Chapter1 √鳴海×青春(部活作り)-奇跡捜索隊=ナミネよりアイを込めて 前編
現在、Second SectionのChapter6を執筆中です。仕上がり次第投稿します。
タイピングミスが多いと思いますが、のんびり修正していくので悪しからず。
向日葵が教えてくれる、波には背かないで
Chapter1 √鳴海×青春(部活作り)-奇跡捜索隊=ナミネよりアイを込めて
登場人物
滅びかけた世界
ナツ 16歳女子
ビビリな面も多く言葉遣い荒い。勤勉家、滅びかけた世界で“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。
スズ 15歳女子
マイペース、ナツと違い勉強に興味なし。常に腹ペコ。食べ物のことになると素早い動きを見せるが、それ以外の時はのんびりしている。ナツと一緒に“奇跡の海”を目指しながら旅をしている。
滅んでいない世界
貴志 鳴海 18歳男子
波音高校三年三組、学校をサボりがち。運動は得意だが勉強は苦手。無鉄砲な性格。両親を交通事故で失っている。歳の離れた姉、風夏がいるが仕事で忙しいため実質一人暮らし状態である。文芸部作りの手伝いをする。
早乙女 菜摘 18歳女子
波音高校三年三組、病弱で学校を休むことが多く友達がいない。心を開いた相手には明るく優しい。文芸部を作り出す張本人。
白石 嶺二 18歳男子
波音高校三年三組、鳴海の悪友、鳴海と同じように学校をサボりダラダラしながら日々を過ごす。不真面目。絶賛彼女募集中。 鳴海同様文芸部作りの手伝いをする。
天城 明日香 18歳女子
波音高校三年三組、成績も良くスポーツ万能、中学生の時は女子ソフトボール部に所属していた。ダラダラばかりしている鳴海と嶺二を何かと気にかけては叱る。
柊木 千春
身元がよく分からない少女、“ゲームセンターで遊びませんか?”というビラを町中で配っている。礼儀正しく物静かな性格。ビラ配りを手伝ってもらう代わりに文芸部作りに協力する。
南 汐莉15歳女子
波音高校に通っている一年生、軽音部に所属しているものの掛け持ちで文芸部作りにも参加する。明るく元気。
一条 雪音18歳女子
波音高校三年三組、才色兼備な女生徒。天文学部部長。不治の病に侵された姉、智秋がいる。
双葉 篤志18歳男子
波音高校三年二組、天文学部副部長。
早乙女 すみれ45歳女子
菜摘の母、45歳には見えない若さ美しさを保つ。優しい、とにかく優しい。
早乙女 潤46歳男子
菜摘の父、菜摘とすみれを溺愛しており二人に手を出そうとすれば潤の拳が飛んでくること間違いなし。自動車修理を自営業でやっている。愛車のレクサスに“ふぁるこん”と名付けている。永遠の厨二病。
神谷 志郎40歳男子
波音高校三年の教師。鳴海、菜摘、嶺二、明日香、雪音の担任。担当教科は数学。サボってばかりの鳴海と嶺二と病気ですぐ休んでしまう菜摘を呼び出す。怒った時の怖さとうざさが異常。
有馬 勇(64歳)
波音町にあるゲームセンター“ギャラクシーフィールド”の店主、古き良きレトロゲームを揃えているが、最近は客足が少ない。
貴志 風夏24歳女子
鳴海の6つ年上の姉、忙しいらしく家にはほとんど帰ってこない。智秋と同級生で親友関係。仕事をしつつ智秋の病気を治すために医療の勉強をしている。
一条 智秋24歳女子
高校を卒業をしてからしばらくして病気を発症、原因は不明。現在は入院中。
貴志 紘
鳴海の父親、事故で亡くなっている。菜摘の父、潤と高校時代クラスメートだった。
貴志 由夏理
鳴海の母親、事故で亡くなっている。菜摘の母、すみれと高校時代クラスメートだった
シナリオあらすじ
舞台は“奇跡が起きる”という言い伝えが古くから残っている波音町。
主人公の鳴海は高校三年生、しかし将来については何も考えず友人の嶺二と共に自堕落な日々を送っていた。それを見かねた担任教師、神谷志郎が鳴海、嶺二、そして病弱ですぐに学校を休んでしまう菜摘を職員室に呼び出す。この3人は学校にあまり来ないため周りに馴染めず浮いた存在だった...
一方で滅びかけた世界ではナツとスズの二人が“奇跡の海”を目指しながら旅をしていた。荒れ果てた世界...人がいなくなった世界...少女たちは少しずつ世界について知る...
10を超えるChapterから分かる世界の歴史、青春から始まった物語は一つの街で繰り広げられ群像劇となる。様々な登場人物が”奇跡”に触れながら小さな一歩を踏み出す、彼らは傷を負い残酷な運命を背負い過去と向き合わなければならない。終末に向かう世界を描いた歴史長編大作!!
Chapter 1
√鳴海×青春(部活作り)-奇跡捜索隊=ナミネよりアイを込めて
◯1貴志家リビング(朝)
時計の針は七時半を過ぎている
椅子に座って制服姿でテレビを見ている鳴海
家にいるのは鳴海だけ
リポーター1 「春は出会いの季節です、出会いの数だけ奇跡があるように祈りましょう。波音町は奇跡が起きる町なのです」
リモコンを手に取りチャンネルを変える鳴海
リポーター2「今年も波音町のビッグイベントがやってきました!ここ、緋空浜では明日から地元の人によって緋空祭りが開かれます。昨年末には米大統領候補のメナス議員が訪れました。メナス議員は過激な発言で注目を集めることが多いものの波音町のことを高く評価しており、Twitterでは昨年末に訪れた時の写真をアップしています。メナス議員は十二歳の時、波音町で半年間暮らした経験があることで知られ、この町で奇跡を見たと発言したこともあります」
机の上に置いてあるスマホが振動する
スマホを取る鳴海
鳴海の姉、風夏からLINEがきている
学校!サボるのダメ!絶対!!というメッセージを既読無視してスマホをポケットに入れる鳴海
テレビを消す鳴海
カバンを持って家を出る鳴海
◯2通学路(朝)
満開の桜、祭りに合わせてつるされている提灯
カタツムリのようにゆっくり歩いている鳴海
遅刻を恐れてたくさんの学生が学校に向かって走って行く
鳴海の後ろから走ってきた一人の女生徒(汐莉)のカバンが鳴海の脇腹に直撃する
鳴海「(舌打ちをする)チッ・・・いってえな・・・」
少し先の位置で立ち止まって鳴海の方を振り返る女生徒(汐莉)
両手を合わせて頭をペコペコする女生徒(汐莉)
鳴海がぼーっと見ているとすぐに正面を向いて全力ダッシュを再開する女生徒(汐莉)
鳴海「新一年生か・・・今の」
鳴海は再びゆっくり歩き始める
学生たちの楽しそうな声が響いている
鳴海「(声 モノローグ)また学校が始まる。学校なんて嫌いだ。意味もなく通うだけ、サボればよかった」
◯3滅びかけた世界:道(夜)
建物の多くは損壊していて、草木が生い茂っている
周囲は薄暗い
懐中電灯で周りを照らしながら歩いているスズ
地図を見ながら歩いているナツ
スズ「もうすぐだよ!奇跡の海!!」
歩きながらまるで犬のように鼻をクンクンをさせながら周りの匂いを嗅ぐスズ
ナツ「(呆れながら)お前は犬か」
スズ「だってこの匂い、これが海の匂いなんじゃないの?ちょっと魚臭いし」
ナツ「本には磯の匂いがするって書いてあったけど・・・磯の匂いって・・・一体何」
スズ「この匂いだよこの匂い、たくさんの魚がいる匂い、つまり魚が食べられる場所ってこと!それが奇跡!!」
ナツ「スイミーがいるかもしれない」
スズ「スイミー?何それ?」
ナツ「スイミーって題の本があるんだよ」
スズ「聞いたことないけど、きっと海に住んでるなら美味しいんだろうねえ」
ナツ「食べ物じゃないから。スイミーは泳ぎの早い黒色の小魚で、大きな魚を追いはら・・・」
ナツはスイミーについて語り始めたが別の話題をぶち込むスズ
スズ「それにしても全然着かないねえ・・・なっちゃん、もう夜だしお腹も空いたからどっかで休もうよ」
ナツ「おい、スイミーは凄いんだからな!小さいし周りとは違う色をしているのにみんなをまとめて大きな魚をやっつけるんだぞ!」
スズ「(興味なさそうに)ふうん」
それから二人は黙って歩き進める
時間経過
立ち止まるナツ
スズも立ち止まる
二人の目の前には大きな建物がある
ナツ「ずいぶん大きな建物だ・・・スズ、ライト」
スズ「あいあいさーキャプテン!」
大きな建物に向かって懐中電灯の光を当てるスズ
看板にはボロボロの字で波音高等学校と書かれている
スズ「皮音高等学校?」
ナツ「馬鹿、皮音じゃなくて波音でしょ」
スズ「あっ、これ波音だったんだ・・・ボロボロ過ぎて読めなかったよ〜」
ナツ「(ため息を吐く)今日はここで休むかな・・・薄気味悪いけど・・・」
スズ「お化け、出るかな?」
ナツ「馬鹿!そんなもんいるわけないでしょ!!」
スズ「えぇー、お化けくらいいてもいいのに。大丈夫、私、お化け、食う!」
親指でグーサインを出して見せるスズ
ナツ「罰当たるから食べるな」
グーサインを引っ込めさせるナツ
ナツとスズは校門を越え校舎に入る
◯4滅びかけた世界:波音高校廊下(夜)
真っ暗な学校
光は二人の懐中電灯のみ
校舎を歩いている二人
怯えているナツと一切恐怖心がないスズ
二人が歩いていると時々パキパキと音が聞こえる
ナツ「寒いし暗いし汚いし臭いし怖い・・・スズ、離れるなよ・・・」
スズ「へいへい」
しゃがんで足元を照らすスズ
スズがいきなりしゃがんだことに慌てるナツ
ナツ「離れるなって言っただろ!!」
スズ「ごめんごめん、ところでなっちゃんこれ何?」
スズが足元から白い物を拾いナツに渡す
ナツ「(手に取りながら)これは・・・(叫ぶ)骨だあああああああああああああああ!」
骨を投げ捨て全力で大騒ぎするナツ
ナツの肩に手を置くスズ
スズ「大丈夫、骨ならかじっても栄養取れるから。私、ゴーストバスターズするから!!」
ナツが止める暇もなく骨をかじり始めるスズ
一度かじると骨はパラパラと崩れる
粉々になった骨でむせ始め過呼吸のような状態に陥るスズ
激しく咳き込んでいるスズの背中を思いっきりぶっ叩くナツ
ナツ「スズ!しっかりしろ!!死ぬんじゃない!!」
リュックから水を取り出してスズに渡すナツ
水を飲んでようやく呼吸が落ち着き始めるスズ
スズ「死ぬかと思った・・・」
ナツ「だから言っただろ!!罰が当たったんだよ!!!全く・・・早く骨がない場所を探そう」
スズ「(へへへと笑いながら)ゴーストバスターズ失敗」
二人は骨に溢れた廊下から抜け出す
◯5滅びかけた世界:波音高校教室(夜)
机が十数台ほどしかない教室
教室の壁にもたれかかっているナツとスズ
蝋燭の灯しかない
二人は乾パンを食べている
ナツ「もう勝手にどこか行かないでよ」
スズ「私、どこも行ってないけど」
ナツ「トイレにも行くな」
スズ「えぇ・・・さっきあんなに水を飲ませておいてそれは・・・」
ナツ「仕方ないだろ、一人でいるのは怖いんだから」
少しの間が流れる
スズ「(じっとナツの顔を見ながら)やっぱ怖いんだ」
ナツ「怖いに決まってんだろ!だって骸骨だぞ!!」
スズ「なっちゃん、意外と怖がりだよねえ」
ナツ「うるさい!」
少しの間が流れる
スズ「夜中にお化けが来ないといいね、(大きく低い声で)俺たちの場所を荒らすなぁ!って怒ってるかも」
ナツ「(怒りながら)ああもう驚かすなよ!!眠れなくなるだろ!」
ポカポカとスズのことを叩くナツ
ケラケラと楽しそうに笑っているスズ
◯5波音高校三年生の下駄箱(朝)
先生たちがクラス分けのプリント配っている
学生たちが新しい組とクラスメートについて大声で語り合ってる
鳴海「(声 モノローグ)人ばっかりでうんざりする。こいつら・・・何が楽しくてこんなに騒いでいるんだ?」
神谷「クラス分けのプリントをもらってない人は取って!」
学生でごった返していて揉みくちゃにされながらプリントをもらう鳴海
少し人のいないところに離れてプリントを見る鳴海
三年三組、担任神谷志郎と書かれている
同じクラスメートに白石嶺二と天城明日香がいる
嶺二「よっ!鳴海!俺たちまた同じクラスだな!」
後ろから肩を叩かれる鳴海
鳴海「なんだ、またお前と同じか」
嶺二「(爽やかな表情)いいだろ!類は共を呼ぶってやつじゃあないか!!とりあえず、始業式サボろうぜ!」
鳴海「課題もやってないしな。嶺二、お前やった?春休みの課題」
嶺二「やってない、せめて答えくらい配ってほしいもんだね。これじゃあ答え合わせも出来ない」
やれやれと首をふる嶺二
生徒たちは続々と始業式が行われる体育館へ向かっている
体育館とは反対方面に足を伸ばそうとする二人
明日香「ちょっと!新学期早々サボらないの!」
嶺二の右肩をぐっと掴み引き寄せる明日香
嶺二「(ビビリながら)明日香!お前いつの間に・・・」
半ギレ気味の明日香にビビった嶺二は慌てて逃げようとする
嶺二の左肩をぐっと掴んで逃さないようにする鳴海
鳴海「おお、明日香。聞いてくれ、こいつ、新入生をナンパしに行こうって言い始めてさ。止めたんだがどうしても俺の話を聞かないんだ」
嶺二の胸ぐらを掴む明日香
明日香「はぁ?!あんた新入生をいじめたら可哀想でしょ!?そんなこともわからないの?!」
嶺二「(首をぶんぶんと横に振る)違うんです!これは鳴海が俺を裏切って!(鳴海の方を睨みながら)おいてめえなんてことを言いやがるんだよ!!」
鳴海「いやすまん、悪気はあるけどすまん。」
素直に頭をペコリと下げる鳴海
嶺二を離す明日香
嶺二「(深く息を吐きながら)助かった・・・」
明日香はクラス分けのプリントを二人の前に突き出す
明日香「私も三組だから!今年こそあんたらを不良から矯正してみせる!」
がっくりとうなだれる嶺二
嶺二「まじかよ・・・」
鳴海「このマンモス校で三年間も同じクラスになれるなんて腐れ縁だな俺ら」
明日香「担任もまた神谷だし、意図的にまとめられたのかもね」
鳴海「三年三組問題児三銃士だな!一人はみんなのために!」
右手を天高く突き出す鳴海
嶺二「(鳴海と同じように右手を天に突き出しながら)みんなは一人のために!」
あんなに楽しそうに喋っていた学生達が静まり鳴海と嶺二に奇異の目を向ける
明日香「問題児なのはあんたら二人ね、ほら!早く始業式行くよ!!」
学生たちをかき分けて鳴海と嶺二の手を引っ張って始業式へ連れて行く明日香
連れて行かれるままな二人
鳴海「(声 モノローグ)こうやって友達とつるんで、そのために通う毎日。何をしたって毎日同じことの繰り返し。何も起きない、何の変化もない」
◯6波音高校体育館/始業式会場(朝)
校長先生による長い長い挨拶が行われている
生徒たちは休み明けらしく皆それぞれがボーっとしてる
校長「えーですからね、皆さん新しい学年になりましたが、悪いことはせずに真面目に勉強をしてきちんと自分たちの進路を見直しましょう」
嶺二「(小声でボソっと)最初からそれだけを言えよハゲ」
校長先生がステージから降りる
鳴海「(声 モノローグ)将来なんて知らない、未来なんてない。きっと俺はこのまま死んでいくんだろう。母さんや父さんと同じようにこの町の灰になる。こんな毎日が嫌いだ、学校なんて嫌いだ、この町が嫌いだ、何もかもにやる気を見出せず、時間だけがただ過ぎて、生きがいもないまま死ぬだけだ」
校長先生の次に教頭先生がステージに上がる
ステージの上にあったマイクを取る教頭先生
教頭先生「この町は奇跡が起きると言われています、みんなも知ってますよね?この町の海、緋空浜には特別な力が宿っています。昨年にはアメリカからメナス議員も訪れ、世界的に注目されている場所でもあります。これは昨日の入学式でも言いましたが、奇跡は望んで起きることではありません!努力を積み重ねた者に訪れる結果なのです!」
大きなあくびをする嶺二
鳴海「(声 モノローグ)馬鹿馬鹿しい、なんて無駄な時間なんだ、何が奇跡だ」
◯7波音高校三年三組教室(昼)
午前の授業が終わり、生徒たちはお弁当や財布を取り出し昼休憩に入る
財布を持って鳴海のところにやってくる嶺二
嶺二「飯買い行こうぜ」
鳴海「コンビニ行くか」
カバンから財布を取り出そうとする鳴海
校内アナウンスが流れる
アナウンス「(神谷の声)三年三組、貴志くん、白石くん、早乙女さん、至急職員室に来てください。繰り返します。三年三組、貴志くん、白石くん、早乙女さん、至急職員室に来てください」
顔を見合わせる鳴海と嶺二
鳴海「嶺二、お前なんかやらかした?」
嶺二「いや、お前は?」
鳴海「分からん・・・心あたりがまるでない」
嶺二「くそっ、貴重な昼飯タイムが・・・」
鳴海「さっさと用件だけ済ませよう、さすがに新学期早々怒られることもないだろうし」
職員室に向かう二人
◯8波音高校職員室(昼)
職員室の中は先生たちがいそいそと次の授業のプリントを準備したり、昼の休憩をとっている
神谷の机の前に立っている鳴海、嶺二、菜摘の三人
神谷は椅子に座っている
神谷「(机の上の資料を見ながら)君たち三人は二年の時、単位をギリギリで取得してるんだ。出席日数も最低限、鳴海と嶺二に関しては提出物や授業態度も最悪だっていろんな先生から苦情が俺のところに入ってる。もちろん無理して登校しなきゃ行けないわけじゃない、それぞれ色々な事情があるしな。でもな、お前たちも分かってると思うが、これからは必要最低限以上のこともしなきゃいけないんだ。最終学年、進路も考えなきゃダメだろ?」
少しの間が流れる
鳴海「俺と嶺二はとりあえず卒業を目標に掲げてるので」
嶺二「目標と志は低く、自分に優しくが一番っすよね」
深くため息を吐く神谷
神谷「そう言ってられるのは今だけだ・・・早乙女さん、友達はいるか?」
菜摘「あんまり・・・」
神谷「鳴海と嶺二は友達いるか?」
肩を組み始める鳴海と嶺二
鳴海「俺たちは固い絆で結ばれたソウルメイト同士ですよ?」
嶺二「この友情は絶対に破れないぜ!!」
もう一度深くため息を吐く神谷
神谷「そんなところだと思ってたよ、三人ともあんまり学校に来てないから校内でも少し浮いてるよ」
神谷はファイルからプリントを三枚取り出す
神谷「俺は教頭先生からあることを言われた、君たち三人には学校生活をエンジョイする仲間がいないんじゃないかってね。そこで俺は閃いた、君らの今後の人生のためにも仲間と共に汗と涙を流す機会を作ろうと!コミュニケーション能力向上のためにも三人とも部活に入りなさい!」
部活一覧表のプリントを突き出す神谷
プリントを受け取る菜摘
プリントを受け取ろうとしない鳴海と嶺二
プリントを鳴海と嶺二に無理やり押し付けようとする神谷
それでもなおプリントを受け取らない二人
一旦諦めてプリントを机の上に置く神谷
菜摘「でも先生、私部活には入れません。休んだら周りの人に迷惑をかけちゃうので・・・」
神谷「そこらへんの事情は顧問の先生に俺から話しておくよ、うちは生徒数も多いんだから部活はすごい数あるんだぞ。特に文化部なんて意味不明なのがいっぱいある。音楽系だと吹奏楽部と合唱部と軽音楽部とジャズミュージッククラブとジブリ音楽同好会なんてある」
鳴海「同好会って何するんすか?」
神谷「さあ・・・俺にも分からん・・・」
再びプリントを鳴海と嶺二の前に突き出す神谷
神谷「とりあえず受けとれよ、先生からの命令だ」
渋々受け取る鳴海と嶺二
神谷「一緒に部活を過ごす仲間が居ればお前たちも学校に来やすくなると思ったんだよ、四月いっぱいは運動部も文化部も新入部員を募集してるはずだからよく考えてみてくれ、いいね?俺からは以上、休憩に入ってよし」
職員室を出る鳴海、菜摘、嶺二
◯9波音高校三年三組の教室(放課後/夕方)
一日の授業が終わり解散になる学生たち
席を立ち上がり嶺二のところへ行く鳴海
鳴海「嶺二、帰ろうぜ」
嶺二「ちょっと俺トイレ行ってくる、廊下で待ってて」
鳴海「おう」
教室を出てトイレに行く嶺二
教室を出る鳴海
◯10鳴海高校三階廊下(放課後/夕方)
生徒たちがわらわらと教室から出て廊下で喋ったり、放課後何をして過ごすかなど他愛のない話をしている
神谷と明日香が喋っている
明日香の手には専門学校のパンフレットが握られている(保育関係)
二人が喋っているのを遠目から見ている鳴海
少ししたら明日香と神谷の話は終わる
明日香はパンフレットをリュックに入れ先生に別れを言う
明日香はこちらに向かって歩いてくる
明日香「鳴海!明日もちゃんと学校来なさいよ!」
鳴海「気が向いたらな」
明日香「気が向かなくても学校は来なきゃダメなの!いい?」
鳴海「はいはい、また明日な」
明日香「じゃあね!」
手を振って明日香は去っていく
明日香が帰ってから数分しても嶺二は戻ってこない
鳴海は後ろから菜摘に声をかけられる
菜摘は部活一覧表のプリントを握り締めてる
菜摘「部活・・・一緒に見て周らない?」
鳴海「(少しびっくりした様子で)えっ?部活?あー・・・俺入らないからさ」
ふと神谷の視線がこちらに向いてることに気づく鳴海
神谷は口パクで部活と言っている
菜摘「入らないの?部活」
鳴海「ああ、入らない予定、一応。まあ予定は予定だしスケジュールって変わることがあるからなんとも言えないけど今のところはそういう予定かな」
菜摘「(困惑しながら)それってつまり?」
鳴海「(声 モノローグ)くそっ、部活なんざに興味はこれっぽっちもないがここで断ると明日にでも神谷から呼び出しをくらってしつこく言われそうだな・・・とりあえず見学を少しだけして急用を思い出したから帰るねごめん!って言ってその場を切り抜けるしかねえ!」
鳴海「つまり・・・一緒に周ろうってことだな」
菜摘「よかった・・・一人で見学するのは緊張してさ・・・」
鳴海「俺もだよ、三年生にもなって部活なんか見ないし、(小声で)というか興味ないし・・・」
菜摘「えっ?ごめん・・・聞こえなかった」
鳴海「いや、なんでもない。俺、貴志鳴海。同じクラスになったことないよな?」
菜摘「私は早乙女菜摘」
鳴海「よろしく」
菜摘「うん!こちらこそよろしく」
鳴海「とりあえずどこから行く?」
菜摘「うーん、そうだなぁ・・・」
鳴海と菜摘は部活を探しに歩き始める
時間経過
しばらくすると嶺二が戻ってくる
廊下にはほとんど学生がいない
嶺二「まじかよ!?鳴海のやつ帰ったのか!?」
周囲を見渡す嶺二
鳴海は部活周りに行ったため廊下にはいない
嶺二「固い絆で結ばれたソウルメイトだと信じていたのに・・・」
その場でがっくりとうなだれる嶺二
◯11波音高校第二音楽室外(放課後/夕方)
教室の中では吹奏楽部がクラシックを演奏している
練習風景を扉の窓から覗き込む鳴海と菜摘
鳴海「ガチだな・・・」
菜摘「ガッチガチだね・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「楽器とか出来んのか?」
菜摘「(首を激しく左右に振りながら)出来ない出来ない」
鳴海「ということは音楽系はやめた方がよさそうだな・・・」
鳴海はカバンの中にしまった部活一覧表を取り出す
鳴海「なんか他のところに行こうぜ」
菜摘「そうだね、オカルト研究会に行ってみたい」
鳴海「オカ研かぁ、どこで活動してるんだっけな・・・」
プリントを見てオカルト研究会の場所を確かめる鳴海
◯12波音高校旧理科準備室現オカルト研究会部室(放課後/夕方)
椅子に座っている鳴海と菜摘
部室内は積み重ねられた古びた本、六芒星の描かれた巨大なポスターが貼られた壁、魔女のコスプレをさせられた人体模型、中世ヨーロッパを想起させるような少女の人形など不気味な物で溢れている
オカルト研究会部長の中森がお菓子を鳴海と菜摘に振る舞う
中森以外の四人の部員は地面に座りぶつぶつ暗号のようなものを唱えている
菜摘「あの・・・オカ研って普段どんな活動をするんですか?」
中森「我らオカルト研究会は現実ではあり得ないような出来事を日々様々な視点から探究しています」
鳴海「すまん、それだけじゃわからん・・・一体どんな活動をするんだ?」
中森「新しい都市伝説や呪いが波音高校で流行ってないか調べたり、この町に古くから残っている伝承をまとめてネットの記事にしたり、そんなことをやってますよ」
菜摘「心霊スポットに行ってみたりとかはないんですか?」
中森「月に一度、心霊スポットに行く日を設けてます」
鳴海「(感心しながら)本格的だな」
中森「他の文化部に負けないように様々なことに挑戦しています」
鳴海「文化部同士で競合があるってことか」
中森「そうですよ、多くの文化部は常に活動費&部員不足に悩まされているのです」
中森以外の部員は未だ暗号を唱えている
菜摘「あの人たちは何をしているんですか?」
中森「(真ん中にいる女子部員を指差して)あの子がバイト先の先輩に物凄く腹を立てて、だから新しい呪いを自分たちで開発して今それを唱えているところなんです」
鳴海「まじかよ?!おいおい・・・呪いとか仮にも素人が開発してもいいもんなの・・・?」
菜摘「呪いが自分に返ってこないんですか?」
中森「人を呪わば穴二つ・・・そこら辺は自己責任なんです。まあオカルト研究会なんて自分から呪われに行ってるようものなので。因みに私はオカ研に所属するようになってから二回骨折しましたし、叔母が交通事故に遭いました」
何故か笑顔で不幸自慢をして鳴海と菜摘を脅す中森
菜摘「そ、そうなんだ・・・お大事に・・・」
鳴海「部そのものが呪われないようにな・・・」
中森「もしかしたら、この部屋に足を踏み入れた以上お二人も呪われているかもしれませんね」
怖くなった菜摘は慌てて椅子から立ち上がる
菜摘「わ、わたし、急用を思い出したんでこれで失礼します!お邪魔しました!!」
ドタバタと部室を出て行く菜摘
鳴海「あ、おい!どこ行くんだよ!!」
椅子から立ち上がりお菓子を制服のポケットに入れる鳴海
鳴海「これもらって行くわ!!色々説明ありがとな!!じゃあ!!」
菜摘を追いかけてドタバタと部室を出る鳴海
◯13波音高校廊下(放課後/夕方)
走って出てきたため息切れしている鳴海と菜摘
校庭で運動部が活動しているのが見える
鳴海「(息切れしながら)おい・・・いきなり飛び出るなよ・・・」
菜摘「(息切れしながら)ごめん・・・オカルト研究会はやっぱ無理かも」
鳴海「(息切れしながら)じゃあ次は・・・どこに行くんだ?」
菜摘「(呼吸を整えながら)えーっと・・・(プリントを見ながら)じゃあ次は・・・ここに行ってみよう!」
◯14波音高校旧特別活動室現プラモデル建設部(放課後/夕方)
部室内はたくさんのプラモデル、ジオラマなどがショーウィンドウに入れて飾ってある
部員は十人、全員男、皆それぞれが何かしらを作っている最中
部長の桐崎が一つ一つの展示物について説明する
鳴海「(ショーウィンドウを覗きながら)なんだかごちゃごちゃしてるな」
桐崎「見ての通り、これは各部員達がお気に入りのモビルスーツを作り上げ、一つのバトルフィールドで闘いが行われたらどうなるかという仮シチュエーションを元に出来上がった作品である。堅物には理解することが出来ない芸術作品と言ったところだ」
鳴海「(小声でボソッと)悪かったな堅物で」
菜摘「(ショーウィンドウを覗きながら)すごい・・・連邦軍とジオン軍以外の施設まで再現されてる・・・」
桐崎「ほう・・・あなたにはこの作品の素晴らしさが伝わったか。ではもう一つ、僕たちの代表作を紹介しよう」
布が覆いかぶさった大きなショーウィンドウケースを慎重に机の上に置いて、運んでくる桐崎
鳴海「早乙女はガンダムとか好きなの?」
菜摘「お父さんの影響で、小さい時にたまに作ったりしてたよ。あんまり詳しくはないけど」
鳴海「俺、見たことすらないな・・・」
机を鳴海と菜摘の前に運んでくる桐崎
桐崎「お喋りはその辺にして、こちらに注目したまえ!これは1/85サイズの初期デザインのガンダムだ!!」
布をバサッと取る桐崎
ショーウィンドウの中には見たことのないガンダムとは似ても似つかない代物が飾られている
鳴海「これ・・・ガンダムなの?」
菜摘「見たことないデザインだね、ガンダムというよりヤッターマンに出てくるヤッターワンみたいな・・・」
桐崎「これはガンダムの創造主である富野由悠季が描いた初期デザインを元に作ったガンプラなのだ!!」
鳴海「なるほど」
菜摘「珍しいんだね」
桐崎「(声を大きくして)もっと興味を示せ!!」
鳴海「そう言われても・・・よく知らんし」
菜摘「私も・・・そこまで詳しくないから・・・」
少しの沈黙が流れる
菜摘「貴志くん、そろそろ行こう。こういう貴重な物は価値が分かる人に見せないと」
鳴海「そうだな、俺たちには早かった」
桐崎「おい!貴志!早乙女!これはとんでもない物なんだぞ!簡単に見れる物じゃないんだ!お前らにはこいつの素晴らしさが分からんのか!」
鳴海「すまん、マジでわからん」
菜摘「そもそも私、ガンダムっぽくない時点でこれはガンダムじゃないと思う」
桐崎「(愕然とする)ガンダムじゃ・・ない・・だと・・」
鳴海「そんじゃあ、色々見せてくれてサンキュー」
菜摘「お邪魔しました」
愕然としている桐崎、ガンダムっぽくないガンダム、作業をしている部員達を置いて部屋を退出する鳴海と菜摘
◯15波音高校廊下(放課後/夕方)
廊下を歩いている二人
鳴海「お前、素直に言うんだな」
菜摘「え?どういう意味?」
鳴海「さっきの初期デザイン?のガンダムを見てさ、ガンダムっぽくないってはっきり言ったからびっくりしたんだよ。桐崎のやつ、ショック受けてたぜ」
菜摘「だってあれ、ガンダムに見えなくない?というか、貴志くんもごちゃごちゃしてるなーって素直に言ってたよ?」
鳴海「そういえばそうだったな、まあ俺は思ったことはだいたいなんでも口に出すから」
菜摘「そうなんだ」
部活一覧表のプリントをカバンにしまう鳴海
鳴海「俺、そろそろ帰ろうかな」
菜摘「えっ!帰っちゃうの?」
鳴海「おう」
菜摘「もしかして用事があった?」
鳴海「いや、特にはないけどさ」
菜摘「部活見なくていいの?」
鳴海「平気平気。今見てきた部も全部イマイチだったし。てか神谷のやつもよく俺や嶺二に部活に入れだなんて無責任なこと言えるよな。サボりの常習犯に部活なんて不可能に決まってる」
菜摘「(少し寂しそうな表情をして)やっぱりそうだよね・・・」
会話が途切れ、外から運動部も大きな掛け声だけ聞こえてくる
鳴海「まあ、やりたいことがあるんだったら挑戦してみるのもいいんじゃないか。俺にはないけど・・・やりたい気持ちがあるんだったら、色々見学してみたらいいと思う」
菜摘「(部活一覧表のプリントを強く握りしてる)うん・・・」
鳴海「まだ見たい部があるのか?」
菜摘「最後に天文学部が見たい」
鳴海「(ため息を吐く)分かったよ、天文学部だけ見てみよう」
菜摘「ありがとう!貴志くん、バイトとかしてないの?」
鳴海「してない、俺NEET」
菜摘「私も同じ、ニート」
◯16波音高校第二理科室兼天文学部室(放課後/夕方)
天文学部員達が天体望遠鏡をダンボールに詰め込んでいる
部長の一条雪音が天文学部について説明をしている
鳴海と菜摘以外にも新一年生が天文学部の見学に来ている
雪音「活動は基本的に週に二回、部員数は二十四人。男子十五人、女子九人。部員のほとんどは理系、顧問は安達先生、(双葉を指し示す)副部長は三年の双葉篤志くん。私が休んでる時は彼の指示に従ってね」
ダンボールに望遠鏡を詰めていた双葉篤志が笑顔でこちらに手を振ってくる
一年生たちは双葉に会釈する
雪音「今はみんなで天体望遠鏡をダンボールに入れて屋上に持って行ってる。準備に時間がかかるのと、日が沈んでから見に行くから下校は遅め、それを忘れないでね。今日も良い天気だからもう少ししたらおおぐま座か双子座が見えると思う」
一通り説明を聞き、屋上に行く天文学部員、一年生、鳴海、菜摘
◯17波音高校屋上(放課後/夕方)
屋上で天体望遠鏡の準備をしている天文学部員たち
一年生たちはそれを近くで見ている
鳴海と菜摘は少し距離を見ている
鳴海「吹奏楽部といい、オカルト研究会といい、プラモデル建設部といい、天文学部といいうちの学校は文化部もガチ過ぎる」
菜摘「どこの部も道具がすごいよ、天体望遠鏡なんて絶対高いと思う・・・」
鳴海「今になって思えば神谷が文化部に入れって言ったのも、文化部も運動部に劣らず設備が充実してるからだったのかもな」
雪音が鳴海と菜摘の方にやってくる
雪音「私たち、同じくクラスだね!二人ともよろしくね」
鳴海「あれ、一条も三組だっけ?」
雪音「クラス分けのプリント、ちゃんと見てないんでしょ。二年連続神っ子(神谷の生徒という意味)だよ!」
鳴海「俺なんか三年連続神谷だわ」
雪音「(笑いながら)神谷から好かれてるんだ。明日香も三年連続だって言ってた」
鳴海「俺と嶺二と明日香は三年連続同じ、多分腐れ縁」
雪音「三人仲良しだもんね、(菜摘の方を向いて)早乙女さんは同じクラスになるの初めてだね、私は一条雪音。よろしく!」
菜摘「早乙女菜摘です、よろしく」
人見知りな菜摘とコミュニケーション能力の高い雪音の間に沈黙が流れる
雪音「二人とも星を見るのが好きなの?」
菜摘「放課後、友達と星を見たりするのがいいなぁって思って・・・それで見学に」
雪音「貴志くんは?」
鳴海「俺もそんな感じかな」
雪音「星ならたくさん見れるよ。流星群を見るときもあるし、興味があるならぜひ入部して!(天体望遠鏡を指差して)試しに見てみない?」
菜摘「いいの?」
雪音「もちろん!」
雪音が天体望遠鏡まで案内する
雪音が天体望遠鏡をいじる
雪音「OK!見てみて」
菜摘が天体望遠鏡を覗き込む
菜摘「(天対望遠鏡を覗きながら)すごいね!!星雲が見える!」
雪音「すごいでしょ!おおぐま座の上の方にある星雲で、M81って言うの。もう少し上の方にはM82っていう星雲もあるよ」
天体望遠鏡を上の方に向けてみる菜摘
菜摘「(天対望遠鏡を覗きながら)ほんとだ!!星雲が見えるなんて思わなかった!」
雪音「色々動かしてみて、他にもたくさんの星があるから」
菜摘は天体望遠鏡を動かして他の星を観察している
双葉が雪音の方へやってくる
双葉「(小声で)雪音、時間は大丈夫か?この間もかなり遅くなったんだろ?今日は俺に任せて行っていいよ」
屋上にある時計は夕方の五時半を指している
時計を見て時間を確認する雪音
雪音「(小声で)うん、ありがとう・・・じゃあお願いするね」
双葉「(小声で)お姉さんによろしくな」
頷く雪音
雪音「貴志くん、早乙女さん、私用事があるから帰るね!」
鳴海「え、あぁ、帰るのか。お疲れ」
菜摘「(天体望遠鏡を覗くのをやめて)色々教えてくれてありがとう!」
雪音「うん!またね!」
走りながら手を振って校舎の中へ戻る雪音
一年生たちは夢中で天体望遠鏡をいじっているので雪音が帰ったことに気づかない
天文学部員1「(小声で)一条先輩大変だよね・・・」
天文学部員2「(小声で)お姉さん、高校を卒業してからずっとなんでしょ?」
天文学部員1「(小声で)可哀想・・・」
雪音の代わりに双葉が仕切り始め、天文学部員たちに指示を出す
双葉「ほら二、三年生!ぼんやりしてないで一年生に望遠鏡を貸してあげて!!一年生は遠慮しないでいっぱい星を見てね!!」
双葉の声でせかせかと動き始める二、三年生
天体望遠鏡から離れ、一年生に譲る菜摘
菜摘「一条さん、なんかあったのかな」
鳴海「なんだろうな。おい双葉、一条になんかあったのか?」
双葉「(少しイライラしながら)別になんでもない」
鳴海「何キレてんだ」
双葉「色々あんだよ」
鳴海「色々じゃわからねえ」
双葉「お前みたいな不真面目には関係ないことだ」
鳴海「そうかよ」
少しの沈黙が流れる
菜摘が心配そうに鳴海と双葉の顔を交互に見ている
双葉「なんで貴志は部活見学してるんだよ?お前、興味ねえだろ」
鳴海「神谷が言い始めたんだよ、部活に入れって」
双葉「(小馬鹿にしたように笑う)お前、例え部活に入ったとしても続かないだろ、学校にもこないくせに」
鳴海「かもな」
◯18帰路(放課後/夜)
天文学部の見学を終え、歩いている鳴海と菜摘
日は落ちている
明日の緋空浜祭りに合わせて等間隔に提灯が吊るされている
鳴海「良さそうな部はあったか?」
菜摘「うーん、あんまり」
鳴海「天文学部は?」
菜摘「星が見えたり、詳しくなるのは嬉しいけど・・・やっていけない気がする」
鳴海「やっていけないって・・・ただ星を見るだけじゃないか」
菜摘「そうだけど・・・双葉くんが言ってたこと・・・学校に来ない奴は部活も続かないだろって」
鳴海「あんな奴気にすんなよ、あれは俺に言ったことだし」
菜摘「(俯きながら)私は小さい頃から体調を崩しやすいし、波高に入っても欠席ばっか・・・病院に行っても原因はわからない。だから、周りに迷惑をかけないように一人で過ごしてきた。それでも今年は最後の高校生活。人と交流するのが得意なわけじゃないけど、今まで挑戦出来なかったことも頑張ってみようって思ってた。でもあの言葉を聞いたら、やっぱり私には出来ないのかな」
鳴海「それは試してみなきゃわからねえだろ。それなら、学校にあんまり来てない奴でも部活はやっていけるってことを早乙女が証明してくれ」
菜摘「でも結局、入ってみたいと思ったところはなかったし・・・」
鳴海「まあ・・・俺も今日周ったところで入ってみたいとは思わなかったな・・・興味のないことでもせめて自由にやれたり、友達がいればいいんだけどなぁ」
菜摘「興味のないことでも友達がいれば部活に入るの?」
鳴海「いや、確実に入るとは言えないけど。でも喋れる奴がいた方がマシだ」
菜摘「(少し考え込む)じゃあさ・・・遊んで過ごせる部活を自分たちで作ればいいんじゃない?」
鳴海「バカバカ、作れるわけないだろ。しかもこの俺が」
菜摘「(微笑みながら)でも・・・試してみなきゃわからねえんでしょ?」
鳴海「それとこれは全くの別問題。今になって三年生が部活を作るなんて失敗に終わるよ。その時間が勿体無い」
菜摘「確かに・・・難しいもんね・・・新しい部活を作りたいって先生に申請を出して、顧問の先生を見つけて、部員を集めて・・・」
鳴海「そうだろ?早乙女みたいに病気で休みがちになるのは仕方ねえけど、俺はただのサボりだし許可が出ねえよ」
歩くのを止める菜摘
菜摘に合わせて歩くのを止める鳴海
鳴海「どうした?」
菜摘「なら私がやる」
鳴海「は?何を?」
菜摘「私が部活を作る」
鳴海「嘘でしょ?過ぎたからねエイプリルフール。笑えないよ、無闇には嘘をつくのは」
菜摘「嘘じゃない、私が部活を作る」
鳴海「(頭を抱える)なんで!?さっき言ったばっかじゃないか!問題が多いって!!」
菜摘「何かを始めるのにあたって問題がないことなんてないでしょ?むしろ最初は問題が多くて当たり前、それを乗り越えるのが部活じゃない?」
少しの沈黙が流れる
鳴海「じゃあ、頑張って部活を作ってくれ。俺は密かに応援してるから」
歩き始める鳴海
鳴海が歩いている真逆の方へ走っていく菜摘
菜摘「私、今から神谷先生に許可もらってくる!!また明日!」
歩くのをやめて振り返る鳴海
鳴海「(大声で)おい!本当に部活を作るのかよ!?」
走るのをやめて振り返る菜摘
菜摘「(大声で)うん!初期衝動ってやつ!今なら出来る気がする!!」
鳴海「(大声で)さっきまで凹んでた奴が何言ってんだよ!?」
菜摘「(大声で)自分の部活だったら、私でもやっていけるかもしれない!」
鳴海「(大声で)部活が出来たら奇跡だぞ!!」
菜摘「(大声で)それなら奇跡を起こしてみたくなったの!!」
学校の方へ向き走っていく菜摘
菜摘の姿を見ている鳴海
鳴海「まじかよ・・・あいつ本気で言ってんのか・・・」
走っていく菜摘の姿はどんどん小さくなっていく
鳴海は自宅のある方へ歩き始める
鳴海「(声 モノローグ)無駄な時間、どうしたってなにも変わることのない生活」
◯19白石家嶺二の自室(夜)
ベッドの上でゴロゴロしながらスマホを見ている嶺二
鳴海「(声 モノローグ)社会の縛りと世間の目がたまらなく鬱陶しく思えてしまう」
◯20天城家明日香の自室(夜)
勉強机でパソコンを見ている明日香
保育士系の専門学校のホームページを見ている明日香
鳴海「(声 モノローグ)例え夢があって努力をしても、結果が出なきゃ夢と心は深い海の底に沈むんだ」
◯21南家汐莉の自室(夜)
スマホで音楽を聴きながらギターをいじっている汐莉
鳴海「(声 モノローグ)みっともない、沈んだ時は誰も助けてくれないのに」
◯22波音総合病院前(夜)
病院に向かっている雪音
鳴海「(声 モノローグ)何かに執着した時、人は本当の力が出るのかもしれない。後のことは考えずに力を発揮する」
◯23波音高校職員室(夜)
部活を作りたいと提案する菜摘
菜摘の話を聞いてどうすればいいか悩んでいる神谷
鳴海「(声 モノローグ)みんな知ってる、そんなこと。みんな選ぶんだ、失敗した時に沈むのを恐れるか、恐れないか。くだらない、現実的じゃないことに挑むのか。奇跡なんて・・・そんなものあるもんか」
◯24滅びかけた世界:波音町(日替わり/昼)
地図を見ながら歩いているナツ
スズは小石を蹴りながら歩いている
ガタガタな地面
ボロボロな民家
今にも雨が降りそうな曇り空
緋空浜 この先1kmと書かれている看板がある
ナツ「よし、道は間違えてない」
スズ「学校からかなり近いね〜」
ナツ「そうだね。ほんと迷わなくてよかった」
歩き続ける二人
スズ「ねえなっちゃん」
ナツ「なに?」
スズ「昨日学校にあった骸骨って、戦争で死んじゃった人の骨かなぁ?」
ナツ「そうじゃない?」
スズ「どうして戦争したんだと思う?」
ナツ「さあ?なんか理由があったんだろ」
スズ「どんな理由?」
ナツ「戦う理由が」
スズ「自分が死ぬかもしれないのに戦わなきゃいけないって変だよね」
ナツ「違う、死ぬかもしれないから戦うんだ」
緋空浜まで残り800mと書かれている看板がある
ナツは看板を確認する
スズ「死にそうだから戦うの?」
ナツ「殺される前に殺すってだけだと思う」
スズ「ふーん、殺される前に・・・」
歩くのを止めるスズ
小石を蹴るのを止め小石を拾うスズ
スズ「(小石を投げながら)くらえ!」
投げられた小石はナツに当たって落ちる
痛みで歩くのを止めるナツ
ナツ「(スズの方へ振り向き怒りながら)痛いな!何すんのいきなり!!」
スズ「痛かった?」
ナツ「(怒りながら)痛かったよ!!」
スズは近くにあった別の小石を拾う
ナツは自分に当たって落ちた小石を拾う
ナツ「もう一度やられる前にやり返してやる!!」
小石を投げるナツ
小石はスズにぶつかって落ちる
スズ「いてっ」
ナツ「まだやるのか!やる気ならもっとお返ししてやる!!」
ナツは近くにあった小石を拾って投げる構えをしている
スズ「私たち・・・」
ナツ「なんだよ!」
スズ「今・・・小石を使って戦ってるんだね。戦争もこんな感じで始まったのかな」
ナツは小石を構えるのを止める
ナツ「自分からぶつけてきたくせに」
スズ「ごめん」
スズは持っていた小石を落とす
ナツも小石を落とす
ナツ「私もぶつけてごめん」
スズ「ううん、私が最初にぶつけたから」
ナツはスズの方へ行き、彼女の手を取る
ナツ「行こう」
スズ「うん」
二人は歩き始める
ナツ「どうして戦争をやめなかったんだろう」
スズ「昔の人は馬鹿だったのかなぁ」
ナツ「馬鹿が人の命を奪い合ってたんだ」
スズ「今の私たちより馬鹿だねぇ」
スズが歩いている時に新聞を踏みつける
新聞の記事は日米独立帝国宣言という見出しから始まっている
◯25滅びかけた世界:緋空浜(昼)
浜辺には戦車、重火器、使い古された小型船、空っぽの缶詰、ペットボトル、腐敗し死臭を放っている魚、骨になった遺体がそこら中にに転がっている
空模様は曇天、太陽の光は見えない
緋空浜と書かれた看板が建っている
浜辺で立ち尽くすナツとスズ
ナツ「(呆然としながら)これが・・・これが奇跡の・・・海・・・?」
ポケットからボロボロのポストカードを取り出すスズ
ポストカードの表には綺麗な緋空浜と夕陽が写っている
裏には“緋空浜には人の理解を超える特殊な力が宿っている、現実ではあり得ない力、奇跡を起こす、奇跡はたくさんの人を救う、波音町は奇跡によって守られる”と書かれている
スズ「(ポストカードと見比べながら)これと全然違うね」
がっくりと膝をつくナツ
ナツ「こんなにたくさんの人が死んでいる・・・みんなこの海に助けを求めて・・・死んでいったんだ・・・」
ポツポツと雨が降り始める
スズ「雨だ」
濡らさないようにポストカードをポケットにしまうスズ
ナツ「(涙をこぼしながら)クソっ!クソっ!何が奇跡だ!!何にもないくせに!!(拳で砂浜を強く叩く)みんな死んでるじゃん!!誰も助けてないじゃん!!!」
リュックから折りたたみの傘を出すスズ
傘を開いてナツが濡れないようにするスズ
スズ「戻ろうなっちゃん」
どんどん雨が強くなっていく
立ち上がるナツ
ナツ「私たちも昨日見た骸骨と同じように死んでいくんだ」
スズ「まだ食べ物はあるから平気だよ」
ナツ「でも少ない、すぐになくなる」
スズ「なくなったら学校の非常食を食べよ、それがなかったから他のところ探して集めよう」
ナツ「でもそんなことをしたって・・・いつかは・・・」
スズがナツをギュッと抱きしめる
スズ「そしたら私の分をあげる、半分ずつ食べようね。大丈夫、奇跡なんかなくても二人で生きていけるもん私たち。」
スズの胸の中でおんおん泣くナツ
◯26波音高校三年三組の教室(日替わり/朝)
朝のHRの前の時間
ほとんどの生徒が教室にいて談話している
席についてスマホをいじっている鳴海
嶺二が教室に入ってくる
嶺二が机の上にカバンを置いて鳴海の方へやってくる
嶺二「昨日勝手に帰りやがったな」
鳴海「あーわりい、忘れてた」
嶺二「なんだよ忘れてたって!ちゃんと待っててくれって言っただろ!」
鳴海「昨日は忙しかったんだよ、(チラッと菜摘の方を見る)急用が出来ちまって帰れなかった」
菜摘は席について誰とも喋らず一人で本を読んでいる
嶺二「どうせほんとは待つのがめんどくなって帰ったんじゃねーの」
鳴海「いや、違う」
カバンからノートを取り出す鳴海
ノートに早乙女菜摘と部活周りをしてたせいで帰れなかったと書く鳴海
嶺二「(ノートを見て驚く)ぶ・か・つ!?」
鳴海「(小声で)うるせえ静かに喋れよ、早乙女に聞かれちまうだろ」
嶺二「(小声で)なんでよりによってお前なんかと部活を周ったんだ・・・?」
鳴海「(小声で)俺だって好きで周ったんじゃねーよ、断りたくても神谷に見られてて無理な状況、それで少し周っただけだ」
嶺二「(小声で)てめえ・・・ざけんなよ、女の子と部活を周るなら俺のことも誘いやがれ」
鳴海「(小声で)嶺二がいたらとっくに連れ出してたわ、俺しかいなかったら二人で周ることになったんだよ!」
小声で喋っている鳴海と嶺二を見て、明日香が近づいてくる
明日香「何小声で喋ってんの?もしかして二人で付き合ってる?ホモ?」
嶺二「付き合ってねえよ!」
明日香「側から見てるとイチャイチャしてるみたいですごく気持ち悪いんだけど」
鳴海「聞いてほしい明日香、嶺二のやつ・・・俺のことが好きらしいんだ。それでさっきから迫ってきてて・・・もちろん俺は断ったんだが、話を聞いてくれない・・・明日香もなんか言ってやってくれ」
嶺二「は?お前何言ってんの?」
鳴海「今はとぼけてるけど、(嶺二を指差して)嶺二はホモなんだ!」
明日香「そ、そうなの!?嶺二、あんたゲイだったのね・・・でもダメ、あんまり迫ったら可哀想でしょ・・・だってほら・・・鳴海は男の子じゃなくて、女の子に興味があるんだし・・・」
嶺二「いや何を言ってるんですか明日香さん、僕は男になんてこれっぽっちも興味がなくて・・・」
嶺二の背中をポンポン叩く鳴海
鳴海「無理しなくていいんだ嶺二、今まで気づかなくてごめんな、知らなかったんだ、お前がホモだから俺とつるんでたなんて。でも今日からは無理して隠さなくていいぞ。付き合うことは出来ないが・・・何か困ってることがあれば遠慮無く相談してほしい。俺たちが全力でサポートする、(明日香の方を見る)な!明日香!!」
明日香「うん!私にできることなら何でもするから!」
嶺二「あのですね、別に俺、ホモじゃないから!!!男に全然興味ないから!マジで!」
神谷が教室に入ってくる
鳴海「無理すんなよ嶺二」
明日香「偽って過ごすのも辛いでしょ?」
嶺二「いやだから別に偽ってないんだわ!!全然違う話してたからね俺ら!ホモのホの字も出てねえから!!いやつかゲイのゲの字もLGBTのLの字も出てn・・・」
神谷「鳴海と菜摘!ちょっと来なさい!」
神谷の一声でざわついてた生徒たちの視線が鳴海と菜摘に集まる
菜摘が本を読むのをやめ席を立ち神谷の方へ行く
鳴海「(困惑しながら)今度は一体何事だ・・・」
席を立って神谷の方へ行く鳴海
明日香「昨日の昼間も呼び出しされてたけど、なんかしたの?」
嶺二「いや、別に何も」
明日香「何もしてないのに呼び出されるわけ?」
嶺二「むしろ俺たちの場合、何もしてなさすぎて呼び出されたってわけ」
明日香「つまりどういうこと?」
鳴海が先ほど書いたノートを明日香に渡す嶺二
明日香「早乙女さんと鳴海が部活周り・・・?」
嶺二「そういうことらしいぜ、詳しく知らんけど」
神谷、鳴海、菜摘は廊下に出る
廊下に出て行く姿を見ている明日香と嶺二
◯27波音高校三年三組の教室前廊下(朝)
廊下は時々生徒がやってきて教室に入っていく
神谷はファインダーから書類を取り出して菜摘に渡す
書類を受け取る菜摘
神谷「とりあえず学校側から許可が下りたから、部活を作っていいぞ」
菜摘「ありがとうございます!」
神谷「ただし、部活を作る場合は最低五人以上の部員が必要、顧問の先生を見つけるのと使ってない教室を探さなきゃダメだ」
菜摘「はい、わかりました」
神谷「とりあえず部員を集めたら部の内容についてプリントにまとめて、それを顧問の先生に提出しなさい。一応現状は特別教室の四を使っていいことになってる、物が多くて少し埃っぽいけど十分広いし使える部屋だから。まずは二人で頑張って部員を集めよう、最低あと三人。部員さえ集まれば部活も出来る」
菜摘「はい、分かりました」
神谷「他に何か質問はあるか」
菜摘「特には・・・」
少しの沈黙が流れる
鳴海「今、二人で部員を集めろって言いました?」
神谷「そう、二人でな。頑張れよ菜摘と鳴海!!」
鳴海「いやいやいや待て待て待て!俺も!!??」
神谷「あったりめえだろ、副部長なんだぞ君は」
鳴海「はい・・・?副部長・・・?俺が・・・?」
神谷「副部長の責任は重いぞー、教師で例えると副校長みたいなもんだからなー、きちんとやれよ」
鳴海「(呆然としながら)きちんとって何をすれば・・・」
腕時計を見る神谷
神谷「そろそろHRの時間だな、また何か質問があったら聞きにきなさい」
鳴海と菜摘を残して教室に入ってしまう神谷
菜摘「(頭を下げながら)ごめん!!貴志くんの名義だけ貸してほしい!!というか勝手に借りた!!ごめんなさい!」
鳴海「ああ・・・俺の名前を使ってとりあえず頭数を増やしたのか。とりあえず頭あげろよ」
頭をあげる菜摘
菜摘「ごめんね、ただ名前を借りるだけだから部活作りは私が一人でやるよ」
鳴海「一人で大丈夫かよ?」
菜摘「うん、大丈夫」
鳴海「そっか、じゃあ名義は貸しとくわ。頑張れよ」
菜摘「頑張ってみる!」
◯28波音高校三年三組の教室(朝)
朝のHRの時間
神谷がHRで一日の予定の説明をしている
鳴海と嶺二はLINEをしている
鳴海と嶺二はバレないようにスマホを机で隠しながらLINEを見ている
鳴海「(声)早乙女が部活を作るらしい。俺は名義を貸しただけ」
嶺二「(声)部活を作る!?三年生でも作れるの?」
鳴海「(声)いけるらしい」
嶺二「(声)何部作んの?」
鳴海「(声)分からん、聞いてねえ」
嶺二「(声)女の子が困っているなら俺も名義を貸すか・・・」
鳴海「(声)やめとけ、誰も嶺二の名前なんか借りたくねえだろ」
嶺二「(声)なんでだよ!!」
明日香からもLINEが来ている鳴海
嶺二からのLINEを既読無視して明日香のトーク画面を開く鳴海
明日香」「(声)怒られた?」
鳴海「(声)怒られねえよ・・・何も悪いことしてないからw」
明日香「(声)何で呼び出しされたの?」
鳴海「(声)早乙女が部活を作るらしい、俺は早乙女の部に名義を貸した」
明日香「(声)部活入んの?」
鳴海「(声)いや、ただ頭数を揃えるために名前を貸しただけだよ」
明日香「(声)そうなんだ」
既読をつけて明日香のトーク画面を閉じる鳴海
鳴海は今朝きていた姉からのLINEにようやく既読をつける
風夏「(声)ちゃんと学校行け!」
鳴海はグーサインを突き出したスタンプを三連続で風夏に送りつける
嶺二は机に突っ伏して居眠りを始める
神谷「帰りのHRで春休みの課題を集めるから、やってない奴は今のうちに終わらせておけよ!!やってないと今日補講になるからな!」
鳴海は明日香とのトーク画面を開く
鳴海「(声)わりい、今日提出の課題の答えを教えてくれ」
明日香「(声)課題やってないの?馬鹿でしょ」
鳴海「(声)すっかり忘れてた」
明日香「(声)HR終わったら貸してあげる、そのかわりジュース奢ってよ」
鳴海「(声)サンキュー、助かった」
明日香から可愛らしいくまのスタンプが送られてくる
◯29波音高校庭(夕方/放課後)
下校途中の鳴海(嶺二は補講)
生徒たちは部活に行ったり下校したりしている
掲示板に部活募集の紙を一人で貼っている菜摘
菜摘の姿を見つけた鳴海は彼女に声をかける
鳴海「よう、うまくいってるか」
菜摘「どうかな・・・まだ今は部員募集の貼り紙をしてるだけだから・・・」
菜摘は分厚く大量に印刷された部活募集の紙を抱えている
紙には文芸部員募集と書かれている
鳴海「文芸部を作るのか?」
菜摘「うん、本を読むのが好きだし・・・みんなで作品を書けたらいいし・・・」
菜摘が持っていた文芸部募集の紙が風で飛ばされる
菜摘「あっ・・・」
紙はどんどん流されて行く
鳴海「(走りながら)待ってろ!俺が取ってくる!!」
鳴海は飛ばされた紙を捕まえる
鳴海「(小さくガッズポーズをする)よしっ!」
走って菜摘のところへ戻る鳴海
紙を菜摘に渡す鳴海
菜摘「ありがとう」
またしても強い風が吹いて紙が飛ばされそうになる
鳴海は慌てて紙が飛ばされないように手を置く
鳴海「危ねえ危ねえ、(部活募集の紙を見ながら)それ貸せよ。一人じゃしんどいだろ」
菜摘「(首を横に振りながら)ただでさえ貴志くんには名義を借りたり色々助けてもらったりしてるのに申し訳ないよ」
鳴海「でも一人でやってた方が効率悪くね?」
菜摘「それはそうだけどさ」
鳴海「いいから貸せよ」
渋々部活募集の紙の束を渡す菜摘
鳴海「(紙を受け取りながら)さっさと他のところも貼りに行こうぜ。暗くなる前に」
菜摘「(笑顔で)ありがとう、貴志くん」
鳴海と菜摘は歩き始める
鳴海「今更だけど文芸部を作んのか・・・文芸部ってどんな活動をするんだ?」
菜摘「本を書いて部誌にまとめたり、新聞を作ったり、みんなでリレー小説をしたり、自作した作品の朗読会をしたり、あとは遊んだりかな」
鳴海「ちゃっかり遊ぶんだな」
菜摘「だって、少しは遊ばなきゃつまらないよ。気楽にできる部活じゃなきゃ」
鳴海「昨日見た部活はガチガチだったけどああいう感じにはしないのか?」
菜摘「部員がのんびり出来ればそれでいいと思う」
鳴海「憩いの場みたいにね」
菜摘「そうそう、そんな感じが理想」
◯30波音高校一年生教室の廊下付近の掲示板(放課後/夕方)
二人で協力しながら掲示板に部活募集の貼り紙をする
小さな体に大きなギターを背負った一人の女生徒(汐莉)が鳴海と菜摘の方を見ている
紙を貼り終える鳴海と菜摘
汐莉に声をかける菜摘
菜摘「(部活募集の紙を差し出しながら)よかったら入りませんか?文芸部を作ろうとしてて部員を募集しているんです」
汐莉「(紙を受け取る)小説や詩を書いたりするんですか?」
菜摘「はい、そういう活動を予定しています」
汐莉「文芸部に入れば作詞する力が上がると思いますか?」
菜摘「作詞は分からないですけど、物語を作れるようになったり、自分の言葉を文字にまとめる力は身につくと思います」
汐莉「私は軽音楽部に所属しているんですけど、顧問の先生に掛け持ちをしていいか聞いてみますね!軽音楽部の一年生はあまり出来ることがないので・・・」
菜摘「ぜひお願いします!!」
汐莉「このプリントに載ってる電話番号に連絡すればいいですか?」
菜摘「はい、私の携帯番号です」
汐莉「分かりました、連絡しますね!では早速先生に確認しに行きたいので失礼します!!」
ギターケースを背負ったまま走って行く汐莉
菜摘「やった!あの子が入ってくれれば・・・!」
鳴海「よかったな早乙女!このペースなら五人は楽勝だぜ!」
菜摘「うん!」
鳴海「(首を傾げながら)それにしても今のやつ・・・なんか見覚えがあるような・・・」
菜摘「貴志くんの知り合い?」
鳴海「わかんねえ、まあそのうち思い出すだろ。次は二、三年の廊下にも行くか」
菜摘「そうだね」
◯31波音高校二年生教室の廊下付近の掲示板(放課後/夕方)
協力しながら掲示板に部活募集の貼り紙をする鳴海と菜摘
外からは運動部の練習の掛け声が聞こえてくる
◯32波音高校三年生教室の廊下付近の掲示板(放課後/夕方)
二人で協力しながら掲示板に部活募集の貼り紙をする
外からは運動部の練習の掛け声が聞こえてくる
◯33波音高校三年三組の教室(放課後/夕方)
春休みの課題をやってこなかった生徒十数人が補講を受けている
神谷が教室の端っこに座って生徒たちを監視している
嶺二が貧乏ゆすりをしながら補講用の課題を解いている
嶺二「(大きくを伸びをして)ちょっと、トイレ行ってきます」
席を立つ嶺二
神谷「(嶺二を強く睨み)サボるんじゃねえぞ」
嶺二「(首をぶんぶん横に振って否定する)サボりませんって!!」
神谷「なら行ってこい」
ダラダラと歩いて教室を出る嶺二
◯34波音高校三年生教室の廊下付近の掲示板(放課後/夕方)
掲示板に貼り紙をしている鳴海と菜摘
トイレに向かっていた嶺二が二人を遠くから見つける
嶺二「あれは・・・鳴海と早乙女さん?」
掲示板に貼り終える鳴海と菜摘
鳴海「よし、これで一通り貼り終えたか?」
菜摘「うん、手伝ってくれてありがとう!!」
鳴海「集まるといいな、部員」
菜摘「最低五人だもんね。(指で数えながら)さっきの一年生と、私と、貴志くんで今のところ三人」
鳴海「あと二人くらい楽勝だろ」
菜摘「そうだね!」
二人が喋りながら歩いているところを見ている嶺二
二人が三年生の廊下を出たところを確認して掲示板を見に行く嶺二
嶺二「(掲示板を見ながら)文芸部・・・そういうことか・・・鳴海のやつ、俺に隠れて」楽しそうなことしてんじゃねーか」
ポケットからスマホを取り出し部活募集の紙に載っている菜摘の連絡先を登録する嶺二
嶺二「出会いは見逃さないぜ」
スマホをポケットにしまいトイレに行く嶺二
◯35帰路(放課後/夕方)
浴衣や甚平を着ている人がたくさんいる
子供たちが走って緋空浜を目指して走っていく
吊るされた提灯が光っている
下校している鳴海と菜摘
鳴海「そういや緋空祭りは今日か」
菜摘「今日から五日間やるよ」
鳴海「あぁ・・・通りで人が多いわけだ」
菜摘「お祭り嫌いなの?」
鳴海「嫌いっていうか、まあ・・・縁のないイベントだし。好きで行くことはないかな」
菜摘「私は家族と行ったりするけど、行ったら結構楽しいよ。屋台もたくさん出るし」
鳴海「俺は最近全然行ってねえや」
菜摘「お父さんお母さんと行かないの?家族連れで来る人もいっぱいいるよ」
少しの沈黙が流れる
鳴海「俺、親いねえからさ。姉貴はいるけど・・・お祭りなんか親が生きてた頃に行ったくらいだよ」
菜摘「(俯いて)え・・・そうなんだ・・・ごめんなさい、知らなくて・・・」
鳴海「謝んなよ、死んだのは大昔のことだ」
菜摘「じゃあお姉さんと二人で暮らしてるの?」
鳴海「いや、姉貴は仕事で忙しいから実質一人暮らしだな」
菜摘「家事とかは?」
鳴海「全部俺がやってるよ、俺こう見えても家事とか得意なんだぜ。すごいだろ」
菜摘「すごいね・・・一人暮らしなんて」
鳴海「と言っても、バイトしてないしお金のことは全部姉貴任せだけどな」
菜摘「それでもすごいよ」
鳴海「(体を伸ばしながら)あー夜飯作んのめんどくせえ、家事をしてくれるメイドが欲しいぜ」
菜摘「貴志くん、今日うちでご飯食べない?」
鳴海「(驚きで足を止める)は?」
鳴海に合わせて足を止める菜摘
菜摘「お腹すいてるならうちでご飯食べる?」
鳴海「ご冗談を」
菜摘「冗談じゃなくて、来ていいよ」
鳴海「いやいや流石に迷惑でしょ、しかもご飯食べるために行くなんて図々しい」
菜摘「大丈夫、お母さん優しいから」
鳴海「優しいってそういう問題じゃないだろ・・・」
菜摘「じゃあそこは部活作りを手伝ってくれたお礼ということで」
歩き始める菜摘
鳴海「(菜摘を追いかけながら)ちょっ・・・ほんとにいいのか?!」
菜摘「いいよ、貴志くんにはたくさん手伝ってもらってるし迷惑もかけてるから」
鳴海「そんなことでご飯を頂くなんて申し訳ないな」
笑う菜摘
鳴海「なんで笑うんだよ!」
菜摘「(笑いながら)ごめんごめん、貴志くんって意外と謙虚なんだなって」
鳴海「別に謙虚でもなんでもねえ、それを言ったら早乙女が俺の立場でも同じリアクションをしてるだろ!」
菜摘「確かに!!じゃあ謙虚でもなんでもないね」
鳴海「おい!!俺にだって少しくらいは謙虚な面もあるわ!!」
菜摘「(笑いながらツッコミする)いやどっちだよ!」
鳴海「少しは・・・俺にも謙虚な面があると思いたい。少しは」
菜摘「嘘嘘、冗談だよ。貴志くん、最初は怖い人かなって思ってたけど喋ってみるとノリも良いし優しいよね。それに謙虚だと思う」
鳴海「そっか、それなら良かった」
菜摘「だから私のお父さんとお母さんにも好かれるよ」
鳴海「そ、そうだといいけど・・・」
菜摘の家を目指す二人
◯36早乙女家前(夜)
早乙女家に着く鳴海と菜摘
カバンから鍵を取り出す菜摘
菜摘「お母さんとお父さんに説明して来るからちょっと待ってて」
鳴海「お、おう。お父さんもこの時間には帰ってんのか」
菜摘「多分ね、じゃあ待ってて」
鳴海「OK」
扉を開けて家に入っていく菜摘
菜摘「ただいまー!」
ガチャりと扉が閉まり一人になる鳴海
鳴海「(出し切ったヨレヨレのワイシャツをズボンにしまいながら)何してんだ俺は・・・」
スマホの内カメラで髪型と身なりを確認する鳴海
鳴海「身だしなみとか一応気にした方がいいか・・・女子みたいなことしてんな俺」
スマホをポケットにしまう鳴海
鳴海「いっそのこと帰っちまうか?急用ができたってLINEでもいれて・・・あっ・・・連絡先知らねえな・・・いや、明日言えばいいわ・・・人の家族に囲まれて飯なんて俺には無理だ、帰ろう」
帰ろうと足を伸ばす鳴海
菜摘が扉を開ける
菜摘「(扉を開けながら)入っていいよー!」
諦めたように足の進路を元に戻し菜摘の家に入る鳴海
鳴海「お、お邪魔します」
菜摘「どうぞどうぞ!」
◯37早乙女家玄関(夜)
玄関に上がる鳴海と菜摘
綺麗で物の少ない玄関
出迎えてくれる菜摘の母すみれ
すみれ「いらっしゃい」
すみれの横に立つ菜摘
菜摘「(手で指し示して)お母さん、部活作りの手伝いをしてくれてる貴志くん」
鳴海「は、初めまして!(頭を下げる)む、娘さんのご好意に甘えてお邪魔させていただきます、貴志鳴海です!」
すみれ「(頭を下げる)早乙女すみれです。(頭を上げて)もしかして緊張してる?」
鳴海「(頭を上げて)すみません、少しだけ」
すみれ「お腹すいてるでしょう?今作ってる途中だからもう少し待ってね」
鳴海「あ、ありがとうございます!」
すみれ「ご飯が出来るまでリビングでゆっくりしてて」
鳴海「はい!」
◯38早乙女家リビング(夜)
リビングに入る鳴海、菜摘、すみれ
物が少なく綺麗に整理整頓されたリビング
すみれはキッチンに行き料理を再開する
リビングでは菜摘の父潤が寝っ転がりながらテレビを見ている
菜摘「お父さん、こちらがいつも学校で手伝ってくれてる貴志くん」
見向きもしない潤
鳴海「は、初めまして、貴志鳴海です」
振り返る潤
潤「なんや・・・十八年かけて育ててきた娘が男連れてくる言うてたさかい、もっと真の強いやつを想像しとったんけどなぁ・・・ただの甲斐性無しやないか」
鳴海「(小声で)え・・・関西弁・・・?」
立ち上がる潤
潤「男ならしっかりせんかい!!」
鳴海「は、はい!!」
鳴海「(声 モノローグ)関西弁っていうかもしかしてヤクザ・・・?」
菜摘「(不思議そうな顔をしながら)どうしたのお父さん、そんな変な喋り方して」
潤「娘よ、漢と漢による対話という名の鉄砲合戦に関わるんじゃあねえ・・・流れ玉がおめえの心臓をえぐっても知らねえぞ」
菜摘「(きょとんした表情で)???」
鳴海「(声 モノローグ)何言ってんのこのおっさん・・・明らかに変人じゃねえか!!」
鳴海に詰め寄り睨みつける潤
鳴海「(声 モノローグ)え?何々?近すぎるんだけど!!!圧が凄いんだけど!!!なんかめっちゃ睨んでくるんですけど!!!!!」
たじろぐ鳴海
潤「おいてめえ、覚悟はあるんだろうな!?」
鳴海「か、かくご!?」
潤「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いてるんだよ!!分かってんのか!」
鳴海「し、深淵!?」
鳴海「(声 モノローグ)いや意味わかんねえから!!何この家!?もしかしてカルト的宗教団体でもやってんのか!?(菜摘の方を見る)てか早乙女、黙って見てないで助けてくれよ!!!」
きょとんした表情のままの菜摘
鳴海「(声 モノローグ)なんでそんなボケっとしてんだ!!(すみれの方を見る)助けてくれ!!!あんたの旦那頭おかしいぞ!!!」
鳴海と目があったすみれは料理を一旦止める
潤「(鳴海の胸ぐらを掴む)この家に入った時にてめえの運命は決まってんだよ!!死にたくなかったらとっとと・・・」
すみれが鳴海と潤がいるところにやって来る
すみれ「ダメですよー潤くん、菜摘のお客さんなんだからいじめちゃ」
少しの沈黙が流れる
その間鳴海は胸ぐらを掴まれっぱなし
潤「(鳴海の胸ぐらを掴んだまま)し、死にたくなかったらとっとと・・・」
すみれ「とっとと?」
潤「(鳴海の胸ぐらを掴んだまま)とっとと・・・」
すみれ「“とっとと”なあに?」
潤「(鳴海の胸ぐらを掴んだまま)とっとと飯食って帰りやがれ・・・」
鳴海「お、おう・・・いただきます・・・」
掴んでいた胸ぐらを離す潤
すみれ「じゃあみんなで仲良く待っててね、(大きい声で)喧嘩はダメ!」
潤「(大人しく返事をする)はい」
再びテレビの前で寝っ転がり始める潤
ダイニングの椅子に座る菜摘
立ち尽くす鳴海
菜摘「貴志くんも座りなよ」
鳴海「う、うん」
カバンを床に置き椅子に座る鳴海
潤「にしても・・・菜摘の彼氏がよりによってこんな玉のちっちぇ男なんてな。呆れてかける言葉もないぜ」
鳴海「(慌てて)ちょま、付き合ってるなんて言っ・・・」
菜摘「(慌てて)お父さん!!別に私たち付き合ってないから!!」
すみれ「(料理を止めて)付き合ってないの?」
菜摘「付き合ってないから!!」
すみれ「(料理を止めたまま)えー、付き合ってないのー?」
潤「(鳴海の方を向いて)なんだお前、菜摘の彼氏じゃねえのかよ?」
鳴海「(慌てて否定する)違いますって!!!」
すみれ「(悲しそうな表情をして)うそー、付き合ったらいいのにー」
菜摘「(大きな声で)お母さん!!そんなことよりご飯!」
すみれ「(料理を再開する)はいはい」
潤「(嬉しそうな表情をして)付き合ってないのか!良かった良かった!!」
鳴海「(声 モノローグ)夫婦なのに反応が全然違うな・・・」
時間経過
キムチ鍋をテーブルに運ぶすみれ
椅子について缶ビールを開ける潤
椅子に座っている鳴海と菜摘
菜摘「美味しそー!!」
すみれ「お待たせしました、どうぞ」
鳴海の取り皿にキムチ鍋をよそうすみれ
鳴海「ありがとうございます!」
潤の取り皿にキムチ鍋をよそうすみれ
潤「(ビールを一口飲んで)おいてめえ!ちょっとは遠慮しろよな?ひとんちのキムチ鍋だぞ!」
すみれ「(潤をなだめる)大丈夫、取り合わなくてもいっぱいあるからね」
菜摘の取り皿にキムチ鍋をよそうすみれ
菜摘「ありがとうお母さん」
最後に自分の分をよそうすみれ
席に着くすみれ
潤「んじゃあ、食うか」
菜摘「食べよう!」
鳴海・菜摘・潤・すみれ「いただきます!」
キムチ鍋を食べ始める一同
潤「(口いっぱいに詰め込みながら)うめえ!」
菜摘「美味しい!辛さもちょうどいいよお母さん!」
すみれ「でしょー?」
菜摘「うん!パーフェクト!!」
鳴海「(一口食べて)う、美味い・・・」
すみれ「どう?鳴海くんのお口に合うといいけど・・・」
鳴海「めちゃくちゃうめえっす!!」
ご飯と合わせてどんどんかき込む鳴海
すみれ「ほんと?それはよかった!どんどん食べて!」
潤「美味くてあったりまえだ!うちの嫁さんの料理はここら一帯でも美味いことで有名なんだよ!」
鳴海「まじで美味いです!!ちょうどいい味付けというか・・・食べやすいというか・・・とにかく美味い!」
すみれ「(笑顔で)ありがとう」
菜摘「お母さん、私もご飯ちょうだい!」
すみれ「(キッチンに行きながら)はーい。潤くんと鳴海くん、ご飯のお代わりが欲しかったら言ってね」
潤「おう!」
鳴海「はい!」
時間経過
キムチ鍋を食べ尽くした一同
椅子に座ってテレビを見ている潤と鳴海と菜摘
洗い物をしているすみれ
リポーター3「では早速波路商店街の方に伺ってみましょう!!」
波路商店街の中にあるギャラクシーフィールドという古いゲームセンターに入っていくリポーター
潤「なつかしいなぁ!俺が高校生の頃からやってる店だぞ!菜摘、覚えてるか?お前が小さい頃よく連れて行ったんだ」
菜摘「かすかにだけど憶えてるよ、よく遊んでた気がする」
潤「そうだぞ、なんつうタイトルだったかは忘れたけど熱心にプレイしてたもんさ」
鳴海「(声 モノローグ)ここは・・・俺も小さい頃よく行ってたな。確か・・・父さんが連れて行ってくれたんだ」
店の中に店主、有馬勇がいる
リポーター3「波音町の観光客も年々増えてますが、そういったお客さんは増えているのでしょうか?」
マイクを勇に向けるリポーター3
勇「いや、あんまりですね。昔はゲームが出来る場所なんて限られてましたけど、今はスマートフォンでゲームをする人も多くなっていて、そういう影響も受けてると思います。たまに昔からのファンの方が遊びに来てくれますけど。若い子が来るってことは滅多にないですね」
マイクを自分の口元に戻すリポーター3
リポーター3「なるほど、やはり若いお客さんの力が必要ですか?」
マイクを勇に向けるリポーター3
勇「そりゃもちろん、お店をやっていくのもしんどいもんですから。畳みたくはないですけど、家族にも散々迷惑かけてきているのでそろそろ畳もうかなって思ってますよ」
潤「潰れちまうのか!すみれ!!俺たちが高校生の時によく通ってたゲーセンが潰れちまうらしいぞ!!」
すみれが洗い物をやめてテレビを見にくる
すみれ「潰れちゃうの?どうして?」
潤「客が来ないそうだ」
すみれ「残念ね、潰れちゃうなんて」
菜摘「この店、いつからあったの?」
すみれ「お父さんとお母さんが子供の頃からあったよ」
潤「昔は学校帰りの学生で溢れててとても賑わってたのになぁ」
鳴海「古い店は客不足でやっぱ続け辛いのか・・・」
潤「おい坊主、この店はお前みてえな若いもんの力を必要としてるぞ」
鳴海「そう言われても」
潤「潰れちまうんだぞ!」
鳴海「それは残念だけれども」
潤「お前も微生物くらいちっちぇ頃に親父に連れて行ってもらったことがあるだろ!」
鳴海「そんなことがあったかもしれないけれども」
潤「(ため息を吐く)やっぱダメな男だな」
鳴海「なんでだよ!」
潤「男なら黙って投資しろ!それが男気ってもんだろ」
鳴海「無理言わんといてください」
潤「思い出のある場所は潰れないでほしいもんだぜ・・・」
菜摘「どうにかやっていける方法はないのかな?」
潤「さすが我が娘、何事も良くなるように向き合っていこうとしているんだな」
すみれ「お客さんが増えればお店も続くかもしれないね」
菜摘「お客さんが増えれば・・・」
潤「それしか方法はねえな、(鳴海の方を見て)分かったかガキ」
鳴海「分かってますけど・・・」
チャンネルを替えてバラエティにする潤
すみれは洗い物をしにキッチンに戻る
潤「そういや、緋空祭りは行くのかお前ら」
菜摘「行きたいけど・・・」
潤「二人で行ってこいよ」
鳴海・菜摘「え!?」
少しの沈黙が流れる
すみれが行っている洗い物の音だけが響くリビング
潤「(頭を抱えながら)何を言ってるんだ俺は・・・(大声で)大事な娘に男と祭りに行けなんて!!」
鳴海「(声 モノローグ)このおっさんは情緒不安定なのか・・・?」
潤「(鳴海を睨みながら)坊主、今のなしだからな!!わかったな!?てめえは娘の彼氏でもなければ友達でもねえ!!知人でもねえぞ!」
鳴海「じゃあ俺は一体なんなんだよ」
潤「ただの人だよ人!」
菜摘「でも私たちはみんな人だよ」
潤「うるせえ、人という字は人と人が支え合って成り立ってるってパチキン先生が言ってたがそんなことはこの際どうでもいいんだよ!」
鳴海「金八先生をパチキンいうな、ヒカキンみたいになってるじゃねえか」
潤「んなことをいちいち気にしてるんじゃあねえ!!とりあえず行くな!祭りには行くな!!」
鳴海「わ、わかったよ!(ボソッと)てか俺、別に祭り好きじゃねーし」
菜摘「お父さん、貴志くんはお祭りが好きじゃないんだよ」
潤「はぁ?(笑いながら)祭りが嫌いなんてやついないだろ」
鳴海「人ゴミが嫌なんだよ!」
潤「(まじまじと見ながら)変わったやつだなー、行ったら楽しいもんだぞ、試しに二人で行ってこい」
顔を見合わせる鳴海と菜摘
少しの沈黙が流れる
潤「(大声で)またしても俺はアホなことを言ってしまった!!時々俺という人間の天才さが裏目に出ちまうのは何故なんだ!!」
鳴海「(声 モノローグ)ボケてんのかコイツ・・・それともアホすぎるのか?」
潤「(自身を落ち着かさせながら)今のもなんでもねえ、気にするんじゃねえぞ」
鳴海「あ、あぁ」
潤「(鳴海を見ながら)それにしても・・・」
鳴海「なんだよ」
潤「お前があいつらの・・・」
鳴海「あいつら?」
潤「いや、なんでもない。ちょっと部屋に行ってくる、ゆっくりしてけよ」
潤は立ち上がりリビングを出ていく
鳴海「どうしたんだ・・・?」
菜摘「わかんない、今日は仕事が早上がりだったから部屋で作業をするのかも」
鳴海「あー、仕事か」
菜摘「多分そうだと思う」
時間経過
◯39早乙女家の潤の自室(夜)
高校の卒アルを広げて見ている潤
◯40早乙女家前(夜)
時刻は夜九時
早乙女家の前で喋ってる鳴海と菜摘
菜摘「ごめんね、遅くなって」
鳴海「こっちこそ、ご飯美味しかったですってすみれさんに伝えておいてくれ」
菜摘「伝えておくね」
鳴海「というか今更だけどお父さんに対してめちゃくちゃタメ語だったけどやばいよな俺・・・」
菜摘「ううん、大丈夫だと思うよ。お父さん、普段からあんな感じだから」
鳴海「そ、そうなのか・・・良かったと言うべきなのかなんなのか・・・」
菜摘「大丈夫大丈夫!お父さん楽しそうだったし」
鳴海「いいな、仲の良い家族で。毎日楽しそうだ」
菜摘「いつでも歓迎するよ!」
鳴海「おう、(ポケットからスマホを取り出して)そうだ、早乙女の連絡先教えてくれよ」
菜摘「そういえばLINE交換してなかったね!ちょっと待ってて、スマホ取ってくる!」
鳴海「わかった」
家に戻る菜摘
すぐに戻ってくる菜摘
菜摘「(QRコードを見せながら)はい!これ!」
スマホをかざしてQRを読み取る鳴海
菜摘を登録する鳴海
鳴海「よし、これでOKだな」
菜摘「うん!!」
スマホをポケットにしまう鳴海
鳴海「ほんじゃあ、帰るわ」
菜摘「気をつけてね、また明日学校で」
鳴海「また明日な」
歩き始める鳴海
鳴海が見えなくなるまで見送ってる菜摘
◯41帰路(夜)
祭り帰りの家族、子供たちがたくさんいる
楽しそうな声で溢れている中、鳴海は暗い表情をしてノロノロと家を目指す
鳴海「(声 モノローグ)両親は俺が小さい頃に交通事故で死んだ。俺にとって家族は姉貴だけ、それが当たり前だった。だから早乙女の家みたいな明るい家族は不思議な感じがする。ああいう家庭の方がむしろ一般的なのか。俺は小さい頃、緋空祭りが大好きだった。両親に連れて行ってもらって、射的をしたり、金魚救いをしたり、綿あめを食べたり、チョコバナナを買ってもらったり・・・俺の家族も・・・早乙女の家族と同じように優しくて、明るくて、愛情に溢れていた。両親が死んでから俺はこの町の全てが嫌になった。波の音を聞くだけで思い出すからだ、昔のことを」
時間経過
家に着く鳴海
◯42貴志家リビング(夜)
真っ暗で鳴海しかいない
カバンを置いて電気をつける鳴海
◯43早乙女家リビング(夜)
リビングに戻ってくる潤
洗い物を一通り終えてダイニングの椅子に座ってテレビを見ているすみれ
スマホを見ている菜摘
菜摘「(スマホを置いて)お風呂先に入ってきていい?」
すみれ「お先にどうぞ」
潤「おう!入ってこい!」
リビングを出てお風呂に行く菜摘
少しの沈黙が流れる
潤「すげえ似てたな、紘に」
すみれ「お姉ちゃんの風夏ちゃんとはよく会ってたけど・・・鳴海くんとはお葬式以来だっけ?」
潤「そういうことになるな・・・本人は覚えてないようだが」
すみれ「あんなひどい事故だもの・・・本人もきっと忘れようとしてるのかも」
潤「多分そうだろう・・・にしても、まさか菜摘の友達だったとは・・・全く不思議な縁だぜ」
すみれ「ほんとに・・・昔の私たちみたい」
潤「だな」
ポケットから一枚の写真を取り出す潤
その写真をテーブルに置く潤
波音高校の制服を着ている四人の男女
若かりし頃の潤とすみれ、そして鳴海にそっくりな鳴海の父、紘と鳴海の母、由香里が笑顔で写っている
◯44貴志家リビング(日替わり/朝)
椅子に座って制服姿でニュースを見ている鳴海
時刻は七時半過ぎ
リポーター1「昨日、大盛況だった緋空祭り。五日間の開催を予定しているのにもかかわらず初日から浜辺ではゴミが溢れているようです。ペットボトル、空き缶、飲食物の残り物など。実行委員はゴミ捨ての注意喚起をしていますが、効果はあまりないようです」
テレビを消す鳴海
カバンを持って家を出る鳴海
◯45波音高校三年三組の教室(朝)
朝のHRの前の時間
神谷はまだきていない
生徒たちはそれぞれすき勝手に過ごしている
菜摘は着席してスマホを見ている
菜摘、嶺二はまだきていない
明日香は女子たちと楽しそうに喋っている
数分後
嶺二が教室に入ってくる
嶺二は自分の机に荷物を置き鳴海の方へやってくる
嶺二「(テンション高く)おはよう鳴海!」
鳴海「うっす、元気だな」
嶺二「(テンション高く)いやいやいつも通りさ!!」
鳴海「お前、なんかキモいぞ」
嶺二「(テンション高く)嫌だなー鳴海。全くツンデレなんだから!」
鳴海「やっぱキモいわ」
嶺二「キモいキモい言いすぎだろ!傷付くぞ!」
鳴海「すまん、キモかったから」
嶺二「(舌打ちをする)ちっ・・・まあいい。そんなことより鳴海、俺も参加させてもらうぜ!!」
鳴海「何に?」
嶺二「部活作りにさ!」
鳴海「は?なんで?」
嶺二「見たんだよ、昨日。貼り紙をな」
鳴海「それで?」
嶺二「何やら楽しそうではないかと、俺も直向き努力を続ける女の子の力になりたいんだ!!」
鳴海「力になるって何するんだよ?」
嶺二「早乙女さんって、コミュ障的なとこあるだろ?お前みたいな不器用を頼りにするわけにはいかないし。そんな時は俺が手取り足取り色々手伝うってわけ」
鳴海「嶺二文芸とか興味あんの?」
嶺二「(即答する)ない、でも文芸男子はモテるだろ絶対」
鳴海「アホ、お前が文芸に興味ないなら手伝うことは何もない」
嶺二「おいおい、それを言ったら鳴海だって文芸について何も知らないだろ?」
鳴海「それはそうだが・・・とはいえ乗り掛かった船だし、神谷は俺を副部長に任命したし、もはや逃げたくても逃げられん状況だ」
嶺二「副部長?!名義を貸すどころじゃねえな。もう立派な部員じゃんか」
鳴海「そうだな・・・てか嶺二、手伝いとか言ってほんとは女子からの評価を上げたいだけだろうが」
嶺二「人の評価を気にすることの何がいけないというのか、決して不純な動機なんてないぞ」
鳴海「その発言が不純な動機だっつうの」
嶺二「何でだよ!ずるいぞお前だけ周りの評価を爆上げしやがって!!」
鳴海「別に爆上げしてねえだろ、てか変わってないわ俺の評価なんて」
嶺二「くそ!鳴海が何をどう言おうが俺は手伝うからな!!部員には最低五人必要なんだろ!?」
鳴海「幽霊部員じゃ意味ないぞ、ちゃんと文芸し続けられるのか」
嶺二「そこは努力する」
汐莉が三組の教室を覗きにやってくる
汐莉は扉付近に立っている
汐莉「(菜摘を探しながら)早乙女先輩いらっしゃいますか?」
近くにいた三組の生徒が首を横に振る
鳴海「あいつは・・・昨日の!」
席を立ち廊下に出る鳴海
嶺二「待てよ!鳴海!!俺も手伝うって!」
鳴海に続いて廊下に飛び出る嶺二
◯46波音高校三年生の廊下(朝)
廊下で立って喋っている鳴海たち
クラスで最も不真面目な二人組が下級生と喋っていて、その姿を興味深そうに見ている生徒がちらほらいる
鳴海「早乙女はまだ来てないんだ、部活のことを話しに来たんだよな?」
汐莉「はい!そうです。昨日の放課後に連絡しようかなって思ったんですけど、やっぱり直接の方が話しやすいかなって。それで来たんです」
鳴海「掛け物はどうだった?」
汐莉「部活の掛け持ちをしていいって言われました!」
鳴海「おお!まじか!!」
嶺二「これで四人・・・後一人だ!」
汐莉「今四人なんですか?」
鳴海「四人?まだ三人のはずだ。早乙女と俺と(汐莉を指差して)君、これで三人だぞ」
嶺二「俺を数えろよ!!!」
鳴海「本気で言ってんのか嶺二」
嶺二「男に二言はねえ!!」
汐莉は言い合っている二人の顔を交互に見ている
鳴海「まじかよ・・・俺やお前がいる部活なんて他の奴が可哀想だ」
嶺二「何だその言い方!」
鳴海「俺たち迷惑をかけないようにせいぜい隅っこの方でやっていこうな」
嶺二「そんな自分で疫病神みたいな言い方すんなよ・・・悲しくなるだろ・・・」
鳴海「疫病神同士だからつるんでるんだろ俺たち」
嶺二「何それ・・・めっちゃ悲しい存在じゃん俺たち」
鳴海「生きることを許された人ならざる者なのかもしれないな」
嶺二「そうだったのか・・・知らなかった・・・」
少しの沈黙が流れる
汐莉「それで、結局今何人なんですか?」
嶺二「(即答する)四人!俺は白石嶺二!よろしく!!(汐莉の方を見て)君は?」
汐莉「一年六組の南汐莉です、よろしくお願いします。えーっと・・・(鳴海の方を見て)先輩は?」
鳴海「俺は貴志鳴海、よろs・・・ってちょっと待て!、嶺二が必要かどうかはまだわからんぞ!とりあえずお前の行く末は部長である早乙女に決めてもらう」
嶺二「(うなだれて)そんなぁ・・・あんまりだぁ・・・」
鳴海「女子にモテたいだけっていう不純極まりない最低最悪な目的のお前をそう簡単に入部させるわけにはいかねえ」
汐莉「モテたいんですか?」
嶺二「ん?モテたい?違う違う。俺は文学という芸術的コンテンツを駆使し自分自身の文才を向上させ作品を書き出す。自身の内なる心に秘めたモノを爆発させ、文字通り作品を通して自分の世界を広げていくのが目的だ」
汐莉「(笑顔で)すごいですね!」
鳴海 声「こいつ・・・うざい先輩をどう扱えばめんどいことにならないか理解してやがる・・・!優れたコミュニケーション能力の持ち主だな!」
嶺二「(ドヤ顔で)だろ?」
汐莉「(笑顔で)はい!」
鳴海 声「なんかアホっぽい空気になってるぞ・・・」
嶺二「(指を差しながら)あれ、早乙女さんじゃね?」
指を差した方向を見る鳴海と汐莉
マスクを付けた菜摘が歩いてくる
菜摘「(風邪気味の声で)おはよう、貴志くん」
鳴海「早乙女、風邪か?」
菜摘「(風邪気味の声で)ううん、少し喉が変なだけだよ」
鳴海「そうか、ならよかった。聞いてくれ早乙女。そこの二人が文芸部に入りたいって言ってるんだ」
菜摘「(風邪気味の声で)えっ・・・ほんと?」
鳴海「おう!(汐莉を紹介する)こっちの一年生は南汐莉、軽音楽部と掛け持ちで文芸部に入ってくれるってよ!」
汐莉「一年六組の南汐莉です!軽音楽部と掛け持ちなので毎日来れるわけではありませんが、改めてよろしくお願いします!!」
菜摘「(風邪気味の声で)三年三組の早乙女菜摘です。こちらこそ、よろしく!」
汐莉「はい!」
鳴海「(頭を掻きつつ嶺二の方を見る)そんで・・・こいつは・・・」
嶺二「俺は白石嶺二、鳴海から聞いたよ。菜摘ちゃんが文芸部を作るために頑張ってるって」」
菜摘「(風邪気味の声で)頑張ってるって、大したことは何も・・・貴志くんが色々手伝ってくれてるおかげだし・・・」
嶺二「それなら俺にも協力させてよ、神谷に部活入れって言われてるしね」
鳴海の顔を見る菜摘
鳴海「まああれだ、嶺二も根はいい奴だ」
嶺二「そうそう、根はいい奴って必要じゃん?」
菜摘「(風邪気味の声で)でも、私が作ろうとしてるのは文芸部だから・・・白石くんが期待してるような活動かどうか・・・」
嶺二「知ってる知ってる、(自慢げに)こう見えても俺現代文得意科目だから」
鳴海「(呆れながら)赤点ばっかなくせに得意でもなんでもねえだろ・・・少し話がしたいから嶺二と南はここで待っててくれ。早乙女、ちょっと来い」
鳴海が菜摘を廊下の隅に連れて行く
菜摘「(風邪気味の声で)なに?どうしたの?」
鳴海「早乙女は知らねえかもしれないが、嶺二はめちゃくちゃ馬鹿だから文芸部に入ればモテると思ってる」
菜摘「(風邪気味の声で)え?何それ」
鳴海「馬鹿すぎてついていけないかもしれねえが、あいつは文才があれば女子からモテるって思ってんだよ」
菜摘「(風邪気味の声で)モテるモテないに文才は関係ないと思うんだけど・・・」
嶺二と汐莉の方を見ると二人はニコニコしながら手を振ってくる
鳴海「モテるモテないは一旦置いておこう。いいか、俺の作戦を聞け」
菜摘「(風邪気味の声で)作戦?」
鳴海「おう、とりあえずこのまま嶺二を文芸部に入れる、部員の頭数を揃えるためにだ。それで面倒事や重労働の仕事は嶺二に押し付けよう、女の子にモテるってこっちからそそのかせば馬鹿なあいつはすぐにやってくれるさ」
菜摘「(風邪気味の声で)えぇ・・・それじゃあ私が白石くんを騙せって言うの?」
鳴海「別に騙しちゃいねえよ。嶺二が努力を積み重ねればそのうち女子からモテるようになるだろ?」
菜摘「(風邪気味の声で)そ、そうなのかな・・・」
鳴海「大丈夫、あいつが役に立たないようであれば早乙女が部長の権利を使って強制退部にさせればいい」
菜摘「(風邪気味の声で)でもそれって部長による職権濫用だよ?」
鳴海「平気平気、嶺二がやりたいって言ってるんだから。つかこっちも部員が必要なんだし」
菜摘「(風邪気味の声で)白石くんに申し訳ないよ(咳き込む)けほっ・・・けほっ・・・」
鳴海「大丈夫か?」
菜摘「(風邪気味の声で)うん・・・大丈夫・・・それでほんとに白石くんを騙すの?」
鳴海「だから騙してないって。とりあえずこの作戦でいくぞ、何かトラブルが起きても俺がなんとかするから心配すんな」
菜摘「(風邪気味の声で)わかった」
嶺二と汐莉がいるところに戻る鳴海と菜摘
菜摘「(風邪気味の声で)えーっと・・・とりあえずもう一人確保しないと」
嶺二「お?そんじゃあ俺たちも部員として認められたんだな?」
鳴海「そういうことだ」
汐莉「私も同じクラスの子を誘ってみます」
菜摘「(風邪気味の声で)ありがとう、お願い」
神谷が廊下を歩いてくる
菜摘「(風邪気味の声で)汐莉ちゃん、時間大丈夫?そろそろ朝のHRが始まるけど」
汐莉「(腕時計を見る)やば!!もう始まってるかも!(慌てて)それじゃあ失礼します!」
走って一年六組の教室に戻ろうとする汐莉
鳴海「ちょ、おい!!」
菜摘「(風邪気味の声で)待って、汐莉ちゃん!」
風邪気味の菜摘の声は汐莉に届かない
鳴海「聞こえてねえ!おい南!!放課後は特別教室の四に来いよ!!そこが部室だから!!」
汐莉「(走るのをやめて)はーい!!」
再び走り出す汐莉
全力ダッシュの汐莉を注意する神谷
嶺二「怒られてやがる」
◯47回想(◯2の回想)/通学路(朝)
汐莉のカバンが脇腹が鳴海に直撃する
両手を合わせて頭をペコペコする汐莉
◯48回想戻り/波音高校三年生の廊下(朝)
注意を終えた神谷は三組の教室を目指して歩いてくる
注意されたというのに汐莉は再び走り始める
鳴海「思い出したわ。俺、始業式の日にあいつと会ってる」
菜摘「(風邪気味の声で)あいつって汐莉ちゃんに?」
鳴海「そうそう、南が走っててあいつのカバンが俺の脇腹にクリーンヒットした」
菜摘「(風邪気味の声で)痛そう」
鳴海「おかげで痣になったよ」
鳴海の方をじっとりと睨む嶺二
鳴海「なんだよ?」
嶺二「いやはや羨ましいですねえ、新年度早々に後輩と出会っちゃうなんて。爆ぜろリア充」
菜摘「(風邪気味の声で)えっ、貴志くんリア充だったんだ」
鳴海「ちげえよ、この上なく残念な学校生活だからな」
嶺二「どうだか、どうやったらそんな次々と女性と出会えるのか教えてほしいね」
鳴海「出会ってないわ、くだらねえこと喋ってないでさっさと教室に戻ろうぜ」
嶺二「はいはい」
菜摘「(風邪気味の声で)じゃあ、今日の放課後は特別教室の四に集まろうね」
鳴海「おう」
嶺二「りょーかい」
教室に戻る三人
◯49波音高校特別教室の四(放課後/雨)
特別教室の四に集まった鳴海、菜摘、嶺二、汐莉
四人とも椅子に座っている
十数台の椅子と机しかない教室
外は雨が降っている
雨の中、運動部が活動している
汐莉「すいません、私の周りには文芸部に興味がある子はいませんでした・・・」
菜摘「(風邪気味の声)そっか・・・(咳をする)けほっ・・・けほっ・・・」
嶺二「顧問とかどうすんの?」
鳴海「現代文の西川はバドミントン部の顧問をしてるしなぁ・・・」
汐莉「他の部活の顧問を担当してる先生に頼むのはダメなんですか?」
菜摘「(風邪気味の声で)運動部の先生はダメだと思う・・・」
鳴海「文化部の先生なら掛け持ちしてるから、暇そうな奴をどうにか探すしかないな」
嶺二が椅子から立ち上がり汚い字で黒板に“必要なもの顧問”と書く
嶺二「あと必要なものは?」
菜摘「(風邪気味の声で)部員」
黒板に部員と書く嶺二
汐莉「あとはパソコンとか?プリンターって必要ですかね?」
鳴海「あった方がいいな」
黒板にパソコンとプリンターと書く嶺二
嶺二「あっ、そういえば」
鳴海「どうした?」
嶺二「確か情報処理部がパソコンを余らせていた」
鳴海「まじか」
嶺二「まだ気が早いけど借りられるか確認しに行く?」
菜摘「(風邪気味の声で)あらかじめ頼んでおいた方がいいよね?」
鳴海「そうだな。嶺二ちょっと頼みに行ってくれ」
嶺二「は?!なぜ俺一人!?」
鳴海「面倒ごとを引き受けていれば女子からモテるようになるかもしれんぞ」
嶺二「モテてもただの雑用じゃん」
鳴海「そんなことはないぞ、頼り甲斐のある男ってのはモテるもんだ」
嶺二「え・・・そういうものなのか?」
鳴海「ああ、そういうもんだ」
汐莉「あの・・・一人に任せるよりみんなで行った方がいいのでは・・・」
菜摘「(風邪気味の声で)うん・・・一人で頼むにしてもまずは部長の私が行くべきだと思う」
嶺二「確かに菜摘ちゃんが頼んだ方が貸してもらえる確率は上がるよな?俺が頼んでも貸してくれるかわからん」
鳴海「(小声で)使えねえな嶺二は・・・」
嶺二「聞こえてるぞ!!」
鳴海「みんなで行こうぜ、みんなで平等に頭を下げればいいし」
菜摘「(風邪気味の声で)そうだね(咳をする)けほっ・・・けほっ・・・」
嶺二「じゃあ最初からそれを提案すればよかったやん・・・」
席を立ち情報処理部が活動しているパソコン室へ向かう一同
◯50波音高校廊下(放課後/雨)
特別教室の四に向かって歩いている一同
鳴海、嶺二、汐莉は並んでいるが、菜摘は少し遅れている
強くなる雨足
運動部も活動をやめて解散になっている
校内に残っているのは文化部の生徒と先生たち
嶺二「さすが情報処理部、まさにコミュ障なオタクばっかりがいるって感じで、俺と鳴海の顔を見たらビクビクしながらパソコンを貸してくれたぜ」
鳴海「借りられたのはラッキーだっけどよ、ビクビクしすぎだろあいつら、どんだけ俺らが怖いんだ」
汐莉「二人とも見方によってはただのヤンキーですもんね!!」
嶺二「ヤンキーちゃうわ」
鳴海「偏見だよな」
嶺二「ほんとそれ」
汐莉「(鳴海と嶺二をなだめる)まあまあ・・・にしても使ってないパソコンは十台以上あるみたいだし、いくらでも使っていいなんてマジでパソコン部優しすぎます!!」
鳴海「パソコン部じゃなくて情報処理部な」
嶺二「あとはプリンター、どっかに余ってないもんかね」
汐莉「さすがにプリンターは職員室のを借りるか、誰かの家にあるのを使わせてもらうしか・・・」
嶺二「いちいち職員室に行くのはだるい」
鳴海「だな、まあ俺んちにもプリンターなんかないけど」
汐莉「私の家にもないです」
鳴海「早乙女、お前んちにもないのか?」
菜摘「(風邪気味の声で)私の家には・・・お父さんが・・・使ってるのが・・・」
鳴海「あのおっさんが使ってるのか・・・(振り向いて菜摘の方を見る)貸してくれるのか・・・?」
菜摘「(風邪気味の声で)どうかな・・・わかんない」
ふらふらと歩いている菜摘
ふらふらしている菜摘を見て歩くのやめる鳴海
鳴海「早乙女?大丈夫か?」
菜摘「(咳をする)けほっ・・・けほっ・・・ごめん、調子が悪くて」
歩くのやめて菜摘の方をみる嶺二と汐莉
菜摘「(風邪気味の声で)大丈夫・・・みんな先に戻ってて」
その場に座り込んでしまう菜摘
駆け寄る鳴海、嶺二、汐莉
鳴海「早乙女!!」
菜摘の顔は赤い
汐莉「(菜摘のおでこを触る)菜摘先輩、熱ありますよ!高熱です!」
嶺二「(慌てながら)と、とりあえず保健室に連れて行くか!?」
鳴海「いや、保健室に行ったところで・・・」
嶺二「じゃあどうする!?」
汐莉「(スマホを取り出して)救急車呼びますか?!」
鳴海「早乙女、病院に行くか?」
菜摘「(ゆっくりと首を横に振る)ううん・・・」
汐莉「病院に行った方がいいんじゃないんですか?栄養失調とかだったら・・・」
鳴海「多分、早乙女の体のことは早乙女の親が一番分かってるはず。俺が早乙女の家に連れて行くよ」
嶺二「そ、それでいいのか?てかお前菜摘ちゃんの家の場所知ってんの?」
鳴海「あぁ。早乙女、今日は家に帰ろう。少し休んだ方がいい」
菜摘「(風邪気味の声で)うん・・・みんなごめんね・・・」
鳴海「タクシーを呼ぶからな」
スマホを取り出してタクシーを呼ぶ鳴海
◯51タクシー車内(放課後/雨)
助手席に座っている鳴海
後部座席でぐったり横になっている菜摘
外はひどく雨が降っている
鳴海がスマホを見ている
嶺二からLINEが来ている
とりあえず今日は解散、詳しいことはまた明日話し合おうとLINEを返す
スマホをポケットにしまう鳴海
◯52早乙女家玄関前(放課後/雨)
ずぶ濡れになっている鳴海
菜摘はタクシーの中でぐったりしたまま
鳴海「(扉をドンドン叩きながら)誰かいないのか!」
鳴海は扉を叩くのをやめてインターホンを連打する
すみれ「(声 インターホン)どちら様でしょうか?」
鳴海「貴志です!早乙女が!!早乙女の体調が悪くて・・・」
ブチッとインターホンが切れる
少しするとガチャりと扉が開きすみれが出てくる
鳴海「早乙女が高熱を出してるみたいなんです!今そこのタクシーの中にいます!!」
すみれは家を飛び出しタクシーの扉を開ける
すみれ「菜摘!」
菜摘「(風邪気味の声で)お母さん・・・」
すみれ「たてる?お母さんの肩に掴まって」
菜摘「(風邪気味の声で)うん・・・」
すみれ「ゆっくりでいいからね」
すみれに支えられて菜摘がタクシーから出てくる
心配そうに菜摘を見ている鳴海
◯53帰路(放課後/雨)
傘をさして一人で歩いている鳴海
雨の影響でお祭りのゴミが道の至る所で流れている
鳴海「(声)早乙女は!?」
すみれ「(声)熱があるけど大丈夫、今は落ち着いてる」
鳴海「(声)よかった・・・」
すみれ「(声)ただ・・・菜摘は昔から体調を崩しやすいから・・・今熱があるのもそのせいなの」
鳴海「(声)そうなんですか・・・」
すみれ「(声)ほんとに、菜摘を連れてきてくれてありがとう」
鳴海「(声)いや・・・俺は別になんも・・・」
すみれ「(声)傘持って行きなさい、風邪を引かないようにね」
鳴海「(声)すみません・・・ありがとうございます」
雨の中車がすごい勢いで駆け抜けて行く
横断歩道で鳴海は車を過ぎるの待っている
鳴海「(声 モノローグ)病院に行かなくてよかったのだろうか?医者より親と会うべきだったのか?大丈夫だ、落ち着け、少し気が動転しているだけだ。早乙女は死んだりしない。あの時とは違うんだ。雨なんか降ってなかった、流れていたのは血。覚えていることなんてほんとに僅かな過去」
◯54回想/道路(八年前)
激しく損壊している二台の車
血を流しながらふらふらと車から出てくる鳴海
二台の車の周りには人だかりが出来ている
車の中を覗く鳴海
車の前の座席には損傷の激しい二体の遺体(鳴海の親の紘と由香里)
後部座席には血塗れで気絶している姉の風夏がいる
鳴海はその場にぺたんと座り込む
鳴海「お父さんとお母さんが・・・」
周りにいた人たちが鳴海の方へ駆け寄ったり、電話をして救急車を呼んだり、車の中にいる鳴海の家族を救出しようとし始める
鳴海は声をかけられても返事をしない
◯55回想戻り/帰路(放課後/雨)
横断歩道が青になり歩き始める鳴海
鳴海「(声 モノローグ)過ぎ去らない嫌な過去、閉ざされた大切な思い出が波のように行き来している」
横断歩道を渡り終えた先で傘をさして千春がビラ配りをしている
千春「(鳴海にビラを渡そうとする)ゲームセンター“ギャラクシーフィールド”で遊んで行きませんか?たくさんのゲーム機を揃えています。お友達と一緒に遊びに来てください」
鳴海はその手を払い除ける
千春「ギャラクシーフィールドはお客様が必要なんです、このままではお店が潰れてしまいます」
千春を無視して歩き続ける鳴海
鳴海「(声 モノローグ)この町は海に飲み込まれて全て潰れてしまえばいい、嫌な思いをしたり、嫌な過去を掘り起こす前に、何かを得ようとして悲しみを覚える前に」
◯56貴志家リビング(日替わり/朝)
制服姿で椅子に座ってテレビを見ている鳴海
時刻は七時半過ぎ
天気は晴れ
リポーター1「見てください、緋空浜では昨日の大雨の影響でゴミの散乱がひどくなっています。緋空祭りの実行委員は今日も祭りを実施する予定だと話していました。しかし、このままでは浜辺のゴミがもっと増えるのではないかという懸念もされています」
緋空浜は昨日の雨と一昨日のゴミのせいでかなり汚くなっている
テレビを消す鳴海
LINEを見始める鳴海
誰からもLINEはきていない
菜摘とのトーク画面を開く鳴海
まだ一度もやりとりはしてないトーク画面
体調はどうかと入力する鳴海
送信ボタンを押そうか悩んでいる鳴海
文章を消す鳴海
スマホをポケットにしまい家を出る鳴海
◯57波音高校三年三組の教室(朝)
机に突っ伏して教室の扉をずっと見ている鳴海
朝のHRの前の時間
神谷はまだきていない
生徒たちはスマホを見たり、喋ったりしている
次と次と生徒たちが教室に入って来るが菜摘は来ない
ため息を吐く鳴海
元気のない鳴海の姿を見て明日香がやってくる
明日香「楽しい?」
鳴海「(体を起こして)何が?」
明日香「扉の方ばっか見て」
鳴海「別に」
明日香「今日、嶺二はサボり?」
鳴海「わからん」
明日香「なんだか知らないけど、元気出したら?」
鳴海「元気だよ」
少しの沈黙が流れる
起き上がっても視線を扉から変えない鳴海
スマホを見始める明日香
明日香「(スマホを見せる)今日の放課後、ここ行こうよ!」
スマホを覗き込む鳴海
スマホには“カフェのメソッド”波音町期間限定オープンと書かれている
鳴海「なにこれ」
明日香「書いてあるでしょ、カフェのメソッドが期間限定でオープンすんの」
鳴海「カフェのメソッド・・・絶妙にダサい・・・」
明日香「知らないの?ヨーロッパでめちゃくちゃ流行ってるお店で、ここ最近日本にも進出し始めてる喫茶店」
スマホから目を外し扉の方を見る鳴海
鳴海「ヨーロッパで流行ってるお店って・・・俺たち高校生が行くようなとこじゃないだろ」
スマホを閉じる明日香
明日香「チュロスが名物だし、学生もいっぱいいるから」
鳴海「いや、俺甘い物とかあんまり食べないし」
明日香「サンドウィッチもあるから平気でしょ」
鳴海「そういうのは俺じゃなくて女子同士で・・・(嶺二が教室に入ってくる)あっ、嶺二だ」
振り返る明日香
座席にカバンを置いてこちらにやってくる嶺二
嶺二「菜摘ちゃん今日休み?」
鳴海「連絡してないからわからんけど多分そうだろ」
明日香「菜摘ちゃん?」
嶺二「(菜摘の座席を指差しながら)今日来てないっしょ」
明日香「(菜摘の座席を見て納得する)あー、そういうことね」
鳴海「なんだよそういうことって」
明日香「別に〜」
嶺二「因みに汐莉ちゃんも今日は軽音楽部に行かなきゃいけないらしい」
鳴海「まじか、まあ部長がいないなら軽音楽部を優先にした方がいいわ」
明日香「汐莉ちゃん?」
嶺二「軽音楽部の一年生」
明日香「もしかしてナンパしたの」
嶺二「(慌てて否定する)違う違う!!ナンパなんて一切してませんから!」
明日香「怪しすぎるでしょ」
嶺二「怪しくないだろ、それより菜摘ちゃんは昨日どうだった?大丈夫だったのか?」
鳴海「ああ、家にお母さんがいたし」
嶺二「良かった良かった、心配したんだぜ?」
鳴海「早乙女は体が弱いらしいからな・・・」
嶺二「んで、今日は活動なしって感じ?それとも菜摘ちゃんが来る前に色々やっとく?」
鳴海「いや、早乙女と南がいねえなら今日はなしでいい」
嶺二「おっけ、パーッと放課後遊んで帰るか・・・」
鳴海「そうだな」
明日香「ちょっと」
鳴海「何?」
明日香「何もやることないならカフェのメソッドに行こうよ」
嶺二「カフェのメソッドってなんぞや」
鳴海「ヨーロッパかぶれの喫茶店だとさ、チュロスが美味いとかで流行ってるらしい」
嶺二「聞いたことあるな、気になる」
明日香「放課後行こうって言ってんの、どうせ二人とも暇を持て余しててロクな時間の使い方をしないんだから」
嶺二「その言い方酷すぎね?」
鳴海「ボロクソに言われてるな俺ら」
明日香「だってその通りだし、いい?今日の放課後!絶対!!サボるのなし!!」
嶺二「へいへい」
鳴海「(小声で)なんか明日香、俺の姉貴に似てきたな」
明日香「えっ?なに?」
鳴海「あ、いや、なんでもない。放課後な」
明日香「そっ!放課後!」
神谷が教室に入ってくる
神谷「HR始めんぞー、みんな座れー」
嶺二、明日香、生徒たちがそれぞれの座席に座っていく
菜摘の座席を見る鳴海
鳴海「(声 モノローグ)結局休みか・・・」
◯58カフェのメソッドへ行く道(放課後/夕方)
歩道で立ち尽くしている鳴海、嶺二、明日香
真剣にスマホを見ている明日香
時刻は五時前
嶺二「(あくびをして)まだすか明日香さん」
明日香「(スマホを見ながら)うるさい」
鳴海「ほんとにこの道であってんのか」
明日香「今確認してるんだって!」
嶺二「こりゃ着くまでにチュロス売り切れてるんじゃない?」
鳴海「そうかもな」
明日香「(スマホを見ながら)あーもうイライラする!(指を差して)多分あっち!!」
嶺二「多分・・・」
鳴海「波高から徒歩で行ける範囲なんだよな?もう三十分以上歩いている気がするんだが・・・」
明日香「(スマホを見ながら歩き始める)気のせいでしょ」
嶺二「絶対に気のせいではない・・・」
明日香が歩き始めたので着いていく鳴海と嶺二
時間経過
道路を挟んだ先にカフェのメソッドを見つける三人
信号は赤
明日香「(指を差して)あっ!あれだ!!」
鳴海「やっと見つけたか・・・(カフェのメソッドを見て)っておい!くっそ混んでるぞ!!!」
カフェのメソッドは女子高生がたくさん群がっている
嶺二「やっぱやめて隣のマックにしね?」
隣のマクドナルドは空いている
明日香「(怒りながら)はぁ?なんでここまできてマックにしなきゃならないの」
嶺二「嘘嘘、冗談だって」
鳴海「あっ!!(指を差して)おい見ろよ!!」
カフェのメソッドから店員が出てきて“本日は完売しました”というホワイトボートを扉に付ける
群がっていた女子高生たちがぞろぞろとカフェのメソッドから離れていく
少しの沈黙が流れる
鳴海「(明日香を見て)ど、どうする?完売しちゃったけど・・・」
嶺二「(マックを指差して)安心しろ明日香!!今マックではチョコポテトがあるんだぞ!それをチュロスだと思って食べればたちまちお腹も満たされるってもんだ!」
信号が青になる
明日香「うざ」
マックの方へ歩き始める明日香
置いていかれる鳴海と嶺二
鳴海「今の嘘偽りのないガチトーンだったな」
嶺二「励まそうとしてるのにうざはねーな」
明日香についていく二人
◯59マクドナルド二階(放課後/夕方)
外が見える窓際の席に座っている三人
マックでハンバーガーとポテトを食べている鳴海と嶺二
明日香はマックシェイクを飲んでいる
鳴海「いやだから、気付いたら文芸部員になってたんだよ」
明日香「部活なんか興味ねえってあんなに言ってたじゃん」
嶺二「人は変わるもんだからねー」
明日香「何それ」
嶺二「俺たちも変わる時がきたの。そうだろ?鳴海」
鳴海「(窓の外を見ながら)別にそういうつもりじゃないけど」
外で千春がビラ配りをしているのが見える
明日香「鳴海さ、早乙女さんと付き合ってんの?」
通行人は千春のビラを受け取らない
千春が声かけても無視している
鳴海は千春のことをボーッと眺めていて明日香の話が頭に入ってきてない
明日香「話、聞いてる?」
鳴海「(視線を元に戻す)えっ、ごめん聞いてなかった」
明日香「早乙女さんと付き合ってんの?」
鳴海「いや、付き合ってないけど」
嶺二「じゃあ、お前。菜摘ちゃんに対して恋愛感情はあんの?」
再び外を見始める鳴海
外では変わらず千春がビラ配りをしているが受け取ってもらえてない
鳴海「ねえよ」
明日香「じゃあなんで手伝ってんの?」
鳴海「わからん、なんかそういう感じになってるんだよ」
嶺二「でも、菜摘ちゃんは鳴海のことをかなり信用してる感じだよねー」
明日香「そうなん?」
鳴海「それもわからん」
明日香「わからんばっかじゃん、嶺二はなんで手伝ってるの?」
嶺二「そりゃあ手伝いたくなったからの一択っしょ」
明日香「どうせそれは建前で、女子からモテるようになりたいからとかじゃないの?」
嶺二「それもある」
明日香「あんたら二人、もう少し真面目に学校生活に取り組めばモテるようになるでしょ。最低限が出来てないからモテないの。わかる?」
嶺二「誰もが最低限のことをこなせると思ったら大間違い、俺たちは最低限すらままならないってわけ」
明日香「ただのクズ人間じゃん」
鳴海「おっしゃる通りで」
ため息を吐く明日香
外では強い風が吹いている
千春の手に持っていたたくさんのビラが風で飛ばされる
千春は一人で飛ばされたビラを追いかけている
通行人は拾うのを手伝わない
鳴海と同じように外を見る嶺二
嶺二「ひっでえな、誰も拾ってない」
明日香「(外を見て)バイトかな、ビラ配りもしんどそう」
鳴海「みんな受け取らないからな」
明日香「貰ってもゴミになるじゃん」
嶺二「(座席から立ち上がり)ちょっと俺行ってくる」
明日香「どこに行くの?」
嶺二「外だよ外、誰かが手伝ってやらなきゃ可哀想だろ」
嶺二は小走りで一階に降りて行く
ビラは水溜りに落ちたり、一枚一枚バラバラの場所に飛ばされている
少しすると嶺二が外に出てくるのが見える
嶺二は千春に声をかけて率先して飛んで行ったビラを回収しに行く
明日香「優しいだけならいいけど、その後ナンパするから優しさは帳消し」
鳴海「嶺二はそういう奴だからしゃあないな」
回収したビラを千春に渡す嶺二
千春は嶺二に礼を言っている
千春の笑顔と感謝に照れている嶺二の表情が見える
◯60回想(◯29の回想)/波音高校庭(放課後/夕方)
文芸部員募集の紙の束を鳴海に渡す菜摘
紙の束を持つ鳴海
菜摘「(笑顔で)ありがとう、貴志くん」
◯61回想戻り/マクドナルド二階(放課後/夕方)
外を見ている鳴海と明日香
嶺二は千春からビラをもらう
嶺二はビラを受け取り千春に別れを告げてマックに戻ってくる
鳴海「(座席から立ち上がり)わりい・・・俺ちょっと急用思い出したわ」
明日香「急用?なんかあったの?」
鳴海「借り物を返しに行かなきゃならねえんだ、じゃあな明日香!」
明日香「借り物??」
鳴海はカバンを持って走って行く
ニコニコしながら嶺二が戻ってくる
ぶつかりそうになる二人
嶺二「あっぶねえな、どこ行くんだよ鳴海!」
鳴海「急用を思い出した!また明日!!」
鳴海は走ってマックを飛び出る
もらったビラをテーブルに置いて席に戻る嶺二
嶺二「なんだ急用って?」
明日香「借り物を返しに行くって言ってたけど」
嶺二「借り物って?」
明日香「知らない」
外を見る嶺二
走っている鳴海が見える
千春の姿はない
嶺二「(外を見ながら)あれ・・・あの子どこ行ったんだ?」
明日香「(外を見て)もう帰ったんじゃない?」
嶺二「(外を見ながら)それにしても・・・可愛かったなぁ・・・何高だろ」
嶺二が貰ってきたビラを手に取って見る明日香
明日香「(ビラを見ながら読み上げる)ゲームセンター“ギャラクシーフィールド”で遊びませんか・・・懐かしい名作ゲームがあなたを待っています・・・行ったことある?」
嶺二「昔はよく行ってたけど、携帯ゲーム機に手を出し始めてからは一度も行ってない」
明日香「私は行ったことない」
嶺二「なんとなくの記憶だけど古いゲームがいっぱいあってさ、子供ながらに結構楽しんでたのを覚えてる」
明日香「子供ながらじゃなくて、子供だからでしょ?」
嶺二「そうとも言う」
◯62貴志家リビング(夕方)
テーブルで突っ伏して眠っている風夏
ドタバタと家に上がりをカバンを投げ捨てる鳴海
鳴海が帰ってきた音で目を覚ます風夏
体を起こす風夏
風夏「(あくびをして)おかえり鳴海、晩ご飯何すんの?」
鳴海「帰ってきたのか姉貴、申し訳ないけど今は飯どころじゃないんだわ」
風夏「お腹が・・・空いた」
ばったりとテーブルに顔を押し付ける風夏
鳴海「(自転車の鍵を手に取り)チャリキー借りるぞ!」
風夏「借りてもいいから何か食べるものを・・・」
鳴海「カップ麺でも作れよ」
風夏「めんどいよ〜介護してくれ〜」
鳴海「後で飯作るから!!じゃあちょっと出かけてくる!」
すみれに貸してもらった傘を掴みを家を飛び出る鳴海
風夏「ついに弟にも青春が訪れたか・・・あー・・・お腹空き過ぎて死ぬ」
◯63貴志家前(夕方)
家の扉を閉める鳴海
昨日の雨でサドルが濡れまくっているママチャリ
滴を手で払い飛ばす鳴海
ママチャリの鍵を外す鳴海
傘をひっかけてママチャリに乗る鳴海
ママチャリを漕ぎ始める鳴海
◯64早乙女家へ行く道(夜)
六時半過ぎ
すっかり夜になっている
強い風のなか全力で自転車を漕いでいる鳴海
◯65早乙女家前(夜)
髪も呼吸も乱れている鳴海
ママチャリから降りて鍵をかける鳴海
傘を持ちインターホンを押す鳴海
インターホンからは何も反応がない
鳴海「(首を傾げながら)誰もいないのか?」
少しすると扉がガチャりと開き、潤が出てくる
潤「おめえは・・・この間のキムチ鍋泥棒か」
鳴海「泥棒じゃねえ!!」
潤「何の用だ?言っとくが今日は晩飯を分けてやらねえからな」
鳴海「分かってるよ!!(傘を出して)傘を返しに来ただけだ」
潤「(傘を受け取って)なんだ、ただの傘返却か。ご苦労さん、ちょっとそこで待ってろ」
家の中に戻る潤
外で待たされる鳴海
少しするとビニール袋を持った潤が出てくる
潤「(ビニール袋を渡そうとして)ほれ、受け取れ。お前が菜摘を連れ戻してくれたんだろ?」
ビニール袋の中にはお菓子やらジュースがたくさん詰まっている
鳴海「別に礼を言われるようなことなんて・・・お、俺はただを傘を返しに・・・」
潤「(ビニール袋を突き出して)子供っぽいことを言ってないでさっさと受け取れよ、知ってんだよ俺とすみれは。一人で自炊してるんだろ?ちゃんと食わねえと栄養不足で骨になるぞ」
鳴海「(ビニール袋を受け取る)どうしてそのことを・・・」
少しの沈黙が流れる
潤「菜摘の体調は落ち着いてるから安心しろ。だが、万が一ってこともあるからな、明日も学校は休ませるつもりだ」
鳴海「わかった・・・」
潤「わかったなら帰れ、お前は明日も学校だろうが」
鳴海「ああ」
潤「気をつけて帰れよ」
潤は家の中に戻り扉を閉める
鳴海はママチャリの所へ戻る
鳴海はママチャリのカゴにビニール袋を入れる
ママチャリの鍵を外す鳴海
鳴海「買い物してかえる・・・あっ、カバンを置いてきたな・・・サイフはカバンの中だ・・・まあいいや。お菓子とカップ麺があるし」
ママチャリにまたがり漕ぎ始める鳴海
◯66貴志家リビング(夜)
椅子に座りテーブルでカップ麺を食べている鳴海と風夏
風夏「私、明日も仕事だから」
鳴海「なんで今日は帰ってきたの?」
風夏「たまたま午後は仕事がなくてさ」
鳴海「珍しいね」
風夏「たまにはあんたの顔を見に来ないとね。学校行ってるか心配だし」
鳴海「行ってるよちゃんと、三年になってからは一度もサボってない」
風夏「えらいえらい!と褒めたいところだけどまだ学校が始まって四日目です」
鳴海「そうだけど、二年の時は始まって二日目で休んだし」
風夏「頼むから留年しないでよね、去年危なかったんだから」
鳴海「大丈夫大丈夫、姉貴の方は仕事とか勉強とか私生活うまくやってんの?」
風夏「仕事はクソ、勉強はボチボチかな。私生活も一切の出会い無し、クソ」
鳴海「ほとんどクソだな」
風夏「そういうこと、今の生活で満足している部分も多いけどね」
鳴海「現状維持が大事だろ」
風夏「そうだね」
鳴海「(声 モノローグ)この人は俺のたった一人の家族、姉の風夏。二十四歳、俺とは六つ歳が離れている。両親が死んでからは姉貴が親代わりだった。今姉貴は仕事をしつつ独学で勉強をしている。五年前、姉貴の親友が難病で倒れた。その人を助けるために勉強をしているらしい」
◯67貴志家リビング(日替わり/朝)
テーブルの上に置き手紙がある
“学校頑張って、休まないように”と書かれている
鳴海は制服姿でテレビを見ている
時刻は七時半過ぎ
ニュースキャスター1「藤田総理は米メナス議員と連絡を取ったと話していましたが、具体的な内容については明かされていません。日米の関係、そして世界の未来が改善されるように今後も密に連絡を取り合う予定だと話しています。藤田総理は今日の午後に・・・」
テレビを消す鳴海
カバンを持って家を出る鳴海
◯68波音高校三年三組の教室(朝)
朝のHRの前の時間
生徒たちは喋ったり立ち歩いたりしている
神谷はまだ来てない
明日香は女生徒たちと喋っている
菜摘は来てない
鳴海は嶺二と喋っている
二人は教室の窓際から外を見ている
嶺二「傘を返しに行ったって話ね」
鳴海「そういうこと」
嶺二「でもよ、昨日のビラ配りしてた子マジで可愛かったんだよな」
鳴海「接続詞の使い方おかしいだろ」
嶺二「いいんだよそんなことは」
鳴海「連絡先とか聞いてないんだろ?」
嶺二「聞いてない」
鳴海「なんで聞かなかったんだ?」
嶺二「聞きたくても聞けなかったんだよ!」
鳴海「あーね」
嶺二「てか今日はどうする?今日は汐莉ちゃんいけるってさ。五人目の部員を求めて新入生でも掻っ攫う?」
鳴海「俺、閃いたかもしれん」
嶺二「何をさ」
鳴海「嶺二、ビラ配りしてた子ともっと交流持ちたいよな?」
嶺二「そりゃ持ちたいけど方法がねえ」
鳴海「頭使え頭」
嶺二「使っても何も出てこんのだ」
鳴海「あの子を五人目の部員として誘ってみようぜ」
嶺二「どこ高かも知らないのにそれで誘うってのは無理っしょ」
鳴海「決めつけるな。波高から近いところで働いてるんだし、ここはマンモス校なんだぞ?可能性はある」
嶺二「言われてみれば・・・確かに・・・生徒数も馬鹿みたいに多いし、周辺一帯のバイトは波高生で溢れかえってるな!」
鳴海「な?あの子を五人目にすれば完璧さ」
嶺二「うっしゃあ、じゃあ今日の放課後はビラ配りの少女を探しに行くか!!」
鳴海「南にも伝えないとな」
嶺二「俺がLINEしとく」
鳴海「お、お前いつの間に南のLINEを・・・」
嶺二「この間、菜摘ちゃんが帰った時に聞いた」
鳴海「さすがナンパ師だな」
嶺二「褒めても何も出ねーぞ」
鳴海「褒めてないけどな」
鳴海「(声 モノローグ)どうせ文芸部に誘っても断られると思うが、何も活動しないっていうのも真面目な早乙女や南に申し訳ないしな。一応こんな悪ノリでも細々と活動してましたってことになるだろ。にしても嶺二・・・相当気になってる子みたいだけど、もしや惚れたのか・・・」
◯69波音高校特別教室の四(放課後/夕方)
椅子に座っている汐莉
鳴海と嶺二は汐莉と向かい合い黒板の前に立っている
真剣な眼差しの嶺二
少し眠そうな鳴海
汐莉「つまり、貴志先輩と白石先輩は何高かわからない女子を文芸部に誘うって言ってるんですか?」
嶺二「やっと話が通じたね」
汐莉「本気で言ってるんですか?」
嶺二「本気っしょ、なあ鳴海!」
鳴海「あ、あぁ。本気だよ」
汐莉「(呆れながら)二人とも馬鹿すぎませんか?いきなり見ず知らずの人が部活に誘ってきたらやばいでしょ」
嶺二「分かってないねえ汐莉ちゃんは。ただでさえうちは部員不足なんだから、良さそうだなって思ったら無理にでも入部させるの!!」
汐莉「普通の女子なら絶対に嫌がりますからね」
嶺二「普通かどうかはまだ分からないぜ!!」
汐莉「断られたらどうするんですか?」
鳴海「今から断るかどうかを確認しに行くってわけだよ」
汐莉「今からその女の子を探しに行くと・・・」
鳴海「どこでビラ配りしてるかは何となく分かってるしな」
嶺二「(汐莉に手を差し伸べて)行こう汐莉ちゃん!俺たちにはまだ仲間が必要だ!!」
少しの沈黙が流れる
汐莉「いや受け取りませんけどその手」
嶺二「いいから探しに行くんだよ!!」
少しの沈黙が流れる
汐莉「(席を立つ)仕方ありませんねえ・・・どうせここにいてもやることはないし、暇潰しがてら行きますか」
嶺二「よっしゃあ!!」
◯70マクドナルド&カフェのメソッド付近(放課後/夕方)
緋空祭りに向かっている人がたくさんいる
昨日千春がビラ配りしていた場所と同じところにいる鳴海、嶺二、汐莉
千春の姿はいない
カフェのメソッドは既に完売している
汐莉「いないじゃないですか!!」
鳴海「まさか神出鬼没だったとはな」
嶺二「おっかしいなぁ・・・今日もいると思ったんだけど・・・」
鳴海「今日はシフト日じゃないってことか、残念だが諦めよう」
汐莉「疲れたー、帰りましょう」
嶺二「いや!!まだだ!!マックで少し様子を見よう、そのうち来るかも知れない」
鳴海「二日連続でマックかよ」
汐莉「えー、私今金欠なんですけど・・・」
嶺二「金欠なんざ知らん!マックに行くぞ!!」
鳴海「南も金欠なんだから諦めようぜ・・・」
嶺二「しょうがねえな!俺が奢るからついて来い!!!」
汐莉「(驚いて)奢り!?」
嶺二「俺が諦めるまで好きなだけ食べたまえ」
汐莉「(喜びながら)わーい、白石先輩の奢りだ!」
鳴海「俺にも奢って」
嶺二「お前はダメ」
鳴海「ケチなやつだな!」
嶺二「(歩き始める)我慢しろ上級生」
嶺二に続いて鳴海と汐莉も歩き始める
鳴海「奢ってくれなきゃマックシェイク頭の上からぶっかけんぞ」
嶺二「その時はお前の体の穴という穴にポテトをぶち込んでやる」
鳴海「その前に目ん玉えぐり出して代わりにチキンナゲットを詰め込んでやろうか?」
嶺二「ドナルド・マクドナルドが命を奪いにやってきても知らねーからな」
汐莉「(二人の言い合いに呆れながら)くっだらねえ・・・」
マックに向かう三人
◯71マクドナルド二階(放課後/夜)
六時半過ぎ、外は暗くなっている
マックは混み始め、仕事帰りのの社会人や、勉強会をしている学生がいる
昨日と同じ窓際の座席に座っている鳴海、嶺二、汐莉
ハンバーガー、ポテト、飲み物のゴミがトレーの上にある
スマホを見ている汐莉
外を見ている鳴海と嶺二
鳴海「全然来ないやん」
汐莉「今日は来ない日なんですかねー」
嶺二「くっそ、信じてたのに」
鳴海「しゃあねえよ、相手の素性すら知らんし」
汐莉「で、どうします?これから」
鳴海「人が多くて目が疲れたわ、解散にするか?」
嶺二「そういや今日って金曜日じゃん、平日末ってことでシフトを入れてねーパターン?それか緋空祭りに行ってるパターン?」
汐莉「友達と遊ぶ日か、緋空祭りに行ったか、それかもう他の部活に参加してるのかも」
鳴海「あーあ、ここまで張り込みをしてた意味なしってことかよ」
汐莉「文芸部というより、昭和の刑事ごっこをしてるだけですね」
鳴海「虚しい活動だ」
少しの沈黙が流れる
汐莉「(スマホを閉まって)諦めてもう帰りましょうよ」
鳴海「(外を見るのをやめて)そうするかぁ、また来ればいいしな」
嶺二「(変わらず外を見ながら)俺はもう少し張り込んでみる」
鳴海「まだやるのか?来るか怪しいぞ」
嶺二「ああ、二人は帰っていいよ」
鳴海「わかった、じゃあまた来週な」
嶺二「おうよ、お疲れ」
鳴海「(汐莉の方を見て)南も帰るだろ?」
汐莉「あ、はい!じゃあ白石先輩、張り込み頑張ってください」
嶺二「任せとけ」
鳴海と汐莉は使ったトレーとカバンを持ち席を立つ
二人はゴミ箱にゴミを入れる
◯72帰路(放課後/夜)
浴衣を着たカップル達、小さい子供連れた家族達が緋空祭りを目指している
歩いている鳴海と汐莉
汐莉「いいんですか?白石先輩を置いてきちゃいましたけど」
鳴海「いいのいいの、あいつが残るって言ったんだから」
汐莉「ずっと外を見続けるなんてすごい集中力ですね。暗いし、お祭りがあるせいで人も多いし」
鳴海「多分、ガチで惚れたんだろ」
汐莉「惚れた!?」
鳴海「恋しちゃったのかもしれんね」
汐莉「(驚いて大きな声を出す)ええええええええええ!?」
鳴海「嶺二にはよくあることなんだよ。惚れやすいというか、なんというか」
汐莉「な、なるほど・・・」
鳴海「大丈夫、いつも玉砕してるしすぐ別の子を追っかけ始めるから」
汐莉「そ、そうなんですか・・・」
鳴海「だから惚れたと言ってもそんなに大したことじゃないな」
汐莉「白石先輩の恋は基本実らないってことですか?」
鳴海「そうだね。今じゃ自分の想いを相手にぶつけるより女子からただモテたいって気持ちが強くなってるみたいだし」
汐莉「それで文芸部に入ったらモテるっていう愚かな思考に・・・」
鳴海「そうそう、アホだからな嶺二は」
◯73マクドナルド二階(◯72と同時刻)
スマホで音楽を聞きながら一人で外を見ている嶺二
千春の姿はない