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プロローグ

 20XX年12月棒日深夜、一台のトラックが走っていた。


 側面には白い猫がトマトを咥えたロゴ、日本では一二を争う大手の運送会社、【シロネコトマト】のトラックだ。


 新月の暗闇の中、速度を上げひた走る。


 早朝までにはエリア拠点まで荷物を運ばなければならない。


 一般的な家庭に配達するトラックではなく、拠点と拠点を結ぶ大型トラックなのだ。


 荷台は年末行事の商品などで満載だ。


 人通りも少なく、当然他車両もいない。運転手は気持ち速度を上げた。


 拠点付近の交差点に差し掛かると、運転手が慌てて急ブレーキを踏む。


 原因は少年の飛び出しだった。




 鈍い衝撃の後、トラックが光に包まれて消えた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 俺、佐川 大和(さがわ やまと)35歳は待たされていた。


 フロントガラス越しには二人の女性。


 金髪の太ったおばさんが激しい怒りをまき散らしていた。

 

 もう一人は20歳位だろうか、かなりの美人だが先ほどからずっと頭を下げて謝っている。

 

 どうやら二人は上司と部下のような感じらしい。


 こちらまで声は聞こえないが、かなり厳しい説教なのか、若い女性は涙目になっている。


 二人ともギリシャ神話の女神の様な服を着ていて、髪もおそろいの金髪ロングストレートだ。


 どこからどう見ても女神のコスプレだ。


  と、いうか女神なんだろうな・・・トラックのナビを見ると【女神の間16】となっているし。


 女神の間16ということは1から15もあるのだろうか。


 ナビを弄ってみるが反応はない。アクセルやブレーキにも反応は無かった。


 辺りを見渡すと、装飾品のない円形の部屋の床に光の渦みたいなものが見える。


 昔やったRPGの旅の扉とかいったかな。アレを思い出した。


 まるでプロジェクションマッピングで投影されているかのようだ。


 おばさんの女神がドスドス音をさせながら数歩あるいて消えた。


 窓を閉めているので実際に音が聞こえた訳ではないが、それくらいの迫力だ。


 残された若い女神は、涙目でこちらを見ていた。どうして助けてくれないんですか?とでも言いたげな表情だ。


 いや、知らんがな。


 若い女神はハンカチで涙を拭きながらヨロヨロとこちらにやってくると、申し訳なさそうにトラックの窓をノックした。


「えーっとサガワヤマトさん? あのー……大変お待たせいたしました。お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありません。私は【女神の間16】担当マゼンダでございます。これからヤマト様の新しい世界ご出発に関してご相談・及びご説明したいと思います。大変申し訳ありませんが、まずはそちらのお乗り物からお降りていただいてもよろしいでしょうか?」


丁寧なセールストークだがこんな摩訶不思議な状況では詐欺にしか聞こえない。新しい世界? 宗教の勧誘か?


俺はトラックの窓を開けて当然こう答える。


「断る」


 そして慌ててトラックの窓を閉める。


 嫌な予感しかしない。トラックから降りたら何をされるのか全くわからない。


 無理。


ヤダ。


断固拒否だ。


「えー!なんでですか? 私が新人のしかも派遣の女神だから信用がないんですか? ひどいですあんまりです。人が下手にでれば何て人ですか。あんなに私は怒られたのに」


 窓越しからでも聞こえるキンキン声。渋々窓を少しだけ開けて答える。


「あんたが新人だろうが派遣だろうが女神だろうが関係ない。このまま俺を元の世界に返してくれ」


 だいたい新人なのも派遣なのも今聞いたし。


 と、いうか女神にも派遣とかあるんだな。あと怒られていたのは俺のせいか?


「あなたはもう事故で死んじゃったので帰れません。大人しく異世界に旅立って下さい。お願いしますお願いしますお願いします」


「なんでトラック運転手の俺なんだよ!普通はあの飛び込んだ少年?が異世界に行くもんだろ!トラック運転手が異世界に行くとか聞いたことないぞ!」


 車に飛び込んだ少年が異世界に行くのが普通かどうかはさておき、俺は訳の分からない事を言う女神に怒鳴り散らした。


「だってしょうがないじゃないですか!私が失敗しちゃったんですから!」



……




 女神は口を押えて[しまった]という顔をしたまま固まっていた。


「行かない」



 俺はボソッと答えトラックのスッと窓を全部閉めた。


 女神がなんやらキーキー喚いているようだが気にしない。


 気にしない……とも言っていられない。



 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……



 トラックが女神の中央の光の渦に引き寄せられ始めたからだ。

 

 先程までただのプロジェクションマッピングの様だった光の渦はものすごい吸引音をだし、周りの埃を吸い始めている。慌ててサイドブレーキを確認するがちゃんと引いてある。



トラックの窓を慌てて開けて、風でヒラヒラ舞うスカートを抑える女神に苦情を言う。いやーんじゃないわ!


「行かないって言ってるだろ。無理やりどこかに送るのはひどいじゃないかオイィ!?」


「そんなこと言ったって時間切れなんでーす。この部屋は仮の部屋ですから30分だけなんです。ハイ残念。行きましょう新しい世界。素敵な異世界」


「30分って!そっちがおばさんからの説教で何分も使ったんだろ。何とかしろって」


「と、とにかくもう時間なんで……すみませんすみませんすみません」


 トラックはどんどん光の渦へ引き寄せられていく……


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 既にタイヤは渦の中へ吸い込まれトラックが段々傾斜していく。気分はタイタニックだ。


「わかった行く。行くからこのトラック持って行っていいか?」


「行っていただけるんですね!ありがとうございます。えっとトラックとはこの乗り物ですね。了解いたしました。ただし同じ物にはなるかどうかはわかりませんよ。次の世界に無い物は次の世界の似たものに変化するんです」


  ちょっと何言ってるかわからない。


 次の世界にトラックはないかもしれないけれど、トラックぽいものになる……って感じか?それとも荷馬車的

ななにかか。


 新しい世界ってのがどんな世界なのかも不明だから想像がつかない。


 まぁとりあえず乗り物は欲しい。馬車や船でもいいし、なんなら宇宙船でもいい。

 

 どこに行くのか分からない現状、乗り物の有無は死活問題だ。

 

 走行出来る場所かはわからないが、モンスターとかゾンビとか野党からの避難所くらいにはなるだろう。


「わかった。あとせっかく持って行っても故障しても修理できないのは困る。故障しない様にしてくれ」


「はいはい、故障しないようにっと……あとは何かありますか?」


 女神がメモを取りながら聞く。トラックの荷台部分は既に渦に飲み込まれている。


「ガソリン……というか燃料?無くならない様に!?」


 幸いさっきガソリンを満タンにしたばっかりなので、近くの町とか村くらいまではなんとかなるだろうが交渉してみる。


「わかりました。なんとかします。それでは剣と魔法のファンタジー世界へようこそ!!よい旅を!」


きっと転移女神の決め台詞なんだろう。すこし赤面しながら女神が大声で片手を上げポーズをとった。


「ちょ!えっと俺は一体なにをすればいいんだ?」


渦からの引力で引っ張られるスカートと髪を押えながら女神が答える。

こんな時くらいパンチラしてもいいんだが。ガードが固すぎるのでは?


「特に決まりはありませーーーーん。でーはーよーいー旅ーをーーーーー」


 笑顔で手を振りながら見送る女神マゼンダを横目に、俺を乗せたトラックは光の渦へ飲み込まれた。

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