Db5
「……それを、貴方が言うの?」
でも、あいつから返ってきた返事は、そんな言葉だった。
とても。
とても静かな声だった。
怒りも、悲しさも、そんなものが一切含まれていない。
吐息交じりの、静かな、柔らかな声だった。
まるで御伽噺の光る雪みたいに。
ただ、暖かさは無かった。
その言葉が僕の中で溶けきる前に、次の言葉は降ってきた。
「どうして笑わないの? どうして幸せなことがあっても、悲しそうな顔をしているの?」
僕は、答えられなかった。
同じ部屋に居るのに、見ている方向が正反対だったんだ。
そして、僕はあいつの見ている方向を、どうしても一緒に見れなかったんだよ。
どちらが正しいか、正しくないか。
そんなことはどうでも良いんだ。
ただ、僕らが幸せになるためには。
本当の意味で幸せになるためには。
あいつの方が正しかった。
「ねえ、ノエル。私はね、今、幸せだよ。クリスマスにね、貴方と一緒に過ごせて、お腹いっぱい食べて。それだけで私は今、凄く、幸せだよ」
でも。
若くて愚かだった僕は。
どうしても肯けなかったんだ。
「ねえ。デザート食べよう。ドーナツ、結構上手く焼けたんだよ。ノエル。……ノエル?」
「……帰る」
「……うん」
結局、その日。
プレゼントは渡せなかった。
いや。
もう、渡すことは出来なかった。