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俺まで岩の上に立ってヤバイ

 ナビ水晶を操作し、ポポルの現在地を確認する。一直線にギバライ国へ向かっているようだ。このままの速度で行けば約1日でギバライに着くだろう。戻って来るとしたら明後日かそれ以降だな。こちらの聖獣機に対策を立ててから来るはずだ。

 聖竜を封印し、魔王になるには何かしらの準備がいるのだろうか? そもそも魔王になるって一体なんだ?

 その辺の事を後で聖竜(本物)に確認しよう。

 とりあえずポポルがこちらに近づいてきたらナビがアナウンスするように設定して温泉に向かう。


 男湯にはすでにエイジとマモルが入っていた。ここ何日かでエイジはレオヴァイザーにすっかり慣れ、自分の家のようにくつろいでいる。

 マモルは何を見ても落ち着いている。肝が据わっているというか、異世界だからこういう事もあるのだろうといった感じだ。そんなマモルもノリコの事となると落ち着きがなくなる。まるで二重人格だ。


 三人で温泉につかる。

 外は雪が降り続けていた。

 不思議だ。レオヴァイザーには見えない壁が存在していて、露天風呂だが雪は入ってこないはずだ。だが温泉の周りには雪が積もっていた。もしかして外の景色に合わせて露天風呂の内装も変えてくれているのか?

 だとしたらレオヴァイザー優秀すぎる。

 南の島に行ったらヤシやシダが生えてきそうだ。


「エイジ、レンヤを知っているか?」

「ああ、ギバライで見た。確か聖錬金術士(ホーリーアルケミスト)だったかな。ギバライ国王の側近になったはずだ」

聖錬金術士(ホーリーアルケミスト)か」

「獣機工場もあいつが作ったはずだ。獣機を量産して世界征服するって国王と騒いでいたな」

「世界征服。なんとも幼稚な響きだ」

「ハハハハ。ちげぇねぇ」


 考えの幼さに笑い出す俺とエイジ。マモルは目を瞑って話を聞いていた。


「ノリコはマモルのコレか?」


 エイジがいやらしく小指を立ててマモルに聞いた。遠慮なく聞くんだな。


「ちちちちち、違う」


 マモルは物凄く恥ずかしがって否定した。いままでに落ち着きようは何だったの? ってくらい動いたので温泉のお湯があふれた。


「なんだ、てっきりそういう関係かとおもったぜ」

「うむ。そういう関係ではない」

「でも好きなんだろう?」

「ブフッ」


 エイジの容赦ない聞き込みに、噴き出しながら赤面するマモル。返事は聞かなくてもわかる。


「飲むか?」


 俺はおちょこを二人に渡し、温泉で温めた熱燗をついだ。


「レオヴァイザーには何でもあるんだな」

「これは井本さんの日本酒特選ギフトだ。本来は木島さんのお宅に届くはずだった酒だ。お二人に感謝しながら飲むように」

「うへっ。人のかよ。井本さん木島さんチーッス」

「井本さん木島さんすまない」


 温泉につかりながらの雪見酒。最高だ。

 何度も言うが一緒に飲んでいるのが男じゃなきゃもっと最高だ。

 ポポルがさらわれているのに何を呑気な、と思うが空を飛べないんだからしょうがない。


 あー羽のはえた獣機死なないかなー。


 いい感じに酒が回り、気持ちよくなって来た頃に女風呂から声が聞こえ始める。


「マジウケる!ホントに尻尾おしりから生えてるじゃん」

「そうにゃ。ちゃんと動くにゃほれほれー」

「おー! お姉様すごいですね」

「これが温泉であるか!」

「聖竜様! 邪竜様! 滑るから走らないで下さい!」


 耳を澄まし無言になる3人。エイジは俺とマモルを見てゆっくり頷いた。

 エイジよ。また死地へ赴くというのか。勇者だ。邪竜を封印しなくても、ここに勇者は存在したのだ。

 エイジは男湯と女湯の壁の覗ける穴を探す。もちろんそんなものはない。

 前にこっそり穴をあけたが自動回復で治ってしまうのだ。

 だが、そんな事で諦めるのは男ではない。ましてエイジは勇者なのだ。


「ノリコッち肌キレー! 尻尾にだけ毛が生えてるんだね」

「うにゃ! 尻尾はさわるにゃ! あ、あんっ」


「なんだと・・・」


 無言で酒を飲んでいたマモルがガタッと立ち上がり、エイジと一緒に覗き穴を探し出す。

 デカい体からぶら下がる物がブラブラと目に入り、思わずオエっとなる。

 壁に手をついた男二人の尻振りダンスを、強制的に見せられるのは嫌だったので外の雪景色を見る。


「こらっ、聖竜様! ちゃんと髪の毛洗ってないでしょ! 邪竜様を見習いなさい!」

「そーですよお姉様! ずーーっと寝ていたんだから洗わないと!」

「貴様はーーーーーいつもいい子ぶりよってーーーーーこのーーーー」

「キャハハハハハハ。やめて! お姉様! んっあ。あっあっあん」

「誰が辞めるかーーーー」

「お二人とも静かに!」

「ええい! セリスも罰を受けるがいい」

「ちょっ聖竜様! そこはっ・・・あっ」


「なんだと・・・」


 毎度の事ながら結局こうなるのだな。人生とはそういうもの。

 温泉・・・それは宇宙。温泉・・・それは命。温泉・・・それは夢。


 壁の向こうでいとも容易(たやす)く行われるエゲツナイ行為。

 どんな天国が待っているのだろうか。一緒に行こうエイジ、マモル。ここが人生のユートピアだ。


 俺達3人の意思はまとまった。壁の向こうの天国を覗く。たとえその先に地獄が待っていても。


 マモルが温泉に使われている岩を外し、壁の方まで持って行った。やるじゃないか。

 マジメそうに見えて案外むっつりなんだな。


 三人で岩に上り、壁の上から覗こうと試みる。くそっ・・・ギリギリ高さが足りない。

 マモルは・・・くっそ! 見えてやがる! 裏切者め!

 エイジは俺より身長が低いから高さが全然足りていない。ピョンピョン飛び跳ねている。

 この壁がなければ天国が見えるのに! 壁無くなれ!!

 俺が壁に手を付いてそう考えた時である。


 壁が消えた。


 男湯と女湯の間の壁は突然消え、混浴になった。

 壁に寄りかかっていた俺達は女湯側に転げ落ちた。


「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ」


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 考えて見たら俺がレオヴァイザーの持ち主なんだから、レイアウト変更くらい出来るよな。

 うんうん。

 三人そろって正座させられる俺達。当然、投げられた桶やら温泉の岩やらが顔面に当たって血だらけである。


「真面目なマモルまで巻き込んでお前らひどいにゃ!」


 あ、結構マモルもノリノリでしたよ? 岩とか運んでましたよ。


 俺達3人は顔を見合わせる。悔いはない。確かに現状は地獄だが天国を見た。

 セリスの美しい体も、マイのいやらしい体も、ノリコの猫獣人の体も、聖竜邪竜の成長過程の体も。

 脳裏に焼き付けた!! これは敗北ではない。勝利である。


 さて、困った事が起きた。と言ってもいつもの寝る部屋問題だが。

 4部屋しかないレオヴァイザーに8人。俺の部屋はダブルベッド。他はシングルベット二つだ。

 いつもなら俺とセリスとポポルで寝ているが、今日はポポルがいない。

 つまりダブルベッドにセリスと一緒に寝なくてはならないのだ。


 それとなくセリスの顔を見る。セリスも気づいているのか、うつむきながら赤面してもじもじしている。

 そのもじもじが果てしなく可愛い。理性を保つ必要があるのか? 俺は十分我慢したし、もういいんじゃないかな?

 エイジとマイはそそくさと部屋に入って行った。

 聖竜と邪竜も昼間目を付けていた部屋に入って行った。

 残ったのは俺とセリスとノリコとマモルだ。


「えっと、じゃあお休み」

「待つにゃ」


 すすっと自分の部屋にセリスを連れて行こうとしたら、物凄い速さでノリコに止められた。


「私とセリスが同じ部屋で寝るにゃ。マモルとヤマトが一緒に寝るにゃ」


 ノリコはセリスの手を引っ張って、俺のダブルベッド部屋に無理やり入って行った。


 ポツンと残された俺とマモル。吹いてもいない隙間風をなぜか感じた。


「じゃ。寝るか」

「おう」


 残されたシングルベッド二つの部屋に入る。


 せめてもの救いは、ダブルベッドでマモルと寝なくてすんだことだ。

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