棺は居候になりえますか?
「ちょっと、おね……お姉さま? なんであの、俺の部屋の……」
「で、あなた行くとこあるの? 」
ちょっと、おねえさま?!
お姉はあっさり俺を無視した。
あっさりしっかり、がっつり、俺を無視して電波ちゃんに微笑んだ。
あ、よそ行き用の営業スマイルだ。
これのおかげで俺は友達にこう言われている。
お前の姉ちゃんって美人だよなぁ!羨ましいわ、まじで、しかも優しいし、あんな人と一緒の家とか、どうにかなりそう!
と実に興奮気味に。
美人……というか、人の皮をかぶったゴリラで確かにすぐ殴ってくるからどうにかはなるけど。
そして、近所の青木さんはこうだ。
悠ちゃんみたいな気立ての良い優しい子がお姉さんでいいわね。
わたしもあんな娘が欲しかったわぁ。 で、どうなの?お付き合いしている方はいらっしゃるのかしら?もしいないなら、うちの息子なんてどう? ね、ちょっと聞いてきてくれない?静くん
お付き合いしている人がいるのかいないのかは定かではないが、青木さんちの息子さんが人造人間とか、ドラゴンとか、若しくはゴリラである場合は上手くいくと思う。
でも、青木さんは普通のおばちゃんだから、その可能性は低そうだ。残念だけど。
まあ、実際はそんなこと言わないけどね、あははーありがとうございますぅーといってへらへら笑うのみである。
どうして、こうもみんな騙されるのだろうか。
やはり、お姉が母に似て整った顔立ちをしているからだろうか(認めたくない)
なんで俺は父に似たんだ……。くそう、あの幸薄そうな顔に似てしまったばかりに俺の人生は……まあ別にとくに損もしていないな。良く考えたら。
化粧したら映えそうとかいわれるし、いいかな、別に。することはないと思うけど。
話を戻そう。
かくいう電波ちゃんも警戒心ゼロの様子でお姉を見つめていた。
気をつけてね、その筋肉はいきなり殴ってきたりジャーマンエクスプレスをかけてきたりするからね。
「??」
電波ちゃんは顔を僅かに傾けて眉根を寄せた。
どうやら言葉がわかっていない様子である。
コスプレイヤーさんだとしたら大した演技だし、外国の方だとしたら早く帰った方がいいと思う。
もうちょっと語学を学んだ方が良かったんじゃないかな。
「おうちは?」
姉さんはゆっくりとそう言って目線を電波ちゃんに合わせる。
電波ちゃんの身長は俺の肩にも届かなそうだ。
小さな身体に雑にまとわりつく浴衣のようなそれからなんとなく、目をそらした。
別に、何も無いぞ、いやらしいことなんか、考えてないんだからね!
ただ、なんとなく、なんとなくなんだからな、や、やめろそんな目で見るなゴリラ。
電波ちゃんはしばらくしてゆるゆると頭を振った。
「ない」
赤い赤い髪がふわふわとあたりに浮かぶ。
シャンプーの匂いとかしてもよさそうなものだが、残念ながら酒臭い。
しかし、なんで酒臭いんだこの子。
見た目は中学生くらいに見えるのに、なぜだ。
日本人は若く見えるって言うけど、さらに若く見える国がおありですか?そうですか、知らなかったです。
「そう、じゃあ家にいるといい」
「おい、お姉何言ってんだ」
なんですと?
俺は大急ぎで口を開いた。
お姉がなぜか、なぜだかとんでもないことを口走った気がする。
ちょっと待ってくれ、この国籍不明の見るからにやばい電波ちゃんステイ?
いや、無しだろ!
だってこの子棺から出てきたんだよ?
お姉もしかしてもう忘れちゃったの?
幸い電波ちゃんはまだ理解に及んでいないらしく眉根を寄せていた。
なんだ君は俺のことが嫌いなのか?さっきから。
嫌いなのかな?いいよ、別に。嫌いでいいからさっさと帰ろう?ね?
「こんな可愛い子外に放り出す気?言葉もいまいちよく分かっていないみたいなのに、シズ、あなた鬼畜ね」
「だれが鬼畜だ。俺は普通オブ普通。むしろ、俺が普通ね。
だって、ね?お姉普通に考えて、こんな得体の知れない棺から出てきた得体の知れない幼女を家に置かないだろ!」
「ばかね、だからネタになるんでしょうが」
「お姉、馬鹿なの!? 下手したら犯罪とかに巻き込まれっぶへぉっ」
「誰が馬鹿なの?誰が。見てみなさいシズが変な事言うから怯えちゃってるじゃない」
いやいや、お姉、多分その子に言葉伝わってないから、どう考えてもお姉の暴力にびびってるだけだから。
かくして、我が黒江家に居候が誕生した。
黒江家ではほぼほぼ、お姉が権力を牛耳っているのだ。
あ、間違えたゴリラが腕力で発言権をもぎ取っているのだから。