Chapter7♯11 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter7 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
登場人物
貴志 鳴海 19歳男子
Chapter7における主人公。昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の副部長として合同朗読劇や部誌の制作などを行っていた。波音高校卒業も無鉄砲な性格と菜摘を一番に想う気持ちは変わっておらず、時々叱られながらも菜摘のことを守ろうと必死に人生を歩んでいる。後に鳴海は滅びかけた世界で暮らす老人へと成り果てるが、今の鳴海はまだそのことを知る由もない。
早乙女 菜摘 19歳女子
Chapter7におけるもう一人の主人公でありメインヒロイン。鳴海と同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部の部長を務めていた。病弱だが性格は明るく優しい。鳴海と過ごす時間、そして鳴海自身の人生を大切にしている。鳴海や両親に心配をかけさせたくないと思っている割には、危なっかしい場面も少なくはない。輪廻転生によって奇跡の力を引き継いでいるものの、その力によってあらゆる代償を強いられている。
貴志 由夏理
鳴海、風夏の母親。現在は交通事故で亡くなっている。すみれ、潤、紘とは同級生で、高校時代は潤が部長を務める映画研究会に所属していた。どちらかと言うと不器用な性格な持ち主だが、手先は器用でマジックが得意。また、誰とでも打ち解ける性格をしている
貴志 紘
鳴海、風夏の父親。現在は交通事故で亡くなっている。由夏理、すみれ、潤と同級生。波音高校生時代は、潤が部長を務める映画研究会に所属していた。由夏理以上に不器用な性格で、鳴海と同様に暴力沙汰の喧嘩を起こすことも多い。
早乙女 すみれ 46歳女子
優しくて美しい菜摘の母親。波音高校生時代は、由夏理、紘と同じく潤が部長を務める映画研究会に所属しており、中でも由夏理とは親友だった。娘の恋人である鳴海のことを、実の子供のように気にかけている。
早乙女 潤 47歳男子
永遠の厨二病を患ってしまった菜摘の父親。歳はすみれより一つ上だが、学年は由夏理、すみれ、紘と同じ。波音高校生時代は、映画研究会の部長を務めており、”キツネ様の奇跡”という未完の大作を監督していた。
貴志/神北 風夏 25歳女子
看護師の仕事をしている6つ年上の鳴海の姉。一条智秋とは波音高校時代からの親友であり、彼女がヤクザの娘ということを知りながらも親しくしている。最近引越しを決意したものの、引越しの準備を鳴海と菜摘に押し付けている。引越しが終了次第、神北龍造と結婚する予定。
神北 龍造 25歳男子
風夏の恋人。緋空海鮮市場で魚介類を売る仕事をしている真面目な好青年で、鳴海や菜摘にも分け隔てなく接する。割と変人が集まりがちの鳴海の周囲の中では、とにかく普通に良い人とも言える。因みに風夏との出会いは合コンらしい。
南 汐莉 16歳女子
Chapter5の主人公でありメインヒロイン。鳴海と菜摘の後輩で、現在は波音高校の二年生。鳴海たちが波音高校を卒業しても、一人で文芸部と軽音部のガールズバンド”魔女っ子の少女団”を掛け持ちするが上手くいかず、叶わぬ響紀への恋や、同級生との距離感など、様々な問題で苦しむことになった。荻原早季が波音高校の屋上から飛び降りる瞬間を目撃して以降、”神谷の声”が頭から離れなくなり、Chapter5の終盤に命を落としてしまう。20Years Diaryという日記帳に日々の出来事を記録していたが、亡くなる直前に日記を明日香に譲っている。
一条 雪音 19歳女子
鳴海たちと同じく昨年度までは波音高校に在籍し、文芸部に所属していた。才色兼備で、在学中は優等生のふりをしていたが、その正体は波音町周辺を牛耳っている組織”一条会”の会長。本当の性格は自信過剰で、文芸部での活動中に鳴海や嶺二のことをよく振り回していた。完璧なものと奇跡の力に対する執着心が人一倍強い。また、鳴海たちに波音物語を勧めた張本人でもある。
伊桜 京也 32歳男子
緋空事務所で働いている生真面目な鳴海の先輩。中学生の娘がいるため、一児の父でもある。仕事に対して一切の文句を言わず、常にノルマをこなしながら働いている。緋空浜周囲にあるお店の経営者や同僚からの信頼も厚い。口下手なところもあるが、鳴海の面倒をしっかり見ており、彼の”メンター”となっている。
荻原 早季 15歳(?)女子
どこからやって来たのか、何を目的をしているのか、いつからこの世界にいたのか、何もかもが謎に包まれた存在。現在は波音高校の新一年生のふりをして、神谷が受け持つ一年六組の生徒の中に紛れ込んでいる。Chapter5で波音高校の屋上から自ら命を捨てるも、その後どうなったのかは不明。
瑠璃
鳴海よりも少し歳上で、極めて中性的な容姿をしている。鳴海のことを強く慕っている素振りをするが、鳴海には瑠璃が何者なのかよく分かっていない。伊桜同様に鳴海の”メンター”として重要な役割を果たす。
来栖 真 59歳男子
緋空事務所の社長。
神谷 志郎 44歳男子
Chapter5の主人公にして、汐莉と同様にChapter5の終盤で命を落としてしまう数学教師。普段は波音高校の一年六組の担任をしながら、授業を行っていた。昨年度までは鳴海たちの担任でもあり、文芸部の顧問も務めていたが、生徒たちからの評判は決して著しくなかった。幼い頃から鬱屈とした日々を過ごして来たからか、発言が支離滅裂だったり、感情の変化が激しかったりする部分がある。Chapter5で早季と出会い、地球や子供たちの未来について真剣に考えるようになった。
貴志 希海 女子
貴志の名字を持つ謎の人物。
三枝 琶子 女子
“The Three Branches”というバンドを三枝碧斗と組みながら、世界中を旅している。ギター、ベース、ピアノ、ボーカルなど、どこかの響紀のようにバンド内では様々なパートをそつなくこなしている。
三枝 碧斗 男子
“The Three Branches”というバンドを琶子と組みながら、世界中を旅している、が、バンドからベースとドラムメンバーが連続で14人も脱退しており、なかなか目立った活動が出来てない。どこかの響紀のようにやけに聞き分けが悪いところがある。
有馬 千早 女子
ゲームセンターギャラクシーフィールドで働いている、千春によく似た店員。
太田 美羽 30代後半女子
緋空事務所で働いている女性社員。
目黒 哲夫 30代後半男子
緋空事務所で働いている男性社員。
一条 佐助 男子
雪音と智秋の父親にして、”一条会”のかつての会長。物腰は柔らかいが、多くのヤクザを手玉にしていた。
一条 智秋 25歳女子
雪音の姉にして風夏の親友。一条佐助の死後、若き”一条会”の会長として活動をしていたが、体調を崩し、入院生活を強いられることとなる。智秋が病に伏してから、会長の座は妹の雪音に移行した。
神谷 絵美 30歳女子
神谷の妻、現在妊娠中。
神谷 七海 女子
神谷志郎と神谷絵美の娘。
天城 明日香 19歳女子
鳴海、菜摘、嶺二、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。お節介かつ真面目な性格の持ち主で、よく鳴海や嶺二のことを叱っていた存在でもある。波音高校在学時に響紀からの猛烈なアプローチを受け、付き合うこととなった。現在も、保育士になる資格を取るために専門学校に通いながら、響紀と交際している。Chapter5の終盤にて汐莉から20Years Diaryを譲り受けたが、最終的にその日記は滅びかけた世界のナツとスズの手に渡っている。
白石 嶺二 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、雪音の元クラスメートで、昨年度までは文芸部に所属していた。鳴海の悪友で、彼と共に数多の悪事を働かせてきたが、実は仲間想いな奴でもある。軽音部との合同朗読劇の成功を目指すために裏で奔走したり、雪音のわがままに付き合わされたりで、意外にも苦労は多い。その要因として千春への恋心があり、消えてしまった千春との再会を目的に、鳴海たちを様々なことに巻き込んでいた。現在は千春への想いを心の中にしまい、上京してゲーム関係の専門学校に通っている。
三枝 響紀 16歳女子
波音高校に通う二年生で、軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”のリーダー。愛する明日香関係のことを含めても、何かとエキセントリックな言動が目立っているが、音楽的センスや学力など、高い才能を秘めており、昨年度に行われた文芸部との合同朗読劇でも、あらゆる分野で多大な(?)を貢献している。
永山 詩穂 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はベース。メンタルが不安定なところがあり、Chapter5では色恋沙汰の問題もあって汐莉と喧嘩をしてしまう。
奥野 真彩 16歳女子
波音高校に通う二年生、汐莉、響紀、詩穂と同じく軽音部のガールズバンド”魔女っ子少女団”に所属している、担当はドラム。どちらかと言うと我が強い集まりの魔女っ子少女団の中では、比較的協調性のある方。だが食に関しては我が強くなる。
双葉 篤志 19歳男子
鳴海、菜摘、明日香、嶺二、雪音と元同級生で、波音高校在学中は天文学部に所属していた。雪音とは幼馴染であり、その縁で”一条会”のメンバーにもなっている。
井沢 由香
波音高校の新一年生で神谷の教え子。Chapter5では神谷に反抗し、彼のことを追い詰めていた。
伊桜 真緒 37歳女子
伊桜京也の妻。旦那とは違い、口下手ではなく愛想良い。
伊桜 陽芽乃 13歳女子
礼儀正しい伊桜京也の娘。海亜中学校という東京の学校に通っている。
水木 由美 52歳女子
鳴海の伯母で、由夏理の姉。幼い頃の鳴海と風夏の面倒をよく見ていた。
水木 優我 男子
鳴海の伯父で、由夏理の兄。若くして亡くなっているため、鳴海は面識がない。
鳴海とぶつかった観光客の男 男子
・・・?
少年S 17歳男子
・・・?
サン 女子
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ミツナ 19歳女子
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X 25歳女子
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Y 25歳男子
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ドクターS 19歳女子
・・・?
シュタイン 23歳男子
・・・?
伊桜の「滅ばずの少年の物語」に出て来る人物
リーヴェ 17歳?女子
奇跡の力を宿した少女。よくいちご味のアイスキャンディーを食べている。
メーア 19歳?男子
リーヴェの世界で暮らす名も無き少年。全身が真っ黒く、顔も見えなかったが、リーヴェとの交流によって本当の姿が現れるようになり、メーアという名前を手にした。
バウム 15歳?男子
お願いの交換こをしながら旅をしていたが、リーヴェと出会う。
盲目の少女 15歳?女子
バウムが旅の途中で出会う少女。両目が失明している。
トラオリア 12歳?少女
伊桜の話に登場する二卵性の双子の妹。
エルガラ 12歳?男子
伊桜の話に登場する二卵性の双子の兄。
滅びかけた世界
老人 男子
貴志鳴海の成れの果て。元兵士で、滅びかけた世界の緋空浜の掃除をしながら生きている。
ナツ 女子
母親が自殺してしまい、滅びかけた世界を1人で彷徨っていたところ、スズと出会い共に旅をするようになった。波音高校に訪れて以降は、掃除だけを繰り返し続けている老人のことを非難している。
スズ 女子
ナツの相棒。マイペースで、ナツとは違い学問や過去の歴史にそれほど興味がない。常に腹ペコなため、食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。
柊木 千春 15、6歳女子
元々はゲームセンターギャラクシーフィールドにあったオリジナルのゲーム、”ギャラクシーフィールドの新世界冒険”に登場するヒロインだったが、奇跡によって現実にやって来る。Chapter2までは波音高校の一年生のふりをして、文芸部の活動に参加していた。鳴海たちには学園祭の終了時に姿を消したと思われている。Chapter6の終盤で滅びかけた世界に行き、ナツ、スズ、老人と出会っている。
Chapter7♯11 √鳴海(菜摘−由夏理)×√菜摘(鳴海)×由夏理(鳴海+風夏−紘)=海の中へ沈んだ如く
◯1974貴志家鳴海の自室(日替わり/朝)
片付いている鳴海の部屋
ベッド眠っている鳴海
鳴海の部屋はカーテンが閉められている
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
ベッドで眠っていた鳴海が突然目を覚ます
勢いよく体を起こす鳴海
鳴海「(勢いよく体を起こして)も、戻って来たのか!?」
少しの沈黙が流れる
鳴海はベッドから出る
カーテンを開ける鳴海
外は曇っている
外を見ている鳴海
鳴海「(外を見ながら)夢の中の天気に似ているな・・・」
◯1975貴志家リビング(朝)
外は曇っている
リビングにいる鳴海、菜摘、風夏、龍造
リビングには風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海、菜摘、風夏、龍造は引越しの準備をしつつ、リビングに山積みになった段ボール箱を玄関に持ち運んでいる
龍造「(段ボール箱を持ち運びながら)こりゃ大変だ・・・」
風夏「(段ボール箱を持ち運びながら)ごめんねー、龍ちゃんと菜摘ちゃん」
菜摘「(段ボール箱を持ち運びながら)いえ!!」
龍造「(段ボール箱を持ち運びながら)みんなでやれば荷物の整理も楽になるしね」
鳴海「(段ボール箱を持ち運びながら小声でボソッと)何で俺には謝らないんだよ・・・」
鳴海、菜摘、風夏、龍造は段ボール箱を玄関まで持ち運びに行く
玄関には風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
段ボール箱を持ち運んで玄関にまでやって来た鳴海、菜摘、風夏、龍造
鳴海、菜摘、風夏、龍造は段ボール箱を玄関に積み重ねて置く
鳴海「(段ボール箱を玄関に積み重ねて置いて)しかし凄い量の荷物だな・・・」
風夏「そりゃそうだ、私が生まれた時からの全ての持ち物があるんだし」
鳴海「ちょっとは断捨離しろよ」
風夏「お姉ちゃんがそういうことは苦手だって知ってるでしょ」
鳴海「どうせ中身はゴミばっかりなんだから良いじゃないか」
風夏「失礼な、ここには財宝が眠ってるのに」
鳴海「(少し笑って)だったら金目の物は置いて行けよ」
風夏「やなこったー」
菜摘「わ、私たちも協力するので頑張って荷物を運んで行きましょう風夏さん!!」
風夏「あーあ、菜摘ちゃんに言われちゃったら苦手な引越しもやるしかないか・・・」
鳴海「何で菜摘に言われなきゃ出来ないんだ」
風夏「だって嫌いだし、引越しとか」
鳴海「姉貴が引越すって決断したんだから姉貴が・・・」
龍造「(鳴海の話を遮って)ま、まあまあ鳴海くん、喧嘩しないで」
鳴海「俺は分かってましたよ・・・どうせ龍さんが姉貴を庇うってことくらい・・・」
龍造「ふ、風夏だけじゃなくて全員を庇ってるつもりなんだけど・・・」
鳴海「そうっすね・・・全員全員・・・」
鳴海、菜摘、風夏、龍造は話をしながらリビングに向かい始める
菜摘「鳴海くん、龍ちゃんは風夏さんの旦那さんなんだよ」
鳴海「ああ・・・」
龍造「ま、まだ夫になるのは少し先だけどね」
菜摘「鳴海くんも風夏さんと龍ちゃんっていう夫婦を理解しないと」
鳴海「引越しが嫌いな嫁と引越しの手伝いをしてくれる優しい夫だって理解してるぞ・・・」
菜摘「(怒って)鳴海くん!!」
鳴海「な、何で怒るんだよ」
菜摘「(怒りながら)今日は風夏さんが引越す大切な日だもん!!」
鳴海「菜摘も姉貴も、引越しをビッグイベントだと思ってるんだな・・・」
菜摘「(怒りながら)ビッグだよ!!」
風夏「そうだよねー・・・悪い意味でビッグ、荷物もビッグだし」
鳴海「それは姉貴が捨てないからだろ」
風夏「残念だけど私には捨てられない物がたくさんあるんだよ・・・」
鳴海「龍さん、こいつと結婚したら家がゴミ屋敷になるかもしれないですよ」
龍造「か、片付けは僕が得意だから・・・た、多分ゴミ屋敷にはならない・・・と思う・・・」
風夏「人間、多少ゴミに囲まれていても何とかなるって」
鳴海「(呆れて)姉貴の場合はその何とかする人が旦那だしな・・・」
鳴海、菜摘、風夏、龍造は話をしながらリビングに戻って来る
リビングに積まれている段ボール箱の山からそれぞれ一箱ずつ手に取る鳴海、菜摘、風夏、龍造
段ボール箱を玄関まで持ち運びに行く鳴海、菜摘、風夏、龍造
鳴海「(段ボール箱を持ち運びながら)菜摘、重たければすぐに言えよ」
菜摘「(段ボール箱を持ち運びながら)うん」
風夏「(段ボール箱を持ち運びながら)菜摘ちゃん、重たかったらすぐに弟に言ってね」
菜摘「(段ボール箱を持ち運びながら)はい!!」
鳴海「(段ボール箱を持ち運びながら)何で繰り返すんだ・・・」
風夏「(段ボール箱を持ち運びながら)菜摘ちゃんは鳴海には遠慮しちゃうでしょ。だーかーら、お姉さんがアシストしてあげたの」
鳴海「(段ボール箱を持ち運びながら)何がアシストだよ・・・」
段ボール箱を持ち運んで玄関にまでやって来た鳴海、菜摘、風夏、龍造
鳴海、菜摘、風夏、龍造は段ボール箱を玄関に積み重ねて置く
菜摘が段ボール箱を積み重ねた瞬間、山になっていた段ボール箱が崩れそうになる
菜摘「(山になっていた段ボール箱が崩れそうになって)うわっ!!」
鳴海は素早く崩れそうになった段ボール箱の山を支える
鳴海「(素早く崩れそうになった段ボール箱の山を支えて)だ、大丈夫か菜摘」
菜摘「う、うん・・・あ、ありがとう鳴海くん」
龍造は鳴海が支えている崩れそうになった段ボール箱の山から段ボール箱を一箱手に取る
段ボール箱を別の場所に置く龍造
風夏は鳴海が支えている崩れそうになった段ボール箱の山から段ボール箱を一箱手に取る
段ボール箱を別の場所に置く風夏
菜摘は鳴海が支えている崩れそうになった段ボール箱の山から段ボール箱を一箱手に取る
段ボール箱を別の場所に置く菜摘
鳴海が支えている段ボール箱の山のバランスが直る
鳴海はゆっくり段ボール箱の山を支えるのをやめる
鳴海「(ゆっくり段ボール箱の山を支えるのをやめて)ふう・・・危なかったな・・・」
菜摘「鳴海くん、怪我はない?」
鳴海「おう」
菜摘「お仕事に影響するような無茶はしちゃダメだよ」
鳴海「大丈夫だ、これ以上体を痛めることは絶対にしない」
風夏「お仕事ねー」
鳴海「な、何だよ」
風夏「別にー、ただどうしてお姉ちゃんには教えてくれなかったのかなーって」
鳴海「そ、そのことなら謝ってるだろ!!」
風夏「だから良いんだよー、私も許したしー」
鳴海「ゆ、許してないような口ぶりじゃないか!!」
風夏「それは鳴海がそう思い込んでるだけじゃないのー?」
鳴海「ひ、酷いと思いませんか龍さん、こっちは謝ってるのに姉貴はさっきから俺のことを責めてばっかりなんすよ」
龍造「お、お互いに非があるんだと思うよ、僕は」
風夏「お互いに?」
龍造「ご、ごめん、ろ、6対4で鳴海くんの方が悪いかもしれない」
鳴海「な、何で俺が悪いことになるんすか!?」
菜摘「鳴海くんは風夏さんに連絡してって言われてたこと自体も忘れてたんだよ」
鳴海「そ、その程度のミスはよくあるだろ!!」
風夏「その程度のミスが大人の社会じゃ命取りだけどねー」
鳴海「お、俺は大人だって言ってるじゃないか!!」
風夏「鳴海は気持ちだけ大人なんでしょー」
鳴海「せ、精神的にも大人だ!!」
鳴海、菜摘、風夏、龍造はリビングに向かい始める
風夏「だと良いけどー・・・」
鳴海「な、菜摘だって俺が大人になったって思うだろ」
菜摘「うん、昔よりは」
鳴海「む、昔よりは・・・?」
菜摘「多分、鳴海くんはまだ成長過程なんじゃないかな」
鳴海「こ、これ以上成長してどうするんだよ、宇宙にでも行くつもりか?」
菜摘「伸び代があるのは良いことだよ、鳴海くん」
鳴海「一体俺の何を伸ばそうって言うんだ・・・」
風夏「諸々、全部」
鳴海「アバウト過ぎるだろ」
風夏「例えば寝坊させないようにするとか」
鳴海「またその話か・・・」
龍造「鳴海くん、緋空事務所での仕事は覚えることが多くて大変なんじゃない?」
鳴海「た、大変と言えば大変ですけど・・・」
龍造「覚えることが多いならその分だけ成長出来るよ、鳴海くんは伊桜さんとバディだって聞いてるし」
鳴海「はあ」
龍造「僕は何年も伊桜さんと仕事をしてるけど、あの人はいつも頼りになる。コミュニケーションの取り方や家族に対する姿勢も、見習えることがたくさんあると思うよ」
菜摘「伊桜さんってそんなに凄い人なんですか?」
鳴海「めちゃくちゃ凄い人だぞ、菜摘」
菜摘「へぇー・・・鳴海くんが人のことを褒めるなんて珍しいね」
鳴海「そ、そうか?」
菜摘「うん」
鳴海、菜摘、風夏、龍造はビングに戻って来る
リビングに積まれている段ボール箱の山からそれぞれ一箱ずつ手に取る鳴海と菜摘、風夏、龍造
菜摘「(リビングに積まれている段ボール箱の山から一箱手に取って)鳴海くんは滅多に褒めないイメージがあるよ」
鳴海「(リビングに積まれている段ボール箱の山から一箱手に取って)俺はむしろたくさん人のことを褒めてる気がするんだが・・・」
風夏と龍造はリビングに積まれている段ボール箱の山からそれぞれ一箱ずつ手に取る
段ボール箱を玄関まで持ち運びに行く鳴海、菜摘、風夏、龍造
菜摘「(段ボール箱を持ち運びながら)どちらかと言うと鳴海くんは積極的に人の悪口を言う方が多くないかな・・・?」
鳴海「(段ボール箱を持ち運びながら)最低な印象を持たれてるじゃないか・・・俺・・・」
菜摘「(段ボール箱を持ち運びながら慌てて)ど、どちらかと言うとだから、絶対に100%そうだってわけじゃないよ!!い、今だって伊桜さんのことを褒めてたし・・・」
風夏「(段ボール箱を持ち運びながら)仕事を始めたからかね〜・・・」
鳴海「(段ボール箱を持ち運びながら)仕事を始めたから何だよ」
風夏「(段ボール箱を持ち運びながら)仕事って男の人を変えるからさ・・・」
鳴海「(段ボール箱を持ち運びながら)実体験か」
風夏「(段ボール箱を持ち運びながら)ん・・・?何が・・・?」
鳴海「(段ボール箱を持ち運びながら)親父のことを言ってるんだろ」
菜摘は段ボール箱を持ち運びながらチラッと鳴海のことを見る
風夏「(段ボール箱を持ち運びながら)パパの仕事のことは知らないって前は話したでしょー、全く鳴海もしつこいんだからー」
段ボール箱を持ち運んで玄関にまでやって来た鳴海、菜摘、風夏、龍造
鳴海、菜摘、風夏、龍造は段ボール箱を玄関に積み重ねて置く
鳴海「(段ボール箱を玄関に積み重ねて置いて 声 モノローグ)俺は姉貴が嘘をついてるとすぐに分かった。姉貴のあの物言いは、母さんや父さんが嘘をつく時と同じだ」
◯1976貴志家前(昼過ぎ)
空は曇っている
鳴海の家の前にいる鳴海、菜摘、風夏、龍造
鳴海の家の前には引越し業者の大きなトラックが一台と、風夏と龍造の軽自動車が止まっている
引越し業者の大きなトラックは荷台の扉が開いており、中には風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
鳴海の家の扉はストッパーで閉じないように固定されており、玄関には風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱が山積みになって置いてある
数人の引越し業者のスタッフたちが鳴海の家の玄関から段ボール箱を持ち運んで大きなトラックの荷台に積んでいる
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
風夏と龍造は小声で話をしている
風夏はタバコを吸っている
風夏たちから少し離れたところで、数人の引越し業者のスタッフたちの作業を見ている鳴海と菜摘
龍造「(小声で)風夏、しんどいなら無理しなくても・・・」
風夏「(タバコを咥えたまま小声で)良いの・・・分かってたからね・・・」
風夏はタバコの煙を吐き出す
風夏「(タバコの煙を吐き出して小声で)この家から離れる時は・・・トラウマと立ち向かわなきゃいけないって・・・」
龍造「(小声で)風夏は立派だよ・・・僕なんてまだまだだ・・・」
風夏「(タバコを咥えたまま小声で)乗り越えようね、龍ちゃん」
龍造「(小声で)うん」
鳴海と菜摘は変わらず風夏たちから少し離れたところで、数人の引越し業者のスタッフたちの作業を見ている
鳴海「(数人の引越し業者のスタッフたちの作業を見ながら)これで姉弟での暮らしも終わり、か・・・」
菜摘は数人の引越し業者のスタッフたちの作業を見るのをやめる
菜摘「(数人の引越し業者のスタッフたちの作業を見るのをやめて)鳴海くん」
鳴海は数人の引越し業者のスタッフたちの作業を見るのをやめる
鳴海「(数人の引越し業者のスタッフたちの作業を見るのをやめて)ん・・・?」
菜摘「晩ご飯、何か食べたいものはある?」
鳴海「特にはないが・・・」
菜摘「じゃあ回転寿司は・・・どうかな・・・?」
鳴海「回転寿司は魚がぶん回ってるんだぞ菜摘」
菜摘「し、知ってるよ!!」
鳴海「そ、そうか・・・て、てっきり行ったことがないのかと思ったんだ」
菜摘「回転寿司くらいあるもん!!」
鳴海「お、おう・・・よ、良かったな・・・」
菜摘「う、うん!!ってそうじゃないよ!!」
鳴海「ノリツッコミをするくらい回転寿司に行きたいのか・・・?」
菜摘「だ、だってせっかく鳴海くんがお休みの日だし・・・た、たまにはお外で食べても良いと思って・・・」
鳴海「菜摘がそう言うんだったら構わないぞ、今日は外食して寿司を食べよう」
菜摘「うん!!あ、でも毎週末回転寿司はダメだよ、今日は鳴海くんが初めてのお仕事を頑張ったスペシャルなんだから。普段はバランスを考えた食生活を・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮って)悪いな・・・菜摘」
菜摘「えっ・・・?悪いって何が・・・?」
鳴海「いつも俺のことを色々考えてくれてるだろ。(少し間を開けて)俺は菜摘の支えに助けられてるよ」
菜摘「う、ううん!!」
鳴海「(声 モノローグ)他のことが如何に充実していても、俺が帰る場所は菜摘の隣だ。それ以外はあり得ない」
時間経過
鳴海の家の玄関に置いてあった風夏の荷物が入っているたくさんの段ボール箱が無くなっている
大きなトラックの荷台には風夏の荷物が入ったたくさんの段ボール箱の全てが山積みになって置いてある
大きなトラックの荷台の扉を閉める引越し業者のスタッフの一人
引越し業者のスタッフの一人は大きなトラックの荷台の扉をロックする
鳴海と菜摘のところにやって来る風夏と龍造
風夏「(鳴海と菜摘のところにやって来て)ふ、二人ともお疲れ、手伝ってくれて、あ、ありがとね」
鳴海「あ、ああ」
龍造「結婚式のことは改めて連絡するから、もう少しだけ待っててくれる?鳴海くん」
鳴海「了解です」
龍造「あ、あと菜摘ちゃんのご両親にも招待状を送ろうって考えてるんだけど・・・」
菜摘「はい!!」
龍造「じゃあまたその時にきちんとしたご挨拶に伺うね」
菜摘「両親にもそう伝えておきます!!」
龍造「ありがとう。それじゃ・・・家に帰ろう、風夏」
風夏「う、うん」
風夏は両手が震えている
風夏の両手が震えていることに気付く鳴海
鳴海「(風夏の両手が震えていることに気付いて)おい、どうしたんだよ姉貴」
風夏「(両手が震えたまま少し笑って)ど、どうしたって?」
鳴海「さっきから様子が変じゃないか?」
風夏「(両手が震えたまま)ひ、引越しが嫌いなだけだよ」
鳴海「それにしたって変だろ、風邪でも引いてるんじゃ・・・」
風夏「(両手が震えたまま鳴海の話を遮って)わ、悪いけどもう行くからさ・・・じゃ、じゃあね鳴海、菜摘ちゃん」
風夏は両手が震えたまま一人で歩き出す
龍造「ごめん・・・気が滅入ってるみたいなんだ・・・追いかけて様子を見て来るよ」
鳴海「は、はい、姉貴のこと、頼みます龍さん」
龍造「うん、二人ともありがとう」
龍造は両手が震えている風夏の後を追いかける
数人の引越し業者のスタッフたちはいつの間にか大きなトラックに乗っている
引越し業者の大きなトラックは発車する
両手が震えたまま軽自動車の助手席のドアを開ける風夏
風夏は両手が震えたまま軽自動車の助手席に乗り込む
両手が震えたまま軽自動車の助手席のドアを閉める風夏
龍造は軽自動車の運転席のドアを開ける
軽自動車の運転席に乗り込む龍造
龍造は軽自動車の運転席のドアを閉める
心配そうに軽自動車の中の風夏のことを見ている鳴海と菜摘
鳴海と菜摘の位置からでは風夏の両手が震えているのかどうか分からなくなっている
風夏の頭を撫でる龍造
鳴海「(軽自動車の中で龍造に頭を撫でられている風夏のことを見ながら心配そうに)姉貴の奴・・・どうしたんだろうな・・・」
少しの沈黙が流れる
龍造は風夏の頭を撫でるのをやめる
少しすると風夏と龍造が乗っている軽自動車が発車する
軽自動車の中の風夏のことを見るのをやめる鳴海
鳴海「(軽自動車の中の風夏のことを見るのをやめて)まあとりあえずは・・・引越しも完了か・・・」
再び沈黙が流れる
菜摘は軽自動車の中の風夏のことを見るのをやめる
菜摘「(軽自動車の中の風夏のことを見るのをやめて)あれ・・・鳴海くん」
鳴海「何だ?」
菜摘「風夏さんたちから新居の住所を教えてもらった?」
鳴海「いや?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「な、菜摘は聞いてのないか・・・?」
菜摘「き、聞いてないよ」
再び沈黙が流れる
鳴海「やられたな・・・きっとこれは就職の合否を教えてなかった俺への仕返しだぞ・・・」
菜摘「えー・・・わざわざそんなことするかな・・・」
鳴海「間違いない菜摘、姉貴のことだから俺も何らかの手段で仕返しをして来るとは思っていたんだ」
菜摘「でも風夏さんは・・・」
鳴海「(菜摘の話を遮って)引越し嫌いだろ」
菜摘「うん・・・」
鳴海「姉貴には龍さんがいるから大丈夫さ」
鳴海は大きなあくびをする
鳴海「(大きなあくびをして)回転寿司まで時間があるよな・・・家でゲームでもするか・・・?」
菜摘「ゲーム・・・?」
鳴海「だって今から暇だろ?」
菜摘「そ、それはそうだけど・・・」
鳴海「どこかに行っても構わないぞ」
少しの沈黙が流れる
菜摘「な、鳴海くん」
鳴海「な、何だ?」
菜摘「夜で良いから・・・風夏さんに電話をしてくれる・・・?」
鳴海「それは住所を聞くためか?それとも姉貴の様子を確認するためにか?」
菜摘「ふ、風夏さんの様子を確認するために・・・」
鳴海「ずいぶん心配してるんだな・・・」
菜摘「うん・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「分かったよ菜摘。夜に電話する、ついで住所も聞き出してやるさ」
菜摘「本当・・・?」
鳴海「本当だ、一応俺も心配だからな」
菜摘「良かった・・・ありがとう、鳴海くん」
鳴海「(少し笑って)礼は良いから何をするか決めるぞ菜摘」
鳴海は家に向かって歩き出す
鳴海に合わせて鳴海の家に向かって歩き出す菜摘
鳴海「家で何かするか・・・出かけるか・・・(少し間を開けて)ゴロゴロするってのもありか・・・」
菜摘「そうだね、どれが良いかな」
◯1977回転寿司(夕方)
外は曇っている
回転寿司の中にいる鳴海と菜摘
回転寿司の中にはカウンター席とテーブル席があり、その側にレールが敷いてある
レールは回転寿司店内を回っており、寿司を運んでいる
回転寿司のカウンター席とテーブル席にはそれぞれ一台ずつタブレットが設置されており、食事を頼むことが出来る
回転寿司のテーブルの上には割り箸、醤油、わさび、生姜などが置いてある
回転寿司には鳴海と菜摘以外にも学生や家族連れの客などがいて混んでいる
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
タブレットを使ってネギトロの軍艦を頼む鳴海
鳴海「(タブレットでネギトロの軍艦を頼んで)技術の進化だな・・・感動ものだ・・・」
菜摘「タブレットが?」
鳴海はタブレットでネギトロの軍艦を頼み終える
鳴海「(タブレットでネギトロの軍艦を頼み終えて)ああ、今じゃ何でもコンピューター社会だからな・・・」
菜摘「鳴海くん、お爺ちゃんみたいになってるよ」
鳴海「き、機械はやっぱり最高だぞ、この調子でテクノロジーはどんどん進化してくれ」
菜摘「(少し笑って)テクノロジーお爺ちゃんになっちゃうね」
鳴海「笑いごとじゃないんだが・・・」
菜摘「(少し笑いながら)そうかな?でも面白いよ」
鳴海「面白ければ良いってもんじゃないぞ菜摘・・・」
菜摘「(少し笑いながら)うん、そうだね」
少しの沈黙が流れる
鳴海「菜摘はクラブって行ったことあるか?」
菜摘「な、ないよ」
鳴海「だよな・・・」
菜摘「鳴海くんはあるの?」
鳴海「い、一回だけあるぞ」
菜摘「そ、そうなんだ、クラブって踊ったりする場所だよね?」
鳴海「ああ」
菜摘「鳴海くんって踊るイメージもないから一回見てみたいな」
鳴海「お、俺は踊らないぞ菜摘」
菜摘「えー・・・」
鳴海「な、菜摘が踊るなら俺もやってやらないことはないが・・・」
菜摘「私ダンスは出来ないよ」
鳴海「な、なら俺も出来ないな」
菜摘「鳴海くん・・・ずるい・・・」
鳴海「こういうのは二人一緒じゃなきゃ意味ないだろ」
菜摘「私が踊ったら鳴海くんも本当に踊ってくれるの・・・?」
鳴海「も、もちろんさ」
菜摘「じゃ、じゃあ踊るけど・・・」
鳴海「き、決まりだな、今度クラブに行ってみるか」
菜摘「でもどこにあるの?」
鳴海「緋空浜だ・・・つ、潰れてなければの話だが・・・行ったのはちょっと前だからな・・・」
菜摘「そうなんだ・・・少し興味あるかも・・・」
鳴海「す、すみれさんと潤さんに聞いてみろよ、も、もしかしたらあの二人なら何か知ってるかもしれないぞ」
菜摘「そうだね、ディスコ全盛期を経験してるはずだから」
鳴海「あ、ああ」
かっぱ巻きとネギトロの軍艦が一皿ずつレールの上を回って鳴海と菜摘のテーブルの側に運ばれて来る
鳴海はレールの上のかっぱ巻きとネギトロの軍艦を手に取る
かっぱ巻きを菜摘の前に、ネギトロの軍艦を自分の前に置く鳴海
菜摘は割り箸を二膳手に取る
割り箸の一膳を鳴海の前に置く菜摘
鳴海と菜摘は割り箸を割る
醤油を手に取る菜摘
菜摘はかっぱ巻きに醤油をかける
かっぱ巻きに醤油をかけ終えて醤油を鳴海の前に置く菜摘
鳴海「聞いて驚くなよ菜摘・・・」
菜摘「な、何・・・?」
鳴海「俺はネギトロには何も付けないんだ」
菜摘「(驚いて)えー!!」
鳴海「めちゃくちゃ驚いたな・・・」
菜摘「だ、だってお寿司だよ鳴海くん」
鳴海「ネギトロには何も要らないんだ」
菜摘「じゃあ鉄火巻きは醤油なの・・・?」
鳴海「当たり前じゃないか、寿司だぞ」
菜摘「同じことを私も言ったよ・・・」
鳴海「す、寿司だからな」
少しの沈黙が流れる
鳴海「い、いただきます・・・」
菜摘「いただきます」
鳴海はネギトロの軍艦を、菜摘はかっぱ巻きを食べる
鳴海「(ネギトロの軍艦を食べて)たまには外食も良いな」
菜摘「(かっぱ巻きを食べながら)うん、そうだね」
鳴海「まあ外食と言っても、俺は菜摘の家でよくご馳走になっているが・・・」
菜摘「私だって鳴海くんのお家でご馳走になってるよ」
鳴海「菜摘のはご馳走になってるんじゃなくてほぼ自炊だろ」
菜摘「一緒に作ってるもんね」
鳴海「そうだ、協力プレイだからな」
菜摘「わ、私時々思うよ、な、鳴海くんと暮らしているみたいだって」
鳴海「お、俺もだ、と、というか実質寝泊まりをしてないバージョンの同棲だぞ」
菜摘「ね、寝泊まりをしてなきゃ全然同棲とは違くない・・・?」
鳴海「た、確かに・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海は再びネギトロ巻きを食べる
かっぱ巻きを食べる菜摘
鳴海「(ネギトロ巻きを食べて)し、しかしあれだな・・・こ、ここの寿司は・・・」
菜摘「(かっぱ巻きを食べながら)う、うん・・・」
鳴海「ま、マシュマロを海臭くして塩漬けにしたような味だよな」
菜摘「美味しくないってこと・・・?」
鳴海「い、いや美味いぞ」
菜摘「そうなの・・・?」
鳴海「も、もちろんだ」
菜摘「でも鳴海くん・・・マシュマロを腐らせて塩で除菌したような味って言ったよ・・・」
鳴海「ま、マシュマロを海臭くして塩漬けにしたような味って言ったんだ」
菜摘「どちらにしてもあんまり美味しそうな響きじゃないね・・・」
鳴海「ひ、響きで思い出したんだが菜摘、俺はよく南や響紀のことを褒めてただろ」
菜摘「うーん・・・褒めてる時もあったかもしれないけど・・・響紀ちゃんに対しては結構酷いことも言ってなかった・・・?」
◯1978Chapter6◯1031の回想/波音高校特別教室の四/文芸部室(放課後/夕方)
夕日が沈みかけている
文芸部の部室にいる鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、永山詩穂、奥野真彩
円の形に椅子を並べて座っている鳴海、明日香、嶺二、汐莉、雪音、響紀、詩穂、真彩
教室の隅にパソコン六台、プリンター一台、部員募集の紙が置いてある
校庭では運動部が活動している
俯いている真彩
話をしている鳴海たち
響紀「鳴海くん、発言して良いですか」
鳴海「構わないが内容によってはお前の口をミシンで縫い付けて一生喋れないようにするからな」
響紀「ああなら多分大丈夫ですね。(少し間を開けて)年度末試験のことはド忘れてしてましたすみません」
◯1979回想戻り/回転寿司(夕方)
外は曇っている
回転寿司の中にいる鳴海と菜摘
回転寿司の中にはカウンター席とテーブル席があり、その側にレールが敷いてある
レールは回転寿司店内を回っており、寿司を運んでいる
回転寿司のカウンター席とテーブル席にはそれぞれ一台ずつタブレットが設置されており、食事を頼むことが出来る
回転寿司のテーブルの上には割り箸、醤油、わさび、生姜などが置いてある
回転寿司には鳴海と菜摘以外にも学生や家族連れの客などがいて混んでいる
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海の前にはネギトロの軍艦、菜摘の前にはかっぱ巻きが置いてある
話をしている鳴海と菜摘
鳴海「あ、あれは・・・」
菜摘「あれは・・・?」
鳴海「い、一種の教育だ」
菜摘「教育って・・・つまり・・・?」
鳴海「き、厳しくすることで俺は奴の変態性を封じ込めようとしてたんだよ」
菜摘「そうなの・・・?」
鳴海「(頷き)く、苦労したんだぞ、特に菜摘が入院している間はな、響紀はめちゃくちゃな発言をして文芸部と軽音部の輪を掻き乱してたんだ。だ、だから俺が部長の代理としてガツンと言ってたんだよ」
菜摘「そ、そんなに酷かったんだ・・・」
鳴海「い、いやまあ・・・(少し間を開けて)若干思い出が誇張されてる部分もあるかもしれないが・・・」
菜摘「若干じゃなくて鳴海くんはいっぱい誇張してると思う」
鳴海「あ、あいつがとんでも発言をして部内の空気を凍らせることが多々あったのは間違いないんだ」
菜摘「そ、それでも響紀ちゃんは可愛い後輩だったよ」
鳴海「可愛いというよりは変態な後輩だぞ・・・」
菜摘「そ、そうだったけ・・・?」
鳴海「あ、ああ。それこそ今頃は同棲がしたいって言って明日香のことを困らせてるはずだぞ」
◯1980カフェ(夕方)
空は曇っている
お洒落なカフェのテラスにいる天城明日香と三枝響紀
明日香と響紀はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
明日香たちのテーブルの上にはコーヒーが置いてある
テラスには明日香と響紀の他にも若い女性客が何組かいる
話をしている明日香と響紀
響紀「私は明日香ちゃんと・・・」
響紀は話途中で突然黙る
明日香「私と何よ・・・?」
少しの沈黙が流れる
響紀は大きなくしゃみをする
響紀「(大きなくしゃみをして)ぶぇっくしょいどっこいしょ!!」
響紀の大きなくしゃみによって周囲にいた女性客たちが一斉に響紀のことを見る
響紀「はっ・・・誰かが私のことを変態だと言っている・・・?」
明日香「は・・・?」
再び沈黙が流れる
明日香たちの周囲にいた女性客たちは響紀のことを見るのをやめる
再び大きなくしゃみをする響紀
響紀「(大きなくしゃみをして)へっくしょんどすこいどすこい!!」
響紀の二発目の大きなくしゃみによって周囲にいた女性客たちが再び一斉に響紀のことを見る
少しの沈黙が流れる
明日香「あんたのくしゃみ特殊過ぎるでしょ・・・」
響紀「明日香ちゃん、今世界のどこかで私のことを変態扱いしてる輩がいるの」
明日香「何それ・・・響紀・・・厨二病でもぶり返したわけ・・・?」
響紀「信じて明日香ちゃん、地球上のどこかしらで私のことを変態だって言った奴がいるから」
明日香「(呆れて)ちょっと意味不明なんだけど・・・」
響紀「私のことを変態だって・・・こんな可憐な私のことを変態だって・・・か弱い乙女である私のことをドへんた・・・」
◯1981回転寿司(夕方)
外は曇っている
回転寿司の中にいる鳴海と菜摘
回転寿司の中にはカウンター席とテーブル席があり、その側にレールが敷いてある
レールは回転寿司店内を回っており、寿司を運んでいる
回転寿司のカウンター席とテーブル席にはそれぞれ一台ずつタブレットが設置されており、食事を頼むことが出来る
回転寿司のテーブルの上には割り箸、醤油、わさび、生姜などが置いてある
回転寿司には鳴海と菜摘以外にも学生や家族連れの客などがいて混んでいる
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
菜摘はクリスマスに鳴海から貰った青いクリスタルがついているネックレスと、同じくクリスマスに汐莉から貰った小さな青いクリスタルがついているブレスレットをそれぞれ首と手首につけている
鳴海の前にはネギトロの軍隊、菜摘の前にはかっぱ巻きが置いてある
話をしている鳴海と菜摘
鳴海「ド変態だろ・・・やっぱりあいつは・・・」
菜摘「た、多少変わった面があるだけだよ」
鳴海「響紀は明日香を落とすためなら何でもしでかした女だぞ」
菜摘「そ、それは・・・あ、明日香ちゃんのことを強く愛してるからこそだもん」
鳴海「まあな・・・結局は響紀の一人勝ちってわけだ・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「明日香ちゃんも・・・響紀ちゃんも・・・他のみんなも・・・元気かな・・・」
鳴海「あいつらのことだからそれぞれたくましくやってると思うぞ」
再び沈黙が流れる
鳴海「きっと然るべき時に再会するさ、菜摘」
菜摘「然るべき・・・時に・・・」
鳴海「どうかしたのか・・・?」
菜摘「う、ううん!!いつか分からないけど、また会えたら良いなって思ったんだ」
◯1982貴志家鳴海の自室(深夜)
外は曇っている
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
ベッドの上に座っている鳴海
カーテンの隙間から雲に隠れた月の光が差し込んでいる
鳴海はスマホで風夏と電話をしている
鳴海「(スマホで風夏と電話しながら)あ、姉貴のことが心配になったんだよ・・・な、何でって、引越しの時様子がおかしかっただろ。(少し間を開けて)ああ、そうだよ、俺も菜摘も姉貴のことを心配してるんだ。疑うなよ、だから本当に心配で・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(スマホで風夏と電話しながら)おい・・・何泣いてるんだよ・・・(少し間を開けて)だ、大丈夫なのか・・・?い、いくら引越すのが嫌でも泣くことは・・・えっ・・・?俺は別に・・・大体何でそこまで引越しを毛嫌いするんだ?いや・・・俺が知るわけないだろ・・・これは姉貴の問題だ。俺が弟だからって何でも知ってると思わな・・・」
再び沈黙が流れる
鳴海「(スマホで風夏と電話しながら)だから引越しの思い出なんかないって言ってるじゃないか。ああ・・・分かったよ・・・じゃあな、お休み」
鳴海はスマホで風夏との電話を切る
スマホをベッドの上に置く鳴海
鳴海はベッドに横になる
鳴海「(ベッドに横になって)高校の同級生より死んだ両親と会うことの方が多いなんて・・・最近のこの世界は変なことばっかりだ・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「本当に・・・死んでるんだよな・・・もう・・・この世にはいない人たちなんだよな・・・」
鳴海は両目を瞑る
鳴海「(両目を瞑って 声 モノローグ)目を瞑ると・・・若かりし母さんがどこかで俺のことを呼んでいるような気がした・・・少年・・・少年・・・君は嘘つきだって・・・(少し間を開けて)翌朝、姉貴が引越したおかげで家の中はやけに物が少なくなっていた」
◯1983緋空事務所(日替わり/朝)
外は晴れている
緋空事務所の中にいる鳴海と伊桜
緋空事務所の中には来栖、太田、目黒を含む数十人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたり、談笑をしたりしている
緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある
緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある
緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある
緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある
伊桜は自分の席で、コーヒーを飲んでいる
伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている
伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある
来栖、太田、目黒は自分の席で、パソコンに向かってタイピングをしている
鳴海は自分の席に座っている
鳴海の席は伊桜の席の隣
鳴海は伊桜に借りた折り畳み傘を持っている
折り畳み傘を伊桜に差し出す鳴海
鳴海「(折り畳み傘を伊桜に差し出して)傘、ありがとうございました」
伊桜は折り畳み傘を受け取る
伊桜「(折り畳み傘を鳴海から受け取って)ああ」
伊桜は机の引き出しを開く
伊桜の机の引き出しの中にはボールペン、シャーペンの芯、消しゴム、ハサミ、カッター、ホッチキス、修正テープなど入っている
机の引き出しの中に折り畳み傘をしまう伊桜
伊桜は机の引き出しを閉じる
鳴海「今週は配達ばっからしいっすね」
伊桜「とちらないでくれよ」
鳴海「は、はい!!」
◯1984緋空海鮮市場(朝)
緋空海鮮市場にいる鳴海と伊桜
緋空海鮮市場の中は広く、左右至る所でたくさんの魚介類が売られている問屋がある
仕入れに来たたくさんの人たちが緋空海鮮市場の問屋で売られている魚介類を見ている
緋空海鮮市場の中を歩いている鳴海と伊桜
伊桜「2つ目の週か」
鳴海「えっ?」
伊桜「貴志がうちで働き始めて2週目に入っただろ」
鳴海「そ、そうっすね!!」
伊桜「辞める奴は最初の1ヶ月に多い」
鳴海「そ、そうなんすか・・・で、でも俺は1ヶ月で辞める奴らとは違いますんで!!」
伊桜「貴志には食わせたい人がいるんだろ」
鳴海「く、食わせたい人って・・・」
伊桜「恋人のことだ」
鳴海「は、はい!!」
伊桜「恋人のために頑張れる奴は根性がある」
鳴海「お、俺って根性がありますかね!?」
少しの沈黙が流れる
伊桜「自分であると思うのか?」
鳴海「そ、そりゃもちろんっすよ!!」
伊桜「自己認識を改めろ」
鳴海「伊桜さんの見た俺は・・・根性がないってことっすか・・・」
伊桜「ああ。まず貴志の反応からしてない」
再び沈黙が流れる
鳴海「い、伊桜さん・・・な、なんか今日はよく喋りますね・・・」
伊桜「嫁さんの誕生日なんだ」
鳴海「はい・・・?」
伊桜「分からないか、このソワソワ感」
鳴海「ちょ、ちょっと言ってることの意味が・・・」
伊桜「今日は早く仕事を終わらせて帰りたい、だから絶対にとちるなよ」
鳴海「えっと・・・はい・・・」
少しの沈黙が流れる
伊桜「貴志、お前やってみるか」
鳴海「えっ・・・?」
伊桜「一人で大将と話をして配達先と物の確認をするんだ」
鳴海「お、俺だけで良いんすか・・・?」
伊桜「お前が心配ならやめるぞ」
鳴海「そ、そうっすね・・・じゃあ・・・ど、どうしましょう・・・?」
伊桜「最初に質問をしたのは俺だ」
再び沈黙が流れる
鳴海「や、やってみます」
伊桜「分かった」
少しすると鳴海と伊桜は”空丸商店”という問屋の前に辿り着く
””空丸商店”の前で立ち止まる鳴海と伊桜
”空丸商店”ではたくさんの魚介類が卸売りされてる
”空丸商店”では漁業用の作業服を着た卸売業者の男がたくさんの生魚を並べてる
鳴海「(大きな声で)は、配達の仕事に来ました!!!!ひ、緋空事務所の貴志です!!!!」
”空丸商店”の卸売業者の男はたくさんの生魚を並べるのをやめる
”空丸商店”の卸売業者の男「(たくさんの生魚を並べるのをやめて)おっ!!来たか!!」
伊桜「おはようございます、大将」
”空丸商店”の卸売業者の男「おはようさん!!今日はアサリとハマグリが多いから重いぞー!!」
鳴海「が、頑張ります!!」
◯1985緋空海鮮市場の駐車場(朝)
晴れている
広く大きな緋空海鮮市場の駐車場にいる鳴海、伊桜、”空丸商店”の卸売業者の男
”空丸商店”の卸売業者の男は漁業用の作業服を着ている
配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを持っている”空丸商店”の卸売業者の男
緋空海鮮市場の駐車場にはたくさんの車が止まっている
鳴海、伊桜、”空丸商店”の卸売業者の男は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ながら、大きなトラックの前で話をしている
鳴海たちの前に止まっている大きなトラックの荷台の側面には”緋空海鮮市場”と書いてある
”空丸商店”の卸売業者の男「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見ながら)道がややこしいから迷わないようにな」
”空丸商店”の卸売業者の男は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見るのをやめる
ポケットからくしゃくしゃになった手書きの地図を取り出す”空丸商店”の卸売業者の男
”空丸商店”の卸売業者の男はくしゃくしゃになった手書きの地図を鳴海に差し出す
”空丸商店”の卸売業者の男「(くしゃくしゃになった手書きの地図を鳴海に差し出して)これを持ってけ、俺がまとめた地図だ」
鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見るのをやめる
鳴海「(配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを見るのをやめて)地図はなくても大丈夫ですよ。自分、この町で育った生粋の波音っ子ですから、それに迷った時はスマホで調べますし」
”空丸商店”の卸売業者の男はくしゃくしゃになった手書きの地図を鳴海に差し出すのをやめる
くしゃくしゃになった手書きの地図を伊桜に差し出す”空丸商店”の卸売業者の男
”空丸商店”の卸売業者の男「(くしゃくしゃになった手書きの地図を伊桜に差し出して)伊桜ちゃん」
伊桜はくしゃくしゃになった手書きの地図を”空丸商店”の卸売業者の男から受け取る
伊桜「(くしゃくしゃになった手書きの地図を”空丸商店”の卸売業者の男から受け取って)すみません大将、使わせていただきます」
”空丸商店”の卸売業者の男「あいよ。新人くん、あんまスマホばっか見てっと頭が馬鹿になっからやめときな」
鳴海「は、はい」
”空丸商店”の卸売業者の男「俺なんてな、13年前に買ったガラケーを未だ愛用し続けて・・・」
”空丸商店”の卸売業者の男は話を続ける
◯1986配達先に向かう道中(朝)
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックが配達先に向かっている
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックは一般道を走っている
鳴海は助手席に座っている
伊桜は運転席に座り、運転をしている
鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードと、”空丸商店”の卸売業者の男から貰ったくしゃくしゃの手書きの地図を持っている
伊桜「(運転をしながら)お前の悪い癖だ」
鳴海「何がっすか?」
伊桜「(運転をしながら)目上の話を素直に聞こうとしないだろ」
鳴海「そうっすかね?」
伊桜「(運転をしながら)自覚がないないなら尚更直すべきだ」
少しの沈黙が流れる
伊桜「(運転をしながら)とにかく固定観念を捨てろ」
鳴海「どうやって捨てれば良いんですか?」
伊桜「(運転をしながら)新しいことを受け入れる姿勢になって学べ」
鳴海「こ、これでも少しは学んでるつもりなんですよ」
伊桜「(運転をしながら)少しだろ」
再び沈黙が流れる
鳴海「仕事って難しいことだらけっすね・・・」
伊桜「(運転をしながら)当たり前だ、社会なんだぞ。お前が早く一人前になりたいと考えたところで、世間の厳しさは変えられん」
少しの沈黙が流れる
鳴海は”空丸商店”の卸売業者の男から貰ったくしゃくしゃの手書きの地図を見る
鳴海「(”空丸商店”の卸売業者の男から貰ったくしゃくしゃの手書きの地図を見て)でも人に地図を書いてもらうなんてガキみたいで嫌じゃないっすか」
伊桜「(運転をしながら)人に勧められた通りに動いてる方が楽だと思えるようになれ、貴志」
鳴海は”空丸商店”の卸売業者の男から貰ったくしゃくしゃの手書きの地図を見るのをやめる
外を眺める鳴海
◯1987回想/どこかに向かう道中(約十数年前/昼過ぎ)
◯1838と同日
◯1838の続き
外は弱い雨が降っている
6歳頃の鳴海、30歳頃の由夏理、同じく30歳頃の紘、10歳頃の風夏が乗っている車がどこかに向かっている
6歳頃の鳴海と10歳頃の風夏は車の後部座席に座っている
由夏理は助手席に座っている
紘は運転席に座り、運転をしている
紘「(運転をしながら)命令を受けるだけの人間にはなるな、鳴海、風夏。必ず自分の方が成功させてやるという強い意志を周りに見せながら生きていくんだ」
由夏理「そういうのはやめてって、パパの考えを鳴海と風夏に押し付けても良いことなんてないんだからさ」
紘「(運転をしながら)君は子供たちに成功して欲しいとは思わないのか」
由夏理は後ろを向き6歳頃の鳴海と10歳頃の風夏のことを見る
由夏理「(後ろを向き6歳頃の鳴海と10歳頃の風夏のことを見て)ママはね、風夏と鳴海が幸せならそれで良いんだ」
鳴海「でも・・・ママとパパは幸せは・・・?」
少しの沈黙が流れる
由夏理「(後ろを向き6歳頃の鳴海と10歳頃の風夏のことを見たまま少し笑って)ママたちなら大丈夫、もう十分幸せだしさ」
10歳頃の風夏は由夏理から顔を背ける
風夏「(由夏理から顔を背けて小声でボソッと)ママの嘘つき・・・」
由夏理「(後ろを向き6歳頃の鳴海と10歳頃の風夏のことを見たまま)えっ・・・?」
風夏「(由夏理から顔を背けたまま)前を見ないと危ないよママ」
再び沈黙が流れる
由夏理は6歳頃の鳴海と10歳頃の風夏のことを見るのをやめて前を向く
外を眺める由夏理
由夏理は外を眺めながら涙を流す
助手席の窓ガラスには涙を流しながら外を眺めている由夏理の姿が反射して映っている
◯1988回想戻り/配達先に向かう道中(朝)
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックが配達先に向かっている
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックは一般道を走っている
鳴海は助手席に座っている
伊桜は運転席に座り、運転をしている
鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードと、”空丸商店”の卸売業者の男から貰ったくしゃくしゃの手書きの地図を持っている
外を眺めている鳴海
伊桜「(運転をしながら)俺がどうしてここまで言うのか貴志には分かってないんだろ」
鳴海「(外を眺めながら)分かってますよ・・・(少し間を開けて)伊桜さんは俺に成功して欲しいんだ」
伊桜「(運転をしながら)成功?何で俺が貴志にそんなことを期待する?」
鳴海「(外を眺めながら)そんなの・・・俺が知るわけないじゃないっすか・・・」
少しの沈黙が流れる
伊桜「(運転をしながら)貴志が少しでも仕事を続けられるようにするために、俺はお前に口うるさくしてるんだ」
再び沈黙が流れる
伊桜「(運転をしながら)生意気な奴は生きるのに苦労するぞ」
◯1989貴志家リビング(夜)
リビングにいる鳴海と菜摘
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上にはご飯、トンカツ、サラダ、味噌汁が置いてある
鳴海は箸をご飯茶碗の上に置いて深くため息を吐き出す
菜摘「美味しくない・・・?」
鳴海「(慌てて)い、いや美味いぞ!!ふ、二人で作った割にはカツも結構ちゃんとしてるしさ!!」
少しの沈黙が流れる
菜摘は箸をご飯茶碗の上に置く
菜摘「(箸をご飯茶碗の上に置いて)鳴海くん、お仕事で何かあったの?」
鳴海「し、仕事なら順調だぞ」
菜摘「本当に?」
鳴海「あ、ああ」
再び沈黙が流れる
菜摘「私・・・鳴海くんの気持ちが知りたいよ・・・」
鳴海「だ、だから仕事は順調だって言ってるだろ菜摘」
菜摘「じゃあどうしてため息ばかりついてるの・・・?」
鳴海「そ、それは・・・(少し間を開けて)い、伊桜さんと・・・少しな・・・」
菜摘「少しって・・・?」
鳴海「お、俺は生きるのに苦労するって言われたんだ」
菜摘「鳴海くんは真面目にお仕事を頑張ってるのに、そんなことを言われなきゃいけないなんておかしいよ」
鳴海「菜摘」
菜摘「な、何?」
鳴海「俺も100パーセント同意するよ、俺はめちゃくちゃ真面目に頑張ってる」
少し沈黙が流れる
菜摘「今ので100パーセントが少し下がっちゃったかも・・・」
鳴海「な、何でだよ」
菜摘「だって・・・」
鳴海「だって何だ?」
菜摘「だ、だってはだってだよ」
鳴海「そ、そうか・・・」
菜摘「鳴海くんは・・・認められたいの・・・?」
鳴海「伊桜さんにか?」
菜摘「うん」
鳴海「そりゃ認められたいところだな」
菜摘「どうして・・・?」
鳴海「ど、どうしてって・・・伊桜さんは俺の上司なんだぞ」
菜摘「そっか・・・そうだよね、鳴海くんの憧れの人だもんね」
鳴海「あ、憧れってわけじゃないけどな・・・」
菜摘「私、最近の鳴海くんを見てると汐莉ちゃんのことを思い出すんだ」
鳴海「南は俺と全然違うだろ」
菜摘「そうかな?」
鳴海「逆に俺とあいつのどこが共通してると思ったんだ?」
菜摘「鳴海くんが伊桜さんに憧れていて、汐莉ちゃんが私たち三年生に憧れていたところとか・・・?」
鳴海「俺は別に伊桜さんに憧れてなんか・・・って南が俺たちに・・・?」
菜摘「うん。出来ることなら汐莉ちゃんは・・・私たちと同学年になりたかったんだと思う」
◯1990Chapter6◯1110の回想/波音高校体育館/クリスマスパーティー会場(夜)
波音高校の体育館の中にいる鳴海、明日香、嶺二、汐莉、響紀、詩穂、真彩、神谷
波音高校の体育館はクリスマスの装飾がされ、ステージにはピアノとクリスマスツリーが置いてある
ピアノにはマイクがつけられてある
体育館の壁沿いには大きなテーブルが並べられてあり、その上にはチキン、ピラフ、キッシュ、サラダ、ローストビーフ、クリスマスケーキ、クッキー、チョコレート、ポテトチップス、ジュース類などのたくさんの飲食物と取り皿、スプーン、フォークが置いてある
鳴海と汐莉は飲食物が置いてあるテーブルの近くにいる
鳴海はスーツ姿で袖をまくっており、スーツの下に着ているワイシャツの裾をズボンから出している
明日香と響紀は鳴海たちから離れたところで話をしている
明日香たちとは別のところで詩穂と真彩がスーツ姿の細田を含む数人の男子生徒たちと楽しそうに話をしている
明日香は淡いピンク色の、汐莉は紺色の、詩穂は水色の、真彩はベージュ色のパーティー用ドレスをそれぞれ着ている
響紀はタキシードを着ている
体育館には鳴海たちの他にもたくさんの着飾った生徒たちがいる
生徒たちは友人同士で喋ったり、食事を取ったりしていて、体育館の中が騒がしくなっている
神谷や教師たちが体育館の隅で生徒たちのことを監視している
体育館の中のスピーカーからはクリスマスソングが流れている
話をしている鳴海と汐莉
汐莉「私と先輩が同い年だったら、どんな関係になってたと思いますか?」
鳴海「同級生でも今の関係とほとんど変わらないと思うぞ」
汐莉「でも先輩と後輩じゃなくなるんですよ」
鳴海「じゃあ同い年の友達になってたんじゃないか。汐莉と響紀たちみたいにさ」
汐莉「イメージが出来ないです。仲良くなれますかね?」
鳴海「少なくとも今と同じくらいにはな」
汐莉「今の私たちは・・・特別仲良くないじゃないですか」
◯1991回想戻り/貴志家リビング(夜)
リビングにいる鳴海と菜摘
鳴海と菜摘はテーブルを挟んで向かい合って椅子に座っている
テーブルの上にはご飯、チンジャオロース、サラダ、味噌汁が置いてある
ご飯茶碗の上に箸を置いている鳴海と菜摘
鳴海と菜摘は話をしている
鳴海「み、南は俺たちに憧れなんて持ってないだろ・・・」
菜摘「そうかな・・・?」
鳴海「少なくとも・・・(少し間を開けて)俺には・・・」
◯1992早乙女家に向かう道中(夜)
菜摘を家に送っている鳴海
鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている
話をしている鳴海と菜摘
菜摘「明日は朝から病院なんだ」
鳴海「びょ、病院って・・・俺は・・・」
菜摘「大丈夫だよ鳴海くん、お母さんが付き添ってくれるし」
鳴海「そうか・・・すまん・・・」
菜摘「ううん、あ、鳴海くんのお弁当はちゃんと作るよ」
鳴海「別に俺の飯は忘れても良いんだぞ菜摘」
菜摘「嫌だ、鳴海くんのお弁当は私の最優先事項だもん」
少しの沈黙が流れる
菜摘「な、鳴海くんがお弁当を不味いって思ってるなら・・・作るのをやめるけど・・・」
鳴海「ま、毎日菜摘の飯に助けられまくってるのにそんなこと思うわけないじゃないか!!」
菜摘「そ、それなら良かった・・・(少し間を開けて)明日のおかず、何かリクエストはある?」
鳴海「俺の苦手な物じゃなければ何でも良いぞ」
菜摘「それじゃあ何でもって言わないよ」
鳴海「と、とりあえずキノコ類とナスとところてんはやめてくれ」
菜摘「鳴海くん、私が作った椎茸のバター醤油焼きを冷凍したまま放置してるよね・・・?」
鳴海「あ、あれは熟してるんだ」
菜摘「凍ってるんだよ鳴海くん」
鳴海「こ、凍らせながら熟してるんじゃないか」
菜摘「どうやって椎茸を熟すの・・・?」
鳴海「そ、それはだな・・・魔法の粉を振りかけて・・・と、という感じだ」
菜摘「意味が分からないよ」
再び沈黙が流れる
鳴海「こ、今度ちゃんと食べるからさ」
菜摘「うん・・・鳴海くんが食べてくれるの・・・私待ってる・・・」
鳴海「お、おう・・・(少し間を開けて小声でボソッと)約束は守らないとな・・・俺・・・」
◯1993貴志家鳴海の自室(日替わり/朝)
鳴海の部屋にいる鳴海、菜摘、すみれ
片付いている鳴海の部屋
鳴海の部屋はカーテンが閉められている
鳴海の部屋は物が少なく、ベッドと勉強机くらいしか目立つ物はない
机の上にはパソコン、菜摘とのツーショット写真、菜摘から貰った一眼レフカメラ、くしゃくしゃになったてるてる坊主が置いてある
机の上のてるてる坊主には顔が描かれている
ベッドの上で眠っている鳴海
すみれは鳴海の部屋のカーテンを開ける
外は快晴
菜摘「ごめん鳴海くん・・・病院の予約時間を間違えてて早めに来ちゃった・・・」
鳴海は眠ったまま寝返りを打つ
すみれ「ごめんなさい・・・私が間違えていました・・・」
鳴海は目を覚ます
鳴海「(目を覚まして眠そうに)もう少し・・・寝かしてくれ菜摘・・・」
すみれ「すみれです」
鳴海「(眠そうに)すみれさんのわけ・・・ないだろ・・・」
菜摘「鳴海くん、私お母さんに付き添ってもらうって言ったよ」
鳴海「(眠そうに)話は後で聞くから・・・もう少し寝かせてくれ・・・」
菜摘とすみれは顔を見合わせる
菜摘「(すみれと顔を見合わせて)どうする?お母さん」
すみれ「(菜摘と顔を見合わせたまま)疲れているみたいだし・・・もう少しだけ寝かせてあげましょうか」
菜摘「(すみれと顔を見合わせたまま)そうだね」
◯1994貴志家リビング(朝)
リビングにいる菜摘とすみれ
菜摘とすみれはテーブルの上にパンケーキ、ベーコン、目玉焼きを並べている
少しするとリビングに鳴海がやって来る
菜摘「(テーブルの上に朝食を並べながら)あ、おはよう」
鳴海「おはよう菜摘」
すみれ「おはようございます、鳴海くん」
鳴海「おはようございますすみれさん」
菜摘とすみれはテーブルの上に朝食を並べ終える
テーブルに向かって椅子に座る鳴海
菜摘とすみれはテーブルと向かって椅子に座る
すみれ「食べましょうか」
鳴海「はい」
鳴海・菜摘・すみれ「いただきます」
菜摘とすみれはパンケーキを一口食べる
菜摘「(パンケーキを一口食べて)美味しいよ、お母さん」
すみれ「(パンケーキを一口食べて)本当?生焼けになってないか心配・・・」
鳴海「(すみれの話を遮って)待て待て待て待ってください!!」
菜摘「どうしたの?鳴海くん」
鳴海「な、何ですみれさんがここにいるんだよ!!」
すみれ「鳴海くんが帰れって言うなら帰ります・・・それから旅に出ちゃいます・・・二人とも・・・もう私のことは探さないで・・・」
鳴海「朝から変な小芝居を挟まないでください・・・」
菜摘「鳴海くん、こちら私のお母さんだよ」
鳴海「何故まるで初対面かのような言い回しをするんだ・・・」
菜摘「だって鳴海くんがおかしいから・・・」
鳴海「お、おかしいのは菜摘とすみれさんの方だろ!!」
菜摘「えっ・・・」
すみれ「私たちが・・・おかしい・・・?」
鳴海「いやだから変な小芝居を挟まないでくださいよ・・・」
菜摘「鳴海くん、私昨日言ったんだよ、お母さんにも付き添ってもらうって」
鳴海「それは病院の話だろ・・・」
菜摘「ん?」
鳴海「ん?はこっちのセリフだ・・・」
菜摘「私、病院だけお母さんに付き添ってもらうなんて言ってないよ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「何だその屁理屈は・・・」
菜摘「だって言ってないもん」
◯1995◯1992の回想/早乙女家に向かう道中(夜)
菜摘を家に送っている鳴海
鳴海は和柄のランチクロスに包まれた菜摘の弁当箱を持っている
話をしている鳴海と菜摘
菜摘「明日は朝から病院なんだ」
鳴海「びょ、病院って・・・俺は・・・」
菜摘「大丈夫だよ鳴海くん、お母さんが付き添ってくれるし」
◯1996回想戻り/貴志家リビング(朝)
リビングにいる鳴海、菜摘、すみれ
鳴海、菜摘、すみれはテーブルに向かって椅子に座っている
テーブルの上にパンケーキ、ベーコン、目玉焼きが置いてある
すみれ「(笑顔で)付き添っちゃいました」
鳴海「俺が付き添いの意味をめちゃくちゃ勘違いしてたんですね・・・」
菜摘「うん」
鳴海「潤さんはどうしたんすか・・・」
すみれ「潤くんのご飯ならもう作って来たけれど・・・鳴海くん、ひょっとして早乙女家の献立が気になるの?」
鳴海「いや献立とか全く気にしてないっすね・・・」
菜摘「じゃあ鳴海くんは何を気にしてるの?」
鳴海「何と聞かれてもだな・・・」
少しの沈黙が流れる
すみれ「さあさあ、まずは朝ご飯を食べましょう」
鳴海「そうですね・・・」
◯1997緋空事務所に向かう道中/波音総合病院に向かう道中(朝)
晴れている
緋空浜にある緋空事務所に向かっている鳴海
菜摘とすみれは波音総合病院に向かっている
鳴海、菜摘とすみれは途中まで一緒に行っている
登校中の波音高校のたくさんの生徒たちとすれ違っている鳴海たち
鳴海たちは話をしている
鳴海「朝からすみれさんがいたから何事かと思いましたよ」
すみれ「ごめんなさい、鳴海くん」
鳴海「あ、いえ」
菜摘「そういえば鳴海くん、風夏さんとは電話したの?」
鳴海「ああ」
菜摘「どうだった・・・?」
鳴海「いつもよりは変だったな」
すみれ「風夏ちゃんがどうかしたの?」
鳴海「一昨日うちから引越して行ったんですけど、その時に様子がおかしくて・・・それで夜に電話をしたんですよ」
すみれ「引越し・・・」
鳴海「すみれさん、今日病院で姉貴と会ったら、変なところがないか確認してくれませんか?」
すみれ「も、もちろんよ」
鳴海「すみません・・・姉弟揃って心配ばかりかけて」
すみれ「謝らないで鳴海くん、人生は助け合いなんだから」
菜摘「そうだね、鳴海くんと風夏さんは家族でもあるし」
鳴海「家族、か・・・」
すみれ「ええ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「あ、俺すみれさんに聞きたいことがあるんですけど・・・」
すみれ「何かしら」
鳴海「ボウリングのコツって何ですか?」
すみれ「狙って投げることが重要だと思うけど・・・」
鳴海「そ、それ以外に何かないですかね?」
すみれ「私ボウリングにはしばらく行っていなくて・・・それこそ菜摘や鳴海くんの歳くらいの時は得意だったんだけれど・・・」
菜摘「お母さん、ボウリング上手かったの?」
すみれ「高校生の時はね、放課後、潤くんや鳴海くんのご両親とよく行ったのよ」
菜摘「そうなんだ・・・」
すみれ「菜摘と鳴海くんはボウリングには行かないの?」
鳴海「行かないですね・・・ボウリング、菜摘はやったことあるのか?」
菜摘「小さい頃に一回だけあるよ、子供用のレーンだったけど・・・」
鳴海「すみれさんの才能が遺伝してるだろうから、菜摘はきっとプロ級にボウリングが上手いぞ」
菜摘「そうかな・・・」
すみれ「(少し笑って)鳴海くん、私がボウリング得意だったってお母さんから聞いていたのね」
鳴海「あっ・・・そ、そうなんです、は、母が教えてくれて・・・」
再び沈黙が流れる
すみれ「お母さんとお父さんのこと、少しは思い出せるようになった?」
鳴海「ま、まあ・・・多少は・・・」
すみれ「そう・・・」
菜摘「忘れたままでいるよりはよっぽど良いよ、鳴海くん」
鳴海「あ、ああ・・・(少し間を開けて)か、母さんはすみれさんと潤さんの夢を応援してました」
菜摘は俯く
鳴海「俺も潤さんが映画監督になって、すみれさんが潤さんの作品に出演したら、めちゃくちゃ素敵だと思います」
すみれ「(少し笑って)ありがとう、でも鳴海くん、その夢は昔のことだから」
鳴海「今からでもすみれさんと潤さんならいけるんじゃないですか?」
すみれは首を横に振る
すみれ「(首を横に振って少し笑いながら)もう良いのよ、若い頃の話だし」
菜摘は変わらず俯いている
すみれ「(少し笑いながら)今の私と潤くんは、菜摘と鳴海くんの幸せが一番の夢だもの」
菜摘は顔を上げる
菜摘「(顔を上げて)お、お母さん・・・」
すみれ「菜摘、若い子は笑顔が大事よ」
菜摘「うん・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「そういうのは・・・俺はあんまり・・・好きじゃないです・・・」
すみれ「鳴海くんは年寄りみたいな考え方だと思ったのかもしれないけれど・・・笑って過ごせるのってとっても大事なんです」
◯1998◯1833の回想/貴志家由夏理と紘の寝室(約十数年前/深夜)
外は薄暗く曇っている
寝室にいる6歳頃の鳴海と30歳頃の由夏理
寝室にはダブルサイズのベッドと小さなベッドサイドテーブルがある
小さなベッドサイドテーブルには幼い頃の鳴海と風夏が写った家族写真、電話の子機、デスクライトが置いてある
寝室の電気は消えており、小さなベッドサイドテーブルの上のデスクライトの照明だけがついている
6歳頃の鳴海と由夏理はダブルサイズのベッドの上に座っている
話をしている6歳頃の鳴海と由夏理
由夏理は6歳頃の鳴海の頭を撫でている
由夏理「(6歳頃の鳴海の頭を優しく撫でながら)未来はママにも分からないしさ・・・鳴海と風夏にはたくさんの可能性を用意しておきたいんだ。鳴海たちが大人になった時、困らないようにさ」
鳴海「(由夏理に頭を撫でられながら)立派な大人になるためってこと?」
由夏理「(6歳頃の鳴海の頭を優しく撫でながら少し笑って)立派じゃなくても良いんだよ鳴海、ママは鳴海と風夏が元気だったらそれだけで幸せなんだから」
◯1999回想戻り/緋空事務所に向かう道中/波音総合病院に向かう道中(朝)
緋空浜にある緋空事務所に向かっている鳴海
菜摘とすみれは波音総合病院に向かっている
鳴海、菜摘とすみれは途中まで一緒に行っている
登校中の波音高校のたくさんの生徒たちとすれ違っている鳴海たち
鳴海たちは話をしている
鳴海「母もすみれさんと似たようなことを言ってました」
すみれ「(少し笑いながら)由夏理とは馬が合ったから」
◯2000波音総合病院廊下/診察室前(朝)
波音総合病院の診察前の廊下にいる菜摘とすみれ
診察室前の廊下には椅子が設置されている
菜摘とすみれは椅子に座って診察室に呼ばれるのを待っている
菜摘とすみれの他にも数人の患者が椅子に座って診察室に呼ばれるのを待っている
菜摘は俯いている
話をしている菜摘とすみれ
すみれ「鳴海くんにはバイトのことを言わないの・・・?」
菜摘「(俯いたまま)言わない・・・鳴海くんを心配させたくないもん・・・」
すみれ「それでも菜摘・・・いつかは・・・言わなきゃいけない時が来るはずでしょう・・・?」
菜摘「(俯いたまま)うん・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「(俯いたまま)お母さん・・・」
すみれ「何?菜摘」
菜摘「(俯いたまま)女優さんになるのを諦めて・・・本当に良かったの・・・?」
すみれ「もちろん、諦めて大正解よ」
菜摘「(俯いたまま)どうして・・・?」
すみれ「(少し笑って)私は役者よりも主婦の方が向いてるもの」
菜摘「(俯いたまま)そうかな・・・(少し間を開けて)私も鳴海くんと同じで・・・お母さんとお父さんなら・・・今からでも出来ると思うんだ・・・」
すみれ「菜摘、演技の世界は厳しいのよ」
菜摘「(俯いたまま)うん・・・でも・・・私見たかった・・・夢を叶えてるお母さんとお父さん・・・」
すみれ「もしお母さんが女優になったとしても、今出来るのは未亡人とか団地妻の役だと思うけど・・・それでも菜摘は見たかったの?」
菜摘「(俯いたまま)お父さんならそんな変な役をお母さんにはやらせないよ・・・」
すみれ「そうね、お父さんだったらもっと違う女性を私に演じさせているかも」
再び沈黙が流れる
すみれ「顔を上げて、菜摘」
菜摘は顔を上げる
すみれ「お母さんとお父さんは夢を諦めても後悔していないのよ。たとえ夢を追っていたとしても、私たちが成功したとは限らないんだから」
菜摘「でも・・・成功した可能性はあったと思う・・・」
すみれ「菜摘、私が役者の道を進んでいたら、早乙女家は今の幸せな家族とは全然違う形になっていたかもしれないのよ」
少しの沈黙が流れる
すみれ「(少し笑って)お母さんも、お父さんも、夢を諦めていたって今は毎日が楽しいもの、だって私たち夫婦には菜摘と鳴海くんがいますから。(少し間を開けて)私とお父さんが菜摘たちと過ごすのに後悔なんてするわけないでしょう?」
菜摘「お母さん・・・私・・・知ってるよ・・・親は・・・子供のためなら平気で嘘をつくって・・・」
◯2001配達先に向かう道中(昼前)
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックが配達先に向かっている
鳴海と伊桜が乗っている大きなトラックは一般道を走っている
鳴海は助手席に座っている
伊桜は運転席に座り、運転をしている
鳴海は配達先と配達内容がまとめられた紙が挟んであるグリップボードを持っている
鳴海「親の言う幸せって何なんすかね」
伊桜「(運転をしながら)何の話だ」
鳴海「よく言うじゃないっすか、子供が元気なら親の私も幸せとか」
伊桜「(運転をしながら)よせ」
鳴海「よせ?」
伊桜「(運転をしながら)ああ、平日の昼間からそんな話は聞きたくない」
鳴海「じゃあいつなら聞いてくれるんすか?」
伊桜「(運転をしながら)いつだろうが聞かん」
少しの沈黙が流れる
鳴海「伊桜さんだって父親なんすよね、だったら自分の幸せとは何なのかって考えたりしません?」
伊桜「(運転をしながら)自分の幸せが分からない奴はただの馬鹿だ」
鳴海「じゃあ伊桜さんの幸せって何なんすか?」
伊桜「(運転をしながら)娘と嫁さんに関することに決まってるだろ」
鳴海「家庭的っすね」
伊桜「(運転をしながら)男の幸せは昔からそうだ」
鳴海「さすがです、伊桜さんは昭和の格好良い男ですね」
伊桜「(運転をしながら)あいにくだが俺は平成2年生まれだ」
再び沈黙が流れる
鳴海「すみません・・・」
◯2002公園(昼)
公園にいる鳴海と伊桜
鳴海と伊桜は公園のベンチに座って昼食を食べている
鳴海は菜摘の手作り弁当、伊桜は手作りのおにぎりを食べている
菜摘の手作り弁当のメニューはナポリタン、ミートボール、パプリカのサラダ
公園には鳴海と伊桜以外に人はいない
公園の外には大きなトラックが止まっている
公園の外に止まっている大きなトラックの荷台の側面には”緋空海鮮市場”と書いてある
伊桜「おい」
鳴海「何すか?」
伊桜「飯を食ったら付き合え」
鳴海「はあ・・・構いませんけど・・・何をするんです?」
伊桜「飯を食ったら説明する」
伊桜はおにぎりを一口食べる
鳴海「了解・・・」
時間経過
鳴海と伊桜は昼食を食べ終えている
ベンチから立っている鳴海と伊桜
伊桜「ランニングをするぞ」
鳴海「ら、ランニングっすか」
伊桜「一週間で分かった、まずお前は基礎体力を作るべきだ」
鳴海「今更基礎体力って・・・」
伊桜「基礎体力を身につけて、無駄口を減らせ。そしたら仕事の要領も良くなる」
鳴海「マジっすか・・・」
伊桜「ああ、まずは軽く公園を30周だ」
鳴海「ぜ、全然軽くないですよ!!」
伊桜「どうせ昼休憩中は暇だろ」
鳴海「ひ、昼休みなんだから暇で良いじゃないっすか!!」
伊桜「有意義な時間を過ごそう貴志、俺もハタチ前くらいの頃から時々この近くを走ってたんだ」
鳴海「ゆ、有意義・・・」
伊桜「ペースはお前に合わせてやる」
少しの沈黙が流れる
伊桜「ノロノロしてると30周するまで昼休憩が終わるぞ」
鳴海「わ、分かりましたよ・・・」
鳴海は渋々公園の中でランニングを始める
鳴海に合わせて伊桜も公園の中でランニングを始める
鳴海「(ランニングをしながら)今まで辞めていった人たちも走ってたんですか・・・?」
伊桜「(ランニングをしながら)ああ」
鳴海「(ランニングをしながら)も、もしかして伊桜さんのランニングが嫌になって辞めたんじゃ・・・」
伊桜「(ランニングをしながら)それはない、みんな喜んで走り回っていた」
鳴海「(ランニングをしながら)ほ、本当っすか・・・」
伊桜「(ランニングをしながら)本当だ」
鳴海「(ランニングをしながら)お、俺・・・最近知ったんすよ・・・大人は・・・誰のためだろうが平気で嘘をつくって・・・」
◯2003緋空事務所(夕方)
夕日が沈みかけている
緋空事務所の中にいる鳴海と伊桜
緋空事務所の中には来栖、目黒を含む数人の社員がおり、それぞれ自分の席でパソコンに向かってタイピングをしたり、書類に書き込みをしたりしている
緋空事務所の扉の横には棚が置いてあり、その上にはタイムレコーダーがある
緋空事務所の扉の横にある棚の引き出しにはそれぞれのタイムカードがしまわれてある
緋空事務所の中は狭く、たくさんの物が乱雑に置いてある
緋空事務所の中には更衣室、社長室、二階に行く階段がある
鳴海と伊桜は自分の席で、書類の確認をしている
鳴海と伊桜の机の上にはたくさんの書類が置いてある
伊桜の机の上には幼い頃の娘、伊桜陽芽乃の写真が飾られている
来栖と目黒は自分の席で、パソコンに向かってタイピングをしている
伊桜「(書類の確認をしながら)事務所でやる仕入れのチェックも重要な仕事だ、焦って目を通そうとするなよ貴志」
鳴海「(書類の確認をしながら)はい!!」
鳴海と伊桜は書類の確認を続ける
伊桜「(書類の確認をしながら)明日もするか」
鳴海「(書類の確認をしながら)するって何をです?」
伊桜「(書類の確認をしながら)決まってるだろ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「(書類の確認をしながら)お、俺は遠慮しときます」
伊桜「(書類の確認をしながら)走ることに遠慮するな」
目黒「(パソコンに向かってタイピングをしながら)伊桜、また新人を走らせてるのか」
伊桜「(書類の確認をしながら)ええ。貴志はかなりやれる方でしたね」
目黒「(パソコンに向かってタイピングをしながら)あんまし無茶をさせんなよ」
伊桜「(書類の確認をしながら)はい」
鳴海「(書類の確認をしながら)お、俺ランニングなんかしなくても体力はつくと思うんですけど・・・」
伊桜「(書類の確認をしながら)そんなことはない、人間は走ってなんぼだ。困ったらとりあえず走れ、何かする時は走れ、走って走ってそれから転べ」
鳴海「(書類の確認をしながら)転んだら怪我するじゃないですか・・・」
伊桜「(書類の確認をしながら)10代20代の怪我は治りが早いんだ、体でも心でも、若いうちに傷を作っておけば丈夫になりやすい」
◯2004貴志家リビング(夜)
リビングにいる菜摘
菜摘はテーブルに向かって椅子に座っている
鳴海が帰って来るのを一人待っている菜摘
菜摘はスマホで”キツネ様の奇跡”を見ている
”キツネ様の奇跡”は画質が粗い
”キツネ様の奇跡”には18歳の由夏理と、同じく18歳紘が出演している
紘は狐のお面を被っていて、顔が見えない
”キツネ様の奇跡”の由夏理と狐のお面を被った紘は緋空浜の浜辺にいる
“キツネ様の奇跡”の緋空浜の浜辺にはゴミがなく、◯1785、◯1821、◯1824、◯1825、◯1851、◯1858、◯1859、◯1874、◯1900、◯1908、◯1923、◯1925の未来の緋空浜に比べるととても綺麗
話をしている”キツネ様の奇跡”の由夏理と狐のお面を被った紘
菜摘がスマホで見ている”キツネ様の奇跡”のシーンは、◯1786の夢の中の鳴海が撮影に参加したシーンと完全に同じ
紘「(狐のお面を被ったまま)僕は・・・君が夢の中で望んだからやって来たんだ」
由夏理「望んだのかな、私」
紘「(狐のお面を被ったまま)望んださ。(少し間を開けて)君がジュリエットになりたくなかったら、緋空浜から離れたかったら、涙が止まらなかったら、現実から映画の世界に入りたかったら、夢の中でキツネ様と3回唱えるんだ。そしたら僕が君の前に現れて、奇跡を起こすよ」
由夏理「奇跡?」
紘「(狐のお面を被ったまま)ああ」
由夏理「私、永遠が欲しいんだ」
紘「(狐のお面を被ったまま)太陽が沈んで月が浮かび、日が変わって、恋人と喧嘩してしまうのが嫌なんだね?」
由夏理「うん。幸せなおとぎ話みたいな人生じゃなきゃ嫌なの」
紘「(狐のお面を被ったまま)それなら夢の中で僕の名前を3回唱えてくれ。キツネ様・・・キツネ様・・・キツネ様・・・」
由夏理「キツネ様は私の世界を変えてくれる?」
紘「(狐のお面を被ったまま)変えるよ。太陽をもっと眩しくする。月をもっと神秘的にする。海をもっと深くする。山をもっと・・・」
由夏理「(紘の話を遮って)私はこの町から逃げられない・・・キツネ様、私がヒロと出会ってから、波音町は私から自由を奪うようになったんだ」
少しの沈黙が流れる
由夏理「どこか遠くの地へ行ってしまいたいけど・・・それが出来ない」
紘「(狐のお面を被ったまま)君は・・・危険なものに惹かれているんだ・・・」
由夏理「危険なものって・・・愛・・・?」
紘は狐のお面を被ったまま頷く
菜摘「(スマホで”キツネ様の奇跡”を見ながら)危険なものに・・・」
“キツネ様の奇跡”の由夏理と狐のお面を被った紘は会話を続ける
由夏理「キツネ様は謎に満ちてるね」
紘「(狐のお面を被ったまま)君だって謎に満ちてるさ」
由夏理「私のことが知りたい?」
紘「(狐のお面を被ったまま)ああ」
由夏理「私の過去?それとも未来?キツネ様の私の何が知りたいの?」
紘「(狐のお面を被ったまま)全てだよ」
由夏理「神様なのに知りたいんだ・・・」
紘「(狐のお面を被ったまま)神様なんて、名ばかりの存在さ」
由夏理「そうだね、君が本当にキツネ様なのかも分からないもんね」
紘「(狐のお面を被ったまま)でも僕たちが出会ったのは奇跡だ。その事実は揺るがない」
由夏理「私は今、現実で奇跡を見てるの?」
紘「(狐のお面を被ったまま)そうだよ。ここは映画の中でも、夢の中でも、海の中でもない、現実なんだ」
菜摘「(スマホで”キツネ様の奇跡”を見ながら)私のキツネ様・・・キツネ様・・・キツネ様・・・」
玄関の方から鳴海が帰って来た音が聞こえる
鳴海「(声)ただいま・・・」
玄関から鳴海の声が聞こえて来る
菜摘はスマホの”キツネ様の奇跡”を一時停止する
スマホをテーブルに置いて小走りで玄関に向かう菜摘
テーブルの上の菜摘のスマホは、”キツネ様の奇跡”の由夏理と狐のお面を被っている紘が会話をしていたシーンで一時停止したままになっている
玄関から鳴海と菜摘の会話が聞こえて来る
菜摘「(声)おかえり鳴海くん!!」
鳴海「(声)おう・・・今日も先に風呂に入って良いか・・・?昼休みにランニングをしちまってさ・・・」
菜摘「(声)うん!!お風呂ならもう入れてあるよ!!」
鳴海「(声)ま、マジか・・・ありがとう菜摘、助かったよ」
菜摘「(声)ううん!!」
テーブルの上の菜摘のスマホは、変わらず”キツネ様の奇跡”の由夏理と狐のお面を被った紘が会話をしていたシーンで一時停止したままになっている
菜摘「(声)き、着替えも準備しちゃったんだけど・・・大丈夫だったかな・・・」
鳴海「(声)大丈夫さ、手間をかけて悪いな」
菜摘「(声)き、気にしないで鳴海くん、きょ、共同生活だもん」
鳴海「(声)お、おう。じゃ、じゃあすぐに風呂から出るから待っててくれ」
菜摘「(声)ゆ、ゆっくりで平気だよ」
少しするとテーブルの上の菜摘のスマホが真っ暗になり、自動でスリープモードになる
玄関から菜摘がリビングに戻って来る
菜摘はテーブルの上に置いてあったスマホを手に取る
スマホのスリープモードを解除する菜摘
菜摘のスマホの壁紙は、波音高校の体育館のステージの上で朗読劇の練習をしている鳴海の写真になっている
菜摘はテーブルに向かって椅子に座る
再びスマホで”キツネ様の奇跡”の動画を開く菜摘
菜摘のスマホの”キツネ様の奇跡”は、由夏理と狐のお面を被った紘が会話をしていたシーンで一時停止したままになっている
菜摘「鳴海くん、帰って来てくれました。3回唱えたからかな・・・?(少し間を開けて)由夏理さん・・・鳴海くんは私のキツネ様です・・・でも、私のだけじゃ・・・ありませんから・・・夢の中でも・・・鳴海くんのことをよろしくお願いします・・・」
菜摘はスマホで”キツネ様の奇跡”を再生し始める