俺の護衛の少女が赤面でヤバイ
元気よく走って来た少女は、元勇者としばらく話すとこちらに歩いて来た。
15歳位のツンデレ系がツインテールの女の子が来るかと期待していたが、10歳位のボーイッシュなガールだった。
身長は俺の腰くらいの高さで、黒髪のショートカット。
もしもスカートを履いていなかったら、男の子と間違えてしまう可能性すらある。
顔だけ見ればかなりの美少女だ。
彼女は特に防具などは付けておらず、腰には短剣をぶら下げていた。
《はじめまして。父から話を聞きました。私はミーサです。丁度兎狩りに行く時間だったのでよかったです。一緒に森まで行きましょう。》
「娘のミーサです〜森までいこ〜だって〜」
アップゥがすかさず通訳する。
ふむ。なかなか仕事が出来る様になってきたな。
ところで通訳の内容が短い気がするんだが、もしかして略してないか?
この元勇者の娘ミーサだが、やけに軽装なのが気になる。
忘れているんじゃないだろうな。この平原には魔王がまたいるかもしれないんだぞ。
「はじめましてミーサちゃん。俺はヤマト。この平原はとても危険だ。いままで存在していなかった凶悪な魔物が産まれてしまったのかもしれない。ちょっとした防具は着た方がいいかもしれないぞ」
そう言った俺だが、実は武器すら持っていない。武器屋位にはよるべきだったか。
街に入る前に元勇者が魔王を倒したばかりだったから、勝手に平気だと勘違いしてしまった。
あれだけ凶悪な魔物がいたのに冒険者ギルドには人が少なかった。
つまり、俺が平原に足を踏み入れる直前に何者かが魔物を強化した。……あるいは召喚した?
そう考えるしかない。
軽微な装備で魔界に足を踏み入れようとする少女を、心の底から心配する俺を笑いながらアップゥが通訳する。
《そんな装備で大丈夫か?だって〜》
《大丈夫ですよ。兎はお昼寝の時間だから寝てると思います。寝てる兎にサクッとするだけのお仕事ですから。私は5歳の頃からやってるんでウサギだけでレベルが15になっちゃいましたよ》
「大丈夫だ。問題ない。お昼寝の時間なんだって〜」
短いよなぁ・・・絶対短い。
今ミーサはかなり長く話していた気がするぞ。
怪しい。早くこちらの世界の言葉を覚えないと危険な香りがする。
だが、話の途中でミーサは胸を拳で叩いて任せて下さいとジェスチャーをしていた。
元勇者の娘だから何か秘策があるんだろう。
ミーサのお昼寝の時間に申し訳ないが、ここはひとつ護衛をお願いするとしよう。
「眠いのにすまないな。森まで頼む」
俺はお辞儀して森の方を指差す。
ミーサは理解したのか、コクリと頷くとゆっくりと森の方へ歩きだした。
しばらく歩くとミーサが急にしゃがんだ。
指を口に当ててシッーのポーズ。
この先になにかいるらしい。
何の気配も感じないところをみると雑魚に違いない。
ミーサはスーッと近くの草むらに入り、仕留めた兎をぶら下げて帰って来た。
やはりただの雑魚兎か。俺の感に間違いは無かった。
その後もミーサは手際良く兎を仕留めていく。
ミーサがあまりにも簡単に狩って来るので、コツを教えて貰う事にした。
「どうやって兎を仕留めてるのか教えて欲しい」
《どうやって兎を倒してるの〜?》
《寝てる兎の後ろからスキルの不意打ちを入れてます。必ずクリティカルになるんで私みたいな子供でも倒せるんですよ》
「スキルの不意打ちで倒してるんだって」
スキル?さすが元勇者の娘だ。幼い頃から英才教育を受けて育っている。
スキルとかいうのは俺でも使える様になるのだろうか?
「スキルは俺でも使えるのか?」
《ヤマトもスキルしたいんだって〜》
《えっとJOBによって使えるスキルが違うんですけど、あ、ヤマトさんメニューを開いた事はありますか?メニューって言うと頭の中に文字が表示されます。慣れてくれば口に出さなくても使える様になるらしいです。私はまだダメですけどね》
「メニューって口に出して言うと頭の中に文字が出るんだって〜それを先にやって見て〜」
アップゥの通訳にミーサがピクッとした気がする。
ん?まぁいいか。
なるほど。よくRPGのゲームで見る奴だ。
あまりゲームをやった事がない俺だが、一応有名どころは抑えてある。
メニューの中にスキルを覚える項目があるって事だろうな。
まったくもって異世界とは、どういう仕組みか全くわからないが、まずは試してみるしかないな。
俺は何となく深呼吸してから言ってみる。
「メニュー」
俺がメニューと言った瞬間ミーサはビクッとして俺を見つめた。メニューが頭の中に出てこない。
発音が悪いのか?今度は語尾を上げてみる。
「メニュー↑」
ミーサが顔は真っ赤にして、スッと後ろを向いてしまった。背中がプルプルしている。
どうしたのだろうか。うまくメニューを出せない俺を見て、もしかして笑いを堪えているのだろうか。
その後も色々言い方を変えて試してみたが駄目だった。
ミーサは耳を抑えてしゃがんでいた。
大きな声で叫んでみる。
「メニューーーーーー!!」
《へ、変態!》
耳まで真っ赤にしたミーサは、俺の股間に肘打ちすると全速力で逃げだした。
股間を抑えて倒れた俺にアップゥが耳打ちする。
「あのねヤマト。日本語のメニューはヴァチ国語の男性器だよ。いくらヤマトでも女の子にあんな事言ったらいけないと思うんだよ」
いつもと違うアップゥの真剣な言葉に顔が青ざめる。
元勇者の娘に悪い事をしてしまった。
「で、ヴァチ国語でメニューは日本語でなんだ?」
俺は少し怒りながらアップゥに聞いた。
考えて見れば日本語でメニューと言っても駄目に決まっている。
だが、アップゥよ。少しは教えてくれても良かったんじゃないか?
まったくお前はダメ猫スマホ妖精だぜ。
「アオノリだよ〜」
青のりか。言語の違いって難しいんだな。
こっちの世界の住民はそこらじゅうでアオノリ!アオノリ!と言ってるのか。
最早アオノリ人だな。
そういえば今日のお昼の定食屋で、ジェスチャーしながらメニューメニューと何度も言ってしまった。
あの店にはもう行けない。せっかくお気に入りの店を見つけたのに。
とりあえずアオノリしてみるか。
ヤケになって大声で叫ぶ。
「アオノリ!」