第16話『止まれない飛行機』
さすがに王城というだけある。
とてつもなく広大な城内で迷子になったものの、女王リアリーの側近であるジジと偶然にも再会、目的の浴場まで案内してもう事ができた。
何もかもが大きく広い城、無論浴場も例外ではなかった。
壁には『黒』ではなく、ちゃんとした木であった。
意表を突かれた気がするも、脱衣所と浴場を充満する柔らかな木の香りは僕にひと時の安らぎをもたらした。
だが床は黒い。足元の黒いタイルは浴場に差し込むオレンジ色の光を反射して煌めく。
隅から隅まで丁寧に手入れされた様子が伺えて、本当に使っていいのか躊躇してしまった。
だが、僕にそんな悠長な事をしている時間はない。
一体今何分経ったのか、ここまで来るのに何分かかったのか。
髪の毛と身体をお湯で濡らしながらそんな事を考える。
もちろんタオルは持っていない。それは僕の『僕』を隠してあげる事ができない事を意味している。
ま、いっか。
「はやくしないとぉ~」
髪の毛と身体を洗い終え、目の前に広がる浴槽へ駈け込もうとする。
「って、浴槽なんてもんじゃないな。もうジャグジーだし……一度でいいから誰もいない広い湯舟にダイブ、決めてみたかったんだ~! 」
走る速度をあげて、飛び込む為の勢いをつける。
浴槽の淵まで来たところで、湯煙に隠れていた『それ』が目に入った。
「……嘘だ……嘘だぁ!! 」
僕は気が付いてしまった。
湯舟に浮かぶお湯。はじめは黒い天井が反射して写っているんだと思っていた。
だが近づいていくうちに、そのお湯の黒さが天井の反射なんかじゃなく、お湯自体が真っ黒であるとわかってしまった。
止まれない。
無駄に勢いをつけすぎた。もう遅い。
「泥ッ!? やばいやばいやばいぃ!! 汚れを落とすための風呂だろぉ!?? 」
そこで動揺して後ろへ体重をかける僕。
もはや踵だけで前進、全体重を支えている。
ヌルヌルとした床に摩擦はなく、全力疾走の勢いを保つ僕の身体は、まるでこれからテロが起こると知っていながら滑走路を飛び立つ飛行機だ。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!! 」
掛け声と共にバランスは崩れ、僕という飛行機は飛び立つことなく後ろへ転倒。
地面にたたきつけられた衝撃で身体は二回バウンド。
最悪な形だが、もっとも綺麗な形でその黒き湯へと入水。水しぶきもないナチュラルな入水を決めたのだ。
ポチャン……と石が水に落ちるような音を残して。
(……痛ッ……! 痛すぎるよ……もう二度とやらん……! )
お湯の表面にはブクブクと泡が浮かんでいた。
(……どうでもいいけど……ここってあのお湯の中だよな……!? )
公がお湯の中でもがいている中、ガラッと浴場の扉を開ける音が響く。
ペタペタと足音を立てながら、公の沈む浴槽へ向かってくる少女。ロリ。
(……早く起き上がんないと……苦しい……)
少女は黒いタオルを自分の、小さいながらも膨らんだ胸に押し当てる。
きめ細やかで、その綺麗な肌は、きっと自分の生みの親でしか触ることができていない最高級品。
少女の細く愛らしい腕と、スラっと伸びる美しい脚は日焼けしており、胸とお腹、背中だけが雪の様に真っ白であった。
(……ん?音が聞こえる……誰かいるのか……? ……お湯が黒いからシルエットさえ見えない……)
少女は浴槽の淵に足をかける。
浴槽からはただブクブクとジャグジーの泡が出るだけ。何も異変はなかった。
本当は公が吐いている泡もある。
「アッツゥ……」
少女は少し熱がりながらもその小さな足を伸ばし、お湯へと浸かる。
ムニュ。
「えっ……?なにこれ……」
(ハウゥッ……!! ナニコレ)
公の秘所であり急所である箇所にスベスベとした何かが当たる。
というか踏まれてる。ナニかを何かに。
「気持ち悪い……誰だこんなところに変なの置いた奴は!!」
ムギュ。ゴギッ。
少女は足の親指と人差し指を器用に動かし、挟んだ。
(ギャァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!)
勢いよくお湯の表面が盛り上がる。
その光景は少女から見れば泉から現れる女神そのものだったであろう。
「…………ァァァァアアアアアア!!!!!!!!」
「イヤアァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」