第10話『知らない世界』
「バギャも知らんのか。バギャとは頭の固い、お主の様な者に対して使う言葉、悪口だ。」
「バギャってバカの事かよ……」
「バカ?なんだその美味しそうなモノは。」
「食べ物じゃないよ……ってまた! 話がそれたじゃないか!」
まったく、掌で転がされている気がする。
「もう……まとめるけど、リアリーに魔法は使えないけれど、国からは魔法使いだと思われている。これで間違いない?」
短時間で得たとは思えない疲労感で汗が零れ落ちる。
汗は馬車の床にポタリ落ちた。
「私が魔法使いではないと知らないのは白の国の民だけじゃよ、メアリーは知っておる。それに私はメアリーこそ、月を奪った犯人であると考えているのだ、『あれ』ならそれができる。」
「なるほど……ん、待ってくれ。……やっぱりわかんない。君が魔法を使えない様にメアリーも月を奪うなんてできやしない。」
ややこしい話に付いていくのが精一杯だから、疑問があればすぐに聞く。これぞ社会に出てからも使える長期戦を見据えた戦法なのだ。と、引きこもりが申す。
僕がそう聞くとリアリーはまた面倒そうに言う。
「それができる、私とメアリーは双子だからだ」
「なるほど双子だからね~……んん?ん?双子だから? 」
でた。現代でいう「~だからしょうがない」的な何でも許されちゃう風潮言い方。
ふざけるな。
なら「僕の祖父は政治家だから法律変えました」や「僕の先祖は処刑人だったから人ぶっ殺しちゃいました、てへっ」でも通用すると言うのか。
「双子だから月奪っちゃいました。てへ」の流れじゃないかこの状況は。
「……おい、リアリー。話をこれ以上ややこしくしないでくれ……」
「……お主な……バギャの極みだな。呆れるは。」
「いや……その双子だから何でも許されるとかじゃなくて……」
「バギャが。双子だからというのが何よりの答えではないか。つまりだな~『メアリーには魔法が使える』ということだ。」
そもそもここは僕の知る世界じゃなかった。
魔法が非現実的だとか、どこか固定概念として持っていた、というか勝手に決めつけていたのは僕だった。
リアリーがあんなにスラっと言えたのも、もともと魔法がこの世界に存在するから。
双子だからというのも確かにこれ以上ない答えだった。
「ふんっ、青ざめた顔をしているな。ようやくわかったのかバギャめ」
「ああ。俺はバギャだ。それも大バギャ者だった……」
「まあ、うつむくな……黒の世界でメアリーが魔法使いだと知る者は少ない。白の国民にとっては常識ではあるが、逆に白の国民は私を魔法使いだと思っている。しかたないことだ」
僕の世界が、僕の世界で培ったモノが通用しない世界だという事をずっと忘れていた。
初めに見た白と黒の境界線を見たはずなのに。
空想上の世界が現実であることの衝撃と、どこかでワクワクしているようなこの高揚感。
「言う必要もないが、メアリーが全ての元凶、私は濡れ衣を着せられている。」
メアリーはリアリーに魔法が使えない事を知っている。
方法はわからないけれど、月を消したのはメアリーで間違いなく、それを自国の人に「黒がやった」と言いふらしているんだ。
自分同様、国民はリアリーにも魔法が使えると思い込んでいるのを利用して……。
「……もっと……この世界を知りたいよ……リアリー。」
こんなにも『世界』を面白いと思えたのはいつ以来だろう。
引きこもりの退屈な世界を『この世で一番楽しい世界』だって無理やり思わせてきた僕には……。
「この世界が一番、あってる。」
「……気持ち悪い。」
「っな! なんでだよ! 」
「なんで私の顔見ながらニヤニヤするのだ……わ、私は誇り高き黒のパステル! リアリー・パステルなのだ!! こんな変態などには屈しない! 」
「何もしないよぉ!!! 」
(……月が消えた理由はわかったけれど……メアリーは何で太陽まで消したんだ……?)
ようやく太陽と月事件を理解した時、馬車はようやく目的地に着いた。
小さな疑問が残ったが、それを気にしなくなる程に、リアリーが住む城の構内は美しい物だった。