持ち上げる
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見ながら6歳頃の鳴海を抱っこして持ち上げて少し笑って)これなら見えるようになった?滝の近くの虹」
6歳頃の鳴海は由夏理に抱っこされて持ち上げられながら離れたところにある竜頭の滝を見るが、6歳頃の鳴海には竜頭の滝に出来ている虹がどこにあるのか分かっていない
鳴海「(由夏理に抱っこされ持ち上げられて離れたところから竜頭の滝を見ながら)見えないよ」
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見て6歳頃の鳴海を抱っこし持ち上げながら少し笑って)ちーがーうー、虹があるのはもっと滝の横だよー。鳴海が見てるところからさ、もうちょっと右の方。分かった・・・?」
6歳頃の鳴海は由夏理に抱っこされて持ち上げられながら、離れたところにある竜頭の滝に出来た虹を見つける
鳴海「(由夏理に抱っこされて持ち上げられながら、離れたところにある竜頭の滝に出来た虹を見つけて)あ、うん!見えた!」
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見て6歳頃の鳴海を抱っこし持ち上げながら少し笑って)よーし。これで鳴海とママだけの秘密の思い出がまた一つ増えたぞー」
鳴海「(由夏理に抱っこされて持ち上げられながら、離れたところにある竜頭の滝に出来た虹を見て)お姉ちゃんたちにも秘密なの?」
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見て6歳頃の鳴海を抱っこし持ち上げながら少し笑って)もちろんパパとお姉ちゃんにも秘密。きっとママたちだけが虹を見たって知ったら二人は怒ると思うからさ」
鳴海「(由夏理に抱っこされて持ち上げられながら、離れたところから竜頭の滝に出来た虹を見て)分かった」
由夏理「(竜頭の滝を離れたところから見て6歳頃の鳴海を抱っこし持ち上げながら)ん、鳴海は良い子だ」
由夏理は竜頭の滝を離れたところから見て6歳頃の鳴海を抱っこし持ち上げながら、6歳頃の鳴海の頬にキスをする
◯2026回想戻り/早乙女家に向かう道中(夜)
空は雲っている
菜摘を家に送っている鳴海
鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海「名前は呼ばれるだけでも・・・嬉しいからな・・・」
菜摘「うん、好きな人に呼ばれるのは嬉しいし、呼ぶのも嬉しいよ」
鳴海は黙って和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っていない方の手で菜摘の手を取る
手を繋いで鳴海と菜摘
鳴海「(菜摘と手を繋いで 声 モノローグ)あの旅行はどこを目指していたんだろう・・・(少し間を開けて)確か、途中から車で移動するのをやめたんだ・・・」
◯2027回想/電車内(約十数年前/夜)
◯1838、◯1987、◯2025と同日
◯2025の続き
古いローカル線の電車に乗っている6歳頃の鳴海、30歳頃の由夏理、同じく30歳頃の紘、10歳頃の風夏
鳴海たちが乗っている古いローカル線の電車は鳴海たち以外に誰もいない
鳴海たちが乗っている古いローカル線の電車は向かい合わせのボックス席しか座席がない
6歳頃の鳴海と由夏理は紘、10歳頃の風夏と向かい合ってボックス席に座っている
10歳頃の風夏は紘にもたれながら眠っている
鳴海たちが乗っている古いローカル線の電車は山の中を走っている
大きなあくびをする由夏理
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられながら)少し眠った方が良い」
由夏理「ん・・・」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられながら)疲れが溜まるぞ」
由夏理「紘・・・着いたら起こしくれるよね・・・?」
紘「(10歳頃の風夏にもたれられながら)ああ」
由夏理は両目を瞑る
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられながら)鳴海も寝るんだ」
鳴海「寝れないよ」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられながら)腹が減っているのか?」
鳴海「うん・・・少し・・・」
少しの沈黙が流れる
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられながら)仕方ないな・・・」
紘は眠っている10歳頃の風夏にもたれながら、ポケットからくしゃくしゃになったタバコの箱、ZIPPOライター、飴を3つ取り出す
眠っている10歳頃の風夏にもたれながら、ポケットから取り出した3つの飴を6歳頃の鳴海に差し出す紘
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれながら、ポケットから取り出した3つの飴を鳴海に差し出して)好きなのを食べて良い、ただし母さんと風夏には言うなよ。こんな時間にお菓子を食べさせたと知られたらまた喧嘩になるからな」
6歳頃の鳴海は3つの飴を紘に差し出されたまま考え込む
再び沈黙が流れる
6歳頃の鳴海は3つの飴を紘に差し出されたまま、紘が持っているくしゃくしゃになったタバコの箱を指差す
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられ、ポケットから取り出した3つの飴を鳴海に差し出したまま)タバコは大人になってから吸え」
6歳頃の鳴海は3つの飴を紘に差し出されたまま、紘が持っているくしゃくしゃになったタバコの箱を指差すのをやめる
鳴海「(3つの飴を紘に差し出されたまま、紘が持っているくしゃくしゃになったタバコの箱を指差すのをやめて)分かった」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられ、ポケットから取り出した3つの飴を鳴海に差し出したまま)本当に分かっているのか?タバコは肺が腐って病気になるかもしれないんだぞ」
鳴海「(3つの飴を紘に差し出されたまま)病気になるかもしれないのにどーしてパパは吸ってるの?」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられ、ポケットから取り出した3つの飴を鳴海に差し出したまま)これでも止めようとしているんだ。この飴はそのための物なんだぞ」
鳴海「(3つの飴を紘に差し出されたまま)飴がタバコの代わり?」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられ、ポケットから取り出した3つの飴を鳴海に差し出したまま)そうだ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(3つの飴を紘に差し出されたまま)飴・・・全部食べて良い・・・?」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられ、ポケットから取り出した3つの飴を鳴海に差し出したまま)良いわけないだろう鳴海、父さんの話をちゃんと聞いていたか?この飴はタバコを止めるための大事な道具なんだぞ」
鳴海「でもパパはまだタバコを吸ってるよ」
再び沈黙が流れる
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられ、ポケットから取り出した3つの飴を鳴海に差し出したまま)もう良い・・・とにかく1つ選べ」
鳴海「うん・・・」
6歳頃の鳴海は紘から飴を1つ受け取る
袋から飴を取り出し、口の中に入れる6歳頃の鳴海
紘は眠っている10歳頃の風夏にもたれられながら、くしゃくしゃになったタバコの箱、ZIPPOライター、2つの飴をポケットの中にしまう
鳴海「(飴を舐めながら)パパ」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられながら)何だ」
鳴海「(飴を舐めながら)この飴、苦いよ」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられながら)それはコーヒー味だからだろう」
鳴海「(飴を舐めながら)美味しくない」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられながら)わがままを言うな・・・(少し間を開けて)お前も、母さんも、好き勝手し過ぎだぞ」
鳴海「(飴を舐めながら)ごめんなさい」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられながら)飴のこと、風夏と母さんには言うなよ」
鳴海「(飴を舐めながら)うん。飴はパパとの旅行の思い出にする」
少しの沈黙が流れる
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられながら)舐めながら寝るんじゃないぞ、鳴海」
6歳頃の鳴海は飴を舐めながら頷く
眠っている10歳頃の風夏にもたれられながら窓際に肘をつき、外を眺める紘
少しすると鳴海たちが乗っている古いローカル線の電車がトンネルの中に入る
鳴海たちが乗っている古いローカル線の電車はトンネルに入った瞬間、電車内の照明が全て消え、真っ暗になる
古いローカル線の電車の照明が全て消えたせいで6歳頃の鳴海は何も見えなくなっている
鳴海「(飴を舐めながら)真っ暗だよ・・・」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられて窓際に肘をつき、外を眺めながら)そうだな」
鳴海「(飴を舐めながら)ママ・・・起きてママ・・・」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられて窓際に肘をつき、外を眺めながら)母さんは疲れているんだ、寝かせてやれ」
鳴海「(飴を舐めながら)でも・・・」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられて窓際に肘をつき、外を眺めながら)寝不足だと明日の母さんの機嫌が悪くなるぞ」
鳴海「(飴を舐めながら)きげんって何・・・?」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられて窓際に肘をつき、外を眺めながら)機嫌が悪くなったら母さんは泣くんだ、それでも鳴海は良いのか」
鳴海「(飴を舐めながら)ううん・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海たちが乗っている古いローカル線の電車は変わらずトンネルの中を走っている
鳴海「(飴を舐めながら)パパ・・・」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられて窓際に肘をつき、外を眺めながら)今度は何だ」
鳴海「(飴を舐めながら)いつ電気つくの・・・?」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられて窓際に肘をつき、外を眺めながら)さあな・・・古い電車だからトンネルを出るまでは消えたままだろう」
鳴海「(飴を舐めながら)パパでも・・・電気はつけられない・・・?」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられて窓際に肘をつき、外を眺めながら)ああ」
少しの沈黙が流れる
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられて窓際に肘をつき、外を眺めながら)暗いのが怖いのか、鳴海」
鳴海「(飴を舐めながら)うん・・・」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられて窓際に肘をつき、外を眺めながら)暗いのの何が怖いんだ」
鳴海「(飴を舐めながら)見えないところ・・・」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられて窓際に肘をつき、外を眺めながら)臆病だな、そんな性格じゃ馬鹿にされるぞ」
再び沈黙が流れる
鳴海「(飴を舐めながら)パパは怖くないの・・・?」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられて窓際に肘をつき、外を眺めながら)怖いわけないだろう。(少し間を開けて)良いか、お前も男なんだ、だったらたとえ怖くても風夏と母さんのことを守れるような強い男になれ。父さんが死ねば家族で男は鳴海だけだぞ、分かるな、だからお前は強くならなきゃいけないんだ」
鳴海「(飴を舐めながら)でも怖いよ・・・」
紘は眠っている10歳頃の風夏にもたれられて窓際に肘をついたまま、外を眺めるのをやめる
眠っている10歳頃の風夏にもたれられながら窓際に肘をつくのをやめてポケットからZIPPOライターを取り出す紘
紘は眠っている10歳頃の風夏にもたれられながらZIPPOライターの火を付ける紘
紘のZIPPOのライターの火で鳴海たちが乗っている古いローカル線の電車の中が少しだけ明るくなる
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられてZIPPOライターの火を付けながら)これでも怖いか?」
鳴海「(飴を舐めながら)ううん」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられてZIPPOライターの火を付けながら)どうして怖くないんだ?まだ暗いだろう」
鳴海「(飴を舐めながら)明かりがついてるから怖くない」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられてZIPPOライターの火を付けながら)なら暗闇でも大丈夫なように明かりを見つけろ」
鳴海「(飴を舐めながら)ライターをくれるの?」
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられてZIPPOライターの火を付けながら)明かりになる物を鳴海が見つけるんだ、物じゃなくても良い、人や場所、何でも良いから手に入れろ。それがあれば暗くても大丈夫だと思えるようなものを」
6歳頃の鳴海は飴を舐めながら隣で眠っている由夏理のことを見る
鳴海たちが乗っている古いローカル線の電車がトンネルを抜ける
鳴海たちが乗っている古いローカル線の電車はトンネルを抜けた瞬間、電車内の電気が全てつき、元の明るさに戻る
紘は眠っている10歳頃の風夏にもたれられてZIPPOライターの火を付けながら、6歳頃の鳴海が眠っている由夏理を見ていることに気付く
再び沈黙が流れる
紘「(眠っている10歳頃の風夏にもたれられてZIPPOライターの火を付けながら)良いぞ、母さんと風夏のことを守ってやれ。家族を守るのが男の仕事だ」
紘は眠っている10歳頃の風夏にもたれられながらZIPPOライターの火を消す
◯2028回想戻り/貴志家鳴海の自室(深夜)
外は弱い雨が降っている
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
ベッドの上で横になっている鳴海
カーテンの隙間から雲に隠れた月の光が差し込んでいる
鳴海「ああ、分かってるよ父さん、菜摘は俺が守らなきゃいけない」
◯2029緋空浜/”Ecarlate Club”前(日替わり/昼前)
晴れている
緋空浜の浜辺にある廃屋と化した”Ecarlate Club”の前にいる鳴海、菜摘、すみれ、潤
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
浜辺にはペットボトルやお菓子の袋のゴミが落ちており、◯1690、◯2004のキツネ様の奇跡、◯1786、◯1787、◯1791、◯1849、◯1972のかつての緋空浜に比べると汚れている
緋空浜には鳴海たち以外にも、釣りやウォーキングをしている人、浜辺で遊んでいる学生などたくさんの人がいる
太陽の光が緋空浜の波に反射し、キラキラと光っている
廃屋と化した”Ecarlate Club”には”Ecarlate Club”と書かれたネオンの看板が外れかかっている
廃屋と化した”Ecarlate Club”の隣には掲示板が立っており、掲示板には”売物件”と書かれている
廃屋と化した”Ecarlate Club”の扉には”取り壊し予定につき立ち入り禁止”と書かれた貼り紙が貼ってある
廃屋と化した”Ecarlate Club”を見ている鳴海たち
潤「(廃屋と化した”Ecarlate Club”を見ながら)おいガキ、潰れてんじゃねえか」
鳴海「(廃屋と化した”Ecarlate Club”を見ながら)そ、そのようだな・・・」
すみれ「(廃屋と化した”Ecarlate Club”を見ながら)調べてくれば良かったですね・・・」
菜摘「(廃屋と化した”Ecarlate Club”を見ながら)うん・・・」
鳴海、菜摘、すみれ、潤は廃屋と化した”Ecarlate Club”を見るのをやめる
鳴海「(廃屋と化した”Ecarlate Club”を見るのをやめて)ど、どうする?他の店を探すか?」
潤「馬鹿抜かすんじゃねえ、俺が何億回エカクラで踊り狂ったと思ってるんだ」
鳴海「いや・・・知らねえけど・・・」
すみれ「やっぱり最近の若い子は東京のクラブに行くの?」
鳴海「ど、どうなんすかね」
潤「てめえはそれでも若者の代表かよ」
鳴海「わ、若者の代表と言えば菜摘もそうだろ」
菜摘「えっ?私が?」
鳴海「ああ私って若者なんだみたいな反応をするなよ・・・」
菜摘「だ、だって若くてもクラブなんて来たことなかったし・・・」
鳴海「お、俺も行ったのは一回だけなんだぞ」
潤「おもんねえな、もっと遊んどけよ」
鳴海「あんたと違って俺たちは真面目なんだ」
潤「若者は若者らしく不真面目に生きてろ」
鳴海「なんてこと言うんだよ・・・」
少しの沈黙が流れる
すみれ「これからどうしましょう」
潤「解散すっか」
菜摘「えー!!」
潤「菜摘、家にはトランプも、ボードゲームもあるぞ」
菜摘「今日は外で遊ぶ日だよお父さん」
潤「菜摘がどうしても外でトランプがしてえって言うならお父さんも本気を出すがな・・・」
鳴海「(小声でボソッと)トランプにこだわってるのはあんただけだろ・・・」
菜摘「せっかく出かけたんだからどこか行かない・・・?」
鳴海「そうだな・・・ボウリングでもするか?」
菜摘「ボウリング!!良いね!!」
潤「ボウリングは無理だ」
鳴海「ど、どうして無理なんだよ」
潤「四十肩が再発する恐れがある・・・」
鳴海「じゅ、潤さんだけ見てれば良いじゃないか」
潤「すみれ、菜摘、こいつ馬鹿だぞ」
鳴海「な、何でだよ」
潤「ボウリングをプレイするよりも見る方が楽しいと思ってやがる」
鳴海「誰もそんなこと言ってねえだろ・・・」
菜摘「お父さん、ボウリングじゃダメなの・・・?」
潤「ボウリングはそんなに楽しくねえんだぞ、菜摘」
鳴海「話がめちゃくちゃだな・・・」
潤「ボウリングはつまらねえだろ、すみれ」
すみれ「つまらなくはないけれど・・・」
鳴海「すみれさん、ボウリングは得意じゃないですか」
すみれ「でも最近はやっていないし・・・潤くんの肩を壊すわけにもいかないから・・・ボウリングはちょっと・・・ごめんね、菜摘」
菜摘「う、ううん、お母さんとお父さんが楽しめるところに行こう」
潤「(感動しながら)我が娘ながらに菜摘はなんて優しい心の持ち主なんだ・・・さながら初めて人の優しさに触れた怪物のように俺の涙はちょちょ切れちまうよ・・・」
鳴海「勝手にちょちょ切れてろ・・・」
再び沈黙が流れる
潤「菜摘、運動系以外で行きたいところがありゃどこでも連れて行ってやるぞ」
菜摘「うーん・・・鳴海くんはどこかある・・・?」
鳴海「特に思いつかないな・・・」
菜摘「じゃあ公園に行かない?」
鳴海「公園なんて別にいつでも行けるじゃないか」
菜摘「私が言ってる公園は大きくて、自然と遊具がたくさんあるような公園だよ」
鳴海「遊具がある時点で自然は消えると思うんだが・・・」
潤「いや、そうでもねえ。一つ良い場所を思いついたぞ」
菜摘「本当?お父さん」
潤「おうよ、車で移動だが、そこまで遠くねえところだ」
菜摘「じゃあそこに行きたい!!」
潤「分かったぞ愛娘よ!!数多くの公園で走り回って来た父さんに任せなさい!!」
菜摘「うん!!」
すみれ「(少し笑って)さすがは潤くん、永遠のわんぱく少年」
潤「すみれが頼めば俺はIQを小学2年生までに低下出来るぜ」
すみれ「(少し笑いながら)うん、でもそれはまたの機会にね」
鳴海「これ以上潤さんが馬鹿になっても困るしな・・・」
潤「あぁん!?誰がアホつった!?」
鳴海「いや・・・俺が言ったのアホじゃなくて馬鹿だし・・・」
潤「じゃあてめえは俺よりも馬鹿じゃねえって証明・・・」
鳴海「(呆れて潤の話を遮って)早く車を取りに行くぞ・・・じゃなきゃあんたの馬鹿アホ話で貴重な休日が終わっちまう・・・」
鳴海は歩き出す
鳴海に合わせて歩き出す菜摘、すみれ、潤
潤「(大きな声で)あぁん!?!?俺だって休みなんだぞ今日は!!!!」
すみれ「はいはい、潤くんは後で私と遊びましょうね」
潤「(感動しながら)くぅー!!我が妻ながらすみれはなんて優しい心の持ち主なんだ・・・さながら初めて人の優しさに触れた怪物のように俺の涙はちょちょ切れちまうよ・・・」
菜摘「お父さん・・・さっきと言ってることが丸々同じ・・・」
鳴海「菜摘の親父さんは少々馬鹿なのかもしれないな・・・」
◯2030公園に向かう道中(昼)
鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗っている車が公園に向かっている
鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗ってる車は一般道を走っている
鳴海と菜摘は後部座席に座っている
すみれは助手席に座っている
潤は運転席に座り、運転をしている
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
話をしている鳴海たち
潤「(運転をしながら)昨日、風夏ちゃんと婚約者が来たぞ」
鳴海「ど、どうだった?」
潤「(運転をしながら)どうってこともねえよ、お互いに挨拶をして、飯を食いながらちょっとした世間話を挟んで終わりだ」
鳴海「そ、そうか」
菜摘「風夏さんも龍ちゃんも凄く緊張してたよ、多分初めて鳴海くんと会った時よりもドキドキしてたと思う」
鳴海「だ、だろうな・・・」
すみれ「私と潤くんが大人だから警戒されたのかもしれませんね」
鳴海「お、俺だって大人なんすけど・・・」
すみれ「(少し笑って)私たちは鳴海くんより年寄りでしょう?」
鳴海「そ、それは・・・そうで・・・」
潤「(運転をしながら鳴海の話を遮って)すみれまだまだ若いだろうが!!」
鳴海「あ、ああ・・・」
潤「(運転をしながら)しかし風夏ちゃんが結婚するって聞いた時は、もっと気の強い男を連れて来るかと思ったが」
鳴海「イメージと違ったのか?」
潤「(運転をしながら)違ったな、紘と由夏理の娘の旦那があんな男だとは思わねえだろ」
鳴海「りゅ、龍さんじゃダメってことかよ・・・」
潤「(運転をしながら)そうは言わねえ、お前も許してることだしな。俺はびっくりしたってだけだ」
菜摘「龍ちゃんは私や鳴海くんにも優しいんだよお父さん」
潤「(運転をしながら)ああいう奴は誰にでも優しいんだろ」
鳴海「た、確かにそうだな」
菜摘「な、鳴海くん!!」
鳴海「な、何だよ菜摘、みんなに優しいのは良いことじゃないか」
潤「(運転をしながら)人たらしでもあるがな」
すみれ「潤くん」
潤「(運転をしながら)何でしょう」
すみれ「潤くんは男性の悪いところを無理矢理見つけ過ぎです」
潤「(運転をしながら)はい」
鳴海「で、でも潤さんの言いたいことも分かりますよ、俺も最初姉貴が結婚するって聞いた時は、どうせクソ男を連れて来ると思ってましたから」
菜摘「鳴海くん」
鳴海「スイートメロンパン男だ」
すみれ「素敵な男性なのにね・・・」
菜摘「本当だよ、私たちにも普通に接してくれるし、引越しの手伝いもしてくれたし」
鳴海「引越しは嫁の荷物なんだから手伝って当然だろ・・・」
菜摘「奥さんの手伝いをしてくれる旦那さんイコール、ちゃんとしている人ってことだよ鳴海くん」
鳴海「まあな・・・(少し間を開けて)二人でどんな同棲生活をしてるのか知らないが・・・」
すみれ「同棲生活じゃなくて新婚生活でしょう?」
鳴海「えっ、姉貴たちはまだ籍は入れてないんじゃ・・・」
潤「(運転をしながら)昨日、俺たちのところに来る直前に市役所に提出したって言っていたぞ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「鳴海くん・・・また人の話を聞いてなかったの・・・?」
鳴海「ま、待て、こ、今回は本当に聞いた覚えがない」
菜摘「それは鳴海くんが風夏さんの話を聞き逃してたんじゃなくて・・・?」
鳴海「た、多分違うはずだ」
菜摘「多分・・・?」
鳴海「ぜ、絶対に違う!!教えてもらってないんだ菜摘!!ま、まさかあいつ弟の俺にだけ言わないつもりか!?」
菜摘「うーん・・・じゃあ言い忘れちゃってるのかも・・・」
鳴海「お、俺は弟だぞ!!唯一の家族に伝えるのを忘れてなんて酷過ぎるだろ!!」
潤「(運転をしながら)結婚したんだからもう唯一の家族ってのはなくなったんじゃねえか」
鳴海「そ、そういうことだったのか・・・(少し間を開けて)しょk正真正銘・・・貴志家最後の人間になってしまったんだな俺は・・・」
菜摘「それはまだ分からないよ」
鳴海「な、菜摘!!お、俺にはまだ菜摘が・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)風夏さんと龍ちゃんの間に子供が出来るかもしれないもん」
鳴海「いや・・・もうそれは・・・貴志家っていうか・・・神北家の人間なんだけどな・・・」
菜摘「大丈夫だよ鳴海くん、貴志家の血も割合的には入ってるし」
鳴海「あ、ああ・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「ついに・・・最後の一人か・・・俺・・・」
すみれ「ショックでもこういう出来事は素直に喜ばないと、鳴海くん」
鳴海「そうっすね・・・(少し間を開けて)ショックとはちょっと違うんですけど、同じ苗字の人間がもういないっていうのは・・・なんか・・・グッと来ました」
潤「(運転をしながら)ショックを受けてるじゃねえか」
少しの沈黙が流れる
鳴海「まあ・・・両親が喜んでくれれば何でも良いんですけど・・・」
すみれ「きっと喜んでいますよ、二人とも」
鳴海「俺はそうとは限らないと思うんです。お袋はともかく・・・親父はこういうことに関して厳しいだろうし・・・」
潤「(運転をしながら)確かに、紘だったら許さなかったかもな」
鳴海「やっぱり・・・そう思うのか・・・」
潤「(運転をしながら)ああ、結婚ってのはてめえが考えてるよりも大変だ。特に父親にとっちゃ、何十年間守り続け来た大切な娘を、どこの馬の骨だか知らねえ男に譲らなきゃならない。それをそう易々と許せると思うか?無理だろ。お前の親父はクールぶってる奴だったが、内心は風夏ちゃんのことを溺愛していたはずだぞ」
鳴海「お、俺に言ってるんだよな」
潤「(運転をしながら)おめえ以外の誰に言うんだよ、こんな話」
再び沈黙が流れる
菜摘「でも・・・きっと龍ちゃんの想いがいつか鳴海くんのお父さんにも伝わって・・・二人のことを認めてくれるんじゃないかな・・・」
潤「(運転をしながら)菜摘はあいつのことを知らねえ・・・気難しい男だったんだぞ」
菜摘「うん・・・だけど鳴海くんのお父さんだもん。鳴海くんみたいに・・・頼みごとを聞いてくれる人だよ」
すみれ「潤くんだって紘くんの優しさを知っているでしょう?」
潤「(運転をしながら)当たり前だ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「すみれさん、親父はそんなに優しくないですよ」
すみれ「そう・・・鳴海くんには・・・厳しかったのね・・・」
鳴海「ええ・・・滅多に甘やかしてもらえませんでしたから」
潤「(運転をしながら)それはお前が男だからじゃねえのか」
鳴海「そうかもな、実際姉貴に対しては優しかった気がするよ」
潤「(運転をしながら)あいつが厳しくしたのはお前に期待していたからだろ」
鳴海「それじゃまるで姉貴には期待してなかったみたいじゃないか」
再び沈黙が流れる
潤「(運転をしながら)まあ・・・その辺については何を考えていたのか分からねえな・・・」
◯2031国営昭和記念公園の駐車場(昼過ぎ)
国営昭和記念公園の大きな駐車場にいる鳴海、菜摘、すみれ、潤
国営昭和記念公園の大きな駐車場には鳴海たちが乗っていた車が止まっている
国営昭和記念公園の駐車場は広く、鳴海たちが乗っていた車以外にもたくさんの車が止まっている
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海、菜摘、すみれ、潤は乗っていた車の近くにいる
ポケットから車の鍵を取り出す潤
潤は車の扉を閉める
鳴海「公園で何をするんだ?」
潤「まずは飯だろ」
鳴海「飯か・・・」
潤はポケットに車の鍵をしまう
潤「(ポケットに車の鍵をしまって)何だよ、飯以外にしたいことがあるのか」
鳴海「写真でも撮りた・・・」
潤「(鳴海の話を遮って)じゃあ飯な」
潤は歩き出す
鳴海「聞く気がないなら最初から尋ねないでくれ・・・」
潤について行く鳴海、菜摘、すみれ
菜摘「鳴海くん」
鳴海「ん?」
菜摘「お昼ご飯の後は写真を撮りに行こう?」
鳴海「お、おう」
すみれ「ここはたくさんのお花が咲いているから、良い写真がいっぱい撮れると思いますよ。特に今はチューリップや、菜の花が時期だもの」
鳴海「すみれさん、この公園に来たことがあるんですか?」
すみれ「(少し笑って)若い頃にね、潤くんとのデートで」
鳴海「な、なるほど・・・」
すみれ「(小声で)私は潤くんとぶらぶらするから、鳴海くんは菜摘とデートをして来てね」
鳴海「(小声で)は、はい」
◯2032国営昭和記念公園/レストラン(昼過ぎ)
国営昭和記念公園の中にあるレストランにいる鳴海、菜摘、すみれ、潤
国営昭和記念公園のレストランの中は広く、鳴海たち以外にもカップル、家族連れ、老夫婦などたくさんの客がいる
テーブルに向かって椅子に座っている鳴海、菜摘、すみれ、潤
鳴海は喜多方チャーシューラーメン、菜摘とすみれは天ぷらそば、潤はポークカツカレーと喜多方ラーメンを食べている
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
国営昭和記念公園のレストランからは公園の緑豊かな自然が見えている
昼食を食べながら話をしている鳴海たち
鳴海「学食で飯を食ってる気分だ・・・」
潤「人が金を出してやったのに何だその言い分は、喧嘩売ってんのか」
鳴海「いや・・・売ってねえけど・・・というかあんたのメニューが学食みたいなんだよ・・・」
潤「カレーとラーメンだぞ」
鳴海「普通のメニューだとでも言いたいのか」
潤「ああ、普通のメニューだ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「嶺二くんみたいだよね」
鳴海「だな・・・高校生かよ・・・」
すみれ「潤くんは永遠にわんぱくですから」
鳴海「大丈夫なんすかね・・・そんなんで・・・」
潤「飯は美味く食えれば良いじゃねえか」
菜摘「でもバランスも大事だよ、お父さん」
潤「(片言で)ばらんすぅ?」
すみれ「晩ご飯はお野菜多めに食べようね、潤くん」
潤「(片言で)おやさぃ?」
鳴海「何でさっきからカタコトなんだよ・・・」
潤「分かってねえな、俺は今童心に帰ってるんだ」
鳴海「そうか・・・もう好きに食ってくれ・・・」
◯2033国営昭和記念公園/レストラン前(昼過ぎ)
国営昭和記念公園の中にあるレストランの前にいる鳴海、菜摘、すみれ、潤
国営昭和記念公園の中は広く、緑豊かな自然で溢れている
国営昭和記念公園の中にはサイクリング、ランニング、ウォーキングをしている人や、園内を回っているカップル、家族連れ、老夫婦などのたくさんの人がいる
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
話をしている鳴海たち
潤「ここにはな、二人乗り専用の自転車ってのがある。そこでだ、俺とすみれチーム、菜摘と義理の息子チームに分かれてレースを・・・」
すみれ「(潤の話を遮って)潤くん、私、昭和歴史記念館に行きたい」
潤「昭和だと・・・?」
すみれ「うん」
潤「おい、知っているか義理の息子、平成の前には昭和っつう元号があってだな」
鳴海「そんなことくらい知ってるが・・・」
潤「俺とすみれは激動の時代を・・・」
すみれ「(潤の話を遮って)じゃあ私たちはそっちに行きますから、菜摘たちは菜摘たちで楽しんでね」
すみれは潤と腕を組み、歩き出す
潤「(すみれに腕を組まれながら)記念館なんか行きてえのか?ボートとか自転車の方が楽しいぞすみれ」
すみれ「(潤と腕を組みながら少し笑って)私たちはこれで良いの」
すみれと潤は腕を組みながらどこかに歩いて行く
腕を組んで歩いているすみれと潤の後ろ姿を見ている鳴海と菜摘
鳴海「(腕を組んで歩いているすみれと潤の後ろ姿を見ながら)あの二人・・・いつ見ても仲良いよな・・・」
菜摘「(腕を組んで歩いているすみれと潤の後ろ姿を見ながら)うん」
少しの沈黙が流れる
鳴海は腕を組んで歩いているすみれと潤の後ろ姿を見るのをやめる
鳴海「(腕を組んで歩いているすみれと潤の後ろ姿を見るのをやめて)俺たちも行くか」
菜摘は腕を組んで歩いているすみれと潤の後ろ姿を見るのをやめる
菜摘「(腕を組んで歩いているすみれと潤の後ろ姿を見るのをやめて)そうだね」
鳴海と菜摘は歩き出す
鳴海「二人乗り専用のチャリって言ってたよな・・・」
菜摘「後で乗ってみる・・・?」
鳴海「あ、ああ。菜摘、他にも遊べそうなものがあったら写真を撮りながら試してみないか?」
菜摘「うん!!良いね!!」
◯2034国営昭和記念公園/チューリップガーデン(昼過ぎ)
国営昭和記念公園の中にあるチューリップガーデンにいる鳴海と菜摘
国営昭和記念公園の中のチューリップガーデンには赤、黄色、ピンク、白、オレンジ、紫、青など様々な色のチューリップがたくさん咲いており、その中心には緩やかな渓流がある
国営昭和記念公園の中にあるチューリップガーデンには鳴海たち以外にも、カップル、家族連れ、老夫婦などたくさんの人がおり、写真を撮ったりしながらチューリップを見ている
国営昭和記念公園の中にあるチューリップガーデンにはチューリップ以外にもたくさんの大きな木が植っており、緑豊かになっている
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
緩やかな渓流の近くでしゃがんでチューリップを見ている菜摘
鳴海は一眼レフカメラで写真撮影を行っている
一眼レフカメラのファインダーを覗いている鳴海
鳴海は一眼レフカメラのファインダーを覗き、緩やかな渓流の近くでしゃがんだままチューリップを見ている菜摘のことを撮る
しゃがんだまま鳴海に一眼レフカメラで撮られていることに気付く菜摘
菜摘は緩やかな渓流の近くでチューリップを見るのをやめて立ち上がる
菜摘「(緩やかな渓流の近くでチューリップを見るのをやめて立ち上がり)と、撮る時は言ってくれたらもっとちゃんとするよ」
鳴海は一眼レフカメラのファインダーを覗くのをやめる
鳴海「(一眼レフカメラのファインダーを覗くのをやめて)あ、悪い・・・でも自然な感じで撮れたぞ」
菜摘「ほ、本当?へ、変な顔になってない?」
鳴海「ああ」
菜摘は鳴海がいるところに行く
鳴海は一眼レフカメラで撮った写真を液晶モニターで確認する
一眼レフカメラの液晶モニターには、緩やかな渓流の近くでしゃがんだままチューリップを見ている菜摘の姿が写っている
鳴海と菜摘は一眼レフカメラの液晶モニターに写っている菜摘の写真を見ている
鳴海「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている菜摘の写真を見ながら)良い感じだろ?」
菜摘「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている自分の写真を見ながら)そ、そうだね、良い感じだと思う」
菜摘は一眼レフカメラの液晶モニターに写っている自分の写真を見るのをやめる
菜摘「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている自分の写真を見るのをやめて)な、鳴海くん」
鳴海は一眼レフカメラの液晶モニターに写っている菜摘の写真を見るのをやめる
鳴海「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている菜摘の写真を見るのをやめて)ん?」
菜摘「私も鳴海くんのことを撮って良い・・・?」
鳴海「か、構わないが・・・こいつで撮るのか・・・?」
菜摘「う、うん」
鳴海「わ、分かった。重いから気をつけてな」
鳴海は一眼レフカメラを首から外し、菜摘に差し出す
一眼レフカメラを鳴海から受け取る菜摘
菜摘「(一眼レフカメラを鳴海から受け取って)ありがとう鳴海くん」
鳴海「お、おう・・・お、俺はどうすれば良いんだ・・・?」
菜摘は一眼レフカメラを首に下げる
菜摘「(一眼レフカメラを首に下げて)私がディレクションするね」
鳴海「でぃ、ディレクションって・・・て、テレビみたいだな・・・」
菜摘「まずはそこの渓流の近くに行ってみて鳴海くん」
鳴海「あ、ああ」
鳴海は緩やかな渓流がある近くに行く
鳴海「(やかな渓流がある近くに行って)こ、こんなんで良いか?」
菜摘「オッケーだよ、じゃあその場にしゃがんで赤いチューリップを見てくれる?」
鳴海「わ、分かった・・・ってこれ俺が撮った写真と同じシチュエーションじゃないか・・・?」
菜摘「そ、そうだよ、記念に一緒の写真があった方が良いかなって思ったんだ」
鳴海「ざ、斬新な記念だな・・・」
鳴海は緩やかな渓流の近くでしゃがむ
緩やかな渓流の近くでしゃがみ赤いチューリップを見る鳴海
鳴海「(緩やかな渓流の近くでしゃがんだまま赤いチューリップを見て)ど、どうだ菜摘」
菜摘は一眼レフカメラのファインダーを覗く
菜摘「(一眼レフカメラのファインダーを覗いて)あと右に11.3センチずれてくれたらバッチリだよ」
鳴海「(緩やかな渓流の近くでしゃがみ赤いチューリップを見たまま)じゅ、11.3センチなんて分からないだろ!!」
菜摘「(一眼レフカメラのファインダーを覗きながら)感覚的に11.3センチだと思う距離を動いてくれたら大丈夫!!」
鳴海「(緩やかな渓流の近くでしゃがみ赤いチューリップを見たまま小声でボソッと)もうそれは10センチで良くないか・・・?」
鳴海は緩やかな渓流の近くでしゃがみ赤いチューリップを見たまま、右に少しだけ移動する
鳴海「(緩やかな渓流の近くでしゃがみ赤いチューリップを見たまま、右に少しだけ移動して)か、感覚的に11.3センチ移動したぞ」
菜摘「(一眼レフカメラのファインダーを覗きながら)うーん・・・それは感覚的に9.7センチだと思う・・・」
鳴海「(緩やかな渓流の近くでしゃがみ赤いチューリップを見たまま)そ、そんなの大差ないだろ!!」
菜摘「(一眼レフカメラのファインダーを覗きながら)あるよ!!」
鳴海「(緩やかな渓流の近くでしゃがみ赤いチューリップを見たまま)本当に大した差があるのか!?ちょっとの差じゃなくて大きな差だぞ!?果たしてそんな差があるのか!?」
菜摘「(一眼レフカメラのファインダーを覗きながら)1.6センチも差があるもん!!148.4センチの女の子が150センチになれるかなれないかってところだよ!!1.6センチは絶対大きな差だって鳴海くん!!」
鳴海「(緩やかな渓流の近くでしゃがみ赤いチューリップを見たまま)大きい差があるのに動く距離は少しで良いんだろ!!」
菜摘「(一眼レフカメラのファインダーを覗きながら)うん!!」
少しの沈黙が流れる
鳴海は緩やかな渓流の近くでしゃがみ赤いチューリップを見たまま、右にほんの少しだけ移動する
鳴海「(緩やかな渓流の近くでしゃがみ赤いチューリップを見たまま、右にほんの少しだけ移動して小声でボソッと)菜摘は潤さんのディレクションよりも厳しいんだな・・・」
菜摘「(一眼レフカメラのファインダーを覗きながら)確かに1.6センチだね!!これなら良い写真が撮れるよ鳴海くん!!」
鳴海「(緩やかな渓流の近くでしゃがみ赤いチューリップを見たまま)そ、そうか・・・い、いつでもシャッターを切って良いぞ菜摘」
菜摘「(一眼レフカメラのファインダーを覗きながら)分かった!!じゃあ撮るね!!」
菜摘は一眼レフカメラのファインダーを覗き、緩やかな渓流の近くでしゃがんだまま赤いチューリップを見ている鳴海のことを撮る
一眼レフカメラのファインダーを覗くのをやめる菜摘
菜摘は一眼レフカメラの液晶モニターで撮った写真を確認する
一眼レフカメラの液晶モニターには、緩やかな渓流の近くでしゃがんだまま目を瞑っている鳴海の姿が写っている
鳴海「(緩やかな渓流の近くでしゃがみ赤いチューリップを見たまま)も、もう動いて良いか?」
菜摘は一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海の写真を見るのをやめる
菜摘「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海の写真を見るのをやめて)ま、まだダメ!!と、撮り直すから!!」
鳴海「(しゃがんだまま緩やかな渓流の近くでチューリップを見て)あ、ああ・・・」
菜摘は再び一眼レフカメラのファインダーを覗く
一眼レフカメラのファインダーを覗き、緩やかな渓流の近くでしゃがんだまま赤いチューリップを見ている鳴海のことを撮る菜摘
菜摘は一眼レフカメラのファインダーを覗くのをやめる
一眼レフカメラの液晶モニターで撮った写真を確認する菜摘
一眼レフカメラの液晶モニターには、またしても緩やかな渓流の近くでしゃがんだまま目を瞑っている鳴海の姿が写っている
菜摘「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海の写真を見ながら)な、鳴海くん目瞑ってるよ!!」
鳴海「(緩やかな渓流の近くでしゃがみ赤いチューリップを見たまま)あ、開けてるはずだぞ」
菜摘「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている鳴海の写真を見るのをやめて)でもカメラには目を瞑っている鳴海が写っているもん!!」
鳴海は緩やかな渓流の近くで赤いチューリップを見るのをやめて立ち上がる
菜摘がいるところに行く鳴海
鳴海は菜摘が一眼レフカメラで撮った写真を液晶モニターで確認する
一眼レフカメラの液晶モニターには、変わらず緩やかな渓流の近くでしゃがんだまま目を瞑っている鳴海の姿が写っている
菜摘「鳴海くん、撮られるのが下手なんじゃない・・・?」
鳴海「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている自分の写真を見ながら)お、おいおい菜摘、と、撮る側が下手ってこともあるかしれないだろ?」
菜摘「えー・・・私上手いと思うんだけど・・・」
鳴海は一眼レフカメラの液晶モニターに写っている自分の写真を見るのをやめる
鳴海「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている自分の写真を見るのをやめて)ど、どうしてそう思うんだ?」
菜摘「だって小さい頃からお父さんにカメラの扱い方をよく教えてもらってたもん・・・」
鳴海「それにしては俺の目が綺麗に閉ざされているタイミングでシャッターを押しているように見えるんだが・・・・」
菜摘「鳴海くんはきっとまだ眠っているんだよ」
鳴海「(呆れて)俺は起きてるじゃないか・・・」
菜摘「じゃあ起きながら夢を見てるんじゃないかな・・・?」
鳴海「(呆れて)どうやって起きながら夢を見るんだよ・・・」
菜摘「うーん・・・それは分からないけど・・・」
少しの沈黙が流れる
突然、強い風が吹く
国営昭和記念公園の中のチューリップガーデンで咲いている様々な色のチューリップと木々たちが、強い風で揺れている
菜摘「私・・・夢は好きだよ、空を飛んでるみたいな感じがするもん」
鳴海「そ、それは実際に空を飛んでる夢を見てるんだろ」
菜摘「そうなのかな?」
鳴海「き、きっとそうだ」
再び沈黙が流れる
菜摘「夢って・・・一緒に見ることが出来たらきっと楽しいよね」
鳴海「な、菜摘・・・・」
菜摘「どうしたの?」
鳴海「い、いや・・・」
菜摘「鳴海くん、他の場所にも行ってみよう?」
鳴海「あ、ああ・・・」
菜摘「私二人乗り用の自転車とボートに乗ってみたい!!い、良いかな・・・?」
鳴海「も、もちろんだ、こ、漕ぐのは俺に任せておけ」
◯2035国営昭和記念公園/サイクリングコース(昼過ぎ)
国営昭和記念公園の中にあるサイクリングコースを二人乗り用の自転車で回っている鳴海と菜摘
国営昭和記念公園の中のサイクリングコースには鳴海と菜摘以外にも、たくさんのカップルや家族連れが二人乗り用の自転車、一人用の普通の自転車、子供用の自転車に乗って園内を回っている
国営昭和記念公園の中のサイクリングコースの周囲には様々な植物が植っており、緑豊かな自然で溢れている
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海と菜摘が乗っている二人乗り用の自転車はサドルとペダルが二つついており、鳴海が前に、菜摘が後ろに乗っている
菜摘と二人乗り用の自転車に乗って一人で漕いでいる鳴海
菜摘「(鳴海と二人乗り用の自転車に乗りながら)鳴海くん、私も漕ぐよ」
鳴海「(菜摘と二人乗り用の自転車に乗って一人で漕ぎながら)ま、任せろ言っただろ!!」
菜摘「(鳴海と二人乗り用の自転車に乗りながら)で、でも・・・」
鳴海「(菜摘と二人乗り用の自転車に乗って一人で漕ぎながら)な、菜摘は景色を見ててくれ!!」
菜摘「(鳴海と二人乗り用の自転車に乗りながら)う、うん・・・」
鳴海と菜摘が乗っている二人乗り用の自転車は、サイクリングコースを走っている他の自転車たちに比べると鳴海が一人で漕いでいる分、スピードが遅い
菜摘は鳴海と二人乗り用の自転車に乗りながら空を見上げる
太陽が二人乗り用の自転車に乗っている鳴海と菜摘のことを照らしている
菜摘は鳴海と二人乗り用の自転車に乗りながら空を見上げるのをやめる
鳴海と二人乗り用の自転車に乗りながらサイクリングコースの周囲の木々を見る菜摘
サイクリングコースの周囲の木々にはメジロが数羽止まっており、鳴いている
鳴海と二人乗り用の自転車に乗りながらサイクリングコースの周囲の木々に止まっている数羽のメジロを見る菜摘
菜摘「(鳴海と二人乗り用の自転車に乗りながらサイクリングコースの周囲の木々に止まっている数羽のメジロを見て)鳴海くん、綺麗だね」
鳴海「(菜摘と二人乗り用の自転車に乗って一人で漕ぎながら)な、何が綺麗なんだ?」
菜摘は鳴海と二人乗り用の自転車に乗りながらサイクリングコースの周囲の木々に止まっている数羽のメジロを見るのをやめる
菜摘「(鳴海と二人乗り用の自転車に乗りながらサイクリングコースの周囲の木々に止まっている数羽のメジロを見るのをやめて)全部だよ!!私の目に見えるもの!!耳で聞こえるもの!!肌で感じるものの全部が綺麗なんだ!!」
鳴海「(菜摘と二人乗り用の自転車に乗って一人で漕ぎながら)よ、良かったな!!今日はずっと綺麗な景色しか見れないぞ!!」
菜摘「(鳴海と二人乗り用の自転車に乗りながら)うん!!私これが夢じゃなかったら今日が永遠に続いて欲しいって望んでたと思う!!」
◯2036国営昭和記念公園/売店(昼過ぎ)
国営昭和記念公園の中にある売店にいる鳴海と菜摘
国営昭和記念公園の売店にはアイスクリーム、ボール、シャボン玉、バドミントンのシャトルとラケット、フリスビー、縄跳び、凧揚げ、紙風船など様々な物が売られている
国営昭和記念公園の売店には鳴海と菜摘以外にも家族連れの客が数人いる
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
売店の中を見て回っている鳴海と菜摘
鳴海「(売店の中を見て回りながら)欲しい物でもあったか?菜摘」
菜摘「(売店の中を見て回りながら)ぜ、全部・・・?」
鳴海「(売店の中を見て回りながら)ここでも全部なんだな・・・」
菜摘「(売店の中を見て回りながら)う、うん・・・」
鳴海「(売店の中を見て回りながら)ほ、ほとんど子供用のおもちゃだぞ菜摘」
菜摘「(売店の中を見て回りながら)わ、私まだ子供だもん・・・」
鳴海「(売店の中を見て回りながら)そ、そうか・・・と、とにかく好きな物を選べよ、買うからさ」
菜摘は売店の中を見て回るのをやめる
菜摘「(売店の中を見て回るのをやめて)い、良いの?鳴海くん」
鳴海「(売店の中を見て回りながら)おう、このために俺は緋空浜で汗水流してると言っても過言じゃないからな」
菜摘「だ、だったら鳴海くんが欲しい物にしようよ」
鳴海「(売店の中を見て回りながら)そんな物はこの店に全くないんだが・・・」
菜摘「そ、そうなの・・・?」
鳴海「(売店の中を見て回りながら)ああ」
菜摘「で、でもせめて鳴海くんが遊べる物が良いよ」
鳴海「(売店の中を見て回りながら)遊べる物、か・・・」
◯2037国営昭和記念公園/売店前(昼過ぎ)
国営昭和記念公園の中にある売店の前にいる鳴海と菜摘
国営昭和記念公園の中にはサイクリング、ランニング、ウォーキングをしている人や、園内を回っているカップル、家族連れ、老夫婦などのたくさんの人がいる
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海は売店で購入した物が入っているビニール袋を持っている
売店の前でソフトクリームを食べている鳴海と菜摘
菜摘「あっ・・・」
鳴海「どうした?」
菜摘「写真・・・」
鳴海「(少し笑って)売店の写真なんかいらないだろ」
菜摘「ば、売店じゃないよ鳴海くん!!アイスの写真!!」
少しの沈黙が流れる
鳴海「た、食べかけのを撮れば良くないか」
菜摘「えー・・・」
鳴海「な、なら写真を撮るためにもう一つアイスを食べるっていうのはどうだ?」
菜摘「一つでお腹いっぱいになっちゃうよ」
再び沈黙が流れる
鳴海「お、俺がもう二つアイスを食べるから、それで写真を撮るぞ」
菜摘「鳴海くん・・・そんなにアイスを食べられるの・・・?」
鳴海「さ、さすがに無理か・・・?」
菜摘「うん・・・厳しいと思う・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海と菜摘が食べているソフトクリームは全く溶けていない
鳴海「し、しかしここのアイスは全く溶けないな」
菜摘「写真の話は・・・?」
鳴海「しゃ、写真は別の物を撮ろう・・・た、例えばだな・・・て、適当に・・・」
菜摘「(鳴海の話を遮って)鳴海くんはこういう時にいつもふざけて誤魔化そうとする・・・」
鳴海「そ、そんなことはないぞ菜摘、お、俺たちにはアイスの代わりに凧揚げだってあるんだからな」
菜摘「上手く飛ぶかな・・・?」
鳴海「ま、任せろ、こう見えても俺は凧揚げのコツを熟知してるんだ」
◯2038国営昭和記念公園/広場(昼過ぎ)
国営昭和記念公園の中にある広場にいる鳴海と菜摘
国営昭和記念公園の広場は大きく草原で出来ており、中心には20m以上のケヤキの木が一本ある
国営昭和記念公園の広場には鳴海と菜摘以外にもカップル、家族連れ、老夫婦などたくさんの人がおり、ボールやフリスビーで遊んだり、食事を取ったりしている
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海と菜摘は地面に座っている
凧の絡まった糸を解そうとしている鳴海と菜摘
鳴海と菜摘が解こうとしている凧糸は絡まりまくっているせいで、なかなか解けない
凧には空を飛んでいる鶴の絵が描かれている
鳴海と菜摘の近くには売店で購入した物が入っているビニール袋が置いてある
菜摘「(凧の絡まりまくった糸を解こうとしながら)鳴海くん・・・凧揚げのコツを熟知してるんじゃなかったの・・・?」
鳴海「(凧の絡まりまくった糸を解こうとしながら)凧を揚げるのと凧糸を解くのじゃスキルが全く違うんだよ」
菜摘「(凧の絡まりまくった糸を解こうとしながら)そ、そうなんだ・・・」
鳴海「(凧の絡まりまくった糸を解こうとしながら)こ、こういうのは焦らない方が良い菜摘・・・お、落ち着いて糸を・・・」
時間経過
鳴海と菜摘は変わらず地面に座って凧の絡まりまくった糸を解そうとしている
鳴海と菜摘が解こうとしている凧糸は全く解ける気配がない
菜摘は凧の絡まりまくった糸を解そうとするのをやめる
菜摘「(凧の絡まりまくった糸を解こうとをするのをやめて)鳴海くん・・・もう諦めない・・・?」
鳴海「(凧の絡まりまくった糸を解こうとしながら)ま、待ってくれ・・・も、もう少ししたら解けるからさ・・・」
菜摘「うん・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘は空を見上げる
太陽が国営昭和記念公園の中の広場にいる鳴海と菜摘のことを照らしている
太陽を見ている菜摘
太陽は◯2035の国営昭和記念公園の中のサイクリングコースで菜摘が空を見上げた時と、完全に同じ位置にある
時間経過
菜摘は空を見上げていない
凧の絡まりまくった糸を解き終える鳴海
鳴海「(凧の絡まりまくった糸を解き終えて)よし!!少し時間はかかったが解けたぞ!!」
菜摘「凄いね鳴海くん」
鳴海「お、お袋に似て手先だけは器用だからな・・・こ、これでこいつは土星にまで飛ばせるぞ菜摘」
菜摘「うん!!」
菜摘は凧本体を手に取る
凧の糸巻きを手に取る鳴海
鳴海「(凧の糸巻きを手に取って)良いか?」
菜摘は頷く
菜摘「じゃあ行くよ」
鳴海「おう」
菜摘は凧本体を持ったままゆっくり走り出す
走っている菜摘に合わせて少しずつ凧の糸巻きから糸を伸ばしていく鳴海
菜摘が持って走っている凧本体は風に当たり震えている
走りながら凧本体を離す菜摘
走りながら菜摘が離した凧本体は一気に10mほどの高さにまで上がる
走るのをやめる菜摘
菜摘「(走るのをやめて)やった!!飛んだ!!」
鳴海は飛んでいる凧本体に合わせて凧の糸巻きから糸を伸ばし続ける
鳴海「(飛んでいる凧本体に合わせて凧の糸巻きから糸を伸ばしながら)菜摘、交代するか?」
菜摘「うん!!」
鳴海は飛んでいる凧本体に合わせて凧の糸巻きから糸を伸ばすのをやめる
凧の糸巻きを菜摘に差し出す鳴海
鳴海「(凧の糸巻きを菜摘に差し出して)引っ掛けないようにな」
菜摘は凧の糸巻きを鳴海から受け取る
菜摘「(凧の糸巻きを鳴海から受け取って)大丈夫だよ、ちゃんと成層圏に飛ばすもん」
鳴海「(少し笑って)土星じゃないのか?」
菜摘は飛んでいる凧本体に合わせて凧の糸巻きから糸を伸ばす
菜摘「(飛んでいる凧本体に合わせて凧の糸巻きから糸を伸ばして)目標は土星の輪っかだよ鳴海くん、鶴をそこまで飛ばすんだ」
鳴海「(少し笑いながら)スペースバードだな」
菜摘「(飛んでいる凧本体に合わせて凧の糸巻きから糸を伸ばしながら少し笑って)そうだね!!」
鶴の絵が描かれた凧本体は地面から20m以上高いところを飛んでいる
鳴海と菜摘は地面から20m以上高いところに上がっている凧本体を見ている
菜摘「(地面から20m以上高いところに上がっている凧を見ながら、飛んでいる凧本体に合わせて凧の糸巻きから糸を伸ばして)鳴海くんは昔凧揚げってした?」
鳴海「(地面から20m以上高いところに上がっている凧を見ながら)したかもな・・・(少し間を開けて)菜摘はよくしたのか?」
菜摘「(地面から20m以上高いところに上がっている凧を見ながら、飛んでいる凧本体に合わせて凧の糸巻きから糸を伸ばして)ううん、私が最後にしたのは高校生二年生の時だよ」
鳴海「(地面から20m以上高いところに上がっている凧を見ながら)さ、最近だな・・・」
菜摘「(地面から20m以上高いところに上がっている凧を見ながら、飛んでいる凧本体に合わせて凧の糸巻きから糸を伸ばして)鳴海くんと文芸部を作る前までは、お母さんとお父さんと出かけたり遊んだりすることが多かったんだ。だから凧揚げもたまにしたよ」
鳴海「(地面から20m以上高いところに上がっている凧を見ながら)そうなのか・・・(少し間を開けて)友達とか・・・いなかったのか・・・?」
菜摘「(地面から20m以上高いところに上がっている凧を見ながら、飛んでいる凧本体に合わせて凧の糸巻きから糸を伸ばして)うん・・・学校も休むことが多かったから・・・」
鳴海「(地面から20m以上高いところに上がっている凧を見ながら)寂しかっただろ・・・?」
菜摘「(地面から20m以上高いところに上がっている凧を見ながら、飛んでいる凧本体に合わせて凧の糸巻きから糸を伸ばして)す、少しだけね・・・でも今は大丈夫、鳴海くんがいるもん」
鳴海「(地面から20m以上高いところに上がっている凧を見ながら)ああ・・・俺も、すみれさんも、潤さんもいる。何かも完璧だ」
菜摘「(地面から20m以上高いところに上がっている凧を見ながら、飛んでいる凧本体に合わせて凧の糸巻きから糸を伸ばして)うん、もう私の人生に必要な人は・・・全員揃ってるよ」
◯2039国営昭和記念公園/池(昼過ぎ)
ボートに乗って国営昭和記念公園の中にある池を回っている鳴海と菜摘
国営昭和記念公園の中の池は広く、鳴海と菜摘以外にもカップル、家族連れ、子供同士だけでボートに乗っている人などたくさんの人がいる
国営昭和記念公園の中の池の周囲には様々な植物が植っており、緑豊かな自然で溢れている
国営昭和記念公園のボートは二種類あり、オールを使って漕ぐローボートとペダルを漕ぐアヒル型のボートがある
鳴海と菜摘が乗っているのはローボート
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海と菜摘が乗っているローボートには売店で購入した物が入っているビニール袋が置いてある
菜摘はシャボン玉を吹いている
オールでローボートを漕いでいる鳴海
鳴海と菜摘が乗っているローボートはゆっくり進んでいる
鳴海と菜摘の周りには菜摘が吹いたシャボン玉がふわふわと浮かんでいる
鳴海「(オールでローボートを漕ぎながら)くっ・・・アヒルのやつにすれば良かったな・・・」
菜摘はシャボン玉を吹くのをやめる
菜摘「(シャボン玉を吹くのをやめて)あ、あれはちょっと恥ずかしいよ鳴海くん・・・」
鳴海「(オールでローボートを漕ぎながら)ちょ、ちょっとなら良いじゃないか」
菜摘「あ、アヒルのは景色も見辛いし・・・しゃ、写真だって撮りにくいし・・・」
鳴海「(オールでローボートを漕ぎながら)それはそうだが・・・」
鳴海と菜摘が乗っているローボートはちょうど池の真ん中に辿り着く
鳴海はオールでローボートを漕ぐのをやめる
再びシャボン玉を吹く菜摘
鳴海と菜摘の周りには変わらず菜摘が吹いたシャボン玉がふわふわと浮かんでいる
鳴海「と、撮って良いか?」
菜摘はシャボン玉を吹くのをやめる
菜摘「(シャボン玉を吹くのをやめて)う、うん」
鳴海「せ、せっかくならシャボン玉が写ってる方が良いよな」
菜摘「そ、そうだね」
菜摘はシャボン玉を吹く
一眼レフカメラの電源を入れる鳴海
鳴海は一眼レフカメラの電源を入れてファインダーを覗く
一眼レフカメラのファインダーを覗き、シャボン玉を吹いている菜摘のことを撮る鳴海
鳴海と菜摘が乗っているローボートの4、5m横を、アヒル型のボートに乗った2人の小学生男子が通りかかる
アヒル型のボートに乗った2人の小学生男子は鳴海と菜摘のことを見ている
鳴海と菜摘のことを見ながらペダルを漕ぐのをやめてコソコソ話をするアヒル型のボートに乗った2人の小学生男子
鳴海は一眼レフカメラのファインダーを覗くのをやめる
一眼レフカメラの液晶モニターで撮った写真を確認する鳴海
一眼レフカメラの液晶モニターには、ローボートの上でシャボン玉を吹いた菜摘とその周りふわふわと浮かぶシャボン玉が写っている
菜摘はシャボン玉を吹くのをやめる
菜摘「(シャボン玉を吹くのをやめて)ど、どう・・・?」
鳴海「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている菜摘の写真を見ながら)今日のベストショットの一つだ」
菜摘「ほ、ほんと!?」
鳴海は一眼レフカメラの液晶モニターに写っている菜摘の写真を見るのをやめる
鳴海「(一眼レフカメラの液晶モニターに写っている菜摘の写真を見るのをやめて)おう」
菜摘「私も同じ写真を撮りたい!!」
鳴海「お、同じって・・・」
菜摘「だ、ダメ・・・?」
鳴海「か、構わないけどさ・・・じゃあカメラとシャボン玉を交換な・・・」
菜摘「うん!!交換!!」
アヒル型のボートに乗った2人の小学生男子は変わらず鳴海と菜摘のことを見ながらコソコソ話をしている
一眼レフカメラを首から外す鳴海
鳴海と菜摘は一眼レフカメラとシャボン玉を交換する
一眼レフカメラを首に下げる菜摘
鳴海はシャボン玉を吹こうとする
アヒル型のボートに乗っている小学生男子1「(鳴海と菜摘のことを見ながら大きな声で)うわー!!!!間接キスだー!!!!」
鳴海と菜摘はアヒル型のボートに乗っている2人の小学生男子に見られていることに気付く
菜摘の顔が赤くなる
菜摘はアヒル型のボートに乗っている2人の小学生男子から顔を逸らす
シャボン玉を吹こうとするのをやめる鳴海
鳴海「(シャボン玉を吹こうとするのをやめて大きな声で)な、何だよガキ!!!!なんか文句あんのか!!!!」
アヒル型のボートに乗っている小学生男子2「(鳴海と菜摘のことを見ながら大きな声で)イチャイチャしたきゃ家に帰れー!!!!」
鳴海「(大きな声で)うっせえお前たちが乗ってるアヒルを転覆させるぞ!!!!」
アヒル型のボートに乗っている小学生男子2「(鳴海と菜摘のことを見ながら大きな声で)やれるもんならやってみろ変態!!!!」
鳴海「(立ち上がって大きな声で)ああやってるよ!!!!ここからそっちに飛び移ってやる!!!!」
アヒル型のボートに乗っている小学生男子1と小学生男子2は慌てて鳴海と菜摘のことを見るのをやめる
アヒル型のボートに乗っている小学生男子1「(慌てて鳴海と菜摘のことを見るのをやめて大きな声で)やばい逃げろ!!!!」
アヒル型のボートに乗っている小学生男子2「(大きな声で)急げ!!!!」
アヒル型のボートに乗っている2人の小学生男子は急いでアヒル型のボートのペダルを漕ぎ始める
アヒル型のボートのペダルを漕いで鳴海と菜摘が乗っているローボートから逃げる2人の小学生男子
鳴海「教育のなってないガキだ・・・」
鳴海はローボートに座る
菜摘の顔は変わらず赤くなっている
鳴海「お、おい、だ、大丈夫か?」
菜摘「(顔を赤くしたまま)う、うん・・・」
鳴海「は、恥ずかしがるなよ・・・」
菜摘「(顔を赤くしたまま)だ、だって恥ずかしいんだもん・・・」
鳴海「ひ、人がいる緋空浜でキスをしたことだってあるじゃないか菜摘」
菜摘「(顔を赤くしたまま)あ、あれは・・・鳴海くんのお仕事が決まったお祝いだったから・・・」
鳴海「だ、だとしても今更恥ずかしがるようなことじゃないだろ」
菜摘「(顔を赤くしたまま)な、鳴海くんは気にならないの・・・?しょ、小学生の男の子に言われたんだよ・・・」
鳴海「き、気になるわけないじゃないか、相手は子供だぞ」
菜摘「(顔を赤くしたまま)そ、そうだけど・・・わ、私はいざ誰かに指摘されると恥ずかしくなっちゃうよ・・・」
鳴海「か、カメラのファインダーを覗くんだ菜摘、そしたら誰にも表情を悟られないだろ」
菜摘「(顔を赤くしたまま)わ、分かった・・・」
菜摘は顔を赤くしたまま一眼レフカメラのファインダーを覗く
シャボン玉を吹く鳴海
鳴海と菜摘の周りには鳴海が吹いたシャボン玉がふわふわと浮かんでいる
◯2040国営昭和記念公園/池泉回遊式庭園(昼過ぎ)
国営昭和記念公園の中の池泉回遊式庭園にいる鳴海と菜摘
国営昭和記念公園の中の池泉回遊式庭園は広く、木造平家建ての茶室、木造の小さな橋、竹垣などがある
国営昭和記念公園の中の池泉回遊式庭園にはたくさんの赤、ピンク、白、紫色のツツジが咲いている
国営昭和記念公園の中の池泉回遊式庭園で咲いているツツジの周りには、たくさんのカラスアゲハが飛んでいる
国営昭和記念公園の中の池泉回遊式庭園にはツツジ以外にもたくさんの大きな木が植っており、緑豊かになっている
国営昭和記念公園の中の池泉回遊式庭園には鳴海と菜摘以外にもカップル、家族連れ、老夫婦などたくさんの人がおり、写真を撮ったりしながら庭園を見て回っている
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海は売店で購入した物が入っているビニール袋を持っている
赤色のツツジを見ている鳴海と菜摘
菜摘は赤色のツツジを見ながらチラッと鳴海のことを見る
菜摘「(赤色のツツジを見ながらチラッと鳴海のことを見て)熱心に見てるね、鳴海くん」
鳴海「(赤色のツツジを見ながら)そ、そうか?」
菜摘「(赤色のツツジを見ながら)うん。さっきから黙ってずっと見てるもん」
鳴海は赤色のツツジを見るのをやめる
鳴海「(赤色のツツジを見るのをやめて)わ、悪い」
菜摘「(赤色のツツジを見ながら)ううん、好きなんだね、ツツジ」
鳴海「別に好きってほどでもないんだ」
菜摘は赤色のツツジを見るのをやめる
歩き出す鳴海
鳴海は鳴海に合わせて歩き出す
菜摘「そうなの?」
鳴海「ああ」
菜摘「でもその割にはよく見ていたんじゃない?」
鳴海「多分血筋のせいだ」
菜摘「血筋?」
鳴海「母さんと父さんが好きだったみたいでさ」
菜摘「そうなんだ・・・それなら鳴海くんも好きになるかもしれないよ」
鳴海「俺は・・・違うんだ」
少しの沈黙が流れる
木造で出来た小さな橋の上にはすみれと潤がいる
すみれと潤は手を繋いだまま木造で出来た小さな橋の上から池泉回遊式庭園を見ている
すみれと潤が手を繋いだまま木造で出来た小さな橋の上から池泉回遊式庭園を見ていることに気付く鳴海
鳴海「(すみれと潤が手を繋いだまま木造で出来た小さな橋の上から池泉回遊式庭園を見ていることに気付いて)菜摘、すみれさんと潤さんがいるぞ」
菜摘「えっ?どこ?」
鳴海と菜摘は立ち止まる
手を繋いだまま木造で出来た小さな橋の上から池泉回遊式庭園を見ているすみれと潤のことを指差す鳴海
鳴海「(手を繋いだまま木造で出来た小さな橋の上から池泉回遊式庭園を見ているすみれと潤のことを指差して)ほら、あの橋の上にいるだろ」
菜摘は手を繋いだまま木造で出来た小さな橋の上から池泉回遊式庭園を見ているすみれと潤の姿に気付く
菜摘「(手を繋いだまま木造で出来た小さな橋の上から池泉回遊式庭園を見ているすみれと潤の姿に気付いて)ほんとだ・・・デートかな・・・?」
鳴海は手を繋いだまま木造で出来た小さな橋の上から池泉回遊式庭園を見ているすみれと潤のことを指差すのをやめる
鳴海「(手を繋いだまま木造で出来た小さな橋の上から池泉回遊式庭園を見ているすみれと潤のことを指差すのをやめて)多分そうだろ。さっきも言ったけど、すみれさんと潤さんは本当に仲が良いよな」
菜摘「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)うん・・・お母さんとお父さんは昔からああなんだ」
再び沈黙が流れる
鳴海と菜摘は手を繋いだまま木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ている
鳴海と菜摘に見られていることに気付いていないすみれと潤
鳴海「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)菜摘」
菜摘「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)何・・・?」
鳴海「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)今日、すみれさんと潤さんを連れてクラブに行こうとした訳は、二人に昔みたいな青春をまた味わって欲しかったからか・・・?」
菜摘「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)うん・・・(少し間を開けて)正直に言うと・・・お母さんとお父さんにデートして欲しかったんだ・・・二人とも、いつも私のことを第一にしてくれて・・・自分たちの時間を確保出来てないと思ったから・・・」
鳴海「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)親孝行だな」
菜摘「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)そういうのじゃないよ、私は当たり前のことをしたかっただけだもん」
鳴海「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)当たり前でも偉いじゃないか菜摘。俺なら両親が生きていてもこんなことはしてなかったぞ」
菜摘「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)鳴海くんは、鳴海くんが考えてるよりもご両親のことを愛してるから、きっとたくさん親孝行をしたと思うよ。今だってお墓参りにもちゃんと行って、風夏さんのことを送り出して、毎日緋空浜で働いているだもん、それだけで十分親孝行だよ」
鳴海「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)実際に両親が生きていたら・・・今の俺を見てなんて言うか・・・」
菜摘「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)絶対悪いふうには言わないって、これまでの鳴海くんのことを見て来た証人だっているんだもん」
鳴海「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)誰が証人なんだ?」
菜摘「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)もちろん私と・・・お母さんと・・・お父さんと・・・風夏さんと・・・」
鳴海「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら菜摘の話を遮って)心細い証人だな・・・」
菜摘は手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見るのをやめる
菜摘「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見るのをやめて)こ、心細くなんかないよ!!」
鳴海「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)でかい声を出すとすみれさんと潤さんに気付かれるぞ」
菜摘「そ、そうだね、気をつけなきゃ・・・」
鳴海「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)俺たちは別の場所に行くか?菜摘」
菜摘「あ、じゃあ噴水があるところに行きたい」
少しの沈黙が流れる
鳴海は変わらず手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ている
菜摘「鳴海くん・・・?」
鳴海「(手を繋いで木造で出来た小さな橋の上にいるすみれと潤のことを見ながら)あ、ああ、噴水だな、分かったよ」
◯2041回想/貴志家リビング(約10年前/朝)
外は快晴
リビングにいる10歳頃の鳴海と30代後半頃の由夏理
10歳頃の鳴海と由夏理はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上には食パン、いちごジャムが置いてある
由夏理は前髪を一つに結んでいる
朝食を食べている10歳頃の鳴海と由夏理
10歳頃の鳴海はナイフを使っていちごジャムを食パンに塗っている
由夏理「鳴海、今日のママの前髪どう思う?若い?」
鳴海「(ナイフを使っていちごジャムを食パンに塗りながら)年・・・年・・・」
由夏理「歳が若くなったって?」
10歳頃の鳴海はナイフを使っていちごジャムを食パンに塗りながら首を横に振る
由夏理「えっ、若くなってない?」
鳴海「(ナイフを使っていちごジャムを食パンに塗りながら)年・・・そう・・・そう・・・?」
由夏理「(少し笑って)曹操は三国志。鳴海が言いたかったのは多分年相応だよね?」
鳴海「(ナイフを使っていちごジャムを食パンに塗りながら)うん、年相応」
由夏理「(少し笑いながら)これでもママ必死に若作りをしてるんだよ〜・・・(少し間を開けて)パイナップルヘアーだとシワが目立つのか・・・?」
鳴海「(ナイフを使っていちごジャムを食パンに塗りながら)パイナップルというよりは噴水が爆発したみたい」
由夏理「(少し笑いながら)噴水が爆発ね〜・・・こうなったら思い切ってセシルカットにでもしようかな〜・・・あ、鳴海ジャム塗り過ぎだって」
10歳頃の鳴海の食パンには大量のいちごジャムが塗りたくられている
鳴海「(ナイフを使っていちごジャムを食パンに塗りながら)何で?」
由夏理「何でじゃなくて塗り過ぎなの。甘い物をたくさん食べたら病気になっちゃうからさ、もうやめとこ?ね?鳴海」
鳴海「(ナイフを使ってちごジャムを食パンに塗りながら)ママはまだ若いよ」
少しの沈黙が流れる
由夏理は深くため息を吐き出す
由夏理「(深くため息を吐き出して)そんなことを言ってもダメなもんはダメだって、分かった?」
由夏理は10歳頃の鳴海からいちごジャムがついていたナイフを取り上げる
由夏理「(10歳頃の鳴海からいちごジャムがついていたナイフを取り上げて)今日はもういちごジャム禁止!」
鳴海「まだ少ししか塗ってないよ」
由夏理「どこが少しなのさ、パンの上にいちごゼリーを丸々一個落としたみたいになってるのに」
鳴海「じゃあハチミツとバターはつけて良い?」
由夏理「ダメダメダメダメ、いちごジャムだけで我慢しなさい」
鳴海「でもお姉ちゃんがいちごとハチミツとバターのコンボが美味しいって」
由夏理「それはお姉ちゃんの嘘だからね?鳴海、何でも信じちゃいけないよ。それから食べ物で実験したり遊んだりするのも禁止」
鳴海「禁止なこととダメなことばっかり・・・」
由夏理「禁止にするのは鳴海のためなんだよー。(少し間を開けて)全く・・・困ったことを教えるお姉ちゃんだ・・・」
少しすると波音高校の制服を着た16歳頃の風夏がリビングにやって来る
由夏理「おはよ、不機嫌なお嬢さん」
16歳頃の風夏はテーブルに向かって椅子に座る
風夏「(不機嫌そうに)太るから朝はご飯にしてって頼んだじゃんママ」
由夏理「若いんだから別に太ったって良いでしょー」
10歳頃の鳴海は大量のいちごジャムが塗りたくられた食パンを食べ始める
風夏「(不機嫌そうに)ママのせいで2キロも太ったんだよ」
由夏理「(少し笑って)2キロじゃ大して変わらないって風夏。それにそういうことは気にし過ぎない方が良いからさ、若いうちは好きなように食べて・・・」
鳴海「(大量のいちごジャムが塗りたくられた食パンを食べながら由夏理の話を遮って)じゃあもっといちごジャム塗って良い?」
由夏理「鳴海はダーメ」
鳴海「(いちごジャムが塗りたくられた食パンを食べながら)どうしてよ」
由夏理「ママがダメと思ったことはダメなの、それがこの家のルールなんだからね?」
10歳頃の鳴海の口の周りにはいちごジャムがついている
16歳頃の風夏は10歳頃の鳴海の口の周りについていたいちごジャムをデコピンで弾き飛ばす
16歳頃の風夏がデコピンで弾き飛ばしたいちごジャムが由夏理の服につく
由夏理「ちょっとお嬢さん、ティッシュを使ってよ」
風夏「(不機嫌そうに)そのティッシュがないじゃん・・・」
由夏理「なら手で落とせば良いでしょー?」
風夏「(不機嫌そうに)汚いし・・・」
由夏理「弟のことをそんなふうに言わないで。ママやパパのことは構わないけど、姉弟は大切してよ風夏」
風夏「大切にしてるって・・・ママよりは・・・」
少しの沈黙が流れる
大量のいちごジャムが塗りたくられた食パンを食べていた10歳頃の鳴海の手が止まる
風夏「ママは色々おかしいよ・・・自分じゃ分かってないんだろうけど・・・」
由夏理「わ、分かってる・・・分かってるからさ風夏、こ、こういう話は学校から帰ってからにしようよ・・・ね・・・?」
風夏「説教を始めたのはそっちのくせに・・・」
再び沈黙が流れる
由夏理「(少し笑って)ち、遅刻したら良くないでしょ・・・?(少し間を開けて)あ、そうだ・・・遅刻しないようにユカリーニが風夏に魔法をかけてあげよっか」
風夏「キモいからやめてよ・・・」
由夏理「(少し笑いながら)き、キモいって?」
風夏「やっぱ何も分かってないじゃん・・・(少し間を開けて)ママが言ったこと、ママがしたこと、これからママがしようとしてることの何かもが・・・私たちからしたら気持ち悪いのに・・・」
6歳頃の鳴海はチラッと10歳頃の風夏のことを見る
少しの沈黙が流れる
風夏「もっと普通にしてよ」
由夏理「(少し笑いながら)べ、別にママは普通でしょー」
風夏「だから普通じゃないんだって・・・色々おかしいじゃん・・・行動も発言も、子供みたいなことばっかだし・・・」
由夏理「ま、ママはこれで良いの、む、昔からこういう人なんだからさ。風夏はママなんか気にせずに自分のことを・・・」
風夏「(由夏理の話を遮って)私のことって何?勉強とか?」
由夏理「そ、そうそう、勉強と運動、風夏はまだ子供なんだし」
風夏「じゃあ聞くけど、ママは大人としてちゃんとやれてるの?」
再び沈黙が流れる
10歳頃の鳴海は立ち上がる
鳴海「(立ち上がって)そ、そろそろ学校行くね」
由夏理「あ、朝ご飯は?」
鳴海「も、もう要らない」
10歳頃の鳴海はリビングから出て行こうとする
由夏理「ま、待って鳴海」
10歳頃の鳴海は立ち止まる
由夏理「こ、こっちにおいで、顔の汚れを取ってあげるからさ」
鳴海「い、良いよ、自分でやれるし」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(少し寂しそうに笑って)そ、そうだよね・・・ご、ごめんね鳴海、小さい子みたいな扱いをしちゃって」
10歳頃の鳴海はリビングから出て行く
◯2042回想戻り/国営昭和記念公園/噴水広場(昼過ぎ)
国営昭和記念公園の中の噴水広場にいる鳴海と菜摘
国営昭和記念公園の中の噴水広場は広く、中心に大きな噴水がある
国営昭和記念公園の中の噴水広場にはたくさんの大きな木が植っており、緑豊かになっている
国営昭和記念公園の中の噴水広場には鳴海と菜摘以外にもカップル、家族連れ、老夫婦などたくさんの人がおり、写真を撮ったり地面に座ったりして過ごしている
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海と菜摘は噴水広場の噴水の近くで地面に座っている
鳴海と菜摘の近くには売店で購入した物が入っているビニール袋が置いてある
菜摘「鳴海くん・・・何か考えごと・・・?」
鳴海「ちょっとな・・・昔のことだよ」
菜摘「昔って・・・お母さんとお父さんに関することじゃないの・・・?」
鳴海「菜摘には俺の心の中はお見通しか・・・」
菜摘「ごめん・・・最近の鳴海くんは、よくご両親のことについて考えているみたいだから・・・それで・・・」
鳴海「気にしないでくれ菜摘。俺もそう思ってたんだ、両親のことを考えたり、思い出したりし過ぎだってさ」
菜摘「思い出すのは良いことだよ」
鳴海「そうだな、でも思い出したら同時に考えることにもなるんだ」
菜摘「鳴海くんはそれが嫌なの・・・?」
鳴海「まあ・・・楽しくはないな・・・」
菜摘「そっか・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「さ、最後のおもちゃはいつ使う・・・?」
鳴海「別にいつでも良いぞ」
鳴海は近くに置いてあった売店で購入した物が入っているビニール袋を手に取る
売店で購入した物が入っているビニール袋から紙風船を取り出す鳴海
鳴海は売店で購入した物が入っているビニール袋を地面に置く
紙風船に息を吹きかけて膨らませる鳴海
少しすると紙風船は完全に膨らく
鳴海は紙風船に息を吹きかけるのをやめる
菜摘「お祭りみたいだね」
鳴海「そうか?」
菜摘「うん、緋空祭りを思い出すもん」
鳴海「紙風船なんか売られていたか?」
菜摘「昔は売られてたよ、最近は見かけなくなっちゃったけど」
鳴海「なら俺も親に買ってもらったかもしれないな・・・」
菜摘「覚えてないの?」
鳴海「ああ。だがガキの頃は両親と緋空祭りに行っているし、可能性はあるだろ?」
菜摘「そうだね」
鳴海は立ち上がる
紙風船を手で弾く鳴海
鳴海「(紙風船を手で弾きながら少し笑って)もしかしたら・・・最初からそんな出来事はなかったかもしれないが」
菜摘「それは・・・悲しくない・・・?」
鳴海「(紙風船を手で弾きながら少し笑って)そのくらいで良いんだ菜摘、なかったらなかったで楽だしな」
再び沈黙が流れる
菜摘は大きなあくびをする
鳴海「(紙風船を手で弾きながら)珍しいじゃないか」
菜摘「ん・・・?珍しいって何が・・・?」
鳴海「(紙風船を手で弾きながら)菜摘があくびをすることだよ」
菜摘「そうかな・・・?」
鳴海「(紙風船を手で弾きながら)学校でも全然しなかったじゃないか」
菜摘「学校は眠くなっちゃいけない場所だもん」
鳴海「(紙風船を手で弾きながら)眠くなるような授業をする奴が悪いって考えを持っていた俺や嶺二とは違うな、菜摘は」
菜摘「(少し笑って)大違いだよ」
鳴海「(紙風船を手で弾きながら)さすがは優良な生徒だ」
菜摘「鳴海くんたちが不真面目過ぎたんじゃないの・・・?」
鳴海「(紙風船を手で弾きながら)そんなことはないぞ、学校は息抜きをする場所だからな」
菜摘「勉強するところだよ鳴海くん」
鳴海は紙風船を手で弾くのをやめる
鳴海「(紙風船を手で弾くのをやめて少し笑って)しょうがないからそういうことにしてやるか」
菜摘「全然しょうがなくなんかないと思う・・・」
鳴海は菜摘の隣に座る
菜摘の隣に座って空を見上げる鳴海
太陽が国営昭和記念公園の中の噴水広場にいる鳴海と菜摘のことを照らしている
菜摘「良い天気だね、鳴海くん」
鳴海「(空を見上げたまま)だな」
少しの沈黙が流れる
鳴海は太陽を見ている
太陽は◯2035の国営昭和記念公園の中のサイクリングコースで菜摘が空を見上げた時と、◯2038の広場で菜摘が空を見上げた時と完全に同じ位置にある
鳴海「(空を見上げて太陽を見たまま)しかしまだ昼か・・・」
菜摘は再び大きなあくびをする
◯2043国営昭和記念公園の駐車場(夜)
国営昭和記念公園の大きな駐車場にいる鳴海、菜摘、すみれ、潤
国営昭和記念公園の駐車場は広く、たくさんの車が止まっている
鳴海は一眼レフカメラを首から下げている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海は売店で購入した物が入っているビニール袋を持っている
菜摘のことを抱き抱えている鳴海
菜摘は鳴海に抱き抱えられたまま眠っている
車があるところに向かっている鳴海、菜摘、すみれ、潤
潤「すっかり暗くなっちまったな・・・」
すみれ「そうね・・・夕方までには戻りましょうって話をしていたのに・・・」
鳴海「(眠っている菜摘のことを抱き抱えたまま)はしゃぎ過ぎましたね・・・」
潤「てめえ俺たちの菜摘になんてことをしやがったんだ」
鳴海「(眠っている菜摘のことを抱き抱えたまま)別に何もしてないんだが・・・」
潤「牧場の牛みたいに眠りこけさせやがって、運んでくれてありがとよ」
鳴海「(眠っている菜摘のことを抱き抱えたまま小声でボソッと)もう少し素直に感謝してくれても良いんだけどな・・・」
すみれ「(少し笑って)菜摘も疲れたのね、前々から今日はたくさん遊ぶって楽しみにしていたから」
鳴海「(眠っている菜摘のことを抱き抱えたまま)すみません・・・俺が連れ回し過ぎました・・・」
潤「菜摘はお前が相手なら気を抜けるんだろ、だからこんなに爆睡しているんだ」
鳴海「(眠っている菜摘のことを抱き抱えたまま)そ、そうなのか・・・」
少しすると鳴海、菜摘、すみれ、潤は車の元に辿り着く
ポケットから車の鍵を取り出し、車のドアの鍵を開ける潤
潤は車の後部座席のドアを開ける
潤「(車の後部座席のドアを開けて)菜摘の頭をぶつけるんじゃないぞ」
鳴海「(眠っている菜摘のことを抱き抱えたまま)ああ」
鳴海は眠っている菜摘を車の後部座席に慎重に乗せる
眠っている菜摘を慎重に乗せて車の後部座席に乗り込む鳴海
すみれは車の助手席のドアを開ける
車の助手席に乗り込むすみれ
潤は車の運転席のドアを開ける
車の助手席のドアを閉めるすみれ
潤は運転席に乗り込む
車の運転席のドアを閉める潤
潤は運転席のドアを閉めてエンジンをかける
車のアクセルを踏む潤
鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗っている車がゆっくり夜道を進み始める
鳴海たちが乗っている車が進んでも菜摘は変わらず眠っている
運転をしながらチラッと車のバックミラー越しに眠っている菜摘のことを見る潤
潤「(運転をしながらチラッと車のバックミラー越しに眠っている菜摘のことを見て)寝顔だけは・・・いつまで経っても生まれた時と変わらねえんだな・・・」
すみれ「天使のような・・・あの顔ね・・・」
鳴海は隣で眠っている菜摘のことを見る
潤「(運転をしながら)起こすんじゃねえぞ、義理の息子」
鳴海「(隣で眠っている菜摘のことを見たまま)起こさねえよ・・・」
潤「(運転をしながら)お前はむしろ菜摘の寝顔を守らなきゃならねえんだ」
鳴海は隣で眠っている菜摘のことを見るのをやめる
鳴海「(隣で眠っている菜摘のことを見るのをやめて)昔・・・親父にも似たようなことを言われたな・・・姉貴とお袋のことを守れるくらい強い男になれって」
すみれ「紘くんらしい言葉・・・本当にお父さんは鳴海くんに厳しくしていたのね・・・」
鳴海「まあ・・・それなりには・・・」
潤「(運転をしながら)強い男って単語がお前の親父をよく表してるよ」
鳴海「そうなのか?」
潤「(運転をしながら)あいつは憧れていたんだろうな、昭和の・・・強い男ってのによ」
鳴海「強い男・・・な・・・」
すみれ「鳴海くんもそうなりたいと思っているんですか?」
鳴海「さあ・・・(少し間を開けて)俺にはよく分からないんです、そもそも親父がどんな人だったのかも・・・まだ・・・知らないというか・・・覚えていないことだらけですから・・・」
潤「(運転をしながら)鳴海」
鳴海「ああ」
潤「(運転をしながら)いつか言ったが、俺たちに聞きたいことがあれば何でも聞けよ」
鳴海「聞きたいことか・・・」
潤「(運転をしながら)無理に捻り出せってわけじゃねえ」
鳴海「分かってるよ。まだ特に思い付かないんだ」
潤「(運転をしながら)なら良い、お前もちょっとは寝ろ」
鳴海「何だよ急に」
すみれ「鳴海くん、明日はお仕事でしょう?」
鳴海「はい」
すみれ「じゃあ休まないと」
鳴海「ま、まだ平気ですよ」
すみれ「無理はいけません」
鳴海「べ、別に無理なんて・・・」
すみれ「鳴海くん、もう時間も遅いんだから」
鳴海「い、今何時なんですか?」
少しの沈黙が流れる
すみれ「ごめんなさい、時間が遅いって言うのは嘘なの」
鳴海「う、嘘・・・?」
すみれ「さっきから腕時計の調子が悪くて、本当の時間が分からないんです」
潤「(運転をしながら)心配すんなすみれ、時計くらい何度だって俺が直すぞ」
すみれ「ありがとう、潤くん」
鳴海「(小声で)またすみれさんの時計が・・・」
鳴海は外を見る
外は等間隔で街灯があるだけで他には何もない
街頭の明かりを頼りに鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗っている車は一般道を走っている
一般道には鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗っている車しか走っておらず、他には何もない
外には人もいない
鳴海「(外を見ながら)潤さん、窓開けて良いか?」
潤「(運転をしながら)構わないが少しだけにしろよ、大事な菜摘の体を冷やすわけにはいかないんだ」
鳴海「(外を見ながら)ああ」
鳴海は外を見ながら後部座席の窓を少しだけ開ける
後部座席の窓の隙間から風が入ってくる
外を見ながら大きなあくびをする鳴海
後部座席の窓の隙間からレベッカ・パンの”ブンガワン・ソロ”がどこからか聞こえて来る
鳴海「(外を見ながら)この曲・・・どこかで・・・」
すみれ「懐かしいね、潤くん」
潤「(運転をしながら)ああ・・・最果ての蝶を思い出すな」
すみれ「ええ」
鳴海「(外を見ながら 声 モノローグ)最果ての・・・(少し間を開けて)小説のタイトルだったか・・・?」
後部座席の窓の隙間から聞こえて来ているレベッカ・パンの”ブンガワン・ソロ”の音が、少しずつ近付いて来る
鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗っている車の中が突然、赤、青、緑、黄色、ピンク、紫などカラフルな色に照らされ始める
鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗っている車の真横には大きくて派手なデコレーショントラックが走っている
大きくて派手なデコレーショントラックの運転手は瑠璃
瑠璃は鳴海や菜摘よりも少し年齢が上で、極めて中性的な容姿をしている
大きくて派手なデコレーショントラックの運転席の窓は全開で開いており、窓からタバコを持った瑠璃の手が出ている
瑠璃は瑠璃色のチャイナドレスを着ており、タバコを吸いながら大きくて派手なデコレーショントラックを運転している
瑠璃が運転をしている大きくて派手なデコレーショントラックの荷台の側面には、”蝶人間”と太字で書かれており、黒い蝶の羽を生やした瑠璃と浜辺のイラストが描かれている
瑠璃が運転をしている大きくて派手なデコレーショントラックは、赤、青、緑、黄色、ピンク、紫などたくさんの電球が装飾として施されており、それら全ての電球が発光しカラフルに周囲を照らしている
瑠璃が運転をしている大きくて派手なデコレーショントラックは、正面の部分にもクロムメッキの装飾がたくさんつけられている
レベッカ・パンの”ブンガワン・ソロ”は瑠璃が運転をしている大きくて派手なデコレーショントラックから流れている
鳴海は瑠璃が運転をしている大きくて派手なデコレーショントラックを見ている
運転をしながらタバコを咥える瑠璃
瑠璃はタバコを咥えて運転をしながらチャイナドレスの右手の袖をまくる
タバコを咥えて運転をしながら右手首を運転席の窓の外に少し出す瑠璃
瑠璃の右手首には綺麗な赤いツツジが描かれている
瑠璃の右手首に描かれている赤いツツジは、◯1961の鳴海が夢で見た約30年前の波音駅のホームで18歳の紘が、同じく18歳の由夏理の右手首に描いた赤いツツジと完全に同じもの
鳴海は瑠璃の右手首に描かれている赤いツツジを見る
瑠璃が運転をしている大きくて派手なデコレーショントラックは、鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗っている車よりも少し前を走る
瑠璃はタバコを咥えて運転をしながら、大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに鳴海のことを見ている
瑠璃に大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに見られていることに気付く鳴海
鳴海は大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに、タバコを咥えて運転をしている瑠璃のことを見る
鳴海と瑠璃の目が大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに合う
瑠璃はタバコを咥えて運転をしながら、大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに鳴海と目が合って少し笑う
タバコを咥えて運転をしながら、大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに鳴海と目が合って少し笑い、サイドミラー越しに鳴海に向かってウインクをする瑠璃
鳴海は大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに、タバコを咥えて運転をしている瑠璃と目が合ったまま困惑している
潤「(運転をしながら)おい、そろそろ閉めるぞ」
鳴海「(大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに、タバコを咥えて運転をしている瑠璃と目が合ったまま)な・・・・ま、待ってくれ」
潤「(運転をしながら)ダメだ、菜摘の体が冷えるだろ」
潤は運転をしながら後部座席の窓を閉める
タバコを咥えて運転をしながら、大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに鳴海に向かって微笑んでいる瑠璃
潤は運転をしながら後部座席の窓を完全に閉める
後部座席の窓の隙間から聞こえていたレベッカ・パンの”ブンガワン・ソロ”が聞こえなくなる
瑠璃はタバコを咥えて運転をしながら、大きくて派手なデコレーショントラックのサイドミラー越しに鳴海に向かって微笑むのをやめる
タバコを咥えて運転をしながら、運転席の窓の外に綺麗な赤いツツジが描かれた右手首を出すのをやめる瑠璃
瑠璃がタバコを咥えながら運転をしている大きくて派手なデコレーショントラックは、どんどん先へ進み、鳴海、菜摘、すみれ、潤が乗っている車からはあっという間に見えなくなる
鳴海「(外を見ながら)な、何だったんだ・・・今のは・・・」
潤「(運転をしながら)最果ての蝶は家にあっただろ、すみれ」
すみれ「うん・・・ずいぶん前に買った物だけど・・・」
鳴海「(外を見ながら 声 モノローグ)最果ての蝶・・・間違いない・・・知ってる言葉だ・・・(少し間を開けて)すみれさんと潤さんにも馴染みがあるのか・・・?」
鳴海は外を見るのをやめる
すみれと運転をしている潤のことを見る鳴海
いつの間にかすみれと運転をしている潤の姿が18歳になっている
鳴海は呆然と18歳のすみれと運転をしている18歳の潤のことを見ている
すみれ「潤くん、前にもこういうことってなかったかしら」
潤「(運転をしながら)俺たちに前なんてないだろ、すみれ」
鳴海は18歳のすみれと運転をしている18歳の潤のことを見ながら両目を擦る
少しの間18歳のすみれと運転をしている18歳の潤のことを見ながら両目を擦り続ける鳴海
鳴海は両目を擦るのをやめる
すみれと潤は変わらず18歳のままになっている
すみれ「波音駅で腕時計が壊れたことがあったでしょう?」
潤「(運転をしながら)それがどうしたってんだ?」
すみれ「あの時と今日ってよく似ていると思ったの」
潤「(運転をしながら)そうか・・・(少し間を開けて)そうかもしれないな、あの時を繰り返してるみたいだ」
鳴海「(18歳のすみれと運転をしている18歳の潤のことを見ながら 声 モノローグ)わ、訳が分からない・・・意味不明なことが起きている・・・一体・・・どうなってるんだ・・・?」
鳴海は18歳のすみれと運転をしている18歳の潤を見るのをやめる
隣で眠っている菜摘のことを見る鳴海
菜摘は変わらず眠り続けている
鳴海には隣で眠っている菜摘の姿が由夏理と重なって見える
鳴海「(隣で眠っている菜摘の姿が由夏理と重なって見えながら 声 モノローグ)つ、疲れ過ぎているのか・・・?これは現実だろ・・・?夢じゃないよな・・・?」
菜摘「(由夏理と姿が重なり眠りながら)過去を覗いた・・・夢が過去を教えてくれる・・・(少し間を開けて)鳴海くんもそろそろ眠った方が良いよ・・・もうすぐ・・・朝だから・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海には変わらず隣で眠っている菜摘の姿が由夏理と重なって見えている
鳴海「(隣で眠っている菜摘の姿が由夏理と重なって見えながら)な、菜摘・・・これは夢なのか・・・?」
潤「(運転をしながら)菜摘を起こすんじゃねえぞ」
鳴海は隣で眠り由夏理と姿が重なっていた菜摘のことを見るのをやめる
すみれと運転をしている潤のことを見る鳴海
すみれと運転をしている潤は18歳ではなく元の年齢に戻っている
少しの沈黙が流れる
潤「(運転をしながら)おい、起こすなつったのが聞こえてないのか」
鳴海はすみれと運転をしている潤のことを見るのをやめる
鳴海「(すみれと運転をしている潤のことを見るのをやめて)き、聞こえてるよ・・・」
すみれ「鳴海くんも寝た方が良いんじゃないですか?」
鳴海「そうですね・・・もう・・・寝ます・・・」
鳴海は両目を瞑る
すみれ「寝る子はよく育ちますからね」
鳴海「(両目を瞑ったまま)俺・・・子供じゃないんですけど・・・」
少しの沈黙が流れる
すみれと潤の会話が小さな声で聞こえて来る
潤「(小さな声)あの日は夜が長かったよな・・・」
すみれ「(小さな声)ええ・・・エカクラに行ったり・・・ボウリングをしたり・・・(少し間を開けて)でも今日は昼間が・・・」
潤「(小さな声)夕方が来なかったように・・・」
すみれ「(小さな声)菜摘が・・・のかしらね・・・」
すみれと潤の会話は途切れ途切れて聞こえて来ている
潤「(小さな声)菜摘が選んでしてることを・・・」
すみれ「(小さな声)私たちに止められる・・・」
潤「(小さな声)鳴海が・・・かもしれないだろ・・・」
すみれ「(小さな声)・・・に任せるなんて・・・私たちは親失格・・・」
潤「(小さな声)俺たちは・・・やっている・・・夢を諦めて・・・菜摘に救われた人生でも・・・」
鳴海「(両目を瞑ったまま 声 モノローグ)すみれさんと潤さんの会話は、よく聞こえなかった・・・瞼を閉じた瞬間、一気に眠気が襲って来たからだ・・・(少し間を開けて)帰宅後、俺はカメラに保存されている写真を全て確認した。だがどこを探しても、俺が目を瞑ったまま写っている写真は一枚も見当たらなかった。例のチューリップの側で菜摘が撮った写真もそうだ、俺の目はしっかり開いていて、現実か夢を見ている。まるで今日という一日がそのまま存在していなかったかのように、菜摘が撮った写真はこの世から消えてしまった。もしかしたら今日はなかったのかもしれない。昨日、菜摘たちは姉貴と龍さんと過ごしてるはずだが、考えてみると俺には昨日の記憶がなかった。仕事で疲れて丸々一日寝ていたのだろうか?だとしたら俺はいつ起きたのだろう?何かもがよく分からないまま・・・俺は平日を迎えた・・・」