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短編小説集

空の色ワンピース

作者: 大西洋子


 これを初めて見たとき、シンプルなワンピースだと私も思ったわ。だって黒に近い灰色でリボンもレースの飾りものない、何時もなら着そうにもないワンピースだったから。


 でも、全身ずぶ濡れになって、代わりにどうぞ。と渡されたのがそれだったから、何も着ないよりかはましだと袖を通したの。


「着替えられた?」「はぁい、先生」「濡れた服はこのビニール袋に入れて。ココア飲んで身体が暖まったら、ピアノのレッスンを始めましょうね」


 ええ、これを初めて来た時、私はまだ小学生でピアノのお稽古に通っていたのよ。以外だって? ふふ、そうかもね。


 話を戻すわね。


 ピアノのレッスンが終わっても、雨が降り続いていて、窓から見える空は借りたワンピースと同じような色をした雲が空いっぱい。……あれ? ちょっとだけ雲が切れて青空がのぞいていて、まるで雨曇を切り取ったみたいだと思ったの。


「先生、お迎えに来ました」お母さんが迎えに来て、私は教室を出ようとして、その途中にあった大きな鏡を見て、思わず立ち止まってしまったの。


 だって、だって、写し出された鏡の中の私のワンピースの胸の所に、青空の柄があるのだから。


 私は思わずその大きな鏡をのぞきこもうとしたけれど、お母さんに急かされ、その場を後にするほかなかったわ。


 結局、あの後、鏡に写った自分の姿を確かめることが出来ず、借りたワンピースを脱いだときには、黒に近い灰色一色のワンピースに戻っていたの。洗って乾かして、畳んだ後も黒に近い灰色一色のワンピースだったわ。


 あれは見間違えたのかなぁ。借りたワンピースを先生に返した後のお稽古は、作曲している訳じゃないでしょうと、先生に何度も注意され、散々なものになってしまったの。


 だから、お稽古が終わるなり、私は思いきって先生にたずねたることにしたの。


「先生、お借りしたワンピース、借りたときは黒に近い灰色一色のワンピースだったのに、ここを出る直前に胸の部分に青空の柄が現れたの。あれは、幻だったのかなぁ……」

 すると先生は、とうとうこの日が来たのね。と呟き、借りたワンピースを服の上から着るように促し、大きな鏡の前に立たされたの。


 鏡に写るのは、服の上から、黒に近い灰色一色のワンピースをまとった私。


「じゃあ、空を見て」先生に言われるがまま、私は窓の外に広がる空を見上げたわ。その日の空は薄曇りで、雲間から太陽の光が降り注ぐ様が、まるで雲にかかるレースのようだわと、思ったの。


「そろそろいいわね。今度は鏡の中のワンピースを見て」

「あっ!」だって、黒に近い灰色一色のワンピースが、縦に淡い黄色のレースが現れたものだから、驚くよね。


「このワンピースはね、空の色ワンピースって言ってね、これを着ている人が、綺麗だとか、素敵だと思った空が、ワンピースの色や柄や飾りとして現れるのよ」そう話す先生の眼は、どこか遠くの方を見るような感じがした。


「このワンピース、あなたにあげるわ」

「えっ?」

「だけど誰にも話さないでね。自分からこのワンピースの柄が変わることを。その事を話すと、そのワンピースは、空へと消えてしまうそうなの。そして、いつの日にか、このワンピースの柄が空の色に変わることに気づいた子どもにあげてね。先生との約束」


 こうして空の色ワンピースは、私のワンピースになって、今、このワンピースの秘密に気づいたあなたに秘密を語ったの。


 ……ねぇ、空の色ワンピース、受け取ってもらえるかしら? 

 

 


 

 


 

 


 

 


 

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