俺のスマホが妖精でヤバイ
「PON!おはようございます。3452年青の月12日 現在地はリナター平原。天気は晴れです」
ナビの声で目覚める。
目覚めたが目は開けず、ここちよい眠気に身を委ねた。
まるで何年も眠っていたかの様なまどろみ……気持ちよすぎる。
……変んな夢を見た。
女神が出てきて別の世界に飛ばされる。しかもトラックごとだ。
そんな馬鹿げた夢……夢?
「リ、リナター平原!!!!??」
ナビの出鱈目な音声ガイドを思い出し目を開ける。慌ててナビを確認する。
ナビのあった場所には20cmほどの水晶玉があり、水晶玉の中には現在地と周辺のMAPが表示されていた。
MAP左上の現在地にはリナター平原と表示されていた。
「ハッ!?」
落ち着いて車内を見渡す。ハンドルは……ハンドル。よかった。ハンドルは同じ場所にあった。
ただし、透明な素材になっていてうっすら青く光っている。回そうとしたが固定されているようで回らなかった。
ブレーキとアクセルは……無かった。ブレーキとアクセルがあった場所には光るプレートが埋め込まれていた。こちらもうっすら青く光っている。
踏んだら動くのだろうか?恐る恐る踏んでみるが反応はない。
そもそもエンジン音がしないのでエンジンがかかってないのかもしれない。
ナビだった水晶玉に視線を戻す。覗きむと俺がうっすら反射して映った。
首まで伸びた銀色の髪……とがった長い耳……誰やこのイケメン……ふっと頭に思い浮かぶ。
「これは、なんだ。人間ではない……エルフ?」
女神さん……俺の姿が変わるのは聞いてないんだが……
配達用の薄い緑色だった作業服は白い作業服に変わっており、作業服の左ポケットには運送会社シロネコトマトのロゴマークが入っていた。
「あはははは。自分の姿にみとれちゃってへんなの~」
「うわっ!?」
突然車内に響き渡った女の子の声に驚く。
さっきまで車内には俺一人だったはずだ。
「あはははは こっちこっち~」
車内を何か小さい者が飛び回っている。調子にのって飛び回った結果、フロントガラスに頭を打ち、フラフラとハンドルの上に乗った。
20cm位の妖精だ。トンボの様な虹色の羽がついている。
ピンクのふわふわ髪の毛。青色のワンピースの胸には虫食いリンゴマークのアップリケが付いていた。
ぶつけた頭を抑える手の隙間から覗くのは猫耳・・・
「う~イテテテ。お久しぶりヤマト~。ワタシだよ~」
俺に妖精の知り合いなどいない。
ましてや猫耳のロリッコ妖精なんて。
「忘れちゃったの~?わたしだよ~ヤマトのスマホだよ~」
「……」
「ほんとだよ~」
まったくこの猫耳ロリ妖精は、何を言っているのだろうか?
確かに俺のスマホケースは青いストラップで、会社支給品のピンク色(ロゴ付き)だった。
ふむ。言われてみれば確かに妖精のカラーリングは俺のスマホだ。
だがスマホが妖精になるだろうか?んな訳ないだろう。
たしか女神マゼンダは次の世界にないものは次の世界にある、【似たもの】になると言っていた。
どんな異世界だかはしらないが、普通に考えてスマホはない。
だがらと言ってスマホが妖精に変化する理由がわからない。猫耳ロリ妖精にスマホ要素は皆無だ。
確認の為に胸ポケットを探るが俺のスマホは無かった。
「も~ホントだってば~ ヤマトが~最後に見たのは~ 綺麗なお姉さんとエチチチのアチチチでにゃんにゃん http//:xvide……「おい馬鹿やめろ」だよー」
見てない。いやチラッと見た。いや結構みた。いやいやそんな事はどうでもいい。
俺のログにはないから。
「スマホよ。お前が俺のスマホだと認める」
「わかればいいの~」
うんうんと頷くスマホ妖精。他に変化したものがないか確認しつつ、外の様子を見る。
たしか、リナター平原とか言ったか。確かにのどかな平原が広がっている。
まるでアフリのカサバンナだ。もちろんサバンナに行った事などないが、TVとかで見た事あるライオンやらキリンがいそうな雰囲気だ。
「ところでスマホよ。ここがどこだか分かるか?」
「見てくる~」
スマホはトラックの窓をあけると、ぴょるぴょるぴょると可愛い音を出しながら飛んでいった。
どうやらトラックの回りを飛び回っているらしい。
フロントガラス越しに見ると綺麗な虫が飛び回っているように見える。
鱗粉かわからないけど、飛んだ軌跡にはキラキラ光る粉が太陽の光を反射させていた。
そういえば俺のトラックこんなに車高が高かったっけ?
ぴょるぴょるぴょる。
独特の音をさせながらスマホ妖精が帰ってきた。
「ただいま~」
「お帰りスマホよ。ここがどこだかわかったか?」
「タナリ~平原だよ~」
「それはさっきナビから聞いた。それにリタナ~平原だろ」
ナビにはリナター平原と表示されていた。このスマホ妖精結構適当だな。
「あのね~レオだよ~」
クスクス笑いながらスマホ妖精が報告する。
「レオ?ライオンか?」
やはりサバンナに転移したという事なのだろうか。だとするとここは地球のアフリカか。
窓からあたりを見渡すがライオンは見当たらない。
「違う違う~ ライオンじゃないよ~ 白いライオン」
「どこだどこだ?全然見当たらないぞ。スマホ妖精よ。お兄さんを騙すんじゃない」
「も~ヤマト~このトラックがライオンだよ~機械のら~い~お~ん~ガオ~」
スマホ妖精が言うには俺のトラックは大きな白いライオンらしい。
だが、生物ぽさはなく機械のライオンらしい。白地に金の装飾がとてもカッコイイそうだ。
俺も見たい……
でも、降りれないんだなぁこれが……
トラックのドアはあっさり開いた。だけど地上から高すぎて降りられない。
白いライオンが伏せでもしてくれれば降りれそうなんだが。
スマホ妖精がもじもじしながら目の前に飛んでくる。
「ねぇねぇヤマト~ 名前つけて~」
「なんだスマホ妖精。スマホでいいじゃないか」
「スマホは種族名だよ~可愛い名前がいいな~」
スマホは妖精の種族名だったのか。だからスマホは、この猫耳ロリ妖精に変わったのか?
名前が同じなだけで、スマホが命を持った妖精になるもんなのだろうか?
「名前名前~可愛いのにしてねぇ~」
スマホ妖精がぴょるぴょるぴょる音響かせながら、車内を飛び回る。
「お前の名前はアップゥだ」
アップゥはリンゴマークのスマホの会社名から取った。
りんごを英語で発音良く言った感じだ。
「あっぷぅ!あっぷぅ~! ありがとうヤマト~」
アップゥは喜び、俺に頬擦りしてくる。
その可愛さで、異世界に来てからの不安が少し揺らいだ。
「PON!この先渋滞があります」
突然ナビが警告する。俺の受難は始まったばかりなのだ。