俺だって神獣ファフニールと戦いたくなくてヤバイ
神獣ファフニール。こちらの世界の竜に、なぜ北欧神話の竜の名前が付けられているのかは謎だが、何代か前の転生者が付けたらしい。その鱗は鋼よりも固く、火炎のブレスは人々を消し炭にするという。冒険者ギルドでは討伐対象Aランクとされており、イサム達が今回このハイママ鉱山に来たのも討伐が理由であった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大穴に落ちたイサムが永遠の鎖でバンジージャンプの様に戻って来る。
「わああああああああああん」
戻って来たイサムがショコラにぶつかって転がる。その後はお察しのラッキースケベだ。
俺は気まずく横を向く。セリスは顔を手の平で隠しているが、指の間からしっかり見ている様だ。
「イサム大変だね~」
アップゥはニコニコ見ている。
「その、ラッキースケベは毎回やるのか?」
「ああ、これも女神にお願いしたからな。やっぱり異世界と言ったらラッキースケベだろ?」
「やっぱりお願いしてたんかい!!!」
サチコのフルスイングでもう一度穴の中へ落ちていくイサム。
「わああああああああああああああん」
今度はナナの方へ戻って来てラスベ・・・サチコさん大変ですね。
戻って来る時にはサチコの方に来ないのが不思議だ。やはりまな板では着地に不安が・・・
あ、一瞬サチコさんから殺気の様なものを感じたのでこれ以上はやめよう。
「いたよ。いたいた。でっかいドラゴンがいたぞ。ほら俺様の自慢の金髪が焦げてるだろ。炎を吐いてきたぜ」
やっと落ち着いたイサムが報告する。自慢の金髪はすでにチリチリパーマだ。
イサムが言うにはかなり下の方で、階段の途中には沢山モンスターがいたらしい。
モンスターか・・・そういえば、まだ狼とか兎とか地球にいるものしか見たことないな。
「モンスターとはどんなモンスターなんだ?」
「俺様だって名前までは知らない。なんかトゲトゲのついたでっかいカニだったぞ」
「ニードルクラブですね。結構堅いので手間取るかもしれません」
流石セリス。なんとか隊の隊長なだけはあるな。
「まぁ結構いたけど大丈夫大丈夫。俺様達に任せとけ!今夜はカニ鍋だ!」
聖騎士さんよ。俺はちょっと不安になってきたよ。
不安は的中した。
カニカニカニカニカニカニカニカニカニ。一面のカニ。1.5m位の大きさのトゲトゲカニが階段を埋め尽くしている。
「大丈夫大丈夫。いっくぞおおおおおおりゃああああああああああ」
イサムが考えも無しにカニの大軍の中に飛び込んでいく。
「ぐわあああああああああああああああああああああああああああ」
響き渡るイサムの悲鳴。そりゃそうでしょうよ。
「雷電の雲!」
「光の貫通矢なのら~!」
メイドの出した黒い雲が、広範囲に雷の雨を降らせる。獣人の何もない空間から光の弓を呼び出し、放った光の矢が広範囲のカニを攻撃する。
もちろんその中心にいるイサムにも直撃している。
「あばばばばいたたたやめてやめて痺れる貫かれるあばばば」
「サチコさん、イサムは大丈夫か?」
「え?あぁ大丈夫よ。アレでも聖騎士だし全然本気だしてないもの」
サチコは近づいて来るカニを、軽くハンマーで潰しながら答える。
「本気って、イサムと彼女らどっちが?」
「もちろんどっちもよ」
そうなのか・・・異次元の戦いだ。今までの兵士達はスキルこそあるものの、剣で斬るとか槍で突くとか、それこそ中世の時代の戦いだった。これは生身の俺はいつ死ぬか本当にわからんな。セリスの後ろに隠れとこ。
「ヤマト様危ない!!斬空剣!!」
後ろにカニが来ていた事に気づかなかった俺を、セリスがかばいながら剣を振ると光の刃みたいなのが飛んで行ってカニを両断した。異次元はお前もか。
いやホントお役に立てなくてすいません。
魔法も武器スキルもリキャストタイムがある様で連続で使えないみたいだ。ショコラは雷氷火と切り替えて戦っている。ナナは光の矢が撃てるようになるまで普通の矢で攻撃している様だ。
サチコはプチップチッと音をさせながら淡々とカニを潰している。最早カニ缶を作る作業員の様だ。
セリスも俺を庇いながら近づいて来るカニを斬る。と、いってもカニは結構堅いらしくてよく弾かれている。武器スキルのリキャストが来た時だけ一撃で倒せるみたいだ。
はっきりいって聖騎士の仲間たちの強さは異常なのだ。
「魔力範囲回復!」
皆の魔力が尽きて来るとサチコが魔力を回復させる範囲魔法を使用する。これがヤバイ。
魔力を使って魔力が回復するってどんな仕組みなんだよ。
小一時間カニを倒し続け通路の隙間を走って突破する。カニ500匹は倒した。俺は0匹だが。
途中で金色のゴミが地面に倒れていたが、気にせず先に突き進みニードルクラブゾーンを抜ける。
少し広い場所があったので休憩していると、倒れたままの金色のゴミが、永遠の鎖の力でずるずると引っ張られ、座っていたナナのお尻にスポッと収まった。
ナナがヒャウンと声を上げると同時に、サチコのハンマーで地面にめり込むイサム。
左手で床にサチコと書いていた。ダイイングメッセージは大事だな。
「いやーやばかったね。このヴァチ国王から貰った英雄の鎧がなかったら死んでたよ」
イサムが英雄の鎧だといったモノは、魔法攻撃と光の矢と斬空剣の傷跡でボロボロになっていた。
だが、イサムに傷は一つもない。確かにタフさはすごいな。何度でもよみがえるフェニックスのようだ。
「よかったね~よかったね~」
アップゥがイサムの周りをクルクル回ると、イサムも調子にのって踊っていた。
冒険者ギルドのおばちゃんの弁当を食べて休憩も終わり、階段を下りていく。
降りれば降りるほど闇は深くなって行き、すでに空からの光はほとんどない。階段のわきに松明があるので火を付けながら降りる。この真っ暗な中にポポルがいると思うと怒りが込みあがって来る。無事なのだろうか・・・まさか・・・首を振り否定する。
地面が見えてきた。さすがミスリル鉱山だけあって、ミスリル特有の銀色の鉱脈のラインが、床や壁面に露出している。
大穴と同じ広さの真ん中にファフニールが寝ていた。頭には灰色の2本の角、胴体は漆黒でテラテラ輝いている。俺のトラックよりでかいぞ。全長30mはあるんじゃないか。
それにしてもあれだけ上で騒いでいたのに呑気なもんだ。
ポポルの姿は見当たらない。
ファフニールの奥にまだ通路が続いているのでそこにいるかもしれないが、最悪な状態も考えてしまう。
何も出来ないのは歯がゆいが、今は自称最強の聖騎士PTに頼るしかない。
「子供はいないみたいだね。どうする?倒す?」
サチコがイサムに聞く。
「そんな事きまってるだろおおおおおおおおおおおお幼気な子供を食べやがってゆるさああああああん」
イサムが案の定考えも無しに突っ込む。いや、考える余裕がないほど怒っているのか。
確かにいい奴なのかもしれないな。
イサムが全身にまばゆい金色の闘気を纏って背中の両手剣を持って突っ込む。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおぉおおおおおおおおおおお!!!」
ガキッーン!!
ファフニールの脇腹に当たった青い両手剣は真ん中からポキッと折れてしまった。
「そ、そんな・・俺様のジークムントが折れるなんて!」
えっともし本物のジークムントならファフニールで折れるのは当たり前では?伝承どおりですよ。
GYAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOON
イサムに攻撃されて起きたファフニールが、尻尾でイサムを薙ぎ払い、吹き飛ばす。そのままの勢いで壁にめり込むイサム。
「イサム!」
「イサム様」
「イサムが大変なのら~」
流石に心配するPTメン達。すぐさま攻撃に移る。
「光の貫通矢なのら~!」
「氷柱の槍」
「聖光爆裂覇」
一本に纏められた光の矢と巨大な氷の槍と眩しい光が、ファフニールへ直撃する。
激しい爆撃音と共に爆煙でファフニールが見えなくなる。
「やったの!?」
そりゃやってません。そんな台詞の後に死んでる敵がいる訳がない。
ファフニールは無傷で立ち上がり、口に怒りの炎をためている。ヤバイ!!!
絶対絶命のピンチだ。サチコさん達もちょっとビビってる。
「やめて!!!ファフ悪くないの!!!」
立ち上がったファフニールの足元を、ポポルが抜けて駆け寄って来る。
「ヤマト!!ファフ悪くない!!攻撃しないで!!!」
泣きながら抱き着いて来るポポル。
「そんな事言ってもファフニールは怒りで我を忘れているぞ!」
「ヤマト様!ファフニールがこっちへ来ます!」
ファフニールが近づいて来る。怒りで目が真っ赤だ。口から迸る炎のせいでここまで熱い。
くっそ・・・やるしかないか。
俺は床に右手を当て力を込める。
腕力ではない。
魔力でもない。
操者力を!!!
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
地面が・・・壁が・・・光りだす!!
「いっけええええええええええええ!!」
床や壁からミスリル鉱石が溶けて液状となり、ファフニールへ向けて伸びていく。縄の様に長くなったミスリルがグルグルとファフニールのワニ口を縛っていく。足元から出現したミスリルがファフニールの脚を捉え離さない。羽や胴体もミスリルで縛り付けファフニールは動けない状態になった。
「はぁはぁ・・・ほら・・・なんとなるって言っただろ」