第12話『リアリーの魔法』
「す…すごい……」
僕を出迎えたのは一面の黒。
ではなく、色とりどりに装飾されたまさに豪華絢爛だった。
オレンジ色に光るシャンデリアから届く光が城全体に行き渡り、床には見たことのない素材でできた赤絨毯。
フワフワとした手触りは馬車の中で貰った毛布と同じ手触り、だが臭いは無い。
「本当に女王なんだな……」
「あたりまえだろう。女王なんだから女王だ」
あっそう。
見た事ない物ばかりで目が疲れてくる。
先入観で、お金持ちは宝石やらなにやらを、これ見よがしに見せつける自己主張の塊だと思っていたが、リアリーの城は真逆と言っても過言ではなく、落ち着いていて上品なものだった。
また、メイドと呼ばれる存在が僕の目を奪った。
きちんと整った礼や言葉、加えて容姿までも整っている。美しい。
歳は皆20くらいだろうか……
「……なーに鼻伸ばしているのだ。この変態め。」
「のっののの伸ばしてなんかいないし……」
「図星じゃないか……悪いが私の使用人への無礼も処罰の対象だからな。」
「だから何もしませんって!! 」
まったく……なんて事言っちゃったんだろう僕は……。
これじゃあ少し喋るだけで無礼だって言われそうだよ……
…………って。
「あの人どおぉすんのぉー!!!」
「相変わらず、この足は怪しからん、実に怪しからん。つい触りたくなってしまう……」
さっきまで一緒に歩いていたジジは、気が付くと数十メートル先の階段の踊り場でメイドに絡んでいた。
「これは誘っているのですか―――――」
「死ねジジイィー!!!」
「ぶほぉぉぉぉぉー!!!」
ドゴンッという音と共にジジが吹き飛ぶ。
どうやらリアリーに蹴り飛ばされたらしい。
階段の踊り場から僕のいる赤絨毯まで。だから数十メートルはあるって。どんな馬鹿力だよ……
おっと、失礼。バギャ力だ。
「まったくー! ジジイ! 何度も言ってるだろうが! メイドに手出すなってぇー!!」
「ゴホッ……陛下……蹴るならパワー抑えてくださいませんか。本気で死にます……」
「まだ十分の一も出しておらん! それにジジは私のフルでも死ななかったんだから心配するな!」
あれ……リアリーはいつの間に踊り場へ……。
さっきまで隣にいたはずなんだけど……。
「……メイドを管理するのも側近の仕事です……」
「バギャ言うな。そんな側近いてたまるか。……お前たち、仕事に戻れ。」
リアリーがそうメイドに言うと、メイドはお辞儀をした後、階段を上がって行った。
「まったく、陛下の蹴りは内臓に響く。」
「……待たせたな公。見ての通りだが……無礼を働くとジジのようになる。」
「あ、ああ……はい。絶対何もしません。」
まただ。いつの間にリアリーは僕の隣に戻ってきたんだ?!
階段の踊り場へ移動したと思えば僕の隣に、僕は目で追ってたはず……。
「いつの間に隣へ!?」
瞬間移動———。
でもリアリーに魔法は使えないって言っていた。
「今戻ったのだ。何かおかしいか?」
「おかしなことしかないよ! どうやったの!? 瞬間移動!?」
はて、と首を傾げ、ポカンとするリアリー。ついでにジジも。
リアリーはジジと顔を見合わせた後、ハッとして。
「……私としたことが忘れていた。……ジジよ、公は記憶喪失なのだ。」
「なるほど! そうでありましたか。だから陛下の事を知らぬと……」
「その通り、メアリーの事は教えたのだが私の事は魔法が使えぬことしか教えておらんかった。」
記憶喪失を前提として話は進みだすも、今は触れない事にした。
「公……メアリーは魔法使い。先程言った通りな。それは間違いない。」
「あ、あぁ」
「私の、いや私達の家系。パステルは代々身体に魔力を秘めて生まれてくるのだ。」
「え?それって!」
「うむ、言ってなかったが、私も例外ではない。—————だが、何度も言った通り私に魔法は使えない。そもそも魔法とは身体に流れる魔力を自分の外側に放出するものだ。その魔力が放出できなければ魔法使いとは『呼べない』。」
まだ幼いリアリーは疲れたのか一呼吸おいて続ける。
「メアリーはその魔力を外側に放出できる、そこが私との違い。……私は放出できない代わりに、自分の内側で消費できる。」
「理解できたましたか公殿。まあ難しい話でしょう、無理もありません。」
クスっと笑うジジ。
確かに混乱しているのは事実だ。だから今、必死に理解しようと頭をフル回転させている。
「私は魔力を自分の筋力に変換できるといった方がわかるか?」
「……つまり、普通の人間じゃないって解釈……であってるかな……?」
ぷはっと吹き出したリアリー。
「実に失礼だが間違ってはいない。……見た方が早いかもな」
そう言ってリアリーはおもむろに自分の着ていたドレスの右袖をまくりだした。
ロリの細くてしなやか、少しの力で折れてしまいそうな腕だ。
「……普段はほんの一瞬だけ……先程の様に身体の瞬発力を魔力で跳ね上げるのだが、こんな風に跳ね上げた筋力を維持する事だってできる。」
「……嘘だろ――――――」