俺も東京タワーより高く跳んでヤバイ
ヴァチ国獣機研究所はピンチを迎えていた。サカオオ国はヴァチ国軍本部基地を集中攻撃していたが、敗戦が濃厚と見ると、その矛先を変え、獣機の生産及び開発を行っている研究所を潰す作戦に変更したのだ。
研究所では、操者学校から士官仕立ての訓練生が獣機に乗り込み防衛に当たっていたが、すでに限界が訪れ様としていた。
「お前達、例のアレを起動するにゃ!ここで壊されたらどうしようもないにゃ」
研究所所長のネールが叫ぶ。
「ハイ!ですが起動出来ても操者がいません!」
「今向かってるはずにゃ!」
その頃ヤマト達は・・・
「すごい!早い!ポポル楽しい!」
「レオはね〜ジャンプも出来るんだよ〜」
「どういう仕組みなんですか?お姉様。」
「オェ、すみません。短距離高速移動の連発はウッ」
「流石聖操者じゃのう。あ、ワシにもリンゴくれるかのう」
「ダメ!ポポルのだもん!」
うるさぁぁぁぁぁい!!ギュウギュウの車内で騒ぐんじゃない!
俺は操者学校を出て獣機研究所に向かっていた。
まぁ向かうといっても隣の敷地だからそんなに距離はないが、すでにセリスは酔っている様だ。
「PON! この先渋滞があります」
突然のナビ水晶の声に画面を見る。獣機研究所の周りに赤い点がバラバラと見える。
100機はいるだろうか?まずいな。いくらレオヴァイザーでも1機でそんなには相手出来ないぞ。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
突然の爆音と共に、周りの建物を破壊しながら研究所が地面ごと盛り上がる。
地を割り、漆黒の巨大な何かがせり上がっていく。
「ヤマト。アレを見るのじゃ」
「うわー!ポポルあんなデカイ馬始めてみた!」
「大きいね〜お城の亀さんみたいだね〜」
「ヤマト様!あの馬の背中に研究所が乗っています!」
揺れが収まると漆黒の六本脚の馬の獣機が姿を現した。
セリスが言った通り、背中には研究所の本館が乗っている。
「超大型獣機艦スレイプニルじゃよ」
「スレイプニル。噂は聞いていましたが、研究所の地下に作っていたのですね」
「流石お姉様です。私は聞いた事もありませんでした」
「ネールはあそこにおる。レオなら届くじゃろ」
スレイプニルの上の研究所を指差しながら学校長が言った。
確かに高度跳躍でギリギリの高さだ。
だが、簡単にはいかなそうだ。
レオヴァイザーの前に巨大な蛇の獣機が立ち塞がる。
操者学校で戦った蛇とは様子が違う。蛇なのに蝙蝠の羽みたいのがついているし、短い手と立派な足も付いて二足歩行している。いや、尻尾も使っているから三足歩行か。
正直、出来損ないのドラゴンにしか見えないが。
「神獣ギーヴルじゃな。あれは獣機じゃがワシは本物と戦った事があるのじゃ。」
「ギーヴルだかバーベルだか知らんがやるしかない様だな」
向こうもやる気みたいだ。蛇の様な舌をチロチロ出して威嚇している。
こっちの4人もやる気みたいで、ヤマト早く戦えという視線が痛い。
覚悟を決め、 ホバーで近寄り斬りかかる。
練習を半日しかしてない付け焼き刃だが、構えや振り方は以前よりだいぶマシになったはずだ。
だが、やはり付け焼き刃。軽く避けられ、ギーヴルは長い尻尾を振り回し反撃をする。
尻尾をなんとか盾で防ぐが、受け切れずに吹き飛ばされ、建物にぶち当たる。
ギーヴルが突進し追撃の噛みつき攻撃が来る。
ガチン!
避けきれず腕を噛まれる。振り回すが噛み付いたギーヴルを引き剥がせない。
「くっ!離れん」
噛み付いたまま、青い目を光らせるギーヴル。
グポォン
雑音と共にナビ水晶へ通信が入る。
「我はサカオオ国ドラン将軍なり、我がギーヴルの毒牙に噛まれし白獅子よ。降参し、その獣機を置いて去れ」
どうやら通信相手はギーヴルに乗ってる奴らしい。無精髭のよく似合う青いトカゲの獣人だ。
降参しろとの事だが返事は決まっている。
「断る」
短く簡潔に答えるのが主義なもんでな。
「そうか。てばギーヴルの即死級毒を味わうがいい。さらばだ」
そう言うとギーヴルの毒牙から大量の液体がレオに流し込まれる。
こいつ聖障壁を突き破っていたのか・・・
「クッ。毒が・・・」
レオヴァイザーが力なくうなだれる。
「死んだか」
ドランはレオヴァイザーを噛んでいたギーヴルの口を開け解放する。
刹那。レオヴァイザーがギーヴルの首を刎ねた。
「馬鹿な。確かに即死級毒を・・・」
「悪いな。毒は効かないんだ」
首の無くなったギーヴルが前のめりに倒れ、爆発する。
ズガァァァァァァァァァァァン!
女神のギフト、状態異常無効化が初めて役に立ったな。
今まで眠気や車酔いに聞いてなかったから、ちょっと心配だったが無事働いた様だ。
俺以外にもレオに乗っている人には効果あるようだ。
車内4人の下手な演技がばれなくて良かった。
聖障壁での防御を突き破ったのはディオニュソス以来だ。結果的には不意を衝く事が出来たのでよかったが、過信していると死ぬかもしれない。
戦争をする気がなかったので強化を考えていなかったが、身を護るためにレオヴァイザーについて深く考える必要があるかもしれないな。結構獣機を倒してきたはずなのでGPも少しは貯まっているはずだ。
「ヤマト様、スレイプニルが攻撃されています」
「わかった足元の奴らを倒したら跳ぶぞ!」
一番近いスレイプニルの脚に噛みついているるワニの獣機を斬り伏せる。
しかし、次から次へとワニやトカゲの獣機がスレイプニルの脚に遅いかかる。
「お馬さんで踏みつぶせばいいのに!」
「そうだよ~やっちゃえ~」
スレイプニルは一歩も歩かない。と、いうか動けない様だ。
「操者がおらんのじゃろうな。どこかに優秀な操者がおらんかな?隊長の経験があったりするといいんじゃが」
「ヤマト様!ここに二人います。ワタシとライリー!」
「ヤマト様お姉様と私を研究所へ!」
学校長のネタバレか予想のギリギリの範囲での助言に二人揃って胸に手を当てる。
「わかった!予定変更だ。今すぐ跳ぶぞ!!」
辺りの邪魔になりそうなワニを斬って踏み台にし、少し高い建物へ駆け上がる。少しでも高さをとる為だ。
短距離高速移動を発動し加速する。
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおお!高度跳躍!!!」
レオヴァイザーが飛ぶ!
スレイプニルの背中の研究所までは高さ200m以上はあるだろうか?
加速したおかげがレオヴァイザーはその2倍の高さは飛んでいる。
東京タワーより高い!!
「飛んでる!飛んでる!」
「わ~すごいね~おんなじだね~」
「ウッ・・・オエ」
「お、お姉様大丈夫ですか?」
「ほれ、もう着くのじゃ」
重力に引っ張られて足元の獣機研究所が迫る。
あ・・・
どうやって着地したら?
ホバーを使って位置を調整しようとするが落下のスピードが速すぎる。
車内は阿鼻叫喚となる。平気そうなのは爺とアップゥのみだ。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああ」
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
レオヴァイザーは着地して。
研究所の屋根を破壊して・・・・
目の前には腰をぬかしたネールが座っていた。危なかったな。あと3m前ならネールは完全に潰れていたぞ。
レオをトラックへ変形させ破壊された研究所へ降りる。
「ま、間に合ったようにゃ」
「ネール!」
セリスとライリーの二人が揃って声をかけ駆け寄りネールと抱き合う。
「ささ、話はあとにゃ。ちょっとこっちに来るにゃ」
「はい!」
「みんなもこっちに来るにゃ」
ネールは皆を研究所の奥の扉の前へ連れて行く。
「ここが操縦室にゃ」
操縦室の中心には大きな水晶が置かれ、正面と左右には外の様子が映るモニターの様なものがある。
戦艦の操舵室みたいな感じだな。セリスとライリーは水晶の前の席に座らされた。
「あの。操者なら聖操者のヤマト様の方がいいのでは?」
「あいつはだめにゃ。操者力が強すぎてミスリルが溶けてしまうにゃ」
操者力ってなんだ?初めて聞くんだが。確かにミスリルの針金は溶けてしまったな。あれは強すぎて溶けたのか。
「水晶に力を操者力を込めて二人の息を合わせるにゃ」
「はい!」
「じゃあいくにゃ!超大型獣機艦スレイプニル!!イグニッション魔道障壁展開!にゃ」
「イグニッション!魔道障壁展開!」
セリスとライリーがネールの言葉を復唱する。
水晶が淡く光り、その光が操縦室全体を包むていく。青と赤の光のラインが操縦室中の壁に張り巡らされる。多分青はセリス、赤はライリーの様だ。
モニターに外の様子が映し出される。どうやら!魔道障壁というのが展開されたらしく、スレイプニル全体を紫のオーラが覆っている。
青と赤が混ざって紫のオーラなのだろうか?漆黒のスレイプニルによく似合っている。
ワニやトカゲの獣機がスレイプニルに攻撃するが、魔道障壁に弾かれている様だ。
「これは?聖障壁なのか?」
「レオヴァイザー程強力ではにゃいが雑魚共なんかにゃ破れないにゃ」
「フォフォッフォッ。ネール。よく間に合ったのう」
「原理自体は出来ていたにゃ。でも肝心の強力なコアがなかったにゃ。ヤマトが持ってきたアレイオンのコアが変化していなかったら駄目だったにゃ」
「アレイオン!?アレイオンのコアを使っているのですか?」
セリスが喜びの声を上げる。
「よかった。アレイオン壊しちゃってごめんね」
セリスが優しく水晶を手で撫でた。
足元ではサカオオ国の獣機が攻撃していた。
「セリス、ライリー足元の雑魚共を踏みつぶすにゃ」
「了解!」
セリスとライリーが再び力を込めるとスレイプニルがゆっくり動き出す。
レオヴァイザーと違ってちゃんと揺れるみたいだ。揺れるのが普通なんだが。
「いっけー」
「ふんじゃえ~」
ポポルとアップゥが操縦室を駆け回る。
爺はちゃっかり艦長の席でお茶を飲んでいる。未来が見える艦長とか強すぎないか?
でも、未来について指示すると死ぬんだったっか。艦長には向いてないな。
スレイプニルは6本の脚をドスドスと踏み降ろし、獣機を踏みつぶしていく。
その度にゆらゆら揺れるが6本脚のおかげでバランスはいいらしい。
勝ち目がないとみるとサカオオ国の獣機は撤退を開始し始めた。多くの獣機は潰され、蹴られ、破壊された。ヴァチ国は何とか窮地を脱する事が出来たのだ。
「やったー!やったー!」
「よかったね~」
ハイタッチするポポルとアップゥ。
「セリス、ライリーよくやったにゃ」
セリスとライリーもハイタッチしている。ライリーはお姉様の手を触れたので興奮している様だ。
「ヤマト様!私にもちゃんと出来ました!」
セリスが瞳を潤ませながら手を握って来た。彼女は彼女なりにアレイオンが何も出来ないうちに壊されてしまった事を悩んでいた様だ。
「ああ、良くできたな」
手を優しく握り返す。
「ああ、貴様!!!お姉様に手を出したな!!」
ライリーが手と手を握り合っている俺とセリスを見つけて抗議の声を上げ、ドン!とライリーに突っぱねられて後ろへよろける。
おっとっとっと
ペタ。
プシューーーーーーーーーーーーーーーーン
突如操縦室が真っ暗になる。モニターも水晶の光も消えてしまった。
「なんにゃ! なにが起こったにゃ!!」
「敵の攻撃か?それか無理して動かしたからか?」
「馬鹿にゃ!もう敵はいにゃいはずにゃ」
スレイプニルが動かなくなり悩み始めるネール。
俺が悪いんじゃないよな・・・俺が水晶を触ったから・・・
だとしても押したのはライリーだからな。俺のせいじゃないぞ。
真っ暗な部屋の中でアップゥの非情な声が響き渡る。
「ヤマト~水晶触ったら壊れちゃったね~アハハハハハハ~」
第三章終わります。
いつもお読み頂きありがとうございます。ブクマ評価して頂けると幸いです。