俺もたまには観光したくてヤバイ
女神の間2の担当JOBは[聖僧侶]である。白魔法使いの強化版だ。
高度な白魔法が得意なJOBなのだが、ハンマーを使った攻撃も得意だ。今回女神の間2に召喚された女の願いは、事故で一緒に死んだ男とずっと一緒にいる事だった。地球では幼馴染で、友達以上恋人未満の関係を何年も続けて来た。
転生した今度こそ決着をつけたい。
そう願ったのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
セリスの操縦するガルシープが鋭い剣撃を繰り出す。
俺はかろうじて盾で防ぎ反撃を試みる。
が、盾で防いた筈の剣はレオヴァイザーの隙だらけな脇腹へ直撃する。
ガガガガガガ
聖障壁が発動しガルシープの剣が弾かれる。
弾かれた剣を構え直し何度も斬り付ける。
ガガガガガガ
だんだん慣れて来たのかガルシープの動きが早くなってくる。
ガガガガ!
ガルシープの剣が当たるたびに聖障壁が発動する。
俺は剣を振るが、ガルシープにあっさり回避され隙を攻撃される。
「ヤマト様!だんだんわかって来ました!」
「そうかそれは良かったな!」
レオヴァイザーの攻撃の当たらなさにちょっとイライラして、こっそり短距離高速移動とホバーを組み合わせて背後に回り突撃する。
「ヤマト様!見え見えです」
後ろに目があるかの様に回転斬りをする。
「セリスもな!」
俺は高度跳躍で回転斬りを避けながら飛び蹴りする。
流石に回避出来ずに飛び蹴りが当たりガルシープが吹き飛ぶ。
プッピッガン!
ゴロゴロと転がり地面に倒れるガルシープ。
「流石ヤマト様です。イタタタッ」
「大丈夫か?セリスこそすごかったぞ。初めてであんなに動けるなんて」
「だんだん自分の体の様に動くようになりました」
「俺はやはり剣の才能がないからか、セリスに擦りもしないな」
「ふふふふ。それは剣の練習が足りないからですね。後で教えますから覚悟して下さい」
どうやら剣の修行とやらをさせられる羽目になりそうだ。
なにか理由をつけて逃げなくてはな。
ガルシープをお姫様抱っこして広場の中央まで連れて行き立たせた。
レオヴァイザーとガルシープから揃って降りると、研究所の職員達が盛大な拍手で出迎えてくれた。
アップゥは俺に賭けていたのかお金を集めている。
なんてエゲツない猫耳妖精なんだ。
ネールが興奮して今のはにゃんにゃ?跳ねたのはにゃんにゃ?と聞いてくる。
いずれバレるだろうが黙っておいた。
今の練習試合を見て職員達は、ヴァチ国の獣機に何が足りないか話し合い始めた。
流石プロ軍団だな。こうやって研究は進んで行くのか。
セリスはガルシープが転がった衝撃で少し足を擦りむいたりしたようだった。
「大丈夫か?血が出ているぞ」
「ヒールで治りますから。レオヴァイザーと違って振動と景色がマッチしているので、酔わないのはいいですね」
言われて血が出ていた事に気づいたセリスがヒールを掛けて治す。
回復魔法って便利だな。
「そう言えば、回転斬りが使えました。私でも獣機でスキルは使えるみたいです」
聞き耳を立てていたネールが叫ぶ。
「にゃんと!獣機でスキルが使えるのかにゃ!」
あ、もうバレた。
「俺は武器のスキルって言うのか?ソレを覚えていないからな。そもそも覚えられるのだろうか?」
「操者は短距離高速移動とかのJOBスキルがありませんからね。そのかわりにレベルも関係無しに、何のJOBスキルでも使えるヤマト様の聖操者は、特別なのかも知れません」
「片手剣スキルは上がるのか?」
「水晶に表示はされませんが練習すれば上手くなる筈ですよ」
「練習か・・・」
戦いたくないでござる。練習したくないでござる。
「午後からは生身で練習しましょうね」
「れんしゅう〜れんしゅう〜」
アップゥは呑気でいいよなぁ。人の気も知らないで。
転生前も身長の高さからスポーツが出来る様に見られて、バスケやらバレーをやらされたっけかな。
試合はいいけど練習は嫌いだった。
練習の効果がステータスとして見れたら頑張るのにと何度も思ったが、異世界に来てステータスが見れる様になっても、練習するのは嫌いだな。
要するにただの言い訳だ。
研究所の食堂でお昼を食べて、約束した通りセリスと剣の稽古をした。
体がガチガチに痛い。素人の俺にセリスは容赦が無かった。
体が青あざだらけになったので、休憩室でセリスにヒールして貰った。
休憩室のドアを開けたら、壁にコップを当てた職員達が並んでいた。
俺とセリスが出てきたので口笛を吹いて誤魔化したり、コップの汚れを確認している。
優しいから見逃してあげよう。
研究所の職員寮を貸してもらえた。2日続けてベットで寝れる様だ。
俺はベットに横になり目を瞑る。
明日の予定は無いが多分稽古だろう。
あぁそうだ。明後日にはモリオア国の姫様を連れて出発だった。
しばらく戻れないし、ヴァチ国の街を観光するとかどうかな?
買い出しもしないといけないしな。
これは剣の稽古は出来ないな。
あー残念だ。稽古出来ないわー
なんて考えていたらいつのまにか寝てしまった。
夕飯も食べていないのにグスン。
朝になりセリス達が起こしに来た様だ。
「ヤマト様起きて下さい。朝ですよ」
「ヤマト〜!起きてよ〜」
「ん?セリスが、なんで俺の部屋に」
薄目を開けて確認するとセリスはいつものチェストアーマーではなく、薄い青のワンピースだった。
鎧姿以外のセリスを始めて見たな。
かなりおめかししている様にも見える。
「おはようございます。アップゥに開けて貰いました」
アップゥめ。プライバシーも何も無いな。
「おはようセリス。実は今日なんだが・・・」
「ヤマト様今日はお疲れでしょうし、ヴァチ国を案内します。」
まさかセリスの方から言われるとは思っていなかったのでびっくりした。
もしかして稽古が嫌なのを察して、街を案内してくれるのか?
なんという心遣いだ。
セリスはいい嫁さんになりそうだな。うんうん。
なんて思いながらセリスを見ると、いつもより身長が高い。
今日はカカトの高いサンダルなんだな。
「どうでしょうか?」
「どうって?可愛いと思うぞ」
「い、いえ。そのヴァチ国の案内でいいでしょうか?」
褒められて顔を真っ赤にしたセリスが聞き直した。
「あ、ああ。そうかすまん。ヴァチ国を見てみたい。しばらく戻れないだろうし、研究所しか見てないんだ」
「わかりました。ご案内します。では朝食へ参りましょう」
「ああ、すぐ行くから先に行っててくれ」
「はい。わかりました」
セリスが部屋から出て行く。
おめかししたセリスを廊下で見た職員達が嘆き悲しむ。
「あーあの子供の様に無邪気なセリス様がついに・・・」
「あぁ。天使も大人になるんだな」
「セリス様が幸せならそれでいいだろう。俺達セリスファン倶楽部は永遠だ」
「大人のセリス様もお綺麗です。ううう」
「泣くんじゃない。うぉぉぉん」
咽び泣く職員達を横目にネールは呟く。
「だからセリスに手を出すにゃと・・・」
廊下が騒がしかったが無視して食堂へ入る。
セリスが席を取っていてくれたので座るが、何故か周りの視線が痛い。
視線と言うか、殺意の波動?
楽しいはずの食堂に泣き声と鼻をすする音が響いている。
「何かあったのか?」
「さぁ。私にもわかりません」
「セリスが〜大人だから泣いてるんだって〜」
アップゥが、訳のわからない事を言ってる。
「本当、変な人達ですね」
まったくだ。
朝食を食べた俺とセリスは街へ向かう事になった。
流石首都だな。乗り合い馬車が配備されてあった。
ヴァチはかなり巨大な円形の街で、中心にヴァチ城があり、その周りに各省庁がある。
獣機研究所と操者学校もその中にあった。
乗り合い馬車はバスの様なもので、銀貨1枚で街の中ならどこでも乗り降りできる。
5歳の頃からここで暮らすセリスは慣れたもので、バスガイドならぬ馬車ガイドをしてくれた。
「あれが勇者の丘公園で伝説の剣が刺さってます。抜けたら貰えますよ」とか「右手に見えるのが冒険者ギルト本部です。Bランク以上しか入れないですよ」など詳しく話してくれるのでついつい一周してしまった。
冒険者ギルドの前で、男女の二人組がセリスに向かって言った。
「綺麗なお姉ちゃんありがとう。よかったら今度お茶でも・・・いててて」
「もーイサムったらいい加減にしなさい」
2mはありそうな両手剣を、斜めに背負った金髪の男と、綺麗に金で装飾された巨大なハンマーを背負った黒髪の女だ。女は男の耳を引っ張りながら降りていった。
男は最後まで笑顔だった。
「んで、セリス。どこに行くんだ?」
「えっと実は研究所のとなりの操者学校に、あ、もうすぐ着きます。」
研究所のとなりの操者学校には歩いてでも行ける。馬車に乗ったのはセリスが自分の街を案内したかったのだろう。
乗り合い馬車から降りて操者学校に入る。
学校といっても敷地の中には商店街があり、まさに学園都市の様な感じだった。
セリスはまっすぐ本校の方へ俺を連れて行く。
「ちょっとヤマト様に会って頂きたい方が居まして」
「俺に?」
まさか両親に紹介かと一瞬身構えたが、別にそんな関係でもないからいいか。
「えっと、学校長です」
「そうですワシが学校長です」
「うわっ!」
突然後ろから話しかけられ驚く。
「もう、学校長様は相変わらずなんですから」
「いやいやすまんすまん。その男が聖操者じゃな」
そこにいたのは、足元まで伸びた白い髪と髭に長い杖、銀で細かく装飾された赤いローブのお爺さんだった。
「はい。ヤマト様です」
「確かにエルフじゃな。ワシが学校長じゃ。ちなみに転生者じゃ」
「なっ!そんな簡単にバラすもんなんですか?」
初対面の相手にいきなり極秘情報を話す爺さんにびっくりする。
「バラすも何もみんな知っとる事じゃ。ま、ワシは200年前に転生したからのう」
「200年ですか。確か魔王も200年前に・・・」
魔王が200年前で勇者が100年前だったかな?
この爺さんは200年生きてるって事か。
「魔王と同期じゃ。ちなみに前世の名前は田中じゃ。あまりに平凡なんでカナタに改名したのじゃ。遥か彼方ぽくてカッコいいじゃろ」
髭を触りながらポーズをとる爺さん。
「もう、学校長様ったら誰にでも話すんですから」
「じじい〜長生きだね〜」
アップゥは爺さんな髭を引っ張って遊んでいる。
「もう一つ言うとワシは魔王の四天王の一人でな、改心したというか裏切ったと言うか。まぁ勇者の仲間でもある」
本当なんでもペラペラ話す人だな。ネタバレすぎだろう。
「終わった話じゃでな。詳しくはワシの伝記がそこの受付で売っておるから買うと良い。たった銀貨7枚じゃ」
「ヤマト様。買わなくても初級クラスの教科書に書いてあるような話です」
心配しなくても買わないから!
「で、俺に会いたい理由とはなんですか?」
「そうじゃな。ぶっちゃけると、この操者教育学校はお主の為に作った」
ぶっちゃけすぎじゃない?
いつもお読み頂きありがとうございます。ブクマ評価していだけると嬉しいです。
スキルには武器スキルと武器鍛錬スキルとJOB行動スキルがあります。
武器スキルは二段斬りや回転斬りなどの技 (リキャストタイム有り)
武器鍛錬スキルは片手剣や両手剣などの熟練度の事です。例 片手剣スキル100
JOB行動スキルはJOB毎に使えるとんずらなどのスキルです。