7話
「ふぅ・・・気を取り直して・・・」
リズを宥めること数分。ミリアさんの俺を見る目が心なしか冷たいものになったのを除けばさっきと何も変わらない日常である。もっともそれがかなり重要な問題なんだけども。
「ユーキ君。君は勇者になる覚悟が出来てますか?」
俺たちはギルドハウスの受け付けに移動し、覚醒の儀式とやらを行おうとしていた。
ミリアさん曰くものの数秒で終わるらしいけど・・・胡散臭い。なお、リズは俺の隣で目を輝かせながらこっちを見ているので少々居心地が悪い。・・・それに、なんで鎧着てんの?
「まあ、当てもないんで取り敢えず・・・」
「じゃあ、決定ね!!」
「うんうん。それがいいよ!! むしろ、それしかないよ!! ユーキと勇者って響きが似てるし!!」
「いや・・・カタカナ表記だとゆしか合ってないんだけど・・・」
いつになく、二人はテンションが高かった。そんなに勇者が増えると言うのは嬉しいことなのだろうか?
「でも、覚醒って結局何するんですか?」
勇者というのはそもそも覚醒をすることで身体能力を上げたり、魔法を使えたりする人たちらしい。 つまり、魔物を倒さない勇者もいるってことだ。 魔法で商売したりする人もざらにいるらしい。
俺がそう聞くと・・・
「聞いてなかったの?」
「聞いて、ないです」
そう答えるとリズはばつが悪そうにそっぽを向いた。
「まったく・・・教えて上げないとダメでしょ・・・」
「むう・・・面目ない・・・」
どうやらとても重要なことだったらしい。 ミリアさんはどこからか丸い宝石のような物を取りだしそれを俺に見せながら話した。
「これはね・・・宝玉っていう物なんだけど・・・」
「宝玉にはね・・・勇者の素質を目覚めさせる力があるの」
「宝玉が・・・」
「そもそも、宝玉に適合できる人を勇者って言うんだけど・・・・」
「むう・・・」
宝玉・・・聖杯伝説とかの聖剣みたいな解釈で良いのだろうか。厳密には違うけど。
つまり、宝玉が勇者の素質を開花させ能力を与えるということなんだろう。それと宝玉には勇者のレベルも分かる機能付きらしい。簡単に言うとステータスだ。・・・こらそこ。ご都合主義とか言うんじゃない。だからゲームなんだよ。と、勝手に解釈。
「それじゃ・・・これに自分の名前とか身長とか書いておいてね」
説明を終えて渡されたのはご丁寧に旅行者用と書かれた羊皮紙。
「えっと・・・普通に日本語でいいんですか?」
俺がそう聞くと、
「いや、大丈夫だよ。私、日本語読めるし・・・それと、数字は変わらない安心して」
日本語がわかるとは・・・俺だって完璧じゃないのに、ミリアさんは見た通りインテリ系のようだ。それに比べてリズは羊皮紙に書かれた日本語を見て目を白黒させている。・・・わかってたけどリズってアホの子?
まあいい。気を取り直して一緒に渡された慣れない羽ペンに四苦八苦しながらも個人情報を書いていく。
えっと・・・身長は168cm。あと2cm欲しいんだけども嘘を書いたって仕方がない。それと年齢? 高校2年だから17・・・
そこまで書くと急にリズが声を上げた。
「え!? ユーキって17!?」
そこまで驚きですか? なんか威厳がないみたいで少し傷つく。
「私より年上なんだ・・・」
「えっと・・・そんなに意外?」
俺が苦笑いをしながらそう聞くと、
「だって、私に敬語使ってたから。てっきり・・・私より下なんだと・・・」
「ああ、そういう・・・別にそういうわけじゃないよ。単に初対面の人には敬語使うってだけで」
「なんか、他人行儀だし。年も近いからっていうか私の方が年下だし・・・タメ口でいいよ?」
「そういうなら・・・」
文化の違いというやつだろうか、日本人は礼儀を重んじる習性があると聞く。純日本人の俺には深くそれが根付いているわけで、別にリズが年上に見えたわけじゃない。むしろ、ずっと言動や容姿から年下だと思っていた。案外俺の堪は当たるようだな。・・・タメ口・・・親密度がアップしたねこれ!! この調子でさっき下がったミリアさんのも上げよう!!
「そういえば、ミリアさんって何歳なんですか?」
すぐ下らないことで調子に乗る俺はそんなことをミリアさんに聞いていた。だが、俺は忘れていた。
「何歳に見える?」
「二十代前半ってとこですかね」
女性に年齢を聞くことは禁忌だと言うことを。女性というものはいつだって若く見られたいということを。
だが、俺がそれを思い出すのはあまりにも遅すぎた。
現にミリアさんは頬をひきつらせて、
「・・・私・・・まだ十代なんだけど・・・老け顔かな私?」
と言っていた後だった。
だが、こんなときに限って、というのはよく起こる。マーフィーさんが言っていた。悪いことは重なると。
階段から落ちて死ぬような不運な男が焦ってフォローなんか使用とすると、それが適用されるのは自明の理と言うやつで――――
「―――いやいや、全然ですよ!! ミリアさんは可愛いって言うより綺麗って言う方が合うだけで、実年齢よりちょっとプラスされるのもその肉体から溢れでる大人の色気やオーラが男達の判断を狂わせてるだけでむしろそれがミリアさんの良さというかそれが美女のステータスというか・・・って、またか俺はああああ!!!」
何言ってんだよ!! さっきよりエスカレートしていってんじゃねえか!! っていうか普通にセクハラじゃねえか!! なんなの!? フォローが全部セクハラになるって!?
脳裏に浮かぶのは我が父の顔。やめろ。白い歯見せて笑うな。 これが遺伝か・・・確実に劣性遺伝。
俺は頭を抱えうずくまる。ミリアさんは顔を真っ赤にさせながら口をパクパクさせていた。
「あのあのあのあの・・・」
「ミリア・・・さん?」
「え、ええっと。 じゃあ、儀式を始めるよおおおお!!」
「なんでさ!?」
ミリアさんは真っ赤なまま宝玉を握りしめていた・・・って何するつもりだ!!
「じゃあ、宝玉を体に埋め込むよ!! 失敗したらヤバいけど行くよ!! 行っちゃうよ!!」
テンションがおかしい!? ・・・まさか・・・俺の革新的フォローが・・・。
「ヤバいってなんだよ!! ちょ、リズ。止めてくれ・・・」
「色気・・・オーラ・・・ミリアに有って私に無いもの・・・胸?」
なんか、思った以上に事態は深刻だね!? よく聞き取れないけど俺が原因だってことは分かる!!
そんな間にもミリアさんはカウンターを超えながら迫って来ていて・・・
「それじゃあ行くよおおおお。歯ぁ食いしばれええ!!」
「なんか違え!? 痛いのはやだって・・・うわっ!?」
「それじゃあ。行くよおおおおお!!!」
ミリアさんは馬乗りになり宝玉を俺の胸元に・・・って、端から見たらヤバい絵じゃねえか!! ミリアさんの太ももがが・・・俺色んな意味で元気になっちゃう!!
リズに見られたら・・・
「胸・・・胸・・・胸・・・」
こっちどころじゃなかった!? なんかうわごとのように呟いててなんか怖い!!
「いや、ちょ。 待って、この体勢は・・・」
俺が必死にミリアさんを静止しようとするも・・・
「ファイト!! いっぱあああつ!!」
「どこで覚えたんだああああ!! グボォッ!?」
俺の右肺に硬い宝石が・・・息が・・・出来な・・・。
―――そんな感じで俺の勇者生活は始まった。
その後、俺はミリアさんの右ビンタで目が覚めた。宝石よりガキどもの石よりこれが一番響く・・・心に。ひりひりと痛む頬をおさえながら俺は宝玉に刻まれたステータスを―――
「読めねえ・・・」
中途半端だな。ご都合設定・・・。




