第8話『毛布の臭い』
ガタガタと揺れる感覚で目が覚めた。
まるで馬車が石の上を走るような振動。っていうか馬車だった。馬車に乗っていた。初搭乗。
そもそもなんで寝ていたのかわからない。最後の記憶は僕の髪の毛が黒で、帰る場所はリアリーの所だという全然根拠のない証言で……。
その後渋々リアリーに着いていこうと黒の方へ全身を踏み入って……。
「目が覚めたようだな」
馬車の中に仰向けで寝ていた僕を見るなりそう呟く少女、リアリー。
彼女は黒を愛しているらしく、黒で統一された煌びやかな衣装と、肩まで伸びる綺麗な黒髪、そしてほんの少し焼けた肌の色をしているどこにでもいそうな女の子。
だが実は一国の女王なのだから驚きだ。
「僕は……どうして寝てしまったんだ……?」
起き上がり少し痛む頭を抑える。
「寝てはおらん。まぁ寝てないとは言い切れんが、大抵はお主と同じ具合いになるから安心しろ。」
「同じ具合いって……どんな……」
気怠そうにリアリーは馬車の小窓、その淵に肘を付く。
「寒さだ。お主は境界にいたのだ、半分は暑さでもう一方は寒さを感じていたであろう? 均等に保たれていたバランスが崩れ意識を失ったんだ」
「……寒さか……言われてみればだけど、少し寒い気がする。」
「鈍感な奴……俗にいう低体温症の一番すごーいやつだ。安心か?」
「安心できるわけないだろう」と言いそうになった時、僕の足元には柔らかく温かい毛布が、数十枚重なってかかっている事に気が付いた。
「これ……君が?」
「私の国に生息する生き物は、この寒さに適応するため、たっくさんの毛を身に着けたようでな。
その中でも、とびっきり温かい毛を持つ生き物から毛をむしり取って作った毛布だ。温かいだろう?」
「うん……すごく」
臭い。すごく臭い。温かいより先にきたのは臭さ。たしかにすごい。
「……ところで、君は何を飲んでいるの?」
「ふんっ。これか。」
そう言ってリアリーが見せたのは黒い液体の入った背の高いグラス。
今まで片手に持って話していたようだけどまったく気付かなかった。
「……なんなの、それ」
「……血じゃ」
「……血は赤い色だろ……」
「なっなんだと!? お主にも赤い血が……流れているだと!?」
「いや誰がピ●コロだぁ! さらに話が逸れたぁ!」