俺にツクサ村の歓迎会を拒否する権利がなくてヤバイ
ツクサ村。マグン湿地帯の中にある唯一の村。湿地帯の大きな湖の上にある島に作られたこの村は、人魚の島である。海ではなく陸の人魚であることから「丘人魚」と呼ばれることもある。海の人魚と違いちゃんとした足がある。手と足の水カキを覗けばほぼ人間と変わらない人魚達が住んでいた。
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マイホームのある我がレオヴァイザーは宿屋を必要としない。にも関わらず、ツクサ村に行こうと言い出したのはポポルだった。ツクサ村にはポポルの知り合いが居て、どうしても寄って欲しいそうだ。
後、ご飯もうまいらしい。竜人族のポポルが言う「おいしそう」は、普通の人間と大分かけ離れているので不安だ。どうか禿げたおっさん(ヒポカンポス)の丸焼きなんて、出て来ませんようにと願うばかりだ。
ツクサ村の前まで着くと、すでに村中が歓迎ムードだった。グランドデスホイールの討伐を、村人に見られていたらしい。レオヴァイザーとユニコーンを村の入り口に停めて降りると、村人の集団の中から一人が前に出てきた。
「ツクサ村の村長のカサナでギョ。グランドデスホイールを退治して頂いたとか聞きましギョ。ありがとうギョざいました」
村長と名乗った白毛の魚人の前にポポルが駆け出す。
「カサナー!ポポルだよー」
「ギョギョ!退治なされたのはポポル姫様でしたか!流石竜人族様ギョ」
「ううん!倒したのはヤマト達だよ!ポポルは見てただけ!」
「そうでしたか!今夜は歓迎の宴を行うとしまギョう。おい。お前達!」
カサナ村長が村人達に一声かけるとそれぞれが準備に取り掛かった。
「村長さん。宴なんていいですよ。それに急いでるんで、なぁみんな!」
「ヤマト様。せっかくのお言葉ですから甘えられてもいいのでは?」
「そうだそうだ!ヤマトのケチ!」
「いや、だってほら・・・」
俺の目線の先にはヒポカンポスの干物がぶら下がっていた。あれが宴に出るのは100%間違いない。なんと食べずにすまないものか。
村長は干物を指差して言った。
「今夜はごちそうギョギョ!ヒポカンポスの丸焼きギョギョ」
ほらね。絶対お断りだ。
「ヤマト様。ヒポカンポスは長寿の他にも滋養強壮にもなるそうです。こ、子供が出来る事もあるそうです」
赤面しながらヒポカンポス料理について説明するセリス。絶対意味わかってないだろ。
「そうだよ!ポポルだってヒポカンポスを食べた父上が元気になったおかげだと、母上から聞いたよ!」
君のお母さん何話してる訳?どっかの国のお妃様じゃなかったの?
なんとか断る理由を探したが、どうにもセリスとポポルの熱い視線に耐え切れず、結局宴に参加する事になってしまった。料理などが出来るまでの間は、村長の家に行き旅の理由などを話す事になった。
「ギョギョウ。そうでしたか。ヤマト様は転生者で、あのレオヴァイザーにギョッているのでギョね」
「ユニコーンもいるよ!セリスが乗れなくなったらポポルが乗る!!ヤマト頑張ってね!」
「ポポル様?ヤマト様が頑張るとなぜ私が乗れなくなるのですか?」
「だって・・・ねぇヤマト!」
「ブフッ!そ、そうだな何でだろうな」
いきなりポポルが爆弾を落としてきたので思わずお茶を噴き出してしまった。ポポルは意外に物知りなのか。こんな事教える親の顔が見たいもんだ。
「実はツクサ村にも転生者がいましたギョが、突然居なくなってしまいましてギョ。つい先日のことでギョ」
「転生者が?」
「はいですギョ。美味しい美味しいと言って食べていた肉が、ヒポカンポスだと知った時、泣きながら出て行ったそうです。あ、ギョ」
そりゃそうだろう。海亀のスープの話みたいだでかわいそうな奴だ。
「どんな奴だったんだ?」
「可愛いおなごだったと聞いておりますギョ。人間で言うと15歳位かと思われますギョ」
転生者が女と聞いた時にセリスがビクッとした気がする。何か感じ取ったのだろうか?
いつかその転生者と出会ったらゆっくり情報交換でもしたいもんだ。
横では女性陣がヒソヒソと相談しあっていた。
「宴が終わったらすぐにモリオア国へ向かいましょう。ね、ポポル姫さま」
「そうだね!変な女がヤマトに近づく前に行こう!ポポル大賛成!」
「モテモテだね~」
聞こえてますよ~?まったく何の心配してるんだか・・・俺の禿げたおっさんを食べるかも知れない問題の方が重要だろう。
そうこうしている内に宴の準備が出来た様だ。村人たちが慌てて飾り付けた広間の正面に、俺達は並んで座らされた。目の前では鯛やヒラメの舞い踊りが繰り広げられた。魚人族の女性の踊り子達は皆美人で、踊りも上手かった。全く下心も無しに見ていたはずなのに、何回もセリスとポポルにつねられた。
「では。メインディッシュのヒポカンポスの丸焼きをお持ちしますギョ」
「村長!!!大変ギョ!!!マッドスティングレイの群れが村に向かって来ておりますギョ!」
「ギョギョ!!!ヤマト様!」
村長が助けて欲しそうにこちらを見ている。
頼まれるまでもない。この村に向かっているという事は俺達も危ないという事だ。急いでレオヴァイザーに乗り込まないとな。ヒポカンポスの丸焼きを見ないで済んでホッとした訳ではないぞ。
レオヴァイザーとユニコーンに乗り込み、マッドスティングレイの群れを確認する。横幅10mを超える赤いエイの大軍が青い細長い獣機を追いかけてこっちへ向かってくる。
「ヤマト様!ユニコーンの水晶にリヴァイアサンの聖獣機と表示されてます!」
「リヴァイアサンの聖獣機だと?」
異世界の知識の乏しい俺でもリヴァイアサン位知っている。津波とか出す奴だろう。そんな奴がなんで追われているんだ。レオヴァイザーのナビ水晶に通信が入る。
「ウケる。マジ映ったし。ちょっとそこのヒトー?見てないでマジ助けろし」
そこに映っていたのは、明るい茶髪をクルクルに巻き上げ、髪にキラキラした飾りを沢山付けた女だった。うん。どうみてもJKです。本当にありがとうございました。
「ちょっとスマちゃん! ホント聞こえてるん? マジ死んだらウケるんだけど。てか死ぬの二回目~。アハハ!」
「マイさん。聞こえてるはずです」
「ホント?マジマジお助けー!ウケる」
スマちゃんと呼ばれたスマホ妖精は男の子タイプの様だ。金髪で白いホストの様なスーツを着ている。
「聞こえているぞ。このままだと村にエイの群れが押し寄せる。右へ走ってもらえるか?」
「オーマジ聞こえてたし。しかもイケメンじゃん。オッケーりょ!」
リヴァイアサンが左へ向かって走り出す。それを追ってエイ達も左へ・・・つまり村の方へ向かいだす。
「違う!俺から見て右だ!戻って来てくれ!くっそ・・・追うぞセリス!」
「はい!ヤマト様!」
湿地帯の方へ行く為、レオヴァイザーを獅子型にし、背中にユニコーンの人型を乗せて短距離高速移動を発動する。
「セリス!乗ったままでも戦えるか?」
「はい!やってみます!」
ユニコーンは虹色の長剣を抜き、マッドスティングレイの群れ最後尾目がけて技を放つ。
「虹色斬空剣!!」
虹の光を放つ刃が宙を飛び、マッドスティングレイを薙ぎ払う。何十匹ものエイ達が体を切り裂かれながら吹き飛んでいく。セリスはリキャスト毎に虹色斬空剣を発動し、マッドスティングレイの数を減らしていく。
「ヤマト様!マッドスティングレイの中心へ!」
「ああ、わかった!飛ぶぞ!!」
高度跳躍でマッドスティングレイの中心へ飛び込む。セリスが何をするか知らないが、何か手があるのだろう。
「はあああああああ! レインボオオオオスパアアアアアック!」
ユニコーンの騎士の虹色の角に光が集まり、虹色の稲妻が広範囲に広がる。数百ものマッドスティングレイが消し炭となった。恐ろしい威力だ。残りのスティングレイは命の危険を感じたのか、一目散に逃げ始めた。
その様子を見ていたリヴァイアサンがこちらへ向かって走って来る。走って来るという、か蛇みたいな体なので滑って来る。青く輝く龍の様な獣機だ。
「ヒュー。やるじゃん!マジ助かったよ」
「まて!まだだ!何かでかいのが来るぞ!!!!」
リヴァイアサンの背後から突如として現れたのは、巨大な蛸の様な足を15本持つ獣機だった。