俺の聖獣がピンチでヤバイ
ミーサが起きたようだ。頭上でドタバタと騒ぐ音がする。
悲鳴が何度も聞こえ、そのうちアップゥとなにやら話す声が聞こえてきた。
ガサガサと音がする。ミーサは俺が用意した子供服に着替えている様だ。
「可愛い!」「これも付けるの?」と聞こえてくる。気に入ってもらえてよかった。
ここで運転席の上の扉を開けて、顔でも出そうものならラッキースケベ間違いなしだ。
あえてアップゥかミーサが開けていいと言うまで開けないのが紳士の嗜みである。
待つ事20分・・・遅い。
しびれを切らしてアップゥに聞く。
「アップウ。入っていいか?」
「いいよ~」
ガチャッと扉を開けて顔をだし部屋を覗く。
そこにはショートカットの魔法少女がいた。
どうやら俺の用意した子供服は、お子様に大人気のアニメ[チャーミングピュアピュア]の衣装だったようだ。
色は青。ミーサのショートカットによく似合っているが失恋しそうだ。
ミーサはそんなアニメの事なんて知らないのでアップゥに言われたまま着替えてしまった。
ご丁寧にティアラとラブリンスティックも装備している。
流石に靴はなかった様でサンダルだが。
「あの、すいません。洋服まで用意していただいて。アップゥさんに聞きました。変態だなんて言ってすいませんでした。」
ミーサは俺にお辞儀しながら謝った。そしてアップウの方にもお辞儀した。
アップゥがどういう説明をどこまでしたか気になるところだ。
変な事を吹き込んでなければいいが。
「俺の方こそすまなかった。」
「え!しゃべれるじゃないですか!やっぱり変態!?助けて~~~!!!!」
ミーサは短距離高速移動で部屋のすみまで逃げて頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
枕で体を隠している。
「アップゥ・・・どういう説明をしたんだどういう」
「えっとね~ヤマトはヴァチ国語しゃべれないからごめんねって~」
未知なる恐怖に震えてガタガタ歯を鳴らす魔法少女の誤解を解くのに小一時間かかってしまった。
「つまりヤマトさんは異国からやってきて話せなかったけど、あの後スキルで覚えたから今は話せる。聖獣というライオンでカバに襲われた私を助けてくれた。そういう事ですね?」
「そうだ。内緒だぞ」
「本当かどうか聖獣を見せて下さい」
「証拠を見せてやろう」
俺は運転席へ降りるとミーサを手招きする。
「うわぁ~すごい!どーなってるの?」
まだ運転席を見せただけなのだがミーサは車内を見て興奮している。
「ヤマト~レオ褒められたね~よかったね~」
アップゥも釣られて興奮し飛び回っている。
「このボタンはなんですか?これは?この棒は?」
「俺もわからん」
本当にあなたの乗り物なの?という疑いのジト目が俺に突き刺さる。
こうなったら動かして信用させるしかない。
「レオから降りて見てもいいですか?昨日のライオンかどうか確かめたいです」
俺はレオを伏せ状態にしドアをあけた。
ちなみにハンドルを握って念じればわざわざ「フセ!」なんて言う必要はなかった。
ミーサを外へ連れ出してドヤ顔する。
レオを見たミーサは俺の方を向いて手を握りしめてお礼を言った。
「変態なんて言った私を助けてくれてありがとうございました」
「あ、あぁ」
お礼を言われて嬉しいが、その・・・なんだ・・・知らない人が見て誤解しないといいが。
どうみても変態が少女に魔法少女のコスプレをさせ、手を握っている様にしか見えない。
「そこのひょろ長と青い魔女動くな!」
突然森の中に響き渡る男の声。
驚いて振り向くと20人以上の兵士達が取り囲んでいた。
「動くなと言っただろ!両手を上げろ!」
大人しく従う。短距離高速移動を使用しても逃げられそうもなかったからだ。
「待って下さい。その子は私の娘です。」
兵士達の中から元勇者の門番が前に出る。
「お父さぁぁん怖かったよぉぉぉ」
父の姿を見て走りだし、抱きついて泣きじゃくるミーサ。
ウンウン。良かったなぁ。
「その男を捉えよ!」
隊長らしき兵士が声を上げると兵士達が襲い掛かって来る。
当然俺は迎え撃つ!事も出来ずに取り抑えられた。
「第一小隊はその男を連行しろ!第二小隊は白獅子を調査しろ!」
俺は太い縄で縛られ街へ向けて無理やり歩かされる。
ミーサが事情を説明してくれている様だが、隊長は耳を貸そうとしない。
第一小隊に引き摺られる様に森を抜ける。
そこには一機の白い馬の機獣と二機の灰色の狼の機獣が立っていた。
「貴様がギバライ国の白獅子の操者か!」
どこからか女の声が聞こえてくる。どうやら白馬の機獣の鼻の上で腕を組んでいるらしい。
見上げるが逆光でよく見えない。
「とうっ!」
結構な高さから女性が飛び降りる。
綺麗な金髪をなびかせながら心身の月面宙返りを決めた。
グキッ!
残念ながら着地の時に嫌な音がした。
「くっ・・・ヒール。」
靴紐を結ぶ様なポーズで脛に手を当てながら小声で何か唱える。
回復魔法の様だ。白く光ると変な形に曲がっていた足首が元に戻った。
彼女は立ち上がると透き通る様な蒼い目でこちらを睨みつけなから歩いて来た。
年齢は25歳位。身長は小柄な150cmくらい。肩まで伸びた金髪ストレートが風にサラサラしていた。
青が下地の金縁チェストアーマーがよく似合っている。
「お〜ヤマトのタイプだね〜」
「うるさい隠れてろ」
余計な事を言うダメ猫耳スマホ妖精を叱る。
「貴様がギバライ国の操者かと聞いている。私はヴァチ国特務獣機部隊隊長のセ・・・」
ドガァァァァァァァァァァァァン!
自己紹介の途中だったが狼の機獣が爆発した。黒い影の様なモノが高速で動いている。
黒い影は空高く飛び上がるともう一機の狼に襲いかかる。
狼機獣を上から抑えつけて首に噛み付くソレは・・・
黒い豹の機獣だった。
紅い目を揺らしながらこちらをみている。
「ディオニュソス・・・嘘でしょ・・・」
ディオニュソスと呼ばれた黒豹は、狼機獣の首を嚙みちぎり投げ捨てた。
「アレイオン!」
自己紹介が終わらなかったので誰だかわからない女騎士が白馬に乗り込む。
白馬はアレイオンというらしい。
「あなたは逃げなさいっ」
そう言いながら俺を縛っている太縄に向かって白馬の上からナイフを投げる。
ナイフはみごと太縄に命中し縄が切れた。
切ったナイフはそのまま俺の脇腹に突き刺さった。マジ痛いんだが・・・
激痛の中ナイフを抜き出血する。痛いではすまないレベルだ。
俺は痛みを堪えながらレオに向かって短距離高速移動で走った。
第二小隊がレオの周りにいたが激しい爆発音に気をとられているうちに乗り込む。
ふぅ・・・危なかった。
レオに乗り込んだ瞬間傷はふさがり、出血で朦朧としていた意識も回復した。
とりあえず逃げよう。逃げろと言われたし。
ズガァァァァァァァァァン!
木々を薙ぎ倒しながらアレイオンがレオの前に転がって来る。
ディオニュソスがアレイオンの首に前脚を乗せた。
アレイオンの中で「くっ、殺せ!」と言ってそうなのが聞かなくてもわかる。
ディオニュソスが顔だけこちらに向けた。
動かなくなった白馬に興味をなくし、明らかにレオを狙っている。
「ヤマト!黒いのがこっちに来るよ〜」
「わかってるから飛び回るな!」
ディオニュソスが消えた。一瞬目を離したスキに森の中へ。
逃げた訳ではないはず。
ズガァッ!ガガガガガガ!
ディオニュソスが死角から脇腹を狙う。聖障壁が無ければ穴が開いていただろう。
その姿を再び森に隠したディオニュソス。
ガツン!ガガガガ
レオの右尻をディオニュソスが襲う。
ダメージを与えられないディオニュソスが躍起になって連続で襲いかかる。
ガガガガ!ガガガガ!ガガガガ!
レオは想像以上に硬かったがディオニュソスの早さも想像以上で反撃を許さなかった。
ディオニュソスは一旦距離を取りこちらを見つめている。
紅い目がギラリと光り空高く吼えた。
GYAOOOON!
ディオニュソスは変形し人型となった。
「あいつも人型になるのか!」
「おんなじだね〜」
ディオニュソスは両手に反り返った短刀を持った二刀流だ。
その素早い動きと黒いボディが忍者を連想させる。
短刀が死角から脇腹を狙う。無駄だ!
ガガガガッガキッ!
黒いオーラを放つ短刀がレオの聖障壁を突き破り装甲を切り裂いた。
「くそっ!脇腹が!なんでこの世界の奴は脇腹ばかり攻めるんだ!」
「ヤマトもカバの脇腹狙ってたよ〜」
「ハッ!とりあえずこのままじゃ不味い!人型になるぞ!」
一瞬離れた好きにレオを人型に変形する。
変形に気がついたディオニュソスは腕組みをしてこちらを睨みつけた。
待ってくれるらしい。なかなかわかる奴だ。
レオの変形が終わり盾と剣を構え対峙する。剣なんて持った事がないから適当な構えだ。
ディオニュソスが動く。早い。さっきまで手加減していた様だ。
その早さで姿を消し死角から脇腹を狙う!甘いっ!!
ガキン!ズヴァン!
レオの盾殴打術が炸裂し蹌踉めくディオニュソス。
脇腹を狙って来るのはわかっていたのだよ。
不慣れな斬撃で蹌踉めくディオニュソスを狙う。
ズバシュッ!
残像を残してディオニュソスは消えた。チッ残像か。
白獅子の騎士は聖障壁と高硬度の獅子顔盾のおかげでガードが堅い。
だが、攻撃についてはど素人が剣を振り回しているレベル。
縦横無尽に動き回るディオニュソスのにはかすりもしない。
一方でディオニュソスの攻撃はレオに致命傷を与えられずにいた。
やっとの思いで厚い聖障壁を破り堅い装甲を切り裂いても治ってしまうのだ。
それは女神のギフトの体力自動回復(S)によるものだった。
一方的に攻撃を与えているのに倒せない。
膠着状態。
しびれを切らしディオニュソスがわざとらしくポーズを決める。
最大まで力を溜め両手の短刀の黒いオーラがギリギリと音を立てる。
次で決める気の様だ。
緊迫する空気が弾けディオニュソスは後ろに跳躍し、大木を三角蹴りし突撃してきた。
俺は盾を投げ捨てる。
ズバッシュ!!!
ディオニュソスの短刀はレオを袈裟斬りし、運転席を切り裂き、俺の左腕と左脚を切り落とした。
「ぐはっ!」
「ヤマトォォォォォ~」
アップゥの悲鳴の中薄れて行く意識。
・・・・
だがっ・・・
「捕まえたぜ!」
残心しているディオニュソスの右腕をレオの左手で掴んだ。
「剣の振り方も知らんのですまんな。お釣りだとっとけ!」
レオの右腕が全力で剣を振り上げディオニュソスの左腕を切り飛ばした。
ディオニュソスは蹴りをレオに入れ、右手をふりほどくと、斬り飛ばさた左腕を拾って撤退した。
「ざまぁねぇぜ・・・・」
撤退を見届けると俺は大量の出血により気を失った。
閑話を何話か挟んで世界観の補足をしてから2章に入ります。