高専という存在
立花工業高等専門学校――。
ある地方都市に位置する、工業高専である。
ロケーションとしては、最寄りの駅から十数分ほどで、大きな国道が近いといったところだろうか。そうそう、工業地帯に近接して設置されているというのは、たいていの高専が当てはまる。
正式名称は、「独立行政法人国立高等専門学校機構立花工業高等専門学校」。
長い。
とにかく長いのだ。
漢字表記でも、26文字。かな表記なら……そんなもの、数えたくはない。数えてみるのも、暇つぶしにはもってこいかもしれない。
英語では、「Tachibana National College of Technology」である。こちらも長いので、「TNCT」と表記される。ふぅ、これでかなりすっきりした。
また、最近であるが、「National Institute of Technology, ○○ College」と表記する高専も増えてきているという。こちらの略称は、「NIT, ○○ College」。
米国マサチューセッツ州にあるマサチューセッツ工科大学の略称が、「MIT」である。
おそらくこれに憧れて、機構の方が改名しようとしているのではないか……、といったところだ。「MIT」と「NIT」。うぅむ、よく似ているではないか……! と思ったら、大間違い。世界屈指の名門校と比べたら、高専の方が遙かに下である。ミジンコ以下だ(蔑んでいるわけではない)。
また、「nit」という単語には、「バカ・マヌケ」という意味があるという。これでは、私たちはバカやマヌケの集団です! と言っているようなものではないか。
優秀な人たちや情熱に萌える人(誤字ではない)たちがたくさんいるのに、これはあんまりだ……! と憤るかといえば、そうでもない。(別のベクトルで)優秀な人たちの集団にはもってこいの名称である(これもまた、蔑んでいるわけではない)。
かなり話が逸れているが、高専とは、つまり、そういう学校である。……といっても、名前だけですべてが分かるわけではないだろう。
内容的な面で言うと、工業高専というのは、技術者を養成するための「五年制」の学校である。
わざわざ鍵括弧で括っているということは、それが強調したいポイントなのだ。そう、「五年制」である。砕いて言えば、高等学校と短期大学を一つにまとめたような感じだ(中身はまったくの別物であるが)。
五年間と言えば長いと感じるかもしれないが、小学校の六年間も早いように、かなり早いのである。そう、かなり早いのだ。大事なことは反復法で伝えるのが有効である。覚えておくといい。試験に出るかどうかは不明だが。
高専生たちは、五年という歳月をかけ、立派な技術者となるための教育を受ける。かなり専門的な内容の授業が多く、大学の工学部にも引けをとらないだろうと考えられる(実際、どうかは知らない)。
座学だけではなく、実習も行う。機械系であれば工作機械(旋盤やNC工作機械)を使った実習、電気・情報系なら回路製作実習やプログラミング、建設系なら測量実習といったところだ。
また、授業は一回が九十分。これは、大学と同じ。最初はかなりキツイが、慣れるとなんともない(というのが一般論だが、実際にはキツイ授業はキツイのが常識である)。
五年生になると、研究室に入り、卒業研究を開始する。
また、三年生までは制服、四年生からは私服となる。高専によっては、一年生から私服というところもあるようだ。それに、校風も自由なところが多い(それが吉と出るか凶と出るか……それは、誰も知らない)。
ほかに、夏休みが約2ヶ月ある……というのは決して表沙汰にしてはならない情報である。この情報が漏えいした日には、日本国内の秩序は乱れるであろう。
そして、高専の敷地内に「学生寮」が設置されているのは、高専の大きな特徴の一つと言える。学生たちは、ここで他の学生たちと寝食や勉学を共にするのだ。友人が作りやすい良い環境だが、コミュ障にはマジで辛そうな閉鎖空間でもある。
「高専」というのは、だいたいこのようなものだろうか。
結論としては、「割と変態じみた学校」であるということだ。
話の舞台となる立花高専も、例外ではない(この言葉が「高専」にかかるのか、「割と変態じみた学校」にかかるのか、それは各々の判断に任せよう)。
また、これからさきの話自体に連続性はなく、個々が独立した短編となる。
どのようなストーリーになるのかは、まったく予測不能である。
なお、立花高専は架空の高専である。念のため。