目を開けると、馬鹿みたいに綺麗な靑空だった。
どこまでも、どこまでも高く。
吸い込まれそうに成る程、澄んでいて。
でも、決して僕を連れて行こうとはしない。
ただ、そこに在るだけの靑空だった。
「……起きたか?」
すぐ隣から仲間の声がした。
「……撃たれたんじゃ、ないのか。僕は」
「ああ、撃たれたよ。見事に胸に一発。敵じゃなかったら思わず拍手したくなる腕前だ」
どうやら、僕は戻ってきてしまったらしかった。
そこはあの小屋が……サリーが居た小屋の跡で。
僕はそこに寝かされているようだった。いつかの街の人達のように。
「ほら。……映画みたいな話だよ、まったく」
そう言って仲間が僕の手に何かを乗せてくれる。
ゆっくりとそれを、顔の前まで持ってきたらさ。
それは、ひしゃげてしまったロケットだった。
「そいつのおかげだよ。まあ、痕は残るだろうがな。……そのロケットには誰かの写真が入ってたのか?」
僕は、それに答えられなかった。
「……悪いな。入っていたとしても諦めてくれ。弾丸が当たったんだ」
「……みんなはどうしたんだ?」
どうにかして、そう聞き返した。
「なんだよ。聞こえないのか」
「……?」
耳を澄ますと、遠くから鐘の音が聞こえてきた。
聞き覚えのある、懐かしい響きだった。
「……取り返したのか?」
「ああ。そうだよ。……やっと終わったんだ。やっと取り返した」
そう言うと、疲れた声で、でも満足気に仲間は笑った。
そして。
「もう『sarry』は居ない。俺達は愛しき故郷を取り返したんだよ……」
そう言ったんだ。
……そうだよ。
もうここにサリーは居ない。
きっと世界中のどこにも居ない。
あいつは過去に居る。
僕の中に残る、日々に居る。
空っぽだと思っていたのに、ずっとそこに居たんだ。
このロケットはさ。
あの日、サリーに渡そうと思っていたんだよ。
二人で写真なんて、撮ってさ。
それを中に入れて、渡そうと思っていたんだよ。
馬鹿みたいだろ。
どんだけ格好つけようとしてたんだって話だよね。
その結果があれでさ。
結局、空っぽなまま、持ってたんだ。
……本当、馬鹿みたいだろ。
空っぽだと思っていた、それにさ。
僕は生かされたんだよ。
救われて、しまったんだよ。
ああ、本当に馬鹿だ、僕は。
馬鹿だなあ……。
「……なんだよ。お前も嬉しかったら泣くんだな」
隣から、仲間の茶化す声が聴こえる。
ああ、そうだよ。
僕は、泣くんだ。
「生きて」と言われてしまった世界で。
もう故郷が無くなってたって。
サリーが居ない世界だって。
生きてるんだ。
生きてくんだよ。
だからさ、僕は今、泣くんだ。
せいいっぱい、泣いてやるんだ。
Down by the salley gardens my love and I did meet.
She passed the salley gardens with little snow-white feet.
She bid me take love easy, as the leaves grow on the tree.
But I, being young and foolish, with her did not agree.
In a field by the river my love and I did stand,
And on my leaning shoulder she laid her snow-white hand.
She bid me take life easy, as the grass grows on the weirs.
But I was young and foolish, and now I am full of tears.
ここまで愚かな少年ノエルにお付き合い下さり、本当にありがとうございました。