俺の聖獣がレーザーでヤバイ
「PON! この先渋滞があります」
ナビの突然の音声に俺とアップゥは目を白黒させる。
「渋滞? そんな馬鹿な……」
リナターだかナタリーだが忘れたが、平原に渋滞だなんて聞いたことがない。
この世界には車があるのか?
トゲの付いたバギーみたいな車が走り回って、hyahoooooo!! み……水……の世紀末な世界に来てしまったのだろうか?
ナビを確認する。MAPのレオ前方に赤い点が無数に見える。
これってナビの機能よりもマーキングに近いな。
赤い点は数を増やしながら徐々にこちらに向かってくる。
やがて赤い点は赤い面へと変化した。
「すっご~い!いっぱいだよ~ど~ぶつえ~ん」
フロントガラスから外を見つめるアップゥ。
その目線の遥か先には巨大な動物達がいた。
遠くてよく見えないがその大きさから見て、全部機械の動物達だ。
中心にいるのは巨大なゾウガメ。その甲羅の上には石造りの城が乗っていた。
巨大ゾウガメ城を中心に、サイやカバなどで構成された動物型の機械軍団がこちらに向かって来ていた。
幸いな事に、進行スピードは巨大ゾウガメ城に合わせているのか、かなり遅い。
こちらを発見して向かっているというよりも、進行方向に俺がいる感じだ。
なにより数が多い。一万はいるんじゃないだろうか……動物園なんてもんじゃないぞ……
「このままじゃ不味いな……ペシャンコにされちまうぞ」
「ねぇヤマト逃げようよ~こわいよ~」
「逃げられるならとっくに逃げてる。動かないんだ」
「え~死んじゃうよ~」
無茶を言われても困る。ハンドルを握ってもアクセルだった場所を踏んでも、ピクリとも動かないのだ。
「アップゥ!これの動かし方知ってるか?」
「知らないよ~ヤマトの好きな女性のタイプ位しか知らないよ~」
こいつに聞いた俺が間違いだった。そもそもなぜ俺の好きなタイプを知っている。
どうにか動かそうと、運転席についているボタンを順番に押してみるが反応がない。
コン!
イテテ 色々試している内に、肘がナビに当たってしまった。
「PON!操者を登録して下さい」
おおナビよ……お前だけが頼りだな。どこかの役に立たない猫耳スマホ妖精とは大違いだ。
ナビ水晶には右の手の平のマークが表示されていた。
俺は恐る恐る手の平をナビ水晶に近づける。
「このマークに手を付ければいいんだな」
ズニュニュ……
手の平を付けるだけの予定だったが、想像以上に深く入り込み、ズブズブと手首まで入ってしまった。
水晶の中はとってもあったかいなり……
「PON!操者登録されました。んっ……アッはぁん。手をお戻し下さい///」
言われるまま俺は手を引っ込めると、水晶玉の中からちゅぽんと抜けた。
なんとなく水晶が赤面した様な気もしたが、気のせいだろう。
「PON!マスターサガワヤマト。現在状況を表示いたします。ご確認下さい。」
ナビには俺のステータスが表示されていた。
名前 サガワ ヤマト
種族 エルフ
性別 男
年齢 20
JOB 聖操者
レベル 1
HP 20/20
MP 5/5
STR 8
DEX 4
VIT 10
INT 3
MND 5
女神のギフト
状態異常無効化
体力自動回復(S)
魔力自動回復(S)
スキル
無し
称号
理の破壊者
聖獣機
レオヴァイザー
操者 サガワ ヤマト
属性 聖
HP 4500/4500
EN 180/180
装甲値2300
運動性115
照準値120
サイズM
女神のギフト
状態異常無効化
体力自動回復(S)
魔力自動回復(S)
スキル
無し
ナビに表示されたステータスを見て、俺は改めて別の世界に来てしまったのだと実感した。
種族はやはり想像した通りエルフ。年齢は20歳か。15歳も若返ってしまったな。
JOBは清掃車らしい……違った聖操者か。運転手みたいな感じか?
後のステータスはゲームっぽい。実はよく知らない。あんまりゲームとかやらなかったもんで。
MPがマジックポイント?だとしたら魔法も使えるのだろうか?
女神は剣と魔法のファンタジーとか言っていたしな。
女神のギフトは[壊れないように]と[燃料なんとかして]とお願いしたからか、状態異常無効化・体力自動回復(S)・魔力自動回復(S)が付いていた。
(S)が小なのかスーパーなのかはわからない。
どちらにしても燃料や故障の心配はいらなそうだ。
女神の間で相談する時間がもっとあれば、色々お願い出来たのかもしれないな。
種族や性別やスキル位は選べたのかもしれない。
トラックを壊れないようにしてくれと、お願いしただけなのに、俺にも女神のギフトが付与されているのは正直ラッキーだった。
逆にアンラッキーだったのは、時間が無くて女神にお願い出来なかったせいで、特別なスキルは無し。ゼロだ。
白いライオンロボへ変化したトラックの名前は、レオヴァイザーという聖獣機らしい。
「ヤマト~来るよ〜こっちに来るよ~いっぱいくるよ~」
ステータスの確認に夢中になっていた俺に、アップゥが大騒ぎしながら忠告する。
そういえば機械の動物達が迫って来てるんだった。
まずはこの状況を何とかしないとな。
ここはともかく困ったときのナビ頼り。
「ナビ!前方の奴らをどうにかしないとヤバイんだ。なんとかならないか」
「PON!了解しました。マスター。表示されたボタンを押してください」
ナビ水晶に何か表示された。が、同時に水晶の前に飛び込んで来たアップゥのせいで見えない。おい邪魔だ!
「これだね~ぽちっとな~」
「おい!アップゥ勝手に押すんじゃない!」
「PON!レオヴァイザー起動します」
「ちょっ!ちょっとまて!」
運転席のよくわからないメーター類が一斉に青く光りだす。
GAOOOOOOOOOOOOON!!!!
レオヴァイザーが首を振り上げながら雄叫びを上げる。
「PON!シートベルトをお忘れではありませんか?」
そうだった。安全運転には欠かせないよなシートベルト。安全なんだよな?危なくないよな?
「PON!人機モード解除。聖獣人機形態へ移行いたします。」
「人機!?人型になるのか!」
白いライオン型だったトラックは、複雑な変形機構を行いながらガチョンガチョンブッピガンと人型へ変形した。
白と金の装飾された中世時代の騎士鎧。
背中には赤いマント当然シロネコトマトのロゴ入り。頭部には獅子の装飾がされた冠。
鬣の様に広がる銀髪には機械的な硬さはなく、風になびいていた。
顔だった部分は盾に、尾は両刃の光輝く片手剣へ変化した。
両刃の片手剣にも細かい金の装飾がされておりとてもカッコイイ。
男心を擽るデザインだ。
レオヴァイザーは変形を終えると再び雄たけびを上げた。
GAOOOOOOOOOOOOON!!!!
深緑の眼を輝かせ、獅子顔の盾に上から剣を差し込み膝を地に付けると、前方の獣機達の方へと向けた。
獅子顔の盾の口に光が集まり始める。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
レオヴァイザーの全身が眩い光に包まれる。
何が起こっているのかまったく理解出来ない俺にも、ひとつだけわかる。
あ、これ絶対ヤバイ奴だ。
「PON!超次元破壊砲」
「オィイイイイイイイイイイイイイイイイイ」
バジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン……
収縮された光のエネルギーが、獅子顔の盾の口から太い光線となって放たれた。
ズガガガッ!!!
エネルギーを放った反動で、レオヴァイザーはゆっくりと後退していく。
超次元破壊砲は前方にいた大量の獣機達を消し去りながら、城の乗った巨大なゾウガメへ直撃。
「おい! やりすぎだ!」
衝撃と光の眩しさにパニックとなった俺は、超次元破壊砲を止めようと、必死にハンドルを握りしめ右にきった。
「とおおまあああああれええええええええええええええええ」
ズガガガガガガガ!!!!
レオヴァイザーは俺がハンドルを右にきった事で右を向いた。
超次元破壊砲を放出したまま……
バシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ……
超次元破壊砲は扇状に大地を薙ぎ払い、獣機達を一匹残らず消し去った。
超次元破壊砲の威力はそれだけでは収まらず、遥か彼方にある竜王の寝床と噂されるギリコノ山の山頂を消し去り、大気圏を抜け、この世界に二つ存在する月の内のひとつ[暗月]を貫いた。
この事件は後に[白獅子の咆哮]として語り継がれる事になるのだが、今の俺には関係の無いことだった。