俺まで登山することになってヤバイ
モリオア国。ギリコノ山の麓に作られた竜人族の国である。ギリコノ山の山頂には竜王の寝床とされる場所があった。あったと表現したのは、レオヴァイザーが放った超次元破壊砲によって消し去られたからである。もちろんレオヴァイザーが犯人だとは誰も知らない。ヤマトやアップゥでさえ自分たちが壊したとは知らないのだ。
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モリオアの街へ到着した俺達。すぐさまポポルが異変に気付いた。
「・・・絶対おかしい。人がいない」
ポポルの言う通りモリオアの街は人が一人も歩いておらず、店も閉まっていた。メインストリートの広さや閉められた露店の数から、毎日賑わっていた様子が伺えるが、今やゴーストタウンだ。
「お城に急ごう!!パパとママが心配!」
人の居なくなったメインストリートを4機の聖獣機で突き進み、城の門の前まで付く。石で出来た城壁は立派でレオヴァイザーの高さより高い。
モリオア国の紋章と思われる竜の刻印が施された鉄の扉は閉まっていた。レオヴァイザーで軽く押してみるが開かない。鍵が掛かっている様だ。
「どうして!? なんで閉まってるの?」
「ちょっと待ってろ」
俺は高度跳躍で中を覗く。城壁の中は人でいっぱいだった。俺はホバーで位置を調整し、城門の上にレオヴァイザーを立たせた。レオヴァイザーを見つけた人達が驚いて騒ぎ出し、城の方へ一斉に逃げ出す。逃げ惑う人々で城門の中はパニック状態だ。
レオヴァイザーの窓からポポルが顔を出し、大声で叫ぶ。
「おーーい! みんな!!! ポポルだよ!!」
「おい見ろ! ポポル様だぞ!」
「本当だ!ポポル様だ!」
逃げ出した人々が城門の前に集まって来る。こんな子供でも一応竜人族のお姫様なんだな。
ポポルが降りたそうにしていたので、レオヴァイザーを城門の中の人が逃げて開いたスペースに降ろした。
「セリス、エイジ、マイ。ちょっと待っててくれ話を付けて来る」
「了解です。お気をつけて」
3人の聖獣機は城門を飛び越えるほどの跳躍が出来ないので待機してもらった。
ポポルと一緒にレオヴァイザーから降りる。アップゥもぴょるぴょると音を立てながら付いて来た。
ポポルの姿を見た人々の集団の中から一人の老兵士が前にでる。白髪で身なりのしっかりした兵士だ。頭にはポポルより大きい鹿の角みたいなのが生えている。
「ポポル様。よくご無事でヴァチ国よりお戻りになられました」
「ガガル! なんでみんな城門の中に? パパとママは? お城のみんなはどうしたの?」
「王もお妃もご無事です。が、ちと厄介な事になりましてな」
「避難? パパとママはどこにいるの?」
ガガルと呼ばれた老兵士が言うには、ギリコノ山の山頂には邪竜が封印されており、竜王の寝床が破壊された事で、復活してしまったとの事だった。ポポルの父と母である王と妃は、邪竜を封印する為に兵士達を連れて出発したばかりだそうだ。邪竜を封印出来るのは竜王の血を引く王だけだそうだ。
ポポルが涙を貯めて俺の方を見ている。言いたいことはわかっている。勿論断るつもりは無い。ちゃんと持ち主のところまで運ぶのが仕事だからな。
「ヤマト! パパとママのところまでお願い!」
「ああ。疲れてるところ悪いがみんなもいいよな?」
「もちろんですヤマト様」
「付き合ってやるよ」
「ポポルちゃんの為だし余裕っしょ」
扉を開けて貰って入って来た3人が迷いもなく答えた。
「みんなありがとう!!」
ポポルが喜びながら走り回り、アップゥとスマちゃんが頭上をぴょるぴょると飛び回った。
モリオアの街へ着いたばかりなのに、観光もせずすぐに出発となった。聖獣機に乗り込み山を登る。
ユニコーンやリヴァイアサンは度重なる戦闘で傷だらけになっていたが、レオヴァイザーは女神のギフトのおかげで勝手に回復していた。
そこでレオヴァイザーの上にユニコーンを乗せて見たところ、ユニコーンの傷もあっと言う間に回復した。レオヴァイザーの中だけでなく、上に積む事で効果が発揮する様だ。以前、湿地帯でユニコーンを乗せた時は気づかなかった。
ユニコーンの傷が治ったので、リヴァイアサンもレオヴァイザーに積んで進む。マイはその間にお風呂に入ったり昼寝したりしていた。リヴァイアサンを積む時にセリスがちょっと嫉妬していたのが、すこし可愛かったので思わず頭を撫でてしまった。
頭を撫でただけで満面の笑みになったセリスをみて、チョロイなと思ってしまった自分を殴りたい。
なだらかだったギリコノ山も段々と傾斜が厳しくなり、ごつごつとした岩肌が目立ってくる。レオヴァイザーに乗っているからいいが人力で登山ともなると、結構大変な道のりだ。もちろん異世界ならではのモンスターも現れているが、聖獣機を見て逃げ出している。
半日程進むと40人程の兵士たちの集団が見えて来た。どうやら追いついた様だ。こちらを発見した最後尾の兵士が悲鳴をあげ、騒ぎになる。ポポルはレオヴァイザーの窓から手を振り大声で叫ぶ。
「パパーーーーーママーーーーーーー」
兵士たちの集団の中から一際大きい男が前にでて手を振る。真っ赤な髪に巨大な鹿のような角。多分ポポルの父だろう。竜王の血を引くとだけあってかなり強そうだ。
隣にいる小柄な黒い髪の長い女性が母だろうか。遠めに見ても可愛らしい。というか10代にしか見えないんだが。ポポルと同じく頭には小さな角が生えていた。
レオヴァイザーから降りたポポルは、腕を大きく差し出した父のムキムキの胸筋の中へ吸い込まれていった。
「おおおい可愛い可愛いポポルちゃん逢いたかったよおぉぉぉぉあぁああスリスリスリ」
「ちょっとパパ。痛い! 痛い! でもうれしい!!」
ものすごいコワモテの角の生えたおじさんが、小さな女の子にホッペスリスリしてる。いや、ジョリジョリか。母っぽい人はあらあらまぁまぁと呑気そうに微笑んでいた。
これまでの経緯をポポルが父と母に説明すると。砕けていた表情から一変し、こちらへズカズカと歩いて来た。
「ヤマト殿。エイジ殿。マイ殿。セリス殿。よくぞポポルを無事連れてき感謝する。私がモリオア国の国王ダダルだ。そしてこっちが私の妻メメルだ」
「メメルです。娘を大切にして頂きありがとうございます」
俺よりでかい岩みたいな体をしたダダル国王が、一人づづ握手をしながらお礼をした。メメルは何度も丁寧にお辞儀をしていた。どうみてもマイと同じ位の年齢にみえるんだが・・・
「ヤマトは転生者でレオヴァイザーの操者で私の将来の夫です。もう一緒に寝たよねー」
「ポポルは~ヤマトに~大人にしてもらうんだよね~」
胸を叩きながら自慢げにそう言ったポポルと、無責任な台詞を言い放ったアップゥ。
みるみる内にダダル国王が狂暴化を発動したガネーシャの様に真っ赤になり、腰にぶら下げた巨大な槌を近くの岩に振り下ろした。勿論、振り下ろされた岩は粉々に砕け散った。
母はあらあらまぁまぁと呑気そうな口ぶりだが、胸元からまがまがしいオーラを放つナイフを取り出していた。
一瞬死の世界が見えた。誤解を解くのに小一時間かかってしまった。