棺と会話は成立しますか?
「とにかく、今は無理なんだよ。謎の幼女がいるから」
「嘘つけ、なんのエロゲだよそれ。」
「本当なんだってば、まじで怖いんだって」
「そんなん言われたら余計行きたくなるよ。悠さんにも久しぶりに会いたいしさ」
「いや、いや、いや、勝手なことしたら、頭かち割られるよ?いいの?俺が」
この角を曲がったら家だ。
最悪だ、ここまで草平の侵入を許してしまったなんて。
外はもうやんわりと薄暗い。
もう帰った方がいいって夜道は危ないぞ! と言ってやったのにやつはあろう事かじゃあ泊まるとか言い出した。
ふざけるな、ゴリラにすり潰されるじゃないか俺が。
車通りの少ない住宅地の狭い路地で必死の攻防を繰り広げる。
草平のほうがはるかに頭はいい。
しかし俊敏性なら負けないのだ。
なぜならゴリラと過ごしてきたから。逃げ足、防御力、俊敏性はガン上げである。
「ちょっ、静、必死すぎじゃない?そんなやばいわけ」
「そんなやばいんだよ。言ってるだろ! 明日の夕方のニュースで拉致監禁とかでゴリラが出るかもしれないくらいやばいんだよ」
「………………」
「……おい、草平?」
草平を羽交い締めしている所で唐突に奴は口を噤んだ。
抵抗も心做しか落ち着いた。
俺より背の高い草平を拘束しているせいで俺の視界はゼロである。
ご近所さんが騒ぎを聞きつけてやってきたのかもしれない。
やばい、なんてことだ。これでも俺は黒江さんちのいい子の静くんで通っているというのに、これでは宜しくない噂が立ってしまう。
背中に伝う汗を無視して咄嗟に草平を離すとその勢いでなぜか俺がぐらついた。なんでだ。
草平はやたらと押し黙って、何かと対峙している。
それは人の形で、やけに見覚えがあるようなないようなもので。
俺は目を見開いた。
「………っひ」
「静、この子どこの子?凄い……カラコンだね」
真っ赤な宝石のような大きな瞳が下から草平と俺を睨みつけるようにしてそこにあった。
草平と並ぶと彼女の小ささがやけに際立つ。
華奢で小さい体躯は一週間前とは違いだぶだぶのパーカーに隠されていた。
ちょっとまて、そのパーカーすごい見覚えがあるんだけど。
俺のに見えるんだけど。
フードをすっぽりと被り翳る瞳で睨まれると少女といえど割りと迫力がある。
なにより、あの赤い目である。
おしりまでを優に隠す黒のパーカーの肩あたりからこれまた赤い長い髪が伸びている。
ウィッグにしてはあのバサバサ感がない。
染めているのだろうか?それにしては発色がいい。
そしてパーカーの裾から伸びる細い2本の足はタイツ?レギンス?よく分からないけど、黒に覆われていて肌が見えない。
そして、靴を履いていない……。
「おい、静」
「………」
「………」
「…………いま、静のこと呼ばなかった?」
「呼んでない、しずかにしてくれますかー?って言ったんだろ」
なぜ、電波ちゃんが俺の名を…!
話しかけられたのは初めてだ。というか、まともに顔を合わせたのはあの日以来だ。
会いたくなかったけどね。
「もしかして、この子が例の……?」
「………」
「めっちゃ美少女じゃん、これ何のコスなの? 」
小声で草平が俺に耳打ちしてくる。
うるさい黙っとけ、とはいいたかったけど言えなかった。
だってこの子、めちゃくちゃ俺を睨んでいるんだもの。
まるで、親の敵かのように睨んでいるんだもの。
最初は草平かな?とかもそりゃ思ったけど、こりゃあ間違いなく俺ですわ……。
俺なんかした?
無視してただけだろ! それもほとんど会ってないし!
なんだろ、この子なんかおかしいし、刺されたりしちゃうのかな、マジでこええ、なんか言えよ。
無言で俺を睨み続ける赤い瞳は一切の瞬きをしない。
ドライアイになっちゃうよ。大丈夫?なんて言えるわけもないし、怖くて目も離せないし俺もそれをただただ見つめ返した。
「おい、静」
「やっぱ、呼ばれてんじゃん」
なんか言えよとは言ったけど俺の名を呼ぶんじゃない。
そして草平なんでお前はそんなに普通なんだ。
………いや、そりゃそうだよな、お前はこの子が出てきた経緯を知らないからな。
「わらわを無視するとは、何様のつもりだ」
ふんっと鼻を鳴らした電波ちゃんは顎をあげて俺をどうにか見下そうとした。
ねぇねぇ、何のコス〜とか言って普通に話しかけている草平に殺意が湧きつつ、俺は呆然とした。
どこか得意げな顔をする電波ちゃんが心底訳分からん。
……え、え?ごめん、訳が分からないんだけど、ちょっと、ごめん、何言ってるの?どうしたの?
いつの間にそんなに日本語がうまくなったの?
というか、え、そんなキャラだったの?