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第7幕 〜牧田〜

牧田さんは八丈島の銀行で働いてるそうで、仕事終わりの18時に、あのシイノトモシビタケドームで会ってくれる事になった。私たちは、主人のジープで30分前には到着していた。

「いやぁうちの者を落ち着かせるのに苦労したよ。警察呼びましょって叫ぶもんだからさ」

車中で主人から、私を狂ったキノコ泥棒と思った奥さんとのやり取りを聞かされていた。

「あの人はキノコに選ばれた人なんだよってね、説得したよ」

それで本当に奥さんは納得したんだろうか?

「あいつも物分かりは良い方だからさ」

なんだか……この夫妻が相手で本当に良かった。

私はジープを降りると、ショルダーバックからあかりさんを取り出し、手の上に置いてた。そしてドームの入り口の方に向かう。中腰になって中を覗き込むと、まだ外が明るい事もあり、木々の隙間から光が入り込んで、中はそれほど暗くない。それでも、シイノトモシビタケたちはほんのりと光っているように見える。

「みなさん……帰ってきました」

あかりさんはぼそりと言った。

「他のキノコさんたちと会話は出来るのですか?」

「はい、喜んでくれてます……でも、なんだかみなさん元気がありません。私もなんだか……」

あかりさんの表情が人でいう所の風邪のようなつらい表情をしている。

「今日の事と関係があるのでしょうか?」

「どうでしょうか……でも、多分そうなんだと……思います」

後ろから主人が近づいてくる足跡が聞こえてくる。

「どうした?」

「いえ、なんだかあかりさんたちが……」

「元気ねぇな」と主人が言った。

「え?見えるんですか?」

「見える?そりゃあ見えてるよ。石尾さんの手の上にあるんだから」

「いやそういう事じゃなくて、顔というか表情というか」

「ああ、いや人みたいには見えねぇけど、そりゃあ長年世話して来てんだ。キノコ見ただけで調子が分かるっていうもんよ」

石尾さんは私の手の上のあかりさんを見て、それから入り口の中を覗く。

「あかりちゃんだけじゃなくて、中の連中もほんと元気がないな」

私にはあかりさんの表情から、元気がない事は分かるが、中のシイノトモシビタケたちが元気かどうかまでは分からない。普通のシイノトモシビタケにしか見えない。

「凄いですね」正直な感想が口から出た。

「凄くなんかねぇよ。それよりあかりちゃんと話せる石尾さんの方が凄いよ」

「いえいえ、これは本当にたまたまなので……」

いつも和やかな主人の表情は、この時心配そうな顔と、残念そうな顔が入り交じっているように見えた。正直私は、そこまで真剣に考えていなかった。不思議な出来事に遭遇している面白半分と、どうして私なのかと、せっかくの休暇を邪魔されているような面倒くさい気持ち半分で、ここまで来ていた。

「すみません……」

「ん?どうして石尾さんが謝るのさ」主人の表情はいつもの和やかなそれに戻っていた。

遠くから車が近づいてくる音が聞こえた。

「お、来たな」

どうやら牧田さんとやらが来たらしい。しばらくすると、白い乗用車が到着した。運転席から降りて来たのは、黒いスーツに黒いハイヒールの女性だった。ロングの髪の毛を団子にして、頭の上で止めている。細い眼鏡をかけた美人さんである。スーパーキャリアウーマン像にピッタリだった。年齢は30代後半といったところ。その牧田さんがこっちに近づいてくる。

「だいちゃん、そいつ?」

だいちゃん?

「そうだ、まきちゃん」主人が返事をした。

牧田さんは、私を上から見下すように鋭い視線を向ける。そして、私の手の上にいたあかりさんを見た。

「だいちゃん、正気?明らかにただの泥棒でしょ?」

牧田さんがあごを引いて上目遣いに睨みつけてくる。

「いやいや、ちょっと待って、あ、この子がまきちゃん、いや牧田」

主人が間に入って、紹介をしてくれた。

「俺より8歳も年下なんだけどね、ガキの頃からよく一緒に遊んでて、今に至るんだけど」

幼馴染といった所なんだろうか。和やかな主人と険しい牧田さん。

「なるほど……幼馴染み」

「はあん!?」

いきなり牧田さんが大きな声で威圧してきた。

「いやいや、まきちゃんとりあえず話そうか」

私が一部始終を牧田さんに話し、主人がドームの中にいるシイノトモシビタケを一度全て、ドームの外に出す計画を話した。

「ほら、石尾さんの手の上にいるあかりちゃんも元気なさそうだろう?」

「あかりちゃん?」

怪訝そうな顔で牧田さんは、私の手の上を見る。

「この人が持ってるからじゃないの?まず倒木から抜いちゃってるじゃない。」

「いや、これは勝手に歩いて……」

「歩く!シイノトモシビタケが!」

「いや、先ほども説明したように……」

「キノコが人のように見えると言うんでしょ」

「ええ」

「この人病気じゃないのよね、だいちゃん!」

「いや……たぶん」

主人が私を裏切るんじゃないかと心配になってきた。

その時、牧田さんの顔に何かを察知したような表情が浮かんだ。そして空を見上げる。

「……来るわね」

「……来る?」

「雨よ。空気が変わった」

八丈島は雨が多いらしい。スコールのような雨が降るらしい。パスポートの要らない異国。というか、もう話すキノコと出会える異世界に来たみたいだ。私も空を見た。牧田さんと話をしていて気がつかなかったが、雲が空を覆っていた。雲の向こうでは、日も落ちて月も出ていそうだった。そして小雨が降り出したので、私たちはとりあえず一時避難という事で、ドームの中へと入った。外が暗くなり、中はシイノトモシビタケの光で充満していた。

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