第3幕 〜出発〜
民宿は想像していたよりも大きかった。
一軒家を長屋のように拡大したような増築。土間と囲炉裏がありそこで食事をする。ほかに客がいれば相席となる。ただ今は夏休みも終わり、平日ということもあるのか、私一人しか客がいないみたいだった。食事には、あのトビウオのお寿司もあった。これが中々の美味。主人の母親も経営に関わっているらしく、主人と同じく話好きで、土間に置いてあるお酒を無償で注いでくれる。私は民宿に到着してから車を借りた。民宿所有の自家用車を宿泊者に無料で貸してれると聞いていた。海沿いの道を走りながら島を一周。途中大海原を見渡す岸壁に建設された日帰り温泉に寄った。今までの人生で一番の絶景温泉。近所のおじさんやおばさんのグループが、休憩室で寛いでいたりするのを見ると、ここで過ごす人生も悪くないと思った。
私は民宿に戻り、早めの食事を終え民宿の玄関前へと出た。
19時10分前、空を見上げる。月は満月、星は満面。東京でここまでの星空は……いや、ここも東京。
遠くから近づいてくる車の音が聞こえる。なんだか聞き覚えのある体を奮い立たせるような独特の排気音。
これは……ジープだ。ジープが迎えに来た。主人が手を振っている。そして目の前にジープが止まる。
「あの……バンではないのですか?」
「いんやそれがね、お客が石尾さんだけなのよ今日」
夏休みも終わり平日ということもあるのか……いや、それにしても、だ……頑張ろう八丈島。
「普段はこの季節なら平日でもチラホラいるんだけどねぇ」
いや、なんだか私のせいみたいになってやしないか?
「……そんなことは知らない」
「え?」
「いや、その残念で、残念でございます」
「そう?でも静かに見れるから一人でも悪くない悪くない」
そうだ、一人旅だし、寂しい奴だしっていう私には願ったり叶ったりだ。しかし……
「一人だからジープですか?」
「そうそう。あれ嫌だった?」
ジープが嫌かと聞かれれば……うーん……まあ別にいいか・
「いえ、そんなことは」
「でしょ。天候もいいしこっちの方が気持ちがいいよ。山道に入って行くんだからさ、本当はやっぱジープが一番でしょ」
ジープ、ジープと八丈島に来てから一番良く聞いた単語はジープだった。




