俺が村で英雄扱いされてヤバイ
10万のヴァチ国軍を壊滅させたギバライ国軍であるが、その侵攻の足を止めていた。
ヴァチ国には何かがいる。
万機将軍ギズモの操る1万の獣機を殲滅した何かが。
未だ謎のままの兵器を確認する事が出来ていないのだ。
ヴァチ国内の何かが侵略者へ光を放つ。
レオの放った超次元破壊砲は見えない抑止力となっていた。
侵攻出来ないギバライ国に更なる凶報が届く。
ギバライの北に位置するモリオア国から宣戦布告を受けたのだ。
ギバライ国とモリオア国の仲は悪くはなかったし、貿易も盛んで戦争が起きる様な関係ではなかった。
問題は竜王の寝床とされるギリコノ山の山頂を破壊された事である。
竜王を崇拝するモリオア国は激怒した。
破壊したのはレオの放った超次元破壊砲である。
しかし方角がまずかった。
モリオア国から見ればどう見てもギバライからの攻撃である。
割と仲良くしていたのに、ある日突然殴りかかって来た様なものだ。
ギバライ国はヴァチ国とモリオア国両方と戦争状態となった。
一方ヴァチ国も窮地に立たされていた。
ヴァチ国から南に位置するサカオオ国が宣戦布告してきたのだ。
サカオオ国は、もともと仲良くなかった上にヴァチ国軍が壊滅したので攻める口実を探していた。
そこへヴァチ国方面から放たれた業火の竜巻が、サカオオ国の小麦畑を焼き払ったのだ。
業火の竜巻を放ったのはもちろんヴァチ国ではない。
アップゥの獄炎の竜巻である。
こうしてヤマト達が知らないところで四国が戦争状態になったのだ。
当のアップゥは幸せそうにリンゴをかじっていた。
共食いなのでは?と少し思った。
「なぁアップゥ。なんでマザーワームの残りHPが72万だとわかったんだ?」
最初は適当に言ったのか某龍の玉を集める系アニメのマネかと思った。
だがアレは53万だ。それに真面目に言ってそうな顔だった。
アップゥは確かに駄目猫スマホ妖精だが、嘘はつかない。
つかないと思う。
つかないんじゃないかな?
「あのね〜戦いが長かったから〜どれくらいあるのかな〜って思って鑑定したの〜」
「鑑定だと?そんな事できたのか?」
「うん!出来るかなって思ったら出来たの〜」
「どういうことだかわからんがすごいな」
「ええ、もしかしたらスマホ族って強いのかもしれませんね」
セリスは不思議そうにアップゥを見ていた。
強いどころの話ではない。
天候を変える魔法や遥か天空ま伸びる炎の竜巻を出していたぞ。
絶対怒らせない様にしないとな。
「とりあえず今日はこの先の村で休むか」
バラライ達と別れた後、砂漠をひたすら走り、ゲイナ村の近くまでやって来た。
既に日は落ち明月が上がっていた。
セリスが言うには月は二つある。
夜上がるのか明月。昼間上がるのか暗月。
太陽の眩しさからあまりよく見えないから暗月と呼ばれる。
どちらも神様が住んでるって逸話があるらしい。
「セリス。レオは隠した方がいいか?」
「大丈夫です。ヤマト様。この村の村長とは知り合いですから」
ほぅ。流石なんとか隊の隊長だな。
俺はレオを村の近くに停めた。
ゲイナ村は周囲を木の柵で守られた40軒程の小さな村の様だ。
レオに気づいた村人達が集まってくる。
「私が先に話して来ます。お待ち下さい」
セリスはレオから降りると、集まっていた村人達の中の一人に声をかけた。
背の高い強そうなおじさんだ。
背が高いといってもそれはセリスと比べるとだが。
なにしろセリスの身長は150cmしかない。多分おじさんは175位だろう。
俺は190以上。測ったことはないからわからないが。
二人は少し立ち話をすると、男が村人達になにか伝えていた。
セリスが手招きしたのでレオから降りる。
その途端巻き起こる拍手喝采。
村人達が揃ってヤマト様〜ヤマト様〜と頭を下げ始める。
えっとセリスは一体何の話を・・・この騒ぎは一体。
戸惑っていると先程セリスと話していたおじさんが口を開く。
「村を救って頂きありがとうございます。私が村長のビレジです」
「ビレジさん。この騒は一体何ですか?」
「ヤマト様がマザーワームとギバライ兵からこの村を、お救いいただいたとセリス様に伺いました」
セリスの方を見ると横を向いて口笛を吹くマネをしている。
「ささ、お疲れでしょう宿までご案内いたします」
言われるまま宿まで歩く。
俺が通ると村人が拝みながら道を開ける。
チラチラと横目でセリスを見るとクスクス笑っていた。
宿に着くと一番奥の高そうな部屋の前へ案内された。
「最高級のお部屋を用意しましたのでお二人でごゆっくりどうぞ」
「あの・・・別々の部屋を・・・」
「ヤマト様すみません。最高級のお部屋は一つしかありません」
「安い部屋でもいいんで・・・」
「村を救った英雄様と獣機隊隊長様を安い部屋に泊めるなどとんでもありません」
「はい」
どうやらこの選択肢はハイしか選べない無限ループの様だ。
俺は一緒の部屋でも構わない。
だが、見た感じ男性経験の少なそうな、いや経験などなさそうなセリスが可哀想だ。
現に嫌がって下を向いてしまっている。
付き合ってもいないのに同じ部屋だなんて、嫁入り前の女の子に問題でも起きたらどうするんだ。
ドン!
「ささっ遠慮なくお泊り下さい」
村長が両手で軽く背中を押した。
突然の事で思わずセリスの手を握ってそのまま二人で床に倒れてしまう。
覆い被さるように倒れて行く中、俺の右手は倒れたセリスの胸に・・・
ガツン!
ご自慢の青いチェストアーマーが無ければ即死だった。
チッとセリスが舌打ちした様な気がする。
それだけではない。
チッと宿屋の店主と村長が舌打ちした様な気もした。
怪しいな。
上に覆い被さったままセリスの顔を見る。
ほら見ろセリスは嫌そうに目をつぶっているじゃないか。
「らぶらぶだね〜ごゆっくり〜」
と言いながらアップゥが部屋に入って来たので慌てて離れる。
店主と村長はいつの間にか居なくなっていた。
「ゴホン。村長に一体どういう説明をしたんだ?」
落ち着きを取り戻したセリスに聞く。
「ゲイナ村にマザーワームとギバライ兵が迫っていたところ、ヤマト様が追い払ったと。村長の話した通りです」
「本当にそれだけか?」
「・・・はい」
怪しいな。嘘をついている味がしそうだ。
俺はなるべく有名になりたくないんだ。
有名になればそれだけ命の危険に晒される。
レオに乗っていれば安全だろうが、ずっと乗り続ける事は出来ない。
出来なくはないか。風呂もトイレもあるんだった。
いざとなれば引き籠るか。
ともかく面倒毎に巻き込まれない様にしないとな。
「今度から言いふらさないでくれよ」
「それはどうしてでしょうか。武勲は誉れです。」
「武勲を言いふらすなんてカッコ悪いだろう」
ハッとした顔で俺を見つめるセリス。
ドヤ顔でもしておくか。
「すみませんでした。ヤマト様。私は間違っていました。民を救うのは当然の事だと言いたいのですね」
泣きながら抱きついてくるセリス。
ガチン。
ご自慢の青いチェストアーマーが体に当たってすごく痛いです。
「私は馬鹿です!ヤマト様が行なった武勲を自分の武勲の様に自慢するなど。私は何もしていないのに。私は邪魔しかしてないのに。」
セリスが泣きながら俺の胸をポコポコなぐる。
えっと。硬い小手外してくれませんか?
「セリス。セリス!お前がいないとワームに勝てなかった。セリスは何もしてなかった訳じゃない!」
泣き喚くセリスの両手を握る。
スッと黙る二人。
青く透き通る瞳に俺が映る。
セリスはゆっくり目を閉じた。
ドガァァァァァァァァン!
村に響き渡る爆発音。
危なかった。いま雰囲気でキスしそうだった。
「な、なんだ!?」
俺とセリスは窓から様子を伺う。
レオを停めたあたりが騒がしい。
ドアが開き村長が入って来る。
「ヤマト様!なんの騒ぎでしょうか?」
今村長の廊下を歩く音が聞こえなかったけど・・・まるでドアの前で最初から聞き耳を立てていた様な。
あとその手に持った空のコップはなんですか?
宿屋の店主が村人から知らせを受け報告に来た。
「お楽しみの最中すみません!獣機が攻めて参りました」
いや楽しんでないから。
むしろかなり痛かったから。
小手が当たった場所が青あざになってるから。
「行くぞ。セリス!」
「私もいいんですか?私なんかで・・・」
「セリス!剣を教えてくれ!」
「はい!」
手を繋ぎレオへ向けて走り出す二人。
獣機を倒し終わる頃には朝になっていた。
第二章終わります。
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