俺だって活気あふれる村を観光したくてヤバイ
ハイママ鉱山は空前のゴールドラッシュならぬ、ミスリルラッシュに沸いていた。併設されたデーニズ村には溢れんばかりに人がごった返し、活気に満ち溢れていた。
ゴミと思われていたミスリルが獣機に使用されると、ミスリルの価値は何百倍にも膨れ上がっていたのだ。
そんな、活気溢れる村に三人の転生者が集まろうとしていた。もちろん本人達は知らないのだが。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ムニュ。
何か柔らかい物が俺の腕に当たり、その感触の気持ち良さで目が醒める。
うっすら目を開けると金髪の美女が横に寝ていた。セリスだ。びっくりする位、顔が近くて鼓動が早まる。
女性の寝顔は美しい。自分のベットで寝ているとなると、更に愛おしく感じる。
腕に当たる柔らかい感触。これは・・・間違いない。あれだな。
だが、待って欲しい。俺は間違いなく一人で寝たはずだ。手は出していない。
何故セリスが俺のベットで寝ているんだ?理の破壊者さんはお休みですか?
休みなら、久しぶりのこの感触を、もう少し味あわせてもらうか。
起こすと悪いから動かさない様にしよう。
やっぱり、 少し腕が痛い気がしてちょっとだけ腕を動かしてみる。本当だよ。特に他意はない。
柔らかい感触と共にセリスが喘ぐ。
「あんっ・・・」
わ、わざとじゃないよ。僕は悪い操者じゃないよ。ぷるぷる。
「アッ・・・んっ」
・・・さ、流石にもう我慢出来ん!!!
俺だって男だ!
「アハハハハハ。ヤマトくすぐったいの!」
俺とセリスの狭い隙間から笑い声が聞こえる。ポポルだ。
俺が感じていた柔らかい感触は、ポポルだったのだ。
セリスも笑い声で起きたのか騒ぎ出す。
「ポポル姫様!どうしたのですか?ハッ!なんでヤマト様がベットに・・・ここヤマト様の部屋だ!」
俺が寝ているふりをしていると、セリスはドタッバタッと音を立てながら、ポポルを連れて慌てて部屋を出て行った。
理の破壊者さんに休暇はないのだ。
目を開けて枕もとを見ると、俺の顔を優しく見つめるアップゥがいた。
(いい夢みれたかい?)
(クッ・・・こいつ!直接脳内に)
なんて事はないが、アップゥはニコニコして言った。
「あのね〜ポポルがおトイレで〜セリスもついていって〜部屋間違えちゃったんだよ〜」
何故見ていて教えないのか。
しばらく時間を置いてリビングに行くと、セリス達はすでに起きていた。
おはようと声をかけると、うつむきながら、真っ赤な顔で小さくおはよう御座いますと答えた。
順調に行けば、お昼前にはデーニズ村に着くはずだ。
快調にレオを走らせる。実は村に行く必要はない。食料も宿も風呂もレオで事足りるからだ。
だが、せっかく異世界に来たのに観光しないのはもったいない。名物料理とかも食べて見たいもんだ。
特にデーニズ村はミスリルラッシュとかいう騒ぎで、大賑わいらしいから楽しみだ。
道中何匹か獣機を倒したが、どれもアフリカ系だった。ネールの知り合いの獣機を操っていた奴はギバライの奴だったのだろう。カバやサイが多かった。
グランドキャニオンみたいな地形を進んで行くと、遠くに森が見えた。真ん中に巨大な木が天まで伸びていた。あれが世界樹か。かなり遠いのにここからでも見えるんだな。
「ヤマト様。あれが世界樹です。別名空まで届く木です。」
「スカイツリーか・・・」
「ポポル登ってみたい!」
「100年前の勇者様が登られたみたいですね。なんでも樹木人の神が住んでいたそうです」
「この世界には神もいるのか」
そりゃ魔王もいるし、神もいるか。そもそも女神に飛ばされて来たんだしな。
「神の定義はわかりませんが、人以上の力がある方が、神だと名乗れば神かもしれませんね」
なるほどわからん。
「そうだな。お、村が見えて来たぞ」
村は噂通り沢山の人が賑わって・・・
いなかった。
活気溢れる村だったデーニズ村は過疎っていたのだ。
真新しい建物が沢山あるから事から、最近までは人が沢山いたのは間違いないだろう。
だが、今は人一人歩いていない。乾いた風が吹いて行く。
「誰もいなーい」
「いないね〜」
「どうなってんだ?誰もいないぞ。」
「冒険者ギルドで聞いてみますか?」
「そうだな。ギルドなら誰か居るだろう」
大体予想はつくがな。鉱山に魔物が出たとかだろ。
レオをあまり見られたくないので、 本来なら村の外にレオを停めるが、村に誰もいないのでギルド前に停める。
冒険者ギルドに入るのはワラサ街以来か。リンバだったかな?変なギルド証渡してきやがって。
なんて嫌な事を思い出しながら、ギルドに入る。ワラサ街とは違ってかなり小規模の様だ。
「いらっしゃい。でも丁度閉鎖するところだったのよ。あらいやだ。イケメン」
受付には気の良さそうなおばさんが荷造りしていた。
「閉鎖?一体何があったのですか?」
「あら、美人さんねぇ〜いやねミスリル鉱山に魔物が住み着いちゃってね。討伐依頼は出したんだけど、誰も倒せなくてね。本来なら軍隊さんが来るはずが戦争になっちまったろ。だから鉱山夫はみんなサカオオ国のバニユサ鉱山に向かっちまったよ」
「鉱山夫なら命掛けで掘りそうな気もしますがね」
「それがね。その魔物。神獣なのよ」
「神獣!ポポル神獣見て見たい!」
「ダメだダメだ。危険だろ。もう世界樹の森に向かおう」
「ちぇ〜」
「見たかったね〜」
俺達に出番はない様だ。そもそもポポルを運ぶのが仕事な訳で、モンスター退治は冒険者に任せよう。
「じゃ、おばさんまたな」
「あいよ。あんたらも気をつけてね。村まで飛んできて人を攫うらしいから」
「情報ありがとうございます」
ドカッ!
お礼をし、ギルドを出たとこまでは覚えている。
激しい痛み。俺は地面に倒れていた。何が・・・周りを見渡すとセリスも倒れていた。
「セリス、大丈夫か?」
「わかりません。ギルドを出たら何か大きなモノが空から・・・」
おばさんが慌ててギルドから出てくる。
「あんたら大丈夫かい!?神獣が赤い髪の子を攫って行ったよ!」
「な、なんだって!」
確かに一番前を歩いていたポポルの姿が見当たらない。
「大変ですっ!ポポル姫様がっ!」
「ああ」
「大っきな竜だったね〜」
「神獣ファフニールだよ!ハイママ鉱山まで連れて行かれたんだ!」
おばさんが慌てふためいている。
「助けに行くしかないようだな」
ポポル。無事でいてくれるといいが。
鉱山にレオは入れるのだろうか?とりあえず向かうしかないな。
立ち上がり、ハイママ鉱山を見つめる俺達の背後から、突如大声が聞こえる。
「俺様参上!!!その依頼!!最強の俺様が!君達の笑顔を!取り戻す!」