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ゆめみごこち!!  作者: 柾木春秀
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爽やかイケメン 〜やっぱりつけ麺にすればよかった〜

広い学内の事、中原を探すのは随分手間取るかと思っていたが、存外アッサリと彼は見つかった。

サークル棟を出た所にあるカフェスペースで、屋外ベンチに腰掛けながらコーヒーを飲んでいた。

彼が使用している一本足の丸テーブルには、ノート型パソコンが鎮座しており、端正な顔に少し険しい表情を浮かべつつ、中原はモニターとにらめっこしている。

カフェテリアでパソコン触ってるとか、意識高いなぁ…なんて思いながらも髪の毛を一本引き抜き、ハンカチの間に忍ばせる。

彼が席を離れないかを伺いつつ、自分はセルフサービスのお水を紙コップに汲み、いそいそと中原の背後へと歩を進める。目標は依然パソコンを凝視している。


「な、中原…くん?」


ほら、モノローグでは中原、なんて呼び捨てにしてるけど、やっぱり本人目の前にすると出来ないもんで。

相当集中していた様子の中原は視線をこちらに向けるより先にノート型パソコンをすごい勢いで閉じた。

ビクッとして椅子がガタっと鳴り、パソコンを慌てて閉じてバタンっと音を立て、それから中原の声が絞り出された。


知古御ちこごかよ…ビックリした…」

「あはは…ごめんごめん…なさい。そんなにビックリするとは思ってなかったので…」


敬語ではなくフレンドリーに話しかけようとしてもついつい敬語が混じってしまい、妙な日本語での挨拶になってしまった。


「いいよ。良かったら座るか?」


空いている向かいの席を指差し、聞いてくるこの心遣い。

乙女だったら落ちてるね。恋に。

勧められるまま椅子に腰掛けると、全て金属で出来ている椅子がヒヤリと、ジーパン越しにその冷たさを主張してくる。

水が入ったカップを唇に付けながら、それとはなしにまずは当たり障りのない会話を…。


「集中してるとこ急に話しかけてごめんね。」

「いやいや、クラスでも滅多に他人に話しかけない知古御からだからね。光栄の至りです。」


指先を揃えた右手のひらを胸の上に置き、首は曲げずに腰から曲げた会釈で返された。

キザな仕草も絵になってしまうのだから、イケメンって得だ。

こんな風に生まれたかった。


「珍しいね、知古御から声かけてくれるなんて。飲み会の事か何か?」

「あ…いや、そういうんじゃないんだけど。中原君がいたから声かけてみただけ。」


早くも会話が持たない予感がしているので、早いとこ目的を達成しようと紙コップを机の上に配置する。


「…知古御ってさ…メガネ外してみ?」

「へぁっ!?」


このイケメンは、何でもかんでも唐突すぎる。3分間しか戦えない巨人の様な声を出してしまったではないか。

メガネを外せなどと、オシャレなどではなく視力矯正の為にメガネを掛けている人間に対して軽々しく言う事ではない。

メガネを外すこと、それは即ち女子がスッピンを見せる様なもの。全裸になると言っても過言ではない。

恥ずかしいとかそれ以上のお話。


「ななな…なんでですか!?」

「いや…何となく、興味本位。整った顔立ちしてるからさ、メガネ外して服装気をつけたらモテるんじゃねぇかなって。」

「いや、それは多分…絶対思い違いデス!きっと現実を見たらガッカリしまス!」

「そうかねぇ。クラスの女子も同じ様な意見だと思うけど。ま、飲み会の楽しみが増えたな。」


ニヤニヤと笑う中原の顔を見て、本来の目的を思い出す。

さっさと目的を果たしてこの場から去ろう。


「あっ…!アノ…ソノ…かみノけ二ごみツイテマスヨ…」


あわあわと棒読みで右手を中原の顔に向けて伸ばす。その際ワザと紙コップに袖を当てて…

ぱしゃ、という間の抜けた音の後、つめってぇっ!!という中原の短い叫び声が聞こえた。机の上にあるパソコンには水はかかっていない。作戦は完璧に遂行された。

あとは…


「あっ、ゴメンナサイ!コレ、つかッテ!」

「あ、ありがとう。…えっ?」


自分の髪の毛が挟まったハンカチを中原に持って帰って貰えれば、紐帯ちゅうたいが出来て中原の『夢』を追える。

一生懸命ハンカチで中原の太ももから股関節辺りの濡れた場所を拭く。


「ちょっ!知古御!そこは自分で拭くから!ハンカチかしてくれ!」


顔を真っ赤にして中原が叫んだ。

はたと自分がハンカチで拭いている箇所を再確認し、パッと手を離す。

彼はそのまま恥ずかしそうにハンカチを使ってズボンの水分を拭き取っていく。

そして…


「ありがとう。」


ハンカチを返そうとしてきた。

いけない、このパターンは予測してなかった。

確かにハンカチはそんなにビショビショというわけでもなく、持っていればそのうち乾燥しそう。しかも拭いたのが水となれば『洗って返すからね』という流れにもなりにくい。

中原は気が効く男だが、この程度なら大丈夫だろうと判断されたに違いない。


「いや、その、えっと…」

「?」

「そ!」

「…そ?」

「そのまま持ってって!!あげるから!」

「あ、ちょっと、知古御!」


ガタリと椅子を鳴らして、一目散に逃げる自分を追うことはせず、軽く溜息を吐いて中原は椅子に座り直した。



決してスマートなやり方だったとは言えないが、目的は成し遂げた。

あとは今夜、紐帯を頼りに自分が『夢渡り』を行い中原の夢の中に侵入し、彼の儺闇なやみ追儺ついなしてやれば良い。

追儺とはいえ、追い払うのは中原の自身の気持ちだ。自分は手助けをするだけに過ぎない。

悩みを自覚させ、受け入れさせるのだ。


中原から逃げ出した後、結局サークル室に戻りタマ先輩とだべったり、奢ってくれると言うものだからご飯を一緒に食べに行ったりして、自分の住んでいるアパートに帰宅したのは夜の9時である。

まさかタマ先輩について行って、噂の大盛りラーメン店に連れて行かれるとは…いや、選択肢としては充分に考えられるものではあったのだが、まさか自分を連れてまでラーメン店に行くはずがないとタマ先輩を見くびっていた。

小サイズのラーメンを頼んだのに他のラーメン店における大盛りサイズで出てきた時は眩暈すら覚えたし、せめて麺だけでも食べきろうと思って下から掬い上げた際、塊の豚肉が出てきた時は悲鳴を上げそうになった。

結局食べきれなくて残りはタマ先輩が片付けてくれた。こういう時は頼りになる。


そんなこんなでお腹もパンパンな状態で、寝ようと思えばすぐに寝られるが、そうもいかない。

流水で身体をある程度清めなければならない。更に夜の9時だと相手がまだ寝ていない可能性が高い。

しばし黙考した後、お清めをしてから録画しておいたアニメを見て時間を潰し、深夜の1時頃に夢渡りの業を行う事にした。

完璧なプランニングである。


かくして、流水に身体をさらすにはまだまだ寒い中、とっととお清めを終わらせて、ブルーレイプレイヤーのHDDに録画しておいたアニメの鑑賞会が始まった。

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