棺と友達は知り合えますか?
黒江家に電波ちゃんが居候してから1週間あまりがたった。
俺はそのあいだ、露骨に電波ちゃんを避けていた。
だって、どう考えても怖いじゃないか。
何度も、何度も言うけどあれ、棺から出てきたんだからね?
当たり前だけど俺は高校に毎日通う。
部活はしていないけどできるだけ外で暇を潰した。
なぜなら電波ちゃんが家にいるのが居心地悪いからだ。
電波ちゃんは電波ちゃんでお姉の部屋からほとんど出てこなかった。
もともと、引きこもり小説家のお姉が本当に部屋から出てこなくなったものだから黒江家は静かだけど俺は落ち着かない。
隣の部屋だし、なんか話してる声聞こえるし、
最初の日なんか
「やっぱりわらわが可愛いと思うの、自分のことはわらわっていうのよ。言ってみて」とかいうお姉の訳分からない声が聞こえてきたし、マジで怖い。
お姉は一体何をしようとしてるんだ。
「はぁ、」
「またため息ついてるじゃん。なに、また悠さんのこと?」
学校の帰り道、最近暇つぶしをする理由が消えつつある。
友達の家で遊ぶのも限界があるし、俺の財布の中身も限界があるし、なんとか付き合ってくれている親友(多分)の草平はお姉のことなんか誤解してるし、美人だとか、優しいだとか、ゴリラなのに。
「うん、あのゴリラが最近訳分からなすぎて泣ける。なんか変な幼女連れ込んでなんかしてる、怖い」
「え? 待って、めっちゃ犯罪臭がするんだけど、それ俺聞いて大丈夫なやつなの?」
「知らない、俺が聞きたい……」
はぁと再度ため息をついたところで草平は、だいぶ来てるじゃん、と言って苦笑いを浮かべた。
そりゃ、だいぶもくるよ。
謎の電波型コスプレイヤーか、マカイという国の旅行者だか違法入国者だかは知らないけど、とにかく得体の知れない他人がいることだけは確かなんだから。
俺は元からそんなに他人とすぐに打ち解けられる質ではないんだ。
勘弁してくれ、本当に。
「……草平、マカイって国知ってる?」
「魔界?何のアニメ? ゲーム? ラノベ? 」
「違う違う、その魔界じゃないって」
「意味がわからん」
デスよね〜。
そうじゃなくて、カタカナで(いや、それもどうか知らないけど)マカイって国、ある?って聞いたら、マカオなら知ってると答えた。
それは、さすがに俺でも知ってるわ。
「でその、マカイがどうしたの」
「………いや、しらん、俺もよくわかってないんだ…」
「どういうこと? とりあえず今日静んちいっていい?」
「無理」
「なんでだよ、ていうかもう着くけど」
「いや、草平、まじで、今は無理。
あと5年後くらいなら……」
「そこまでいったらもう別にいかんでいいわ」
俺よりも背の高い草平が肩をすくめると外国映画のように割とさまになる。
俺がやったらギャグだけど。
顔立ちも日本人にしてはほりが深くて目と眉が近い。
羨ましくなんかないけど、せめてニキビだらけにでもなれば、もっと親近感も湧くのになとは思う。