二章閑話 ヴァチ国特務獣機部隊隊長
私が5歳の時、両親と別れました。
それ以降20年経つが、一度も顔を合わせていません。
5歳のステータス確認時に操者と表示された時は何が起こったのかわかりませんでした。
母は泣いていて、父は笑っていた。
ヴァチ国操者教育学校行きが決まったのです。
売られたと思いました。
金の為に両親は娘を売り払ったのだと。
ヴァチ国操者教育学校に着いた夜、私は一晩中泣きました。
操学は良い学校でした。食事は食べ放題だし勉強は面白いし、何より5歳なのにお給料が貰えました。
学校にいる生徒みんなが同じだと思っていたが、そうではないことがわかったのは7歳の頃でした。
食事が食べ放題でお給料が貰えるのは、操学の中でも上位だけだと。
操学校は5歳から12歳が初級クラス。
午前中は基礎的な国語や算数など基礎教育を行い、午後から操者の基礎訓練であるミスリル訓練と武術訓練を行います。
貧困家庭で育った私は、まさか勉強できる日が来るとは思っていなかったので嬉しかった。
昼夜を問わず勉強しながら剣を振り回しました。
父や母を見返してやりたいという気持ちもありました。
私には操者と片手剣の才能があったのですが、魔法の方はヒール位しか使えませんでした。
初歩的な簡易回復魔法のヒールしか使えないプレッシャーのせいで、逆に攻撃を回避する訓練を人の3倍は行いました。
おかげで7歳の時の初級クラス武術大会で優勝しました。
初級クラス卒業の12歳になるまで5連覇しました。
その頃には青薔薇の騎士と呼ばれる様になっていました。
青い色の服が好きだったのでよく着ていたのが原因だと思います。
薔薇についてはよくわかりません。
特に薔薇が好きな訳ではなかったので不思議でした。
気づくと父や母の顔は忘れていました。
その事に気づき、見返したいという気持ちも消えました。
13歳になり中級クラスになると剣の才能は更に開花し、上級クラスでも敵う者はいなくなりました。
操者の才能もメキメキ上達し、ミスリルの針金に魔力を込め、曲げたり伸縮させたりして薔薇を作りました。
薔薇を選んだのは青薔薇と呼ばれていたのでなんとなくです。
見事な薔薇は今でも操者学校の玄関に飾ってあるらしいです。
16歳になり上級クラスになったある日の事、上位の者のみが地下訓練場に集められました。
ヴァチ国が極秘裏に開発していた兵器の操作者として訓練する事になったのです。
それは[獣機]と呼ばれ可愛い羊の形をしていました。
獣機はコアとミスリルと装甲で出来ていました。
操者はミスリルに魔力を込めて伸縮したり曲げたりして獣機を操作します。
操者は脳となり、ミスリルは言わば筋肉で、巨大な獣機を動かすには多大な魔力が必要になるが、それを補い魔力を増強するのがコアだそうです。
集められた上級クラスの操者達は自分たちの訓練の意味を初めて知しました。
その日から獣機を動かす訓練が始まったのです。
始めはまともに動かせなかった獣機も一月後には走れるようにまでなりました。
半年後の獣機同士の戦闘訓練で私の羊は他の生徒を蹂躙しました。
20歳で士官すると私はヴァチ国初の獣機部隊の隊長となりました。
ある時隊員の一人が言いました。
「セリス様はお綺麗ですし、学生時代はさぞオモテになったでしょう」
ハッとして気づきました。
私は知らなかったのです。
人は恋愛をするものだと。
男と女は恋をするものだと。
私は恋を知らずに大人になりました。
訓練に明け暮れた毎日。男の人になど目をくれず広げた教科書。
操者学校には性教育など存在せず、よく考えたら私は子供がどこから来るのかも知りませんでした。
私は気にしないことにしました。
どうせ子供など持つ気はありません。
父と母に捨てられた私は子供の愛し方など知らないからです。
恋なんてしない。愛なんて知らない。
そんな相手現れない。
現れた。
それは突然に。
ギバライ国が侵攻を開始するかもしれないと情報が入りました。
それも獣機を使った侵略だと。
偵察任務として私はワラサ街まで行く事になりました。
最新型である白馬の獣機アレイオンの性能チェックも兼ねて。
ワラサ街に着くとすでに獣機が襲った後でした。
火炎に包まれたカバ型の獣機が街を焼いたとのこと。
やはり情報は間違っていなかった様です。
ギバライ国も獣機を開発し侵攻に至るまで戦力を整えていたのです。
カバ獣機の被害は収まったのですが、白い獅子型の獣機に少女が連れ去らりました。
近くの森で白獅子が見つかり、私たちは森へ向かったのです。
私はその森の前でヤマト様に出会いました。
ヤマト様は間違いで捕まり街へ連行されるところでした。
背はすごく高く。銀髪で小さな妖精を連れていました。
そこへ黒い豹の獣機ディオニュソスが現れました。
部下の狼獣機は一瞬で破壊され、私の得意とする脇腹への後ろ蹴りも当たりませんでした。
桁違いの強さでした。なすすべもなくアレイオンは倒されてしまい、死を覚悟した私は思わず、「くっ!殺せ・・・」と呟いてしまいました。
その後は気絶してしまったので、よくわかりませんが、ディオニュソスはヤマト様が倒したとの事でした。
それも一歩も動かず、一撃で倒したとの事です。
私が手も足も出なかったあの黒い豹を・・・
興味が沸きました。
強さの秘密を知りたくて、アレイオンのコアをヴァチまで運んで欲しいとお願いすると了承していただけました。
レオヴァイザーという名前の白獅子。
ヴァチ国にはない人型への変形や、トラックと言うのでしょうか?馬のいない馬車に変形したり本当に不思議です。
中で使われている言葉も見たことない言葉で、100年前の日本から来た勇者達と同じ言葉かと思いました。
ヤマト様は知らないとおっしゃっていましたが本当でしょうか?
街で買い物が必要だと言うので街まで乗せて頂きました。
レオヴァイザーはものすごい速さで動くのに、振動が全くなく回りの景色だけが動くので酔ってしまいました。トラウマになりそうです。
街で買い物している時にアップゥさんと話しました。
「ヤマトはね~セリスがタイプだよ~」
「タイプ?タイプとは何ですか?」
「う~ん。好きってことかな~」
「す、好き?そそそれは、でも合ったばっかりですし・・・」
思わず赤面してしまいました。
好きだなんて生まれて初めて言われたんです。
操学にも男の人はいましたが私と目が合うとみんな逃げてしまって、男の人には嫌われるのかなって思ってました。
宿で夕ご飯を食べた時に、お酒の力を借りて思い切って誘ってみました。
もっとお話しがしたかったんです。
どういうつもりでタイプだなんてアップゥさんに言わせたのか。
出来ればアップゥさんのいない二人きりの場所で。
私は待ちました。
お話しして、もし本人から好きだなんて言われたり・・・でも合ったばっかりだしそんな事ないよね・・・
でも男の人と部屋で二人きりなんて・・・ももももももももしヤマト様がその・・・・
う、噂のききききききき・・・すとか使用としてきたら・・・・
ダメダメ!突き放さなきゃ!!でも・・・
顔を真っ赤にして考え込んでいたら熱くなってきて上着を脱ぎました。
私は待ちました。
朝になってもヤマト様は来ませんでした。
朝食を食べに行ったら変わらぬ笑顔で挨拶してくれました。
そうですよね。会ってまだ1日。
でも女性が誘ったのに来ないなんて。
「据え膳食わぬは男らしくない」でしたっけ、こういう時に使うらしいです。
100年前の勇者が言っていた言葉。
よく意味はわかりませんがイライラします!