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白黒リータ!  作者: ヒラ系
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第17話『役に立たない走馬灯』


「……って!公!?」


「……って!リアリー!?」


「って!リアリー!? じゃないだろぉ! もうとっくに三十分はすぎておるぞ!? 」


「わっわかってるけどっ、ちょっと理由があって……」


「もっもしやお主! 本当に私を襲う気で……っ!! 」


「本当にちがうんだっ!! 浴場までの道で迷って……っジジさんに聞けばわかってもらえるよ!! 」


僕は必死に理解してもおうとした。一糸纏わぬ姿で。


「なっ何よりだなぁ! ……その……隠せ……」


「ん、ん、んんんっ!! いやんっ!! 」


甲高い声が浴場に響き渡る。

構造上反響しやすいのか、その喘ぎ声は何連にもこだました。

  

「……えー、コホンッ。失礼致しました。気を取り直してですねぇ……これは偶然ですので、僕を見逃してくれませんか。」


 「……もう……終りだ……」



なんちゅう気まずい状況だ。

あのリアリーが照れてるよ……ってまだ会って一日もたってないけど。


っていうか何それ。何その姿。天使? 天使でしょそれ。

おお神よ。あなたは僕に天使を送って下さったのですね……っ!

歓喜。おおマイゴッツ。


「ダメだ……生きてゆけない…のだ……」


胸の前でタオルを握りしめプルプルと震えるリアリー。


「見られた……見られたくないのに……無理だ……」


女王としてのリアリーはそこにはいなかった。

いたのはただのロリータだった。それは実に初心な、ピゥアなロリータ。


だと思っていた。


「黒の女王に……白の跡があるの見られちゃったよぉ……」


「……え、リ…リアリー……大丈夫だよ! 僕褐色な女の子好きだし、その日焼けだって―――」


僕がリアリーの震える肩に触ろうとした瞬間。

キッとリアリーは僕の腕を振り払い、泣き出してしまった。


「もう…っ! 頼むから忘れてくれぇぇぇぇ!!! 忘れてくれぇ!!! 」


「はっ……リアリー!? 何もしない! 僕は何もしないから! 」


「忘れて…くれないなら……殺……忘…のだ……」


「……え、今殺すとか聞こえたんだけど……嘘だよ……ね……?」


 泣き出してしまったと思いきや、突然何かに乗り移られたように静かになり、リアリーの目が赤く光り始める。

 同時に身体は赤く染まり、全身の筋肉がみるみる肥大化。

血管がドクドクと波打ち、ミシミシと骨が軋む音が聞こえだした。


あの艶やかな黒髪は逆立ち、肉食獣のような牙が生えたと思えば、手足の爪が二十センチほどまで伸びる。

 床を埋める黒いタイルは、筋肉量に比例して重くなった体重に耐え切れず、ピキピキと亀裂を生む。

浴場だからなのか、化け物と化したリアリーの口からは白い煙が出る。

もうリアリーの面影は無く、僕の目の前にいるのは体長三メートルほどの化け物だった。


 「……ヒィッ!!!! 」


僕が思わずあとずさりすると、化け物は「グルル」と音を鳴らし近づいてくる。


な、なんで……!? 僕が悪いのか?! いや、僕が悪いんだけど。

リアリー……!! なんでこんな……


「……ワ……スレ…ロ……ワスレ……ロォォ!!! 」


化け物と化したリアリーが発する低くお腹に響く恐ろしい声。

あの可愛いキャピキャピとした声がこうも変わってしまっている。


「……わっ、忘れる! いや、もう忘れたから!! リアリー! 僕は何も覚えてないよ!! 記憶喪失なんだからっ!! 」


「ワ……スレロ…ワス……レ」


リアリーは右手を大きく振り上げる。振り上げただけの僅かな動作が浴場の天井を凹ませる。


その腕は僕に見せてくれた時よりも数倍は大きくなっている。

逃げなきゃいけないのに……身体が動かない……。一撃で粉になってしまうという恐怖が、逆に僕の足を浴場に固定したのだ。


「グルル……スレロォ!!」


全身から汗が噴き出る。

口の中の水分は、恐怖で主人を置いて逃げてしまった為カラカラなのに。


今の僕にはガタガタと惨めに痙攣するしかなく、尿道からも水が無意識に零れ落ちている。


化け物の腕が見えなくなる。

と、同時に顔面の皮膚が剥がれてしまう程の風圧、そして耳を劈く音。


 「ギギギギギィッ……! シィヌゥ……! 」


涙を流し、死を直感した。

現状を打破するべく、死の間際人間は走馬灯を見るらしいのだが、僕がこれまで送ってきた人生は何一つとして役に立たない。

ただ僕目掛け飛んでくる大きな腕をスローモーションで感じる事しかできそうもない。


「……お姉ちゃん達……ごめん」


眼を閉じ、自分の行いを後悔した時、金属と金属が擦れた様な音が浴場いっぱいに響いた。


化け物は後方によろめいて、バランスを崩す。


「ゥオ……」


「ったく……ついてないですな、公殿。」


「……っジジさん!!!」



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