STORY2 出会い
「だから、いつまでそんな漫画みたいな話してるつもりですか?」少女が呆れた顔をした。
「漫画みたいな話じゃない。本当の話だ。信じるなら、オレがこの暗闇を取り払ってやる。
それと同時に、オレも現れる」
「暗闇…そういえば、ここ、どこ?」
「異世界だ」男は平然と答えた。
「異世界?」
「愛する者を失った時、全ての者はここに呼び出され、JOKER MOONへの参加権が与えられ
る。参加するしないは勝手だ。だが、一度参加すれば"愛するもの"が生き返るまで二度と|現
実世界には戻れない」
「二度と…?」
「ああ。そして、負ければ待つのは死のみだ」男は静かに言った。
少女の頭の中に様々な考えが行き交う。もし、本当に生き返るなら…、けど、負けて死ぬの
は……。生への希望と死への恐怖が少女を迷わせる。
数分後、少女は答えを出した。
「あたし、母さんを生き返らせたい」死への恐怖はある、でも、可能性が1%でもあるな
ら…。この命を捧げてでも、母をあの世から取り戻したかった。
「わかった」男はそれだけ言うと、しばらく黙った。
男がなかなか出てこないことを少女が不思議に思っていると、
次の瞬間、
先ほどまで何も見えなかった暗闇は取り払われ、辺りは少しだけ明るくなっていた。
だが、人気はなく、建物も、草木も、地平線までもが見えない。まだ薄暗い感じ
もする。
少女がやっぱり騙されたのか…?とか、てかここどこだよ、日本?などと考えていると、先
ほどの男の声がした。
「こっちだ」その声のする方に振り向くと、そこに人間の男の姿はなく、一匹の黒い狐らし
い生き物がいただけだった。
「え、さっきの声の人?人じゃなかったの…?」少女は驚きながらこの黒い狐のような奴を
見つめた。額には黄色い輪の模様、瞳は蒼く鋭く、全身は真っ黒だ。狐とも妖怪ともつかない
この生き物は、確かにしゃべった。口もある。
「オレはまあなんつーか…狐じゃないぞ、まず現実世界の者ではない。まあ…
妖怪…ってとこか」
「名前は?ないの?」尚も不思議そうに妖怪だというらしいそれを見つめながら少女は訊い
た。
「主人が変わるごとに変わる。ってことで付けろ」妖怪はきっぱりと、唐突に、命令形で言
った。
「え…そんなテキトーな……」少女は悩んだ。この狐みたいな(自称)妖怪に名前を付け
る…。ペット感覚でいくと妖怪が嫌がるだろうから…。
大分悩まされ、数分後、やっとのことで少女は口を開いた。
「これでいこうよ、黒狐!よくない?黒くて狐っぽいから、黒狐!うん、ナイス
ネーミング」少女は一人でうなずき、一人で満足した。
「黒狐…まあ日本臭い名前だな。てか読み様によっては女みたいだぞ。ほら、黒子的な」
「文句なし!あたしは黒狐の主人でしょ?」黒狐はまだ不服そうだったが、少女はそれを流
した。黒狐に反論する余地なし。
「あたしの名前は月音あかり。よろしくね、黒狐!」
「うむ。じゃ、早速だがこれ、首にかけろ」黒狐が差し出したのは、月の首飾りだっ
た。




