俺のスマホの通訳でギルドがヤバイ
激痛で痛む脇腹を抑えながら、門番のおじさんのジェスチャーを信じて路地を進む。
それにしても、元勇者が門番か、英雄なのに街を守り続けて偉い人だ。
「あそこが冒険者ギルドだよ~ヤマト~」
嬉しそうにはしゃぐ猫耳妖精アップゥと対照的に脇腹の激痛に耐える俺。
もしかしたら放っておいても、女神のギフト体力自動回復(S)で治るのかもしれないが、あまりにも痛すぎる。
元勇者が言うには、冒険者登録すると回復までしてもらえるらしい。
やっとの事でギルド前に着く……しまった……言葉が通じないんだった。
どうやってこの状況を説明したらいいんだ。
「アップゥ、俺の言葉を通訳してもらえるか?」
「了解だよ~ つ~やくつ~やく~」
「アップゥだけが頼みだよろしく頼むぞ」
若干の不安を感じながらも、盾の上に剣が交わったマークの看板の建物へ入る。
看板の文字は読めなかったがアップゥに確認したところ、冒険者ギルドと書いてあるらしい。
あ、でも大丈夫だろうか?
俺みたいな言葉も通じない訳のわからない奴がギルドに入ると、もしかしてだが9割位の確立で柄の悪い冒険者が絡んでくるんじゃないか?
女神のギフトとかいうのを持っている俺なら、その辺の冒険者を返り討ちにするのは容易い。
だが俺は今……怪我をしている。それも肋骨全骨折という重症だ。
ここはなるべく穏便にいきたいところだ。
ギルドに入ると正面に受付があり、その側面には沢山の紙が張り付けてある。
受付には青髪ツインテールの可愛い受付嬢が営業スマイルで座っていた。
そしてギルドの待合所には、いかにも冒険してますっ的な屈強な男が4人談笑していた。
受付の方へ歩き出すと受付嬢がどうぞとジェスチャーをし、冒険者4人の視線が俺に突き刺さる。
伸長190cmはこの世界でもかなり目立つ、おまけにぴょるぴょる音を鳴らす妖精付きだ。
はっきり言って怪しいの一言に尽きる。
当然だろう。俺が警察だったら即職質だ。
ここはアップゥの通訳を信じて受付嬢に話しかける。
丁寧に下手に・・・
「こんにちは、サガワヤマトです。魔物との闘いで怪我をしてしまった。申し訳ありませんが治して頂きたいので冒険者登録をお願い出来ませんか?」
アップゥが通訳を始める
≪こんにちわ~ すごくつよ〜い魔王で戦って怪我したヤマトです~ ギルド登録して~≫
おいおい、今の大分短かった様な気がするか大丈夫か?
受付嬢の顔が青ざめて汗をかき始めているんだが。
≪はじめましてヤマトさん。魔王と戦ったのは本当ですか? やはり魔王は復活していたのですね。≫
≪魔王はつよかったよ~≫
≪わかりました。魔王の事は本部へ報告しておきます。まずは怪我を治しますね。ギリアムさーん≫
≪ぎりあむ~ こっちこっち~≫
えっとアップゥさん? 勝手に話を進めないで欲しいんですが……
受付嬢とアップゥが冒険者の方へ声をかけると、巨大なハンマーを背負ったハゲがこっちに歩いてきた。
背は170cm位だが筋肉隆々。黒い熊の毛皮のような前掛けからはものすご臭いがしている。
こういう時って何気なくハゲ頭に目が行ってしまうよな。
俺が見下ろすとちょうどハゲ頭なんだからしょうがないじゃないか。
「はじめまして。サガワヤマトです。怪我の治療の為にギルドにきました。」
≪ヤマトです~はよ怪我治して~≫
ねぇアップゥ絶対短いよね? すごく略してない? 俺の全部で12本の折れた肋骨がかかっているんだぞ?
ギリアムと呼ばれたハゲの冒険者が俺の顔を見つめてしゃべりだす。
≪このひょろ長い兄ちゃんが魔王と戦ったって言ったのか? いささか俺は信じられないな。≫
≪あらギリアムさん。この方の見た目はどうみても絶滅した伝説のエルフ。軽装から言って魔導士なのかもしれませんよ≫
≪伝説のエルフだと!≫
≪ヤマトはエルフだよ~≫
≪それにヤマトさんはスマホ族を従えています。この国の言葉はしゃべれない様ですが、何か深い事情があるのでしょう≫
≪あ~俺もスマホ族は久しぶりに見たぞ。 たしか離れた同族との念話が得意なんだよな。お国のお偉いさん方はそれはそれは大切にしているらしい≫
≪アップゥはスマホだよ~≫
俺を無視してみんなで盛り上げるのヤメテ! アップゥ俺にも早く内容教えて! 通訳の仕事をちゃんとこなして!
≪スマホの嬢ちゃん。ヤマトはどこを怪我しているんだ?≫
≪えっとね〜肋骨が取れたって言ってた~≫
≪どーれ見せてもらおうか≫
ハゲと仕事放棄妖精の会話の内容は、まったくわからないが俺を治してくれるらしい。
ギリアムは俺の上着をむんずとまくり上げ、肋骨が折れて重症な脇腹をじっと見つめた。
「なんだなんだどうする気だ」
≪なんだこりゃ。青あざが出来てるだけじゃねぇか。こんなもんつばでも付けときゃ治る≫
ギリアムは右手にペッペッと唾を吐くと、俺の脇腹にバチーンと叩き付けた。
「グフッ・・・痛い」
「つばでもつけとけば治るって~よかったね~ヤマト~」
痛い!汚い。臭い。最低。大っ嫌い。
こういうのってさ、普通は綺麗な姉御系の巨乳の冒険者がしてくれるんじゃないの?
俺がヤマト君の親だったらモンスターペアレンツになって苦情の嵐だよ?
「アップゥ。ちゃんと通訳してるか?」
「大丈夫だよ~つ~やくつ~やく」
「治してもらえなかったし、ギルドにも入らなくていいんだよな」
俺は肋骨骨折の脇腹に唾を叩き付ける様なマネをされてホイホイギルドに入る安い男じゃない。
≪ヤマトが冒険者ギルドに入るのやめるって~≫
≪えっ!どうしてですか? 魔王と戦って生き残れる様な人は勇者以外いません。お願いですから冒険者ギルドに入ってください。隣国のギバライ王国から侵略されるとのではとの噂もあるんです≫
青髪のツインテールを揺らしながら、受付嬢が必至な眼差しで見つめてくる。
その白く美しい両手で俺の手を握り締める。
冒険者ギルドの制服は胸元が開いており目のやり場にこまる。
リンダの瞳は涙で潤んでいた。もしかして俺に一目惚れしちゃったのか?
帰らないで欲しいのアピールがすごい。
「なんでもするからギルドに入って~だって」
なんでも・・・だと・・・女性にここまで言わせて引き下がる無礼な男はいまい。
そもそもギルドに入っても、依頼を受ける受けないは自由なはずだ。
「わかった。言葉の通じない俺ですまないが、冒険者ギルドに加入させて欲しい」
≪なんでもするから俺をギルドに入れろ〜≫
さっきからなんか通訳短くない? もしかしてアップゥ出鱈目言ってない?
≪ヤマトさん本当ですか?私はギルドの受付嬢リンダといいます。これからよろしくお願いします。≫
「リンダで~す。不束者ですが末永くよろしくお願いします~だって~」
そうかリンダというのか。これから末永くよろしくな。
不束者なんて言葉をアップゥが知ってる訳もないし、リンダの心の底から素直にでた言葉なんだろう。
異世界初日でもう一人花嫁候補が、だがリンダよ。道は遠いぞ。俺は簡単になびいたりしない。
≪では、このギルド水晶に手を当てて下さい。登録とステータスを確認いたします。ステータスの結果によっては即Sランクですよ!頑張ってください。≫
「水晶に手を当てると登録してステータスが見えるんだって〜ヤマトはSランク確定だってよ~」
ほう。さすが花嫁候補リンダ。未来の旦那にSランクをプレゼントって訳か。
さぁリンダよ。俺のステータス(主にギフト)を見て驚愕するがいい。
俺はゆっくりと水晶に手を近づける。
気づくとギリアム以外の冒険者3人も集まって、水晶に映る俺のステータスを心待ちにしていた。
冒険者が集まると・・・すごく臭い。