第11話『白を許された者』
リアリーに続いて馬車から降りるとそこは月に照らされ、紫がかった空。
そしてその空を遮るようにそびえたっている、真っ黒なお城があった。
お城はなんて形容したらいいのかわからないくらい大きくて、下から上にかけて黒く見えた。
照明がない空間に、大きさのわからない『何か』が存在している事実が強い圧迫感を抱かせた。
「ふぅ~、疲れた。」
「お待ちしておりました女王陛下。」
城門の前で、リアリーに声をかけた大きな男が目に入る。
「うむ、ジジよ~ご苦労、ご苦労なのだ」
ジジと呼ばれるその男、白と黒の長い髪の毛を後ろで結っており、左目には黒い眼帯、白い無精髭を生やし身長はリアリー2.5体分はあろう大男である。
(白と黒が入り混じってたら死刑じゃないのか……?)
「おぉ、紹介が遅れた。こやつはジジ、私の側近、言い方を変えれば右腕だ。」 「ジジであります。」
ペコっと軽くお辞儀するジジ。僕もそれに合わせてお辞儀。
「そしてこやつは……こやつは…何だ。」
ペコっと深くお辞儀する僕。……ってまだ紹介されてない!
思い返せば名前すら名乗っていなかった。
「僕だけお辞儀しちゃったじゃないかよ……しかも二回だぞ……」
「すまぬ。名を聞いておらんかったのだ。」
「僕は 日ノ元 公。よく姉は公と呼んでいたよ。」
「公。そうか公よ。お主との付き合いができるだけ短くなるよう祈りを捧げる。」
ニッコリと酷い事言うリアリー。
「公殿、今後ともよろしくお願い致しますぞ」
そんなリアリーとは反し、ニッコリと嬉しい事言うジジ。
「この差は何なんだよ……」
「よいではないかよいではないか。ジジが歓迎するなんて珍しいのだからな。」
そう言ってジジの方を見上げるリアリー。それに照れたのかジジは頬をポリポリと掻いた。
照れたかと思えば途端に表情を険しくし、リアリーに向き合うジジ。
「ところで陛下……なぜジジを置いていったのですかな。」
ギクリとリアリーはそっぽを向き、話を誤魔化す。
「……まぁ、ご無事で何より。ですが次回はこのジジを置いて行かれる事の無いように。……公殿、心より歓迎致します。あなたもご無事で何よりだ。」
「へへへっ。歓迎、してくれるんですね。嬉しいです。」
「それは勿論ですぞ。どうやら公殿も白の携帯を許された数少ない同志のようですからな。」
「あ……そういうことか……」
なんで黒の国で白と黒の髪と、白の髭が許されているのか不思議だったけど、あの人も許されたんだ。
リアリーの親戚か……?
「……ですが、女王陛下に敵対するような発言や行動が見られた場合……即座、亡き者になっていただきますのでお許しください。」
「は、はい……」
……まずい。すでに僕はとんでもない無礼を働いてしまった……
どうかリアリーよ……今ここで記憶喪失になってくれ。
「ジジはまったく~《シンメトリー》の異名を持つお前が同志と呼ぶんだ、無礼を働くわけがなかろう……ハっ!!」
シンメトリーってなんだぁ! 怖い以外の何物でもないぃ! というか最後の「ハっ!!」ってなんだぁ!
これは思い出した時の「ハっ!!」なのか。うっかり歯医者に行く時間を忘れていた時の第一声「歯っ!!」なのか!
まぁ、後者は絶対ないから絶対これ思い出したやつだ……やばい。シンメトリーされる……
「どうしましたか陛下?」
「歯医者忘れてた。」
「歯だったぁぁぁぁぁ~!!!!!」
「何を騒いでいるのだ。公。行くぞ。」
助かった。これも日ごろの行いが良いからに決まっている。
『早起きが長寿の秘訣』……これも僕の為にあった言葉に決まっているな。ハハハ。
「は~いは~い! 」
そうして、僕は黒の城へと足を踏み入れたのだった。