第2幕 〜上陸〜
9月初旬、私は半袖のTシャツに青いストライプ柄のシャツを羽織、ジーパンという姿。大きめのショルダーバックを肩から下げて、八丈島空港に降り立った。空港を出ると、私の名前を書いたボードを持った人が立っている。予約した民宿の主人が空港まで迎えに来てくれていた。電話をした時に送迎をしてくれると聞いていたので、私は迷う事無く主人の方へと歩いて行く……が、主人の後ろにある車が気になった。
「石尾さん?いらっしゃい、いらっしゃい、こっち」
ジープだ。しかも戦争映画で軍隊が乗っているような天井の空いたジープだ。
「この車……」
「ああ、ジープ。三菱のジープ」
「なるほど……三菱」
「よく道の悪い森の中とか走るからジープがいいのよ。後は自分の趣味。いや、お客さんお一人だって聞いたからその場合はジープにしてんのよ。今は天候もいいしね」
主人は和やかに笑う。白いタンクトップに迷彩柄のパンツ。そしてポコリと出たお腹。この人は元軍人なのかもしれない。私は初めてジープという車に乗った。心なしか気持ちが強気になり、戦士になった気分だった。私の前世は軍人だったのかもしれない。私は民宿へと向かう車中、主人に聞いてみた。
「争いごとはお好きですか?」
「はあ?」
「争いごとがお好きかと」
「好きじゃねぇよ、全然。この島で生まれ育った八丈島イチの平和主義者だってぇの。」
主人は和やかに笑う。元軍人ではなさそうだ。ジープで判断するのはよそう。私の前世が軍人だと思うのも早計だった。しかし、日本列島はまだまだ残暑が残っているというのに、ここはなんだか涼しい気がする。八丈島は亜熱帯地区だと聞いていたが。
「なんだか涼しいですね?」
「ああ、冬は暖かいから一年通しての平均気温は高いんだけど、夏は黒潮の影響とかで、実は東京より気温が少し低かったりするとか、あっいや、ここも東京なんだけどね!この車も品川ナンバー」
主人は和やかに笑う。
「なるほど……ここは東京」
「あと、雨がねぇ、多いのよ」
「雨ですか?」
「なんか周りの海が暖かくて雲が出来やすいんだって、ほら外国のスコールっていうの?あんな感じでいきなり降ったりするよ」
「なるほど……スコール」
そう、まるでパスポート要らずの異国。
「年中じめじめしてっから森にはキノコも多いわな」
じめじめ。異国でも何か理想と違う気するが……。
「キノコ……光るキノコですか?」
「お、知ってる?八丈島名物の一つ。暗い所で見ると光って見えるっていう代物でさあ」
主人の和やかさは全く失われない。それどころか増した気配さえある。
「興味ある?」
運転中の主人が私の方を向く。
「ご主人、前を……」
「ああ大丈夫だって、ジープだし」
そういう事では済まされない。
「冗談冗談。光るキノコ見てみたい?」
主人は前を向き、今度は私が主人の顔を見る
「見れるのですか?」
「実は観光ツアーみたいなのもやってんのよ」
観光ツアー。光るキノコを見せ物にして荒稼ぎという訳か。
「……お主も悪よの」
「はあ?」
しまった……つい心の声が……こういった失態をたまにやってしまう。
「いや、申し訳ござらん、いや違う、申し訳ない。その拝観料は……」
「拝観料って。まあお金は取ってないよ。ボランティアさ」
未だに主人の和やかさは失われていなかった。
「無料でやっているですか?」
「そうさ。バンで各宿舎を廻って、参加希望の客を拾って見れる所まで案内してんのよ。八丈島発展のためってね」
なんと良心的な人たちなのだろうか。
「よろしければ、ぜひ参加させて頂けます」
「よし、決まった。じゃあ19時に宿の玄関に立っときな」
「分かりました」
八丈島のホームページで見て気にはなっていたが、見る手段も分からなかったので、今日の予定には入れていなかった。特に何も無い夜の予定が決まって、私は少し得をした気分になっていた。




