俺が高速で動いて3人がヤバイ
明日になれば白獅子がトラックへ変形出来る。
そのトラックで白馬のコアをヴァチまで運送する。
異世界に来てまでトラック運転手をすることになるとは何の因縁か・・・
ディオニュソスに破壊された狼の操者二人は、残念ながら亡くなっていた。
氷の魔法が使える黒魔法使いがいれば、遺体を凍らせてヴァチまで運び葬儀を行う事が出来るのだが、残念ながら兵士達の中におらず、その場で埋葬する事になった。
二人は若い男の子だった。
セリスは涙を見せず、隊長の役目を果たした。
彼女が一瞬だけ見せた悔しそうな顔を俺は見逃さなかった。
白馬や狼の残骸はそのままにしておけないので兵士達を数名残して街へ行く事になった。
後でヴァチから回収班が来る様だ。
「じゃあコアも運ばなくていいな」
「回収班の往復を待っていたら魔力が暴走し爆発してしまいます。」
爆発するコアなんて運びたくないんだが。
期限は7日間程度。ヴァチまではアレイオンで5日間かかるらしい。
「という訳で、ウルフィのコアもお願いしますね。」
仕事が勝手に増えてるんだが。サッカーで転がして行ってもいいんだぞ。
「ところでどうやって持っていくのですか?」
「明日になったら教えよう。運び方も知らないのに頼んだのか?」
「ヤマト様なら出来るかと思いまして。駄目元で言って見ました」
「へいへい、動かすぞ。座ってろ」
すこし呆れた俺はセリスを助手席に座らせレオを歩かせる。
「すごい!振動しないんですね!」
「シートベルトいらずだ。ナビには怒られるが」
動き出すとアップゥが窓をノックする。
「ヤマト~おでかけなの~?」
アップゥが窓から入って来る。後で説教だからな。
「レオヴァイザーって足音もしないんですね。不思議です」
「そういえばそうだな。猫型だしそんなもんだろう」
実際には獅子型だがネコ科だし同じような理由だろう。
足跡もついていないのが不思議になり、降りて確認したらレオは浮いていた。
ホンの1cm位だが地面に付かない様に浮いていた。
ドラ●もんか・・・
そういえば運転席の上の部屋・・・4次元ポケッ・・・やめておこう。
街まではすぐなので人型で歩行が出来るか試してみる事にした。
俺はレオを人型へ変形させる。
ガチョンガチョンプッピッガン
「わわっ!今度は何ですか?操縦席が高くなりました」
「ちょっと人型にな」
「これが噂の人型ですか!どんな形なんですか?見てたいです!」
「ナイトだよ~」
そういえばセリスは気絶していたから見ていなかったんだな。
「今はな。とりあえず前へ」
ムスッとしたセリスを無視して歩く事をイメージしハンドルを強く握る。
レオはゆっくり右足をゆっくり上げ、下す。
「歩く、歩く、歩く」
思わず口にだしてしまったが、これは危険だ。転ぶパターンの奴・・・
レオは少しフラフラしながら歩きだす。
スピードを上げ走り出す。興奮してセリスとアップゥが目を輝かせていた。
「おーなんとかなりそうだな。だが・・・」
俺は思っていた事に挑戦する。
足を止め肩幅に開く、腰を少し落とす。
「そのまま前へ!」
ホバー状態を維持して前へ進む。速度を上げる。走る時の何倍ものスピードが出る。
右に左に旋回する。イメージはスピードスケートだ。
セリスもアップゥも段々青い顔になっていた。
最後に短距離高速移動で最高速をだし街へ向かう。
これでディオニュソスと同じ位のスピードかもしれない。
常時このスピードだったあいつの化物具合がわかった。
短距離高速移動の効果が切れたのと同時に街の前まで来たのでレオの足を止める。
俺達三人はいそぐ。
どこへって?
窓だよオエエエエエエエエエエエエエエエエエ
振動が無いのに景色が高速で前後左右する事で酔ってしまった。
ピンチの時だけにしよう・・・
絹の綺麗な白いハンカチで口を拭きながらセリスはレオの事を褒めちぎった。
レオを人型のまましゃがませ、腕伝いに降りたセリスがレオを見上げ感動していた。
「すごいです。騎士タイプなんですね。」
「ああ、あの黒い奴も人型になっていたぞ」
「ええ、聞きました。人型は確か開発が滞っていたはずでしたが・・・しかも変形するなんて信じられません。」
謎で頭がいっぱいになったセリス。ブツブツなにか言いながら考え込んでしまった。
「ねぇねぇヤマト~セリス~お腹すいたよ~街に行こう~」
「そうだな。行くぞセリス」
「は、はいっ!」
レオどこで手に入れたとかどこに俺の故郷があるのかとか聞いてきそうな雰囲気だったので慌てて歩き出す。
「準備の買い物もそうだがまず腹が減ったな。飯にしよう」
「そうですね。ヤマト様。よかったら私がいいお店を紹介しますよ」
「おう。よろしく頼む」
とは言ったが、まさかすごく高いお店とかおしゃれなカフェみたいなとこじゃないだろうな?
セリスの恰好だけみるといい暮らしをしてそうに見えるから怖い。
こっちの料理のマナーなんて知らないんだぞ。地球の高級レストランのマナーも知らないが。
不安の眼差しでセリスの後姿を見つめながらしばらく歩くと、見覚えのある店についた。
あの食堂だ。ヤバイ。俺は苦笑いしていた。
「どうかしましたか?この食堂おいしいんですよ。美味しすぎて常連になっちゃいました。こんにちわー2名お願いします。」
喋りながらドアを開け、勝手に食堂に入ってしまうセリス。
仕方なしに続けてお店に入る。
伸長の高い俺はよく目立ち、店員がヒソヒソ話がしている。
「ねぇ・・・あのひとって昨日のアノ人だよね」
「うん・・・大声で何回も言ってた」
「なんであんな変態がセリス様と?」
「さぁセリス様は案外あーいうのが好きなんじゃない」
うっ・・・ヴァチ国語が理解出来る様になって心が痛い。
「どうかしました?とりあえずメニューを貰いましょう。メニューをこっちへ」
俺と喋りながら片手を上げ店員にメニューを要求するセリス。
すまないがメニューを連呼するのは辞めていただけないだろうか。
俺の黒歴史が。
生きた心地のしない食堂を出て旅に必要な物をセリスに選んでもらい、今日は街の宿に泊まる事にした。
宿代はセリスが出してくれるらしい。
隊長なだけはあって中々高級な宿をとってくれた。
ちゃんと二部屋。
夕飯は宿のコースメニューでワイン付きだった。
セリスは自分の昔話を楽しそうに話しながらワインお代わりしていた。
少々飲みすぎたようだったように見えた。
「ではヤマト様おやすみなさい」
「おう。おやすみなさい」
自分達の部屋へ向かう途中で、前を歩くセリスが顔を赤くしながら振り返って言った。
「あ、あの・・・私の部屋は一番奥の右ですからね」