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厨二病はいつか治りますか?



「………」



「…………」



「……………」



俺たち3人の周りだけ時間が止まったようだった。

いや、本当に止まっていたのかもしれない。

そのくらい、なんというか……うん、そういう空気だった。


誰一人として口を開かない。

そして自転車1台通らない、どういうことだ、住宅地のはずなのに。




俺らの前に立ちふさがる電波ちゃんは固まって、ややあってぷるぷる震えだしたかと思うと、それからくるりと回れ右をしてダッシュした。


ダブダブのパーカー(多分俺の)が、その勢いで風におよぐ。

フードがパサりと外れてぶわっと真っ赤な髪が広がった。


まさしく、脱兎のごとくダッシュした彼女は一切の躊躇いなく多分俺ん家に飛び込んだ。





「ねえ、静ん家入っていかなかった?」



「………」



「ねえ、静、今……」



「あああ! 俺そういえば宿題やんなきゃ! 」



「小学生か。そんなん出てないよね」



「てなわけで草平! また明日! 」


「いや、明日学校休みね、てなわけで明日遊びに行くから」


「召されろ! 」


背後であの空気を読めない男がぼそぼそなにか言っていた気がした。

気がしたけどそんなことに構っている暇はないのだ。

こちとら、家族が犯罪者になるか、ゴリラが犯罪者になるかという危機である。

陸上選手もびっくりの速度でたかが知れてる短い距離を走りゼェゼェいいながら玄関を開けた。

体力がなさすぎる自分にうっかり絶望しかけた。

悲しい……筋トレしよう。明日から。


もたもたする後ろ手でどうにかこうにか鍵を閉める。

あのアホは空気を読まずに侵入してくる可能性が大いにあるからだ。




「ひっ!」


「まあ、シズ、おかえりなさーーい」



視線をあげた途端に思わず悲鳴が上がった。

我ながら情けないが、許して欲しい。



何故なら、引きこもりのゴリ……お姉が仁王立ちで満面の笑みを浮かべつつ俺を見下していた上に電波ちゃんがお姉の背中に張り付いて俺を物凄い形相で睨みつけていたからである。


引きこもりのくせに、いつもはほとんどご飯の時しかやってこないくせに。

いつもと違う事が起こると人間不安になるものだ。少なくとも俺は。


お願いだから引きこもりらしく篭っていてくれ、俺の心の平穏のために!



この恐怖をわかりやすく例えるなら………そう、裸で風呂の扉を開けたら見たことないサイズの、蜘蛛さんがいらっしゃった時みたいな……

とにかく、俺は嫌な汗をドバっとかいた。



なんだこれ、なんかわからないけど、俺、殺られるの?なんで?何もしてないのに?

やめろ、お姉、舌なめずりするな、筆舌に耐え難い気持ち悪さだ、世紀末か。



実の姉だとは思いたくない、恐らくアニメで可愛いビッチの巨乳ちゃんがやれば素敵だろうポーズを披露したお姉に俺は割と本気で引いた。



「なに、シズ、殴るわよ」



「何も言っておりませんが」



「顔がムカついたわ」



それは、是非とも我が父と我が母にお話いただきたい。

心の中でそう叫ぶと、ガルルルルとでも言いそうな電波ちゃんに1層睨まれた気がする。なんでだ。



電波ちゃんは、電波ちゃんではなくて、もしかしたらテレパシーちゃんなのかな?






「悠、わらわの言葉はこれに通じなかった。

間違えたか?」



「いいえ、間違っていないわ。このサルの頭が悪いだけよ」



電波ちゃんはお姉の服の裾をくいくいと誠に可愛らしい動作で引っ張ると誠に可愛いらしい表情でお姉を見上げた。

効果音を付けるとするのならばきゅるるんである。

先程までの、まるで腹ペコの般若のような表情はどこへやら。


俺は呆気に取られた。

目のひとつやふたつ飛び出していたかもしれない。


だって、さっきまであんなに……。

いや、待て待て。たしかに造形はとても素晴らしい。

発色の良すぎるカラコンもそのウィッグも似合っている。

恐らくそんなものが似合う日本人はほぼほぼ存在しない。

そして、この表情である。

まさに美少女ロリ。


もしかしたらこの子は本当に善良なただ棺にまちがえて入り込んでしまっただけの、ただのかわいい幼女なのかもしれない。もしかしたら、本当に。


………いや、やっぱり棺はない。


そんなことを考えているのがバレたのかそうでないのかはわからないけど、気が付くと電波ちゃんはまた壮絶な睨みを聞かせてこちらを見ていた。

………やっぱり無いな。うん、かわいくもない、こわいこわい。


「おまえ、やはりわらわを無視したな」


「えっ」


ちょっと待って、これなんていう妖怪?

妖怪幼女わらわちゃん?

………あ、ちょっと、なんか面白そうかも。




「人間の分際で……わらわの糧となるが良い」



妖怪幼女わらわちゃん……もとい電波ちゃんは片手を突き出して顎をあげた。

赤の目玉が下へとさがり、瞳孔がぐわりと開く。

大きな瞳の上部分から僅かに白目が覗いた。


何が何だかよくわからないが激昂しているらしい赤の瞳がめらめらと燃えたぎっているようだ。



「ひいいいい!」



発言が厨二病すぎて俺は悲鳴をあげた。

その俺の見下し方も、形相もそりゃ、恐ろしいけどそれよりもなによりも、痛い。


まあ……かわいいよ。コスった幼女がそう言うのは可愛いと思うよ。

でもそれは、二次元での話だ。

リアルでよく知らない人にされたところで鳥肌モノである。

彼女が将来大人になった時のことを考えると可哀想すぎて恐ろしい。

羞恥でいつか悶絶する日が来るのだろう。



うん、だってね、経験があるから……。







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