俺の前に恐怖の魔物が現れてヤバイ
「レオ!伏せ!」
レオは命令すると腹を地面へ付けた。これで外に出る事が出来る。俺は運転席のドアを開けた。
ドアはレオの目の横に付いているようだ。
見比べるとよくわかるがレオの顔の大きさよりも車内の方が確実に広い。
大体、レオの顔って盾になる部分だろう。そこに運転席があったら流石にヤバくないか?
俺の予想ではドアの中と、ドアの外は違う空間か別次元なんだと思う。
じゃあ最初から足にドアを出現させてくれればいいのに……
なんて事を考えながら鬣づたいに地面に降りた。
ふぅ……やっと異世界への第一歩を踏みしめる事が出来たぞ。
「さぁ街に行くか!」
「ヤマトヤマト~レオかくさないの~?」
「何を言ってるんだアップゥ。森の中に隠しただろう」
「丸見えだよ~あっぷぅがかくそうか~?」
「そんな事が出来るのか?やってみてくれ」
異世界に来てから問題ばかり起こすアップゥだが、こんなに自身満々なら任せてみよう。
アップゥは少しの間目を閉じるとレオの周りをクルクル回りだした。
「妖精の隠れんぼ」
キラキラしたアップゥの鱗粉がレオに降りかかると、あの巨大なレオがスッー消えてしまった。
スマホだったくせにこんな魔法みたいな事が出来るなんて少し見直した。
「おーすごいじゃないか。アップゥ」
俺は褒めながらレオがいた辺りを触ってみる。
何か堅い物が手に触れた瞬間消えていたはずのレオが出現した。
「あっ~だめだよ~触ったら出てきちゃうんだよ~隠れんぼなんだから~」
そういう事は早く言ってくんない?
まぁ今回は俺も少し悪いから謝ってもう一回隠してもらうか。
「ごめんごめん。もう一回隠してくれるか?」
「一日一回だよ~」
……
やっぱり駄目猫スマホ妖精だな。
隠すのはあきらめて街に向かおう。
歩いていて気づいた事がある。運転席に座っていた時には気づかなかったが、やけに目線が高い。
伸長が10cm位伸びた感じがする。転移する前も180cmと背の高い部類だったが、エルフになることで190cmを超えたようだ。
エルフのイケメンで高身長。
これはもしかて・・・モテモテもあるな。
グフフ・・・
ドカッ!!!!
そんなよからぬ事を考えていた俺の背中に衝撃が走る。何かに攻撃されたらしい。
衝撃のあまり前のめりに倒れてしまった。
背中を強く打ったせいでうまく息が出来ない。
子供の頃にブランコから落ちて、強く背中を打った時の事を思い出した。
ガフッ・・・
何が起きたのか確かめようと体を起こす、が、起こした頭をガツンと殴られた。
落ちて苦しんでいる俺の頭に、ブランコが戻ってきて当たった時の事を思い出す。
頭と背中を抑えながら犯人を捜す。目の前を横切る茶色い動物。
それはウサギだった。
見た目は地球のウサギと変わらない。大きさも大体同じ位だろう。地球と違うのは可愛い見た目とは裏腹に攻撃してくる凶暴性か。
まさか、肉食・・・なのか?
なんとか起き上がり、地面に落ちていた木の棒を拾うと武器として構えた。
「ウサギが・・・かかってこい!」
ウサギは後ろ脚で耳を掻いた後、突進してきた。
早い!俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
……
というか見逃した。
突進してきたはずのウサギは、シュッと姿を消すと、俺の脇腹にジャンプキックをかましたのだ。
「グハッ・・・」
もしかしたら肋骨が折れたかもしれない。逃げよう。
こいつは魔王だ。
魔王はこんなのどかな平原に住んでいたのだ。こんな場所に俺はいられない街に向かうぞ!
俺は脇腹を抑えながら街に向かって走り出した。
幸いそんなに街の入り口まで距離はない。城郭の門に向けて全力で走る。
魔王が迫ってくる。確実に俺に止めを刺すタイミングを見計らっている。
ハァハァ……
ウサギは俺の先回りをし狙いを定めてジャンプキックを放つ。
≪坊主危ないぞ!二段切り≫
……間に合った。
門番のおじさんの強烈な斬撃が、魔王を捉える。
ウサギは真っ二つに切り裂かれ絶命した。
≪武器も持たないで何やってるんだ死にたいのか?≫
門番のおじさんが俺に怒りながら大声で叱った。
あー……キャンユースピークイングリッシュ?
ごめん、おじさんが何語をしゃべってるか全くわからない。
そりゃそうだ。俺、日本人だもん日本語でokだよ。
とりあえず何か怒っている様だし謝ろう。
ペコペコ頭をさげて門を通ろうとする。
すると門番のおじさんは、俺が街に入れない様に立ちはだかった。
≪怪我してるじゃないか早く冒険者ギルドに行って治してもらえ。回復魔法の使える白魔法使いがいるはずだ≫
おじさんが身振り手振りで何か伝えてこようとしているが全くわからない。
かろうじて街に入って右に行くっぽい感じなのはわかった。
先ほどまで胸ポケットで寝ていたアップゥが眠そうにしゃべり始めた。
「ふぁ~あ。ヤマト言葉がわからないの~?」
「あぁ・・まったくわからん。アップゥはわかるのか?」
「わかるよ~えっとね~」
≪本来は身分証明書がないと街にいれられないが、怪我を治すのが先だ。一度、冒険者ギルドに行くんだ。もしお前が身分証明書が無いならそこで発行してもらえる。≫
「冒険者ギルドで登録すると〜怪我をなおしてもらえるらしいよ~」
おお、そういう事か。門番のおじさんいい人じゃないか。怪我人を引き留めて金でも奪おうとしているのかと思ったぞ。
≪間違っても冒険者登録はするなよ。お前はそのウサギにも勝てないんだからなガッハッハ。じゃあ俺は仕事があるからまたな≫
「ウサギに勝てたら俺と勝負しようガッハッハ~」
おいおいあの魔王を一発で倒すおじさんなんて元勇者かなんかだろう。そんな奴と勝負なんてお断りだ。おじさんが手加減したとしても絶対殺されてしまう。そんなのはお断りだ。
俺は愛想笑いを浮かべながら、頭をペコペコ下げつつワラサの街に入った。