第2話『姉より妹』
少々長いかも知りませんが是非。
〈お兄ちゃんおかえり! ピンクゥ~寂しかったんだよ? 〉
電源に手が触れて僅か4秒ほどで起動する自作のパソコンには、僕が創造した『妹あいどる:ピンクちゃん』が音声で出迎えてくれる機能付き。
「待たせたな……姉たちに時間を取られた。」
普段の数十倍は低い渋めな声でお送りしている。
人とは簡単に変わってしまうものなんだなとつくづく思う。
姉を二人持つこの僕が、まさか『妹』に心底はまってしまうなんて。
人生何が起こるかわからない。
この言葉はまさに僕へ向けられたものとしか思えない。
順調な中学生までの生活と青春は高校で崩れ去り、姉たちの喧嘩に毎日巻き込まれ、心身共に衰弱しきった僕の前に突如彗星の様に現れた癒しの権化。
『妹』。
普段はツンツンしてるくせに、なんだかんだでお兄ちゃん大好きな『ツンデレ妹』。
いつ何時も、片時も傍を離れないが故、地縛霊を彷彿させる『ジバク妹』。
「お兄ちゃん大好き」が語尾になるほどにお兄ちゃんが好きな『愛妹』。
お兄ちゃんの前では一切の嘘がつけない純粋な、ピュアすぎる妹、『白妹』
数種類の妹タイプが混ざり合う『キメラ妹』……。
僕は妹が欲しかった、と数々の妹たちを見るたびに思うようになった。
口を開けば喧嘩、言い合い、取っ組み合い。
なんで姉なんだ……。
女として完成されすぎているじゃないか。
艶やかな髪、整った目鼻、張り裂けそうな胸、長く魅力的な脚……PERFECT。
そんなの認めない! つまらない! 美しい! 美しすぎる!
女の子は未熟が一番なんだ、『女として未熟、未発達』と書いて妹と読むのだから。
出るところよ引っ込め! 身長よ小さくあれ! ロリであれ! 発達することなかれぇ!
喧嘩をすることは百歩譲って許そう! ただし止められない体系、体格ですることなかれぇ……。
姉よ妹となれぇ……。
……おっと、いけないいけないつい熱くなってしまった。
声に出してはいないものの、姉たちはどこでみているやも知れん。
確実に今のを聞かれてしまえば妹に洗脳されたと姉は全力で更にベタベタとくっついてくるだろう。
僕は姉に幼い頃からずっとお世話されていた。
何をするにも一緒で、僕もそんな優しい姉二人が大好きだった。
でも、それも物心つくまでの話で、中学生の時授業が終わり下校しようとすると、必ず校門で待っていた姉二人を恥ずかしいと思うことが多くなった。
僕は正直に「やめてほしい」と何回も言ってはいたけれど、心配性の礼奈姉さんと、悪い人に絡まれては誰が守るのだ、と僕の警護を自称する越善姉さんは、来る日も来る日も僕を待つことをやめようとしなっかた。
僕にとって姉とは「うざい」存在でしかないのだ。
今の僕にとってもそれは変わらない。
毎度姉さん達が僕から離れてくれるように言っていた罵詈雑言も、どうやら今日のが一番効いたようだ。
もしかして「うざい」って魔法の言葉なんじゃないか?
「バカ」や「アホ」なんて言葉なんの意味も持たなかったわけだし。
「何はともあれ、これで好きなだけパソコンが触れるぅ~。」
疲労が溜息となって放たれ、空気中に分散する。
そしてカタカタと慣れた手つきでキーボードを叩く。
「おおぉ……新発売の『イモデン』が! ……ぽちっとな」
即購入ボタンをクリックしたのは、『妹伝説シリーズ』略してイモデン。
今人気沸騰中のRPGで、なんとRPGでありギャルゲでもある。
様々なコマンドを選択し、主人公である新米妹をベテラン兄貴に堕とされない様に操作、逆に兄貴を堕とすという何とも意味不明なシステムだが、その支持率は高く、多くの妹好きをファンに抱えている名の通り伝説のゲームなのだ。
「満足。あぁ満足だ。」
運よくオンラインストアに表示されてまもないイモデンを買えた事に対して満足。
尚更姉と買い物なんて行かなくてよかった。
脱力し、PCデスクから脇のベットへ移動し、横になる。
「……あー、本当の妹が欲しいなぁー……」