俺がとんずらでセリスがヤバイ
レオ(トラック)を西へ走らせる。
危険なマヤタチ砂漠を越え無くてはならないが仕方がない。
普通の車は砂漠の砂が絡んで故障したり、砂に足を取られてスタッグするかもしれない。
だが、レオには状態異常無効化と浮かぶタイヤがある。
浮かぶタイヤとはホバー状態の事だ。タイヤは回転するが地面に着いていない。
走行したタイヤの跡もつかないし、足を取られてスタッグもしないだろう。
密林ルートを選ばなかった理由は樹木で通行が困難な事と、アイツがいそうだったからだ。
アイツとは黒豹の獣機ディオニュソスだ。
傷を負った奴は姿の隠しやすい密林にいるだろう。
アイツがギバライ所属の獣機だったら、帰国したかも知れない。
だがそれは無いだろう。
ギバライ国の獣機はアフリカの動物を選択している様に思える。
カバ・サイ・ゾウ・キリンもいたかな?
あとリクガメ?アフリカに居るのかは知らない。
とりあえず黒豹は生産ラインから外れているような気がする。
一方のヴァチは多分・・・農場?
セリスに聞いたところ馬の他には牛・山羊・羊・豚・狼などがいるらしい。
狼以外のヴァチ国の獣機弱すぎない?
セリスの国大丈夫?
人型になる獣機は開発されていないとの事だが、実際遭遇しているので両方の国が隠しているか、セリスが知らないだけだろう。
青い顔したセリスが泣きそう声で話しかけて来た。
「先ほどから急に加速するのはなんですか?ウッ・・わざとですか?オェ」
俺がリキャストが来たのを思い出す度に短距離高速移動を使うのが気持ち悪いらしい。
リキャストぴったりの5分毎に使うのではなく、思い出したかのように使うからたちが悪い。
「短距離高速移動だ」
「えっ!獣機にも効果があるんですか?オエ・・・と・・・とりあえずいきなり加速するのは・・・ウッ・・・やめてもらえますか。オエッ」
「セリスつわりかな~?おめでと~?」
頭に?マークを浮かべながら拍手するアップゥ
口を押えながらキッとアップウを睨みつけるセリス。
どうやら獣機にもスキル効果があるのを知らなかったらしい。
なんとか隊の隊長だったよな?
可愛そうなのでしばらく短距離高速移動は封印する。
ずいぶん引き離したからな・・・赤い点。
森を出た時から追手がいるのは知っていた。
MAPに5個の赤い点が映っていたからだ。
つかず離れず付いて来る赤い点だったが、短距離高速移動を何度も使う事によって撒く事が出来た様だ。
「もうしばらく走るとクサラ峠に入る。大きな湖もあるし、そこで今晩は休もう」
とセリスに話しかけたが、寝不足と気持ち悪さで寝てしまっていた様で返事はなかった。
助手席でスヤスヤ寝息を立てるセリスを見て、元彼女の事を思い出す。
彼女を病院に乗せて行った日の事。
助手席に女の子を乗せるなんてアレ以来だ。
帰りの助手席には誰も乗っていなかったのだから。
「ヤマト泣いてるの〜?」
アップゥが心配して頭を撫でてくれた。
「欠伸しただけだ」
涙を見せた訳ではないがなんとなく嘘をついた。
「まだ好きなんだね〜」
スマホ族は人の感情を感じ取れる能力でもあるのかも知れない。
俺は何も言い返さなかった。
助手席では寝ていたはずのセリスの眉がピクピク反応していた。
クサラ峠の湖に着いた頃にはすっかり暗くなってしまった。
セリスはぐっすり寝たのが良かったのか元気を取り戻した様だ。
かなり急いで来たおかげで、距離だけ見れば後2日でヴァチに着く。
砂漠を越える時に何も無ければだが。
でもまぁ何かあるだろうな。
古来より砂漠ではナイスミドルに襲われるのが伝統だしな。
ぐぅ〜
昼間は運転しながらクッキーを摘んだ程度だったのでお腹が空いた。
飯にするか。
焚き木を集めて火打石を叩く。叩く。何度も叩く。
ガチガチガチッ!
簡単そうだが俺は火をつけられなかった。イヤ、普通出来ないって。
諦めてセリス火打石を渡すが首を横に振った。
あんたホニャララ隊の隊長だよな。
「隊長なのにすみません」
俺の怪しむ顔を見てセリスが謝った。
「困ったな。アップゥ火をおこせないか?」
アップゥがしばらく考えてから答える。
「う〜ん。やってみる〜すぐ火をつける〜?」
「あぁ。腹ペコなんだ」
「離れて〜え〜い!!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
爆炎が竜巻となり焚き木を焼き尽くす。
遥か上空まで巻き上がる炎が夜空を明るくした。
「アップゥ様。今のは何でしょうか?」
思わず敬語になる。
「獄炎の竜巻だよ〜」
「危ないからちっこい火でお願いします」
驚いて口を開けたままのセリスと顔を見合わせる。
「あの、今・・・無詠唱で・・」
「ああ」
「スマホ族って強かったんですね」
「ああ、怒らせない様にしよう」
もう一度集めて来た焚き木にアップゥ様が火をつけてくれた。
アップゥ様がえっへんのポーズをしたので二人で褒め讃えた。
ヴァチで買ったフライパンでお歳暮のハムを焼く。それとビールだ。
「このハム美味しいですね」
「斎藤さんに感謝しないとな。CMで見た事しかないから俺も初めて食べるよ」
「斎藤様・・・CM・・・?」
セリスの頭がハテナになったのでビールを渡す。
湖で冷やしておいたがそんなに冷たくなくて残念だ。
セリスはビールを気に入ったのか3缶も飲み干した。
お腹もいっぱいだし眠いのだが風呂に入りたい。
この世界に来て3日も風呂に入ってないのだ。
ギフトの状態異常無効化のおかげで汗の匂いなどはしないのだが。
「セリス。旅の途中の風呂とかどうしてるんだ?」
「湯浴びですか?基本我慢です。ここみたいに綺麗な湖があれば水浴びします」
「我慢なのか。大変だな」
風呂とトイレ。今一番嫌なのはこれだ。
トイレットペーパーは木箱の中にあったので助かっているが、場所が問題だ。
GPを使う時が来たかも知れないと、レオに乗り込みナビ水晶を操作する。
俺は思い切って部屋拡張項目の風呂・トイレ・キッチンをアンロックする。
明日には使える様だ。
それぞれ100GPで残りまた33GPに戻ってしまった。
ついでにトラック形態のステータスも調べたがやはり聖獣車機になっていた。
飛べる様になったら聖獣飛機?いや聖獣鳥機?羽機?
楽しみにしておこう。
さて。
寝たいのだが。
怪しげな光を放つ3個の球体と木箱の積まれた部屋にベットは一つ。
どう見ても嫌らしいホテルです。本当にありがとうございました。
思わず2人で顔を見渡す。
セリスは酔ったのか顔が赤くうつむいている。
「ヤマト様ベットをお使い下さい」
「セリスが使うといい」
「いけません。貴方のベットなんですから」
言われて気づいたがあのベットに寝た事ないな。
初日は運転席。2日目も気絶していたが運転席。3日目は宿。
「女の人を床には寝かせられないだろう」
しばらく黙り込み顔を真っ赤にしながらセリスが言う。
「では・・・ご一緒に寝るしかありませんね」
「ああ。アップゥと一緒に寝てくれ。俺はいつもの運転席で寝るよ」
「ふぁ〜あセリス寝よ〜」
アップゥがベットのど真ん中で猫の様に丸くなって寝た。
それじゃセリス寝れなくない?
なんかブツブツ聞こえて来たので運転席に向かう。
後ろから意気地なしと聞こえた気がした。