オープニング 入学式には波乱が付きものです
季節は春。桜の花びらが舞い、ぽかぽかとした陽気に百花花開く季節。
そんな素晴らしい季節で、俺の心は晴れやかだった。
ーー今日は入学式。
桜並木が続く校舎までの道を歩きながら、これからの事について思案する。
念願の一人暮らし。
両親に無理を言ってまで、故郷から離れてこの学校に来たかいがあったと思う。
新生活の不安など忘れ、俺はこれからの事について希望で胸がいっぱいだった。
春は青春の季節!
青春と言ったら、勉強、部活、遊び、友情、それに……恋愛。
人それぞれだと思うけど、俺は悔いの無いように全力を出して生活をするんだ……!
あわよくば彼女も……はっ!
春の陽気に当てられて変なテンションになっているのに気が付き、気をギュッと引き締める。
だらしない顔が誰かに見られていないか周りをキョロキョロと見回すが、幸運な事に誰も見ていないようだった。
………………
気を取り直して再び桜並木の道を進むと、大きい建物が見えてきた。
どうやら色々考えている内に、もう学校の前まで来ていたらしい。
ここが俺がこれから3年間を過ごすことになる場所か……。
感慨深く見ていると、一つ重要な事に気がついた。
ーー誰もいない。
早く来過ぎてしまったらしく、校門は固く閉ざされていて、人っ子一人見つからない状態だ。
時間を確認しようと思ったが、肝心の時計が壊れていて使い物にならない。
仕方がないので校門の前でぶらぶらと時間を潰していたら妙な物が視界に入ってきた。
「なんだ……?」
ーー桜並木の向こう側。ビルとビルの間の路地の向こう側で鋭い光が瞬いて消えるのが見え、刃物を擦り合わせたような甲高い音も聞こえてくる。
……気になる。
何故か分からないが、どうしてもあの路地の向こうが気になって仕方がない。
幸いにも、まだ時間には余裕がある。少し様子を見てくるだけなら、それ程時間は取らないだろう。
それに、俺は非日常的なことに憧れていた。
もしかしたらあの路地の向こうで青春を輝かしく彩ってくれる非日常に出会えるかもしれない。
そう、空から美少女が降ってきたり、異世界に飛ばされたり、魔法少女になって怪獣と戦うかもしれない……!
誰しも一度は思い描いた厨ニ的妄想が現実になるかもしれない!
それが青春だ!
きっとあの路地裏には、今にも男に襲われそうになっている美少女が居るに違いない!
覚悟を決めた俺は暗く湿った路地裏へと行く事にした。
………………
さっそく路地裏に来たのはいいものの、暗く淀んだこの場所では何も起きていなかった。
かび臭く、薄ら寒い。霧が立ち込めていて、太陽の光が入ってこない。
学校からそこまで離れていないのに、まるで別の世界のような印象を受ける。
しばらくの進んだ所で広場のような所に出た。
夜にはガラの悪い連中が溜まっていそうな場所だが、今はひっそりと静まり返っており、チカチカと光る電球が、不気味さを演出させる。
「やっぱり帰ろう…… 理想と現実の区別をつけなきゃ……」
諦めて陽のあたる場所へと戻ろうとしたーーその時だった。
「あっぶなーーい!!」
「へっ?」
取り乱したような、上ずった美少女ボイスが聞こえてきたので、咄嗟に後ろを振り向くと、こっちに向かって手を伸ばしている白髪の美少女と、凄い勢いで回転しながら此方に振り下ろされる巨大なドリルを持った女の子が見えた。
ーードリル?
俺、何故か路地裏で美少女に襲われそうになっています。